ウルフウッドアーカイブ   作:タニシ・トニオ

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9/13誤字修正……ないと思ってたの無くならない(´;ω;`)
サイレントソウルさん、いつもありがとうございます。


02_砂狼シロコ

 私の目の前でシロコ()が眠っている。

 世界を終焉に導く『崇高』は、一つの世界に一つしか存在できない。私がこの世界で安定して活動するためには、同一存在であるこのシロコを世界に存在しない状態にしなければならなかった。だから実在と非実在が偏在する『アトラ・ハシースの箱船(ここ)』までプレナパテス(先生)にお願いして連れてきてもらっていた。

 

(あとはこの世界の終焉が確定するまで放置……)

 

 同一存在というのは厄介なものだ。このシロコを消した場合、私にどのような影響が生じるかわからない。世界のルールがどのような形で私に牙を向くか予測ができない。

 だから今は、放置するしかない。

 でも、この世界が終焉に至れば……世界のルールそのものも消える。

 そうすれば、何の憂いもなく、このシロコを消すことができる。

 ――赦すことができない自分自身を、自分の手で消すことができる。

 

(……そうだ、(砂狼シロコ)がいたから……ッ)

 

 ホシノ先輩が死んだ。ノノミが死んだ。セリカが死んだ。アヤネが死んだ。先生が色彩の嚮導者になってしまった。

 私がいたから全てが死んだ。

 私がいたから全てが壊れてしまった。

 私がいたから、私がいたから、私がいたから

 私がいたから……ッ!

 

「――シロコちゃん、駄目だよ」

 

 ホシノ先輩のメモリーが、いつの間にかシロコ()に銃を向けていた私の腕を抑えていた。

 それは、いつか頭を撫でてくれた、あの暖かな手。

 そしてその声色は、あの時と変わらない優しいものだった。

 

「撃っちゃ駄目。このシロコを撃ったら、きっとシロコちゃんは戻れなくなっちゃう」

 

「戻れないって、なに?」

 

 なんでシロコ()を庇うの?

 ホシノ先輩を殺したのは、シロコ()なんだよ?

 戻れないってなに? もうとっくに後戻りなんかできないのに。

 なのに、なんで――

 

「シロコちゃん」

 

 なんでシロコ()を庇うの?

 なんでシロコ()を諦めてくれないの?

 なんでホシノ先輩は、そんなに優しいの?

 

「……みんなは『これ』の監視をお願い」

 

 きっと、それはメモリーだからだ。

 私に都合のいい存在だからだ。そうでなければ、おかしい。

 おかしいんだ。

 

「シロコちゃん……」

「シロコ先輩!」

「シロコ先輩……」

 

 ノノミが、セリカが、アヤネが、私を心配そうに見つめている。

 なんでそんな目を私に向けるの?

 みんなが死んだの、私のせいなんだよ?

 なのに、なんで、なんで……

 優しいままでいてくれるの?

 ――私のせいだ。

 きっと私の願望が、みんなのメモリーを歪めている。

 私の浅ましさが、憎い。

 私はそれに耐えられなくて、逃げるようにその場から離れた。

 

「……いっちゃった」

 

 メモリーのホシノの声が無機質な空間へ虚しく溶けていく。

 

「やっぱりメモリー(私達)の声じゃ駄目なんでしょうか……?」

 

 ノノミも項垂れていた。

 

 プレナパテスに召喚され最初にシロコと会った時、彼女はただ泣いて『ごめんなさい』を繰り返していた。

 

 壊れてしまっていた。

 どうしようもなくシロコちゃんは壊れてしまっていた。

 そんな彼女を見て、悲しみと寂しさで震えている彼女の姿が痛々しくて。

 せめて私達だけでもと、みんなでシロコちゃんを抱き締めた。

 少しでも、ほんの少しでも、シロコちゃんを暖めてあげたかった。

 でも――

 私達は、所詮メモリーでしかない。

 私達の声は、残響音でしかない。

 死体に、温もりなんて無い。

 だから――シロコちゃんには届かない。

 

「――みんなはシロコちゃんの言う通りそのシロコのお世話をお願い」

 

 ホシノ先輩が何かを決意したような目で私達を見る。

 

「……ホシノ先輩はどうするんですか?」

 

「おじさんはね――」

 

