BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

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ミスターシービーの三冠達成により幕を閉じたクラシック。
その喧騒が冷めやらぬ中、世間の注目は新たなレースに向けられる。

次なる大レースはジャパンカップ。

過去2回は大惨敗を喫している日本勢。
今回は選抜されたメンバーも日本の精鋭であり、URAの本気度が伺える。そんな中、生徒会室に意外な訪問者が来て…


世界に手をかけた勇士編 〜後編〜
第3回ジャパンカップ


 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「どうぞ」

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「失礼します。高等部3年。キョウエイプロミスです」

 

「担当トレーナーの高田です。失礼します」

 

「待っていました、キョウエイプロミスさん、高田トレーナー。こちらへどうぞ」

 

「はい」

 

ある日の午後。アタシは生徒会室に来ていた。

理由は……

 

「本日、URAより正式に第3回ジャパンカップへの参加要請の通知書が届きました。キョウエイプロミスさん。ジャパンカップへの出場を承諾していただけますか?」

 

「はい。謹んでお受けします。日本代表として、恥じない走りをします。よろしくお願いします」

 

理由は第3回ジャパンカップへの参加要請の通知書を受け取るためだ。

 

「高田トレーナーも承諾していただけますか?」

 

「ええ、もちろん。日本代表に選ばれたことを光栄に思います。よろしくお願いいたします」

 

「承諾ありがとうございます。URAの威信をかけて、共に戦いましょう!」

 

アンバーが傍にいたマサさんにも出場の許可を尋ねる。そして、マサさんも出場を承諾したことで、アタシのジャパンカップへの出場が決まったわけなんだけど……

 

 

 

 

「ハイ!会長!OKです!」

 

「よし、終わり!いやー、堅苦しいのは疲れるよねぇ〜。嫌になっちゃう!あっ、ピーちゃん、トレーナーさん、適当にソファでくつろいでくださいね!」

 

丸められたノートを生徒会役員のウマ娘が勢いよく打ち鳴らし、カットの合図を出すと、アンバーシャダイは肩の力を抜いていつも通りのニコニコとした表情に戻る。

 

「ちょっと、待って!アンバー、これは一体何なの?なんで、動画撮影したの?しかも、リテイク3回も!」

 

『万事問題なく終わりました!』という顔をするアンバーシャダイにキョウエイプロミスが鋭いツッコミを入れる。どうやら、先程までのやり取りはアンバーシャダイの一存でやり始めたことであり、実際はやる必要のないやり取りだったようだ。

 

「いやね、私も任期の残り少ないから、生徒会長らしいところを記録しておこうかなって思ってね!一応、天下のトレセン学園の生徒会長ですから!後々、就活とかに有利になるから、証拠の動画を作ろうかなってね!」

 

「…」

 

そんなキョウエイプロミスのツッコミにアンバーシャダイは私的な理由でこのやり取りと動画撮影をしたと堂々と言ってのける。そんなアンバーシャダイの太々しい態度にキョウエイプロミスは唖然として、フリーズする。

 

「いいじゃないか、プロミス。せっかくの機会なんだから、動画くらい」

 

「マサさん、言っておくけど、最近こんな感じで自己PR動画を作りまくってるからね、アイツ!いい加減、職権濫用すんな!あと、それにアタシとか後輩を巻き込むな!」

 

そんなやり取りを見届けた政男がキョウエイプロミスを諭すが、キョウエイプロミスは明らかな職権濫用であることを断罪する。

 

「えー、いいじゃん!あっ、よかったらピーちゃんも作る?ピーちゃんも生徒会役員だし、会長権限で全然OKだから!」

 

「アンバー!アンタねぇ〜」

 

断罪されたアンバーシャダイではあるが、キョウエイプロミスに罪を謝罪するどころか、逆にキョウエイプロミスにもPR動画の作成を持ちかける。そんなアンバーシャダイにキョウエイプロミスのこめかみには青筋がたっている。

