BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

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カツラギエースの脱落を予見する平岡は、自身が難敵と評するミスターシービーと寺永の分析と攻略に移る。

しかし、類稀なる実力を持つミスターシービーとそれをよく理解し、操る寺永の強固で完璧な連携の前には、いかに百戦錬磨の平岡といえど、容易に付け込めはしないようで…




捨てる神あれば、拾う神あり

 

 

3コーナー手前の坂を上り切って、これからコーナーのカーブに入ります。

 

間もなく、1000mの標識を、今キョウエイレアが通過。ちょうど60秒であります。

 

そして、その後には相変わらずスーパースワローが続いています。

 

 

 

 

 

 

[どうしてだ…]

 

第3コーナーに差し掛かる直前、カツラギエースの焦りは最高潮に達していた。

 

["あの感覚"がこない…。マズイ…このままじゃ…]

 

宝塚記念、毎日王冠の時に確かにあったあの不思議な感覚が、頭の中に刻まれてこないことに、カツラギエースは焦りを覚えていた。

 

つい1ヶ月ほど前に身体に確かに刻み込まれたあの感覚が呼び起こせない。最高の走りが出来たあの感覚が、最高に楽しかったあの感覚が…。心のどこかで拠り所としていたその感覚に頼れないとわかったカツラギエースの焦りは最高潮に達していた。そして……

 

 

 

 

 

第3コーナー(・・・・・・)をカーブ。その後にはカツラギエースが続いていく。カツラギエースが3バ差、4バ身差の3番手の位置。

 

 

 

 

 

[ヤバい…もう3コーナーに入っちまった…。トレーナーさんとの打ち合わせじゃあ、このタイミングで先頭を射程圏内に入れてないといけないはずなのに…先頭はあんなに遠い…。あたしは、ここからどうすればいいんだ?]

 

しかし、焦るカツラギエースに対して、時間は待ってくれなかった。

 

カツラギエースがこのレースに勝つための可能性が、まもなく閉ざされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後方からミスターシービー。先頭までは22・3バ身?20バ身くらいの位置でしょうか?

 

 

 

 

 

「ずいぶんと縦長になってきた。いやー、こんなに離されてたら『勝てないかも』って、みんな思うよね!でも、それをひっくり返せたら最高に盛り上がるだろうな♪」

 

カツラギエースに焦りが見られた頃、先頭から20バ身というかなり離れた位置に、ポツンと取り残されたミスターシービーはいた。ただ、そのテンションはいつになく高かった。

 

ミスターシービーにとっては、いつも通りの位置。しかし、普通のウマ娘ならば、勝利をあきらめてしまうような位置。

 

だが、彼女にレースに負ける焦りや怖さといった感情は全くないようで、むしろこのレース展開をひっくり返した時に、観客がいかに喜び、驚くかを楽しみにしているようだ。

 

「奴の表情を見てみろ。あの憎たらしいぐらいに楽しそうな表情を。絶望的と言えるポジションを取りながら、勝つのは当たり前で、その過程にあるスリルを楽しんでいるかのような顔付きを。あんな表情が出来るのは、他と隔絶した実力を持つ『圧倒的強者』だけだ。実に憎たらしい」

 

そんなミスターシービーの表情をVIPルームのモニターで確認した平岡が、なんともつまらなそうで、呆れ返った顔つきで愚痴る。

 

「確かにこの状況下であれば、並のウマ娘ならレースを放棄してもおかしくない。ですが、ミスターシービーは楽しんでいる。やはり、こういったモチベーションの上げ方も『領域』に入るための『最適化』の一つなのでしょうか?」

 

そんな平岡に対して澤部は、ミスターシービーの表情や振る舞いが『領域』に突入するための自己調整なのかと問う。

 

「もちろん、そうだ。『領域』に入るための要素の一つに『個人能力と難易度のバランスが釣り合うこと』というものがある。簡単に出来るレベルでも、不可能なレベルでもダメなのだ。自分自身がやりがいを感じ、楽しめる状況。それもまた『最適化』の要因の一つだ」

