BEGINNING OF THE REVOLUTION 作:スタイニー
そして、その時カツラギエースは……
春のクラシックレース。あたしはシービーに完膚なきまでに叩き潰された。
でも、あたしは挫けなかった。あたしにはまだやれることがあると思ってたから。だから、あたしはチームを移籍して、一から自分を見直して強くなろうって考えた。
そして、その努力は京都新聞杯でついに実を結んだ。
もちろん、シービーが本調子じゃなかったのはわかってる。でも、あれだけ遠かった親友の背中をついに追い越せたんだって思ったら、すごく嬉しかった。
次の菊花賞。アイツは必ず調子を取り戻す。だから、あたしは本気のアイツに勝つために今まで以上にトレーニングを頑張った。アイツの『ライバル』として恥ずかしくないレースをするために。本当の意味でアイツに勝つために。なのに……
「あたしはアイツの隣に立って走れるようになったと思ってた。なのに、なんだこの差は…。あたしとアイツとの差は
偉業を成さんと邁進する親友の遥か後方で、カツラギエースの心は遂に限界を迎えつつあった。
さあ、ミスターシービー先頭で4コーナーをカーブしていきます!
「あれっ?戻った…。いつの間に…。アレは一体なんだったんだろう…?夢?いや、でも、記憶はハッキリしてるし、身体にはあの場所の風の感触がある…」
あまりに不可思議すぎる出来事にミスターシービーは『あれは夢だったのか?』ということを一瞬思いはしたが、頭には記憶があり、身体には受けた風の感触が残っていた。
「まあ、いいや。今、気持ちは最高に晴れやかで不安は何にもないから。さて、最終コーナーだ。このコーナーは…」
自分の感性を大切にしなさい
「おじ様に教わったこと…。自分の感性…。アタシだけのやり方…」
ピキッ
「それって誰かから教わるモノじゃないよね…。正しいとか正しくないとかでもないよね…」
ピキッ…ピキッ…
「ああ、そういうことか…。おじ様の言った意味がわかったよ。アタシにはそういう力が
ピキ、ピキ、ピキ
「さあ、みんな見ていて。これが新しい"時代"の新しい"答え"だ!」
バリン!!
【天衣無縫】
君には僕と同じで『天衣無縫』という性質が生まれつき備わっている。
それは未知の事柄を"唯一無二"の方法で表現し、実現する力で、僕らが成す事柄は人々にとっての新しい『答え』になる。
まさに、
故に、人々は僕らのような存在を探し求め、僕らに『夢』を見るんだ。
大地が!大地が弾んでミスターシービー!!
大地が弾んでミスターシービーだ!!
「さあ、思うままに走ろう!誰が来たって関係ない!弾む心のままに加速すれば、周囲も一気に加速していく!熱を逃がすな、もっと脚を思いっきり踏み込むんだ、アタシ!!」
内からリードホーユーが来た!
内からリードホーユーが来た!
しかし、ミスターシービー、引き離す!!
「息を短く、吸って吐いて──走るんだ!風よりも、光よりも、速く速く、全てを脱ぎ捨てて前へ前へ!もう誰もアタシを止められない、誰もアタシを縛れない……!」
ミスターシービー!ミスターシービーが先頭だ!!
「この脚は止まらない!だって、だってーーー」
ミスターシービー、逃げる!逃げる!逃げる!
「心がそう望んでいるから!!!」
史上に残る三冠の脚!!
史上に残る三冠の脚!!
史上に残るこれが三冠の脚だ!!!
うおー
拍手が湧く!拍手が湧く!
ミスターシービー、19年振り!
19年振りの三冠!
19年振りに三冠!ミスターシービー!!
ミスターシービー!19年振りに三冠を達成いたしました!
驚いた!物凄いレースをやってのけました!!
ダービーに続いて、物凄いレースをしました!
坂の下りで先頭に立ったミスターシービー。
勝ち時計は3分8秒1!
史上3人目の三冠ウマ娘の誕生です!!
