ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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03_ultimate showdown

 男は心を落ち着かせるように静かに息を吐く。

 相対している生徒達は今まで倒してきた相手とは桁が違う。感傷を抱きながら戦えるような相手ではないからだ。

 その可愛らしい外見とは裏腹に、一人一人が所属団体の戦力の半分を単身で担うような怪物達。各学園を相手取っていると言っても過言ではない戦力達だ。故に、切り替えねば話にならない。

 

 怪物達も今までに感じたことのないプレッシャーを男から感じ取っていた。それは彼女達にとって未知の領域だった。

 自分達は『最後』の時を除いて常勝の存在だった。最強を求められていたし、その自負もあった。同格と言える相手とは数えるほどしか相対してこなかったし、決着もつかなかった。だから自分が誰かの下だと思ったことは無かった。

 その自負がこの男を前にして揺らぐ。

 その戦闘を観察して、実際に目の前に立って、皆は理解していた。

 ――この男は自分より強い。

 過去にシャーレの依頼で戦った理不尽で意味不明な相手達とは違い、純粋に格上の相手である。

 だからプライドは捨てねばならない。

 タイマンで勝つなどといった甘い願望は捨てねばならない。

 複数で挑むことを卑怯だなどと思ってはならない。

 きっと、それでやっとだ。()()()()()()()()

 この男はそんな相手なのだ。

 

 空気が張り詰める。

 

 ヒナのデストロイヤーとウルフウッドのパニッシャーが同時に火を噴いた。

 ――銃撃音。

 二人の姿が掻き消える。

 次の瞬間、さっきまで二人が立っていた場所が互いの砲撃によって粉々に吹き飛んだ。砕けたコンクリートが銃撃によって舞い上がり、その振動で周囲の瓦礫が跳ね飛ぶ。

 台風と台風が真正面から衝突したような災害的な破壊を撒き散らしながら、二人は一歩も止まることなく撃ち合った。

 生半可な者であれば近づくことすらできない破壊の嵐。しかしここにいる三人のストライカー、ホシノ、ツルギ、ネルは半端者ではない。弾丸の暴風を掻い潜りウルフウッドへと肉薄していく。

 

 ツルギが懐へ潜り込み、ショットガンを突き付ける。

 ほぼ零距離。撃てば終わる間合い。

 ——しかし、その引き金が引かれるより速く、スタンピード・パニッシャーの銃身が唸った。銃身同士が激突し、ショットガンが弾き上げられる。そして空いたツルギの胴へ、一切の躊躇なくパニッシャーの弾丸が叩き込まれた。

 

 ネルが地面を蹴る。右、左、上。常人なら視線すら追いつけない不規則軌道で駆け回りながら、二挺のサブマシンガンの弾丸をウルフウッドに向けて放つ。

 しかしパニッシャーが振り抜かれる。

 雨のような銃弾が、その巨大な十字架にまとめて叩き落とされた。

 ツルギに振られていたスタンピードパニッシャーの短辺部がネルへ向く。銃身は既に展開されている。

 拡散ビームによる面攻撃がネルに炸裂した。

 

 ホシノは盾を構えて無理やり突撃していた。弾丸を弾き、パニッシャーの打撃をなんとか受け流し、反撃しようとショットガンを構えた、その時だった。

 視界に映る筒状の物体。

「——ッ!?」

 いつ撃たれたのかすら分からないロケット弾が鼻先まで迫っていた。回避は間に合わない。

 直撃。

 爆炎がホシノを丸ごと飲み込んだ。

 

 ヒナはその爆炎によりウルフウッドを見失ってしまっていた。

 左右を見渡す。しかしなにも見当たらない。

 ふと自身の影が不自然に広がっていることに気づく。

(――上ッ⁉)

 だが気付いた時には遅かった。真上から二挺の機関砲が咆哮する。無数の砲弾が豪雨のように降り注ぎ、ヒナの姿を土煙の中へ沈めた。

 

 ウルフウッドはそのまま瓦礫の上に降り立ち、倒れている彼女達を見下ろした。まるでこの立ち位置がそのまま自分との力の差だと言わんばかりに。

 

 ここまで、わずか数秒。

 一呼吸程度の攻防で、四人全員が叩き伏せられていた。

 ウルフウッドは二丁のパニッシャーをまるでダブルファングのように操り、前後左右死角の一切ない殺戮戦闘術を、否、()()()()()で彼女達の一切合切を迎撃していたのだ。

 

 少女達は傷を負いながらも当然の様に立ち上がり、ウルフウッドを見上げる。

 

(やっぱ立ってくるか……当然やな)

 

