BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

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ハギノカムイオーとアンバーシャダイが繋いだバトンを受け、遂に直線で先頭に立ったキョウエイプロミス。しかし、先頭に立ったのも束の間、後ろからあるウマ娘の影が迫り来る!

確固たる想いを胸に迫り来るそのウマ娘からキョウエイプロミスは逃げ切ることが出来るのか!?


【Give my all】

 

 

 

「It was a great run that lived up to his words. If she could run like this, Japanese runners would not be inferior in any world race. However...《口ぶりに見合うだけの素晴らしい走りだ。このような走りが出来るのなら、世界のレースでも日本人が見劣りすることはないだろう。しかしだ…》」

 

遠いアイルランドの地でジャパンカップをテレビ観戦していたある男性が健闘する日本のウマ娘を讃える言葉を呟く。

 

「You can't beat her with "that level" of running. Because she is the "best senior runner" in Ireland.…《その程度(・・・・)の走りでは彼女には勝てないよ。なぜなら、彼女はアイルランドの"シニア級最強"の選手なのだから…》」

 

ただ、男性は日本のウマ娘の勇姿を讃えはするものの、自身の眼差しの先に映る"愛弟子"への信頼と自信が揺らぐことは全くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

さあ、400の標識を過ぎました!

バ場の外目を突っ込んで来たのがスタネーラ!

バ場の大外を突いて来ました!

 

内を通ったエスプリデュノールが僅かに先頭!

真ん中からはアンバーシャダイ!

 

 

 

ゴールまで残り400mを切り、先頭集団に残っているのは4名。ただ、その中でアンバーシャダイは既に脚色を完全に失ってしまっているため、これ以上の伸び脚は期待できそうにない。

 

優勝の可能性はエスプリデュノール、スタネーラ、キョウエイプロミスの3名に絞られていた。

 

[マサさんの言った通りになった。たぶん、この子にはアタシらの作戦はほとんど効いてない。これはまずいな…。アタシの余力でこの子に競り勝てるかな…]

 

 

 

 

「マサさん。どうかな?ハギノの考えてくれたチーム戦は?これならいけるかな?」

 

キョウエイプロミスはジャパンカップの作戦会議が無事に終わったことを政男に報告するためにトレーナー室を訪れていたが……

 

「うーん…」

 

自信有り気だったキョウエイプロミスとは対照的に政男の顔つきは悩ましげだ。

 

「あんまりよくないのかな?ハギノの作戦…」

 

政男の悩ましげな表情をキョウエイプロミスは不安そうな顔で見つめる。

 

「いや、作戦自体はかなり作り込みがされていて、一学生が考えたとは思えないくらい素晴らしいよ。ただ、この作戦は"先行勢"か、日本のレース"未経験者"なら有効だ。しかし、それ以外の場合、作戦が通じない可能性がある」

 

「もしかして、その2つに当てはまらない子っているの?」

 

「実はいるんだ…。ハーフアイストとスタネーラだ」

 

「でも、その2人は事前情報だと結構状態悪いよ。ハーフアイストって子は今年完全にスランプだし、スタネーラって子は来日してから体調不良と筋肉痛で、この間の公開練習もタイム測れないくらい調子悪いらしいし…。ハギノもそこを考えて作戦を練ってたみたいだし」

 

「正直、事前情報はあまりアテにならないさ。演技やハッタリでなんとでもなるからな。だからもし、彼女たちが秘密裏に本番までにコンディションの立て直しが出来ていたとしたら…」

 

「作戦の影響を受けていない"100%の相手"に自力で打ち勝たないといけない…」

 

「そういうことだ。もちろん、事前情報通りに何事もなく沈んでしまう可能性だってあるが、そんな可能性に縋って彼女たちを軽視することはナンセンスだからな」

 

「確かに…。まあ、でもまずはハギノが作ってくれた作戦を完璧にやり遂げるよ。それで、もし後ろから来るようなら、それは出たとこ勝負で戦うしかないでしょ?」

 

