BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

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シニア級3年目、トレセン学園内でもかなり長めの選手生活を送っていた1人のウマ娘。
ダラダラと目標もなく過ごしていた彼女に訪れた転機とともにトゥインクルシリーズの歴史は大きく動いていくことになる。


プロローグ

 

 

それはまだ厳しい寒さが続くある冬の日の出来事だった。

 

「ねぇねぇ、ピーちゃん!お願いがあるんだけど。聞いてくれない?」

 

「お願いって何?ってか、そんなにニコニコされると気味が悪くて、お願いを聞きたくなくなるんだけど」

 

「そんなこと言わないでよ〜。困ってる"親友"を助けると思ってさぁ〜。お・ね・が・い!」

 

「アンタ、この間アタシのお願いを断ってたよね?『いくら"親友"でもそれは無理』って!ケンカ売ってんの!?」

 

「あははは…てへぺろっ!」

 

「アンバー、アンタねぇ〜!」

 

アタシに話しかけているウマ娘の名前はアンバーシャダイ。

 

アタシのクラスメイトで現在の生徒会会長。選手としての実績は八大競走1勝2着2回と世代でもトップクラスの成績を挙げているウマ娘。

 

こんなとぼけた感じのアンバーだけど、根は超真面目で超頑張り屋。生徒会としての仕事もあるのに、来年に行われるURAの大改革の推進委員生徒代表として、日々激務に追われながら過ごしてる。

 

「じゃあ、"親友"のよしみで一応、聞いてあげるけど、お願いって何?」

 

アンバーのお願いに対して、アタシは顰めっ面のまま、一応話を聞く姿勢をとる。

 

「実は、校内新聞の記事のために今年のクラシック級の子たちの取材をお願いしたいんだ!ほら、最近生徒会の人数も減っちゃってて、人手が足りないんだよね…。だから、『春はヒマ』って言ってたピーちゃんなら手伝ってくれるかなー?って思ったんだ!」

 

少し寂しそうな顔をしながら、アンバーは生徒会の人手不足の現状をアタシに訴えてきた。

 

「確かにヒマとは言ったけど、それは怪我のせいでレースに出れなくて、トレーニングもしばらく出来ないって意味で、大学受験の勉強とかあるからヒマじゃないよ」

 

そんなアンバーに対して、アタシは最もらしい理由で"振り切ろう"とする。親友を助けてあげたい気持ちはあるんだよ。でも、一度手を出すと絶対にズブズブと深みにはまっていきそうだから、ここは『心を鬼にして、NOと言いなさい』とアタシの魂が叫んでるので、今回はその叫びに素直に従います。

 

「そんなぁ〜。ねぇ、お願い〜。私、このままじゃあ、過労死しちゃうよ〜。親友が死んだら、嫌でしょ?嫌だよね?嫌って言って〜!」

 

合理的な理由を突き付けられたアンバーが涙ながらに縋りついてまで訴えてくる。あ〜、この流れはヤバいやつだ…。

 

「ちょ、こんなとこでその泣き方はやめてって。ねぇ、ちょっと、そんなに近寄らないでよ!ほら、みんな見てるから…」

 

「いやだぁ〜。お願い゛い゛〜」

 

ほら、きたよ…このパターン…。

こうなるとアンバーは手強いんだ…。

 

 

 

ザワザワ ヒソヒソ

 

 

 

うわ〜、周りの目がアタシらに刺さる〜。

ずるいんだよなぁ〜。外堀を初めに埋めるの!

 

泣きながら縋り付くアンバーをアタシは振り解きたいけど、そうすると周囲の目とヒソヒソ話がキツくなるんだよね…。

 

「あー、もう、しつこいな!わかったよ、やるよ!やればいいんでしょ?」

 

このしつこさに根負けして、結局"差し返されて"頼みを受ける羽目になる…。

 

「え゛っ?ほんどに…。ありがとう〜♪やっぱり、ピーちゃんは優しいなぁ〜♪大好き!」

 

「…」

 

はい、きた〜。

頼みを聞いてくれるとわかったら、一瞬で涙を引っ込ませて満面の笑みになるこのパターン。

 

普段は超がつく頑張り屋で、超がつくお人好しのアンバー。だから、アタシはアンバーの人柄が好きで尊敬もしてる。

 

ただ、この『おねだりモード』の時のアンバーだけは嫌い。『おねだりモード』っていうのはアタシが命名したんだけど、要はアンバーの『お願い』が叶うまで、おねだりが永遠に続く無限ループモード。アンバーはアタシに対して"だけ"、月に一度くらいのペースでこのモードに入る。

 

なに?嫌なら、断固拒否すればいいじゃないか!って?