 

澤部の問いに対して平岡が答える。どうやら、ミスターシービーの振る舞いは平岡の言う理屈に合致しているらしい。

 

「こうも簡単に、自己調整出来てしまうミスターシービーは、本能的に『最適化』の条件の満たし方をわかっているのでしょうか?」

 

「いや、それを可能としているのは、奴のトレーナーである寺永の入れ知恵だろう。どうやって、その概念を得たのかはわからないが、寺永の『領域』に関する知識や理解度は、私と同レベルにある。それもまた憎たらしい話だ」

 

平岡は些か苛立った口調で寺永の実力を評価する。どうやら平岡のその心情には『認めたくはないが、認めるしかない』というもどかしい気持ちが込められているようだ。

 

「ですが、寺永トレーナーはごく最近まで『八大競走に勝てないトレーナー』という不名誉なあだ名をつけられていました。先生と同じレベルの『領域』の知識を持ちながら、どうしてタイトルには恵まなかったのでしょうか?」

 

不本意ながらも寺永を高く評価する平岡に対して澤部は、学園内での寺永の評価を引き合いに出し、その評価に隔たりがある理由を尋ねる。

 

「その理由は、いたってシンプルだ。寺永が『領域』を発現できるウマ娘に巡り合えなかったというだけだ。今の日本レース界のレベルでは、『領域』を発現できる者は、十数年に一人出てくるかどうかが関の山だ。そんな稀少なウマ娘と巡り合うなど、そうそうないだろう?」

 

それに対して平岡は単純ない巡り合わせのも問題だと答える。

 

「確かにそうですね。すると、寺永トレーナーは、いつ会えるかもわからない『領域』発現者をずっと待ち続けていたのでしょうか?」

 

「待ってもいただろうが、寺永は自らの手で『領域』を発現できるウマ娘を育てることも考えていたようだ。寺永は一時期、一芸に秀でた選手を積極的にスカウトし、逃げや追い込みなどの極端な戦術を駆使していた時期がある。周囲はそれを『寺永スペシャル』などと揶揄していたが、今思えばそれは寺永が人為的に『領域』発現者を生み出すための取り組みの一つだったのだろう」

 

平岡は寺永が『領域』発現者を育成しようとしていた過去を明かす。

 

「しかし、自らの手で育てることは叶わなかった。そして、ミスターシービーという天性の『領域』発現者と遂に出会うことができたと?」

 

「そういうことだ。人知れず苦労してきた寺永にとっては、まさに『捨てる神あれば、拾う神あり』といったところだな。そして今、寺永は長年蓄えてきた『領域』に対する知識やノウハウの全てを、ミスターシービーに注ぎ込んでいる。おそらく、ミスターシービーの極端な追い込み戦法は、その長年の研鑽の一つだろう」

 

平岡はミスターシービーとの出会いが寺永の転機であり、その転機により寺永の長年の研鑽と秘められた才覚が花開いたと語り、今採用している非常識な戦術がその研鑽の一旦であると述べる。

 

「ミスターシービーが、最後尾を定位置としているのは、寺永トレーナーの指示ということはわかりましたが、どうして寺永トレーナーは逃げや追い込みなどの極端な戦法にこだわっているのでしょうか?先生のようにオーソドックスな先行型の戦法を使ったほうが、勝率は上がると思うのですが?」

 

平岡の解説に対して澤部が素朴な質問をする。

 

「それは私と寺永の『領域』に対する考え方や価値観の違いにすぎない。私は『領域』というもののリスクやデメリットを如何にゼロにするかを考える"リアリスト"。対して寺永は『領域』を如何に爆発的に、如何に鮮烈的に使うかを考える"ロマンチスト"。ただ、それだけの違いだ」

 

「寺永トレーナーを否定するつもりはありませんが、安定感に欠ける方法を好む嗜好を私は共感できませんね。私は先生のお考えの方が、合理的だと思います」

 