「まあ、それはそうなんだが…」

 

「大丈夫だよ。結局100%勝てるなんてことはないんだから。なったらなったで、割り切ってやるよ」

 

 

 

 

 

「やはり、私の思う一番マズい状況になってしまった…。なんとか、しのぎ切ってくれ…」

 

観客席でレースを見守る政男が両手を握り締めながら、キョウエイプロミスの健闘を願っていた。

 

 

 

 

 

「お前、アイルランドのスタネーラか!?なんでお前は潰れてねぇんだ!?」

 

強襲してきた者が誰かを確認できたエスプリデュノールがスタネーラに日本勢の策略にハマらなかった理由を尋ねる。

 

「私には先生から授かっていたレースプランがありました。それは昨年ジャパンカップに出場したことで得られた経験と知識を元にしたレースプランです。私はそれに忠実に従っていた。だから、策略にはハマらなかったというだけですよ」

 

エスプリデュノールの問いかけにスタネーラは淡々と答える。

 

「なんだよ。トレーナーの言いなりになってただけかよ。つまらねぇーヤツだな」

 

あまりにも素っ気なく、面白みのない答えにエスプリデュノールがシラける。

 

「つまらないかどうかなど、レースに勝つために必要ですか?そもそも、日本(アウェイ)でレースをするということは不測の事態に陥りやすい。そのような中でも安定して勝つためには、トレーナーの指示に従い、自分のレースに徹する方が最善だと思いますが?」

 

そんなエスプリデュノールに対してスタネーラは合理的な意見を述べ、その是非を問い返す。

 

「チッ、優等生みたいな模範解答をしやがって…。とりあえず、アタシはまだ粘る。楽に勝てると思うなよ!」

 

スタネーラの再びの模範解答にエスプリデュノールはまたしてもシラけるが、それはそれとして、スタネーラに徹底抗戦の意志を伝える

 

「そうですか。頑張ってください。ですが、一つだけ言っておきます。その乱れた精神状態では十中八九"入れない"。それがどういうことかは、あなたもお分かりですね?」

 

「まさか、テメェ、"入れる"のか?」

 

「ええ。今日の状態なら問題なく"入れます"」

 

「クソッ…」

 

スタネーラとのやりとりから何かを察したエスプリデュノールは先ほどまでの威勢を一気になくしてしまう。

 

「日本の方。見事なコンビネーションでした。私がもし、自分自身の判断のみで行動していたなら、あなた方の策略にやられてしまっていたでしょう。ですが、私にその策略は通じなかった。チェックメイトです」

 

エスプリデュノールを沈黙させたスタネーラは続け様にキョウエイプロミスの健闘を讃えながら、自身に優位性があることを宣言する。

 

「なに?もう勝った気でいるの?アタシはまだまだ行けるからね!」

 

「!?」

 

そんなスタネーラに対して、キョウエイプロミスが"脚"で回答を示す。

 

 

 

 

 

天皇賞ウマ娘のキョウエイプロミスが来た!

真ん中からキョウエイプロミスが鋭い脚で伸びて来た!

 

 

 

 

優勝争いが3名に絞られた最終直線。

内側で粘っているエスプリデュノールの外からキョウエイプロミスが伸びを見せ、遂に先頭に立つ。

 

「勝った気になるのが、早いんじゃない?言ったよね?アタシらは勝ちにきてるって!アタシはここまでバトンを繋げてくれたみんなの想いを背負って走ってる!このくらいの追い込みじゃあ、アタシには勝てないよ!」

 

遂に日本のウマ娘がジャパンカップの".最終直線で"初めて先頭に立つ。決して余裕のある走りが出来ているわけではない。それでも日本の初勝利を目指してキョウエイプロミスは懸命に脚を前へと運んで行く。

 

「なるほど。やはり、日本人は素晴らしい走りをされますね。祖国の威信を背負い、勝利に邁進する姿勢はレース後進国の方といえど、決して侮ってはいけませんね」

 

