BEGINNING OF THE REVOLUTION   作:スタイニー

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皐月賞に続き、日本ダービーも圧勝したミスターシービー。
その人気や注目度は爆発的に上がっていき、19年振りの三冠制覇の期待がかけられる。一方のカツラギエースはある悩みを抱えていて…。



友達

 

暦は既に7月に入り、季節は夏へと完全に移り変わっていた。春シーズンの主要イベントであるクラシックレースは全て終わったが、その余韻はまだまだ残っていて、例年なら夏シリーズやジュニア級レースにファンやメディアの関心が移ってもいい時期なのだが、今年に限ってはクラシック級の選手の動向やレース結果ばかりに注目が注がれている。

 

もちろん、その盛り上がりはいろいろな意味でイレギュラーであることに皆気付いていて、そのイレギュラーを作り出した張本人は…

 

「先輩!ウインナーいただき!」

 

「ちょっと、人のおかずをいつも(・・・)盗むな!この、おかず泥棒!」

 

先輩からおかず泥棒呼ばわりされていた。

 

「えー、いいじゃん。この間は単独取材したし、後払いの"ギャラ"ってことで!」

 

「その理屈だと、"普段"はどんな理由で盗ってるのかな〜??」

 

ミスターシービーの屁理屈にピーちゃんがこめかみにすじを浮かべ、笑いながら問い詰める。

 

「今は今。普段は普段。明日は明日。人のおかずは常に欲する。なんてね!」

 

ミスターシービーが即興の短歌を詠み、心情を表す。

 

「あのね、別に上手くないからね…まったく…」

 

ピーちゃんはミスターシービーの奔放さに呆れる。そして思う。『アンバーもそうだけど、癖のある性格じゃないと八大競走には勝てないのか』と。

 

衝撃のダービーが終わり1ヶ月。

トゥインクルシリーズの話題はミスターシービーを中心に回っている。

 

【常識破りのダービー】

 

【伝説の末脚】

 

【19年振りの三冠なるか!?】

 

【父と母を超える新たな伝説の幕開け】

 

新聞や雑誌の見出しは様々な文言が並び、これまでの功績はもちろん、未来への期待があの手この手で表現されているが、事を起こした張本人は、『そんなことは勝手にやっていればいい』と言わんばかりにいつも通りのマイペースで過ごしていた。

 

「ところでさ、『アレ』はどうなったの?」

 

「ああ、結果は変わらないよ。けど、一応、悪いとは思ってるから、記念品は受け取ってない。トレーナーとも相談して、"ケジメ"はつけようってなって、それからは特に何も」

 

「そっか…。まあ、『アレ』はちょっと見映えが悪かったからね…。1着が取り消しにならないだけよかったよ」

 

「反省はしてる。みんなに申し訳ないことした…。アタシもビデオ見たけど、『アレ』はダメだね…」

 

そう言うミスターシービーは珍しく、少ししおらしくなっていた。

 

各方面から称賛の嵐を受けたミスターシービーのダービー。しかし、100%称賛だけかと言われるとそうではなく、ミスターシービーのレース中の走行方法に異議申し立てをするトレーナーが一部いた。

 

審議対象になったのは、最終コーナーで右側を並走していたキクノフラッシュに体当たりをしてしまったシーンだった。レース確定直後に審議対象にならなかったことも含め、複数のトレーナーから抗議の声が上がっていた。

 

そういった抗議の声に対し、ミスターシービーの担当トレーナーは『審議委員会の採決に委ねます』とだけコメントし、如何なる処分も受ける声明を発表した。

 

そういったこともあり、一時は『ダービー制覇の称号の剥奪が決定的か!?』とまで騒がれたが、最終的には結果に変更がなかった。

 

「アタシもトレーナーも剥奪は仕方がないかなって思ってたけど、キクノとかヒエンとかが助けてくれたみたいだから…ありがたいよね…」

 

最終的な結果の変更はなかった。

 

なぜなら、アクシデントの当事者であるキクノフラッシュとタケノヒエンがミスターシービーのタイトル剥奪をやめて欲しいと嘆願してくれたからだった。

 

 

 

ウチが無理にシービーのルートを塞いだから接触が起きました。だから、シービーは悪くないんです…。

 

 

確かに身体をぶつけられた時はビックリしました。でも、たとえ身体がぶつからなくても私はあんな凄い末脚には追いつけません。だから、シービーの勝利は取り消さないでください…。

 

 

 