いやー、本当に素晴らしいレースでした。
私が今、この瞬間に立ち会え、お伝えできた事は本当に幸せです。
[やった…。最後をどうやって走り切れたかは、自分でもわからない。でも、アタシは誰にも抜かされずに先頭でゴールを駆け抜けた…。タブーを壊せたんだ…。最高の気分だ…]
ゴール板を先頭で通過したミスターシービーは少しずつスピードを緩め、勝利した感触を徐々に噛み締める。そして…
「よっっっしゃゃゃあああ!」
うおー
生まれて初めて雄叫びを上げていた。
それは今までに感じたことのない高揚感と達成感に全身を満たされたことによる喜びの表現のようだった。
そして、その雄叫びに反応した観客席からは地響きのような歓声が沸き起こる。
すげ〜ぜ!ハンパないなシービー!
三冠ウマ娘をこの目で見れた!ありがとう!
シービー!史上最強だぜ!
きゃー!カッコいい!シービー様!
観客席からは絶え間無い賞賛の声と盛大な拍手が湧き起こる。
「ハハッ、なるほど。これが『ファンの期待に応える』ってことか…。まあ、悪くない気分だね!」
盛大な拍手と歓声を浴びるミスターシービーはほんの少しだけ、期待に応えることの意味を理解したようだった。
「強いねぇ、やっぱり、強いねぇ…」
広大な大海原を見つめていた男性が"何か"を感じ取ると、嬉しそうな表情でポツリと呟く。
「おめでとう、ミスターシービー。姿かたちは変われど、やはり君は強く美しい。そして、確信したよ。君には僕が最後に愛した競走馬の名前と魂が間違いなく宿っている」
ワン!
「おお、ジルもそう思ってくれるか。ありがとう。永い旅路の果て、我が人生の終焉の間際で、僕が最後に愛した競走馬と語らうことができるとは、なんと幸運な去り際なのだろう。ただ…」
サラ…
「君と語らえたことは"幸運"ではあるのだが、それゆえに別の心残りが出来てしまったのはある意味で"不幸"だな。君と語らったことで、僕は君の物語の『結末』に興味を抱いてしまったからね」
サラ…サラ…
「『栄枯盛衰』をテーマとした物語には必ず『悲劇的なヤマ』が訪れる。残念ながら、いずれ君の物語にもそれは訪れるだろう。悲しいかな、それは物語の不文律であるから致し方ない。しかしだ……」
サラ…サラ…サラ…
「だからといって、君の物語の結末が『悲劇的』になるとは限らない。なぜなら、君は孤独な人物ではないからだ。もし、君が孤独な人物であれば、『悲劇』の結末は免れなかっただろうが、君はそうではなかった…故に…」
サラ…サラ…フッ…
君の物語の結末は"まだ"わからない。
ああ、こんなに結末が気になる物語がかつてあっただろうか?
人々が思う予定調和や固定概念を覆す物語。
それこそが『究極の物語』。
君の物語はまさに、そうなる可能性を秘めている。
ああ…君の物語を最後まで見ることが出来ないことのなんと名残惜しいことか……
「はっ…はっ…はっ…」
ミスターシービーが勝利の感触を肌で感じていた頃、カツラギエースは息を切らしながら、ようやくゴール板を通過していた。
「あたしの後ろにはエイトしかいない…。いや、着順なんてどうでもいいな…。そんなことより、一体あたしは何バ身差つけられたんだよ…」
まだ後方にいるアスコットエイトを確認したカツラギエースは自分が何着であるかを認識するが、それよりも先頭からつけられた着差の酷さに絶望する。
「一体、あたしのどこがシービーの『ライバル』なんだよ…。本番のレースで20バ身以上離されてブービー負けの奴が、そんなわけないだろ…。あたしはとんだバカヤロウだ…」
両膝をつき、悔しそうに地面を見つめるカツラギエースは自分の不甲斐なさと思い上がっていた自分を自虐する。そして…
「あっ!いたいた!エース!」
[シービーの嬉しそうな声…。ああ…あたしは今、アイツの顔をマジマジと見れない…いや、"見たくない"…]
打ちひしがれるカツラギエースの頭上から慣れ親しんだ爽やかな声が聞こえてきた。いつもなら笑顔で応えるカツラギエースだが、出会って初めてミスターシービーと向き合うことを拒絶したい気持ちに駆られていた。
「ねぇ、どうだった?アタシのレースは?アタシの人生の中でも最高のレースが出来たよ!」
「えっ…あ、ああ。すごかったよ…」
