BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

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生徒会長であるアンバーシャダイからの依頼を受けたピーちゃん。

『依頼を受けたからには』という思いで黙々と取材をこなしていたが、ある2人と出会ったことでピーちゃんの気持ちに変化が出始める。


ミスター・サラブレッド編
運命の出会い〜前編〜


 

 

「とりあえず、大体の子の取材は終わったかな…」

 

アンバーシャダイから取材を任されて1週間。ピーちゃんは約束通りに取材をこなしていた。

そして、その取材の中で、ピーちゃんは下の世代の実力を垣間見て思う。

 

 

 

 

確かにこの子たちなら、私たちとは違う何かを生み出してくれるかもしれない…

 

 

 

 

リストアップされていた子たちの実力は総じて高く、何人かの子は夏シーズンになれば、今のシニア級とも互角に戦えるんじゃないかと思えるほどのポテンシャルを秘めている子もいた。

 

加えて、ピーちゃんに驚きと期待を抱かせたのは、世代全体のモチベーションの高さだった。

 

ジャパンカップ惨敗や改革に対する戸惑いの影響もあり、シニア級の選手たちの多くが高いモチベーションを保てなくなっている中、この世代の子たちはそんな風潮に流されることなく、それぞれがそれぞれで目標や目的を持ってトレーニングに、レースに臨んでいた。

 

 

 

では、何故この世代の選手たちは高いモチベーションを保てているのか?

 

 

 

その答えの一つが、最近就任した新理事長が推し進めている大改革にある。

 

そもそも、日本のトゥインクルシリーズというものはレース体系こそ、イギリスの近代レース体系に基づいて施行されているが、その意義や定義などは日本独自のものだ。

 

新理事長はそういった日本独自かつ古い慣習をなくすことで、それまでの閉鎖的な雰囲気を排除し、日本のレース文化が世界に認められるようにしたいと考えている。

 

この改革が日本のレース界にどのような影響を与えていくかはまだわからないが、少なくとも今年のクラシック世代にとってはこの改革がモチベーションを高める一因になっているという事実がある。

 

特に好意的に見られているのが、来年から施行される『グレード制の導入』とそれに伴う『新レースの設立』だ。

 

そもそも、日本のレース界には成績優秀者を決めるための『目安』として『八大競走』という最高格付けのレースが作られている。ただ、それ以外のレースは実績上位者が出場する『重賞』、実績のない者たちが出場する『条件戦』の2つのカテゴリーしかない。

 

しかし、来年からはそれが廃止され、『重賞』に関しては海外と同様に『グレード制』というレースの重要度を表す明確なランクがつけられる。

 

具体的には3つのレベル『GⅠ>GⅡ>GⅢ』といった感じで、重要度が示され、わかりやすい格付けをすることで出場者のレベルの一定化する目的もある。

 

そして、『グレード制』が採用されることで、それまで『八大競走』と呼ばれていた最高格付のレースが『GⅠ』という呼称に変わり、レース数も8つから15レースに増加する。

 

そもそも、八大競走の内の5つのレースはクラシック級の時期にしか出れず、シニア級になると3レースしか目標にできるレースがない。一応、2年前にジャパンカップが設立されたことで目標にできるレースが4つに増えはしたが、それでも少ないことには変わりない。

 

加えて、シニア級の目標レースの条件も2400m以上のレースしかないため、2400m未満の距離を得意とする選手からすれば目標レースが無いに等しかった。

 

しかし、改革により来年からはシニア級が目指せるレースとして、2400m・2200m・2000mのレースがそれぞれ1つずつ、1600mのレースが2つ新たに追加されるため、適性距離のせいでモチベーションを失っていた選手にも活躍の場が与えられるようになる。

 

そういった状況なので、この改革の恩恵を一番受けられる今年のクラシック世代は改革に好意的で、高いモチベーションを持てるのはある意味では当たり前だった。

 

「さてと、あと1人でインタビューも終わりなんだけど、どこにいるんだろ…」

 

取材が順調に進み、最後の1人をピーちゃんは探していた。しかし、なかなか見つからない。学園の隅々まで探しても、沢山の人に聞いてもその1人が見つからないし、手掛かりすらも見つからない。

 

そんな状況にピーちゃんはほとほと困り果てているが、一方で、最後の1人にはぜひ会いたいという気持ちが、見つからない状況が続けば続くほどに強まっていた。

 

 

 

同期の子の中で、一番気になる子は誰ですか?