 

「まあまあ、プロミス、落ち着けよ。そういえば、会長さん。今回のジャパンカップの他の日本代表メンバーと海外勢の出場メンバーはどうなっていますか?」

 

我慢の限界に達しているキョウエイプロミスを落ち着かせるため、政男が全然違う話をアンバーシャダイに振る。

 

「今のところ、中央からのメンバーは私とピーちゃんも含めて5名います。1人目は昨年の天皇賞ウマ娘で私たちの1つ下のメジロティターン。2人目は私たちの同期ハギノトップレディの妹で今年の宝塚記念勝者のハギノカムイオー。3人目は先日の天皇賞で1番人気だったタカラテンリュウです」

 

政男の質問に対して、アンバーシャダイは参加予定のウマ娘たちをスラスラと紹介する。

 

「ほー、天皇賞ウマ娘が3名も出るとはなかなかURAも本気の人選ですね。ちなみに地方からは?」

 

「地方枠は1名。南関東の大レースを多く勝っているダーリンググラスという子に参加要請をしています」

 

「なるほど…。ミスターシービーはやはり参加はしないのですか?」

 

「ええ。おそらくは…。変わらず打診はしていますが、担当トレーナーからは断りの連絡しかありません。正直、URAの面子や話題性を考えれば、ぜひ出ていただきたいのですが、ローテーション的に嫌がる気持ちもわかりますから、辞退するのは仕方がないと思いますけどね…」

 

どうやら、URAはミスターシービーのジャパンカップ出場を打診しているようだが、ミスターシービー陣営の辞退の意思は固いようだ。ただ、ミスターシービー側にも辞退したくなってしまうもっともらしい理由があることにアンバーシャダイは複雑な表情をする。

 

「まあ、私もそのような状況であれば、まずは辞退を考えますね。期待をかけたいのはわかりますが、レースの番組改編がないとクラシック組の参加はあまり見込めないでしょうね…」

 

アンバーシャダイの複雑な表情に対して、政男もまたトレーナーとしてミスターシービー陣営の辞退理由に一定の理解をしてしまえるようで、政男の表情もまた複雑だ。

 

「さて、話を戻しますが、今回の海外勢はどのようなメンバーなのですか?」

 

政男はミスターシービー陣営の参戦という解決の見えない話題を切り上げ、今現在の海外勢の参戦状況をアンバーシャダイに確認する。

 

「まず、フランスからは前年の2着で凱旋門賞を優勝し、その後アメリカで芝GIを3つ立て続けて制したオールアロングとオイロパ賞の勝者でセントレジャーステークス2着・フランスダービー3着の実績があるエスプリデュノールも出走を表明してくれています」

 

「おー、凱旋門賞ウマ娘が来るのですか?これは楽しみだ」

 

前年にジャパンカップに出場しているとはいえ、現役の凱旋門賞ウマ娘の参戦があることに政男は驚く。

 

「ええ、フランスからは2名の一流選手が参加します。それと今回は初めてイギリスからも選手を呼ぶことができました。2週間前に初のGⅠタイトルを獲り、3カ国の重賞で7連対中と勢いに乗るハイホークというウマ娘が参加します」

 

「レースの本番イギリスからも参戦ですか。ジャパンカップの認知もかなり上がって来ているんですね」

 

続け様に伝えられるイギリスからの初参戦の話に政男は再び驚く。ただ、その表情はとても楽しそうで、日本のレース界に世界の目が向き始めていることが嬉しいようだ。

 

「はい。秋川新理事長の想いが実りつつあります。欧州勢は他にイタリアのイタリア大賞、セントレジャーイタリアーノの勝者チェリオルーフォ、ドイツからはドイツ2000ギニーの勝者のトンボス、アイルランドからは前年のジャパンカップ4着でジョーマクグラスメモリアルステークス勝者のスタネーラが出走を表明しています」

