BEGINNING OF THE REVOLUTION 作:スタイニー
その特別な舞台の覇権を賭けて争うのは長年の親友キョウエイプロミスとアンバーシャダイ。
新進気鋭の選手たちが上位人気を占める中、歴戦の2人の頭脳戦が繰り広げられる。
ゲートが開いてスタートが切られました!
バラバラっとした12名のスタートとなりました。スタートしていきなり3コーナーを左手にカーブしていきます。
[とりあえず、スタートはまずまず。あとはポジション取りだけど…]
バラついたスタートになる中、キョウエイプロミスは順調なスタートを切り、先頭争いにすぐさま加わる。
先行争い。やはり、タカラテンリュウが行きました。タカラテンリュウが先頭を切ります。
2番手にキョウエイプロミス。向こう側にリーゼングロス。
[やっぱり、あの子がハナを切ったか。で、アタシは予定通りに前目から行きますよ]
先頭に立った今年の毎日王冠の勝者、一番人気タカラテンリュウを眺めながら、キョウエイプロミスは予定通りに前目2番手の位置を確保する。
そして、アンバーシャダイ。その後ろからミスラディカル。スピーディータイガー、カミノスミレ。アラナスゼット。
それほど早くないペースでこれから4コーナーを回っていきます。
[怪我明け2戦目だけど、ピーちゃんの長距離センスは侮れない。親友とはいえ、レースはレース。天皇賞春秋連覇のためにもマークはしっかりさせてもらうよ!]
2番手のキョウエイプロミスを背後から眺めるのは親友のアンバーシャダイ。今年の天皇賞春を制していて、春秋連覇の期待がかかっている。
ただ、今回のレースはその天皇賞春からの直行出場となってしまったため、事前人気はキョウエイプロミスに遅れを取って3番人気となっている。
やはり、1番人気10番のタカラテンリュウが出て行きました。
そして、だいぶ間隔が空いて、キョウエイプロミスであります。
[とりあえず、タカラテンリュウを行かせる分には大丈夫。前のレースであの子の自力は把握してある。問題は勝負所までの『駆け引き』だね]
一周目の正面スタンド前に入ってきました。
まだ、この辺りは序盤戦であります。
どう上手く折り合いをつけていくか、またどう気分良く走っていくかが、ポイントになっていきます。
「どうやら、今のところ流れに上手く乗れているようだ。自信を持て、プロミス。お前なら必ず天皇賞を勝てる!」
政男はこの天皇賞にかなりの勝算を持っていた。それは長期休養明けのキョウエイプロミスの予想以上の成長も勝算の一つではあるが、もともと彼女が持っている長距離レースの『センス』の高さが政男にとっての最大の勝算であった。
「プロミス。次は3000m以上の長距離レースに出ようか」
「えっ?長距離?やだよ。あんな長い距離を走るの…」
「まあ、そう言うな。最近、なかなか中距離のレースで結果も出てないだろ?試しに長距離レースに出てみないか?」
「試しにって…。長距離レースって難しいってみんな言うじゃん。そんな気軽な感じで走ったって、結果は出ないでしょ?」
それは今から遡ること2年前の冬。
脚部不安も重なり、勝利から1年数ヶ月も遠ざかっていた時期のこと。政男はキョウエイプロミスに長距離レースへの出場を提案していた。
「一応、勝算はあるんだぞ。実は親父が昔言っていたんだ。プロミスには『ステイヤー』の才能があるってな。だから、これを機に長距離路線を中心に攻めるのもありかなと思ってね」
「ステイヤーの才能?そんなこと言ってもアタシ、スタミナには自信ないよ。スタミナがないのにステイヤーの才能があるなんてことある?」
「あるさ。私も親父から教え込まれてからわかったが、長距離レースで最も重要なのはスタミナじゃない。スタミナ以上にレースを通して発揮できる『冷静な思考回路』の方が重要だ」
「冷静な思考回路?」
「長距離レースは長丁場になるから、レース中に何度もターニングポイントが発生する。そのターニングポイントで適切な判断をするためには、レース内での情報収集とその情報を分析する力が必要になる。それには『冷静な思考回路』が必要不可欠なんだ」
