陸八魔アルはビルの屋上へと駆けていた。狙いは、あのアビドスを単騎で退けたという戦力。
――ニコラス・D・ウルフウッドという名前らしい。その男の狙撃。
スナイパー班は生徒の大群で注意を引いているうちに男を狙撃するように言われていた。
(この戦力差でここまでする?)
ハッキリ言って今回のこれは戦闘ではなくリンチといえるものだ。自分の目指すアウトローとは程遠い。無慈悲ではあるが、もっとこう、孤高で、気高く、我が道の如く魔境を行く――目指したのはそういうものだったはずだ。
これなら今撃ち抜こうとしている相手の方がよっぽどアウトローだろう。たった一人でこの大群を相手取ろうと構えているのだ。正気の沙汰とは思えないが、それでも抗おうとするその姿勢はまさにそれだ。
(まあ考えても仕方ないか。――所詮、私達は残滓だものね)
シャーレを落としてこの世界を破滅させる。それが私達に課された使命。
正直、乗り気はしない。だってこの世界にはまだ無事なみんながいるもの。それを嬉々として壊したいとは思えない。
でも『乗り気はしない』だけだ。それだけ。
今の自分はそれだけとしか思えない存在なのだ。
駆け抜けた青春を再現するだけの残滓。
それが『
(――そう、だから再現するだけ。便利屋68として受けた依頼を遂行するのよ)
ビルの屋上にたどり着いたアルは銃を構える。そしてスコープ越しにターゲットを見た。
――瞬間、悪寒が走る。
(あ、これ駄目かも……)
この感覚は知っていた。風紀委員会とやりあっている最中、ヒナを見つけた時に体に走るあの悪寒。いや、あれより酷いかもしれない。
狩られるのは自分たちだとアルの直感が告げていた。
そして、その男と目が合う。
(この距離で察知された⁉ マズッ!!)
銃を上げて急いでその場から走り去ろうとした時だった。アルのいるビルに極光が走る。
◇ ◇ ◇
胸が冷える。だからだろうか。感覚が研ぎ澄まされていた。
(いくつか視線があるな。スナイパー使うやつらか)
スナイパーを警戒しながら戦うのはしんどいもんがある。ワイの体はホシノ程カチカチでもないしな。普通にダメージ受けてまうし、当たりどころが悪ければ気絶もありうる。
せやからあいつらが介入できんようにする必要がある。初手は決まりやな。
「ツケは連邦生徒会に頼むわ」
左手の黒いパニッシャーの引き金部分をスライドさせ、その砲身を露わにする。
威力制限のリミッターは解除済み。あのイカれたフルパワーの極光を放つ。
放たれたレーザービームでスナイパーの視線を感じたビルをメインにそれらを両断する。両断されたビルだったものは瓦礫となり、スナイパーを構えていた生徒もろとも押し寄せて来ていた生徒たちの大群へと降りそそいだ。
街中やったら便利やなぁ、 この戦法。まあ建物の被害は尋常やないが、紅い塔で押しつぶされたサンクトゥムタワー周辺の被害に比べたら誤差やろ、誤差。これぐらいは堪忍やで。
阿鼻叫喚の声とビル倒壊の土埃がこちらにまで届く。相手の分断は済んだ。こっちも余力残しとかないかん事情があんねん。悪いが一方的に狩らせてもらうで。
彼は土埃の舞う狩場へと突撃していった。
◇ ◇ ◇
「皆さん、構えて下さい!」
シスター達に指示を出す。
ビルの瓦礫で半分以上のシスター達が押し潰されてしまったが、残ったシスター達を纏めあげ、相手の方へと銃を向ける。狙いは土煙の奥にある十字架の影。
(主よ、『それ』に銃を向ける我らの蛮行を御許し下さい)
祈りながら引き金を引く。
シスター達の弾丸がその十字架の影を撃ち抜いた――はずだった。弾丸は土煙を貫通し空を切る。そこにはなにもいない。
突如として、戸惑う私達の上空からスコールのような弾丸の雨が降り注ぐ。
「サクラコ様!!」
私にその雨は届かなかった。ヒナタが咄嗟に私に覆い被さり盾となってくれていたから。
「ヒナタ……ッ」
彼女を離そうとしたのか、それとも抱き締めようとしたのか、訳も分からず前に出したその腕が空振りする。ヒナタはすでに光へ還っていた。開けた視界を見渡すとシスター達が還った光の粒の中に、十字架を背負った男の人が佇んでいる。
