BEGINNING OF THE REVOLUTION 作:スタイニー
キョウエイプロミスはカツラギエースを自分のトレーナーの元へと連れて行った。
新しい出会いと新しい環境で決意を新たにするカツラギエース。
そして、キョウエイプロミスもまた、リハビリから復帰し新たな決意を胸に、幼い頃から付き合いのあるトレーナーと二人三脚で最後のシーズンに挑む。
成長の7月
コンコン
「マサさん。連れてきたよ。この子がカツラギエース」
「おお、待ってたぞ、プロミス。こんにちは、カツラギエースさん。プロミスのトレーナーの高田政男と言います。よろしく!」
「あっ、はい!よろしくお願いします!カツラギエースです!」
キョウエイプロミスとカツラギエースの話し合いの次の日。2人はキョウエイプロミスのトレーナーである政男のトレーナー室に来ていた。
高田政男。
中央所属16年目のトレーナー。
まだ40手前ではあるが、既に八大競走を3勝していて、現在の中央で勢いのある中堅トレーナーの1人である。
政男とキョウエイプロミスの付き合いはトレセン学園入学前からあり、キョウエイプロミスが入学してからも政男のチーム一筋であるため、既に10年来の付き合いがある師弟コンビである。
「とりあえず、プロミスから話は聞いているよ。移籍先を探しているんだってね。私としては君みたいな実力者はウチのチームにぜひ来てもらいたいという気持ちはあるが、トレーナー探しは君たちウマ娘にとっては一生モノの重要な事だ。私も含めて、君の才能を一番引き出せるトレーナーを探せるように協力するよ!」
政男は物腰柔らかい表情でカツラギエースの悩みを解決できるようにすると宣言する。
「マサさんは八大競走に勝ったこともあるトレーナーだから、わからないことや知りたいことはなんでも聞いてね!」
キョウエイプロミスはカツラギエースにニコニコと政男の紹介をする。その表情にはキョウエイプロミスの厚い信頼が見て取れる。
「八大競走勝ってるとか、スゲ〜!なんか、なんの取り柄もないあたしが指導してもらうってのも、申し訳ない気が…」
政男の実績の凄さを知り、カツラギエースはますます小さくなってしまう。
「そんなことはないさ。今世間の話題はミスターシービーばかりに集まってしまっているが、私たちトレーナーはそれ以外の選手だって当然見ている。君をこの世代の有力選手と見ているトレーナーもなかなかに多いからそんなに謙遜する必要もないよ」
「そ、そうですかね…」
実績あるトレーナーである政男の真っ直ぐな賛辞にカツラギエースが照れる。
「とりあえず、この1週間くらいは君の能力や特徴を測らせてもらう。その後は私なりに君に合った指導が出来ていければと思うよ」
「はい!よろしくお願いします!」
「あと、これは私からのお願いなんだが、プロミスの練習相手にもなって欲しい。この子は半年の休養明けでね。1ヶ月前くらいから軽めの運動はさせていたが、本格的なトレーニングは今日からになる。どうやら君の能力や人柄を買っているみたいだから、プロミスにとってのいい刺激になって欲しいんだ」
「もちろんです!こんないいチームの練習に参加させてもらえた恩もありますし、前から先輩と走りたいと思っていたので!」
カツラギエースは満面の笑みで快諾する。
「ありがとう。では、早速だが、トレーニングと行こうか。カツラギエースさん、グランドに行ってアップをしてくれ。プロミスは少し残って。話したいことがある」
「わかりました!」
「わかった」
「じゃあ、プロミス先輩。先に行ってます」
「うん。話終わったら、すぐ行くから、アップして待ってて」
「はい!」
いくらかのやり取りの後、カツラギエースは部屋を出て行った。
「プロミス。珍しいというか、初めてだな。お前が年下の子と仲良くなるなんて。今までずっと同年代か年上としか仲良くなることがなかったのに、どういう心境の変化だ?」
政男がキョウエイプロミスの意外な行動の理由を尋ねる。とはいえ、それは"嬉しい"誤算のようで、政男の表情はとても明るい。
「まあ、繋がるきっかけは生徒会長の頼みごとからなんだけどね。エースやシービーと繋がるようになって、先輩として年下を見守るっていうのが、いいモノに見えてきたからかな。それにあの子たちいい性格してるから一緒にいて楽しいし、なんなら実力も高いしね。いい刺激になるんだ」