 

「欧州からは全部で6名ですか。残りはアメリカとオセアニアからですか?」

 

「あとカナダからも参加があります。まずアメリカからは2名が選出となっています。1人は春にGIを3連勝したエリンズアイル。もう1名は前回のジャパンカップ勝者のハーフアイストが参加します。オセアニアからはオセアニアの中距離GIで連勝を重ねているマクギンティが参加。そして、カナダからはGII1勝でGI2着があるカナディアンファクターが参加予定です。以上が今回の海外勢の出場メンバーになります」

 

「いよいよジャパンカップも本格的に世界クラスの一流選手の参戦が見込めるようになってきたんですね。しかし、そうなると日本勢もますます頑張らないと、ホスト国としての威信にも関わります。少なくともここで勝ち負けに持ち込めるようなレースはしたいですね」

 

アンバーシャダイが欧州勢以外のジャパンカップ出場予定者を伝える。それを聞いた政男は先程までの楽しそうな表情から少しだけ真剣な表情となる。どうやら、政男は本物の一流選手を日本のレース界が呼び寄せることに対しての"責務"の重さも理解したようで、ただ手放しに喜んでいる場合でないことも理解できたからのようだ。

 

「おっしゃる通り、ホスト国の威信がなくなってしまえば、いずれレースの価値も下がってしまいます。なので、今回はなんとしてでも善戦以上の結果を残したい。URAとしてもその意向があるため、このような日本代表の面々となっていると思いますよ」

 

アンバーシャダイもまた政男の理解に同意する。その表情には先程までのおちゃらけた表情ではなく、千を超えるウマ娘たちを取りまとめるトレセン学園の生徒会長としての威厳に満ちた表情となっている。

 

「でもさ、参加する外国人のレベルがエグくない?凱旋門賞を勝ってる子いるし、GⅠだっけ?八大競走クラスのレースを3勝してる子もゴロゴロいるんでしょ?やっぱりシービークラスの子が出てこないと相手にならないような…」

 

そんな2人に対してキョウエイプロミスは対戦相手の実績の凄さに圧倒されているようで、その表情にはいくらかの不安が漂う。

 

「おっしゃる通り、三冠を達成出来るほどの力を持つものこそ、このジャパンカップで海外勢に対抗する最大の切り札なのです。そのような存在であるのに、国の威信を背負って戦うべき舞台に参加しないというのは、些か理解しかねますね」

 

「「「!?」」」

 

今回のジャパンカップについての話が盛り上がる3人。そんな中、突如として、その会話に割り込む声。驚いた3人がその声のする方を一斉に向くと……

 

「ご歓談中に失礼します。何度かノックはさせていただきましたが、反応がなかったもので、扉を開けさせていただきました。一報をいただければ、我々は後日でもよかったのですが、いかがいたしますか?会長殿?」

 

生徒会長室の扉の前には1人の壮年男性と1人のウマ娘が立っていた。

 

「あっ、もうこんな時間!も、も、申し訳ありません『平岡トレーナー』!!ピーちゃん、高田トレーナー。ごめんなさい。次の来客があるのをすっかり忘れてしまっていて、ジャパンカップのことはまた後日詳しく話そ。今日はこれで……」

 

その男性を見たアンバーシャダイは表情を一変させ、取り乱してしまう。そして、話を強引に切り上げようとする。

 

「おー、誰かと思えば、政男君か。いやー、直接会うのはかなり久しぶりだな。とはいえ、君の名は時々耳に挟んでいるよ。さすが、三平さんの息子だ。立派にトレーナーとしての勤めを果たしているな」

 

そんな、アンバーシャダイの様子に動じることなどまるでしない男性は、ふと目線を合わせた先に政男の姿を認めると、先程までの落ち着きある冷静な表情を崩し、楽しげに懐かしむように政男の名を呼ぶ。

 