――なぜだかその光景に目が離せなかった。まるでデモンのような恐ろしさを携えながら、しかしどこか神聖さを感じさせる所作があった。彼は祈っている。あの光の中、確かに彼は祈りを捧げているように見えた。
「……あなたはパスターなのですか?」
「――お、流石はシスターサクラコやな。その通り、ワイは牧師や」
「パスターニコラス、貴方は何を祈っていたのです?」
「シスター達の安寧をな。……やっぱりおどれらも『終わって』もうたんか?」
「……はい。ここにいるのは例外なく、『終わってしまった者達』です」
「……そか」
巨大な十字架が私に向けられる。もう私になすすべはない。
だから、祈ることにした。
「パスターニコラス、貴方に恩寵があらんことを」
「どうやろな、ワイはおいたが過ぎて神サマに嫌われとるみたいやし」
「そんなことはありません。パスターニコラスは私達を止めてくださいました。それこそがきっと主の御心ではないでしょうか」
「……おおきにな」
銃声が響く。光の粒が宙を舞い虚空へと還っていく。
その光がまぶしかったのか、ウルフウッドはスーツの内ポケットからサングラス取り出し、それをかけた。
「……ホンマ嫌になるで」
そしてウルフウッドは煙草ではなく棒付きの飴を取り出す。それは生徒の前で煙草を吸うなと散々言われてきたための代替品。キヴォトスで過ごす間に身に付いた新しい習慣。
飴の甘さが口に広がる。
その甘ったるさが嫌になる。
それを噛み砕いて棒を吐き捨てた。
「行くでガキども」
まるで自分に言い聞かせるように言葉を発し、彼は再び駆けていく。
◇ ◇ ◇
「あんな兵器、攻略情報に無かったじゃん! チートだよチート!!」
「あれ、どう見てもアリスちゃんのと同じ……あの人アビドスの生徒じゃなかったっけ?」
「まさか魔王が光の剣を持っているとは驚きです!」
「アリスちゃん、言いづらいけどシチュエーション的には勇者はあっち……」
「お前ら相変わらず喧しいな」
「「「「でっ、でたぁ〜〜ッ!!」」」」
ゲーム開発部のガキどもをレーザービームでまとめて薙ぎ払う。
「シュバババッ、隙ありです!」
「残念やけど隙は無いで。お前はもうちょい忍べ」
後を取ってきたイズナをダブルファングのように後方に向けているパニッシャーの機関砲で撃つ。
「超無敵鉄甲虎丸、出撃です……ってあれ?」
「イロハ先輩、あのお兄ちゃん居なくなっちゃった〜」
「こっちやこっち。あとそこは危ないで」
「「あっ」」
跳躍する前に放ったロケット弾が虎丸へと落下する。虎丸ごとイロハとフブキを吹き飛ばす。
次から次に生徒が出てくる。瓦礫降らせたのにホンマ元気な奴らやでまったく。
「スクールファイター2のリベンジです、ウルフウッド!」
「せやから待ちカイルはやめろやアリス!」
「ウルフウッド殿の隠形は目を見張るものがあります! ウルフウッド殿も忍者研究部に入りませんか?」
「入らへんて。ワイは牧師や言うとるやろが」
「お兄ちゃん、肩車して~♪」
「お、ええでイブキ。どや、高いやろ~」
「うん! マコト先輩よりも高~い♪」
「イ゛ブキ゛か゛ら゛は゛な゛れ゛ろ゛クソ牧師~‼」
ノイズのように撃ったガキとの記憶が走る。
アホか、ワイは。そないな感傷に浸る暇なんぞ隙間もないやろが。
そもそもあいつ等、今生きとるやないか。
あいつらの明日のために撃ってるんやんか。撃たなあかんねんやんか。
――だから撃つ。撃つ。撃つ。
「ワオ! 先生がお頭ならウルフウッドさんは正しく兄貴デスね!」
「あ゛あ゛、どこの組のもんじゃワレ! 簀巻きにして沈めたるぞコラ‼ってなに言わすねんこのボケッ」
「お、局長、お疲れさん。今日はそっちも終いやろ? 今からセンセの奢りや、一緒に行くか?」
「え、えと……ではお言葉に甘えて」
「あれッ、ウルフウッドさん覚えてないんですか⁉ キャスパリーグの鼻っ柱をへし折ったのウルフウッドさんじゃないですか」
「は? キャスパ……なんて?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ‼ 黙りなさいよレイサァ‼」
引き金が重い。
――
なのに、引き金だけが重い。
キヴォトスのガキども撃つなんて今まで散々してきたやないか。