「…まあ、確かにアタシはレース中に掛かることは少ないし、周りを見ながら走ることも苦じゃないけど、駆け引きとかはよくわかんないよ?」
「それは大丈夫だ。これから私が教えるから。自分で言うのも難だが、最近長距離レースの成績が良くなっていてね。私も長距離が得意で、お前もステイヤーの才能があるとすれば、そう遠くない内に長距離重賞を獲れると思うんだ。だから、騙されたと思って次のレースはステイヤーズステークスに出てみないか?勝ち負けに持ち込める自信はある」
「えー、ホントに自信あるの?」
「あるよ。大丈夫、プロミスなら勝てる。それにどのみちシニアになって八大競走に勝ちたいなら、長距離も走れた方がいいだろ?」
「うーん…まあ、それはそうだけど…」
「じゃあ、こうしよう。1勝出来るまでに1回でも2着以内に入れなかったら、二度と長距離レースには出ないと約束する。だから、1回だけでいい、レースに出てくれ」
「わかったよ…そこまでマサさんが言うなら1回くらいは走るよ…。でも、2着以内にならなかったら、マジでもう走らないからね」
「ああ、それでいい。大丈夫さ、すぐに勝てる。むしろ、重賞初勝利は長距離レースだと私は思うよ」
「…本当かなぁ〜」
「走るのさえ、嫌がっていたお前が、今となっては長距離重賞を3戦して連対2回、内1勝。親父が言ったように、やはりお前にはステイヤーの才能がある。唯一負けた去年の天皇賞の時はまだ実力も経験値も不足していたから致し方ないが、今のお前は違う。親父の予見が正しかったことを証明するためにも、絶対に天皇賞を獲ろうな、プロミス」
キョウエイプロミスのステイヤー適性を生前に見出していた父・三平。生前に見ることが叶わなかったキョウエイプロミスの八大競走の戴冠を天国の父親への手向とすべく、政男は天皇賞の奪取に並々ならぬ想いを募らせる。
勝負所は向正面、3コーナーを曲がってからになりますが、果たして、歓声の中でタカラテンリュウはマイペースで行けるのか?ラチ沿にタカラテンリュウであります。
[2番手の先輩、テンリュウと離れ過ぎでしょ。こんなペースじゃ、逃げられるって。共倒れはごめんだから、私は行くよ!]
[えっ、イースト行くの!?あたしも行ったほうがいいかな…]
そして、イーストボーイ上がってきました。
イーストボーイが2番手につけました。
その後ろが、ミスラディカルが3番手。
一度目のホームストレッチでイーストボーイがキョウエイプロミスよりも前に出る。それに合わせて、4、5番手にいたミスラディカルも順位を上げて行く。どうやら、2人とも1番人気のタカラテンリュウとの距離感に危機感を覚えたようだ。
[おー、おー、仕掛けるねぇ〜。まっ、アタシは乗っからないけどね]
2人に抜かれてしまったキョウエイプロミスだが、冷静に観察するだけで動きは見せない。
[んー、隣の先輩は行かないな…。去年の天皇賞にも出てた先輩が行かないのに、長距離初心者のあたしが行くって、どうなんだろ…?やっぱり、行くのはやめとこ…]
一瞬だけキョウエイプロミスより先に出たミスラディカルだったが、隣にいたキョウエイプロミスの出方を見て、すぐに冷静になり勢いを止める。
[おっ、この子は意外に冷静だ。アタシの出方を伺って、仕掛けをやめたな。そうそう、長距離初心者は序盤は様子見しといた方がいいよ〜。長距離の難しさはまだ先だから、今から慌てちゃダメだよ]
シニア級1年目の2人の判断を冷静に見守るキョウエイプロミス。それは3000m級のレースを既に3度経験しているが故の余裕であり、自信である。
さあ、内側にキョウエイプロミスがつけております。さあ、この東京レース場の歓声が、人気のタカラテンリュウにどの様な影響を与えるのか!?まだ、折り合いはついている様です。
「だいぶ後ろと離れてるけど、私的には全然標準ペース。これはもしかすると、もしかするかも…。このまま…」
「"このまま"行かせるわけないでしょ!楽に走らせないよ、テンリュウ!」
「チッ…めんどくさいのが突っかかってきたよ…」
タカラテンリュウ依然先頭。外からイーストボーイ!