アクシデントの原因を作ってしまったタケノヒエンと直接的な被害にあったキクノフラッシュがミスターシービーを庇ったことでタイトル剥奪は白紙となった。

 

それでも、一部からは不満の声が残ったが、この声も『ある者』の一声で一蹴された。

 

 

 

メジロ家の代表たるモンスニーは"完璧な"レースをいたしましたが、ミスターシービーさんには他者の煽りを受けるという"アクシデント"があったように思います。そのような状況であってなお追いつけないとは、ミスターシービーさんの強さには脱帽いたします。

 

 

 

2着だったの名門メジロ家のメジロモンスニー。

しかし、そのメジロ家の当主が直々にミスターシービーの勝利を称賛するコメントを発表したため、この騒動は完全な決着を見た。

 

「悪いのはアタシ。だから、なんて言われてもいいよ。ところで先輩。それよりも相談したいことがある…」

 

ミスターシービーはさっきとはまた違う落ち込んだ表情をする。

 

「えっ?どうしたの?」

 

そんなミスターシービーをピーちゃんは再び心配する。

 

「実は…最近、エースが口を聞いてくれないんだ…。アタシ、嫌われたかな…」

 

「えっ?あっ…そ、そうなの…?」

 

「だって、最近、一緒に走ろうって言っても、断られるし…」

 

「へ…へぇ〜…」

 

「今日だって、お昼一緒に食べよって誘ったのに『無理』って言われた…」

 

「あっ…そうなんだ…」

「おい」

 

「さっきも、おかずくれないし…アタシ相当嫌われてる…」

 

「…」

「おい!それはいつも通りだ!」

 

「ああ、アタシ、エースに嫌われたら生きていけない…」

 

「おい!なんなんだよ!今、あたしが(・・・・)先輩に『相談』してたんだろうが!そこに割って入って『相談』を盗むなよ!本当に嫌われたいのか!?」

 

ミスターシービーの背後に最初から(・・・・)いたカツラギエースが、溜めに溜めたツッコミを満を持して放つ。

 

「あっ、エース!おはよ!」

 

そんなカツラギエースに対して、ミスターシービーは動じず、キザなポーズで挨拶をする。

 

「おはよ!じゃねぇよ!あと、言ったよな!あたしはレースがあるから、併走は『先週まで』ダメだって。昼ご飯も先輩に相談があるから『今日は』別でって、『朝』言ったよな?」

 

「あっ、なんか言ってたかも」

 

カツラギエースが捲し立て気味にそうした理由を説明する。それを聞いたミスターシービーは『確かに』という納得した表情でポンと手を叩く。

 

「言ってたかも、じゃねぇよ!言ったよ!で、お前は『OK』って言ったよ!あのやりとりは一体なんだったんだよ!とりあえず、あっち行け。あたしはまだ相談の途中なんだ!」

 

カツラギエースは呆れつつ、少しだけ申し訳無さそうにミスターシービーをこの場から離れさせようとする。

 

「…わかった。また、あとでね…」

 

カツラギエースの心情を察したからだろうか、ミスターシービーは申し訳なさそうに引き下がろうとする。

 

「あー、もう…。放課後、駅前の団子屋で待ち合わせだ。それでいいか?」

 

カツラギエースもまたミスターシービーの心情を察してか、埋め合わせを提案する。

 

「うん!じゃあ、バイバイ!」

 

カツラギエースの提案にミスターシービーは嬉しそうな顔をしながら、手を振って立ち去った。

 

「あのー、"夫婦喧嘩"は終わったのかな?なんですか?2人の仲直り劇を見せつけたかったんですか?」

 

「すっ、すんません…」

 

『何をみせつけられてるんだ、アタシは』と言わんばかりの仏頂面のピーちゃんに、カツラギエースが恥ずかしそうに謝罪する。

 

「まあ、それは冗談にしても、シービーもどことなく察してるよね。エースが接し方に困ってることは」

 

「…。そうなんですよね…。あたし、これ以上シービーに心配かけさせたくないんで、だから先輩に相談しようと思ったんです。"移籍先"」

 

ことの発端は今週の月曜日。

カツラギエースがピーちゃんに相談のメールを入れたことに始まる。

 

 

 

 

新しいチームを探そうと思ってます。

相談に乗ってくれませんか?

