ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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03_作戦会議

 

「――にしてもよくここ見つけられたな……」

 

「シャーレに近い病院を片っ端からあたるつもりでした。二件目で合流できたのは、ゴホッ、……行幸でしたが……」

 

 声が聞こえる。目を開けて重い体を起こす。

 

“ ……カン、ナ? ”

 

「目を覚まされましたか⁉ 体は大丈夫ですか、先生⁉」

 

“ ――うん……ってそれよりカンナ! 酷いケガじゃないか⁉ どうしたの⁉ ”

 

「えと、これは……」

 

 カンナの怪我について聞こうと前のめりになる私の額にデコピンが放たれる。

 

“ あだッ ”

 

「とりあえず落ち着けセンセ」

 

 デコピンをしたのはウルフウッドだった。さっき聞こえた声は彼とカンナのモノだったらしい。

 

「おんどれがグースカ寝とった間にややこしいことになっとるみたいや。なんや病院の雰囲気おかしいと思うたら、どうもD.U.が閉鎖されとるんやと」

 

“ なんだって⁉ “

 

「――順を追って私から説明します」

 

 カンナが私とウルフウッドに向けて話しだす。

 

「……六時間ほど前、シャーレ爆破とほぼ同時刻になりますが……何者かによって連邦生徒会が襲撃を受けました。保護した連邦生徒会の生徒によると、犯人はアビドスの生徒……とのことです」

 

“ アビドスが⁉ なにかの間違いじゃ……? ”

 

「センセ、シャーレ襲われた時の事思い出してみ」

 

 横からウルフウッドに言われ、記憶を探る。――そうだ、あの時たしか……

 

「あん時はRABBIT小隊の偽物やったがアビドスも同じやろ。本物のあいつらは会議欠席してアビドスにおるって聞いとるからな」

 

“ 生徒の偽物…… ”

 

「とりあえずは便宜上アビドスと呼ばせていただきます。説明を続けますね」

 

 カンナが軽く咳ばらいをしてから話を続ける。

 

「アビドスの生徒達は連邦生徒会の主要役員を誘拐し、RABBIT小隊がすでに占拠していたシャーレへ逃走。そしてどうやってかは知りませんがサンクトゥムタワーを掌握し行政権を奪取。D.U.を行き来する交通網・通信網が全て遮断されました。ヴァルキューレ含む他の機関も行政権と連邦生徒会の室長らが奪われてしまったことによる機能不全を起こしてしまい、行動不能という状態です」

 

“ カンナが怪我してるのは……? ”

 

「……命令もなく行動するのは違反行為ですが……以前いただいたアドバイス通り、今回は私自身が納得いく行動をした結果です。……シャーレへ潜入を試みましたがRABBIT小隊に阻まれこの有様、逃げ帰るのが精一杯でした」

 

「そない卑下せんでええで局長。少なくともRABBIT小隊の偽物らは実力も本物そっくりやったからな。あいつらが籠城しとるシャーレから逃げてこれただけでも大したもんや。それに局長のおかげでワイらが状況知れたわけやし。大金星やで、胸張ったらええ」

 

「――ありがとうございます、ウルフウッドさん」

 

 ウルフウッドはカンナを慰めると、顔を厳しくして私に向き直る。

 

「で、センセ。連邦生徒会から訳のわからん現象起きとるっちう連絡あってから、この訳のわからん偽物騒ぎや。無関係とは思えへん。これが予知夢の事案やったらあまり時間もかけられへんやろ。どないする?」

 

“ ――そうだね。まずはみんなと連絡が取れない状況をどうにかしないと。……とりあえずそこのタブレットを取ってくれる? ”

 

「ん」

 

 ウルフウッドが病室の端に置かれていたシッテムの箱を手渡してくれた。……よかった、シッテムの箱はヒビもなく無事みたいだ。画面に指をあて、パスワードを入力する。

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジュリコの古則を

 

 目の前が白く染まり、青空に染められた教室が現れる。

 

「先生⁉ うわぁぁぁあん‼ ご無事でしたか⁉ 心配したんですよ! 急な爆発だったのでちゃんと防げてたか不安だったんです! ウルフウッドさんが盾になってくれていなかったら……」

 

“ 大丈夫だよ、二人のおかげで私は無事だったから。守ってくれてありがとね。アロナも無事でよかった ”

 

「うう~、先生~、今大変なことに……」

 

“ うん、さっき私も状況を聞いたよ。ちなみにアロナ、シッテムの箱から他の生徒に連絡することはできるかな? ”

