BEGINNING OF THE REVOLUTION 作:スタイニー
下り坂の攻略し、残すは最終コーナー。
ミスターシービーは果たして、完全なる勝利を手に出来るのか!?
さあ、ミスターシービー、19年振りの三冠か!?
ミスターシービー、19年振りの三冠か!?
「アタシは挑戦する!その挑戦に限界もルールもタブーもない!アタシの道はアタシが決める!エース見ててね!アタシは今、君を超える!」
自分の限界を超えることを望んだ時、アタシの視線の先が突然光った。そして、その光を抜けた先には鮮やかな緑の大地と澄んだ青空が広がっていた。
「あれっ?ここは…。さっきまではいつもの真っ白な空間にいたのに…」
いきなり目の前に広がった不思議な景色にアタシは戸惑う。アタシの『領域』の中はいつも真っ白で、何もない。ついさっきまでもそうだった。だけど、いつのまにかアタシの『領域』には景色が広がっていた。
「よくわからないけど、気持ちがいいから、いっか。なんか、凄く走りたい気分だし!」
訳のわからない状況にアタシは戸惑ったけど、走りを止めようとは思わなかった。だって、気持ちが良すぎるんだもん!晴れ渡る空に心地いい太陽の光と爽やかな風がそこにはあったから。その景色はアタシが今まで経験したことがないくらいに気持ちが良くて、アタシはどこまでも走りたくなっちゃったんだ。
それで結局、走り続けた。
いくつもの谷を下り、いくつもの丘を登る。一体、どれくらいの時間と距離を走ったんだろう。身体が疲れることもなくて、走る楽しさ以外は何も頭に浮かばなくて、全てを忘れるくらい夢中で走った。そして…
「ハッ、ハッ、ハッ…海だ…」
走り続けた先には大地の終わりがあって、その先には大海原が広がっていた。
「ここは…どこだろう…もう、この先はないのかな…」
「君もこの景色を求めて旅して来たのか?」
「えっ?」
突然、アタシは後ろから声をかけられた。それまで周囲に人影など見当たらなかったはずなのに。驚いたアタシが振り返るとそこには1人の見知らぬ男性が立っていたんだ。
「いや、そういうわけじゃないよ。今、アタシは菊花賞に出てたんだけど、『領域』の中で集中がピークに達したと思ったら、なぜかここにいたんだ」
「菊花賞?領域?それは一体……」
質問をしようとした男性だったが、ミスターシービーの"何か"を見つけると、少し驚いた表情をしながら、フリーズしてしまった。
「ん?何かアタシの顔についてる?」
それを察したミスターシービーは男性に問いかける。
「いや、その耳は?君は『人間』じゃないのか?」
驚いた表情のまま、男性は気になったことをミスターシービーに尋ねる。
「えっ?ああ、これ?これはアタシの『耳』。アタシは『ウマ娘』だからね」
男性に問われたミスターシービーは耳をピコピコと動かして、人間とは違うというアピールをする。
「『ウマ娘』?馬ではない…?しかし、容姿は人間そのものだが……。それに、さっきのフレーズ…『菊花賞』…『出ていた』……」
「あー、もしもし?大丈夫ですか?すごい難しい顔してるけど…?」
男性はとても難しい表情でブツブツ言いながら、考え込んでしまう。それを見たミスターシービーは少し心配そうに男性にどうしたのかと尋ねる。
「あるのか?そんなことが?しかし、ここはそういう世界だ…。あり得ないと断じるだけの根拠もないな……」
「ちょっと!大丈夫ですか!?」
「おっ、おお…すまない。考え込んでしまっていた」
至近距離での問いかけを無視するかのように考え込んでいた男性に再度声をかけるミスターシービー。すると、男性は我に返りミスターシービーに謝罪する。
「いや、いいですけど、そんなにアタシの顔におかしなところありました?すごい悩んだ顔で、ブツブツ言ってたから…」
「いや、君のような容姿の人間を初めて見たから、戸惑ってしまったんだ。そうだ。初対面で失礼かもしれないが君の名前を教えてくれないか?」
戸惑った表情のまま男性がミスターシービーに名前を聞く。
「えっ?アタシの名前はミスターシービー。トレセン学園の中等部の3年生です」
「"ミスターシービー"……フフッ、まさか"スシ屋の政"の話が現実におき……いや、これは現実ではないのだから、あり得る話なのか…」
名前を聞いた男性は急に笑い出し、再び何かを呟いている。
「えっ?スシ屋?現実?あり得る?それって、どう言う意味?」
「気にしないでくれ、こちらの話だ。しかし、この景色は素晴らしいだろう?まさに、『旅路の果て』に相応しい絶景だ。君もそうは思わないか?」
ミスターシービーの質問をはぐらかした男性が逆にミスターシービーに問いかける。ただ、その表情には先程までの戸惑いはなく、非常に落ち着いた表情になっていた。
「えっ?あっ、うん…。状況はよくわからないけど、この景色が綺麗っていうのはわかるよ。で、あなたは…」
ハッ、ハッ、ハッ、ワン!