自分と寺永の『領域』に対する考え方の違いが、採用する戦術の違いを生み出していることを語る平岡。しかし、澤部は寺永の非論理的な考え方に共感を持てないようだ。

 

「まあ、それに関しては私も同意見だ。寺永の『領域』に対する考え方は理想に浸り切っている"机上の空論"だ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「寺永はその"机上の空論"を体現してしまえる(・・・・)ウマ娘と出会った。寺永の机上の空論はミスターシービーという唯一無二のパートナーを得たことで"絶対的"なものとなった。忌々しいが、現状では奴らの牙城を崩すのは至難の業だ」

 

澤部の見解に同意する平岡。しかし、否定はしたくとも認めざるを得ない絶対性があると平岡は言う。

 

「寺永トレーナーが編み出した『領域』を利用した戦術とは、一体どういうものなのでしょう?」

 

「寺永が用いる『領域』の基本戦術は、極端な脚質による逃げ切りか追い込みだが、『領域』に入ることを前提とした場合、寺永の戦術は実は合理的であったりする」

 

「逃げや追い込みなどの極端な戦術が合理的?どうしてでしょう?」

 

「それはカツラギエースを見ていればわからないか?」

 

寺永の戦術が『領域』を利用する前提であれば合理的だ、と語る平岡は、カツラギエースの事例を引き合いに出し、澤部にこの問いを考えさせようとする。

 

「…。あっ、『最適化』の条件を満たすには、極端なポジション取りの方が"安易"です…」

 

「そういうことだ。極端なポジションの方が、『最適化』しやすい。なぜなら、他者の影響を受けにくいからだ。考えてみろ。あのような極端なポジション取りをされた場合、お前は担当の勝ち筋を失うことなく、奴をマークする手段が思いつくか?」

 

少しの思案の後、澤部が答えに行き着く。それを見た平岡が更に詳しい解説を入れる。

 

「いえ…思いつきません。勝敗度外視の『ラビット』を置くならともかく、日本のレースルール上それはできない。その時点でミスターシービーに対する有効な対策が一つ潰されます…」

 

「そういうことだ。それに加えて寺永は、感情的に走りやすいミスターシービーの性質も上手く利用している。この点に関しては、私よりも寺永の方が長けている」

 

寺永の戦術の合理性を理解した澤部に対して平岡は、次なる問いかけをして、澤部に自力での理解を促そうとする。

 

「確かに、ミスターシービーのように、自己判断で仕掛けてしまうウマ娘の制御は難しいです。では、寺永トレーナーはどのように彼女を制御しているのでしょう?」

 

 

 

 

 

 

そして、その後方にヤマノシラギクであり……

 

 

 

 

 

 

[さて、行きますか。気持ちよく『領域』に入るためにもさっさとウマ込みを抜けていこうかな♪]

 

 

 

 

 

オー!!!

 

 

 

 

 

おーっと、ここでミスターシービーが行った!

今、お終いから4番手の位置まで押し上げた!

 

 

 

 

 

 

第3コーナーの手前からミスターシービーが仕掛ける。その姿を確認した観客達は声を上げ、会場の熱気は急上昇する。

 

ミスターシービーは、まるでその歓声に促されるように、バ群の真っ只中を悠然と捌き切りながら順位を押し上げていく。

 

「そういう理屈が通じないウマ娘には、否定するのではなく、"上手く乗せる"ことが重要になる。おそらく寺永はミスターシービーにこう言っているはずだ。『最後尾から仕掛け所までの道中を"全力で楽しめ"』とな」

 

「『楽しめ』?そんな曖昧な指示では……。いや、まさか、最後尾から仕掛け所までの押し上げを『最適化』の条件にしている、と?」

 

「そうだ。そして、もしかするとこうも言っているかもしれない。『お前が思う、一番楽しい(・・・・・)ルートを通れ』ともな」

 

「『個人能力と難易度のバランスが釣り合うこと』を選手に一任することで、『最適化』しやすくしている…。ですが、それではイレギュラーが起こった場合の対処法が何もない。トレーナーとして、自己判断の基準を設けないことは、リスクではないでしょうか?」

 

寺永の理論を理解した澤部だが、そのリスクヘッジに欠いた指示には懐疑的だ。

 

「寺永はその部分に関しては、ミスターシービーの特異な能力に完全に依存している。見てみろ」

 

平岡はそう言って走るミスターシービーを指差し、澤部の視線をミスターシービーに向けさせる。

 

 

 

 

 

ミスターシービーはいつも通り!いつも通りに最後尾から"バ群の真ん中"を通って行きます!