 

 

 

ピーちゃんがインタビューして行く中で、取材対象の子たちに必ず聞く"ありきたりな"質問"対する答えにピーちゃんは興味を持った。

 

何故なら全員が必ず同じ名前を口にするからだ。その名は…

 

 

 

 

ミスターシービー

 

 

 

 

ある選手はライバルとして、またある選手目標にしたい選手としてなど、様々な理由があるものの、ミスターシービーという子の名前を全員が必ず挙げられることで、ピーちゃんの興味を持った。

 

 

 

 

同期の全員から注目される子はどんな逸材なのか?

 

 

 

 

「ん〜、ここもいないのかぁ〜。も〜、どこにいるの?ミスターシービー…。もしかして、そんな子は本当はいないんじゃないの?」

 

今日も今日とて、学園内を探してピーちゃんは彷徨い歩くが、全く見つかる気配はない。そんな状態なので、ピーちゃんは『本当はミスターシービーなんて子はいないのではないか?』などというありえない結論に至りそうな境地に片足を突っ込んでいる。

 

「もう、めんどくさいからアンバーに言って、校内放送で呼び出してもらおうかな…」

 

「なあ、シービーを探してる生徒会の人って、アンタか?」

 

「えっ?そうだけど、君は…」

 

途方に暮れる彼女の後ろから突然声がかかる。呼ばれた方に彼女が振り返るとそこには黒髪のウマ娘が豪快な笑顔で立っていた。

 

「あっ、あたしカツラギエースって言います。シービーの友達です。なんか、クラスメイトから『シービーを探してる生徒会の先輩がいるから手伝ってあげたら?』って言われたんで、その先輩を探してました。あなたのことですよね?」

 

カツラギエースは自分の簡単な自己紹介をした後に、ピーちゃんに確認をとる。

 

「あっ、うん!そう!まあ、本当は生徒会のメンバーじゃないんだけど、校内新聞の記事のために今年のクラシック級の有望株に取材して回ってて、ミスターシービーって子だけ見つからなくて困ってたんだよね…」

 

「そうだったんですか。じゃあ、ちょうどいいですね!あたし、これからシービーと併走の約束があるんですよ!あたしについて来てくれればたぶん会えますよ!」

 

「えっ!?ホントに?やったー!ラッキー!」

 

「とりあえず、約束の時間にはまだ1時間くらいあるんで、どっかで時間潰しましょうか、先輩」

 

「あっ、うん!」

 

そう言って、ピーちゃんとカツラギエースは約束の時間まで時間を潰すことになる。その中で、ピーちゃんはカツラギエースというウマ娘を知っていく。

 

「へー、そんな遠い田舎から君は出てきたんだ。どう?都会の暮らしは?」

 

「いやー、わかんないことだらけですよ!この間なんか、電車の乗り換えを通りすがりの小さいウマ娘の女の子に教わっちゃいました!」

 

カツラギエースは自身の失敗談を豪快に笑いながら話す。

 

「なるほど、見事なまでに典型的な田舎者だ。それで、君はどうしてトレセン学園に来たの?」

 

ピーちゃんはカツラギエースのテンプレート的な田舎者エピソードに苦笑いしながら、カツラギエースにトレセン学園に来た理由を尋ねる。

 

「あたしがここに来たもともとの理由は、『自分の強さを証明する』ためです。田舎っていう小さな世界で育ってきたあたしでも、デッカい何かを成し遂げられるんだって故郷のみんなに証明したくて、あたしはトレセン学園に来ました!」