「えっ?犬?可愛いー!あなたの犬?」
ミスターシービーが、ふと足元に目を向けると男性の傍には可愛らしい犬がいた。
「ああ、僕の愛犬だ。名を『ジル』と言う。犬種はコッカースパニエルだ。可愛いだろ」
男性は笑顔で少し自慢げに愛犬を紹介する。
「うん!で、アタシが言うのも変なんだけど、あなたはここで何をしていたの?」
「僕は今までジルと一緒にずっと旅をして来たんだ。僕自身がこの世に何を残せたかの記録を辿る旅だ。そして、ここが僕の旅路の終着点のようだ」
「はぁ…よくわかんないけど、そうなんだ。ところで、アタシは早くレースに戻りたいんだけど、あなたはこの場所からの戻り方を知らない?」
男性の不可思議な回答に今度はミスターシービーが若干戸惑いの表情を見せるが、それはそれとしてこの場所からの脱出方法を男性に聞く。
「ん、戻り方か?うーん、知っているわけではないが、たぶん時間が経てば自ずと戻るだろう。ここは世界の境界線だ。"今を生きる者"が長居ができる場所ではないからな」
「え?時間が経てばって、それはそれで困るなぁ〜。アタシ、レース中だから急がないと…」
「それも、おそらく心配しなくてもいいだろう。ここと世の中の時間は違う流れだからな。だから、焦る必要はないさ」
「そうなんだ。なら、まあいっか。そう言えば、あなたは誰?名前は?」
結局は何もわからずじまいなのだが、妙に安心感のある男性の佇まいに現状がどうでもよくなったミスターシービーが話題を変え、男性の名前を聞こうとする。
「僕に名前は"もう"ないんだ。だから、僕のことは君の好きに呼んでくれればいい」
「うーむ、名前がないなら仕方がない…。じゃあ、おじさん、ダンディーな雰囲気だから、"おじ様"で!」
名前がないと言う男性を不思議に思いつつ、それ以上の詮索を諦めたミスターシービーは男性の佇まいからインスピレーションを受けたのだろうか、アッサリと呼び方を決める。
「ああ、それでいい。ところで、ミスターシービー。君は皐月賞に勝った後、ダービーに勝てたのか?」
「うん!余裕で!今二冠を獲って、菊花賞に勝てたら三冠達成だね」
「そうか…。やはり、僕が感じた可能性に間違っていなかったな。そうだ、時間が来るまででいい。今まで君の辿ってきた人生についての話を聞きたい。話を聞かせてくれないか?」
「うん、別にいいよ!今はやることないしね。じゃあ、まずは…」
アタシはそんな感じでおじ様と話を始めた。
地面に座ったり、時々歩いたり、犬と遊んだり、途中にあった石に座ったりしながら、一体、どれくらい話してたんだろう。
おじ様が質問して、アタシが答えていく、"インタビュー"みたいな形式だったけど、おじ様との会話は凄く楽しかった。それこそ寺さんと話してるみたいで。まあ、寺さんと違うのは会話の表現がさらに独特で、それこそ誰かの詩や小説を聞いているようだった。そして…
「アハハ…。おじ様の感性?想像力?面白いね。今までほとんどいなかったんだ。アタシの感じ方とかを理解してくれる人がさ。特にほら『鳥が鳥だから飛んでいるのと同じように、ウマ娘に生まれたから走るだけなんだろ?』とか、めちゃくちゃ、わかる!」
「そうか、それはよかった。僕は他の人とは違う感性を持っているが、その感性が君にとって心地いいものであるなら幸いだ。しかし、君の感性も僕は好きだ。特にレースそのものを『舞台劇』としてとらえ、自らの走りを『自分を表現する』と例えた感性はとても共感できた。君は豊かな想像力を持っているね」
「ありがとうございます。まあ、でもそんな感性が持てるようになったのは、アタシのトレーナーの影響もあるかな。ただレースに勝つなんて面白くない。アタシがアタシの走り方で勝つから意味がある。アタシのトレーナーはそれを認めてくれた人なんだ」
「ほう、君のトレーナーも創造性に溢れた人なのだな。興味深い。しかしだ。僕は君に一つ思い違いをしていたことがある」
「思い違い?それは何?」
「君は僕が想像していたよりも、友達思いなのだな。僕と君は似ているからてっきり"孤高"な人物だと思っていたが、それは君に失礼な想像だった。謝罪させてくれ」
「えっ?いいよ、そんなの…。それにもともとのアタシはおじ様が言うように"孤高"いや、そんなかっこいいもんじゃない。ただの"独りぼっち"だったから…。でも、トレセン学園に来て、アタシは変わった。"今のアタシ"が友達に恵まれているだけだよ」
