ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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09_彼の背負う十字架

 私はずっと考えていた。ニコラスが外で荒稼ぎしてくれているおかげで高い利子の中でも借金の返済ができてはいる。しかしいつまでも彼一人に頼っている状況は健全とは言えない。シロコちゃんとノノミちゃんもニコラスに学んで賞金稼ぎをしてくれているがこれ以上彼女たちの負担も増やしたくはない。根本的な改善がアビドスには必要だと。

 

「というわけでニコラス、この日に百鬼夜行連合学院に行くことにしたから送迎よろしくねぇ」

 

「なにが 『というわけ』やねん。この予定表も。説明せえや」

 

 対策委員会の定例会議で唐突に話を振るホシノ。ちなみにホシノの立場は生徒会会長兼対策委員会副会長、ウルフウッドが対策委員会会長とこの会議での立場が微妙にややこしいことになっているが、実質はホシノがトップでありホシノの発言に対してウルフウッドに拒否権は無い。

 

「いやあねえ、お姉さん、みんながお金稼いでくれるから暇でさぁ。だからアビドス復興に向けた案を考えてたんだよぉ」

 

 なおホシノが暇というは嘘である。対策委員会は主に金策――賞金首捕縛やウルフウッドに舞い込んでくる仕事の報酬がメインである――担当で、生徒会はそれ以外の業務、例えば書類の整理や申請、連邦生徒会への陳情、アビドス高校周辺の治安維持などを行っていた。言ってしまえばみなホシノがアビドスにいてくれるから出稼ぎができるのだ。なので他のメンバーはホシノの暇発言はあえてスルーしてホシノの話を聞いている。

 

「それでねえ、色々考えたんだけどアビドス砂祭りを再開するのはどうかなって思ったんだ。お祭りが盛り上がればうちに入る生徒も増えるかもしれないしね。オアシスは枯れちゃってるけど、私たちで新しい砂祭りをすることはできないかなって思ってさ」

 

「お祭りで学校おこししようっちうわけか。悪ない思うけど、それがなんで百鬼夜行に行くことになんねん? 」

 

「知ってるでしょ。百鬼夜行といえば観光のメッカ。学べることはたくさんあると思うんだ。それに百鬼夜行にお祭り運営委員会っていうのがあってね。お祭りのことはお祭りのプロに聞こうと思ってダメ元でアポイント取ってみたんだ。そしたら話聞いてくれるって。いや~世の中捨てたもんじゃないね」

 

「せやかて百鬼夜行とウチとじゃなんもかんもちゃうやろ。参考になるんか?」

 

「無駄にはならないんじゃないかなぁ。実際私たちはお祭りを催すにあたって何が必要なのかもわからないわけだしさ。もしかしたら足りないものだらけで私達の代で開催は無理たとしても、何か奇跡が起きて未来のアビドスならできるようになるかもしれないわけだし……どうかな?」

 

「……はぁ、どうもこうも、もうアポイント取ってしもうてるんやろ。しゃーないやんけ。生徒会長様の言う通り足になったるわ」

 

「お、やったぁ。実はあのサイドカーに一度乗ってみたかったんだよねぇ」

 

「……そういや、ホシノはまだ乗ったことあらへんかったか?」

 

「そうだよ、なかなか機会なくってさぁ……という訳で二人とも、お土産奮発するからさ、私達が出かけてる間お留守番お願いできるかな?」

 

「ん、わかった。お土産期待してるね、ホシノ先輩」

 

「あ、私はご当地モモフレンズがいいです☆」

 

「うへぇ、ノノミちゃん……お姉さんあまりよくわからないから後で具体的に教えてくれない? 」

 

「ほんじゃ、今日の打合せは終いやな。結構な遠出になるしワイはバイク整備しとくわ」

 

「当日よろしくねぇ、ニコラス」

 

 いつも通りの雰囲気で対策委員会の会議は幕を閉じた。ただ、なんだかいつもと違ってシロコちゃんとノノミちゃんがニヤニヤこっち見てるような気がするのは気のせいかな?

 

◇ ◇ ◇

 

「ふっふふ~ん♪」

 

 地図、コンパス、その他諸々良し。お祭り運営委員会との待ち合わせ場所、時間の確認も良し。うん、準備はばっちりだ。

 百鬼夜行への遠出を明日に控え、私は対策委員会室で荷物などの再確認をしていた。ニコラスのバイクは整備なども考慮して学校で管理していたため、明日は学校に集合して出発するからだ。

 

「……ホシノ先輩、いつになく上機嫌だ」

 

「うへ、シロコちゃんいつの間に?」

 

 気づけばシロコちゃんが対策委員会室を覗き込んでいた。一体いつからいたのだろう?