「フッ。お褒めの言葉をありがとね。じゃあ、その言葉に甘えさせてもらって、勝ちを譲ってくれる?」

 

「いえ、それは出来かねますね。そもそも、祖国の威信と期待を背負うなど、国際レースに出場する資格の"最低条件"です。まあ、お隣の品性のない方(エスプリデュノールさん)や後ろの口先だけの方(ハイホークさん)のように、資格を持たずとも勝ててしまう"例外"もいるようですが、普通は皆さん持ち合わせていますよ」

 

「なんだと!テメェ!調子に乗りやがって!」

 

スタネーラの辛辣な揶揄にエスプリデュノールがキレる。

 

「へぇー、大人しそうな感じの割に、なかなか大口を叩くね君は。じゃあ、君にはまだまだ余力があるんだ?」

 

「ええ、ありますよ」

 

「やたらとハッキリというじゃんか…」

 

スタネーラの自信ありげな態度にキョウエイプロミスが反応し、その意味を問う。するとスタネーラはさらに自信ありげに、余力を残していると宣言する。

 

「私は日本人のみなさんを見下すつもりはありません。しかし、世界で闘ったことのない日本の方々と世界で闘う海外勢(私たち)との間には"明確な差"があるのは確かだと思います」

 

「明確な差?やっぱり、海外のエリートたちは自信が違いますね〜」

 

「別に私はエリートではありません。むしろ、落ちこぼれでした。私はクラシックレースには全く縁がなく、グレードレースに勝ち始めたのはシニア級2年目の今年から。ですから、私がエリートを名乗るなど、おこがましいしくてできません」

 

「そ、そう…[この子もアタシと同じ遅咲きなんだ…]」

 

「それでも、私は直向きに努力を重ね、世界の強豪と大レースで競い合うことで、力を身に付けた。そして、あの日たどり着いた…」

 

 

 

Amazingly, Stanerra managed to slightly improve on the astounding course record of 2 minutes 26.98 seconds that was set at the end of a historic battle eight years ago!《なんと!スタネーラが8年前の歴史に残る死闘の末にマークされた驚異的コースレコード『2分26秒98』を僅かながらに更新しました!!》

 

 

 

「私はあの日、知りました。世界の強豪たちと渡り合い、勝つためには何が必要なのかを」

 

「あれですか?経験と場数から生み出された底力ってやつですか?そんなのアタシだってあるよ!こっちも30戦以上戦ってきたんだ。アタシだって…」

 

「いえ、大切なのは経験や場数ではありません。大切なのは、"己の実力を証明する"という『情熱』。あなたにはいますか?自分自身の全てを捧げてでもその情熱を見せたい人が…」

 

「情熱を見せたい人…」

 

 

 

 

そう…私にはいる。私自身の実力を証明することで喜んでくれる方が…。私はその方のためなら、私自身の全てを捧げられる…。

 

 

 

 

私はレース先進国のアイルランドにウマ娘として生を受けた。

 

とはいえ、私の家柄自体は至って平凡で、両親からレーサーになることを望まれたわけではなかったけれど、私は私の意志でレーサーの道を志した。

 

幸い、私にはある程度の才能があったようで、小学校に上がった時にティアラ部門ではあったけれど、名門と言われるレースクラブにスカウトされるまでになった。

 

私としては夢へのスタートラインに立てたようでとても幸せな気持ちになっていた。でも、そんな幸せな気持ちはある日を境に苦悩に変わる。

 

きっかけは小学校の高学年になる頃に起きたある出来事だった。

 

 

 

ウソ…身長も体重もまた増えた…

 

 

 

ある日を境に私は、急な成長期を迎えてしまい、同い年の子に比べて、体格が一回りも二回りも大きくなってしまった…。

 

レーサーとして体格が優れていることも一つの才能だ。でも、私にとってそれは重い足枷でしかなかった。

 