 

そう力強く宣言するカツラギエースの表情にはいっぺんの曇りもない。

 

「自分の強さを証明するためにか…。ちなみにそうなりたいと思ったきっかけは何かあるの?」

 

「きっかけは地元に時々来る出張レース教室でした。そこでレース経験を積んだウマ娘たちと地元のあたしらが対決したんですけど、あたしら地元組はコテンパンに負けたんです」

 

「それは仕方がないよね。レース経験があるとないとじゃあ、結構差が出るからね」

 

「あたしもそれは思いました。だから、見返してやるために『みんなで練習しよう!』って言ったんです」

 

「おお、いいじゃん!で、リベンジできたの?」

 

「いや、できませんでした。っていうか、みんな、戦うこともしませんでした。みんな実力差に怖気付いちゃって、見返そうなんて誰も考えもしなかったんです…」

 

そう語るカツラギエースの表情には少し悔しさが滲んでいる。

 

「そうなんだ…。で、君は諦めなかったの?」

 

「はい。あたしは諦めたくなかった。だって、田舎だからとか、生まれ持ったものを理由で諦めてたら何もできないじゃないですか。それで思ったんです。あたしがトゥインクルシリーズで実力を証明して、地元のみんなに希望を見せてやるって。みんなが憧れたトゥインクルシリーズは『別世界』なんかじゃないって、証明してやるって!」

 

「そっか、君はそんな志を持ってここに来たんだ[この子を見てるとアタシがどれだけ擦れてるかがわかるよね。アタシもデビューしたばっかりはこんな感じだったなぁ…]」

 

カツラギエースの表情を見るピーちゃんはありし日の希望に満ちた自分と今の擦れてしまった自分とのギャップを嘆く。

 

ピーちゃんは今年でデビュー6年目のベテラン選手で、重賞で2勝を挙げるそれなりの実績を持つ選手ではあるが、実際はかなりの遅咲きの選手で苦労人だった。

 

ピーちゃんは入学当初からそれなりの素質は見せてはいたものの、生来の脚元の弱さが尾を引き、三冠レースには出場出来ず、クラシック級の後半からシニア級の前半は怪我による長期休養をしてしまう。

 

シニア級2年目になってようやく安定してレースに出れるようになり、重賞でも勝ち星を上げたが、その年末にまた脚を痛め、シニア級3年目の今年の春シーズンは全休が確定した状態で今に至る。

 

入学した当初はピーちゃんも華やかなトゥインクルシリーズの舞台に憧れを持って意欲的にトレーニングに励んでいたが、デビュー間近で不幸な出来事があったり、度重なる怪我に苦しんだりで、モチベーションがどんどん下がってしまい、明確な目標を持てないまま現役生活の大半を過ごしてしまっていた経緯がある。

 

そんなピーちゃんからすれば、カツラギエースのまっすぐな意志と目標の持ち方はとても羨ましいもので、まだ会って間もないながらも彼女はカツラギエースを応援してあげたくなっていた。

 

「とりあえず、今はまだまだ大したことないですけど、これからもっと成長していきます!」

 

「じゃあさ、そんな志を持ってる君にとってミスターシービーって、どんな感じなの?」

 

ピーちゃんは続けてカツラギエースにミスターシービーとの関係を聞く。

 

「んー、同期でクラスメイトで友達ではあるんですけど、アイツは『憧れ』であって『超えるべき目標』になるヤツって感じですかね」

 

「なるほどね、要は『ライバル』って感じか」

 

「いや、まだ『ライバル』にはなってません」

 

「えっ?そうなの?君も2勝は挙げてるから、成績的に言ったら互角だし、ミスターシービーって子も意識してるんじゃないの?」

 

謙遜するカツラギエースをピーちゃんは意外に思う。

 