 

 

 

 

メールを受けたピーちゃんはすぐにその時間を作った。それが、今日の昼休みだった。

 

「そもそも、なんで移籍の話になったの?トレーナーと仲悪いの?」

 

ピーちゃんはカツラギエースにそうなった理由を尋ねる。

 

「いや、全然そんなことないです。むしろ、スゲー仲いいです。何の取り柄もないあたしをスカウトしてくれて、ダービーに出れるくらいまで鍛えてくれた大恩人で、めっちゃ尊敬してます!」

 

そう語るカツラギエースの顔は真剣で、現在のトレーナーに本当に感謝しているのが、すぐにわかる。

 

「じゃあ、なんで?トレーナーがエースを見切ったの?」

 

「いや、それも違います。トレーナーさんが言ったんです。『恩義でチームに残らなくていい。もっと実績あるトレーナーの元に行きなさい』って、『エースはもっと強くなれるから』って。要は、トレーナーさんがあたしに"自分"を見切れって言ってるんです…」

 

カツラギエースはとても複雑そうな表情でトレーナーとのやり取りを話す。

 

「いやいや、凄い優しいトレーナーじゃん。そりゃあ、移籍するか悩むね…」

 

話を聞いたピーちゃんも複雑な表情をする。

 

「今のチームに残りたい気持ちはあります。でも、このままじゃあ、シービーに追いつけない…。先週のオープン特別ですら勝てないあたしが『打倒シービー』なんて目標を掲げてたらアイツに失礼だ…だから、もっと自分を追い込まないと…」

 

カツラギエースは自分の不甲斐なさを悔しがる。

 

「そっか。[んー、エースは悔しがってるけど、正直アレは相手が悪すぎる。あのレースは"ウイナー"が相手じゃなかったら、エースが完勝してる]」

 

ピーちゃんはカツラギエースの気持ちを汲むが、正直なところ、その悔しさは見当違いだと感じている。なぜなら、カツラギエースが2着に敗れた先週のレースの勝者は、『ニホンピロウイナー』というウマ娘だったからだ。

 

ニホンピロウイナー。

 

カツラギエースやミスターシービーの同期でジュニアクラスの頃から重賞勝利も上げている実力者。皐月賞にも出場していたが、距離不安やバ場の悪さが響いて20着と大敗。そのため、それ以降はクラシックレースを諦め、短距離路線にレースを絞っている。

 

このように書くとカツラギエースよりも格下に見えてしまうが、『良バ場、1600m以下』という条件であれば、クラシック級限定レースならほぼ負けなしの強豪選手。それに対してカツラギエースは自分の『適性外』レースで勝負を挑んでいるのだから、客観的に見て勝つ方が難しかった。

 

「痛感しました。あのダービーで。あたしはまだまだアイツに届かない。いや、住んでる"世界"が違う。だから、あたしはもっと実力をつけて、アイツのいる世界に行かないといけないんです…。そのためには『今までよりも』だけじゃダメな気がするんです。もっと、自分を変える何かがないと…」

 

カツラギエースは悔しそうな表情でダービーを振り返る。その表情はカツラギエースとミスターシービーの実力差を隔絶たる開きを表している。

 

ミスターシービーの圧勝で終わったダービー。カツラギエースはラストの失速が響き、掲示板外の6着に終わっていた。ただ、着差以上の圧倒的な実力差をカツラギエースはレース終了直後から自覚していて、悔し過ぎてレース終了後の定例の取材はもちろん、ピーちゃんの取材も意気消沈気味だった。

 

「別の世界か…。まあ、そういう感覚になるのもわかるよ。あのレースは全てが規格外で参考外だった。最初の位置取り、スパートの掛け方、進路選択、そしてラスト400mの末脚。たぶん、あれの真似をできる人は歴代の名選手でもいないだろうね…」

 

レースの全てを観客として見ていたピーちゃんもあのレースのミスターシービーのパフォーマンスには戦慄していて、もし同じレースを走っていたら自分もカツラギエースと同じになるだろうな、という思いがあった。

 

「まあ、悩んでても話は進まない。秋シーズンまで3ヶ月しかないし、とりあえず、この夏はどうするの?」

 

ピーちゃんは夏シーズンの過ごし方をカツラギエースに聞く。

 

「もともと、春はフル稼働、夏は全休って決まってたんで、夏休み期間はこれといった予定がないです。だから、トレーナーさんからは『チーム練習は自由に参加していい』って言われてて、『いつでも移籍していいし、何なら"仮入部"してきて、ダメなら戻ってきな』って言われてます…。マジで、いい人です…」

 

トレーナーの温かみにカツラギエースはますます申し訳なさそうにする。

 

