ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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やっと始まります最終章
といっても大まかなプロットができたぐらいなので書き溜めがあるわけではなく、今までのペースぐらいでまた更新していきますよ、という感じですがよろしくお願いします!


最終編1章:シャーレ奪還作戦
01_崩壊の予兆


 

「キヴォトスの終焉、ですか……?」

 

 リンは怪訝な表情を浮かべていた。それもそうだ。急にシャーレの先生からアポイントが入り、会ってみて伝えられたことがトリニティの預言者、セイアが見たという終焉の予知夢の事なのだから。いきなりそれを信じる方がどうかしている。

 

「まあ、そないな反応が普通やろな」

 

 先生の横にいたウルフウッドが先生を睨みつける。ちなみにウルフウッドはリンに予知夢の事を伝えるのは反対していた。自分が逆の立場であれば「アホ抜かすな」の一言で足蹴にしていただろう、そんな話だ。もう少し証拠なりなんなり集めるとか、もしくは『もう一つの要件』を主題にした方がいいと思っているのに、横にいるアホは馬鹿正直に予知夢の事をリンに話していた。

 

“ あははは……やっぱり信じてもらえないかな? ”

 

「……予知夢、夢のお話なんですよね? ……キヴォトスが終焉を迎える……特にこれといった証拠もなく、いつになるのかも定かではない……のですよね?」

 

“ そ、そうです……。リンちゃんには知らせておいた方が良いかなと思って…… ”

 

「……誰が『リンちゃん』ですか」

 

“ ご、ごめん…… ”

 

「……分かりました、先生。連邦生徒会の記録やデータを確認してみます。同様のケースが無いかも調べてみましょう」

 

「ちょい待て、こいつの話信じるんか⁉」

 

 ウルフウッドが目を見開く。今の話のどこに信じる要素があったのか理解ができなかった。リンは驚いているウルフウッドへ淡々とした態度のまま答える。

 

「先生がこの内容を伝えるためだけにわざわざ私を訪ねてきたのですから……先生ご自身が、この予知夢を信じているというのは間違いないのでしょう? それにウルフッドさんも先生の話自体を先ほどから否定はしていません。あなたのような人でも何かを感じ取っているということではないですか?」

 

「確かにせやけど……」

 

「でしょう。なにより先生は連邦生徒会長が指名した方です。であれば、私は準備し、対応するのみ。それが連邦生徒会長に対する義理立てでもあります」

 

“ ありがとう、リンちゃん ”

 

「だから誰が『リンちゃん』ですか。……んん、とにかくできる限りのことはやってみます。ですが連邦生徒会長の捜索に普段の業務もあるのでこの件に関してはあまり時間を割くことはできません。それに他の生徒会を説得するためには証拠が必要です。本格的に動くためにはそれらの確保が必要となります」

 

“ 証拠に関しては一部の生徒にも情報を共有して調査を進めていく予定だよ。なにか進展があればまた連絡するね ”

 

「わかりました。では私はこれで……」

 

「あ、ちょい待ち。まだ話あんねん」

 

「はい? 他になにか?」

 

 リンが踵を返そうとするところをウルフウッドが止める。彼としてはこれから話すことが本命の話だった。

 

「緊急時に各学園で連絡取れるホットラインの構築とかなんかできへんかな。今はシャーレがその取りまとめみたいなことしとるけど、本来はシャーレの仕事ちゃうやろ?」

 

「……そもそもシャーレの仕事内容は決まっていません」

 

“ ウルフウッド、私は仕事に線を引くつもりはないよ ”

 

「だぁッ、そないなこと言うと話ややこしくなるからセンセは少し黙っとけ。あんな、ワイが言いたいのはヘイローもない雑魚のセンセに色々集中しすぎやっちうことや! この間のエデン条約での報告書は読んだやろ? センセが目を覚まさなかったらキヴォトス全土を巻き込んだ殺し合いに発展してもおかしなかったんやぞ、あの事件は! こいつおらんでもどうにかできる体制作っとかなあかんやろっちう話や」

 

「そうならないためにあなたに先生の護衛が任されているはずですが?」

 