 それが彼女達の厄介なところだった。

 

 キヴォトスの住人は硬い。それこそ滅多なことでもない限り命を落とすことはない。しかし大口径の弾丸を喰らったり、小口径の弾丸でも連続で喰らったりすれば気絶してしまうのが普通だ。

 しかし彼女達は違う。タフさが桁違いなのだ。

 

 ネルはこの中では比較的柔らかいとはいえ、それでもパニッシャーの直撃で意識を飛ばされないほどの固さを持っている。その上で根性なのかなんなのか、ダメージの許容値が異常なほど高くパフォーマンスも下がらない。

 

 ツルギも電車と衝突してピンピンしているほどの耐久力を誇り、その上でリジェネーターの如き自己回復能力を持っている。

 

 ヒナはとにかく硬い。アルのスナイパーライフルのヘッドショットが決まっても、まるで小石が当たった程度のダメージしか入らないほどの防御力を持っている。

 

 ホシノも輪をかけて硬い。他所で繰り広げられているビナーとの戦闘で、盾を用いてはいるものの、地面がガラス化するほどの光線を受けて「アチチ」で済ます女なのだ。

 

 全員がタフさだけならナインライブズすら軽く凌駕するデタラメーズ。まともにやりあうことなど馬鹿馬鹿しくなるほどの耐久値を有している。

 

(――使うか? ヘイロー貫通能力)

 

 その考えが頭を過るが、すぐに取り下げた。

 ヘイロー貫通能力を使うには相手への明確な殺意を籠めなければならない。

 

 きっと鈍る。

 

 情けないが分かってしまっていた。それをすれば自分は僅かに引き金が鈍るだろうと。その僅かがこの戦闘において致命的なのだ。故に使えない。

 

 

「どーだぁ、この景色。スゲーだろ! ……この景色が私は好きなんだ」

“ ……うん、凄くいい景色だ ”

「お前にもこないな感性あったんやな」

「テメーは一言多いんだよ、エセ牧師」

 

<ゲヒャ……あの、先生にディナーに誘われてしまって……一緒に来てくれませんか?>

<いや、なんでやねん。二人で行ってくればええやろ?>

<それが、緊張し過ぎてぇええええッ……わ、私が何かしでかしてしまったら……と、止められるのはウルフウッドさんだけなの、で……>

<あーもう、わかったわかった。引き受けたるから落ち着け>

 

「温泉開発部の鎮圧終わったでー。あ〜、かったる……」

“ し〜、ウルフウッド。今ヒナが寝たとこなんだ ”

「ん? そか……にしても相変わらずゲヘナらしくないやつやなぁ、抱え込みすぎやっちうねん」

“ ゲヘナはトラブルが絶えないからね……。でも今回のはウルフウッドが引き受けてくれたからヒナも安心してたよ、「彼だったら大丈夫ね」って ”

「ハッ、まだまだガキやな〜こいつも」

 

「ね、ねえ、ニコラス。今度休みがあるでしょ。私も丁度休みでさ、良かったらまた水族館に行かない? この前は誰かさんがサーモンに夢中でイルカショー見逃しちゃってたしさ」

「あれはワイのせいだけちゃうやろが。まぁでもええで。あのクジラもまた見てみたいしな」

 

 

 ――殺意を向けるには、彼女達と絆を結び過ぎてしまっていた。

 

 ホシノ以外とは学校こそ違うが、皆似たような立場の同級生なのだ。他の生徒以上にシンパシーを感じることも多々あった。

 だからと理由を付けて殺意を向けることを選択肢から除外する。

 

(ホンマ、やりにくくてたまらへんわ。ゲーム開発部の言葉借りるならクソゲーっちうやつやろな)

 

 ウルフウッドは呼吸を整え、再びパニッシャーを構えた。

 正直、先ほどの攻防はギリギリだった。

 彼は確かに彼女達を圧倒していた。だがそれは圧倒していなければいけなかった側面もあったからだ。

 ウルフウッド自身にデタラメーズほどの耐久性は無い。そして彼女達は攻撃力も桁違いだ。

 つまり彼女達の攻撃を一撃でもまともに喰らえばウルフウッドは大ダメージを受け、そこから崩れてしまう。故にクリーンヒットを喰らうことは一発も許されない。

 だから彼女達を圧倒するしかなかった。あの攻防で正解を選択し続けるしか道が無かった。しかもあちらはコンティニューありで、こっちは一回のミスでゲームオーバー。これをクソゲーと言わずしてなんというのか。

 

 しかし、それでもウルフウッドは折れない。

 彼を折るにはなにもかもが足りない。

 この程度は絶望とは程遠い。

 