年下の後輩たちの話をするキョウエイプロミスには穏やかな笑みが溢れる。
「いい笑顔だ。本当にいい出会いだったんだな。一生大切にしろよ」
「うん」
キョウエイプロミスは少し照れくさそうにしながらも、その出会いが心の底から本当に価値のあるものだと思えているような表情と口調で政男に話す。政男も今までとは違う面持ちでいるキョウエイプロミスの成長を喜んでいるようだ。
「さて、本題に入るが、これからトレーニングを本格的に再開する。ただ、正直な話、お前の脚の状態もあって、この半年がお前の現役のリミットだ。悔いを残さないようにやれよ」
「わかってる」
話が切り替わりトレーニングの話になると政男は先ほどまでの物腰柔らかい雰囲気から真剣な顔付きになる。そこには八大競走に勝つほどの実績を持つ、実力あるトレーナーとしての雰囲気が滲み出ている。
「カツラギエースは私が少し様子を見てから課すことにするが、あの子もお前もいつもの"ヤツ"をやってから、レースまでの練習計画を決める。で、お前は今日から1週間の中で、目標を決めておけ。出来るな?」
「大丈夫。ってか、もう大体決まってる。今、伝えるよ」
政男の課題に対して、キョウエイプロミスはすぐに答えられると言う。
「ほ〜う。じゃあ、聞こう。まずは、『目標』を言ってみろ」
これは政男のチームで毎年初めに行われるやりとりで、選手各々が年間で成し遂げたい『目標』とその『意志』を政男に発表するという自己啓発トレーニングの一環だ。
「アタシは秋シーズンで4つのレースに出る。一つはステップレース。残り3つは天皇賞秋・ジャパンカップ・有馬記念に出る。そして、その中の最低一つは勝つ。それがアタシの『目標』」
政男から問われたキョウエイプロミスは力強い口調と視線で答える。
「まあ、出場するだけなら可能そうだが、一つでも勝つことはなかなか大変だぞ。[とは言ったが、プロミスと付き合って10年近く。この子がこんなにハッキリと力強く『目標』を私に言ったことはなかったな。この半年で何かが変わったな]」
キョウエイプロミスの宣言に政男は建前では懐疑的な返答をしているが、内心では精神的な急成長に感心していた。
「難しいのはわかってる。でも、アタシはそれをどうしても成し遂げたいっていう強い『意志』がある。次はそれを聞いて」
「わかった。聞こう」
政男の"建前"の反応に対しても、キョウエイプロミスは怯むことなく、堂々と会話をする。堂々としたキョウエイプロミスの雰囲気に対して、政男もまた不必要に緩むことなく冷静な会話を続ける。
「正直、勝つなら天皇賞が一番可能性が高いと思ってる。やっぱり、長距離がアタシの適性みたいだからね。引退前にアタシの土俵のレースに勝って、ここでやってきたことをしっかりかたちとして残したい。あと、"3200mの"天皇賞の最後の勝者になりたいっていう気持ちがある」
「なるほど、じゃあ、ジャパンカップは?」
「ジャパンカップはアタシの親友との約束のために出る。勝つのは厳しいだろうけど、ずっと生徒会長として頑張ってきたアンバーと一緒にこのレースに出て、日本のウマ娘として世界に意地を見せつけたいんだ」
「じゃあ、最後に有馬記念に出たい理由はなんだ?水を差すようで悪いが、お前の脚で秋に4戦はかなり厳しい。まあ、引退の花道を飾りたいというならそれはそれだが…」
「有馬記念に出るのはエースやシービーとの約束のため。昨日3人で約束したんだ。今年の有馬記念で一緒に走ろうって。アタシとあの子たちが一緒に走れる最後のレースだからね。次の子たちにバトンを渡すつもりでみんなで走りたい。だから、出たいんだ」
「いいだろう。『目標』と『意志』に関しては合格だ。あとはそれを成し遂るための『努力』ができるかどうかだ。一応、見守る期限はステップレースまでだ。その結果次第では『目標』を下方修正する。いいな?」
3つのレースに出る理由を力強く話すキョウエイプロミスに対して、政男は合格を言い渡した。
「うん。それで大丈夫。自分で決めた目標を下げないためにも、しっかり『努力』するよ」
