偽書 超ロボット生命体トランスフォーマーSAGA   作:ポルポル君

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闇よりの声

「その首貰ったッ」

ドリフトが斜め上に振った赤い太刀の一撃は、スタースクリームの紫の刃に阻まれる。

スタースクリームの腹程しかない身長ではどうにもならないと悟って、ドリフトはスタースクリームに力での勝負を挑まない。

腕、腰、足と、狙いを首から迅速に切り替え、風のように素早く、そして正確にその刃を振るうが、スタースクリームが左手に取り付けた白い三角形の盾は、ドリフトの太刀筋が描く無数の赤い軌道を乗せるキャンバスとなりながら、砕ける気配を見せなかった。

スタースクリームの反撃に備え、回避の姿勢を取ったドリフトだったが。

「遅いッ!」

盾と一体化していたレーザー砲が、マゼンタの火を吹きドリフトの腹にサッカーボール程のサイズの風穴を開けた。

更なる追撃から逃れたいドリフト、しかしその身はレーザーと同じマゼンタの雷が駆け巡り、まるで石にされてしまったかのように自由が利かない。

「どうだ、我が『ナルレイキャノン』の味は。」

「黒いの!しっかりしろ、殺されちまう!」

ドリフトが自由を奪われた原因、それは怪光線『ナルレイキャノン』の効力だった。

スタースクリームは悦楽に口元を吊りあげ、あまりの高熱に白い蒸気を発する紫の刃を手に、振りあげんとする太刀と何かを伝えようという意思を持った口を小刻みに震わすだけのドリフトにゆっくりと迫る。

「下等生物よ、貴様はそこで指をくわえてみているがいい。」

スタースクリームはその歪んだ笑みをハラルドに向け、勝ち誇った。

「観賞料は、貴様の生命とマトリクスだ。」

三メートル足らず先のドリフトに再び目を向ける直前のスタースクリームの言葉から、『奴ら』の狙いがマトリクスである事を、ハラルドは改めて認識する。

 

数時間前会ったばかりの自分をここまで守り抜いてくれたドリフト、ハラルドはそれに少しでも報いたかった。

しかし今の自分には、あの怪光線や刃、そしてバリケードの残虐な回転に耐えうる核シェルターのように強固なボディも、スタースクリームを出しぬける光の如きスピードも、あの盾と白い機体を粉々に破壊する力も持たず、ましてやそれを可能とする究極のアイテムも存在しない。

あるのは、何故か奴らが欲するマトリクスのみ。

ただ石像のように立ち尽くすドリフトに視線が向いた時、ハラルドは気付いた。

ドリフトが握っている太刀の揺れが、手ぶれレベルの確認しがたい微々たる物から、携帯電話のバイブレーションのようなはっきりと確認可能な程大きな物へと変化していた事を。

「そうだ……それなら。」

ハラルドは両手でマトリクスを掲げ、ドリフトに背を向けて走り出す。

「どうしたどうした、お前のライフラインが水平線の彼方に走り去っちまうぞ~。」

そして、スタースクリームにはっきりと伝わるように、わざとらしく声を張り上げこの緊迫した現場に場違いな程ふざけた声で叫んだ。

「待てッ、途中退場は許さん。」

ハラルドの逃走に気が付いたスタースクリームは、刃を放り投げ、ハラルドの方へと走りだした。

だが、ハラルドの奇行からはじまった逃走劇は、開始五秒後にハラルドが隠れた瓦礫がスタースクリームのナルレイキャノンで砕け散る事で終わりを告げたのだった。

「隠れても無駄だ、身は隠せようが我がエネルギーセンサーは騙せん。」

「なんてこったい、こいつはセルフ発信機か。」

万事休すか?今度はバックパックの左側から紫の刃を取りだしたスタースクリームを、ハラルドはただ呆然と眺めた。

 

「所業にて、スタースクリーム。」

背後から、何者かの渋い声が聞こえた。

「なんだ、今私は忙しいんだ。」

「貴様の落し物を届けに参った。」

「ああ、かたじけな……」

スタースクリームは振りむいた瞬間、その顔を驚きから引きつらせた。

直後、スタースクリームの右肩から、白い蒸気と共に紫色の光が駆け抜ける。

「ぬわあああ!」

それまでのニヒルな印象を覚えたものを裏返した、情けない声で痛みからなる苦しみを吐き出すスタースクリームの背後からは、あの黒い姿が見えた。

「黒いの!」

「この恩、かまえて忘れぬ。」

ドリフトはその灰色の顔に感謝、安堵、喜び、あらゆる感情からなる優しい笑みを浮かべていた。

「しまった、我がナルレイキャノンの効果時間は……。」

「二十秒、うつけが、自分がよそ見をする事を想定せずに武器を作るか。」

強烈な痛みからか、スタースクリームを前にドリフトはいつまでも握っていた太刀を振りあげ、スタースクリームに覚悟を強いた。

ハラルドはドリフトを助けられた達成感を感じると同時に、逃がしてもらってからそれっきりのバンブルビーの安否を思い、胸の中に鉛が流れ込むような感覚を覚えた。

 

突如、左斜め上から降り注ぐ蛍光グリーンの光弾が、瞬く間に辺り一体を噴煙で包み込む。

噴煙の中、ハラルドは足が地を離れ、徐々に空へと上昇する感覚を感じる。

最初はドリフトかスタースクリームに摘み上げられたと思っていた、しかし、それはドリフトの身長の7mどころか、スタースクリームの12mを越え、ついにハイウェイより上にまで持ち上げられていた事を知る。