 

あのね、そこがまた絶妙に難しいんですよ。これ完全犯罪だから。

 

まず、このモードをアンバーはアタシにしか見せません。だから、アタシがどれほど困っているかを周りは理解してくれません。さらに、本人は無自覚にこれをやってるから、罪の意識はありません。だから、非難するとアンバーは悲しみます。すると、アンバーを慕う人たちがアタシを非難します。

 

ほら、完全犯罪が完成。

 

ちなみに、これはアタシの推測なんだけど、きっとこのモードは超お人好しのアンバーにとっての"無自覚"のストレス発散の方法なんだと思う。万が一だけど、これを狙ってやってたら、アタシは親友をやめます。

 

あと、これは補足なんだけど、この性質はアンバーの走り方にも活かされてる。アンバー得意の勝ちパターンは『泥沼の消耗戦』。叩き合いに持ち込んで、驚異的な粘り強さで相手を精神的にも体力的にも競り落とすのがアンバーの勝ちパターンだったりする。

 

「まったく、もう…。とりあえず、やるのはいいんだけど、アタシ、下の学年の子と面識ないし、そもそも生徒会役員でもないんだから、取材に応じてくれるの?」

 

言ったからにはやるけど、そもそも生徒会役員でもない自分が取材なんてできるのかって思ったから、アンバーに聞いた。

 

「それは大丈夫。この生徒会腕章を貸すから、堂々と役員を名乗って。万が一何か言われたら『臨時役員』て言えばなんとかなるよ。ちなみに場所はどこでもいいから!堂々とインタビューをお願いね。あっ、これが取材道具でこれが選手リストと個人の成績表で、後は……」

 

「…」

 

ちょっと待て、親友!用意が良すぎるでしょ!?そういう感じは確信犯を疑いたくなるから、やめて。結構悲しくなるし!

 

「ねぇ、ピーちゃん。言い訳に聞こえるかもしれないけど、私はこの役目をピーちゃんにお願いしたい『理由』があるんだ」

 

心の中で、ツッコミながら悶々としていたアタシに、さっきとは打って変わった真剣な声色でアンバーが話しかけてきた。このパターンは本気なヤツだ。しょうがない、"親友として"、真面目に聞いてあげるか…。

 

「なに?それどういう意味?」

 

「私、この世代の子たちに期待してるの。この世代の子たちなら『あの人たち』が活躍していた頃の活気と華やかさがあるトゥインクルシリーズを取り戻せるんじゃないかって。それで、ピーちゃんはこの子たちをどんな風に見るのかなって思ってね…」

 

「…なるほどね。つまり、アタシに品定めしてこいってことね」

 

「まあ、悪く言えばそうなんだけど、ピーちゃんって、人を見る目があるじゃない?だから、この世代の『スター候補』を探して欲しいの。これは私の勝手な予想だけど、きっとこの世代の中には『あの人たち』みたいな子がいる気がするんだ…」

 

「…」

 

悲しそうな顔で話すアンバーに対して、アタシは黙るしか出来なかった。

 

 

 

あの人たち

 

 

 

アンバーがそう表現する人たちは、アタシたちから数えて4つ上の世代の選手たちのことで、その世代はアタシたちが中等部に入学した初年度にトゥインクルシリーズの主役を担っていた世代の選手たち。そして、その世代の総称は、その時のトップ3人の頭文字からこのように呼ばれている。

 

 

 

『TTG世代』

 

 

 

生まれながらのカリスマ性と天賦の才で引退の引き際まで王者の威厳を保ち、ファンを魅了し続けた"天翔けるウマ娘"トウショウボーイ。

 

誰もが振り返る端麗な容姿と不屈の闘争心、そして悲運の最期と、登場から引退までの競技人生の全てをドラマチックに駆け抜けた"流星の貴公子"テンポイント。

 

2つの綺羅星の背中を愚直に追いかけ、その2つの綺羅星が消えた後も後輩たちに世代の強さを示し続けた"緑の刺客"グリーングラス。

 

この3人で八大競走を7勝、重賞レース9勝、3人全員が年度代表ウマ娘に選ばれ、3人全てが揃ったレースでは1着から3着までを独占したりもした、圧倒的な成績を残したスーパースターたちを擁した世代。

 

あと、成績も凄いんだけど、3人とも世代の最強格なのに、振る舞いや言動に慢心ってものはなくて、ライバルに勝つために全身全霊を尽くすストイックな姿がめちゃくちゃカッコよかったんだよね。しかも、ファンから『闘争』って例えられるくらいの熱いレースは観ててマジで楽しかった。

 

そんな華のある『TTG』に憧れたウマ娘が多くいるのが、アタシたちの世代なんだ。ちなみにアタシはトウショウボーイ先輩派でした。

 

「やっぱり、会長としての責任を感じるよ。口の悪い人から今が『谷間の時代』って陰口を叩かれてるけど、言い返せるだけのものがないのはホントだし、学園の雰囲気も暗いままだから…」

 