 

「あう、それは難しいです。……通信網のシャットダウンはサンクトゥムタワーから出された命令なので、かなり近くにいる生徒にならなんとか、といった感じで……」

 

“ そっか、わかった。あとアロナ、偽物の生徒達がどうやってサンクトゥムタワーを奪い取ったかわかる? ”

 

「それなら分かります。偽物の生徒達はサンクトゥムタワーの行政制御権を掌握できる場所を、物理的に占拠しているんです」

 

“ 占拠……まさその場所って、シャーレ? ”

 

「はい。正確にはシャーレの地下、『クラフトチェンバー』です。『クラフトチェンバー』は連邦生徒会長が残した物質生成器。本来、シッテムの箱の管理者だけが接続できるのですが……とある方法で偽物の生徒達はその認証を回避し、クラフトチェンバーを起動しました。それによってサンクトゥムタワーを掌握したみたいで……! 恐らくリン行政官らを拉致してシャーレヘ連れ込んだのもそれに関連しているのかと思われます」

 

“ リンたちの無事はわかるかな? ”

 

「すみません、そこまでは……シャーレに未だ幽閉されているとしか……」

 

“ ……わかった。色々教えてくれてありがとね、アロナ ”

 

 景色が病室へと戻っていく。私の顔をウルフウッドが覗き込んでいた。

 

「なにやっとるん?」

 

“ ちょっと調べごと。分かったことだけど、サンクトゥムタワーと行政権を取り戻すにはシャーレのクラフトチェンバーを取り戻す必要があるみたい。あとリンたちはやっぱりシャーレに幽閉されているって ”

 

「……ふ~ん、なら話は簡単やな。とりあえずシャーレ取り戻せばええっちう話やろ」

 

「いえ、話はそう簡単ではありません。RABBIT小隊とアビドスの他にもシャーレで構えている生徒達がいました。侵入した時は分かっていませんでしたが、あれらも恐らく偽物の生徒達でしょう。私達だけでは厳しい戦力差です」

 

「ん? 私達って……なに言うてんねん局長? まさかついてくる気か?」

 

「もちろん、応急処置も済みましたし私は動けます!」

 

“ 駄目だよカンナ。カンナはここでちゃんと治療を受けること! ”

 

「ですが先生! 通信ができない現状、応援を呼ぶことはできません! ましてや誰が偽物かも容易に分からないんですよ⁉」

 

「それについてはアテがある。せやから局長はセンセの言う通り休んどき」

 

「あて?」

 

“ そうなの、ウルフウッド? ”

 

「おう、本物のRABBIT小隊には子うさぎ公園で大人しくしとれ言うとったからな。一緒におる復学支援部の奴ら含めてそこにおる奴らは本物のはずや。場所も分かっとるし、そいつらとなら合流できるやろ」

 

“ 流石だね。じゃあ方針は決定だ。本物のミヤコ達と合流して、シャーレを奪還しよう! ”

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「――ウルフウッドさんから私達の偽物がシャーレを襲撃したと聞いた時は何の冗談かと思いましたが、まさかこんなことになっているとは……」

 

 ウルフウッドと一緒に子うさぎ公園までたどり着き、本物のミヤコ達と無事合流することができた。私達の説明を受けて生徒達はみな唖然としている。まるで都市伝説のドッペルゲンガーみたいな話だ、その反応も仕方ない。

 

「しかし、不思議な話ですね。見た目も実力もそっくりなのに、先生が喫煙されることを知らなかったり、ウルフウッドさんのことも知らなかったり……」

 

「そのお陰で違和感に気づけたんやけどな、なんちうかチグハグやねん。誰かの変装っちう訳でもなさそうや。……今思えばエデン条約の時に見たラズロのミメシスに似とるかもしれん」

 

“ ミメシス…… ”

 

 確かに現状までに掴んだ情報で推察すると偽物の生徒達はミメシスだと見るのがしっくりくるかもしれない。ただあれは無制限に何かをコピーできるものではなく、色々な契約と制約の元、複製体を作れるというものだったはずだ。それに見た目も青白いものになる。偽物の生徒の正体はミメシスそのものではないだろう。

 

(“ 生徒達のミメシスに近い何か、か……”)

 

 一つだけ心当たりがあった。大人のカード、それが持つ機能の一つ。絆を結んだ生徒の『記憶』を一時的に召喚する力。

 