 ホシノは賭けることに決めていた。

 これから襲いかかる絶望をはね除けられるなら、その強いアビドスに希望を託そうと。

 ユメ先輩も救ってくれたあの『変数』であればもしかしたら。

 だから――

 

「――知らない同級生に頼みに行くよ。シロコちゃんをお願いします、ってね」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 地面が揺れた。確かに二回、揺れていた。

 その揺れで眼を覚ます。

 目を開けると、メモリーのセリカとアヤネの姿が目に入った。

 いつの間にか、揺れは収まっている。

 

「……おはよう。今の揺れ、地震?」

 

「え、えと……」

「なんでもないですよ、シロコ先輩」

 

 セリカが言い淀み、アヤネが嘘をついている。きっと何かがあったんだ。

 もしかしたら――()()()()()()()()()()()()()

 

 ――クゥゥ

 

 私の思考を遮るように、情けない音が響いた。

 ……私のお腹だった。

 そう言えば最後に食事をしたのはいつだっけ?

 この場所は時間感覚が狂うから、どれくらい前なのか分からない。少なくとも十時間以上前に、バックに残っていたエナジードリンクとスニッカーズを口にしただけだったと思う。

 ……みんなにお願いしたらご飯くれたりしないかな。

 そう思ったところで、ノノミがこの場にいないことに気づいた。

 

「シロコちゃん、ご飯持ってきました〜♡」

 

 まるで私のお腹が鳴るタイミングを見計らっていたかのように、ノノミが総菜パンを詰め込んだビニール袋を手に駆け寄ってくる。

 そして、袋の中身を「召し上がれ」と言わんばかりに、私の前へ広げた。

 

「ん、ありがとうノノミ。――いただきます」

 

 思っていた以上に、私の身体は飢えていたらしい。

 目の前に並べられた総菜パンを、次々と口に運んでいく。

 ある程度パンで胃が満たされ、ようやく落ち着きを取り戻したところで――私は、みんなが私をじっと見ていることに気付いた。

 ノノミとアヤネは、微笑ましそうに。セリカは、ジト目で。

 ……食べているところを、一方的に見られるのはちょっと恥ずかしい。

 

「……みんなは食べないの?」

 

 取っておいたノノミの好きなメロンパンを差し出しながら尋ねる。

 ノノミは少し困ったような表情を浮かべて答えた。

 

「……私達は必要ないので。よかったらシロコちゃんが食べてください」

 

 セリカとアヤネにも目配りする。二人も要らないと首を横に振った。

 なんだかちょっと寂しい。

 ぽつんと、みんなの好物だったパンだけが目の前に残る。

 

「ていうか、こっちが用意しておいてなんだけど、よく口にできるわね」

 

 セリカが若干呆れ気味に言い放つ。

 

「ん、どういうこと?」

 

「私達敵なのよ? なにか仕込まれてるかも~とか思わないわけ?」

 

 セリカがおかしなことを言う。そんなことありえないのに。

 

「ん、もし私に何かするつもりなら寝てる時とかいくらでもタイミングはあった。それをしないってことは私に手を出せない理由があるってことでしょ。そもそもみんなが私にそんなことするわけがない。論破」

 

「う、うう~ん、そうかもだけど……」

 

「ごちそうさまでした」

 

 セリカが納得いかなそうにウンウン言っている間にごちそうさまを済ませる。

 そして残していたみんなの好物のパンをバックにしまった。

 そこでふ、と疑問が湧く。

 

「……そういえばこのパン、どうやって入手したの?」

 

 私が口にしたのはどこでも売っているコンビニのパンだった。でも監禁されているこの施設にコンビニなんてものがあるとは思えない。

 私が監禁されている場所は人の営みが想定されているとは思えない無機質な空間だった。

 ここ以外の場所の事は知らない。それでも、少なくともここを見る限り、この施設にそんな場所があるとは思えなかった。

 どこまでも冷たい、そんな印象を受けてしまう空間だった。

 

「あーえと……」

 

 私の質問に、ノノミは目を逸らしながら言い淀む。

 

「無人のコンビニから拝借させてもらいました……」

 

 つまり――窃盗してきた、ということなのだろう。

 私が口にしたのは盗品だったらしい。

 目の前にいるノノミはメモリーだ。だからいつものゴールドカードも使えないのだろう。それでも私に食事を用意するには、確かにこれしか手段がなかったのだと思う。

 でも――友達だからこそ、言う事は言わないといけない。

 

「ん、窃盗はダメ」

 