「あんなぁ、こいつは自分の弱さ考えんと自分から死地に突っ込むアホやねんぞ! ワイの苦労を考えてーな。それにさっきの予知夢の話は置いておいても、まだマスター・チャペルっちう脅威がキヴォトスに潜んでんねん。万が一のことは考えとかないかん言うとんのや」

 

「それは……」

 

 リンは何かを言いかけ、しかしその言葉を飲み込む。しばしの沈黙の後、再び口を開いた。

 

「……それに関しては防衛室の管轄です。よろしければアポイントを取りますが?」

 

「げっ、防衛室やて?」

 

 ウルフウッドが露骨にしかめ面を浮かべる。彼にとって防衛室は信用できない部署だからだ。アビドスでのカイザーによる生徒誘拐事件の時といい、ヴァルキューレのリベート事件といい、カイザーとズブズブの関係を持っているのが防衛室という認識だった。ラビット小隊がシャーレ名義で活動し悪徳企業の犯罪を暴いた際も、その企業から防衛室へ賄賂が渡され見逃されていたこともわかっている。いかにも腐敗した権力者ムーブをしているのが防衛室であり、そんなところ信用できるわけがない。

 

“ じゃあリンちゃん、防衛室の室長とのアポイントお願いしてもいいかな? ”

 

「はぁ⁉ お前正気か⁉ そないな奴と話してどないすんねん⁉」

 

“ どないもなにも、ウルフウッドがさっき言った学園間の連携の強化の提案をするだけだけど? ”

 

「どうせ企業とズブズブの小悪党やぞ? 話が通じるとは思えへんやろ」

 

“ ウルフウッド、いつも言ってるだろ。決めつけは良くないって。まずは対話から始めなくちゃ ”

 

「あんなぁ……チッ、もうええわ。付き合えばええんやろ付き合えば」

 

“ じゃあ悪いんだけどリンちゃん、よろしくね ”

 

「……わかりました。あと『リンちゃん』ではありません」

 

「無駄やぞ、リン。こいつ話聞かんときはとことん聞かんからな」

 

“ そんなことないよ。ねえ、リンちゃん? ”

 

「……はぁ、ウルフウッドさんの苦労が少し理解できました。とりあえず防衛室長へは私から連絡を入れておきます」

 

“ そういえばその防衛室長ってなんて名前の子なの? ”

 

「それは……」

 

◇ ◇ ◇

 

「どうも、初めまして戸狩先生。私が防衛室室長の不知火カヤと申します」

 

“ 初めまして、シャーレの戸狩です。こっちが…… ”

 

「ご存じですよ。百鬼夜行での凶悪事件を解決し、しかし不当な殺人の判決を下され投獄されていたニコラス・D・ウルフウッドさんですよね。連邦生徒会長が残していた特例によって仮釈放され、先生の護衛の任に充てられているとは知っていましたが、なるほど。こうして直接目にしてみると改めて連邦生徒会長の慧眼がよく分かります。先生の護衛としてあなたは正しくうってつけの人材ですから」

 

「んな評価はどうでもええわ。それよりもさっさと本題に入ってくれへん?」

 

「そうですね、お互い多忙の身ですから。それではこちらへ」

 

 カヤは先生とウルフウッドをテーブルに着かせると人数分のコーヒーを持ちながら同じ席へとつく。

 

「それで、学園間の緊急時ホットラインの構築とその取りまとめ権限についてのご相談でしたか」

 

“ うん。今は何かあればシャーレに連絡が来て私達が動いているけど、なにかあって私が動けなくなった時に学園間の連携が取れなくなってしまうのはあまりいい状況とは言えないからね ”

 

「シャーレを介してトップが連絡先交換しとるところもあるにはあるが、あくまで個人的なものやし、この前のエデン条約みたいな混乱には対応できへんやろ。ああいうときにセンセ以外に音頭取れるところがいるやろっちう話や」

 

「なるほどなるほど、確かにお二人のおっしゃることはごもっともです」

 

 カヤはもったいぶるような口調でそう述べ、コーヒーを一口飲む。そして言葉を続けた。

 

「結論から先に申し上げますと私達は協力できません」

 

「はぁ⁉ これはお前らの領分っちう話ちゃうんか?」

 

“ どういうことなのかな、カヤ? ”

 

「まあコーヒーでも飲んで落ち着いてください。説明いたしますので」

 