 

「仕方ないですよシロコちゃん。ニコ先輩とのデートなんですから☆ ホシノ先輩だってテンション上がっちゃいます!」

 

「ちょっ、ノノミちゃんまで!? ていうかこれはデートじゃないよ!」

 

「え、違うんですか?」

 

「ち、ちがうよぉ~、お仕事だよぉ~」

 

 シロコちゃんの後ろから現れたノノミちゃんが爆弾発言を投下してくる。ノノミちゃんまでいつからそこにいたの? と、というか、ちがうよノノミちゃん、あくまで今回は砂祭りを復活させるために話を聞きに行く仕事なんだよ! だから決してそんな――

 

「……ホシノ先輩、顔真っ赤。わかりやすいよ」

 

「うへッ!?」

 

「私はニコ先輩に素直になれないホシノ先輩も可愛いと思います! ですがホシノ先輩、もう一年以上ニコ先輩と一緒にいるんですよ。流石に何か進展があってもいいんじゃないでしょうか?」

 

「だ、だから違うって……お、お姉さんをからかうのはやめてよぉ~」

 

「ん、ホシノ先輩。そんなこと言ってるとニコ兄誰かに取られるよ」

 

 シロコちゃんの発言を聞いて背中に氷柱を突っ込まれたような気分になる。

 

「し、シロコちゃん? あ、あの不良にアプローチするような人なんかい、いないんじゃないかなぁ?」

 

「甘いよホシノ先輩。ニコ兄は結構モテるよ」

 

「うへ!? うそ!?」

 

「実際ニコ先輩カッコイイですからね~。それに一見怖い感じなのに話すと気さくで、そのギャップが魅力的って言う人もいますよ。賞金首を引き渡す際によくヴァルキューレの方たちと話しますけど軒並み好印象ですし☆」

 

「……そ、そうなんだ……」

 

 いや、いやいやいや。何を焦っているんだ私は。別にニコラスが誰と付き合おうともどうだって、どうだって……いや、嘘だ。そんなの嫌だ。その光景を想像して反吐が出そうになっている時点で私の秘めている思いは明らかだった。

 ニコラスと出会ってから約一年。その期間は短いようで、学生の私達にとってはとっても長い。それは私がニコラスに惹かれるには十分すぎる時間だった。気づけば私にとってニコラスは、自分の素を晒せて、無条件で頼ることができる、そんな存在になっていた。

 改めて自覚する。私はニコラスのことが――

 

「ホシノ先輩! 旅行先で愛の告白は青春の定番です!! ここは――」

 

「だ、だから違うって~!!」

 

 危ない、流されるところだった! いきなりそんなことしたって碌なことにならないだろう。そもそもニコラスの好みはその……恐らくユメ先輩みたいな色々大きい人だと思う、多分。なんかそんな感じがする。……あれ、もしかして私脈ないのでは? でも故郷の話とかしてくれたし……えと、ニコラスは私のことどう思ってるんだろう?

 

(う、うへぇ……なんだか頭が悶々してきちゃった。今日ちゃんと寝れるかなぁ……)

 

「……ごめんホシノ先輩、まさかそんなになるとは思ってなくて。ちょっとからかいすぎた」

 

「も、もう二人ともぉ!! そうやって先輩をからかっちゃだめだよ~!」

 

「えへへへへ、すみません~。でもホシノ先輩。仕事も大切ですが、せっかくのニコ先輩との遠出ですから楽しんで来て欲しいのは本心なんですよ☆ ……ホシノ先輩はいつもアビドスのために残ってくださってましたから、たまには羽を伸ばしてほしいんです」

 

「ノノミちゃん……」

 

「ん、なんだったら泊ってきてもいいよ」

 

「え、もしかして大人の階段を……?」

 

「だから二人ともぉ!!」

 

 いつから二人とも先輩をからかうような悪い子になってしまったのだろうか? きっとニコラスのせいだ、まったく。……でも、確かに仕事だけど楽しんでくることはいいことかもしれない。実際行事らしい行事は行えていなかったし、ちょっとした修学旅行というやつだ。ニコラスだって観光としての遠出はそんなにないだろうしいい経験になるだろう。その……告白云々は置いておいて、二人で楽しむのは悪いことじゃないと思う。明日が本当に楽しみだ。

 

 

 

 

 この時は思いもしなかった。まるで今までの奇跡の取り立てが来たような、なにかの帳尻合わせとでも言うような、そんな出来事が待ち受けていただなんて。

 

 

 

 

 

 

 ――この時、百鬼夜行である事件が起きていた。キヴォトスでは類を見ない、連続殺人事件。その死者は十三人。

 

 うち四名は一般市民

 

 うち六名は百鬼夜行の生徒

 

 うち二名はヴァルキューレの生徒

 

 そして、その十二名を殺害した犯人

 

 ……犯人はニコラスによって殺害された。あの時、犯人から私を守るために、彼は殺しという手段を取った。取らせてしまった。

 

「……神様よう、人殺しはどこまで行っても人殺しちうことなんか……」

 

 あの時のニコラスの呟きが、今でも耳から離れない。




守るものが出来てしまった。だから引き金を引いた。その引き金が引けてしまえるから、人殺しはどこまで行っても人殺しだ。
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