――忘れられた神々との記憶(メモリアルロビー)

 

 だか、それこそあり得ない。()()の使用には『私の時間』という代償が伴う。仮に大人のカードを持つ私の偽物がいたとして、大量の生徒をこれだけ長時間召喚したら『代償』に耐えきれないはずだ。だからこの線もないだろう。

 

“ ――とりあえず偽物は本物に近い実力と性格を有しているって想定で考えよう。シャーレを占拠している戦力で今分かっている厄介な勢力は二つ。RABBIT小隊とアビドスの生徒たち。シャーレを奪還するには少なくともこの二つを退ける必要がある ”

 

「加えるなら相手はセンセを躊躇いなく撃った。つまりはそういう相手や」

 

“ ……リン達が人質に取られる可能性も考慮するべきかな。シャーレに侵入できれば私のタブレットでシステムにアクセスしてリン達の居場所を調べられる。先ずは彼女達を見つけて保護しよう。その後に地下にあるクラフトチェンバーの確保だ。速度が命の作戦になる。……そこでミヤコ ”

 

「は、はい!?」

 

“ ミヤコに作戦立案をお願いしたいんだけど、いいかな? ”

 

「え、先生を差し置いて私がですか⁉」

 

 ミヤコが驚いた顔を浮かべる。でもこれはミヤコが適任なんだ。

 

「当たり前やろ。シャーレに籠城しとるのはお前らの偽物なんやで。そいつらの裏をかくならお前が考えるのが一番やないか」

 

“ ウルフウッドの言う通りでね。相手がRABBIT小隊と同じ実力があるなら、あっちの指揮は偽物のミヤコがしているはずだ。だからミヤコなら相手がどう籠城してるのか、どうされると嫌なのか分かるはずだよ ”

 

 ミヤコは少し思い悩む素振りを見せながらも、決心した視線を私に向ける。

 

「分かりました! その任務、お受けします! 先生、シャーレの間取り情報をいただけますか?」

 

“ うん。作戦お願いするね ”

 

 ミヤコのスマホにシャーレの間取り情報をレーザー送信する。ミヤコ達が作戦を練っている横でウルフウッドが私に耳打ちしてきた。

 

「偽物RABBIT小隊対策はあいつらに任せるとして、他が不味いな。アビドスが本物と同じ実力やとすると、ここにおる中で正面から相手できるのはワイだけやぞ。他にホシノレベルの偽物がおったら手が足らなくなる。……一応聞くが、()()()()()()()()?」

 

“ ……ごめん、撃てない ”

 

 相手が例え生徒の偽物だとしても、僕には無理だ。相手が生きている可能性がある以上……いや、仮にミメシスだったとしても、僕はきっと撃てない。

 

「せやろな。端から期待してへんわ。しゃあない、ワイがやるしかないか……」

 

 ウルフウッドが覚悟を決めたような表情を浮かべる。でもそれは――

 

“ ――駄目だよ、ウルフウッド。ヘイロー貫通能力を使う気だろ。相手は生きている可能性も捨てきれてないんだ。だから、駄目だ……! ”

 

「おんどれ殺されかけといてようそないなこと言えるな。まあ今に限った話やあらへんけど。……あんな、ワイはお前とちごうてあいつらの形してようが敵なら撃てんねん。でないとやられるのはこっちなんやで」

 

“ そんな悲しいこと言わないでくれよ。ピンチになったら僕が切り札を切るから……だから、例え偽物だろうとアビドスの子達にあの力を向けるのは止めてくれ…… ”

 

「……」

 

 ウルフウッドが僕を睨み付ける。分かっている。駄々をこねているのは僕のほうだ。でも、あんまりじゃないか。彼がヘイロー貫通能力を発動させるには攻撃に殺意を籠める必要がある。彼が家族同然に思っている子達に、例えそれが形だけだろうとも……殺意なんて向けて欲しくない。

 

「……まあ代案出しただけでも及第点か。わかった、とりあえずアビドスの奴らが出てきたら生け捕りするつもりで動いたる。言っとくけどなッ、これも大概無茶な要求なんやぞ⁉ 分かっとんのか⁉」

 

“ わかってるよ、ありがとう ”

 

「――すみません、先生。お聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

 

 ミヤコから声を掛けられたので舌打ちしているウルフウッドを他所にそちらへ向かう。

 

「先生、中に入ればシャーレのシステムにアクセスできるとおっしゃっていましたが、シャーレの防災設備を作動させて内部の防火シャッターを降ろしたりスプリンクラーを作動させたりはできますか? それで相手を分断しようと考えていて……」

