「なにこれ……?」
連邦生徒会交通室所属のモモカは呟く。――アビドス砂漠、D.U.郊外の廃墟化した遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市と……あと、サンクトゥムタワーのど真ん中――目の前の画面にはその六つの場所に超高密度エネルギーが観測されていると映し出されていた。しかし、何もないのだ。データとして観測はされているが、カメラが映し出す画像にはその場所に何も見当たらないのである。
「……うん、機器の故障だね、ヨシ! ……流石にヨシじゃないか」
機器の故障だとしても流石にその報告はしないとだよね、メンドクサ、などと思いつつモモカはリンに報告を入れる。この時はまだ「修理中は仕事のしようがないし、新作ポテチでも探そうかな?」など実質的な余暇をどう過ごすかなんて考えていた。まさかこれがキヴォトス救済地獄のRTA開始合図だとは思いもしていなかったのだ。
「連邦生徒会代行の権限により、緊急プロトコルを発動。――キヴォトス非常対策委員会を発足します」
「は⁉」
モモカの報告を受けリンが突如として緊急事態を発令する。アオイから越権行為だと注意を受けても強行するガチっぷりだ。モモカは引いた。
リンとしては先生たちからキヴォトス終焉の予知夢の話を聞いていたのでこの事態に何かの予兆めいたものを感じ取っていたが、モモカ達他の連邦生徒会役員には露知らずの話であるためリンの行動に引いてしまうのは仕方ない部分はあった。
しかしそれでもリンは指示を取り下げず、あれよあれよと状況は動いていき、キヴォトス各学園の主要陣を集めるという話にまでなっている。交通機関の調整も必要になる場面も出てくるだろう。各校への通達やスケジュールも組まなければならない。
え、資料は私もつくるの? 最初に観測したの私だから? そんな〜
しかし状況は待った無し。モモカは「こんなことなら報告なんてしなきゃよかった」などと考えながら観測したデータを資料に纏める作業を始めた。
◇ ◇ ◇
シャーレオフィスに不機嫌なウルフウッドの声が響く。
「はぁ? シロコがカイザー追っとる? なにやってんねん、あいつ」
<それがさ〜、カイザーPMCが砂漠に集まってるのを見かけたらしくて、そのまま偵察するって聞かなくてさ〜>
「チッ、カイザーの奴らもホンマタイミング悪いな」
<シロコちゃんも心配だしカイザーの動きも気になるから私達はアビドスに残ってたいんだよね>
「今日の会議はどないすんねん?」
<それなんだけど、ニコラスも先生と一緒に出席するんでしょ? 悪いけど私の代理お願いできない?>
「……はぁ、しゃあないな。シロコに無茶すんないうといてくれ」
<うん、ありがとー。連邦生徒会には私から連絡いれておくよ。よろしくね>
「おう」
ホシノからの電話が終わり、椅子の背もたれに体重をかけるウルフウッド。
「……はぁ、ホンマ、シロコのヤンチャっぷりは誰に似てもうたんやろな?」
聞く人が聞けば「お前だよ」と突っ込みが入るだろう独り言を呟きながら、コーヒーでも入れようかと立ち上がろうとするウルフウッド。その時、入り口から人の気配を感じとりそちらを振り向く。
「……なんや、ミヤコとサキやないか。どないしたん? シャワーやったら勝手に使えっていつもゆうとるやろ」
「「……」」
何やら困惑しているような様子を見せる二人。違和感を感じつつもウルフウッドは二人に尋ねる。
「シャワーちゃうんか? ならなんの用やねん?」
「……あの、えと……先生はどちらに?」
ミヤコが返答する。……どうも様子がおかしい、というか、言葉にできない違和感がある。
「……センセやったらタバコや」
「え? タバコ?」
ミヤコの反応にウルフウッドが感じていた違和感が更に強まる。シャーレに入り浸る生徒にとって自分達が喫煙者なのは周知の事実だ。無論、ミヤコだって当然知っている。
――なのになぜ、今知ったような反応を見せたのか?
……何かがおかしい。ウルフウッドはその違和感の正体を探るべく自身のスマホを取り出しスケジュールを確認した。そして、更におかしなことに気づく。
(復学支援部はRABBIT小隊と共に公園のハチ駆除のバイト……じゃあ、なんでこいつらここにおんねん?)
