BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

6 / 37
皐月賞の興奮が覚めやまぬ中、観衆の注目は次のレースに移っていた。

日本ダービー

ダービーを前にして、2人は闘いの準備に励む。
カツラギエースは日本ダービーへの出場権の獲得を目指すためにトライアルレースに出場する。

一方のミスターシービーはのんびりとマイペースにダービーを待ち侘びる。一見、勝ち気がないように見えるミスターシービーの過ごし方。

しかし、彼女の力は徐々に覚醒しつつあった。



第二幕開演〜緑、鮮やかなる初夏の府中、日本ダービー〜 前編

5月8日 東京レース場

 

 

 

カツラギエースが外の方から突っ込んできた!

カツラギエースが先頭か!?

ブルーダーバンが粘る!

200を切りました!

 

先頭はカツラギエース!

先頭はカツラギエース!

 

ブルーダーバン頑張ったが、先頭はカツラギエース!1着でゴールイン!!

 

ダービートライアル、NHK杯を勝ったのはカツラギエースです!

 

 

 

 

ミスターシービーの鮮烈な勝利で幕を閉じた皐月賞から約1ヶ月。カツラギエースはダービーへの出場権を得るためにトライアルレースであるNHK杯に出場していた。

 

皐月賞に大敗したこともあり、このレースでどのような立て直しをするかが注目される中、カツラギエースはなんと中団からレースを進める。

 

普段、前気味でレースを進めているカツラギエースのまさかの脚質変更に周囲は驚きを持って観ていたが、初めての実践とは思えないほどの鮮やかな差し切り勝ちで、ダービーの舞台に立つ権利を自らの手で勝ち取ってみせた。

 

「お疲れ!エース、少しだけインタビューいいかな?」

 

「お疲れ様です!インタビュー大丈夫ですよ!」

 

レースを終えて、控え室へ戻ろうとするカツラギエースにピーちゃんが声をかける。

 

「それじゃあ、少しだけ。今日のレース、まさか、脚質を変えてくるとは思わなかったけど、しっかり実力を見せつけてたね!」

 

「ダービーに勝つための戦術変更だったんですけど、感触はいい感じです。なんで、ダービーも控えて走ろうと思ってます」

 

ピーちゃんの励ましに対してカツラギエースは喜びはすれど慢心はないようだ。重賞初勝利という選手としての一つの到達点もカツラギエースにとっては通過点でしかないようだ。

 

「そっか。いい脚の使い方は出来てたから本番も期待できそうだね!あっ、でも『ダービーポジション』のジンクスは気をつけてね。控えるレースをするのはいいけど、後ろすぎは良くないからね」

 

「そうですね。トレーナーさんからも『第1コーナーまでが勝負だからスタートは今まで通り前目を狙うように』って言われてます。気をつけますよ!」

 

ピーちゃんの助言に対して、カツラギエースは真剣な顔つきをする。

 

 

 

ダービーポジション

 

 

 

それは長年囁かれているダービーを勝つためのジンクス。日本ダービーに出場する選手は20名以上が当たり前で、酷い時には30名近くになることがある。加えて、東京レース場のコース設定上、最初のコーナーで前方のポジションを取れてないと最終コーナーで大外を通らなくてはいけなくなるため、実力がある選手でも勝てないことから出来てしまったジンクスだ。

 

『所詮、ジンクスだろ?』と笑う者もいるが、実際に有力視された選手のほとんどがジンクス通りに敗退しており、このジンクスの信憑性は極めて高いというのが定説である。

 

「意識できてるならいいけど、本番は本番。気を引き締めてね。ちなみに、シービーはどうするのかな?結構、みんなの話題になってるけど、親友としてはどう思う?」

 

二冠制覇に期待がかかるミスターシービーだが、その一方でダービーの走り方にも関心が向けられていた。

 

 

 

流石にダービーは走り方を変えるだろう。

 

それでも変えないのがミスターシービーだ。

 

 

 

ダービーでのミスターシービーの走りについての憶測や議論がファンや評論家から様々に飛び交っている。

 

「たぶん、アイツはいつも通りに最後尾からレースすると思います。というか、そうじゃなきゃ困る。あたしがアイツに勝った時に『いつも通りに走ればよかった』なんて言われたくないですからね!」

 

カツラギエースは確信を持った表情でミスターシービーがいつもと変わらない走りをすると断言する。

 

「まあ、それもそうだね。むしろ、シービーはそうでないと。そう言えば、取材は大丈夫かな?だいぶマスコミが騒いでるみたいで、生徒会にも取材の問い合わせが殺到してるんだけど…迷惑とかかけられてない?」