 

“ ちょっと待って。……うん、できるよ。でも効果あるかな? シャッター降ろしても防火戸あるから普通に通れちゃうけど? ”

 

「効果はあります。防火戸などは普段から避難経路など意識していたりしないと存外わからないものですよ。スプリンクラー等を併用すれば大なり小なり相手は混乱するはずです。……そして指揮官に指示を仰ぐ。普段から連携を取ってる相手からならともかく、急造の仲間からパニックじみた連絡を受ければ『()()()』混乱します」

 

“ なるほど。その隙にリン達を取り戻すんだね ”

 

「はい。代行達がどこに監禁されているか不明な以上、どうしても運に頼らざるを得ないところもありますが……この作戦を実行できれば時間稼ぎにはなるはずです」

 

「大体話は纏まってきたか?」

 

 ウルフウッドが私の横から顔を出す。もう割りきったのか先ほどまでの不機嫌そうな顔はそこにはない。

 

 そのスイッチの切り替えの早さは流石だと毎度感心してしまう。

 

「はい、概ね固まりました。まずはあちらのミユの狙撃対策に装甲車でシャーレに突貫します。もしかしたら道中あちらのモエがヘリで迎撃してくるかもですが、その場合はウルフウッドさんのパニッシャーでどうにかしてください」

 

「お前も無茶言いよるな。変なとこ先生に似よってからに……」

 

「まさかできないんですか?」

 

「そないは言うてへんやろ! なにが来ようが撃墜したるわ!」

 

「ではお願いします。――そしてシャーレに突入後、先生のタブレットで代行らの監禁場所の把握し、防火設備を作動させて相手が混乱している隙に代行らを救出。ここで私達と先生達の二班に分かれます。私達RABBIT小隊が救出した代行らを連れてシャーレから脱出、先生とウルフウッドさん達で地下のクラフトチェンバーを奪取する、という流れでいきましょう。代行らを安全な場所まで運んだら、私達は再びシャーレに戻り残存する敵勢力を殲滅します。――相手に関して不明瞭な点も多く、この通りに事が運ばない可能性の方が高いですが、そこは臨機応変にいきましょう」

 

「まあええんちゃう? 成長しとるやないか、ミヤコ」

 

「どこかの不良牧師に子供扱いされる訳にはいきませんので」

 

“ やっぱりミヤコに立案を任せて正解だったね。作戦中も頼りにしてるよ ”

 

「はい、任せてください!」

 

「ワイとセンセで態度変えすぎやろお前……」

 

「あ、装甲車にウルフウッドさんの席は無いので車の上で警戒していてくださいね」

 

「あ゚あ゚⁉ 嫌がらせか⁉」

 

「失礼な。戦略的な配置です」

 

「こんのガキ〜!!」

 

 ウルフウッドとミヤコがいがみ合うのは何時ものことなので、無視してみんなに向き直る。

 

“ なし崩し的にみんなを巻き込んでごめん。でも、今の危機的状況で動けるのは私達だけなんだ。だから、みんなの力を貸して欲しい ”

 

「もちろん! SRTはこういう時の為の存在だしな!!」

 

「うひひ、作戦の為ならシャーレを吹き飛ばしてもいいなんてサイコ〜じゃん」

 

「え、えと、私なんかでも力になれるなら……」

 

「私達が不在の間にナメたことしやがって、許しちゃおけねぇ」

「「「そうだそうだ〜!!」」」

 

 若干怪しい発言が聞こえたものの、RABBIT小隊も復学支援部のみんなもやる気は十分みたいだ。なら、反撃を始めよう。

 

“ じゃあこれより『シャーレ奪還作戦』を開始するよ!! ”

 




シャーレ奪還作戦開始!

ミヤコのシャッター降ろして分断作戦はゲーム開発部がセミナー襲った時のパロディとして考えたんですが、あっちは元々セキュリティとしてのシャッターなので閉じ込めできるんですが災害用だと防火戸ついてるから普通にくぐれちゃうんですよね。
ただ意匠を凝った建物だったりするとぱっと見それがどれか分からないようになっていたり。個人的にそれ避難経路としてどうなんだよ?とは思ったりするのですが、意匠屋がうるさくて……すみません、職業的な愚痴がでてしまいました。
まあ急にスプリンクラー作動して防火シャッター降りたら普通は混乱するよねって話です。
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