 二人に出したコーヒーを勧めつつカヤは両手を組み合わせ、その手で口元を隠す姿勢を取る。ウルフウッドはその態度が気に食わずコーヒーを一気にあおって少し乱暴にカップを置いた。

 

「……まずお二人の要望についてですが、各学園間を跨いだ緊急事態の際に指揮を取り対応する体制は既にあります。というか、それがこの防衛室の業務なのですよ。なので現状はシャーレが我々に対して越権行為を行っているということになります」

 

「はぁ、何抜かしとんねん! ちうかそれ、お前らが無能やらかワイらにお鉢が回っとるっちうこととちゃうんか⁉」

 

「はい、その通りです。面目ありません」

 

「お、おう……なんやねん、その反応は?」

 

「ウルフウッドさんのおっしゃる通りだからですよ。連邦生徒会長を失った我々は弱い。だからどこも頼っていただけず、お強いウルフウッドさんを抱えているシャーレに連絡がいってしまう。要は現状、防衛室の機能が形骸化してしまっているということです。だから協力することができません。…………カンナさんがカイザーにリベートを持ち掛け装備を一新しようとした気持ちもわかります」

 

 カヤがカンナの事を話した瞬間、部屋の空気が冷え込む。寒いはずなのにカヤからは汗が滲み始めていた。原因は十字を抱えた男から発せられる圧によるものだ。

 

「……おい、あれは局長やのうてお前が強要した話ちゃうんか?」

 

「お、憶測で語るのは良くないことですよッ、ウルフウッドさん」

 

 必死で体の震えを抑えるも、それが隠しきれず声に出てしまうカヤ。彼女は報告書でのみ知っていたウルフウッドの戦力を初めて肌で感じ取っていた。

 

“ ……ウルフウッド、証拠がない話を今するのはやめよう ”

 

「……チッ、相変わらず生徒には甘いなセンセ。――にしてもリンの奴が言い淀んどった理由がようわかった。とんだ無駄足やったわ」

 

“ そう言わないの。でも、とりあえず今日は帰ろうか ”

 

 先生のその言葉でウルフウッドはだるそうにしながら立ち上がろうとする。しかし先生の手がそれを制止していた。

 

“ ――ただ、その前に、カヤ。カヤには知っておいて欲しいことがあるんだ ”

 

「はい?」

 

 先生はカヤをじっと見つめる。ウルフウッドとは違うタイプの圧にカヤは無意識に姿勢を正していた。

 

“ カヤ。みんながシャーレを頼るのは強いウルフウッドがいるからってわけじゃないよ ”

 

「ああ、そういえば先生も高い指揮能力を持っていらっしゃるのでしたね。それが……」

 

“ それも違うよ。……生徒達が私達を信頼してくれるのは、私達が生徒たちを信頼して寄り添ってきたからだよ。確かに問題を解決するためにウルフウッドに力をふるってもらったり、私も指揮を執ったり……いわゆる暴力に頼ってきたこともある。でも、それは本質ではないんだ。人は暴力や恐怖に屈してしまうことはあるけれど、それを信頼したりはしない ”

 

「……なぜ、そのような話を?」

 

“ みんなが防衛室を頼ってくれない理由を、カヤが勘違いしていそうだったから。確かに何かを守るには力が必要だけど、それだけでは信頼は得られないよ ”

 

「……ご助言ありがとうございます。さ、お出口はあちらですよ」

 

“ うん、じゃあまたね、カヤ ”

 

「ええ、さようなら」

 

 バタンと閉められる防衛室長の扉。カヤはいつもの薄い目を開き、忌々しそうに先生達が出て行ったそれを睨みつける。

 

「……最高の権力と暴力を有しておきながら、なにをいけしゃあしゃあと」

 

 カヤ以外誰もいない部屋に、その言葉が空しく響いた。

 

◇ ◇ ◇

 

 ――コンコン

 

 日が落ち暗くなった防衛室長の扉がノックされる。

 

「失礼します」

 

「よく来てくださいました、ユキノ小隊長」

 

「次の任務でしょうか?」

 

「いえ、今回はご相談がありまして……」

 

「相談、ですか……?」

 

