01_作戦会議_★
“ ごめん、遅れた ”
シャーレの会議室に慌ただしい様子で先生とウルフウッドが入室する。D.U.に出現していた正体不明の敵を排除して回っていたせいか二人の体には煤が付いていたりするが、そんなことはお構いなしといった様子だ。
その二人に、先生から招集がかけられ集まっていた生徒たちの視線が集中する。
会議室にはリン、モモカ、アユムの連邦生徒会メンバーの他に、カヨコ、アコ、アヤネ、ハナコ、ユウカが着席していた。
「問題ありません、先生。皆さんには事前に情報を共有済みです」
リンが伝える。先生はそれに感謝を伝えると、集まってくれた生徒を見渡した。
“ あれ、ユウカ。リオは? ”
「会長なら他学校と調整がいる場なら私に任せて自分は解析に回った方が合理的だって……」
“ ははは、リオらしいね ”
「アヤネ、シロコのことでホシノは暴走しとらへんか?」
「実はシロコ先輩を一人で探しに行こうとして……ああっ、でも皆で説得して待機してもらっています」
「やっぱりか。あいつそういうとこあるからな、よう止めてくれた。……シロコのことで情報がある。後で話そか」
「は、はいっ!」
二人がテーブルに着くと、リンが目を鋭くさせて言い放つ。
「ではこれより虚妄のサンクトゥム攻略会議を始めます」
◇ ◇ ◇
「結論から申し上げますと、あの塔を二週間以内に破壊しなくてはなりません」
会議の初っ端、リンが告げる。たったの二週間、それがキヴォトス崩壊までのカウントダウン。集まっている皆が息を呑んだ。
「サンクトゥムタワーを倒壊させた塔を含め、キヴォトスの各所に出現した六つの塔。それらを『虚妄のサンクトゥム』と命名しました」
“ 虚妄のサンクトゥム…… ”
先生はそれを聞いて思い返していた。
黒服が言っていた『あの紅い塔は反転したサンクトゥムタワーの一種である』という言葉。襲ってくる生徒のメモリーにサンクトゥムタワー……まるでもう一つのキヴォトスが攻めてきているように錯覚してしまうな、と思う。
リンの説明は続く。それは二週間というタイムリミットの理由。
トリニティの古書館から発見されたデータとセイアの預言により、敵は『色彩』で間違いはないということ。そして『色彩』が、あの紅いサンクトゥムタワーが放っている光には、人々を『狂気』に陥れる力があること。
それはミレニアムの総出で解析した結果でも確認がされていた。そして、その光が臨界点に到達する予想時間が三百時間、つまりは二週間後ということ。
通信の繋がっていたセイアがかつて見た最後の預言の内容、その終末の景色を告げる。
<――あの塔は、まるで悲鳴を上げるように鳴動し、この世界を少しずつ削りとって、そうして、世界の破片を『何か』に被せていった。そして削られた世界の欠片が嵐のように吹き荒れる中で、黒い光が天から舞い降りて……世界が終焉に傾いてく。そうして……キヴォトスの全てが崩壊し、塵一つ残さずに、全てが虚無へと消える。……残るのはそこに私達がいたという
それがタイムリミットを過ぎてしまったキヴォトスの結末。
「ようは二週間以内にあの塔をぶっ壊せば解決っちう話やろ? 方法がわかっとるだけまだマシなもんやで」
重苦しい表情をしている皆のケツを蹴り上げるようにウルフウッドが言い放つ。
――ほんと、彼には助けられてばかりだなと先生の頬が緩んだ。
“ ……ウルフウッドの言う通りだ。大丈夫、みんなで力を合わせれば解決できる話だよ。――ああ、そうだ。『解決』についてセイアに聞きたいことがあったんだ ”
<私にかい?>
“ うん。セイアが以前私達に預言の話をしてくれた時、確か『色彩』に接触してしまって崩壊してしまうところをクズノハっていう子に助けてもらったって言っていたよね? 他にも『色彩』に触れてしまった子がいるみたいでね。その子も元に戻してあげたいんだ。だからクズノハの居場所を知っていたりしないかな? ”