もともと軽やかな足取りやスピードを見込まれてティアラ部門でスカウトされた私は、体格が良くなることで、その良さが失われてしまい、同期の子に遅れを取るようになってしまう。

 

それなら、体格を生かすためにクラシック部門に行けばいいと思うかもしれないが、スタミナやパワーといったクラシック路線で戦うのに必須とされる要素に私の身体は恵まれていなくて、部門を変えたとしても位置付けが今よりも悪くなることは明白だった。

 

加えて、体格が急激に大きくなり過ぎたことで怪我も多発してしまう。これはレーサーとして致命的な欠陥だった。

 

怪我をしやすく、ティアラでもクラシックでも戦いにくい中途半端な才能。レーサーとして本格的に活動し出す中学校に上がる時期を目前に、私はレーサーになることが不可能ではないかと思い悩むようになる。

 

そして、中学生になり、同期の子たちが次々とスカウトをされて、所属チームが決まりだしていく頃、私は悔いを残しながらも、現実と向き合って夢を捨てる決断をした。

 

中途半端な才能で、ただいたずらに低調な成績のままキャリアを過ごすよりも、普通の学生生活を送っていた方が幸せだと思ったからだ。

 

もう、踏ん切りはついた。私は私の幸せのために夢を諦めよう。それが自分にとっての最善だと納得して、新しい進路に行くことを決めた………その時だった…。

 

 

 

 

"シニア級"になってから活躍してくれる"ティアラ"部門のウマ娘を探しているんだ。よかったら私のチームに来てはくれないか?

 

 

 

 

夢を諦めるはずだった私に転機が訪れた。

 

それがダン先生との出会いだった。

 

ダン先生は少し前まで若手の実業家だったらしいのだけれど、トレーナーという職業に憧れて一念発起して、自分のレースチームとレースクラブを私財を投じて立ち上げてしまうほどにレース業界に熱意を注ぐ方だった。

 

ただ、私がスカウトされた当時のダン先生は実績が全然なく、まだまだ駆け出しの新米トレーナーでもあった。

 

そんなダン先生だったから、当時チーム所属の選手にはクラシック路線で戦う選手は誰もいなくて、ティアラ路線で戦う選手のみが所属しているいわゆる『ティアラ路線専門チーム』だった。

 

そんな『ティアラ路線専門チーム』を率いるダン先生が私に期待したことは"シニア級になってから"のティアラ路線での活躍だった。

 

普通、ティアラ路線出身のウマ娘は後進の育成を見込んで、早期引退になるケースが多く、そういった風潮との兼ね合いからティアラウマ娘には『仕上がりの早さ』を求められるのが一般的だった。

 

でも、ダン先生が私に求めたことはそんな一般的な風潮とは真逆のシニア級での活躍だった。

 

聡明なダン先生が世間の風潮に逆らうような考えを持つはずがない。私はそう思っていたから、先生の私に対する期待の仕方は不可解だった。なので、私はある日その理由を先生に尋ねた。すると先生からはこのような返答をされた。

 

 

 

私はまだ駆け出しの新米トレーナーだ。だから、『実績』を積まなければならない。ただ、実績を積むといっても、競合相手の多すぎるクラシック路線でそれをすることは効率的ではない。だから、私はティアラ路線で実績を積むことにした。そちらの方がまだ競合相手が少なく、早期に実績を積める可能性もあるからだ。

 

 

それはとても先見性のある考えだと思います。ですが、私にはティアラ路線に求められる『早熟性』がありません。それではダン先生の実績に貢献できませんが……。

 

 

だから、言っているじゃないか。"競合相手の少ない"カテゴリーから実績を上げていくと。ティアラ路線ではクラシック級での活躍がクラシック路線以上に持て囃されるが、『最優秀シニア級ティアラ』という称号だってある。君に期待しているのはその称号の獲得だ。

 

 

それはそうですが、それは"マイナー"な称号で、大きな実績とはならないと思いますが……。

 

 

否定的にみるなら、"マイナー"な称号とも言えるかもしれないが、表彰が成される以上、その称号にだって少なからず価値はあるし、私としてはその称号を得たことで招かれる表彰の場に"立てること"に大きな意味があるんだ。

 

 

表彰の場に立てることに意味?どういうことですか?

