異世界探偵は推理をしない(仮) 作:赤レンガ
1 探偵は知っている①
『探偵』
それは、隠された真実を探る者をいう。
人に依頼を受け、時には探し物や調査も行う。
この王都でも、ココ最近『探偵』についての噂が囁かれている。
それは異世界でも変わらない。
この世界に構える唯一の探偵事務所、そして唯一の探偵である青年の元に今日も依頼が舞い込む。
とある日の日中に今日も賑わう繁華街。人混みの中を掻き分けて進む女性の人影がひとつあった。
「やっば〜い! 遅刻だ!」
彼女はレテリア。赤髪、巻き上げロングヘアが特徴の物語の重要人物である。
彼女はとある依頼を受けており、今日は依頼についての情報提供者と話す事となっていた。しかし、現在の時刻は予定のギリギリ。
急いで準備を済ませたレテリアは全速力で情報提供者のもとに向かっていた。
「くぅ……。初めての依頼だから張り切りすぎて、全然寝れないなんて〜!!」
レテリアは繁華街を抜け、右へ左へと迷わず進んでいく。
「事前に住所覚えておいて良かった。これなら何とか間に合うはず……」
急いだせいか、息を切らしながらも何とかもくてきあへと到着する。
玄関先で一呼吸置いて、息を整えるとドアノックを鳴らす。すると、扉の先から顔色が悪い女性が出てきた。
「はい……」
「わ、わたし異世界探偵事務所の者です!」
「あなたが例の……」
「はい、依頼内容についてお伺いしに参りました!」
「……」
顔色の悪い女性は、少し考えると辺りを警戒するように見回した後にレテリアを招き入れた。
「どうぞ……」
レテリアは中に入ると、少し違和感を覚えた。
中は片付いている。内装もごく一般的なものであり、一見して普通に見える。しかし――。
(暗い……)
あからさまに暗い。日中であるのに締め切った窓に、屋内の灯りも殆ど消してある。
「どうぞお座り下さい……」
レテリアは促されるままに、対面して席に座った。
「では、早速ですが当時の状況についてお聞かせ願えますか?」
「はい……」
暗い表情のまま、女性は語り始めた。
それは、いつもの日常の中で突然起こったという。
女性には夫が居た。どこにでもいるような一般的な夫婦。夫の稼ぎは悪くなく、二人とも幸せに暮らしていた。
「ねぇ、あなた」
「おう! どうした!」
「そろそろ子供、欲しくない?」
互いに付き添って数年。二人での生活にも慣れ、そろそろ新しい家族を迎えたい。そう二人が考え始めた時期でもあった。
「おう! 子供か!」
二人で色々と話し、こんな風になりたいだとかそんな将来像を語っていた至って普通の家庭。
そんな日常が突然崩れたのだという。
何ら変わりなく、いつも通りに旦那帰りを待っていた。しかし、その日は夫の帰りが遅かったという。
「遅い……」
帰りが遅い日は何度かあった。しかし、その日は異様に遅かった。
どれくらい経ったかも分からない。夫が夜道で何かあったのかもしれない。仕事で何かあったのかもしれない。なかったのかもしれない。そんな応えの出ない考え事をしていると、扉を叩く音が聞こえた。
「……!!」
女性は旦那が帰ってきたのだと思い思い切り扉を開ける。
すると、見知った顔の男が倒れ込んできた。
「あなた……!」
倒れ込んだ夫の表情優れない。今にもこと切れしまいそうな程に弱々しく感じた。
「ア、アァ…」
声にならない程
「なによ、これ…」
女性は咄嗟の出来事に理解が追いつかなかった。
モヤは下半身から徐々に夫の体を覆おうとしていた。
「ア、アァ……」
夫は涙を流しながら何かを伝えようとしてた様子だったが、それが女性に伝わる訳もなく。とうとう夫の体がモヤで包まれてしまった。
そこからは一瞬だった。
モヤがあったと思われた場所には人の体を形どったような灰があり、勢い良く崩れ落ちた。
そこに残ったのは灰と服だけだったという。
「これで以上です……」
女性はもうこれ以上は話したくないといった表情であった。
幸せだった夫婦に訪れた、突然の出来事。ましてや、夫が苦しむ姿や消える姿を目の前で見せられたとあれば、この家や女性の状況も納得であった。
女性の話を聞き、レテリアは情報を整理する為に一度事務所に戻ることにした。
一度住宅街を抜けると、大通りから路地に入る。
路地を抜けると、かるく陽の光が差し込む空き地に出た。
中央にはこぢんまりとした建物が建っており、その場の雰囲気も相まってまるで隠れ家を思わせる見た目をしていた。
此処こそ、異世界探偵事務所である。
「ただいま戻りました〜」
建物に入ると、真っ直ぐ階段を上り奥の部屋を目指す。
この先に目的の人物がいる。
この世界で唯一の探偵――名前をカイという――が。
「やぁ、待っていたよ。寝坊助な助手くん」