「平岡さん、ご無沙汰しています。[平岡弘二…。なぜ、この人がこんなところに…]そう言っていただけて光栄ですが、まだまだ若輩の身ですから、これからも精進していきます。ところで、今日はどのような用件でこちらに?あなたほどの方が、生徒の学舎構内に入られることなかなかないかと思いますが……」

 

名前を呼ばれ、話しかけられた政男も平静を装ってはいるものの、居るはずのない人物が目の前にいる驚きと不可解さに戸惑いつつ、その男性になぜここにいるのかを尋ねる。

 

「いや、今日は私が"担当する"ことになった生徒を現生徒会長であるアンバーシャダイ君に顔通ししておこうと思ってね」

 

「平岡さんが担当を持たれるんですか?ずいぶんと久しぶりなことですね。彼女はそれほどの逸材なのですか?」

 

「そうだな…。私が管理する選手であれば、歴代で一番だろう。故に、来年はクラシック三冠を獲得するつもりで今から育成計画を立てている」

 

どうやら、男性の傍にいるウマ娘がその担当のようだ。

 

「そうですか。それは素晴らしい逸材ですね。ちなみに名前はなんと?」

 

「ルドルフ、あいさつを。彼は高田政男トレーナーだ。彼自身も素晴らしいトレーナーだが、彼の父君に私は昔、大変お世話になっていてね。いい機会だから、顔を覚えておいてもらいなさい」

 

「はい。はじめまして、高田トレーナー。中等部2年のシンボリルドルフと申します。以後お見知り置きを」

 

「"シンボリ"ルドルフ…。いやいや、これほど高貴な家柄の君が、私のようなトレーナーに畏まることが申し訳ないな[噂には聞いていたが、彼女が名門シンボリ家の大器か。確かデビュー時の担当は澤部だったはずだが、平岡さんが直々に見るということは、本気で『世界』を目指せるだけの逸材ということか…]」

 

『シンボリ家』と『平岡弘二』、その二つのワードから政男はすぐに彼らの目論見が『世界進出』にあることを見抜く。

 

「いえ、そのようなことをおっしゃらないでください。家の名が通っているのは過去の一族の者たちの功績であり、私自身はまだ何も残せていない弱卒です。故に、長くこの世界に身を置き、個人として実績を上げているあなたと私では雲泥之差というものです」

 

「これはまた、中等部とは思えないほどの風格のある子ですね。デビュー2連勝がいずれも完勝だったというのも頷ける。次はいよいよ朝日杯ですか?」

 

いくらかの会話からでも伺える年に不相応な風格を纏うそのウマ娘に政男は感心するとともにほんの少しだけ畏怖を覚えたようだ。

 

「いや、朝日杯には出ない。次は11月27日のオープン競走に出る予定だ」

 

「朝日杯を回避ですか?何か不安材料でもあるのですか?彼女なら十分に勝てる可能性があるかと思いますが?」

 

「不安材料などはないさ。出場すれば100%ルドルフが勝つだろう。ただ、私とすれば、重賞レース1つを勝つことよりも、『11月27日』のレースに出ることに意義があるというだけだ」

 

「11月27日のレース?はて、その日はジュニア級で重要度の高いレースはなかったと思いますが…」

 

「確かに"ジュニア級"では重要なレースはないな。その日のメインレースは『ジャパンカップ』だからな」

 

「そうですね。レース自体もただのオープン競走となれば、彼女ほどの選手には役不足なレースかと思いますが、そのレースをわざわざ選ばられた理由はなんですか?」

 

真意が読めない政男が平岡にダイレクトな質問をぶつける。

 

「私が目的としているのはルドルフの『お披露目会』だ。ジャパンカップの観戦や視察のために来場した海外の来賓たちにルドルフの走りを見せつけることが目的だ。『日本にも海外に通用するウマ娘がいる』ということを知らしめたいのだ」

 