黒服からもたらされた情報が正しければ、『色彩』がシロコに接触して反転し、敵となっている。ならばシロコも元に戻さねば真の解決とは言えない。
<……すまない先生。彼女の居場所について私は力になれそうに……>
<にゃはは~、クズノハとは、
セイアの申し訳なさそうな回答をシャットアウトするように百鬼夜行のニヤからの通信が割り込まれる。
<いや~横からすみませんね。お二人の言っているクズノハが私の想像している通りのものであれば、ちょっと色々込み入った事情もあったりするのですが……ま、なんとかできるかもしれません。こちらについては後程、個別でお話しましょ、先生♪>
“ ありがとう、ニヤ ”
「それ、ワイも同席させてもらうで」
<……なるほど、承知しました。ではでは~>
ニヤとの通話が切れる。それを見計らってリンが虚妄のサンクトゥム攻略についての本筋に話を戻す。画面にキヴォトスのマップと、紅い点が六つ映し出された。
「――『虚妄のサンクトゥム』は、計六か所存在します。アビドス砂漠、D.U.近郊の遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市、そしてD.U.の中心地点、サンクトゥムタワーの在った箇所」
アユムがリンに続く。
「この中ですと、D.U.のエネルギー体が一番大きいので、まずは他の五つを破壊してからD.U.の塔を処理したほうが良いかと……」
<ただ、それも簡単にはいかないわ>
アユムの話に待ったをかけるように凛とした声が通信される。会議室にリオのホログラムが映し出された。
<私はミレニアムサイエンススクールの会長、調月リオよ。私達はすでに『虚妄のサンクトゥム』にアクセスを試みていたのだけれど、強大な防衛戦力によって阻まれてしまったわ。――ミレニアムに居たあれは、デカグラマトン四番目の預言者、『ケセド』だった>
「は? なんであれが『色彩』なんぞの味方しとんねん?」
<恐らく私達が戦った本物とは違う存在だと予想されるわ。『虚妄のサンクトゥム』を守護している存在は、今までキヴォトスに出現した特異現象が凝縮されているようなものたちだった。『ビナー』『シロ&クロ』『ヒエロニムス』『ケセド』『ホド』、それらがD.U.以外の『虚妄のサンクトゥム』を守護しているのを観測済みよ。今、資料をそちらへ送るわ>
リオが独自に調査を進めてくれていた守護者の資料が会議の出席者たちに共有される。皆がその資料を確認している中、二人の大人は頭を抱えていた。
“ このラインナップってやっぱり…… ”
「黒服~ッ」
やはりというかなんというか、それらはゲマトリアが奪われた『秘儀』と『検証結果』だった。改めてこんなものを研究していたことにも、それが『色彩』に奪われて良いように使われていることにも、あいつらホント碌なことしないなと二人は内心毒づく。
<――二人はこれらの守護者を知っているのよね?>
「まあな。全部とやりあったことあるで」
“ どれも難敵ではあるけれど、勝てない相手じゃない。攻略部隊を編成しよう ”
先生が席から立ち上がり、皆の前に立つ。先生は会議の中心をリンからバトンタッチし、リオ達からもたらされた情報を参考に、サンクトゥム攻略と各自治区の防衛・避難のための編成を組み上げていく。
“ ――以上がサンクトゥム攻略のメンバーとその割り振りだよ。なにか質問はあるかな? ”
先生の提案した編成に、皆が同じ疑問を持っていた。それを代表するかのようにウルフウッドが声をあげる。
「ワイがどこにも入っとらへんけど、なんでや?」
そう、どのサンクトゥム攻略のメンバーにも最強の戦力である彼の名前が入っていないのだ。各自治体の防衛や避難はそれぞれの生徒会や自治組織が担当するためそこでもない。しかし彼を遊ばせておく余裕なんかあるわけもない。では、先生は彼になにをさせようとしているのか?