 

ピーちゃんがここ最近のミスターシービーに対する急激な注目度の上昇を心配する。

 

「取材は適当にはぐらかしながら、やってるんで、アイツはいつも通りです。まあ、マスコミの目があるんで、トレーナーが校外散歩禁止令を無期限延長したことには不貞腐れてますけどね」

 

「ハハッ。相変わらず、マイペースだなぁ〜。まあ、それもシービーらしいんだけど」

 

皐月賞の勝利後、ミスターシービーに対する世間の期待は爆発的に膨れ上がっていた。マスコミもファンも新たなスターの誕生だと大いに盛り上がっていて、報道はミスターシービー一色だ。

 

「まあ、何はともあれ、次のダービーも2人の活躍を期待してるからね!」

 

「はい!頑張ります!」

 

元気よく応えるカツラギエースの顔は自信に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ、シービー」

 

いつぞやの時のように、校舎の屋上の建屋の上で寝そべっているミスターシービーに寺永が声を掛ける。

 

「ん!寺さん、今日は更に見つけるの早いね」

 

見つけられたミスターシービーは起き上がり、下にいる寺永にいつぞやのように笑顔で応える。

 

「なんてことはないさ。最近はここがお前のイメージトレーニングの場所になっている気がしていたから、真っ直ぐここに来たまでだ」

 

「確かにそうかも。ここの居心地は最高なんだよね!たぶん、学園で一番高いところだからかな?」

 

「なるほど。いわゆる、バカと煙はなんとやらというやつか?」

 

「酷いな。アタシはバカでもなければ煙でもない。ミスターシービーだ。ところで、どうかしたの?トレーニングの時間まではもう少しあるはずだけど」

 

「少しお前に聞きたいことがあってな」

 

「聞きたいこと?なに?」

 

付き合いの長さを伺わせる皮肉の効いた軽快なやり取りの後、寺永の口調が少し真面目なトーンになる。

 

「皐月賞は今までで一番素晴らしい走りだった。観客は皆お前の走りに引き込まれていたよ。まあ、そんなレースになった一番の要因は、あの中央突破の捲りだったわけが、お前はなぜあの方法を思いつけたのか聞きたかったのだ」

 

寺永がミスターシービーに皐月賞でのことを問い掛ける。

 

「なんでかって言われると表現しにくいんだけど、なんか行けそうな気がしたんだよね。いわゆる『直感を信じる』ってやつかな。そしたら"全てが"上手くいったって感じ」

 

ミスターシービーはあっけらかんとした感じで理由を述べる。

 

「なんだ、その漠然とした…いや、それでいいのか…。で、その後、ゴールまではどんな感覚だったんだ?」

 

寺永はミスターシービーの回答に興味津々にさらなる問いをする。

 

「そうだなぁ〜。最近いい感じで走れている時の感覚で走れたね。集中のスイッチが入った瞬間にアタシの回りが真っ白になって、自分の心臓と息遣いの音しか聞こえない感じになるんだ。で、あのレース中はその感覚に入った瞬間に人混みの中に道筋が見えた気がしたんだ。だから、ああやったってわけ」

 

「ほー、他には?」

 

「んー、他には…あっ、スパートしようかなってタイミングでアタシの頭の中にデッカい『扉』が出てきたんだ。アレは初めての感覚だった。で、『扉』を開こうかなって思ったんだけど、その前にいつのまにかゴールしてた。もう少し距離があったら『扉』を開けれた気がしたんだけど、アレはなんだろ?」

 

ミスターシービーは頭の隅から引っ張り出すように懸命に思い出しながら当時の状況を寺永に伝える。そして、その中で体験した不思議な感覚を寺永に鮮明に伝える。

 

「『扉』…。シービー、もしかすると次のレースは皐月賞以上に観衆を魅了するレースができるかもしれない。次のダービーまでのトレーニングをいつも以上に大切にしろ。そして、ダービーまでに『扉』の前に確実に辿り着く方法を身に付けてみろ」

 

ミスターシービーの話を聞いた寺永が少しだけ興奮気味になりながら、今後の課題を伝える。

 

「『扉』の前に辿り着くか…。わかった、やってみるよ!あっ、そうだ!アタシもレースのことで一つ質問していい?」

 

寺永から課題を伝えられたミスターシービーが逆に質問を投げかける。

 

「別に構わんが、珍しいな。お前がレースに関して質問をするなんて。どういう風の吹き回しだ?」

 

ミスターシービーの珍しい行動に寺永は別の意味で関心を持つ。

 

