異世界探偵は推理をしない(仮) 作:赤レンガ
朝日の光が窓から入り込み、あまりの眩しさに男は目を覚ます。
異世界探偵――カイの一日の始まりである。
「おはようございます」
ベットの脇から声がし、顔を向けると見知った顔があった。
「おはようレイ」
金髪メイド、レイである。
いつから控えていたのか、等と考えていた時期がカイにもあったが、長い付き合いにもなるとあまり気にしなくなる。
いつも通りの朝。身支度をし、レイの用意した朝食を済ませるといつものデスクに向かう。
レイに用意してもらったブラックコーヒーを飲みながら黒革の手帳を読むのがいつもの日課だ。
(苦い……)
カイは甘党である。その為、砂糖やミルクが入ったコーヒーでないと飲めない。しかし、渋い探偵はブラックコーヒーを好んで飲むという勝手なイメージから、レイに一度ブラックコーヒーを頼んで以降、ずっと同じものを入れてくれている。
ついでに言うと、カッコイイからという理由で我慢して飲んでいるのだ。
(でもやっぱり慣れないな……)
などと心の中で
しかしそこには何も書いてはいない。
幾つかめくると、やっと記述のあるページを見つける。
『今日の依頼主は迷宮図書館の司書、レテリア』
『彼女はあまりコーヒーが得意ではないようで、ミルクと砂糖が必須』
そう。この手帳には未来に起こる出来事が書かれているのだ。
「レイ、もうすぐ客人がくる。ミルクと砂糖も用意して欲しい」
そういうと、レイは直ぐに準備に取り掛かった。
(今日も手帳で依頼解決しないとなー)
カイは異世界探偵などと銘打っておきながら、推理はからっきしであった。
しかし、なんだかんだこの手帳を使って色々な事件を解決してきたのだ。
すると、下の玄関の方から扉の軋む音がした。客人のようだ。
カイは慌てて準備をする。
探偵足るもの、かっこよくミステリアスな雰囲気を出さなければならない。カイのこだわりである。
(最初は後ろを向いておいて、依頼主が来たタイミングで振り向く)
自身の脳内で何度もイメージ、練習したカッコイイ探偵像を思い出す。
「ようこそ、『異世界探偵事務所』へ」
(ふっ……。決まった)
目の前の依頼人――レテリアの困惑する表情に、思惑通りの演出が出来たのだと満足するカイ。もちろん、顔には出さず心の中でだ。
まずはレテリアをデスク前の席に促す。
いつもの流れ。これでも探偵として多少は名が知れてると自負するカイだが――そもそも、探偵を名乗っている者は彼のみである――これまで幾つも依頼を受け持ってきたのだから、依頼を受けるまでの流れはカイの中で出来ていた。
二人が席に着くと、タイミングよく現れたレイがコーヒーを二人の目の前に運ぶ。
やはりレテリアは、先にミルクと砂糖が用意されている事に少し驚いたようだ。
「さて、今回の依頼についてお話頂けるかな?」
いつもの流れで依頼主から依頼内容を聞く。
(と言ってもいつも話長いんだよね)
語り始めた
(新しいページ、出てきたかな?)
この黒い手帳には未来の出来事か記される。
しかし、それはどのページのどこに記させるか分からない。いつの間にか書かれて、いつの間にか消えている。そんな感じだ。
(お、あった)
幾つかページを捲っていると、新たな記載がされたページを見つけた。それと同時に、レテリアの話も終わっていたようだ。
「あの……。お話は聞いておられたでしょうか?」
「あぁ、聞いてる聞いてる」
もちろん、全く聞いていなかった。
あまりのタイミングの悪さに、カイはてきとうな返事をしてしまう。
カイがなにか返事をしようと、咄嗟に手帳に書かれていたことを思い出す。
一瞬のことであまり詳しく見ていなかったが「猫を見つけた」という一文があった事を思い出す。
「つまり、猫探しの依頼ってことだよね?」
「え……」
レテリアが困惑した表情を浮かべ、カイは察した。
(絶対違うやーん)
レテリアは「この人何を言ってるんだ」とでも言いたげな表情を浮かべる。これでは、最初に彼女に与えたミステリアスな探偵というイメージが崩れてしまう。
(それだけは避けねば……!)
カイは何とかこの状況を打開しようと思考を巡らせる。
「えっと猫って――」
「よし」
わざと言葉を被せるように声を張り、立ち上がるカイ。
(ここは強引に行くしかない……!)
「早速現場に行こう」
レテリアに何も言わせる間もなく、準備を始めるカイ。そして、いつの間にか扉の前で準備を終えたレイが待機していた。
(どうにかなるだろう)
強引に話を進めたカイに、流される形で現場へ向かうこととなった。