 

 

 

 

 

「ミスターシービーが得意とする最後尾からの"中央突破"…。それを可能にする天才的な回避能力…」

 

ミスターシービーを見やる澤部が彼女の特殊な能力に気付く。

 

「そうだ。最後尾からの"中央突破"というあり得ない戦術を可能にする、ミスターシービーの天才的な回避能力ならば、多少のイレギュラーなど、なんともないだろう。これはお互いの長所を信頼し合っているからこそ為せることで、選手とトレーナーの関係性としては、この上なく健全だ。それに…」

 

「2人の戦術には、まだ必勝のカラクリがあるのですか?」

 

「確かに、お前が懸念することは、トレーナーとして考えるべきことだ。ただ、奴らはそれを"力技"で解決している。もっと良く見てみろ」

 

 

 

さあ、ミスターシービーが追い上げを始めた!

 

先頭のキョウエイレアが4バ身から5バ身のリードで600切りました!

 

そして、スーパースワロー2番手の位置。続くカツラギエースは3番手。

 

ミスターシービーはバ群の深い位置!しかし、そのバ群を悠然と捌いてぐんぐん順位を上げていきます!!

 

 

 

 

「隊列の間隔がより狭くなる前方でも、精度が変わらない…。いや、むしろ精度が上がっている(・・・・・・)から出来ているのですか!?」

 

「そうだ。ミスターシービーは感情的に走る。それは言葉尻だけ見れば、あまり良いように聞こえないが、良いように捉えれば、テンションが上がれば、上がるほどに集中力も上がり、パフォーマンスも上がるということだ。そして、『領域』の突入に近づくということは、必然的に集中力も右肩上がりになる。これが意味することをお前は理解できるか?」

 

「…。まさか、『最適化』の条件をクリアしていくことで高まる集中力が、ミスターシービーのイレギュラーに対する対応力を"自動的に"底上げしていくのですか?」

 

 

 

 

 

 

その後、サンオーイが外目を通って4番手。サンオーイが4番手に上がって来た!

 

そして、その内・内を通ってスズカコバン。

 

さらにその最内にミサキネバアーであります。

 

ミスターシービーはどこだ!?ミスターシービーがバ群をあっという間に抜け切りました!!

 

 

 

 

 

 

「そういうことだ。忌々しいが、寺永はミスターシービーというウマ娘を本当によく知っている。昔、どこかの記者から、『平岡先生ならミスターシービーも無敗の三冠を獲得できたのでは?』と言われたことがあったが、それは無理だ。私では、あんな非常識でセオリーから外れたウマ娘を制御することなど出来ない。ミスターシービーは寺永の元にいるから輝くのであり、寺永と組んでいるから"最強"なのだ」

 

寺永とミスターシービーの戦術と強さの秘訣の全容を語る平岡。その口調には嫉妬や羨望といった様々ない感情が込められているようだ。

 

「それが現役最強のコンビの全容ですか…。ですが、ルドルフなら止められるのでは?ルドルフなら的確な判断とミスターシービーにも劣らない基礎能力があります。それに先生の豊富な経験値と戦術眼があれば、それなら…」

 

そんな平岡を見た澤部が平岡とルドルフのコンビであるなら打ち破ることが出来るのではないかと平岡に意見する。

 

「それはおそらく、無理だな。奴が最前線で待ち構えるルドルフに並び掛ける頃には、奴のテンションと集中力は極限状態に近くなる。この状態では、たとえ反則級の妨害をしても、奴は上手く対応するだろう。そして…」

 

 

 

 

 

 

さあ、その後方グループは一団となって坂を上がって来る!

