BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

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いよいよ秋のGⅠ戦線が開幕する。

シンボリルドルフを担当する平岡とサブトレーナーの澤部はカツラギエースやミスターシービーといったシニア級のトップ選手が出場する秋の天皇賞を観戦し、来るべき対決の時に備える。

URAの重鎮トレーナーである平岡はミスターシービーやカツラギエースらの実力をどのように見定めているのか?


ミスター・トゥインクルシリーズ①

今年で90回を数える伝統の天皇賞秋。昨年までは3200mの長距離レースでしたが、今年から距離が2000mに短縮され、中距離レースとなりました。

 

今回の出走者は15名。

 

毎日王冠で素晴らしいレースを繰り広げた3名に人気が集中していますが、それ以外のメンバーも実力者揃いです。

 

さあ、今年の秋のGⅠ戦線がこの府中から始まります!!

 

 

 

 

 

 

 

「先生、こちらの席へ」

 

「ああ」

 

東京レース場のVIPルームに平岡と澤部が到着する。当初予定通り、ミスターシービーやカツラギエースが出場する天皇賞秋を観戦するためだ。

 

「日本のレースを現地で観るのはルドルフのダービー以来だが、あの時に比べ、さらに若い客や女性客が増えたことには驚いた。この盛況ぶりはやはりミスターシービーが復帰したおかげか?」

 

久しぶりに訪れた日本のレースの盛況振りに平岡が驚く。

 

「はい。この観客の大多数がミスターシービーを目当てに訪れています。彼女の生まれ持った天性のカリスマ性が、世の中にかなりの影響を与えているかと思います」

 

「なるほど。比喩でも誇張でもなく、今はまさに、ミスターシービーの"時代"というわけか…」

 

「そうですね。しかし、これほどの影響力を持ったウマ娘はハイセイコー以来でしょうか?たった1人のウマ娘が、こうも世の中に影響を及ぼせるのかと思うと、ある種の恐ろしさを感じます…」

 

「確かに、恐ろしい影響力だ。しかし、ミスターシービーというスター選手の台頭により、斜陽になっていたトゥインクルシリーズに再び熱気を取り戻してくれたことには、トゥインクルシリーズの"生みの親"として感謝せねばならん。なかなかに複雑なものだ」

 

澤部も平岡もミスターシービーの世の中を巻き込むほどの影響力に恐ろしさを覚えている。ただ、平岡に関しては人気に陰りが見え始めていたトゥインクルシリーズに活気を与えてくれたことに一定の感謝はあるようだ。

 

「先生もミスターシービーの天性のカリスマ性を認められているのですね。では、ミスターシービーの"走り"についてはどう評価されているのですか?」

 

澤部が平岡にミスターシービーの走りについての評価を問う。

 

「走り方やレースに対する考え方に関して思うところは多々あるが、基礎能力の高さは認めざるを得ないだろう。そして、何より『領域』を発現し、かつその力をかなりのレベルで使いこなしているからこそ、私とルドルフの唯一にして"最大の難敵"として見ているのだ」

 

「唯一にして最大の難敵ですか…。ちなみにカツラギエースはどう見られていますか?私は彼女も我々の難敵になるのではないかと思っていますが、いかがですか?」

 

ミスターシービーをシンボリルドルフの最大の難敵と評す平岡。それに加えて、澤部はカツラギエースの実力についても問う。

 

「それはどうだろうな。あれからカツラギエースのことを調べてみたが、やはり、私はカツラギエースをお前ほど高く評価できない。それこそ、ミスターシービーよりも数段劣るな」

 

どうやら、平岡はカツラギエースを高くは評価していないようだ。

 

「そうですか…。ちなみに先生はなぜカツラギエースを高く評価できないのでしょうか?」

 

平岡がカツラギエースを高く評価しなかったことを少し残念に思う澤部はその理由を問う。

 

「最たる理由は『領域』の覚醒度合いだが、もしそれが予想より覚醒していたとしても、カツラギエースに勝つことは、それほど苦労しないということが理由だ。まあ、それに関しては今日のレースでわかるだろう。澤部、勉強だと思って、今日のレースはよく見ておくように」

 

「はい。わかりました。あっ、まもなく、スタートですね」

 

澤部の問いに対して平岡は今日のレースでその理由がわかるとし、澤部にレースを注視するように指示した。

 

 

 

 

 

 

 

サンオーイ、カツラギエースが入り、三強の一角ミスターシービーもゲートに入りました。

 

さあ、これでどうやら態勢が出来上がったようです。

 

 

 

 

スタートしました!!

 

 

 

一斉にスタートを切りましたが、まずはカツラギエースが行った!

 

 

 

 

 

「とりあえず、いいスタートを切れた。ここから先頭を取りたいわけなんだけど……」

 

 

 

 

 

そして、外からスーパースワローも行きました!