「なんか、最近周りからやたらと聞かれるんだよね。『ダービーポジションはどう考えてますか?』ってさ。アタシはそれがよくわからないから、寺さんにその意味を聞こうと思ってね」

 

「それは『第1コーナーを10番手以内に回らないとダービーは勝てない』というジンクスのことだ。まあ、ジンクスにしてはなかなかに信憑性が高い。相応の実力者でもこのジンクスを破れなかった者がほとんどだからな」

 

「へー。そんなものがあるんだ。まさにアタシの走りの"天敵"になるジンクスだね。まっ、そんなジンクスがあっても、アタシはやり方を変えないけどね!」

 

寺永からジンクスの詳細を聞いたミスターシービーが、不敵な笑みを浮かべながら、ドヤ顔で恐れはないと宣言する。

 

「額面通りなら、お前の走りではダービーに勝てない。しかし、私もお前がジンクスに負けるとは思っていないよ。そのために重要になるのが、今お前が話した『扉』だ。もし、お前が『扉』を開き、その先に進めたのなら、ジンクスなど意味を成さないはずだからな」

 

そんなミスターシービーに釣られるように寺永がジンクスを破ることに自信をのぞかせる。

 

「おっ、なんか、面白そう!いいよ!寺さんが言うようにダービーまでに必ず『扉』に辿り着けるようにするよ!それで、『扉』の先に必ず行く!そのジンクスをアタシが叩き壊してあげる!」

 

「ああ、それでいい。『扉』の先を目指せ。ジンクスごときで、お前の自由(走り)が止められないことが証明できたなら、きっとそのレースは観客に深い衝撃となって心に刻まれるだろう」

 

「うん!証明してみせるよ!ダービーは最高のアタシを寺さんに魅せてあげる!」

 

「ああ、期待しているぞ」

 

 

 

 

 

 

5月29日 東京レース場

 

 

 

「おい、シービー。調子はどうだ?」

 

「ん?もちろん調子は絶好調だよ。今日のアタシは最高にキマってる!エースは?」

 

ゲート入り直前。ゲート前でカツラギエースがミスターシービーに調子のほどを問い掛ける。ミスターシービーは爽やかな笑顔で絶好調をアピールする。

 

「あたしも絶好調だ!今日こそは負けねぇ!」

 

ミスターシービーの問いかけにカツラギエースも豪快な笑いで絶好調をアピールする。

 

「エース、噂によると走り方を変えたんだってね?もしかして、後ろから行くレースの楽しさに目覚めた?」

 

カツラギエースの脚質変更の噂が耳に入っていたミスターシービーはその理由を尋ねる。

 

「別にそんなんじゃねぇ。あんたに勝つための最善策をトレーナーさんと練っただけだ。一応、言っとくが、前哨戦で予行演習は完璧だ。脚質変えたばっかだからって油断してると痛い目に遭うぜ!今日こそ、あんたにあたしの背中を見せつけてやる!」

 

カツラギエースは差しの脚質でミスターシービーに勝ってみせると勝ち気な姿勢を崩さない。

 

「いいね、それ。やっぱりエースはこうでなくちゃ!その挑戦受けて立つよ。そして、それを飲み込んでみせる。今日もエースはアタシの背中を見ながら悔し涙に暮れるんだ」

 

ミスターシービーもまた勝ち気な姿勢は崩さない。

 

「ハッ!やれるモンならやってみやがれ!じゃあ、また後でな!」

 

「うん!また後で!」

 

そう言ってカツラギエースとミスターシービーは自分のゲートへと納まっていく。

 

 

 

 

さあ、21名の内、約半数がゲートに入りました。

 

皐月賞と同じ枠番に収まります。

ミスターシービー。

 

皐月賞の時は雨が降っておりました。

今日の東京レース場、西陽が差しています。

 

12万のファンの前でいよいよスタートです。

 

 

 

 

ガシャン

 

 

 

 

ゲートが開いてスタートが切られました!

ミスターシービーは出てから下がるようなカタチになりました。

 

 

 

「さてと、落ち着いてスタートしなきゃね。皐月賞は変にいいスタートを切っちゃったから、正直、ちょっと困ったし」

 

ミスターシービーは皐月賞の"好"スタートを反省して、スタート直後にポジションを意図的に下げる。

 

 

 

ミスターシービーは現在一番最後であります!

 

 

 

マジか…ポジションを下げたよ…

 

やっぱり、いつも通りに行くのか。

 

いや、これでこそ、シービーだ!

 

ここからどうやって勝つか、見ものだな!