そんなカツラギエースの心情に気付けないミスターシービーがいつも通りの屈託のない笑顔で自身のレースの出来栄えを尋ねる。カツラギエースは一応質問に答えはしているが、その答えに中身は全くなかった。
「でしょ!でしょ!淀のタブーも完璧に攻略出来て、今アタシは最高の……エース、大丈夫?息遣いが荒いよ…救護室行く?」
「…いや、大丈夫だ。しばらくすれば落ち着くよ…」
尚も変わらずレースの出来栄えを聞いていたミスターシービーがようやくカツラギエースの息遣いの荒さに気付く。そして、救護室に行くことを提案するが、当のカツラギエースはそれを断る。
「そう…。ところでさ!アタシはエースに伝えたいことがあるんだ!」
「あたしに伝えたいこと?」
「うん!今日のレース、アタシは人生最高のレースが出来たんだ!」
「そうか…。よかったな…」
弾むような楽しそうな声色で話すミスターシービーに対して、カツラギエースは俯いたままの暗く淀んだ声色で絞り出すようになんとか会話をしている。
「それで、今日のレースが出来たきっかけがこの前アタシがキミに負けたレースだったんだ!あのレースでアタシは『努力』の大切さを知った。だから、今日のレースに繋がったんだ!」
「努力の大切さ?」
「うん!そう!アタシはエースを見習って今日までの1ヶ月、全力で『努力』したんだ。それこそ、トレーニングの意識からレース理論の勉強とか、メンタルトレーニングとか、普段みんながやってることを全部詰め込んだ!」
「1ヶ月?みんながやってること?」
「そう!その"成果"がこのレースだった。いやー、最高の気分だね!エースの背中がアタシを強くしてくれたんだ。だから…」
ミスターシービーが屈託のない笑顔でこの1ヶ月での『努力』を話す。その話し方には充実感と達成感に満ち溢れていて、この1ヶ月がミスターシービーにとっていかに有意義だったかを物語っている。ただ、その話を聞き終えたカツラギエースは……
「ハハハ…あーあ…。こんなの無理だな…」
「えっ?」
「
「エース…。どうしたの?キミらしくない…。なんでキミは…あっ…」
カツラギエースは俯いたまま絞り出すような悲しそうな声で呟く。普段のカツラギエースらしからぬ姿に不安を覚えたミスターシービー。そして……
「ごめん…1人にしてくれないか…」
[あっ…その目はアタシの"嫌いな"目だ…]
俯いているカツラギエースをミスターシービーが励まそうと顔を覗き込んだ時、ミスターシービーは見てしまう。
それはミスターシービーが小さい頃に嫌った目だった。対戦相手が絶望し、自分を拒否する目そのものだった。
「エース…どうしたの?アタシは成長していくキミと全力で競い合えると思って、キミを見習って『努力』して、今日のレースに臨んだんだ…。なのに、なんでそんな目をするの…。アタシを怖がって遠ざけるような目を…」
「そうか…。そうだよな…。あんたは全力でレースの準備をしただけなんだよな…。別に悪気があったわけじゃないんだよな…」
「エース?」
「ただ単純にあたしにはあんたの隣で走る
「何を言ってるの?エース…。そんなのいらないよ!アタシはキミと走れるだけで嬉しいんだ!幸せなんだ!だって、アタシの望みは……」
「ありがとう、シービー。"友達として"そう言ってくれることは嬉しいよ。でも、シービーみたいな天才はあたしみたいな凡人と走ってちゃダメなんだ…。シービーはもっと高みを目指せる。あたしなんかとは走らない方がいいよ…」
「そんなことない!アタシはエースがいるからここまで来れた!エースはあたしにとっての『ライバル』だ!だから、これからも一緒に…」
「ありがとう、そう言ってくれることも嬉しいよ。でも、ごめん…。あたしにはそれは無理なんだ…。ずっと、シービーの走りと才能に憧れて、あたしは頑張って努力してきたけど、それでわかったことは、『あんたには一生追いつけない』ってことだけだった…」
「そんな…アタシは…」
「まあ、学校では今まで通りに友達さ。それは変わらない。でも、レースに関して、あたしはあんたを追いかけるのはやめるよ…。あたしはシービーとはもう走らない…。じゃあな…」
「待って!エース!嫌だ!アタシはキミといつまでも一緒に……」
「あたしだって一緒に居たいよ!あんたはあたしの『親友』だから!だから、あんたに憧れてあんたの側にいることを望んだんだ!でも、あたしの"平凡な"才能はそれを許してはくれないんだ…。本当にごめん…」