「いや、あたしはまだアイツの眼中にすら入ってないですよ。勝ち星の話をするなら、それは単なる"偶然"でアイツの"気まぐれ"です。そもそも、アイツは今のところ真面目にレースを走ったことないですからね。曰く、『楽しい勝ち方が見つかんない』らしくて、この間の負けたレースなんか、つまらなすぎて途中で"投げた"らしいです」

 

「えっ?ヤバっ…そんな感じでレースして、2勝してんの?怖っ…」

 

カツラギエースの話を聞いたピーちゃんの顔が引き攣るが、その反応はある意味で当然だった。

 

トレセン学園は日本のエリートウマ娘が集まる『日本最高峰』の競技者育成機関。

 

当然、入学できる者はそれなりの『才ある者』に限られる。そのレベルの高さは『条件戦』でさえ勝ち上がれずに引退することが"珍しくない"というレベルである。

 

そんな環境下で『適当に』『気分で』『投げやり』な姿勢でレースに臨み、勝ち星を挙げられる者などある意味で"異常者"である。平凡な感性を持っているピーちゃんからすれば、カツラギエースの話に顔が引き攣るのも無理はなかった。

 

「先輩のリアクション、わかります。でも、ウソのようなホントの話です。アイツは本物の『天才』で、あたしの『理想』そのものだ。自由で奔放、何者にも縛られない正真正銘の天才。アイツの才能に比べたらあたしなんてアリンコみたいなもんですよ」

 

「…そんなに差があるの?マジでその子にはどんだけの才能があるんだろ…。ますます、興味湧いてきたよ」

 

自身の実力を『アリンコ』とまで表現するカツラギエース。ただ、そこに卑屈さはなく、まるで当然だと言わんばかりに豪快に笑い飛ばしている。ピーちゃんはそんなカツラギエースを見て、さらにミスターシービーに興味を持つ。

 

「シービーは間違いなくアタシらの世代のNO.1ですし、いずれ学園のトップにもなれる可能性があるヤツです。でも、そんなヤツに勝てたら、それって自分の強さの証明になりませんか?そうやって考えたら、今はまだ全然ですけど、日々努力し甲斐があって、学園生活が楽しいんです!」

 

カツラギエースは少し身を乗り出しながら、ミスターシービーのすごさと自身の学園生活の充実加減を楽しそうに語る。

 

「まあ、それはそうなるね。君は本当に充実した学園生活を送れてるんだね」

 

「はい!めちゃくちゃ楽しいです!!とりあえず、クラシック級のうちにアイツに勝てるようにこれからはさらに頑張ります!」

 

「具体的でハッキリした目標があって。いいと思う。アタシ結構、君の感じ好きだよ。よし!じゃあアタシは君を応援しよう!これからよろしくね。あっ、もうこんな時間だ!そろそろ行こうか」

 

「あっ、ホントだ。いい時間ですね!じゃあ、行きましょう!」

 

偶然ではあったが、カツラギエースとの出会いを有意義に思うピーちゃん。そして、話が弾んであっという間に約束の時間となる。ピーちゃんとカツラギエースはカフェテリアを出てグラウンドへと向かった。

 

 




私は競走馬の『好きな世代』をランキングした時に3位(1位は97世代・2位は12世代)に来るのが83世代です。

ミスターシービーは言わずもがな、他の競走馬たちも個性的かつ確固たる強さを持つ世代なので大好きです。

そんな83世代は日本競馬界の国際化の影響を最も受け、かつそれを加速度的に浸透させた世代だと思います。

第1章はそんな83世代の春シーズンもとい、ミスターシービーの全盛期と下積み時代のカツラギエースの関わりを描きます。

史実の成績準拠のため、人物像や考え方がアプリとは異なる描写が多数ありますが、これはこれとしてツッコまずにお楽しみいただけますと幸いです。

ちなみにその異なる描写の一つとして、エースの現時点での夢に『ウマ娘界のエースになる』という想いは"まだ"ありません。私の物語上では、そう想うようになるきっかけの出来事はまだまだ先だったりします。
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