“ ――ウルフウッドにはシャーレの防衛をお願いしたいんだ ”
「シャーレの防衛?」
先生がシッテムの箱をプロジェクターに繋げ、ある映像を流し始める。それにはシャーレ奪還作戦時の映像が映し出されていた。二人のミヤコが戦闘している場面で画像が止まる。
“ 敵は、生徒のコピーを扱える ”
「「「⁉」」」
ウルフウッド以外の人間がそれを聞いて動揺を見せる。
“ 相手は私が関わってきた生徒を、それも実力とかもそっくりそのままのコピーを、大量に召喚する能力も持っている。相手にとって一番邪魔なのは私達だ。虚妄のサンクトゥム防衛に生徒たちのコピーがいなかったというのなら、きっとその全てをシャーレに向けて放ってくるはずだよ。だから、それの迎撃をウルフウッドにお願いしたい ”
新たな事実に皆が絶句している中、静かにウルフウッドが尋ねた。
「……センセ、数は予想できるか?」
“ ――多分、200前後……いや、300いくかも ”
先生から告げられた圧倒的な物量を聞いてユウカが思わずテーブルを叩く。
「無茶ですよ先生! 戦力の再編を提言します!」
300人近くの生徒、しかも先生が関わってきた者たちだという。そこらの不良の群れとはわけが違うのだ。きっとC&Cも含まれているだろう。各学園の戦力を担う生徒たちが多く含まれているはずである。そんなの計算しなくても分かる、無理だ。
だがその無理を強いられているはずの男があっけらかんと答える。
「再編なんて必要あらへん。確かにこれはワイ一人で担当するのがベストや」
“ ユウカの言う事もわかるよ。でもウルフウッドの言う通りなんだ。生徒のコピーは驚くほど精巧でね。それこそ思考も実力もほぼ本物と同じなぐらい。だから半端に戦力を割り振っても同士討ちのリスクが生じてしまうんだ。幸い、相手にウルフウッドのコピーがいないことは分かっている。それもあって彼単体で対応してもらうのが一番なんだよ ”
「でも……」
「乱戦になったら本物かどうか確認なんてしてられへんからな。生半可に味方がいても邪魔なだけや」
当人に言われてはどうしようもなくなり、意見を引っ込めるユウカ。
まあ心配してくれる気持ちだけはありがたくもらっておくで、と軽口を言いつつウルフウッドは話を詰めていく。
「しかしセンセ、いくらワイでも流石に撃ち漏らしは出てまうで。それはどないする?」
“ 撃ち漏らしてシャーレに侵入してきたコピー生徒の相手は復学支援部の皆にお願いしようと思ってる ”
「ああ、確かにあいつらならシャーレ内部を熟知しとるし適任か。……あとセンセ、無限湧きの心配はあれへんのか?」
ウルフウッドは知っている。コピー生徒の正体はプレナパテスの大人のカードによって呼び出されたメモリーだと。そしてプレナパテスは
“ それはないよ。コピー生徒は破壊されたら再度呼び出すのにかなりの期間のインターバルが必要になるんだ。『あれ』はそういう仕様だから ”
先生がウルフウッドの心配に答える。それを聞いていた生徒たちは二人のやり取りにわずかに反応を見せていた。
ここにいる生徒達は特に思慮に長ける生徒達だ。故に皆が疑問を感じていたのだ。なぜ先生はそんなにコピー生徒について詳しいのか? 『あれ』と濁した言葉はなんなのか?