 

 

 

[まあ、そう思うよね…。シービーはそうするってわかっていても、不安になるのは当たり前だよね…。でも、その不安を消し飛ばしてくれるのがシービーの才能なんだ]

 

広報担当として、スタンドの関係者席からレースを見守るピーちゃんが、ミスターシービーのスタートの仕方に対してのリアルな周囲の声に理解を示す。不安一杯のスタート。しかし、それと同じくらいに期待してしまう勝利。観客席には早くも混沌とした雰囲気が漂っていた。

 

「しくじったなぁ…。ダービーポジションを取れなかった…。まあ、仕方がねぇ!最後の直線に入る前までにいいポジションを取れるようにするさ!」

 

一方のカツラギエースはスタートに失敗したわけではなかったが、ダービーポジションの争いからは早々に脱落してしまい、中団後ろ目からのレース運びとなる。

 

[さて、シービーは最後尾。エースは…中団の後ろ目かぁ…。2人とも1コーナーまでに10番手以内は厳しそうだね…。ここからどうやってポジションを押し上げて行くのかな…]

 

2人ともダービーポジションに入ることができなかったため、ピーちゃんは少し心配しながらレースを見守る。

 

 

 

ミスターシービーは21名の一番最後から行って、前の20名を抜くことができるのか!!?

全選手、1コーナーに向かいます!

 

 

 

「とりあえず、ここでしばらく様子見かな。勝負所までは集中状態を高めないと。身体の調子がどんなによくたって、『扉』の前に辿り着けないと元も子もないからね」

 

最後尾からのレースとなったミスターシービーだが、まったく動じる気配はなく、勝負所で力を発揮できるように精神集中に入る。

 

 

 

1コーナーを回りまして、イズミサンライズ。

外目を通りまして、桜花賞からの参戦です。シャダイソフィア。

その内側からニシノスキー。この3名が先頭。

内を通りまして、ミヤコオーダス。

わずかに遅れまして、マックスファイヤー・インターリニアル。

さらに内を通って、ウメノシンオーがついております。

 

 

 

「前の方はかなりゴタついてるな。まあ、この感じだと、全員シービーをマークだろうから、アイツが仕掛ける前にいいポジションを取りたいと思うのも、当然か…」

 

予想通りではあるが、第1コーナーを通過している最中も前方では激しいポジション争いが繰り広げられている。それはまるで、迫り来る脅威から逃げ延びるために、避難経路を我先にと確保しようとする人間心理が具現化したような光景である。

 

 

 

1コーナーを回ってミスターシービーは後方から3番目でレースをしなければいけません!

苦しい戦いを強いられました。ミスターシービーです!

 

 

 

ザワザワ

 

 

 

1コーナーを全選手が回り、隊列と各選手のポジションが落ち着き、観客がレースの全体図を把握出来るようになると、スタンドからざわめきが起きる。原因はもちろん、ミスターシービーのポジション取りだ。

 

期待と不安。両方が入り混じった観客の感情がざわめきとなって東京レース場を包む。

 

 

 

さあ、2コーナーから向こう流しに入ろうというところであります。

先頭のイズミサンライズ、自分のペース。

ガッチリとペースを抑えていきます!

 

 

 

「よし、先頭確保!これでマイペースに落とせる。確かにシービーはヤバいけど、だからって簡単に勝たせてやるもんか!私だって日本ダービー出場選手だ!舐めんなよ!」

 

隊列が落ち着き、レース前半のペースも決まる。先頭でレースを作るイズミサンライズはスピードを緩め、スローな流れを意図的に作り出す。それはあからさまなミスターシービー対策の狙いが見て取れる。

 

[イズミがペースを落とした…。私もそれに乗っかるよ]

 

[だよね。このまま期待通りに決まったら面白くないっつーの!]

 

[ありがたいね!みんなペースを合わせてる。このままペースが変わらないなら、アタシにもワンチャンある!]

 

[想定通りのペースになりました。このペースにわたくしも身を委ねましょう]

 

 

 

2番手につけました、ニシノスキーが行きました。

朝日杯のチャンピオン、ニシノスキー。

内を通ってミヤコオーダス。

その後ろにマックスファイヤーがついている。

さらに外からシャダイソフィアも行っている。

 

 

 

先頭集団を形成する他の4名がイズミサンライズのペースに合わせるように固まる。示し合わせたわけではない。ただ、栄冠を勝ち取るために自分が何をしなければいけないのか?他者が何をしようとしているのか?がわかるからこその行動。

 

たとえ周囲から勝利を期待されなくとも、日本ダービーへの出場を認められたというプライドが、参加選手全員に闘争心を持たせる。

 