「シロコ先輩がそれ言う⁉」

 

 間髪入れずセリカから突っ込みが入る。まあ確かにそれはそう。

 

「確かに私も食べちゃったから共犯。でもそれは注意しない理由にはならないよ。友達だからこそ、言うべきことは言わないと」

 

「いやそうじゃなくて! 銀行強盗が趣味のシロコ先輩がそれ言う?って言っているの!」

 

 どうもセリカはひどい誤解をしているみたいだ。ニコ兄から口酸っぱく盗みはアカンって言われている。だから盗みはしないのに。

 

「誤解だよセリカ。私の趣味は計画までだから」

 

「計画もしちゃ駄目でしょ⁉」

 

「ん、それは心の自由。実行しなければ犯罪じゃない。それに脱獄計画を立てるのにも役立つ趣味だよ」

 

「犯罪が増えた⁉」

 

 どうもこのセリカは私への誤解が多い気がする。ちゃんと訂正しなくては。

 

「違うよ、それも誤解。脱獄は無罪だから」

 

「どうなったらそうなるのよ⁉」

 

「ニコ兄が無実の罪で捕まってたから。無実の人を出すのは間違ってない」

 

「あの、シロコ先輩。例えそうだとしても脱獄は犯罪なのですが……」

 

「大丈夫だよ、アヤネ。結局ニコ兄は仮釈放で出てきたから。……折角調べた監視員の配置メモとか無駄になっちゃったけど」

 

 そう。せっかくニコ兄との面会ついでにヴァルキューレ矯正局の内部間取りや監視員の配置とかを調べて脱出可能なルートを書いたメモを差し入れに忍ばせたのに、それが無駄になってしまったのだ。まあそれはいいのだけれど、なぜかニコ兄にはそのことで怒られた。未だにそれは納得できてない。

 

「ええ〜……」

「仮釈放されなかったらどうする気だったのよ……?」

 

 なぜか呆れた視線を向ける後輩二人。

 ん、これも納得いかない。どうもまだ誤解が解けてないみたいだ。先輩としてアビドスの流儀を教えてあげないと。

 

 シロコのアウトロー気味な持論が展開され、それに後輩二人は驚いたり辟易したりしていた。

 その光景をノノミは目を細めて見ていた。

 ――それはいつか失ってしまった、当たり前の日常だった。

 もっとシロコの話を聞きたい。

 そう思ってしまった。

 

「――ねえ、シロコちゃん。よかったらそちらのアビドスがどうだったのか教えてくれませんか? 特に、ニコ先輩……あの人はこちらにいなかったので……」

 

 シロコは耳をピンと立てる。それに反応するように、顔を上げた。

 

「ん、いいよ。教えてあげる」

 

 自慢の兄について語れる機会を逃すまいと、シロコは語り出す。その眼は生き生きとしていた。

 メモリーのノノミ、セリカ、アヤネは微笑みながらそれに耳を傾ける。

 こんなに生き生きとしたシロコを最後に見たのはいつだっただろう。

 目を閉じれば、いつもみんなで駄弁っていた、あの部室に戻ってきたような気がした。

 

 いつもの部室で、

 お菓子を広げて、

 楽しかったことを共有する、

 そんないつもの日常にいるように、

 ――シロコは語り始めた。

 

 記憶を無くして空っぽだった私に、ニコ兄がラーメンを奢ってくれたこと。

 それが美味しくて暖かかったこと。

 そのままアビドスへ招いてくれたこと。

 ホシノがマフラーをくれたこと。

 それもすごく暖かかったこと。

 当時の私は色々生意気だったのに、それでもユメ先輩はずっと笑顔で私と遊んでくれたこと。

 初めての『ピクニック』でノノミとお揃いのハンドガンをニコ兄が買ってくれたこと。

 ニコ兄が先生を連れてきてくれたこと。

 二人の活躍でアビドスは窮地を脱して、借金も三億まで減ったこと。

 ニコ兄が自分と同じ何も無かったアリウスの生徒達をアビドスに招いたこと。

 それで、友達が沢山増えたこと。

 みんなでアビドス砂祭りを復活させようと、色々な企画を考えていること。

 

 ――それらは陽だまりのような、暖かい日々の思い出だった。

 