 

 

 

 

 

「まあ、そうは問屋が卸さないか…。それに…」

 

いいスタートを切ったカツラギエースだったが、外からスーパースワローに被せられて早くも先頭をとられてしまう。そして、さらに……

 

 

 

 

 

大外、キョウエイレアも一気に行った。

 

 

 

 

 

[やっぱり、この人も先頭を奪いにきたか…。仕方がない…。予定通り、番手のレースプランに切り替えだ]

 

被さってきたスーパースワローのさらに外からキョウエイレアが先頭を奪う。

 

 

 

 

 

 

キョウエイレアに続いてもう1人、スーパースワローも行って、向正面に入ります。そして、カツラギエースは3番手。先頭までは3バ身の位置。

 

 

 

 

 

[結局、3番手になっちまったか…。とりあえず、このまま中間地点までは流れに乗るしかないか…]

 

スタート直後の先頭争いに敗れたカツラギエースは不本意な位置取りとなったようだ。

 

 

 

 

 

「カツラギエースには、厳しい展開になったな」

 

「えっ?」

 

レースがスタートして数秒。カツラギエースが3番手の位置を確保し、レース展開が落ち着いた瞬間、観客席からレースを観ている平岡がポツリと呟く。や

 

「まだレースは始まったばかりですが、もうカツラギエースは苦しい展開なのですか?」

 

平岡の唐突な発言に澤部が驚きながら、その理由を尋ねる。

 

「ああ、そうだ。おそらく、トレーナーから『先頭を取れなければ、焦らず番手のレースをしろ』という指示があったから、こうしているのだろうが、カツラギエースのトレーナーが『領域』に対しての理解が深められていないのなら、それはかなりの悪手だ」

 

「その指示自体は逃げウマ娘に対しての指示としては、至って普通なように感じますが、ダメなのでしょうか?」

 

平岡の指摘に対して澤部がその真意を問う。

 

「もちろん、普通の逃げウマ娘に対しての指示であるなら、なんら問題ない。ただ、前に言ったように、『領域』の発現者に対してはそれではいかんのだ。それにカツラギエースというウマ娘の"性質"も含めれば、尚更だ」

 

平岡の唐突な発言の真意を問う澤部。しかし、平岡にはその発言に具体的な根拠があるようだ。

 

「カツラギエースの性質とはなんでしょうか?」

 

「性質を説明する前に、澤部。お前はカツラギエースというウマ娘を非常に評価しているが、彼女の走りは安定感に欠けているという認識があるか?」

 

「安定感に欠けているですか?私はそのように感じたことはありませんでした。彼女は基礎能力において、スピード・スタミナ・勝負根性・瞬発力の全てがバランスよく備わっていて、2000mまでなら、無類の強さを発揮しているという印象を受けますが…」

 

平岡の問いかけに対して澤部はカツラギエースについての率直な印象を述べる。

 

「基礎能力に関して、お前の分析は間違ってはいないさ。カツラギエースはバランスのよい能力を有している。そのバランスの良さが最大限に活かされたのが、宝塚記念、毎日王冠だろう。しかし、私が問いたいのはそこじゃない。私が問いたいのは"精神面"の話だ」

 

平岡はカツラギエースにも十分に優れた基礎能力があることを認めてはいるが、それ以上に目につく精神面での問題点があることを指摘する。

 

「精神面でしたか…。普段の学校生活では、優等生と評判でしたから、精神面に問題があるとは、思いませんでした。ちなみに、先生が思うカツラギエースの精神面の問題とはなんですか?」

 

「私の見立てでは、カツラギエースはレース展開の向き不向きによって、発揮できる実力に大きなムラがあるタイプだと見ている。私はこういった安定感に欠ける走りを好まない」

 

平岡ははっきりとカツラギエースの精神面の問題点を述べる。

 

「レース展開の向き不向きということは、カツラギエースのペースに合わないといい走りができないということですか?」

 

「そういうことだ。お前が用意してくれた、過去のレース映像を見て推測したことだが、カツラギエースは走りに関してはかなり神経質なタイプだ。ペースは速くてもダメ、遅くてもダメなはずで、些細なことで集中力を乱しやすいというのが、彼女本来の性質だと私は分析している」

 

平岡がカツラギエースの精神面の短所の詳細を述べる。

 

「確かに、カツラギエースは宝塚記念直後の高松宮杯で負けています。もちろん、春5戦目の疲労によるコンディション不良はあったかもしれませんが、かなりアッサリと負けていましたね。もしや、あの敗戦はそういった神経質な性質が悪い方向に出たのでしょうか?」

 

「おそらくな。しかし、宝塚記念や毎日王冠のような走りもできる。カツラギエースの走りに、かなりのムラがある証拠だ」

 

「ですが、毎日王冠で彼女は『領域』を発現している可能性があります。それであれば、神経質な性質も克服出来ているのでは?」

 

澤部は毎日王冠での『領域』の発現が、神経質な性質の克服に繋がるのではないかと予想する。

 

「それは逆だな。確かに、毎日王冠の走りを見る限り、カツラギエースは『領域』を発現している。しかし、だからといって、次のレースも確実に『領域』に入れるとは限らない。現に、ルドルフがそうであろう?」

 

「確かに、ルドルフは今でこそ、かなり高い確率で『領域』に入れる様になりましたが、そうなれるまで、それなりの時間を要しました」

 