質問をぶつけられた平岡は包み隠すことなく、その理由を話す。

 

「ハハハ…確かに、その日のレースに出場すれば、彼女の走りは確実に海外の方の目に留まる。やはり、平岡さんのお考えになられていることは視野が広い。私もまだまだです」

 

理由を知った政男は平岡の考えていることが一トレーナーが考える視野の広さではないことに驚くてともに感心する。

 

「そんなに謙遜することではあるまい。私の行動は人によっては"風変わり"としか思われないさ。ともかく、私はルドルフと共に世界を目指して戦う所存だ。だからこそ思うが、19年振りの偉業を成し遂げながら、ジャパンカップに出場をしないミスターシービーには些か失望した。三冠を成せるだけの才がありながら、休養を優先するとは、国の威信を軽く見ている証拠だ。舐めているな」

 

政男のリアクションに謙遜する平岡であったが、今回のジャパンカップのミスターシービーの辞退騒動の話題に触れると、一変して口調が厳しくなる。

 

「いや、そ…」

「おっしゃることはわかります。私も出場してほしいと思いますから。とはいえ、この時点で安易にミスターシービーを批判してしまうのは如何なものでしょうか。私は陣営の判断に"表面的にでも"理解を示しておいた方がいいように思いますが」

 

平岡の言い方に不快感を覚えたキョウエイプロミスが物申そうとした瞬間に政男が遮るように自身の意見を述べる。

 

「理解を示す?なぜだ?」

 

意見を述べてきた政男に少し驚く平岡はその理由を尋ねる。

 

「平岡さんもお分かりのように八大競走クラスのレースを中1週で2つ走り切ることはかなり大変なことです」

 

「それは理解できるが、それでも出場辞退するという判断は軽率だと思わないか?」

 

「私もそれは理解いたします。しかし、平岡さんのようにクラシック三冠を獲得した上で、クラシック級でのジャパンカップ"制覇"をお考えの方であれば、日程的に万全の状態で臨めた方がいいと思うのです。故に、あなたがミスターシービーを大々的に擁護することで、"来年の"ジャパンカップの番組改編の動きを促すことができるのではないかと思いましてね」

 

威厳ある風格と口調の平岡に対して政男は怯むことなく、さらに堂々と意見を述べる。

 

「フフッ…。確かにそれは一理あるな…。来年、ルドルフはミスターシービーと同じ状況を辿る。私が強く擁護しておけば、来年有利な条件を引き出せる可能性はあるか…。いやいや、レース前に『外堀から埋めていく』というのは私の常套手段だが、これは一本取られたな。『長距離の魔術師』の異名がつけられるほどに場数と実績を上げてきた手腕は伊達ではないということか?」

 

政男の堂々とした振る舞いと、理にかなった意見に平岡は感心し、考えを改めるとともに政男を褒め称える。

 

「いえいえ、滅相もない。平岡さんの実績と手腕に比べれば、私の異名など取るに足らないことですよ。さて、我々の用事が済みましたので、これで失礼いたします。では。プロミス、行くよ」

 

平岡に褒められた政男ではあるが、それに動じるなく謙虚な反応をすると、これ以上この場に留まるべきではないと判断し、話を切り上げようとする。

 

「う、うん。失礼します…」

 

「そういえば、先日の天皇賞。内の掬い方は素晴らしかった。あれは政男君の采配か?」

 

そんな政男の思惑を見透かしたのか、最後とばかりに先の天皇賞の話題を振る。

 

「ええ。ただ、私はあくまで『可能性』を彼女に伝えていただけで、『判断』し『実行』したのは彼女です。讃えるなら彼女をお願いします」

 

「なるほど。父君の(・・・)指導がよく行き届いている…。隣の君がその天皇賞ウマ娘かな?君の名前は確か…」

 

「キョウエイプロミスと言います[ぺこり]」

 