ただ、同時に理解していた。この場で先生が説明を避けるということは、知られたくないか、知らない方が良いということなのだろうと。ウルフウッドにだけ共有されていることに若干のわだかまりを持ちつつ、各々は疑問を飲み込み口に出すことはしなかった。
「――おい、ユウカ。なに呆けてんねん」
「えっ、え? な、何ですかウルフウッドさん⁉」
モヤモヤを抱えていたユウカの意識がウルフウッドの声によって現実に引っ張られる。
彼はある要請をしようとしていた。
「エンジニア部に繋いでくれ言うとるやろが」
「わ、わかりました」
ユウカがエンジニア部に通信を繋ぐと、虚妄のサンクトゥムの解析でバタバタしている彼女達が映し出される。明らかにカフェインの過剰摂取でキマっている彼女たちに向けて、ウルフウッドは容赦なく己の要望を伝えた。
「おいウタハ。特急で『あれ』をこっちに送ってくれへんか」
「『あれ』って、『あれ』かい?」
「せや。今度の相手はいくらワイでも火力不足やからな。前々から考えてたこと試すのにも丁度ええ」
◇ ◇ ◇
虚妄のサンクトゥム攻略戦が開始されていた。その最中、一人の男が佇んでいる。
巨大な十字架を地面に突き刺し、シャーレビルの前で敵を待ち構えていた。
男は目を細め、遠くを見つめる。
「おうおう、ぎょうさん来とるやんけ。知っとる顔ばっかやな」
ウルフウッドは念を押して先生に確認をとる。周辺にこちらの生徒は本当にいないのか。先生からの回答は「いない」だった。応援に来てくれたワカモやラブ達、ヴァルキューレも今はシャーレの中で各所の守りに就いてくれている。
つまりウルフウッドの視界に入っている大量の生徒達は、皆が敵である。
ウルフウッドはパニッシャーに両の手を伸ばす。そして構えた。
――パニッシャーがその両手に存在していた。
右腕にはいつもの白いパニッシャー、左腕にはエンジニア部が作った黒いスタンピード・パニッシャー。
それは300に迫る戦力差を埋めるための策。
――訓練はしていた。
アビドスでの事件でマスター・チャペルがキヴォトスにいることを知ってから、守るための戦いに備えていた。
――戦い方は知っている。
リヴィオ・ザ・ダブルファング
ラズロ・ザ・トライパニッシャー・オブ・デス
チャペル・ザ・フォースパニッシャー
その動き方は嫌というほど味わった。
ウルフウッドの積み重ねてきた経験が結実し、彼の新たなスタイルがこの場で産声をあげる。
ニコラス・ザ・ダブルパニッシャー
――
それは『打ち倒す者』
アビドスに生き、その『眼』の力で守るべき者たちの敵を滅ぼす者。
「調整はまだやからな、手加減期待したらあかんで!」
二つのパニッシャーがメモリーの生徒達に向けられる。
彼は心の中で主に祈りながら彼女達に吠えた。
――血戦が幕を上げる。
メジェド
オシリスの館に住まい、オシリスの敵をその眼によって滅ぼすもの。
アビドスの生徒となり、そこの子供たちのために戦い続けてきたためにウルフウッドが得た神性でありテクスチャー。
というわけでダブルパニッシャー登場。
本当はこの小説のラスボスに対して使う予定だったんですが、ラスボスに対してぶっつけ本番のスタイルを使うかなぁ?という疑念と、300人近くの生徒と戦うのに流石に今のままじゃきついだろ、ということでここで採用としました。スタンピード・パニッシャーのビームは対集団武装としてすごい有用ですし。
『Style of Medjed』はラズロの『OF DEATH』みたいなのをつけたかったのと、ミカエルの眼の敵を虐殺するため戦い方ではなく、キヴォトスの子供たちを守るためにあらゆる敵を打ち払うためのスタイルとして名付けました。
まあその最初の相手がキヴォトスの子供たちっていうのが皮肉っちゃあ皮肉なんですけど、こちらの子供を守るために引き金を引かなければいけないというのが彼らしいといえばらしいのかなとも思います。
祈りながら子供たちを撃ってね、ウルフウッド。