「んー、そしたら、ウチのチームに来てみる?たぶん、マサさんは受け入れてくれるし、なんなら、他のトレーナーを紹介してくれるかもしれないから。それに、あたしも7月から本格稼働するから、エースと練習できたら楽しいし…」

 

「えっ?マジですか?それ、めっちゃありがたいです!ぜひ、お願いします!」

 

悩ましい表情をするカツラギエースにピーちゃんは自分のチームに来ることを提案する。その提案にカツラギエースはとても喜ぶ。

 

「じゃあ、これからマサさんに電話を…」

 

 

 

トゥルル トゥルル

 

ミスターシービー

 

 

 

「あれ?シービーからだ。はい、もしもし。どうしたの?」

 

突然鳴った電話は先程別れたミスターシービーからだった。

 

「うん。うん。うん。はい?何やってんの?」

 

いくつかの相槌の後に、ピーちゃんが呆れ顔をする。

 

「えっ、シービーに何かあったんですか?」

 

ピーちゃんの表情の変化を察したカツラギエースが尋ねる。

 

「シービーが怪我したって…」

 

「はっ?」

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、エースと久しぶりに放課後に遊べるからって嬉しくなって、ジャンプで壁を飛び越えようと思ったら、着地場所に小石があるなんて気付かなくて、思いっきり踏んじゃった…。今、足の裏と足首が物凄く痛い…アハハハ…」

 

保健室のベッドで脚をぶらつかせるミスターシービーが苦笑いしながら、怪我の経緯を話す。

 

「バカ」

「アホ」

「マヌケ」

「ポンコツ」

「昨日の卵焼きを返せ」

「今日のウインナーを返せ」

 

「ちょっと、最後の2つは怪我に関係ない!」

 

「この際だから言わせてもらう。この罰当たりめ」

「日頃の罪を償い、悔い改めろ」

 

「はい…申し訳ありません…」

 

ミスターシービーの話を聞いたピーちゃんとカツラギエースはここぞとばかりに流れるような連携でミスターシービーをなじり、そのついでにここ最近の被害に対しての弁償を求める。それに対して、ミスターシービーはぐうの音も出ないほどに萎縮している。

 

「天下の二冠ウマ娘、次世代のスター選手が自爆で怪我なんて、恥ずかしいでしょ。しっかりしてよね…。で、全治は?」

 

呆れ顔のピーちゃんがミスターシービーにスター選手としての自覚を促すと共に、怪我の全治を聞く。

 

「一応、2〜3週間くらいだって、まあ、もともと脚を休めろってトレーナーには言われてたから、トレーニング的な問題はないよ」

 

ミスターシービーは診断結果を伝える。

一応、大したことではないので、ミスターシービーにもいくらか余裕はある。

 

「あたしはこんなヤツに負けたのか…。ああ、死にたい…。もうシービーに憧れるのはやめようかな…」

 

カツラギエースが目頭を抑えながら、自分が憧れたウマ娘の惨状を嘆くと同時に、自分の見る目のなさを嘆く。

 

「そんな寂しいことを言わないでエース…。アタシの親友、相方、ライバル(仮)…」

 

「おい!最後のはバカにしてるだろ!くそ〜、絶対に秋には勝ってやるからな!」

 

ミスターシービーのオチの付け方に反発したカツラギエースが怒りながら、秋シーズンでのリベンジを誓う。

 

「とりあえず、シービーは安静に。で、エースは今度、ウチのチームの練習参加ね」

 

「えっ?エース、移籍するの?」

 

「移籍はまだ決まってない。とりあえず、先輩のチームに"出稽古"してくる」

 

「え〜、いいなぁ〜。アタシも先輩とトレーニングしてみたい」

 

ミスターシービーは心底残念そうな表情をする。

 

「しょうがないだろ、さっき決まったんだから。まあ、それはそれとして、お前が怪我してなかったら、誘おうかと思ってたのに、コレだろ?このバチ当たり!」

 

「うっ…反省します…」

 

カツラギエースの正論にさすがのミスターシービーも完全に沈黙した。

 

「とりあえず、行くぞ、シービー」

 

「えっ?どこに?」

 

カツラギエースの呼び掛けにミスターシービーが行き先を尋ねる。

 

「どこって、教室だよ。もう、昼休み終わってるぞ」

 

「えー、怪我したし、授業出たくない」

 

ミスターシービーが怪我を理由に駄々をこねる。

 

「帰りに団子屋行くんだろ?これくらい我慢しろよ!あっ、よかったら先輩も行きませんか?」

 