平岡がシンボリルドルフの例を引き合いに出し、『領域』の安定的な突入の難しさを語る。

 

「冷静なルドルフでさえ、そうなのだ。なら、神経質なカツラギエースではどうか?答えは『より難しい』だ」

 

「なるほど、神経質な性質が『領域』の安定的な突入の妨げになっている可能性があるのですね。ちなみに、『領域』に入る上で神経質な性質というのは、どのようなデメリットをもたらすのでしょうか?」

 

澤部は平岡の反対意見の詳細を尋ねる。

 

「基本的な話、『領域』に安定して入るためには自分の集中力を高められる"状況"を作ることが、とても重要になる。しかし、神経質な性質ということは、それだけ『領域』に入るためにクリアしなくてはいけない"状況"を増やすことになってしまうのだ」

 

「そういうことなのですね。だから、先生はミスターシービーに比べ、カツラギエースが劣ると評されるのですね」

 

「そういうことだ。単純な走りの力に関しては肉薄している両者だが、『領域』発現者としては、まだまだ力の差がある。それはひとえに、『領域』を発現できた時期の問題ではなく、両者の性質の違いにもよっている。見てみろ。相変わらず、太々しいまでにマイペースな"奴"を」

 

そう言って平岡は走るミスターシービーを指差す。

 

 

 

 

 

 

ミスターシービーはちょっと離れた位置の最後方を行きます。

 

 

 

 

 

「側から見ればマイペースに走っているとしか見えませんが、もしやミスターシービーの極端なポジション取りが『領域』に入るための集中力を高められる状況作りということですか?」

 

「そうだ。私は、集中力を高めていく過程を『最適化』と呼んでいて、それを熟知出来ているか否かが、『領域』を使いこなせているかどうかの基準になると考えている」

 

「『領域』に入れる様に、自分の集中力を高め、適した状態に持っていく、ゆえに『最適化』ですか…」

 

「そうだ。『領域』に常に入るためには、自己調整が必要だ。そう考えた場合、カツラギエースの性質や『最適化』の条件を考慮しないまま、ありきたりな作戦を取ったカツラギエースのトレーナーの判断はかなりの失策であり、『領域』を理解していない証拠でもある」

 

「なるほど、だからスタート直後であのようにおっしゃったんですね。ちなみに先生が予想されるカツラギエースの『最適化』はどういったものでしょうか?」

 

平岡の意見を聞くことで、澤部がカツラギエースの真の力量とこのレースの全容を少しずつ理解していく。

 

「カツラギエースの性質を考えれば、『最適化』にはペースやラップが関係するだろう。それと、仕掛け所も重要なはずだ。宝塚と毎日王冠では、どちらも『3角〜4角までに先頭』に立てていた。おそらく、それが、『領域』に入るためのトリガーなんだろう」

 

平岡は自身の分析を元にカツラギエースの最適化の条件と予想される項目を述べる。

 

「確かに、宝塚記念と毎日王冠では3コーナーから4コーナーの間で先頭に立っていました。と、いうことは、このレースを制するために、そこが勝負所になるわけですね」

 

「そうだ。道中で『最適化』のポイントをしっかりと抑え、高い集中状態を作り出す。そして、勝負所で『領域』に突入し、潜在能力を最大限解放する。それが『領域』発現者の基本戦術となる」

 

「なるほど。しかし、そうなるとカツラギエースも十分に立て直しが効くのではないのですか?確かに、スタートで後手には回りましたが、レースはまだまだ序盤です。先生が思われるほど、追い込まれていないように思いますが……」

 

『領域』を使いこなすための理屈を平岡から教わりながら、理解を深めていく澤部が、カツラギエースの立て直しの可能性を尋ねる。

 

「いかに神経質なカツラギエースといえど、本来ならまだまだ立て直しが効く段階だ。ただ、今日のこのレースに関して、カツラギエースは『領域』に入るためには難易度が高いと言わざるを得ない」

 

「難易度が高い?それは何故ですか?」

 

「理由はカツラギエースにとって"相性が最悪"なウマ娘が出場しているからだ」

 

「相性が最悪なウマ娘ですか?それは一体…」

 

澤部の質問に対して、平岡は意味深な回答をする。果たしてその理由とは……。

 

 

 




私の物語の人物名の名付け方の法則がお分かりの方は、平岡トレーナーと澤部トレーナーが、実際の関係者の誰と誰がミックスされた方か、すぐわかりますね。

しかし、ウマ娘世界に置き換えるとそのままだから致し方ないにしても『ミスター・トゥインクルシリーズ』は結構苦しい異名な気がします(笑)

さて、先にちょっとネタバレしておくと、平岡トレーナーがシンボリルドルフ陣営の"ヒール"要素を、澤部トレーナーが"ベビーフェイス"要素を担います。この2つの要素がシンボリルドルフの行く末に大きな影響を及ぼします。そして、アプリ版の会長の人物像に至っていく流れになるので、この物語は『会長の前日譚』だと思って見てください。
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