(まあ、ギリギリなのはいつものことや)

 

 銃で撃てば人は死ぬ。

 そんな世界であの人間台風(ヴァッシュ・ザ・スタンピード)と一緒にいたのだ。

 ギリギリなのは当たり前。

 ムチャクチャなのは日常茶飯事。

 この程度の難易度は平常運転でしかない。

 

「来いやガキども。出血大サービスや。とことん付き合ったるでッ!」

 

 再び最強達が激突する。

 嵐のような攻防が再び繰り広げられた。

 弾丸が飛び交い、光線が走り、火花が咲き乱れる。

 それは時間にしては数分も満たない。にも関わらず、まるで怪獣が暴れたのかと見間違うほどの破壊痕が広がり続ける。それがこの戦闘の密度を物語っていた。

 

 ネルとツルギが自身が弾丸になっているかのような苛烈な攻めをしてくる。

 ヒナが射線の全てを粉砕する弾幕を容赦なく放ってくる。

 ホシノが巧みにウルフウッドの攻撃を防いで邪魔してくる。

 それら一切合切を迎撃する。何度も、何度も。

 

 しかもミスは許されない。その上、彼女達は戦闘の天才達だ。彼の動きを学び、適応し、立ち上がる度に彼の喉元へとにじり寄っていく。デッドラインが差し迫る。

 しかしウルフウッドの積み重ねてきた膨大な経験が、『ミカエルの眼』としての性質が、彼女達の致命的な一歩を許さなかった。むしろ段々と、一歩一歩、彼女達を敗北へと追い込んでいく。

 

 ――そして、遂に形勢が傾いた。

 

 ウルフウッドがミスを犯すよりも先にネルが倒れる。ネルが超近接戦を仕掛けて来たのをカウンター気味にパニッシャーで叩き潰したのが決め手だった。奇しくも廃墟で彼女と戦った時と似た決定打でネルは光の粒へと還ってゆく。

 ネルが墜ちたことにより拮抗が崩れる。次に墜ちたのはツルギだった。ネルに対応していたウルフウッドの攻撃がツルギに向き、回復能力を上回る攻撃を浴びせられ彼女も光の粒子となった。

 そしてヒナが墜ちる。彼女達の呼吸を学んだウルフウッドにはもはや攻撃が掠りもせず、持ち前の堅牢さを越えた攻撃を浴びせられ続け、遂にゲヘナの最強が倒れてしまう。

 残ったホシノとウルフウッドが相対していた。

 

「……お前が最後や。言うとくが勝ち目はあらへんぞ」

 

「うへぇ、そうみたいだねぇ……」

 

 ウルフウッドはホシノが何をしてきても対応できる姿勢を維持したまま、彼女に攻撃ではなく言葉を放つ。

 

「……シロコは、あいつは生きとるんか? なんや反転がどうたらこうたらしてそっちおる聞いとるけど、どないやねん?」

 

「……ニコラスとシロコちゃんってどんな関係なの?」

 

「質問を質問で返すな。……あいつとは兄妹みたいなもんや。ほら、こっちは答えたで。そっちもワイの質問に答えんかい」

 

「そうなんだ。……シロコちゃんは生きてるよ、()()()()()

 

「は? 二人?」

 

「私達はこことは違うキヴォトスから来たんだよ。平行世界って言うのかな? 私達のキヴォトスはあなたがいなかった世界だったんだ」

 

 平行世界という聞きなれない言葉に戸惑いつつもウルフウッドは内容を理解していた。なぜなら自分自身が世界を渡って来た人間だからだ。そして同時に、なぜ彼女達が自分のことを知らなかったのかを知る。

 

「――反転してるのはこっちのシロコちゃんなんだよね。そっちのシロコちゃんを預かってるのも事実だけど。……シロコちゃんだけはメモリーじゃなくて、生きてるんだ。……ねえ、ニコラス。違う世界のシロコちゃんでも、あなたは家族だって言ってくれる? 受け入れてくれる?」

 

「アホか。ワイはアビドス生やぞ。アビドスやったら何て答えるかなんてお前が一番わかっとるやろが」

 

「そっか」

 

 ホシノは安心したように微笑むと手に持っていたショットガンと盾を手放し、胸のハンドガンも捨て去った。武装を解除しウルフウッドへ近づく。

 

「……ニコラス、シャーレで『なにもしてくれなかった』とか言っちゃってごめんね」

 

「急になんやねん。そない思うとったならもうちょい手加減してくれてもよかったんやで?」

 

「私達メモリーは命令には逆らえないからさ。全力で戦えって言われたらそれを出しきるまでどうにもできないんだよ〜」

 