「あっ、そっか…じゃあ、仕方がない…」

「えっ?アタシもいいの?じゃあ、行く」

 

「よし!決まり!じゃあ、とっとと、授業を終わらせて、団子屋に行くぞ!」

 

「うん!」

 

[相変わらず、いいコンビだよね。いろいろ悩むことはあっても、選手として火花を散らさなくちゃいけなくても、アタシたちは学生で、レースから離れれば友達なんだ。ああ、明日からの復帰が待ち遠しいよ…。引退までにアタシも2人に負けないくらいの何かを残したいな…]

 

歳的に3つ上のピーちゃん。

 

選手としての実力は自分以上とはいえ、まだまだ精神的にお子様なところがある2人。そんな2人を見守る毎日はピーちゃんにとってかけがえのないものだった。

 

ただ、それは選手としての自分が羽を休めている期間だから出来たこと。これからは選手としての自分が再始動する。

 

これまでは『学生としての先輩』としてだけの接し方でよかったが、これからは『選手としての先輩』として接することができる相応しい自分として、何かを示さなくてはいけない。

 

そんな決意を心に秘めて、ピーちゃんは復帰を心待ちにする。

 

 

 

「あっ、そうだ。この間、疑問に思ったんですけど、会長って先輩のことを『ピーちゃん』て呼びますよね。あれ、なんでですか?先輩のことをそうやって呼ぶのは会長しかいないですよね?」

 

保健室を出て、教室に向かう途中でカツラギエースがピーちゃんのあだ名の由来を尋ねる。

 

「あ〜、それは入学初日にアタシがアンバーに消しゴムを借したことがきっかけ」

 

「消しゴム?」

 

「そう。消しゴムにはもともと『KP』ってアタシのイニシャルが書いてあったんだけど、その時は『K』が削れてて『P』って書いてあったから『ピーちゃん』になったの。あの呼び方、恥ずかしいからやめてって言い続けてるんだけど、アンバーのヤツずっと直さないんだよね」

 

ピーちゃんは眉間に皺を寄せながら、きっかけを話す。

 

「あっ、なるほど!『ピー』じゃなくて『P』か!」

 

「エース。あのあだ名はアタシのチームでは絶対に呼ばないでね!マジで恥ずいから!」

 

ピーちゃんがカツラギエースにそこそこのトーンで口止めをする。

 

「大丈夫ですよ。呼ばないです。おらっ、シービーも気をつけろよ!」

 

「えっ、アタシ関係ない……あっ、そうだ!今日のお団子屋、アタシとエースで先輩に奢ろうよ。今までいろいろ面倒見てくれたし、これからもよろしくってことで!」

 

 

 

二冠を制覇し、この春シーズンの主役となったミスターシービー。

 

 

 

「おっ!いいね!そうしようぜ!」

 

 

 

入学当初の低評価を覆し、春シーズンで徐々にではあるが、実力をつけ始めたカツラギエース。

 

 

 

「えっ?いいの?ありがとう!」

 

 

 

春シーズンを選手としてではなく、裏方として関わったピーちゃんと呼ばれるウマ娘。

 

 

 

「「これからもよろしくお願いします!」」

 

 

 

ただ、ピーちゃんはこの時、まだ知らない。

 

自分の走りが日本レース界の『歴史』を動かす、大きな偉業となることを。

 

 

 

「「キョウエイプロミス先輩!!!」」

 

 

 

のちに『世界に手をかけた勇士』と讃えられるウマ娘、キョウエイプロミス。

 

その短くも熱いシーズンがこれから始まろうとしていた…。

 

 

 

 




謎のウマ娘の正体はキョウエイプロミスでした。

元々、次の物語はどの競走馬がいいだろうか?と考えていて、フサイチコンコルドくらいの中編小説でキョウエイプロミスの話を描こうと考えていました。

でも、キョウエイプロミスの話を書く→翌年のジャパンカップ外せないな→1984ジャパンカップ書くならエース外せないな→エース書くならシービー外せないな→シービー書くならルドルフ外せないな→ルドルフ書くなら⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎と●●●●外せないな→めんどくさいから83年〜85年まで全部書いたれ!

となって、かなりの長編になったわけです。

次からは第2章が始まります。
激動の3年間の1年目の後半期。
もし、彼が走れなければ、後の日本の競馬界の発展はなかった、そう言っても過言ではない、歴史的な出来事をウマ娘風に描いてみました。
長々とした物語ですが、次章もお楽しみください。
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