「ああ、そうだ。キョウエイプロミス君。今年のジャパンカップは君も日本代表に選ばれているんだろ?健闘を期待しているよ。日本代表として頑張ってくれたまえ」

 

急な話題を振られた政男だが、これも冷静にかつ謙虚な物言いと分別で切り抜ける。その姿に平岡はさらに感心したのか、それ以上の詮索はしなかった。

 

「はい。頑張ります。ありがとうございます」

 

「では、平岡さん。また」

 

「ああ。また」

 

 

 

バタン

 

 

 

大ベテランとの緊迫したやり取りをパーフェクトに切り抜けた政男は堂々と生徒会長室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、マサさん!アイツなに?何も知らないのに、いきなりシービーを批判してさ!偉い人なんだろうけど、感じ悪っ!」

 

部屋から出て数秒後、キョウエイプロミスが平岡に対しての不満をぶちまける。

 

「まあまあ、そんなに怒るなよ。あの人もお前とミスターシービーとの交友関係まではわからないし、あの人のミスターシービーに対する感情も世間に漂っている論調の一部だ。それほど腹を立てることではない」

 

「だけどさ〜、なんかムカつくじゃん!で、あの人は誰!?」

 

キョウエイプロミスを宥める政男だが、当の本人はヒートアップしたまま、平岡が何者であるかを政男に尋ねる。

 

「彼は平岡弘二という。中央のベテラントレーナーだ」

 

「平岡弘二?聞いたことない名前だけど、すごい人なの?」

 

「まあ、彼が今のトゥインクルシリーズを作った人といっても過言じゃないからな」

 

「えっ?マジで?そんなすごい人なの?全然顔知らないんだけど…」

 

「まあ、ちょうどプロミスが入学する5年前くらいから、表立った顔出しはしなくなったからな。あの人はトレーナーとしてももちろん一流だが、日本のレース界にエンタメ要素を持ち込み、日本にヨーロッパとは違うレース文化の方向性を指し示した人だ。そういった意味で言えば、今の彼はトレーナーではなく、『プロデューサー』としての側面が強い。お前が知らないのも無理はないな」

 

「えー、アタシあの人に睨み効かせちゃったけど、大丈夫かな?」

 

政男がザックリとではあるが、平岡についての解説をする。その話を聞いたキョウエイプロミスは自分が噛みついた相手が想像以上にレース業界の大物であったことに驚き、自分がいかに身の程を弁えない思いを抱いてしまったのかと後悔する。

 

「まあ、大丈夫だろう。良くも悪くも彼にとって私たちは一トレーナーと一選手としてしか映っていないだろうからな。とはいえ、彼に意見や討論を軽々しく吹っ掛けるべきじゃあないな。彼が本気を出せば、反感を持つ選手とトレーナーを簡単に"自主退学"と"辞職"に追い込めるだけの絶大な影響力はあるからな」

 

「ちょっと、そういう話しないでよ。夜寝れなくなるじゃん!」

 

無知ゆえのやらかしにビビるキョウエイプロミスに対して、彼女を安心させようとする。ただ、キョウエイプロミスのビビりを面白がっている節がある政男は問題ないと言いつつ、"仄かな"脅しをいれて遊んでいる。

 

「本当に大丈夫だよ。ただ、睨んだ程度で排除はされないさ。それよりもだ。あの人と一緒にいたシンボリルドルフという子が気になる。名前の通り、名門シンボリ家に連なる者なのだろうが、彼女の担当が平岡さんとなると、これはかなりの大ごとだ」

 

一通りの遊びに満足した政男が口調を一変させる。どうやら、もっと熟考した方がいいことがあるようだ。

 

「大ごと?何が?」

 

「さっきも言ったが平岡さんは今、トレーナーとしての活動をほぼしていない。彼は選手のスカウトや選定くらいは今も行うが、選手育成は傘下のトレーナーたちに一任しているからだ。そんな彼が自ら指導するとはシンボリルドルフという子は相当な資質を秘めた子なんだろうからな」