 

 

私はもともとビジネスマンで、指導よりも営業や交渉の方が得意なんだ。だから、何かしらの表彰をされることで、私の名前が業界の人に認知されれば、そこから人脈を作るなど容易い。そして、その人脈から得られる恩恵は、立ち上げて間もない私のレースクラブやチームにとって大きな助けとなる。だから、その表彰式に出ることに価値があるんだ。

 

 

なるほど、そうでしたか。ダン先生はやはり聡明な方ですね。確かにそうです。『実績』とは認知されるための"最も効果的な"『方法』ですから。

 

 

そう思うだろ?だから、君が必要なんだ。君はみんなよりも才能の開花は遅いかもしれない。しかし、私にとってそれは非常に意味のあることなんだ。だから、私は君を選んだ。君は私にとってまさしく"ベストパートナー"だったんだ。

 

 

ベストパートナー…。そう言っていただけるのは嬉しいですが、ここまで私は何も成果を上げていませんし、今のところ成果を上げれそうな気配すらありません…。私は本当にそんな存在になれるでしょうか?

 

 

大丈夫、なれるさ。これは私のビジネスマンとしての感性が私に訴えかけてきたんだ『彼女を手に入れられれば必ず成功できる』とね。

 

 

……本当に?私を励ますための方便は不要ですよ?

 

 

方便ではないよ。本当にそう感じたんだ。私はトレーナーとしては新米だが、ビジネスマンとしては幾らかの成功をした。その私のビジネスマンとしての感性が働いたんだ。だから、私は君の成長を信じている。

 

 

……。

 

 

どうしたんだい?泣くようなことではないだろう?

 

 

すみません…嬉しくて、つい…。何の取り柄もなく、欠陥ばかりの私をチームに招いてくれただけでも、私はダン先生に大変感謝しています…。それなのにベストパートナーとまで言っていただき、それほどまでに信頼してくださるなんて…。

 

 

そんなことはないさ。私も君に出会えたことに感謝しているよ。だから、泣かないでくれ。

 

 

はい…。私はダン先生のパートナーにご指名いただけたことを誇りに思います。私は必ずあなたの期待に応えて見せます。

 

 

ああ、期待しているよ。

 

 

 

 

 

ダン先生からその言葉を頂いた日から私は更に努力した。

 

同期の子や後輩の子たちがどんどん勝ち星をあげる中、私の成績は中々良くならない。それでも、私はダン先生の言葉を信じて努力し続けた。

 

そして、昨年。私はアイルランドの最優秀シニア級ティアラウマ娘の評価を受けた。ただ、その称号は私よりも安定した活躍をした選手がいなかったから受けられたというだけであり、私の本当の実力が評価されたわけではない。

 

私はまだダン先生になにもお返しができていない…

 

だから…

 

 

 

 

「私に残された時間は少ない…。だから、私は一つでも多くの勝利を、一つでも多くの恩をダン先生に返す。先生の未来のために。その想いが私の力の源。あなた方の想いに、私の想いは絶対に負けない!お見せしましょう。これが私の全てです!!」

 

 

 

バリン!!

 

 

 

Give my all(私の全てを捧げます)

 

 

 

 

「!?[なに?この子、さっきまでと全然雰囲気がちが……]」

 

 

 

 

大外からスタネーラ!

一気に伸びて、先頭を捉えた!!

 

 

 

 

[速っ!?嘘でしょ…一瞬で抜かれた!?]

 

スタネーラの突然の加速に驚くキョウエイプロミス。

 

 

 

 

スタネーラ、キョウエイプロミス!

スタネーラ、キョウエイプロミス!