そう、ここに二人がいるはずがないのだ。仮になにかあったのだとしても、この二人はまず一報を入れてくるタイプ。それがないのもおかしい。
ウルフウッドの頭に荒唐無稽な考えがよぎる。その考えは残念ながら的中してしまう。
「……お前ら、今日は復学支援部の奴ら引率して公園のハチ駆除やったんちゃうんか? なんでここに……」
スマホから視線を上げたウルフウッドの目に、銃口を突きつけるミヤコとサキが映った。
二人の弾丸によりウルフウッドの椅子が粉々に砕け散る。ウルフウッドは間一髪で銃弾を避け、デスクの裏に退避していた。
「やっぱり偽物か! 誉めたるで、変装うまいやんけ!」
「こちらRABBIT1、アンノウンと遭遇。RABBIT2と共にこれを排除します」
ミヤコがどこかへ通信しながら、サキと共に挟撃するようにウルフウッドへと迫る。
(練度も本物そっくりやな、せやけど……)
ウルフウッドは身を隠していたデスクを蹴り飛ばしサキへと放つ。ウルフウッドの想定外の反応にサキは固まってしまいデスクが直撃していた。
その間にウルフウッドはミヤコに向けて走りだし、近接戦を仕掛ける。
ミヤコも負けじとSRT式CQCで対応しようとするが、それは歴戦の戦鬼に通用するレベルではない。
「その動きは知ってんでッ!」
ウルフウッドはカウンター気味にミヤコを巴投げし、デスクの直撃から体制を立て直したばかりのサキへ向かって放り投げる。サキはミヤコに直撃し、二人共々床に転がった。
二人は慌てて起き上がる。そして、奇妙な物を目にした。
「巨大な十字架……?」
ウルフウッドは二人が体制を立て直していた隙に、オフィスの端に立て掛けていたパニッシャーを手にしていた。
「お前ら、ほんまにワイのこと知らへんのやな。ワイがこれを手にしたら全力で逃げるのが正解やろが」
バチンッ バチンッ
ジャカッ
パニッシャーの拘束具が外れ、十字架から機関砲の銃身が姿を表す。それを目にして初めてミヤコとサキは自分たちに向けられている物が何かを理解した。
「その化けの皮は気絶させてから剥いだるわ」
パニッシャーから弾丸が放たれようとした、その時だった。オフィスのドアが開く。
“ えっ、ちょっと何してるの⁉ ”
「「「!!」」」
ミヤコとサキは先生に銃を向け、察したウルフウッドはパニッシャーを投げ飛ばす。二人が放った弾丸がパニッシャーによって弾かれたのと同時に、二人はオフィスの窓に向かって走り出した。
「RABBIT3、プランBです!」
<オッケー、派手にやっちゃうよ〜>
「ッ! あかんッ! 伏せろセンセッ!!」
猛烈に嫌な予感がしたウルフウッドは先生に駆け寄り、伏せる先生をカバーするように拾ったパニッシャーを盾にして構えた。そしてミヤコとサキが窓を突き破りオフィスから身を出した瞬間、彼女らが事前に仕掛けていた爆弾がシャーレオフィスを吹き飛ばす。その威力はオフィスのあるフロア全ての窓が割れ爆炎が吹き出る程の高火力だった。
「――おい⁉ センセッ!! 起きろッ!! ……チッ、クソッタレ!!」
伏せていたこととパニッシャーの壁があったことが幸いしてか、それ以外の何かが作用したのか、奇跡的にも先生の命には別状が無さそうではあった。しかし、爆破の凄まじい衝撃に当てられてか先生は意識を手放し目を覚まさない。
「なんやねんホンマ! 何が起きてんねん!」
ウルフウッドは先生を安全なエリアまで運び病院に連絡を入れると、連絡が必要そうな幾人かの生徒へ連絡を取るべく、その電話番号をタップした。
◇ ◇ ◇
サンクトゥムタワーの受付、そこで各学園の代表を受け入れるべく連邦生徒会調停室長のアユムは準備を進めていた。そこに四人の人影が迫る。それに気づいたアユムはその四人に向けて挨拶をした。
「おはようございます、ようこそお越しくださいました。えと……アビドスの方々ですよね。会議予定時間よりも随分とお早い到着ですね」
「えっと……ほら、
「そうでしたか。でしたら開始までお時間いただくことになると思いますが、先に会議室でお待ちになっていてください。会議室はそちらのエレベーターから三十階で降りてくだされば案内が張ってありますので」
「わかった。ありがとね〜」
ぞろぞろとアビドスの生徒、ホシノ、ノノミ、アヤネ、セリカの四名がエレベーターへと乗り込んでいく。
「ちょっと、ホシノ先輩。急なアドリブやめてよ」
「セリカちゃん、結果オーライってやつだよ〜」
何やら小さな声で騒ぎ立てているアビドス生徒達を尻目に、アユムは来訪学園のリストにあるアビドスの欄にチェックを入れた。
そうしてから間もなくである。アユムの元へ耳を疑う報告が入ったのは。
「――アユム先輩、アビドスの方々からさっき連絡があって、急用が入って会議は欠席されるとのことです。ウルフウッドさんに代理を任せると……」
「えっ……? だって先ほど――」
◇ ◇ ◇
「こんにちは~」
「ん……ああ、アビドスの方々ですか。随分お早く到着されたのですね」