 シロコが話してくれた日常。

 奇跡で成り立っていた、あの日常。

 違いは色々あれど、私達もそうだった。

 陽だまりにいるような、暖かな日々があった。

 借金返済で大変なことも色々あった。

 それでも――

 そこには確かに、青春と呼べる日々があった。

 いつからだろう。それが変わってしまったのは。

 いつからだろう。奇跡が終わってしまったのは。

 

 違和感にシロコが気付く。

 最初は一緒に笑っていてくれたみんなの顔に、いつの間にか、どこか影が差していた。

 

「……本当に、私達とは違うんですね」

 

 ノノミがぽつりと呟いた。

 その一言に込められた感情を、私は感じ取ってしまった。

 嫉妬、諦め、そして、それ以外の色々な何か。

 赤とか、青とか、緑に黄にピンク、それぞれはとても綺麗な色だったのに、

 混ぜこぜになって、かえって濁って、どの色でもなくなってしまった、灰色の感情。

 

 そこで私は、自分の迂闊さに気付く。

 ノノミも、セリカも、アヤネも、今ここにいないホシノ先輩も、みんなメモリーだと聞いていた。

 『終わってしまった存在』だと知っていたのに。

 みんながあまりにもみんなのままだったら。

 そのことを忘れて、私は語ってしまっていた。

 

「えと……」

 

 謝るべき、なのかな?

 でも、それはそれで違うとも思った。

 それではみんなを憐れんでいるみたいで、なんだか、それが嫌だった。

 

「ああ、気にしないでください。そもそも私から聞いたことですから」

 

 ノノミがいつもの笑顔を取り繕って答える。

 でもその笑みは空っぽだ。

 ――それを見て、私は決意した。

 ずっと躊躇していた。なにかのタブーに触れてしまいそうで怖かった。

 でも、恐らくタイムリミットも近い。

 なにより、みんなの話を聞けるのは私しかいない。

 だから私は聞くべきだ。聞かなくちゃいけない。

 ――終わってしまった、もう一つのアビドスの話を。

 

「――そっちは、何があったの?」

 

「それは……」

 

 ノノミがその一言だけ口にして黙り込む。

 セリカも、アヤネも、目を伏せていた。

 重苦しい沈黙が続く。

 でも聞いたことを後悔はしない。後悔しない為にちゃんと聞かなくちゃいけない。

 

「私は話したよ。だから、話して。私もあなた達のことを知りたい」

 

 話したくない内容なのだろうとは理解している。

 それでも、ちゃんとみんなと向き合いたいから。

 だから――話して。

 私は、ノノミの目を見つめる。

 

「そう……ですね。お話します。いえ、聞いてもらえませんか。私達の、話を」

 

 ノノミが根負けしてくれたのか私に向き合ってくれた。

 そして話が始まる。

 それは――捻れて歪んだ、終着点の物語。

 

「――きっかけは、先生が原因不明の爆発に巻き込まれて……意識不明の重体になってしまったことでした。きっと、あそこから全ての歯車が狂ってしまったんだと思います」

 

 ある時、シャーレのオフィスが爆破され、先生が倒れてしまった。

 私達は大人の味方を失った。

 その原因を巡って、キヴォトス中の学校間に不和が広がった。

 

「そんな中で、アビドスにある物が眠っていることが判明しました。非対称戦力兵器『シェマタ』。一方的に他の学校を砲撃することも可能な兵器の存在が露見し、それを巡って争いが生じました」

 

 それを手にしようと躍起になる企業達。

 ゲヘナを初めとした他学園の介入。

 事態は混沌を極め、弱小校のアビドスはただ翻弄されるだけだった。

 

「……それでも私達は必死に事態を収めようとしてたんです。ですが……」

 

 アビドスを邪魔に思った勢力による警告か、セリカが誘拐されてしまった。そしてセリカは見つかることなく砂漠で果てた。

 『シェマタ』を狙うネフティスに呼び出され、ノノミは実家に戻された。ネフティスを止めるため反抗し、最終的に()()なってしまった。

 ホシノが限界を迎え暴走した。反転(テラー)になりかけたホシノを、シロコとアヤネで撃った。

 その戦闘でアヤネは瀕死の重症を負ってしまった。そして、自分自身が負担にしかならないことを苦に、自ら生命維持装置を切った。

 そうして、シロコだけが残された。

 

「……シロコちゃんは全て自分の本質のせいだと考えて………『アヌビス』になりました。そうして私達のキヴォトスは終焉を迎えたんです」

 