このペースはまさに参加選手全員が決着の瞬間まで全力で闘い抜くという覚悟を表しているかのようで、全員打倒ミスターシービーという目標を掲げているということが、改めて明らかになる。

 

 

 

そして、わずかに遅れてインターリニアル、3枠のダイニタカフジも行っております。カツラギエースも行っている。

 

 

 

「ペースが落ち着いた。このまま、あたしも脚を溜める。自分の走りはできてる。でも、勝つためにはそんなもんは関係ない。結局はシービーを超える走りが出来るかどうかだ!」

 

カツラギエースも前方が作り出すペースに逆らうことなく、脚を溜める判断を下す。NHK杯で急な脚質変更をしたばかりのカツラギエースではあるが、この日も冷静に戦局を見極めていた。

 

 

 

 

さあ、ミスターシービーは現在後方から4番手であります。後ろの方からビックダンディー、さらに後ろからウズマサリュウが最後というところ。

 

さあ、苦しいレースです!

ミスターシービーは最後方!

まだ、苦しいレースです!

 

 

 

[ああ、この緊張感、この高揚感だ…。この感じがアタシが求めていたもの…。さあ、準備は整った…]

 

側から見れば、ミスターシービーは追い込まれているように見える。しかし、ミスターシービーの集中力は過去最高に高まっていて、全ての感覚がいつになく研ぎ澄まされていた。

 

なぜなら、この状況こそがミスターシービーが求めていたモノだったからだ。

 

 

 

 

アタシはレースで勝つことで得られる栄冠や栄誉というものに興味がない。

 

それは本当。

 

だって、アタシにとってあそこは、それを得るためのモノじゃないから。

 

ただ、走るためにあるもの、ただそれだけのものなんだ。

 

そんな"変わった"ウマ娘のアタシだけど、トレセン学園は好き。

 

ここには毎日レースできる場所があって、毎日レースしてくれる『仲間』がいるから。

 

ここはアタシの理想の世界。

 

えっ?それは大袈裟な言い方だって?

 

そんなことないよ。

 

独りで走ることがどれだけつまらないことかをよくわかってるアタシからすれば、ね。

 

だから、アタシの望みはトレセン学園に入れた時点で叶ってる。

 

だから、アタシには求めるモノは何もない。

 

でも、もしアタシが"もう少しだけ"贅沢を言っていいのなら、アタシはアタシの胸を高鳴らせてくれるような強いウマ娘たちと走りたいかな。

 

そんな強いウマ娘たちと一緒に『最高のレース』が出来たらアタシはきっと……

 

 

 

 

栄誉や栄光を求めないミスターシービーが唯一追い求めたモノ。

 

それは熱いレースを繰り広げてくれる強い『仲間』たち。

 

彼女の望みは今日、日本最高峰の舞台(日本ダービー)で叶った。

 

そして、彼女の望みが叶ったその時、彼女の才能は次なる境地へと至るのだった…。

 

 

 

 

カツ、カツ、カツ、カツ、カツカツ…

 

 

 

 

「ああ、これが『扉』か…。ヤバいね…楽しみすぎてゾクゾクしてきた」

 

見渡す限り白一色の不思議な空間を歩いていたミスターシービーの前には巨大な扉が見えてきた。

 

「さあ、開くよ…。この『扉』の先には何があるのかな…」

 

そう呟いたミスターシービーが、眼前に聳え立つ巨大な扉に手を触れる。そして、その扉を押し開くと…

 

 

 

ガガガガ、ガコン!

 

 

 

それは時代を作るウマ娘だけが至れる、当人も知らない限界の先の先にある境地に至るための『扉』だった…。

 

 

 

領域(ゾーン)

 

 

 

「ハハハ…最高の気分だ…。さあ、この世界(レース)はもう、アタシの領域(モノ)だ!!」

 

 

 

1人の少女が足を踏み入れた未知の理の世界。

 

それがミスターシービーというウマ娘の伝説の始まりだった…。

 




初めに言っておきますが、私はシングレのレース描写が好きです。
なので、今回の作品は『領域』の描写を過去作よりもハッキリ描写しました。

そして、その『領域』なのですが、原作の要素にプラスして、私独自のオリジナルな設定(という名の他作品のオマージュ)もあります。

ちなみにミスターシービーの『領域』突入の描写は黒◯バスケの青◯をイメージしてもらえるといい感じです。

ミスターシービーの『領域』についてはまたの機会に解説しますが、この後もいろいろなウマ娘の『領域』描写が出てきます。

『領域』のバーゲンセールだな

とか突っ込まないでください(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。