ホームストレッチの終わり付近でレースに動きが出る。第1コーナーを単騎先頭で回っていたタカラテンリュウに2番手のイーストボーイが並びかけに行ったからだ。
[あーあ、完全に掛かってるよ。絶対にあの子、長距離に向かない性格だよね…。まあ、それはそれとして、これでレースが動き始めるから、状況収集はこまめにしておかないとね]
イーストボーイの無謀な競りかけにちょっと引き気味のキョウエイプロミス。とはいえ、レース展開に『変化』が出てきたことで、情報収集のアンテナを研ぎ澄まそうとしていた。
ちょっと離された3番手にキョウエイプロミス。その後ろからミスラディカル、5番手にアンバーが進んでおります。
まだ、ペースは上がりません。
第2コーナーのカーブをゆっくりと回って行きます。
[先頭とかなり距離が離れてる。この感じなら3番手のアタシが実質のペースメーカーになるね。これはアタシにとっていい展開なんだけど、問題は後ろの"親友"。アイツはこのレース展開で何を狙ってるのかな…]
キョウエイプロミスは自身の位置取りと後続のレースの流れを作りにかかる。そして、背後にいるアンバーシャダイの動向を気にする。
先頭は10番のタカラテンリュウです。
それにぴったりと付く様にイーストボーイがマークしております。
タカラテンリュウとイーストボーイ、その後ろは5バ身離れています。
[距離が空いたからって無闇に詰めることはしないで、あくまでペースありきでレースを作ってる。やっぱり、ピーちゃんは長距離センスあるよ。でも、ごめんね。私はそんなピーちゃんを"利用させて"もらおうかな]
そして、その後ろにキョウエイプロミスとアンバーシャダイ。
アンバーシャダイが一つ順位を上げています。そして、その後ろはミスラディカルであります。
[めんどくさいな…。アンバーのヤツ、アタシを風除けに利用するつもりだ。しかも、アタシのペースに乗っかりながら、アタシを出し抜く算段も考えてるんだろうな…。まったく、レースに関しては抜けがないんだから厄介な"親友"だ]
5番手にいたアンバーシャダイが4番手のミスラディカルを抜き、キョウエイプロミスの背後に急接近してきた。長距離レースの経験が豊富な彼女もまた、現在のレース状況を的確に把握していて、このレースの実質の主導権を握っているキョウエイプロミスを完全にマークしていた。
「ちょっと!しつこいよ、イースト!もう限界なんだから、いい加減ついてくるな!!」
「ゼーハー、ゼーハー…いや、まだ沈まないし…。とことんついていってやるから…」
「もー、なんで短中距離専門のアンタが長距離の天皇賞に出てんのよ!出るならせめて来年でしょ!?冷やかしで、私のレースを邪魔しないでよ〜」
バックストレッチの中程を過ぎてもタカラテンリュウとイーストボーイは競合いを続けていた。ただ、競りかけられているタカラテンリュウはだいぶイラついているので、ペースはめちゃくちゃである。
[相変わらず、前の2人はワチャワチャ張り合ってるなぁ〜。もう後続の状況なんてまったく気にしてないでしょ。意地の張り合いに飲まれちゃダメだ…あれ?]
イーストボーイがちょっと下げました。
[ほら、言わんこっちゃない。勢いで行ったって、無理だって。勝手に消耗して下がってきちゃったよ、あの子]
仕掛けの頃合いを見計らっていたキョウエイプロミスの前に先頭を張り合っていたイーストボーイが落ちてきた。
「あのー、大丈夫?あんまり無理しない方がいいよ?」
急激な失速をしたイーストボーイを心配したキョウエイプロミスが入れ替わる瞬間に声をかける。
「ゼー、あっ、大丈夫です…。ハー、ちょっと息を入れただけなんで…。ゼー、まだ、スパート出来ますんで…」
「あっ、息を入れただけね…なんか、ゴメン…[いや、息の入れ方、下手かっ!?ホントにこの子、長距離センスが皆無なのに、なんで天皇賞に出てきたんだろ?]」
キョウエイプロミスの問いかけにイーストボーイは息も絶え絶えになりながら応える。一応、本人的には『息を入れた』だけのようなのだが、どう見てもそうには見えないアップアップな状態にさすがのキョウエイプロミスも苦笑いだ。
[まあ、これはこれでラッキーだから、このままこの子について行きますか]
イーストボーイがちょっと下げて、その代わりにキョウエイプロミスが出てきました。徐々に差を詰めていきます。
[ピーちゃんが2番手に上がった。じゃあ、私も行こうかな。そもそも切れ味勝負じゃあ、私はピーちゃんに勝てないしね。いつも通り、叩き合いに持ち込むよ!]