 

雰囲気の変わった政男に対して、キョウエイプロミスはその真意を問い、政男はそれに対しての説明をする。

 

「ふーん。まあ、それは何となくわかったよ。そもそもシンボリ家がすごい家柄ってのは知ってるし、中2のくせに風格がヤバいから、並の選手じゃないのはわかるけど、マサさんの言い方だとそれ以上にヤバいことがあるみたいじゃん。一体、何がヤバいの?」

 

「あの人たちが目指しているのは恐らく『世界制覇』だ」

 

「世界"制覇"?えっ、マジで」

 

政男の説明になんとなくの理解を示したキョウエイプロミスだったが、次に出てきたワードに関してはさすがの彼女も驚きを隠せない。

 

「たぶん、マジだ。そもそも、シンボリ家と平岡さんは昔から協力関係にある。シンボリ家も平岡さんも『海外志向』の第一人者だからな。お前も知っているだろうが、その第一人者が『スピードシンボリ』だ」

 

「あー、聞いたことあるよ、その人。史上初のグランプリ3連覇のレジェンド選手だよね。でも、海外のレースは全然ダメだったっていうのも聞いたことがあるけど…」

 

スピードシンボリ。

現役時代は選手として史上初のグランプリ3連覇など、多数の重賞で勝利を上げ、日本から初めて『凱旋門賞』の頂を目指した海外レース挑戦のパイオニア。 現在はURAの海外事業部を管轄している、日本レース界のレジェンドウマ娘である。

 

ただ、キョウエイプロミスが言うように日本のウマ娘を代表して果敢に海外遠征に挑戦した偉業を讃えられつつも、慣れない環境に苦戦し、凱旋門賞では惨敗してしまったという認識も持たれているという悲しい一面があるのもまた事実であったりする。

 

「まあ、海外レースで成績をあげられないのは仕方がないだろう。今でも私たちと海外勢にはかなりの差があるのに、今から10年以上も前に挑んでいるのだからな」

 

一般的に広がってしまっているスピードシンボリに対しての認識に心痛めているのか、政男が少しだけ寂しそうな表情で彼女の弁明をする。

 

「それはそうだよね。国内ですごい実績を残せたから世界に挑戦できたんだから、揚げ足をとるばっかりじゃ、スピードシンボリさんが報われないよね。じゃあ、今回のシンボリルドルフって子はそのリベンジってことかな?」

 

政男の心情が理解できるのか、彼女自身が残した実績もリスペクトするべきということはキョウエイプロミスもわかっているようで、それを踏まえた上での『リベンジ』に平岡たちが目を向けているのではないかと推測する。

 

「おそらくそうだろうな。あの子にかけられた期待はそういった類のものなんだろう。だから、彼らは日本国内でタイトルを獲るということにこだわりも価値もほとんどないのだろう」

 

「ふーん。まあ、そんな志を持った雲の上の人たちは勝手にやっててくださいよ。アタシらはチマチマとやってますんでって感じだね」

 

しっかりとした信念があった上での計画に尊敬の念を抱くキョウエイプロミスではあるが、それが自分のはるか雲の上の壮大な思惑の上で成り立っていることも理解したのか、それ以上の詮索はばっさりとやめてしまっている。

 

「まあ、それくらいで思っておけばいいさ[とは言ってはみるが、情報収集はしておいた方がいいな。平岡さんが表立った活動をしなくなった時期から怪しい噂も目立つようになった。さすがに、私たちにまで影響が出ることはないだろうが、警戒はしておく方がいいか…]」

 

キョウエイプロミスを肯定する政男ではあるが、平岡の動向については警戒心を高く持つことを内心では決めたようだ。

 

「とりあえず、ジャパンカップの出場が決まって、後10日。出場メンバーみんなでトレーニングするってことだけど、アタシはどんな感じで調整していけばいい?」

 