スタネーラがさらに突き放しに掛かる!!

 

 

 

 

[見たことないくらいのキレだ…。これが世界で戦うウマ娘の本気…。嫌だ…負けたくない…アタシは……]

 

見たことのない凄まじい加速に驚いたキョウエイプロミスではあったが、その加速になんとかついていこうと頑張るが……

 

 

 

ズキン!

 

 

 

[あっ!!!]

 

ゴールまで残り100m、その時だった。スタネーラに振り切られそうになったキョウエイプロミスが、振り切られまいと脚に力を入れた瞬間にそれは起きた。

 

[こんな大事な時に脚が……]

 

ゴール直前の大事な場面で訪れた脚の異常。しかし、それは戦前から危惧されていたことだった。

 

 

 

 

「大丈夫だよ。結局100%勝てるなんてことはないんだから。なったらなったで、割り切ってやるよ」

 

「それはそうするしかないのはわかる。ただ、私が心配しているのは勝ち負けの問題だけじゃない。後方からの強襲に対抗するには瞬発力が必要になる。そうなった時のお前の脚が心配なんだ…。ただでさえハイレベルなレースだというのに、爆発的な瞬発力を必要としなければいけない局面になってしまったら、間違いなくお前の脚は持たないからだ…」

 

「まあ、たぶんそうだろうね。でも、アタシたちは勝ちに行くわけだから、勝てそうならそんなこと言ってられないと思うんだ。だから、このジャパンカップがアタシの最後のレースになるかもって思って走るよ…」

 

「しかし、それだと有馬記念に出るって約束が果たせなくなるじゃないか?」

 

「まあ、そうなんだけど…。でも、まあまずはジャパンカップを全力で頑張るよ」

 

「そうか…無理だけはするなよ。嫌かもしれないが、痛みが出たら勝負を捨てる覚悟も持ってくれ」

 

「大丈夫だよ。無理はしないから…」

 

 

 

[あと少しだけ、ゴールまであと100mだから…]

 

 

 

ズキン!!!

 

 

 

[うぐっ……。脚が……]

 

キョウエイプロミスが自分自身の全てを賭ける覚悟を決めた瞬間に彼女にさらなる脚の痛みが襲う。

 

[痛い…。こんなに痛いのは初めてだ…。でも、諦めたくない…。あと少し…あと少しでゴールなんだ…。だから……]

 

脚の異常による激痛に苛まれながらも、キョウエイプロミスは必死に脚を前へと出す。しかし……

 

 

 

ズキン!!!

 

 

 

グラッ…

 

 

 

[あっ…目の前が…暗く……]

 

 

 

 

脚から来る激痛でアタシはバランスをさらに崩した。そして、意識もなくしかけていく…その時だった…

 

 

 

 

大丈夫だ、プロミス。お前ならやれる!

 

 

 

あれっ、この声は……

 

 

 

 

脚の痛みでバランスも意識もなくしそうになった瞬間、頭の中に、聞こえるはずのない懐かしい声が響き渡ってきたんだ……。

 

 




ハギノカムイオー→アンバーシャダイ→キョウエイプロミスと狙ったかのような綺麗な日本馬のバトンリレーで先頭に立ったのも束の間、アイルランドの名牝スタネーラが後方から強襲してきます。

このスタネーラもキョウエイプロミスと同じように遅咲きの馬でした。
前年のジャパンカップで4着になると、翌年にはGⅢとGⅡを3連勝。エクリプスステークスや凱旋門賞でも健闘した走りを見せつつ、遂にGⅠレースにも勝利し、2度目のジャパンカップに参戦してきました。

スタネーラの領域【Give my all(私の全てを捧げます)】ですが、彼女が『領域』に至れた要因は直向きな努力と一途な想いの蓄積、そして自分自身の気弱さを打ち破れたことが要因という設定です。

これは5歳〜6歳に掛けて急激に強くなった実馬の成長曲線を再現する設定だったりします。
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