 そしてシロコ・テラーは本質に従い、先生を『色彩の嚮導者』にした。

 そうして――今に至るのだと。

 

「……シロコちゃんのせいじゃないんです」

 

 ノノミが、涙と共に言葉を零す。

 

「きっと色々な不幸が積み重なってしまっただけなんです。決して、シロコちゃんのせいなんかじゃないんです。……だから、『それ』がシロコちゃんの本質だなんて、私達は認めません!」

 

 叫ぶようにノノミは否定する。

 けれど――次の言葉には、力が入っていなかった。

 

「……でも、メモリー(私達)の声じゃ届かないんです」

 

 所詮は残滓だ。

 所詮は残響音だ。

 だから――

 

「――違う!」

 

 シロコが吠えた。

 

「確かにノノミ達はメモリーだけど、その想いは本物だよ。それを蔑ろにするなんてこと,私は許さない」

 

 怒りと悲しみを携えた目でノノミ達を見つめる。

 

「……違う世界でも、やっぱりみんなはみんなのままだった。こんなにも私を想ってくれている。だから……だからこそ、それを無視するなんて許せない!」

 

 大切なみんなを失ってしまった私の気持ちを想像することはできない。

 想像なんてできっこない。

 心にぽっかり穴が空いて、きっと壊れてしまう。

 だから、あっちの私は壊れてしまったんだ。

 死を望む気持ちもちょっとだけ理解できる。

 ――でも、それは、大切な仲間を悲しませていい理由にはならない。

 ――それは、先生達が教えてくれた大切なことを忘れていい理由にはならない。

 だから――

 

 ピルルルル

 

 私の携帯が着信音を響かせる。

 タイムリミットが来た。きっとニコ兄達が近くまで来ているんだ。

 私はハンズフリーの設定にして、通話をタップする。

 

<無事か、シロコ!>

<” 大丈夫、シロコ⁉ ”>

 

 いの一番に聞こえてきたのはニコ兄と先生の声だった。

 やっぱりあの時の揺れはニコ兄達が来てくれた合図だったんだ。

 

「ん、私は大丈夫。ノノミ達がご飯くれたから元気も一杯だよ」

 

<え、私達がですか?>

<何言ってるのシロコ先輩⁉>

 

 みんなもやっぱり来てくれている。

 でも、こっちのノノミ達のことをなんて説明すればいいのかな。

 

「えっと、こっちにプレナパテスっていうのが持ってるカードの力で、えと……」

 

<ええってシロコ。事情はわかっとる。横にメモリーの生徒がおるんやろ? いるのはノノミとアヤネとセリカだけか?>

 

「う、うん……そうだけど」

 

 どうも私が監禁されている間にあっちも色々あったみたい。セリカも自分達は敵だって言ってたし、メモリーのホシノ先輩もいないし、きっと……

 

<” シロコ、メモリーの子達と敵対してる訳じゃないんだね? ”>

 

 先生が確かめる様に聞いてくる。

 

「うん。なにもされてない。むしろすごく大事に扱ってくれてる」

 

<” よかった。なら少なくともその場所は安全だね ”>

 

 通信機越しにみんなの安堵する声が聞こえてくる。随分と心配させちゃってたみたいだ。

 

<” シロコ、今私とウルフウッドがシロコのいるエリアの近くにいるんだ。迎えに行くからそこで待っててね ”>

 

 先生から指示が出る。きっとそれに従うのが安全だし正解だ。

 ……でも、私にはやると決めてることがある。

 

「……ごめん、先生。その指示は聞けない」

 

<” えっ⁉ ”>

<ちょっとシロコちゃん、なにいってるの⁉>

<そうですよ、ホシノ先輩の言うとおりです!>

 

 みんなの困惑する声が聞こえてくる。でも、決めたんだ。

 

「――これから、あっちのバカシロコをぶちのめしに行く。だから待っていられない」

 

<” え、ええッ⁉ ”>

 

「シロコちゃん⁉」

 

 あっちもからもこっちもからも、さらに困惑した声が聞こえてくる。

 でも、これは譲れない。

 

<――おう、シロコ。理由を言え>

 

 ニコ兄から問いただされる。その声はいつもより若干低い。ニコ兄がこの声のトーンになっている時は真剣になっている時だ。ふざけた返答は許されない、ガチなやつ。

 いつの間にかみんなも雰囲気に飲まれて黙っていた。

 ――ニコ兄は私の覚悟を聞いている。

 だから、私は決意を話す。

 

