異世界探偵は推理をしない(仮)   作:赤レンガ

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登場人物
【レテリア】
・物語のスタートから登場。とある事情で異世界探偵事務所の助手をしており、一度見たものは忘れない記憶力が長所。


2 探偵は知っている②

 

 扉を開けたレテリアの目の前にいる男、彼こそこの『異世界探偵事務所』の探偵カイである。

 

 レテリアは訳あって彼の事務所で探偵の助手として勤めている。

 するといつ間に立っていたのか、レテリアの背後からメイド服姿の女性が現れる。腰まで下げた金髪が特徴的で、同性すら息を飲む程の美貌だ。彼女を簡単に説明すると、この事務所のメイドである。

 

「レテリアさん、おひとりでの調査ご苦労様です……」

「ほんとですよ! 急にひとりで行ってこいだなんて、先生は無茶言いますよ」

「あはは、ごめんごめん。お詫びと言ってはなんだけど、助手くん。寝坊して朝食抜いてきたんでしょ?」

 

 どうして彼はレテリアが寝坊したこと、朝食を食べておらずお腹がぺこぺこな事も知っているのか。

 

「さ、座ってよ」

 

 レテリアが席に座るとメイドが目の前にホットケーキを用意する。

 

「ホットケーキとコーヒーです。勿論、ミルクと砂糖もご一緒にどうぞ」

 

 ホットケーキ特有の香しい匂いがレテリアの食欲を刺激し、腹の虫を鳴かせる。

 

「うぅ……」

「あはは、いい音を鳴らすね。調査の件は食べた後にでも話そう」

 

 探偵――カイはコーヒーを手に取る。

 その仕草と特徴的な容姿がまるで物語の中の探偵を思わせる。特徴的な深紅の瞳が何もかも見透かしているようにさえとれる。

 

「うーん、美味しー!」

 

 

 食事を終えた二人は、一連の依頼の内容についても含め話す事にした。

 

 今、王都で一番注目の話題「人体消失事件」。

 

 人が突然黒いモヤに覆われ、程なくして灰となって消える。レテリアが情報提供者の女性から聞いた話は王都中で起こっていた。

 と言っても、そのような噂が出回っていると言うだけで、実際に見たという人は殆ど居ない。

 噂では、幻の魔物の仕業だとか、幽霊の呪いだとまことしやかに囁かれている。

 

 そんな時、この探偵事務所にとある依頼が舞い込んだ。冒険者組合からの直接の依頼、それがこの事件の原因解明であった。

 数少ない事件の目撃者である女性の情報を掴み、今日訪問を行ったのである。

 

「ですが、得られた情報は噂は誠であったという事だけですね」

「まぁ、そうだろうね」

 

 やはり彼は知っていたような返答をする。

 

「もしかして、わかっていたのですか?」

 

 レテリアの質問にカイは無言の笑顔で返す。

 その反応だけで、返答としては十分であった。

 

「さて、そろそろかな……」

 

 突然、カイは黒い手帳を取り出し何かを考えるような素振りを見せた。

 

「誰か、来たようですね……」

 

 扉の前に立っていたメイドが突然呟くと、部屋を出ていった。

 

 程なくして戻ると、他に人を連れてきていた。

 

「先生、お客様がいらっしゃいました……」

 

 メイドの後ろからとてもこの辺りでは見られないような煌びやかな服に身を包んだ、いかにも高貴な雰囲気の女性が現れた。

 

「御機嫌よう、探偵さん! 今日は返事を貰いに来たわ」

 

 彼女はネア・ヘルメス。王都随一の豪商家系の貴族で、レテリアが助手を勤める前からカイと付き合いがあるらしく、何度か事務所に訪れているのを見かけている。

 どうやら今回は、ネアが度々話題に出していたヘルメス家のパーティーへの招待の件について聞きに来たようだった。

 

「ねぇ探偵さん。聞かせなさい、へ・ん・じ」

 

 しかし、今受けている依頼は大きな事件でありそのようなパーティーに参加する余裕などない。

 レテリアは勿論彼が断るだろうと考えていた。

 しかし、聞こえた返事その逆であった。

 

「うん。そのパーティー参加させてもらいたい」

「あら、アナタならてっきり断るかと思ってたのに。勿論そうなったら、どうやってでも連れて行く予定だったのだけれど」

 

 要件はそれだけだったようで早々にネアは帰って行った。

 

「先生、良いんですか? 今は大きな事件を抱えている最中なのに」

 

 レテリアはカイが何を考えているのか分からなかった。しかし、そこにメイドが口を挟む。

 

「だからこそ、ですよね。先生……」

「ん? あー、そうそう。そうだよ」

 

 そこまで聞いて、レテリアはひとつの考えに至った。

 

「え! もしかして、今回の事件にヘルメス家が関係あるというんです!?」

「ええ、そうでしょう……。招待に応じた理由はそれ以外に考えられませんから……」

「あはは、そうだね」

 

 カイは和やかな笑顔を見せ続けている。

 彼の頭の中で、この事件の行く末をどのように考えているのかは、レテリアにも分からない。

 しかし彼には不思議とそれを解決してくれそうな、安心感とも違うような雰囲気があった。

 

「そうだ、お願いしたいことがあるんだけど」

 

 突然カイがメイドを呼ぶ。

 

「ちょっとお遣いを頼みたいんだけど……」

「はい、承知しております……」

 

 カイの考えを察したのか早々と出ていくメイド。

 カイが小声で「まだ何も言ってないんだけど」などと言っていたが、その言葉が誰かに届くことは無かった。

 




登場人物
【カイ】
・異世界探偵事務所の探偵。深紅の瞳と、まるで物語に出てくるような仕草が特徴の男。

【ネア・ヘルメス】
・豪商家系の貴族令嬢。少し特殊な家系で、レテリアが助手として探偵事務所に上がり込む前からカイと面識があったようで、度々事務所を訪れている。
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