「なるほど、そうだったのか。しかし、友人に恵まれていると実感できることは素晴らしいことだ。君は充実した人生を送れているのだな。おっと、そろそろ時間が来たようだ」
「えっ?それってレースに戻れるってこと?」
「ああ、戻れる。まだまだ、君に聞きたいことはたくさんあるが、君はやるべきことがあるし、僕も向かわなくてはいけない次の場所がある。これで語らいはお開きだ」
「そっか、まあレースに戻れるのは嬉しいけど、おじ様と話す時間も名残惜しいなぁ〜。とりあえず、ありがとうございました!」
語らいが終わることを名残惜しむミスターシービーは深々とお辞儀をし、精一杯の感謝を表す。
「礼を言うのはこちらの方だ。かけがえのない時間をありがとう。さて、最後になるが、君のこれからの歩みについて聞きたい。君はこのレースの世界でこれから先、何を望むんだい?」
そんなミスターシービーに対して男性もまた感謝の意を表し、握手を求める。そして、ミスターシービーにこれからの人生の歩み方を尋ねる。
「アタシが望むのは……ライバルとの熱いレースをずっと続けること。いつまでも脚が動く限り、アタシはみんなと走り続けたい。それが、アタシの望みだよ!」
ミスターシービーは男性の質問に満面の笑みで答える。その望みに嘘や偽りは全くないようだ。
「なるほど、君はどこまでも純粋にレースを楽しむのだな。その真っ直ぐな姿、とても素敵だ」
「ありがとうございます!さてと、レースに戻り…あっ…」
「ん?どうかしたかい?」
「そういえば、アタシ困ってたんだ。ヤバいな…。もう、レースに戻るのに困りごとが何にも解決してなかった…」
「困りごと?それはなんだい?」
先程までの笑顔が一転したミスターシービーを心配した男性が事情を尋ねる。
「菊花賞の最終コーナーの攻略が不安なんだ。それまでは完璧に走れてたんだけど、最後だけは自信がないんだ。どうしよう…」
「なるほど…。僕がここで君に出会うことにはそういう意味があったのか…。なあ、ミスターシービー。僕は走り方のアドバイスは出来ないが、行き詰まった時の"心持ち"のアドバイスくらいなら出来る。もしよければ、聞いてはくれないか?」
不安そうにするミスターシービーとは対照的に、男性はこの出会いの"意味"を理解したようで、とても穏やかで落ち着いた表情でミスターシービーにアドバイスを申し出る。
「えっ?本当に!?ぜひ、アドバイスをお願いします!この最終コーナーを完璧に走り切るために、アタシはどうすればいいですか?」
男性のまさかの申し出にミスターシービーの顔が綻ぶ。そして、素直にアドバイスを求める。
「そうだな…。今のように物事に行き詰まった時、君は自分の『感性』を大切にした方がいい」
「自分の感性…」
「そうだ。僕も仕事で行き詰まった時は必ずそうしていたんだ。困った時ほど『思ったままに筆を取ろう』ってね。それが意外といい方向に向くんだ」
「なるほど、困った時ほど、『感じたままに、思うままにやれ』ってことか…」
「ああ、それでいいんだ。君に熟考は必要ない。たとえ、知識が増え、理解が深まり、数多の経験則を持っていたとしてもだ。なぜなら、君には僕と同じで……」
ザワザワ、ザーッ
「わかった。ありがとう、おじ様!おじ様のアドバイス通りにやってみるよ!で、帰り道は…」
「ここにこのままいればいい。もうすぐ、元の世界に戻るだろう」
「もうすぐって…」
[ニコッ] スッ
男性は微笑みながら、ミスターシービーの背後を指差す。
「さあ、行きなさい」
「えっ?後ろ?……後ろには海しか……」
ザザザー、ザパァーン。
「大丈夫。君ならやれる。だから、もう振り返ってはいけないよ。『うしろには夢がない』からね。さあ、ミスターシービー。見せてくれ、君が創る新しい時代を、新しい『夢』の在り方を…」
ミスターシービーを見送った男性は感慨深そうにそう呟いた。
この話に登場する『おじ様』ですが、一応、"ご本人"という設定で、『おじ様』の登場はアプリのネオユニバースシナリオのオマージュです。
実馬ミスターシービーをこよなく愛した『おじ様』が生前に叶わなかった心残りをウマ娘世界の中でだけでも叶えられたら素敵かなと思い、敢えて登場させてみました。
『おじ様』の言い回しなどは有名な名言や創作物のフレーズを使ってみましたが、私の創作力のなさのせいで、素材を十分に活かせていない気がします。そう考えるとシービーシナリオのストーリーを作られたプロのライターさんってやっぱり凄いなぁと思います。