「いつも言っているが、『努力』とは薬であり毒でもある。『努力』の量や用法を間違えば、精神や肉体に悪影響を及ぼしかねない。プロミス、今のお前は私が今まで見てきた中で、一番の充実期を迎えているように感じる。だからだが、焦るな。いいな?」
中央所属のトレーナーの中でも特にメンタルトレーニングを重要視している政男は、選手の自発的な成長を促すために自己啓発を好んでいるが、その一方で、過度であったり間違った『努力』がなされていないかをトレーナー自身が管理しなければいけないという持論を持っている。
トレセン学園にいるウマ娘たちはアスリートである前に年若い少女たちでもある。私たち
トレーナーである前に教育者であるという感性を強く持っている政男。こういった自己啓発トレーニングには選手たちの成長を促すための側面ももちろんあるが、それ以上に健全な学生生活を送り、無事に卒業してもらうために政男が長年をかけて組み上げてきたメソッドでもあった。
「わかった。よく覚えておく。ありがとね、マサさん。今日からまたよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
アタシが復帰して、エースがチームに来て1週間たって、マサさんが言っていた通り、エースにもアタシと同じ『目標と意志』の確認があった。
マサさんはエースのことを『優れた才能と強い意志を持っている』と褒めていたけど、『目標に関しては些か不安な面がある』って少し心配してたかな。
そして、そこからアタシもエースもそれぞれの目的に合わせたトレーニングを段階的に行っていく。そんな日々を黙々とこなしていくと、あっという間に7月の末になっていた。
「エース。どう?ウチのチームでのトレーニングは?」
「いやー、めちゃくちゃいいですよ!いろいろなことが新鮮ですし、充実感もあります。この間、久しぶりにチームに戻ったらトレーナーさんに驚かれました『見違えるようになった』って」
カツラギエースは政男のチームでの鍛錬の充実感を嬉しそうに語る。
「そっか。よかったね。じゃあ、ウチのチームに入る?」
キョウエイプロミスがカツラギエースにチームに入るかどうかを問う。
「いやー、あたし的にはそれもいいんですけど、昨日、高田トレーナーから『君に興味を持ったトレーナー』がいるって言われて、その人に会ってから決めようかと思ってます」
カツラギエースはキョウエイプロミスの誘いに満更でもない様子だが、それはそれとして、別のトレーナーからの申し出があったことと、近々会うことを告げる。
「そっか。アタシ的にはそのまま残ってくれたら嬉しいけど、エースに興味を持ってるトレーナーさんがいるなら一度は会った方がいいね!」
「はい!そうします。やっぱりトレーナーさんを決めるのは慎重に決めたいんで!」
「うん。そうしな。あっ、そう言えば、夏休みに入ったから一人暮らしのシービーとは全然会ってないけど、何してるのかな?」
夏休みの間もほぼ一緒にいたキョウエイプロミスとカツラギエースとは違い、チームも違う上に寮生活をしていないミスターシービーとは2人ともほとんど会っていなかった。
「試しに電話してみます?えーと、シービーの番号は…」
トゥルル トゥルル トゥルル ガチャ
「おう!シービー!元気か?うん。うん。うん。はっ?何やってんのお前?」
「えっ?なに?シービーどうしたの?」
いつぞやのデジャヴがキョウエイプロミスの脳裏を掠める。
「シービーが夏風邪引いたらしいです」
「はっ?」
「プロミス先輩。先輩が思う『スター選手』って、どんな人をイメージしますか?」
「うーん、やっぱり『清廉潔白』『完全無欠』、言動には気品と気概が溢れていて、自分自身にストイックかつ他人には優しい人とかかな」
「そうですよね。『クラシック二冠』を達成出来るような『スター選手』は、不注意で怪我をしたり、体調管理が出来なくて風邪を引いたり、自分勝手に他人を振り回したり、人のおかずをいつも盗んだりしませんよね」
「おかずの件、すごい根に持ってる…」
「そうだね。そんな二冠ウマ娘なんているわけないよね。もし、いたら親の顔が見てみたいよねー」
「この近くに住んでます。いつでも会えます」
「そうですよね。でも、今年の二冠ウマ娘はそんなウマ娘らしいですよ。酷いもんですよね。今ここに本人がいないから言えますけど、本当に碌でもないヤツですよね」