「とりあえず、軽めのランニングを続けるくらいでいいだろう。疲労と脚の問題もあるからな。まあ、天皇賞での一叩きでコンディションはよくなり続けているからそれの維持に勤めてくれ」

 

「わかった。とりあえず、それでいくよ」

 

 

 

 

 

 

 

「Dan.There are five days left until the race, so how long are we going to keep training her by "walking"?Isn't it about time to start running?《ダン。本番まであと5日だが、いつまで"歩き"での調整を続けるんだ?そろそろ、走らせた方がいいんじゃないか?》」

 

「No, don't train her by running, just keep training her by walking.《いえ、走りでの調整はせずに、歩きだけの調整を続けてください》」

 

「But she doesn't need to do six hours every day, right?So why not just do two hour of regular training?《いや、しかし、毎日6時間もする必要はないだろ?だったら、2時間だけ通常のトレーニングをすれば良いじゃないか?》」

 

「I understand how you feel, but this is best for her. Thank you《気持ちはわかりますが、彼女にはこれが一番いいのです。よろしくお願いします》」

 

「…Got it.See you!《ったく、わかったよ。じゃあな!》」

 

 

 

ブツン

 

 

 

「おい!もう歩かなくていいぞ。もう2時間も歩いてる。時間も日本(ここ)じゃあ"真夜中"だ。チーフトレーナーの指示だっていっても、こんな無茶なトレーニングに従う理由はねぇ!もう寝ろ!」

 

「いえ、そういうわけにはいきません。ダン先生のご指示ですから」

 

「ったく、馬鹿正直に従いやがって。あの若造は今いないんだ。少しくらい指示を聞かなくたって大丈夫だろうよ!つーか、こんなトレーニング方法は聞いたことがない。歩行だけのトレーニングをすること自体はよくあるが、"6時間"もやるなんて聞いたことがない!コンディション調整と筋肉痛をほぐすためって言っても限度があるだろ!?」

 

「あの方の指示は私のための指示です。たとえ、どんなに不可解でも私は信じてやり遂げます」

 

「あーあ、わかったよ。好きにしろ!新進気鋭で最近ようやく実績が付いてきたっていっても、こんなやり方は見たことねぇーわ。悪くは思いたくないが、付き合いきれん。じゃあ、俺は寝るから。なんかあったら呼んでくれ」

 

「はい。おやすみなさい、ラウスコーチ」

 

そう言って男性はグラウンドから引き上げていった。

 

「よし。後4時間…」

 

 

 

 

ごめんね。

今回、私は日本について行くことが出来ない。

2回目とはいえ、異国で心細い思いをさせてすまない…。

 

 

大丈夫ですよ。

ラウスコーチがいるなら心強いですし、今先生は大切な時期ですから、主戦場(ヨーロッパ)に残っていた方がいいはずです。私は私として、頑張ってきますね。

 

 

しかし……

 

 

大丈夫です。任せてください。

残り少ない現役生活。

私はどこのどんなレースであろうとも、あなたに一つでも多く勝利を捧げたい。それが、何の取り柄もない、私を見出して鍛えてくれたあなたに報いる唯一の方法ですから……

 

 

 

 

「大丈夫です。先生。私はあなたの未来のために、このレースを必ず勝ってみせますから…」

 

 

 




みなさん、お待ちかねの会長(予定)登場です。
この物語で本格的には関わってくるのはまだ先ですが、史実ではジャパンカップ前の時点で2連勝の成績を上げています。

そして、史実での有名なエピソードですが、"あえて"朝日杯には出ずに、ジャパンカップ当日のオープン競走に出場する流れになります。

さて、私の物語での描く会長(予定)ですが、それはもうバチバチの『武闘派』です。ダジャレのダの字も出ないくらいのバチバチの会長(予定)のヒール役に期待してください!
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