「おい、離しやがれッ」

ハラルドはその身を激しく動かし、自分を持ち上げる何者かに激しい負担を掛ける事を図った。

噴煙が晴れ、上を見上げた時、自分の両肩を黒い猛禽のような飛行物体が鷲掴みにしていた事に気づく。

「モスマン……いや違う。」

ハラルドは、自分を掴む一対の鉤爪が黒く冷たい金属であった事から、この飛行物体もまた未知のロボットである事に気づく。

それはスタースクリームやドリフト、さらにはバンブルビーよりも小さい見かけに反し、暴れるハラルドを、軽々と運ぶパワーを持っていた。

その時ハラルドの身体は地上から五十メートルも離れ、ハイウェイに屯す消防車や救急車が玩具のミニカーと大差ない程に小さく見えた。

「『レーザービーク』、貴様ッ」

黒煙の中から一機白い飛行物体が浮き上がる、スタースクリームである。

ハラルドごと持ち去られたマトリクスをこのレーザービークから取り返すために飛び上がった事は、想像に難くない。

人型に変形したスタースクリームに、レーザービークはその赤い単眼から矢じりのような赤く鋭い光線を放ち、未だに高熱を宿すスタースクリームの右肩の亀裂を正確に打ち抜く。

ただでさえ無い威厳をさらに損ないかねない情けない叫びを上げ、スタースクリームは灰色の道路に真っ逆さまに落ちていった。

ハラルドは、レーザービークの前に展開された緑色の渦の中へと飲まれた。

 

空が橙に染まった頃の事、緑の渦を潜り抜けたハラルドは急降下したレーザービークによって高度二メートルの地点で放り投げられた。

いつ落されるのか?と身構え続けたハラルドの精神は疲れ切り、すっかり腰を抜かしており、しばらく立ち上がる事が出来なかった。

それから三分ほどして状況の確認が可能な程精神が安定すると、レーザービークの姿が無い事、そして自分がいるのが駐車場の真ん中である事に気が付く。

見上げた先にあるのはニューヨークの博物館、それがロサンゼルスから物の数分飛んだ程度で辿り着くのが不可能である場所だと言う事は、ここに一度飛行機を利用して訪れた事があるハラルドが一番知っていた。

この博物館で最もハラルドの興味を引いた物が二つあった事を思い出す、『異文明の戦車』と『異文明のトラック』であった。

その大きさや見た事もないような未来的フォルムは、その文明が人類の技術のずっと先に立っている事を思わせる物だった事を覚えていた。

初めてそれを見た九歳の時から『もう一度行きたい』と再来を心待ちにしていたハラルドだったが、こんな形で来る事になるとは思ってもいなかった。

「あ、しまった!」

そして、散々狙われてきたマトリクスを紛失してしまった事に気が付き、ハラルドは駐車場の中を駆け回る。

 

「ハラ……ルド……」

暫くして聞こえてきたのは、昨夜廃車置き場で初めて聞いた、若々しく可愛らしい声である。

ハラルドは、それがあのバンブルビーの物である事、そして、バンブルビーの無事を確信し、安堵と喜びがこみ上げた。

「黄色いの!無事だったのか!」

「コッチニ……来テ、話ガシタイヨ……」

「マトリクスは……」

「今ハソンナノドウデモイイヨ」

一度も教えていない筈の自分の名前を知っている事に違和感、そして不安を覚えながらハラルドは駐車場を探す。

しかし、どこにも黄色いスポーツカーの姿は見当たらない、声のしていた場所には、異様な雰囲気を放つ緑色の厳つい『シボレー シルバラード』がぽつんと佇んでいる。

「隠れてないで出てこいよ!」

「隠れてなどいない。」

聞こえたのは、あの可憐でありながらも力強い声ではなく、成人男性を思わせる渋く威圧的な声である。

その声と同時に、あのシルバラードに異変が起こっている事をハラルドは知る。

バンパーのプレートが回転し、二つに割れたボンネットからはいかにもロボットらしい目も口もないスクリーン状の顔を持つ頭部がせり出し、最後に二対のタイヤが側面に張り付いた脚で立ちあがると、屈強なフォルムを持つシルバラードは、そのイメージに反するシャープな姿に変化していた。

 

ハラルドはそれが『奴ら』の手先である事を察し、逃げだそうとした。

だが、背後を振り向けば、この緑のロボットの仲間と思しき単眼を持った黒い小型のロボットの存在がある事を知る。

赤い単眼こそはあのレーザービ―クと同じだが、大型のネコ科動物を彷彿とさる細い四足と尻尾から、それがレーザービ―クではない事を知る。

そして、それが咥える青い輝きこそは、ハラルドが落下と共に落してしまったマトリクスのそれだった。

「しまった、取られた!」

ハラルドは取り返そうと黒いロボットに挑みかかるが、背後の青いロボットがその右手で加えた強烈な圧力によって、逆に組み伏せられてしまう。

「『ラヴィッジ』、集合場所へ迎え」

青いロボットは、マトリクスを咥えたロボット『ラヴィッジ』に命令を下した。




レーザービ―クというのは初代でいうコンドルで、ラヴィッジがジャガーに辺ります。
相変わらず有能です。
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