「はい、FOX小隊の隊長であるあなたに忌憚なき意見をお聞きできればと」

 

「はあ……」

 

 不知火室長から相談など珍しいな、と感じつつユキノはカヤの前に立つ。カヤは両手を合わせ口元を隠す姿勢でユキノへ語りかけた。

 

「……単刀直入に聞きますが、FOX小隊でニコラス・D・ウルフウッドに勝つことはできますか?」

 

「……勝利条件によります」

 

「ふむ、確かに。……では仮にですが、ウルフウッドさんの護衛を掻い潜り先生を誘拐する、とかでしたらどうですか?」

 

「それでしたら容易く達成可能です。明日にでもやれと言われれば実行可能な程度には」

 

「ほう」

 

「……ですが、仮に実行するというのであればお勧めできない作戦です」

 

「……理由を聞いても?」

 

「シャーレの先生はこれまで実際に何度か誘拐されています。それこそ、そこら辺の不良にすら」

 

「ええ~、そうなんですか?」

 

「はい。……ですが先生を誘拐した相手は全てあの男に叩き潰されています。それこそ例外なく。先生を奪取するということはあの男のターゲットになることと同義になります」

 

「では誘拐した先生の身柄を死守するとしたら、できますか?」

 

「……正直、できるとは言えません」

 

「随分とあの男を買いかぶるのですね」

 

「買いかぶりではなく事実です。過去にあの男とターゲットが被り対峙したことがありましたが……戦場で対峙してもっとも厄介なのはあの男のような手合いだと実感しました。あの男は自身を牧師だとうそぶきますが、あれの本質は狼です。戦略・戦術の一切を噛みちぎり、標的のわずかな匂いすら嗅ぎ取って、その喉笛を噛みちぎらんとにじり寄る餓狼。あれを敵に回すのは賢い選択とは言えません」

 

「そこまで言いますか?」

 

「言わせていただきます。防衛室長もお忘れになられたのですか? 雷帝の支配していた混沌極まるゲヘナで賞金首を狩りまくり、ヴァルキューレにとって悪夢のような事件を引き起こした伝説のスケバン、栗浜アケミを単身で捕縛し……そして、あの百鬼夜行史上最悪に類する連続斬殺事件の犯人を殺害したのが、あの男です。あの力はもはや災害のようなもの」

 

「台風に突撃するのは馬鹿のすること、ということですか」

 

「加えさせていただくなら、『なんでもあり』にすればするほど有利になるのはあの男です。あの事件で、あの男はたった四発の弾丸で生徒を殺傷する力を見せました。そして、実際に引き金を引いた。――それができる男のタガを外してしまえば……」

 

「……なるほど。貴重なご意見、ありがとうございました。――カイザーが乗り気にならないわけです」

 

「カイザーが? それは一体……?」

 

「あなたは知らなくてもいいことですよ。たった今、中止することに決めた作戦のことですから」

 

「はぁ……? わかりました」

 

 話を終えユキノを帰したカヤは、机に置いていた冷めきったコーヒーを片手に窓から夜景を覗く。

 

「対立するのは得策でない、とするなら……やはりこちらへ取り込む方針にした方が良さそうですねぇ。さて、どうやって引き入れましょうか」

 

 機会があればと予定していた計画を握りつぶし、カヤは次の一手を考え始めていた。

 




ウルフウッド強すぎて原作通りの相手じゃ話にならない問題が再発。
原作だと先生騙されて誘拐されちゃうんですが、ウルフウッドがいるとその手がとれないんですよね……。先生誘拐まではできるだろうけど、すぐに取り返されるか、じゃなくてもリンとかに連絡できちゃうし、カイザーじゃ相手にならないんすよ。
なんで敵を強化するしかなく、ウルフウッドの敵として格の足らないカイザーとカヤちゃんには引っ込んでてもらいます。

ちなみにこの小説のウルフウッドが勝ってきた生徒は、ホシノ(1年)、アケミ、サオリ(ダブルファング)、ネル、トキ(アビ・エシュフ装備)、ミカ、と戦力最上位陣ばっか。
うん、クロコでもこれの相手は無理だわ。

基本的に最終章は流れ自体は原作とそう変わらず、ただウルフウッド用の強敵を追加ポップさせる方針になりそうです。
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