「なんやそれ。はぁ……もうええわ。それで、本題なんやねん?」

 

 ホシノは一度目を伏せてから、真剣な目付きでウルフウッドを見上げる。

 図々しいのは分かっている。それでも、目の前の男なら聞いてくれると思った。どうにかしてくれると確信が持てた。

 誰よりも強く、そして何より彼も『アビドス』なのだから。だから――

 

「――シロコちゃんを助けて」

 

 ホシノはスカートを握りしめながらウルフウッドへ懇願する。

 

「メモリーの私達じゃシロコちゃんを救えない。私達が何を言ってもシロコちゃんを傷付けちゃうだけなんだ。あの子はなにも悪くない。悪いのは私なのに。でも、メモリーの声じゃ届かない。……私達にずっと、ずっと謝り続けて……あんな痛々しいシロコちゃんをもう見たくないよ。……だからニコラス、お願い。シロコちゃんを、助けて」

 

 ウルフウッドは黙ったままパニッシャーを地面に突き刺すと、懐から棒付きアメを取り出した。それをホシノの口に突っ込む。

 

「言われんでもシロコのことはどないかしたる。せやからもうええよ、ホシノ」

 

「ありがと……うへへ、甘いなぁ」

 

 カロカロと飴を舐める音に、乾いた銃声音が続く。

 飴が落下する音がした。

 彼女が地面にこぼしていた涙の跡も、なにもなかったかの様に光と共に消えてしまう。

 ウルフウッドは十字架を取り出すと、パニッシャー(突き立てた墓標)に祈りを捧げていた。

 

(……こないな気持ちになるんやな)

 

 ノーマンズランドで巡回牧師をしていた時、子供の葬式を依頼されることも少なくなかった。

 キヴォトスで雷泥に斬られたヴァルキューレの生徒の葬式もしてやった。

 子供の葬式はいつまでたっても慣れない。いつだってやるせない気持ちになるし、もし自分の家族達だったらと思うと苦々しさが込み上げてくるからだ。

 ――いざ本当にそうなると、こんなにも胸が冷えるものなのか。

 主に祈る。それしか彼にはできなかった。

 

 

 

 

 ズシンッ‼

 

 しかし突如生じた大きな揺れがそれを邪魔する。墓標に見立てていたパニッシャーが地面へと倒れた。

 

<” ウルフウッド‼ 第六サンクトゥムの守護者がそっちに出現した! 気をつけて! ”>

 

 先生の通信を受けて、ウルフウッドは黙って振動の発生源へと顔を向ける。

 目に入ったのは薬物中毒者のようにラリった瞳に、長い舌をだらしなく出している巨大なトリ。ノノミやヒフミが好きなペロロとかいうやつ。

 ヒフミがいたら「あれはペロロジラですよぉ!」と訂正してきそうだがそんなことはどうでもいい。

 

「――馬鹿にしとんのか、ああ?」

 

 そのふざけた敵にウルフウッドは切れていた。それはもうブチギレしていた。

 コケにされているようにしか思えなかった。

 自分と、あいつらを。

 

「祈りの邪魔は高くつくでッ‼」

 

 倒れているスタンピード・パニッシャーを蹴り上げ、流れるようにレーザービームの銃身を出しながらそれを背負う。

 出力リミッターは解除済み。チャージも完了している。狙いは()()()()()()()

 

「往生せえやッ!!」

 

 ウルフウッドから放たれた光線によりペロロジラが十字に切り裂かれる。それは彼女達への墓標でもあった。

 

「……とりあえず今はそれで堪忍やで。後でちゃんとした墓つくったる」

 

 生徒達がいなくなった戦場で、彼は煙草に火をつけた。

 




大決戦ボス「テロ牧師」クリアならず!
難易度ルナティックだから仕方ないね。

ちゃっかり先生と一緒に三年生ズのメモロビ回収しているウルフウッド。
彼女らとは同じ三年生で学校最強の看板も背負っている立場なので、シャーレでの活動もあって色々交流が生じていたんですね。それが表現できていれば幸いです。

もうちょい彼女たちのとの戦闘を苦戦させようかとも思ってたんですが、エデン条約編でラズロ(ミメシス)VSホシノ、ミカ、サオリ、シロコ、ノノミ で生徒側が勝ったけど満身創痍だった描写を書いちゃったので、ラズロよりも強いニコラス・ザ・ダブルパニッシャーが似たような構図で苦戦するのは書けないな、となりこんな戦闘描写になりました。
カッコよく書けていればいいんですけど……
相変わらず戦闘描写は、というか文を書くって難しいなぁ~としみじみ思います。
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