「おーい。いるよー、ここ、アタシの部屋」
「えー、そうなのー。それは、ひどーい。そんなウマ娘はタイトル剥奪されちゃえばいいのにー。今ここに本人いないから言えるけど」
「ねぇ、いるからねー」
「もし、あたしの友達にそんなヤツがいたら絶対に友達やめますね。あたしの友達にはそんなヤツはいないから言えるけど」
「それは流石に傷つくよ…アタシ…」
「そうだね。そんな子は見捨てて当然だよ。アタシの友達にもそんな子いないからいえるけど」
「お願いです…見捨てないで…ゲホゲホ」
「「で、何してんの?シービー?」」
恒例のミスターシービー弄りが終わり、2人が事情を尋ねる。
「すみません。風邪をひきました…。お見舞いに来てくれて、ありがとう…ございます…ゲホ」
顔を赤くしながら、ベッドで寝込むミスターシービーにキョウエイプロミスとカツラギエースが、渋い表情で見下ろす。
「なんでこんなことになってるんだよ。あれか?安静にしろって言われてたのに、内緒で雨の日にでも出歩いたのか?」
カツラギエースが風邪の理由を勘ぐる。
「一応、今回はアタシなりに反省して、ずっと家で安静にしてました…」
「じゃあ、なんでこうなったの?医者はなんだって?」
一応、取り繕ってウソをついている感じはしないミスターシービーにキョウエイプロミスは医者の診断結果を聞く。
「たぶん、ストレスからくる体調不良だって…。ずっと走れないし、外にも出れないし、夏休みに入って誰にも会えなくなったからかも…」
「…まったく」
「…しょうがねぇ」
『自由奔放なんだけど、こういう純粋なところがあるからシービーは憎めないんだよなー』という思いに駆られた2人は、先程までとは違い、いくらか穏やかな表情で寝込むミスターシービーを見守る。
「とりあえず、飲み物と食べ物買ってきたから、これで栄養つけろ」
そういってカツラギエースはお見舞いの差し入れをミスターシービーに差し出す。
「ほんとにありがとう…。この御恩は必ずお返しいたします…ズビ」
お見舞いの品を受け取るミスターシービーは、少し目を潤ませているようだ。
「この感じだと、8月も無理はできねぇな…。結局、プロミス先輩のチームに来れないじゃん」
「うーむ、たぶん無理だね…。そういえば、練習参加はどんな感じなの?」
「めちゃくちゃいいぞ!いろいろとためになって、パワーアップしてる感じがある!」
練習参加について尋ねるミスターシービー。それに答えるカツラギエースの表情はとても笑顔で、如何に有意義に過ごせているかがわかる。
「そっか…。じゃあ、プロミス先輩のチームに移籍するの?」
「それはまだわからん。近々、あたしに興味を持ってるトレーナーさんと会ってから決める」
「へー、スカウトが来てるんだ。エースもかなり有名になってきたんだね」
「おう!秋にはもっとパワーアップして、シービーに勝ってやるからな!」
「うん…。待ってるよ…。あーあ、こんな感じになってる場合じゃないよね…。しっかりしないと…」
自信がみなぎるカツラギエースに対して、ミスターシービーは自分の不甲斐なさに落ち込んでいるようだった。
「まあ、もうなっちゃったことは仕方ないし、今日は久しぶりにみんなで、ゆっくりしようよ」
しんみりしてしまった雰囲気にキョウエイプロミスが一言挟む。
「よし!じゃあ、あたしがお粥作ってやる!」
空気感を察したカツラギエースも明るい笑顔で場を持ち直そうと手料理をすると言う。
「ほんと!?やったー」
7月の終わり。
シービーが風邪を引くっていうアクシデントがきっかけだったけど、久しぶりに3人で過ごせてとっても楽しかった。
シービーはこんな調子だから、ちょっとわからないけど、アタシとエースは確実に成長を遂げていた。
3人がそれぞれが目的を持って過ごす夏はまだまだ続く。
この話から第2章が始まります。
私が描いたキョウエイプロミスのキャラクターですが、ナイスネイチャをベースにしたキャラ設定にしています。
設定のベースにナイスネイチャを選んだのは実馬の現役が長かったことと現役中は怪我が絶えず、大きなタイトルに恵まれなかった部分が似ているからです。あと、ウマ娘のキャラクター的にはちょっと自虐的かつ遠慮がちなところが私のキョウエイプロミスのイメージにあっていたので採用しました。