BEGINNING OF THE REVOLUTION 作:スタイニー
局面は最終コーナーへと入っていく。
果たして天皇賞の栄冠を勝ち取るのは誰か!?
3コーナーから4コーナーに向かう各選手。
だんだんと12名、位置が上がっていきます。
[全体のペースが上がってきてる。そろそろ勝負所。先頭の2人は…]
選手全員のペースが上がる中、アンバーシャダイは先頭集団の動向を見守る。
タカラテンリュウが、まだ粘っています。
タカラテンリュウが先頭で、そして、2番手には相変わらずイーストボーイ、さらに2番のキョウエイプロミス。
[よし!まだ2人は粘りそう!これならロスはあっても外から回った方が確実性が高い!]
4コーナーの入り口、先頭2名の動向をギリギリまで見極めていたアンバーシャダイはキョウエイプロミスの前に位置する2人がまだ失速する気配がないことを察して、外に持ち出す判断を下す。
3コーナーから4コーナーにかけての心理戦には不覚を取ったアンバーシャダイだが、アクシデントのリスクが少ない外から確勝を期してスパートに入ろうとする。
さあ!これから最後のカーブを曲がって、直線コース!最後の力比べに入ります!
ラチ沿にタカラテンリュウ!10番のタカラテンリュウ、早くもスパートをかける!
「確かに得意の叩き合いには持ち込めないし、距離のロスはあるけど、そんなの前が詰まれば関係ない!この勝負、私が貰った!」
最終コーナーを回りながらアンバーシャダイがキョウエイプロミスに接近し、外から回り込む態勢を整える。
「いや、この勝負はアタシの勝ちだよ、アンバー…」
アンバーシャダイの勝利宣言に対して、キョウエイプロミスが冷静に否定する。
「強がっても、状況は変わらないよ!"まだ"前は空いてない!これじゃ…」
「いや、空くよ…"今"ね!」
しかし、間からキョウエイプロミスが抜け出した!
「ウソっ!?ホントに空いた!?なんで!?」
幾重にも駆け引きが繰り広げられた天皇賞。
その最終局面で優位性を勝ち取ったのはキョウエイプロミス。
4コーナー出口で最内のタカラテンリュウとその横を走るイーストボーイとの間にできた僅かな隙間が開いた瞬間にスパートをかけ、2名の間に割って入ることに成功したキョウエイプロミスが一気に先頭に並ぶ。
一方のアンバーシャダイもキョウエイプロミスとほぼ同じタイミングで仕掛けているが、外狙いのコース取りのロスは如何ともしがたく、3番手のイーストボーイに並ぶことすらできていない。
ここまでの攻防の有利不利は常に僅かな差しか生まれなかったが、この最終コーナーで遂に致命的な差としてアンバーシャダイにのしかかる。
[駆け引きに完全に負けた…。それにしても、あのスパートのタイミングの良さはなに!?まさか、これをずっと狙ってたの?こんな一か八かな作戦をずっと狙っていたなんて、結果がよかったからいいけど、そのまま負ける怖さはなかったの??]
その光景を見てアンバーシャダイは駆け引きに完全敗北したことを悟る。ただ、キョウエイプロミスの仕掛けのタイミングがなぜあれほどまでに的確だったかは理解ができず、その強心臓ぶりを賞賛するしかなかった。
[マジでマサさん、ナイスなアドバイス!さすが、『長距離の魔術師』なんて呼ばれてるだけのことはあるね!これでアンバーは置き去りにできた。あとはこのまま両脇の2人を振り切る!]
このレース最大のアドバンテージを得ることに成功したキョウエイプロミスだが、その裏に『長距離の魔術師』の異名を取る政男の的確なアドバイスがあった。
もし、イーストボーイが最終コーナーまで目の前で粘っていたら、外には持ち出すな。コーナー終わりでその子の内が"必ず"空くから我慢しろ。
「よく我慢した、プロミス!待ち続けた分のリターンは大きいぞ!さあ、あと少しだ!頑張れ!!」
お互いがお互いを信頼する熟練コンビが魅せた、人バ一体の走りが悲願の天皇賞制覇を手元に大きく手繰り寄せる。
イーストボーイ、アンバーが粘る!アンバーが懸命に粘る!