「……あっちのバカシロコはノノミ達を泣かせた。ノノミ達の声を無視していじけてる。だから、ぶちのめす。ぶちのめして、言うことを聞かせる」

 

<なんて言うつもりや?>

 

「……耳を塞ぐな、ノノミ達の声をちゃんと聞けって命令する」

 

<……>

 

 ニコ兄が黙った。短い静寂が訪れる。

 

<……あのシロコとはワイらも少し前にやりあってな。ワイの敵やなかったが、ハッキリ言ってお前よりは強い。どないする?>

 

 ニコ兄のこういった分析は正確だ。きっとあっちのシロコが私より強いというのは本当だろう。でも、

 

「……勝つよ」

 

<だからどないしてや?>

 

「私じゃ勝てないなら、こっちのみんなに協力してもらう」

 

「はいぃ⁉」

「えぇっ⁉」

「なに言ってるのよシロコ先輩⁉」

 

 横から驚きの声が上がる。

 

「なにかおかしい?」

 

「全部おかしいわよ⁉ 私達は敵だって言ったわよね⁉」

 

「セリカ、これは敵とか味方とかそういうのは関係ないよ。そっちのバカシロコの目を覚まさせる為の喧嘩だから」

 

「いや、でも、ええ〜……?」

 

 セリカが頭を傾け混乱している。そんな難しく考える必要ないのに。

 横からアヤネが言ってくる。

 

「あの、シロコ先輩。そもそも私達はメモリーで、その命令権はこちらのシロコ先輩が握っているのですが……」

 

 ん、そうなんだ。それは困った。じゃあやっぱりニコ兄達を待つしかないのかな……。

 でも、それは嫌だった。バカシロコは私がぶちのめすべきだから。

 大切なことを意固地に守る方が強いのだと、それを私自身が証明しなくちゃいけないことだと思うから。

 

「――いえ、できるかもしれません」

 

 メモリーのノノミが声を上げる。

 

「私達の命令権は確かにシロコちゃんが持っています。でも、ここにいるシロコちゃんもシロコちゃんなんです」

 

「……あっ!」

「……どういうこと?」

 

 アヤネは何か気付いたみたい。でも私はセリカと同じく頭から疑問符が離れない。ノノミが説明を続ける。

 

「つまりこちらのシロコちゃんと同一存在であるここのシロコちゃんにも、メモリーの命令権があるかもしれません。試しに何か私達に命令してみてくれませんか?」

 

「えっ?」

 

 急に言われても困る。ちゃんと効果がわかる命令ってことだよね?

 

「……じゃあセリカ、三回回ってから『ニャア』って言いつつ可愛いアイドルのポーズして」

 

 すると――

 メモリーのセリカはその場でクルクル三回回転し、そしてあざと可愛いポーズを取った。

 ……カワイイ

 

「ニャア♪……って、なにさせるのよシロコ先輩!!」

<そっちの私に変なことさせないでよ! シロコ先輩!!>

 

 セリカにステレオで怒られてしまった。

 でも、どうやらノノミの仮説は正解だったらしい。普通にお願いしたところでセリカはこんなこと絶対にしてくれない。

 

「ありがとうございます、シロコちゃん。あとセリカちゃんも、可愛かったですよ♡」

 

「……ッ‼ やめてよもぉぉぉぉ‼」

 

 顔を真っ赤にするセリカを無視してノノミは答える。

 

「そしてこれで分かりました。シロコちゃんが私達に『一緒に戦って』と言ってくれれば、私達も戦えます!」

 

 ノノミが笑顔で答えてくれた。

 でも、私が言っておいてなんだけど、本当にいいのかな……?

 そんな私の想いを察したように、ノノミが言葉を続けた。

 

「大丈夫ですよ、シロコちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その笑顔には迷いは見られなかった。

 

「シロコちゃんのお陰で思い出せたんです。こっちのシロコちゃんに声を届ける方法を。……アビドスに来たばかりの時、シロコちゃんよく言ってましたよね」

 

「「私は自分より弱い人の言うことは聞かない。私と勝負して勝ったら、なんでも言うこと聞く」」

 

 ノノミと声を重ねる。

 昔はそれでホシノ先輩にコテンパンにされるまでがセットだった。それはこっちもあっちも変わらないみたい。

 

<――話は纏まったみたいやな>

 