 

坂を上がって400を切った!

 

 

 

 

 

 

[さあ、残り400だ!寺さん!今日も予定通りに行くよ!]

 

 

 

 

 

ズン!!

 

 

 

 

【天衣無縫】

 

 

 

 

 

 

 

「ここから『領域』に入るんだ。ここまでのパフォーマンスをしていながら、まだ奴は『領域』(最強の切り札)を隠しているんだ。これでは如何にルドルフの基礎能力や判断能力が高く、私が周到で多様な対応策があろうとも、奴を止めるのは不可能だ」

 

「…凄まじいパフォーマンスを見せられて忘れていました…。確かに彼女には、切り札たる驚異的な末脚がありますね…」

 

2人の実力が如何に強大かを嘆くかのように語る平岡。そして、澤部もまた2人の圧倒的な実力を心底理解したようだ。

 

 

 

 

 

さあ、キョウエイレアが一杯か!?

 

そして、その外から変わったのが、カツラギエースか!?

 

 

 

 

 

[やっと先頭に立てた…。だけど、全然脚は溜まってない…。あと400もあるのに…]

 

最終コーナーを回り、カツラギエースがようやく先頭に立つ。しかし、その余力はすでに尽きかけようとしていて、カツラギエースが抗う術は残り400mの地点で完全に無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

「ほう…。もっと早くに脱落するかと思ったが、カツラギエースはここまで踏ん張っていたか…。まあ、澤部が期待したくなる理由が、なんとなくわかるが、毎日王冠で見せたような二の脚が期待できないのなら、今日に関しては、これ以上の見どころはないな」

 

最終直線の攻防を見守る平岡が一瞬だけカツラギエースを気にかける。しかし、毎日王冠で見せたような二の脚が期待できないと見るやすぐさま興味を失った。

 

 

 

 

 

そして、外からトウショウペガサス!

 

ミスターシービー来た!!また、3人の争いになるのか!?

 

 

 

 

 

「わかったか、澤部。『領域』を発現させ、極めつつあるミスターシービーと寺永のコンビはまさに"現役最強"を名乗るに、相応しい実力がある。そして、これに対抗する絶対的な手段は今のところない。これでは如何にルドルフといえどミスターシービーに確実に勝つことは不可能だ」

 

「確かにそうですね…」

 

現状では2人に対抗する有効な手段がないことを悔しがる平岡は完全に白旗を挙げている。そんな平岡に対して、澤部もまた力なく同意するしかなかった。

 

「ミスターシービーと寺永トレーナーの実力のほどは十分にわかりました。ところで、先生。先生は寺永トレーナーのことをかなり評価されていますが、それ以上に寺永トレーナーのことについてかなりお詳しい(・・・・)…。それはなぜですか?」

 

ミスターシービーと寺永のコンビの実力を痛感した澤部だったが、その中で平岡が寺永のことをかなり評価し、かつかなり詳しいことに疑問を持ち、その理由を問う。

 

「……それはそうさ。もう随分と昔のことになるが、寺永は私が後継者にふさわしいと見込んだ弟子の中でも、"筆頭格"だった男だったのだからな…」

 

「えっ…」

 

 

 

 

 

 

サンオーイもその直後にいる!!

 

外からミスターシービー!カツラギ!その間を突いたのがトウショウペガサス!

 

 

 

 

 

[残念…。今日のエースは『領域』に入れなかったのか…]

 

『領域』に入り、いつも通りの剛脚を発揮するミスターシービーがカツラギエースの横を通過していくが、今日のカツラギエースには毎日王冠のような力強い末脚がないと悟ると少し寂しそうな顔をする。それでも……

 

 

 

 

 

しかし、ミスターシービーが抜け出す!

 

 

 

 

 

[エースと競えなかった分、今日のレースはアタシがきっちり勝つから、次のレースは楽しもうね!さあ、最後の一押し!]