[やっと、3番手に上がった…。でも、ここから勝つのはちょっと無理かも…]
最終直線の半ば辺りでようやくアンバーシャダイが3番手に上がってきたが、残された挽回の余地は少なく、既に先程までの闘争心は見られず、ほぼ勝利を諦めていた。
タカラテンリュウも頑張った!タカラテンリュウも粘っている!最後の坂を駆け上がる!
しかし、キョウエイプロミスが頑張る!キョウエイプロミスが先頭に出ました!
[よし!身体一つ分抜け出した。でも、まだ気は抜かないよ!もう一丁、スパート!!]
先頭は、先頭は、キョウエイプロミス!
キョウエイプロミスが突き放す!
一方のキョウエイプロミスは完全に先頭に立つ。そして、勝利をより確実にすべく、最後のスパートをかける。そして…
外からカミノスミレ!外の方からカミノスミレ
2番手にはカミノスミレ!アンバー3番手!
しかし、勝ったのは、キョウエイプロミス!
3200m最後の天皇賞秋を制したのはキョウエイプロミスです!
高田政男トレーナー、プリティキャストでの大逃げ勝利から3年。
天皇賞秋2勝目は堂々とした横綱相撲で見事に勝利しました!!
「やったよ、おっちゃん!天国で見ていてくれたかな…」
後続に2と1/2バ身の差をつける完勝でキョウエイプロミスは3200m最後の天皇賞秋を制した。
慢性的な脚部不安により、決して順風満帆とはいかなかったここまでの選手生活。選手として5年。三平との出会いから11年の歳月を経て、ようやく勝ち取った大きな勲章だった。
「よくやった、プロミス」
ターフで喜ぶキョウエイプロミスを政男は観客席から感慨深そうに見つめていた。
「親父、あなたが見出した最後の教え子は、あなたが言った通りに素晴らしい選手になりましたよ…」
そう呟いた政男はふと天を見る。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。
「いやー、完敗だよ。ピーちゃん。おめでとう!」
レースが終わり、ターフから引き上げようとしたキョウエイプロミスにアンバーシャダイが声をかける。レースは3着に敗れたが、その顔は笑顔に満ちている。
「アンバー。ありがとう。楽しかったよ。アンタとの駆け引き。勝ったことはもちろん嬉しいけど、やっとアンバーと対等に本気で戦えたことも嬉しかった。ありがとう」
そんなアンバーシャダイにキョウエイプロミスもまた笑顔で感謝の意を表す。
「私も楽しかった。学校ではいつも一緒にいたけど、レースだとなかなか一緒に走れなかったからね。こうやって走れて、改めて同期の子と走るのは楽しいなって思った。みんなだいぶ引退しちゃったしね」
「そうだね。アタシはずっと怪我ばっかりだったから、アンバーと全然走れてないもんね。もう残り少ない時間だけど、同期のアンタと一緒に走ることをアタシは精一杯楽しむよ。ところでさ、これで約束は果たせるかな?ジャパンカップに一緒に出るって約束」
「もちろん!八大競走に勝ったんだから、生徒会長としてURAに自信を持って推薦が出来るよ!それにもし万が一断られても私が突っぱねる!『なんで今、"日本で一番強い"ウマ娘を選ばないんですか』ってね!」
アンバーシャダイは満面の笑みで親指を立てる。
「『日本で一番強いウマ娘』っていうのはどうなんだろう…。まあ、とりあえず、日本人として恥ずかしくないレースはしたいけどね」
アンバーシャダイの大袈裟な表現にキョウエイプロミスは苦笑いする。
「いや、出るからには勝ちに行こうよ!私もジャパンカップまでには、もっとコンディションを良くするからさ!あっ、良かったら合同練習しない?日本代表みんな集めて」
「おー、それは楽しそう。じゃあ、集まりそうだったら、また声かけて!じゃ!」
「あれ?もう行っちゃうの?」
「うん。ちょっと、トレーナーのところに行ってくる。せっかくだから、しっかり勝利報告しようかなって」
「そっか。付き合い長いんだもんね。いってらっしゃい。また、連絡するから!」