「遠いから余裕をみてね。それにしても私達みたいな弱小校のことまで把握してるなんてすごいね、代行さん」
「出席願を出した学園の生徒会長の顔と名前ぐらいは流石に頭に入れてますよ」
「……ん、生徒会長? うちには……」
ホシノの言葉を遮るように連邦生徒会の会議室にスマホのコール音が響く。
「……すみません」
リンが会議室の隅へ移動しながらスマホを懐から取り出す。画面には『ウルフウッド』と表示されていた。一瞬アビドスをチラ見してから、リンは応答する。
「はい、ななが……」
<緊急事態や、リン! シャーレが襲撃された!>
「なんですって!? 先生は⁉」
<命に別状は無さそうやけど、オフィスが吹き飛ばされてな。その時の怪我で気絶しとる。これから病院に搬送するとこや。会議には間に合わへんかもしれん>
「構いません、それよりも先生の身を第一に行動してください!」
<わかっとるって。犯人はセンセ狙ってたみたいやったし、情けないが取り逃がしてもうたからな。ワイはセンセに付きっきりで護衛しとく>
「お願いします。……それで、犯人は一体どんな相手なんですか?」
<それなんやけどな……SRTのRABBIT小隊そっくりのパチモンや>
「RABBIT小隊……確か、子ウサギ公園でデモしているという、あの……?」
<せやねん。信じられんほど瓜二つでな、練度までまんまや>
「……本人達ではないのですか?」
<いや、パチモンなのは確かや。センセがタバコ吸うことも知らんかったし、ワイのことも知らんみたいやった。本人らにも連絡してアリバイあったしな>
「……まるでドッペルゲンガーですね」
<ドッペル……? あ〜、とにかくワケわからん相手ではあるからそっちも警戒しといてくれ。本人らには子ウサギ公園で大人しくしとるように言っとるから、そこ以外にいるRABBIT小隊は偽物や。シバき倒して構わん>
「わかりました、こちらでも今の情報は共有しておきます」
<すまへんな。センセ起きたらまた連絡するわ>
「よろしくお願いします」
通話終了をタップするリン。そんな彼女へ気の抜けた声がかけられる。
「どしたの、代行さん?」
「……すみませんホシノさん、緊急の連絡が入りまして……そちらにも程なく連絡がいくと思いますが、シャーレが襲撃されたようです」
「えっ、先生は⁉」
「命に別状は無さそうだと……しかし、気絶して目を覚ましていないようです」
「そんなぁ……」
項垂れるアビドスの面々。リンも会議含めてどうしたものかと思案する。
とりあえず先生はウルフウッドさんに任せておくとしても、偽物のRABBIT小隊の捜索手配もしなければ。会議は先生がいないと纏まる気がしないが、しかしこの緊急事態を共有するためにもこのまま開催するべきか否か。
……そう思考する中で、ふとリンはある違和感に気づく。目の前にいるアビドスの生徒達の口から、ウルフウッドの名が出ていないのだ。彼女達ならシャーレ襲撃の報を受けたら、『先生』と『ウルフウッド』の心配をするはずだ。仮に信頼してるからこそ彼の心配をしていないのだとしても、シャーレ襲撃と聞いたらいつも先生の横にいる彼に連絡を入れるのが普通の反応ではないか?
――せやねん。信じられんほど瓜二つでな、
――ワイのことも知らんみたいやった。
リンの脳裏に先ほどのウルフウッドの言葉が過る。まさか、そんなことがありえるのか?
目の前にいるアビドスへ疑念が募っていく。そこへ会議室の扉がノックされ、アユムが入ってきた。
「失礼します〜、あ、ホシノさん、すみません。確認したいことがあるのですが、会議欠席の連絡をされましたか? なぜかホシノさん達が来てからアビドスから欠席の連絡を受けまして……」
アユムの言葉を聞いてリンは疑念が確信へと変わる。――目の前のアビドスは、敵だ。
そしてハンドガンを引き抜こうとするが、それは体に走る衝撃によって阻まれてしまう。
――ホシノのショットガンから硝煙が上がっていた。
「うへ〜、バレちゃったね」
「だから言ったじゃない! 無茶だって!」
「各学園の代表も拿捕するプランは失敗ですね♪」
「皆さん、当初の予定通りリン代行の身柄を奪取してシャーレに向かいましょう」
流れる様にアユムも拿捕しながら臨戦態勢へと移行するアビドスの面々。
床に伏しながらもリンはホシノを睨み付ける。
「……まさかあなた方も偽物だったとはッ……何者なのですか⁉」
「偽物だなんて心外だなぁ〜、
ホシノは再びリンに向けてショットガンを放ち、リンの意識を断ち切った。
カヤちゃんとカイザーだとウルフウッドの相手にならないので新しい敵をポップさせました。果たしてこの生徒たちの正体は……?
ネクストコナンズヒント!『大人のカード』
ちなみにシャーレオフィス爆破の規模は子供部屋おじさんがガス管いじって爆破した時のイメージで考えてくだされば。あれでも先生暫く意識失ってたしね。シャーレ奪われるまで先生にはおねんねしてもらいます。