 

一瞬、寂しそうな顔をしたミスターシービーだったが、すぐに切り替えて天皇賞秋のゴールへと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

ミスターシービーの勝利は揺るぎない。

 

 

 

 

そう誰もが思った瞬間にそれは起きた……

 

 

 

 

 

 

ブツン!!

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

「??今、奴の走りに……」

 

「どうされましたか?先生?」

 

 

 

 

 

 

 

先頭はミスターシービー!ゴールイン!!

 

タイムはレコード!タイムはレコード!

 

1分59秒3!上がり3Fは34秒8!

 

驚きのレース内容に、圧巻のレコード!

 

ミスターシービー完勝です!

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、そんなことが…ハハ…」

 

「先生?」

 

「ハハハ…『捨てる神あれば、拾う神あり』とはよく言ったものだ…」

 

「それはどういう意味でしょうか??」

 

ミスターシービーがゴールした瞬間に平岡が何かに気づく、そして突然高笑いをする。それに驚いた澤部がその理由を尋ねると……

 

「ミスターシービーはもう終わりということだ。奴の時代はたった"今"終わりを告げた!澤部。ルドルフに伝えろ。次のレースは『菊花賞』だと。そして、その次は『ジャパンカップ』に出ると!」

 

平岡は突然シンボリルドルフの今後の出走プランを澤部に言い渡す。どうやら、菊花賞とジャパンカップの両方に出るようだ。

 

「本当ですか?そのローテーションでは、ルドルフの身体に多大な負担が……」

 

それを聞いた澤部はシンボリルドルフの身体への負担を考慮し、消極的な発言をしようとするが…

 

「バカを言うな。こんなチャンスはまたとない!三冠を制し、ジャパンカップ、有馬記念を獲る。前人未到の『クラシック級"五冠"』を達成するチャンスなんだぞ!?身体への負担など知ったことか!澤部!これは"命令"だ。ルドルフに必ず伝え、そのつもりで調整を進めろ!」

 

「……」

 

強引にことを進めようとする平岡に戸惑う澤部はとても険しい表情で何か言いたげだが、グッと我慢している。

 

「不服そうな顔だな…。ならば、菊花賞は8割の仕上げでいけ。あのような雑魚たち相手ならそれで十分だろう?違うか?」

 

「いえ…それであれば、身体の負担は最小限でいけるかと…」

 

何か言いたげな澤部に対して平岡が妥協案を提示する。それを聞いた澤部は平岡の最大限の譲歩を感じ取ったのか、それに対して素直に同意する。

 

「よろしい。それでいけ。さあ、帰るぞ。ミスターシービーのレース資料を更に集めろ!次のジャパンカップで奴を完全に潰す!」

 

「わかりました…」

 

 

 

 

 

 

ミスターシービー、これで4つ目のタイトル。

 

19年振りの四冠ウマ娘誕生です!!

 

 

 

 

 

 

歴史的な偉業の影で、静かに、そして確実に、新たな時代のうねりは起こり始めていた……

 

 




私は以前から言っていますが、ミスターシービーの能力の中で、一番凄い能力は天才的な『馬群回避能力』だと思っています。

ゴールドシップやディープインパクトなど『捲り』を武器に活躍した名馬はいくらかいますが、その馬たちは、距離のロスをものともしない、圧倒的なスタミナや、抜群のコーナワークを武器に"大外"から他馬をねじ伏せてきました。

ですが、ミスターシービーの『捲り』は菊花賞を除き、全てが"中央突破"であり、『後方待機は、距離のロスを負わなくてはいけない』という、常識を覆す走りでした。私の知る限り、過去も未来にもこんな捲り方をする競走馬はいないように思います。

ですから、私は皐月賞・ダービー・天皇賞こそ、ミスターシービーの特異な才能が発揮された、ミスターシービー"らしい"レースだと思っていますし、ミスターシービー"らしくない"レースだからこそ、菊花賞がより映えるように思います。


次の更新まで、少し時間が空きます。よろしくお願いします。
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