「うん!じゃあね!」
「お疲れ、プロミス。よくやったな」
「ありがとう、マサさん。やっと勝てたよ。天国のおっちゃんは見てくれてたかな?」
「当たり前さ。見てたに決まってるし、今頃、天国で酒を飲みながらどんちゃん騒ぎしてるさ。『プロミスが勝った!今日は宴だ!』とか言ってな」
「フフッ、確かにそうかもね。おっちゃんは教え子が勝つといつもお酒を飲んでた。条件戦だって重賞だってどんなレースでもいつも。本当に嬉しかったんだろうな。まあ、それを口実にお酒を飲んでた節はあるけどね」
「まあ、確かにな。でも、それを抜きにしても、親父は昔から人が喜ぶことを自分のことのように喜べる人だった。今回の酒は格別だろう。最後に見出した教え子が、自分の力で勝ち取った勝利なんだからな」
「自分の力か…。それは大袈裟かな。このレースに勝てたのはやっぱりマサさんのおかげが大きいよ。あのアドバイスがなかったら、勝負はわからなかった。結局、マサさんに助けられちゃったから、自分の力で勝ち取ったことにはできないよね」
「別に気にすることではないだろ。私とお前、2人で勝ったんだ。どっちのおかげかなんてものはないさ」
「うーむ。それはそれで納得できないな。だって、アドバイスがピンポイント過ぎるじゃん。レースのプランを考えてる時も、アタシはあんなことはこれっぽっちも考えなかった。あれはマサさんの『スカウティング』の成果以外の何物でもないでしょ?」
「んー、
「えっ?違うの?」
「いや、まあ、情報を入手していたことに違いないんだが…」
そう呟いた政男は少し気まずそうな顔をしながらキョウエイプロミスから目を逸らす。
マサトレーナー!どう?今年の私の教え子たちは?いい子いた?
このイーストボーイという子はどうなんだ?
うーん、イーストは足は速いんだけど、速さに頼りがちだから、シニア級になったら頭打ちになりそうなんだよね…。
そうなのか?しかし、素質はいいものを持っている。私が根気強く教えていけば、いい選手になると思うが…。
私もそれが一番いいと思うから、マサトレーナーのチームを薦めてみるけど、あの子は今、トレセン学園に合格して、悪い意味でノリに乗っちゃってるから、私のアドバイスなんて聞かないだろうなぁ〜。
君の教え子にしては珍しく我が強いな。
我が強いというか、頭が回らないタイプで、後々後悔するタイプみたいな感じかな…。
例えば、どんなところがダメなんだ?
どんな距離のレースでも勢いで走るし、何回教えても息の入れ方は変えないし、極めつけはコーナリングの下手さだよね。疲れるとコーナーは"100%"外に膨れる。レベルが高いトレセン学園だと、それじゃあ勝てないから、今から直しなって言ってるんだけど、わかってくれないんだよねぇ〜。
それは確かにまずいな…。ジュニアからクラシックの前半くらいまでは通用するかもしれないが、シニア級では確実に頭打ちだ。
そうなんだよね…。しかも、性格的に適性は短距離がベストで、頑張っても中距離までしか走れないから、『天皇賞』なんて間違っても走らないでとも思うよ…。
それは大丈夫だろう。トレーナーもそこまで無茶はさせないだろう。
それならいいんだけど、調子に乗ると誰の言うことも聞かないからなぁ〜。あっ、もし『天皇賞』にあの子が出てきたら、遠慮なくあの子を狙い撃ちしていいからね!
いやいや、そういうわけにもいかないだろう。
いいのよ!それくらい思いっっっきり凹ませないと!あの子のためにならないんだから!
まあ、アローがそこまで言うのなら、もし『天皇賞』でその子と当たることになったら考えようか…。しかし、たくさんの優秀な教え子を抱えていると気苦労が絶えないね、アロー"コーチ"。
あっ、なに今のニヤつきと言い方!私のことバカにした?
バカにはしてないよ。アローが立派に指導者をやってるのが、嬉しかったから顔が緩んだだけさ。
それ、本当?もし、バカにしてたら、マサトレーナーでも、今後一切いい子は紹介しないからね!