本物のこいつらを撃ったこともあるやないか。
なのに、なんでこんなに引き金が重いねん。
カタカタヘルメット団が現れる。二丁の機関砲でそいつらをハチの巣にする。
割れたヘルメットから復学支援部でいつも見ている面が目に入る。
「ニコ兄! 転入試験受かったよ! これでやり直せるんだ!」
「おお、そらめでたいな! 頑張ったかいあったやんけ。でもな、まだまだやで。こっから駆け上がっていかな」
「ニコ兄ィ……その、友達と喧嘩しちゃって……」
「なにやっとんねんお前。こういうのはな、拗れる前に謝るにかぎんねん。ほれ、ワイもついていったるから謝りにいこか」
「兄さん、タバコって美味いんすか? 試しに一本くださいよ」
「ブラックも飲めんお前には合わん味や。大人になってから出直してくるんやな」
せやねん。撃ったこいつらはもう、大人になれへんねん。その未来はもうないねん。
「――なにもしてくれなかったからだよッ‼」
シャーレ奪還作戦で聞いたホシノの嘆きが頭の中を木霊する。
なんや、ワイが悪いんか? お前らがこうなってしもたんはワイがサボっとったからいうんか? 知るかんなもん‼ どないせいっちうねんッ‼
ワイは神サマとは違う。ワイはトンガリとは違う。ワイはワイのとこのガキ守るので精一杯やねん。
あいつらが大人になれるように、祈りながらお前らを撃つことしかできへんねん。
あいつらが「ただいま」言える場所を守るために、撃つことしかできへんねん。
せやから、せやから――
<“ ――ッド、ウルフウッド‼ “>
「っさいわッ! 聞こえとるっちうねん、センセ!」
<“ よかった。そっちは大丈夫? ”>
気づけばセンセから通信が来とった。その声色には心配が含まれとる。おんどれがワイをここに采配した癖にどういうつもりや、あのボケ。
「なんも問題あらへんわ! ワイを誰やと思うとんねん!」
<“ ――君だから心配してるんだよ。……しんどい思いをさせてすまない ”>
「……ケッ‼ 前も言うたよなぁ、おんどれのその『わかっとる』っちう態度、嫌いやて。嫌がらせか⁉」
<“ そんなんじゃないよ。でもその様子なら大丈夫そうだ。引き続き
「おーおー、ワイに任せとけばええねん。
わかっとるっちうねん。発破かけたつもりか? ワイがヨゴレ役をやるのはいつもの事や。流石にもう慣れたわ。センセのおかげで活も入ったし、締めくくりと行こか。
「――おう、ホシノ。今日はそいつらと一緒なんか? 他のアビドス生はどないした?」
「色々あってみんなにはお休みしてもらってるんだ。この格好もみんなには見られたくないしね」
髪を後ろで結んでチョッキを着たホシノが瓦礫の上からワイを見下ろす。その後ろから見知った三年生どもが顔を出した。
「おい、確か他の生徒であいつを削るって作戦じゃなかったか? あいつピンピンしてんじゃねーか」
ミレニアムの勝利の象徴、美甘ネル
「ギャヒヒヒヒヒッ、やることは変わらなぁい」
歩く戦略兵器、剣先ツルギ
「……面倒くさいし、さっさと終わらせましょう」
ゲヘナ最強、空崎ヒナ
「……ハッ、なんや? 似たような立場の三年揃えて親睦会でもやるつもりか?」
「そうしたいのはやまやまなんだけどねー、そうもいかないんだ~。……ニコラス・D・ウルフウッド、全力を持ってお前を倒す」
暁のホルス 小鳥遊ホシノ
「……ずいぶんと大口叩くやないか、ガキどもが」
棒付きの飴を取り出して咥える。
「教えたるわ。今いるお前らの場所じゃワイには届かへんっちうことをな」
ニコラス・ザ・ダブルパニッシャー Style of Medjed
キヴォトスの最上位戦力達が相対していた。
その場にいる全員が予想していた。勝敗はあっという間につくだろうと。
凄まじい密度の戦闘が待ち受けているだろうと。
ぶっちゃけ戦闘描写苦手なんすよ。
なんで次回のハードル自分で上げちゃうかなぁ……
多分この戦闘でのウルフウッドのテンションは原作コミックス8巻で憲兵軍と戦ってた時と同じ感じかなと。
子供たちを守るために、守りたかった子供たちを祓わなければならない。
そんなのテンション上がるワケないですよね。
それはそれとしてきっちり倒しますけど。