「…。アンバーは頑張ってるよ。プリンスやハギノたちクラシック組が早くにいなくなってもトゥインクルシリーズを盛り上げようって、みんなのために本当に頑張ってる」

 

悲しそうな顔をやめないアンバー。まあ、言いたいことはわかる。アタシも今のトゥインクルシーズンは物足りないし、寂しくも感じるから…。

 

「ありがとう…。でも、もっと頑張らないと…。特に今年の『ジャパンカップ』は絶対に結果を出さないとダメだからね…」

 

「『ジャパンカップ』か…。今年はどうなるかな…」

 

 

 

ジャパンカップ

 

 

 

アタシがデビューして3年目のシーズンに第一回が開催されたジャパンカップは『世界と渡り合えるウマ娘を育成する』というコンセプトのもと設立された新レース。

 

ジャパンカップの設立自体はアタシたち選手も含めて学園内外の関係者からとても評判がよかった。だから、日本のレース界が一丸となってジャパンカップの成功と"勝利"を目指したんだ。

 

ちなみに第一回のジャパンカップに出場したメンバーは、その年のシニア級の主役格でアタシらの同期のモンテプリンスと前年の年度代表ウマ娘ホウヨウボーイ先輩を筆頭にした『日本の精鋭』と呼んで差し支えない最高の布陣。

 

あっ、ちなみにアタシは箸にも棒にも引っかかりませんでした。

 

相手は海外選手とはいえ、現地で重賞勝ち経験がある程度の"二流選手"たち。

 

『さすがにこれなら、海外選手相手でも勝ち負けにはなるだろう』なんて選手たちも含めて、みんな勝利を密かに期待した。でも…

 

 

 

掲示板内に日本人選手は1人しか載れなかった。

 

 

 

しかも、その1人は地方所属選手で、担当トレーナーも10代の新人トレーナーって有様で、『中央の現役最強選手・現役最強トレーナーが参戦する』と謳っていたトレセン学園の面目は丸潰れ。

 

そして、その失意も冷めないうちに開催された翌年の第二回も日本勢は惨敗。この二度の惨敗劇で世界のレース関係者からのトゥインクルシリーズと日本のウマ娘の認識が決まっちゃうわけよ。

 

 

日本のレベルの低さが露呈した。

 

観客は一流、選手は三流。

 

日本人選手は海外選手にあと20年は勝てない。

 

 

 

たった2回のレースで世界での位置付けは決まっちゃうとか、世の中厳しいよね。世界への飛躍を夢見た日本にとって、非情な現実が突きつけられたわけですよ。

 

で、その影響に加えて、来年から行われる大改革に対する戸惑いや一部の反発の声とかのネガティブな風潮も絡んできて、学園には哀愁ムードが漂いまくって、活気を完全になくしちゃってます。

 

華やかな時代と落ちぶれた時代、どっちも間近で見てきたアタシは思うよ。

 

 

 

アタシが憧れたキラキラしたトゥインクルシリーズは遠い過去の話

 

 

 

今も競技者として一生懸命頑張ってる人はいるよ。でも、アタシが憧れたトゥインクルシリーズは今はないんだよね…。

 

「でも、周りになんて言われたってめげないアンバーは偉いよ…。いろいろなものを背負って走ってる。アタシみたいに惰性で現役を続けてる老害とは違うよ…」

 

「そんなことないって!脚が良くなれば、ピーちゃんだって八大競走に勝てる実力はあるよ!重賞も2つ勝ってるし!だから、今年は一緒にジャパンカップに出ることを目標に頑張ろうよ!」

 

「ありがとう…。まあ、アタシもアンバーと一緒のレースを走りたいしね。ジャパンカップに出られるように頑張るよ…」

 

 

寂しそうな顔をしながらアタシを精一杯励ましてくれるアンバーにアタシはそう言った。

 

デビューして6年目。正直に言って、もう引退してもおかしくない年なのに、アタシはいまだに現役を続けている。でも、アタシはアンバーみたいな立派な志や目的があって走ってるわけじゃない。それこそ、次世代のために何かするなんて考えたこともなかった。

 

でも、このアンバーの頼み事がこれから起こる『激動の3年間』のきっかけだったなんて、この時のアタシは知る由もなかったよね…。

 

 




私の書いた作品の3作目となる今回の話はいくつかの章に分かれた長編となり、各章で主役になるウマ娘が違います。なので、今回の話は過去作とは少し違うテイストになりますので、気長にダラダラと楽しんでいただけたらと思います。

さて、唐突ですが、ここで問題です。
このプロローグに登場した『ピーちゃん』と呼ばれるウマ娘ですが、実はただのモブウマ娘ではありません。物語の全編を通して重要な人物であるとともに、ある競走馬をモチーフにしています。その競走馬とは誰でしょう?

一応、ここまでの作中にもヒントは入れてみましたが、彼女のモチーフになった競走馬が誰なのか、第1章が終わるまでにぜひ当ててみてください!
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