三女神に誓ってそんなことはしないさ。これからもよろしく頼むよ、アロー。
「まっ、絆の強さも実力のうちだな、うん」
「はい?今なんて?」
「いや、なんでもないよ。"我ながらいい作戦"だった、うん」
「?」
先ほどまで気まずそうにしていた政男だが、ポツリと何かを呟くと先ほどまでの気まずさはどこへやら、突然収まりのいい顔になる。キョウエイプロミスはその変化を訝しむが、政男がその理由をはぐらかした。
「ところで、脚の方はどうだ?」
「うん、まあ、今のところは大丈夫かな…」
そんなとぼけた会話から一転し、政男がキョウエイプロミスの脚の状態を尋ねる。
「ライブもあるから仕方がないが、脚の疲労はすぐにでも抜こう。今は大丈夫でも、時間差でダメージが来る可能性はある。」
「わかった。あと2レースあるからね。まだ目標は1つしか達成してないから、まだ頑張らないと…」
「ああ、残り2つも走り切ろう」
とりあえず、そんな感じで勝ち取った、初の八大競走。一応、マスコミ的にはアタシとマサさんやおっちゃんとの関係性やシニア3年目で八大競走に勝ったこととかが、ドラマ性があったらしくて、"2週間は"話題の中心だった。
え?なんでまた"2週間"なのかって?
そりゃあ、アタシの『ドラマチックなレース』と2週間後にあった『伝説のレース』とを比べたら、余韻なんてものは跡形もなくなるって。
にしても、アタシも現地で観てたけど、あんなレースをやられたらアタシのレースはもちろん、今までのレースの大体が『普通のレース』になっちゃうって…。それぐらいあのレースは衝撃的だった。
「シービー。調子は?」
控え室で寺永がミスターシービーに今日の調子を問う。
「ん?それ聞く?見ればわかるでしょ?」
寺永の質問に対してミスターシービーは満面の笑みを浮かべるだけで答えず、逆に寺永に対してどのように見えるかを聞き返す。
「あ、ああ。仕上がりは"絶好調"と言ったとこだな」
そんなミスターシービーの逆質問に対して、寺永は率直な感想を伝える。
「絶好調?そんな程度じゃないよ。アタシは言ったよね、"完璧"にするって。言葉通り、宣言通りのコンディションに仕上がったよ」
寺永の回答にミスターシービーはドヤ顔で否定し、正解を発表する。
「珍しく強気に出るじゃないか。なら、三冠達成は確実なのだな?」
「当然そうだね。だって、この1ヶ月間アタシは『努力』し続けたんだから。まあもし、万が一アタシに勝てるとしたら、いつも『努力』してるエースだけだろうね。それくらい今日のレースに勝つ自信がある」
寺永の更なる問いかけに対しても、ミスターシービーの自信満々の顔つきは変わらない。
「そうか。そこまで言い切るほどに完璧ならば、きっと今日のレースはダービー以上の衝撃的なレースになるのだろうな」
そんな自信満々のミスターシービーに対して寺永はどこか安心したような優しい表情で語りかける。
「うん、きっとそうだ。もしかしたら、今日のレースが寺さんが追い求めた夢のレースになるかもね!じゃ、行ってくるよ!」
ミスターシービーは無邪気な笑顔を残し、控え室を飛び出した。
「ああ、行って来なさい………ふぅ…」
寺永はミスターシービーを優しい顔で見送るが、彼女がいなくなると些か戸惑った表情になる。
「いやいや、大変なことになった…。あれはもはや我々凡人には推し量れないレベルの存在だ。『努力をしない天才が本気で努力をしたらどうなるか?』。そんな"戯言"に対する答えの一つを今日見られるかもしれないのだから…」
ベテラントレーナーの寺永をして、そのような表現をしてしまうほどのミスターシービーの完璧な出来栄え。そして、それが誇張でもなんでもないことに大衆が気付くのは、この数十分後のことだった。
11月13日 京都レース場 芝3000m
八大競走 クラシック最終戦
菊花賞 開幕
最終コーナーでのキョウエイプロミスの抜け出しは完璧なものでした。
爆発的な瞬発力に頼ったわけではありません。騎手の的確なスパートのタイミングとコース取りが勝利へと繋がった騎手の妙が冴え渡った気持ちのいいレースでした。
ちなみに勝因になった政男トレーナーのアドバイスのくだりですが、あくまで『産駒であった』というだけの話なのですが、アローエクスプレスとモデルになった騎手との思い入れの強さを描きたくて創作してみました。
さて、次はあの伝説の菊花賞になります!