アンバーも少し上がって行きました。
「プロミスのペースメイクはかなりいいが、生徒会長さんが虎視眈々と自分の土俵にお前を引き摺り込む機を見計らっている。さあ、ここからが長距離レースの真の勝負所だ。頼むぞ、プロミス」
戦局を見守る政男。キョウエイプロミスのペースメイク自体には感心しているものの、背後に付くアンバーシャダイのマークが緩まないことに警戒心を抱く。
[アタシのペースアップにアンバーも付いてきた。まあ、アンタからすれば叩き合いに持ち込みたいから、アタシから離れるわけないよね…]
自身の仕掛けに反応してアンバーシャダイが付いてくることは想定済みのキョウエイプロミス。同期にして親友の2人の心理戦が勝負所の3コーナーを前にして、徐々に白熱していく。
「よーし!息が入ったー!まだまだ、行くぞー!」
[うわっ、びっくりした…ホントにもう一回スパートしてきたよ……]
そんな2人の静かな戦いを遮るように、イーストボーイが"宣言通り"に再スパートを開始する。その突然のスパートにキョウエイプロミスが驚く。
[意外としぶといなこの子。まあ、ゴールまでは持たないだろうけど…。んー……もしかしたら、この感じだと、マサさんの『アドバイス』が活きるかもしれない…。とりあえず、この子に前を譲りつつ、"内側"に付けようかな]
まだ、タカラテンリュウが先頭です。
タカラテンリュウが先頭ですが、イーストが行きました。イーストが行きます!
そして、キョウエイプロミスも行きました!
その内側にキョウエイプロミスであります。
[ん?ピーちゃんがさらにギアを上げた…。思ったより早い仕掛けだ…どうしよう…。ついては行きたいけど、ピーちゃんは"内側"に入ったんだよなぁ…あの位置はなんか嫌だな…]
それまでキョウエイプロミスをマークして、常に背後を取っていたアンバーシャダイ。しかし、この仕掛けに関してはすぐに追いかけない。これにより、キョウエイプロミスとアンバーシャダイの間には初めて"間隔"が空く。
[3コーナー手前であの位置に入るなんて、ピーちゃんはインが空く確信があるのかな…。うーん、それにしたって、今の段階で外を捨てるようなコース取りをするのはリスキーだと思うけど…。私は距離をとってもう少し様子見しよう…」
アンバーシャダイは最終コーナーでの内外の選択の余地を残すためにあえてついて行かなかった。その判断は当然で、まだ3コーナー手前の今から最終コーナーでの仕掛け方を決めなくてはいけないほど、激しいポジション争いが繰り広げられているわけではないからだ。
[やっぱり、アンバーは付いてこなかった。そりゃ、そうだよね。こんな早いタイミングで外を捨てるなんて、優等生のアンタには出来ないでしょ。でも、これでアンタは叩き合いに持ち込めなくなった。さあ、ここからどうする?]
3コーナーから4コーナーに流れて行く中で、キョウエイプロミスとアンバーシャダイは心理戦を繰り広げていた。
距離を詰めて叩き合いに持ち込みたいアンバーシャダイ。
リードを保ち、そのまま押し切りたいキョウエイプロミス。
心理戦の末、理想的な状況を勝ち取ったのはキョウエイプロミス。
キョウエイプロミスは叩き合いに持ち込みたいアンバーシャダイから距離を取ることに成功する。
[うーん、これで叩き合いには持ち込みにくくなった…。でも、まだ勝負は決まってないよ!私にもまだまだチャンスはある!本当の勝負所は4コーナー。さあ、勝負だよ、ピーちゃん!]
3200m開催最後の天皇賞秋は歴戦の選手2人の目に見えない攻防が繰り広げられる中、最終局面に突入する。
私の作品では実際の実況を基にしてレース描写を描くのですが、80年代ともなるとかなりシンプルな実況になるため、描写が大変です。
そう考えると、関西のレースを担当していた某有名アナウンサーの実況は現代でも通じる熱い実況かつ耳に残るフレーズの多い実況だなと改めて思います。
ちなみにその方の私のお気に入り実況はメジロパーマーが勝った阪神大賞典とセイウンスカイが勝った菊花賞です。