そう言ってカツラギエースはミスターシービーのもとを去って行く。
「…なんで…エース…アタシはただ…」
そして、カツラギエースが去った後、ミスターシービーはその場にしばらく立ち尽くしていたが、そこには史上に残る衝撃的なレース運びで菊花賞を圧勝し、19年振りの三冠を達成したウマ娘とは思えない程に、悲哀に満ちたウマ娘が、ただ立ち尽くしているだけだった。
「シービー。素晴らしいレースだった。まさに私の求めたレースだったよ。本当に完璧だった。なのに、なぜお前はそんなにも"悲しそうな顔"をしているんだ…」
「…ねぇ、寺さん…。やっぱり、アタシは独りでしか走れないのかな…」
虚な目つきのミスターシービーが寺永に問いかける。
「…なぜそう思う?」
ミスターシービーの悲しげな表情の理由がわからない寺永はその理由を尋ねる。
「昔からそうだった。アタシが楽しく走るたびに、周りからは人が居なくなっていくんだ…。アタシが楽しく走るってことは誰かの楽しみを奪うことになるんだ…」
「競い合う相手がそう思うこともあるかもしれない。しかし、お前の走りを楽しみにする人たちもいるのは事実だ。お前もわかるだろ?この歓声、この熱気はお前の走りが創り出したものなんだ。だから、悲しい顔をするな。もっと誇らしく、喜んでいいんだ」
「そう…だね…」
寺永は悲しそうな表情のミスターシービーを諭す。それに対してミスターシービーは幾らかの理解を示してはいるようだが、心の底から理解を示すことは出来ていないようだ。
第44回菊花賞はミスターシービーが後続に3バ身差を付ける圧勝で勝利した。これにより、ミスターシービーは第3代目の三冠ウマ娘となる。
19年振りの偉業を成し遂げ、天を衝くかのような勢いのミスターシービーであったが、この数日後にトレーナーである寺永から突然の年内休養が発表される。
『理由は脚部の静養のため』と"表向き"には発表された。
この出来事が様々な波紋と歴史的な偉業の呼び水になるとは、まだ誰も知るよしはなかった…。
第1章はこれにて本当のお終いとなります。
さて、区切りのいいところなので、ここで私の物語における『領域』についての設定を大まかに解説します。
前提として、私の物語上の『領域』には覚醒の"種類"があります。
【犠牲的覚醒】
1回限定もしくは代償ありきの『領域』覚醒。瞬間的な覚醒のため、任意性・応用性・多様性はなく、一度覚醒すると二度と覚醒できない。原作の描写でいうと『ダービーのチヨちゃん』が該当。
【限定的覚醒】
特定状況・特定条件での『領域』覚醒。条件さえ満たせば任意で『領域』に入れるが応用性・多様性はなし。原作の描写でいうと『JCのオベイ』が該当。
【不完全覚醒】
自身のコンディションが一定に達すると『領域』に入れる。ただし、『領域』の存在自体を把握・理解はしていない(要は"名無し"の『領域』)ので、自在性・応用性・多様性はなし。原作の描写では『宝塚までのタマ』『東京大賞典のイナリ』『MCSのバンブー』『秋天のヤエノ』が該当。
【完全覚醒】
『領域』というものを自覚する(要は"名あり"の『領域』)ことで任意の突入が可能。『領域』に対する練度しだいで応用性や多様性を獲得できる。原作の描写でいうと『秋天以降のタマ』『有馬以降のオグリ』『函館以降のディクタ』『有馬のイナリ』『JCのフォークイン』とルドルフ・シービー・マルゼンが該当。
以上のような種類を設定しています。
差し当たって、シービーの『領域』の覚醒は
皐月賞【不完全覚醒】
↓
ダービー【完全覚醒(偽)】
↓
菊花賞【完全覚醒(真)】
という段階を経ています。
ちなみにダービーの覚醒を(偽)(=景色がない名無しの『領域』)としている理由はシービーの類稀なる天才性を表現したかったからで、他作品でいうなら更○剣八や学生時代の五○悟みたいなキャラと同じで、感覚だけで最強レベルというキャラ付けをしたかったのでこのようにしています。
これ以降も様々な『領域』が出てきますので、この設定を頭に思い浮かべながら読んでいただけるとより楽しめるかと思います。
さて、2人の物語はこれで一旦終わり、次回からは再びキョウエイプロミスの物語が再開します。よろしくお願いします。