 ニコ兄が言う。その声には若干笑いが含まれていた。

 

<確かにあのシロコの目を覚まさせてやるには、それが一番ええかもしれん>

 

 私達の覚悟をニコ兄が認めてくれていた。

 

<……そっちのホシノからお前らのシロコのことを頼まれとる。ワイらもアドビスや、後のことは任せとけ。せやからお前らにはこっちのバカシロコを頼むで>

 

「ん、バカなのはあっちのシロコ!」

 

<お前もやこのボケ!! すーぐ無茶しよってからにホンマ>

 

<ニコ先輩の言う通りですよ。――だから、シロコちゃんのことお願いしますね、そちらの私♪>

「はい、任せてください♪」

 

<私達もすぐそっちに行くようにするから、それまで負けるんじゃないわよ、私!>

「誰に言ってんのよ私!」

 

<あはは……なんだか混乱しちゃいますね>

「そっちの私も苦労は変わりませんね」

 

「じゃあニコ兄、先生、みんな、先に行ってるね」

 

<” わかったけど最後に忠告だけしておくよ。プレナパテスが出てきたら戦わないで撤退すること。約束だよ。私達も急いでそっちに向かうから ”>

 

「ん、わかった。プレナパテスとは戦わない」

 

 先生と約束をして通信を切る。

 武装のチェックをして、バッグを背負う。

 そしてメモリーのみんなを改めて見つめた。

 

「目標はそっちのシロコ。そのバカシロコに私達で勝って、言うことを聞かせる。言いたいことはみんな決まった?」

 

「はい、私は決まってますよ♪」

「いっぱいあって困っちゃうぐらいよ!」

「ホシノ先輩の分も伝えないとですね」

 

 みんなの士気は上々だ。ん、頼もしい。

 

「じゃあ行こう! ノノミ、案内お願い」

 

「任せてください!」

 

 そして私達は駆け出した。

 目標のバカシロコがいるらしいこの施設の中枢――

 『ナラム・シンの玉座』へと。

 




すみませんがアトラ・ハシース突入までの話はほぼ原作と変わらないのでカットしました。
リオが家出してないのが原作との違いになっていますが、どっちにしても同じ提案をしてアリスの力で突破は変わらないので。
あとシロコ・テラー側のアビドスの話は作者が原作描写より「こんなことあったのかな~」と想像した捏造過去ですのであしからず。この小説はそんなことがあった世界線なんだなぁ程度に思ってもらえれば幸いです。

ちなみにこちらのシロコがやたらとメンタル強者なのは、ずっとニコ兄の背中を見て来たからです。しかも近々のイベントで自分たちよりボロボロにも関わらずユスティナ聖徒会から自分たちを守ってくれた大人の背中に脳みそ焼かれているので、精神性が内藤先生作品に寄っているシロコなのです。
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タイトルの通りです。▼思いついてしまったので、ここで供養します。▼続きは私より詳しい方にお任せしたいと思います。▼〜あらすじ〜▼その少女は、影時間を駆け抜けた。▼先輩たちの背を見て、仲間達と日常を憩い、機械の少女と人を語らい………そして、ある少年と、絆を紡いだ。▼しかし。彼の旅の終わりを見届けた少女は……悲しみを共有することも、仲間たちの心の中を知ることも許…


総合評価:2271/評価:8.05/短編:19話/更新日時:2026年09月12日(土) 00:52 小説情報

装甲騎兵ボトムズ -蒼の記録-(作者:ジミーボーイ)(原作:ブルーアーカイブ)

一人の男が、砂の海に降り立つ。 そこは、神に見捨てられた地か、安息の地か。▼友情は遠く、敗北は重い。 反逆は虚しく、別離は苦い。 全てを混ぜ合わせた泥のような感情を引きずり、男は歩く。▼これは一人の『最低野郎』とスコープドッグが、先生と生徒達と織りなす物語。▼


総合評価:2062/評価:8.97/連載:42話/更新日時:2026年08月15日(土) 20:00 小説情報

転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする(作者:popoponpon)(原作:ブルーアーカイブ)

いろんな娯楽はあるけど前世の娯楽もこの世界で楽しみたい!ということでTS転生したけど諦めずに自分の好きなものを作っては皆で遊んだり、本編に絡んだりしてくる女の子、夢見モルフォのお話。


総合評価:14737/評価:8.8/連載:272話/更新日時:2026年09月13日(日) 12:00 小説情報


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