…暗い…此処は何処だろう?
…あれ?身体が上手く動かない
…何か布?で全身を覆われてる?
…ってか、私、どういう体勢してるのさ?
…片膝立てて…跪いてる?意味解んない
自分の現状が全く解らない中、近くで誰か…多分、私をこの状態にした人達が話をしている。
…布?っぽいのが邪魔で良く聞こえない
…ようやく?…やっと?…何?…!?
バリバリバリィィィィィィ!!!
突然、全身に物凄い痺れが走ったと同時に派手な音を立てて布らしき物が破れた。
「ぷはっ…ケホッケホッ…」
やっとまともに呼吸が出来た。
変な体勢してたから身体が痛い。
…?右側がよく見えない
…って、右目が無い!?何で!?
「おはよう、新しき同朋…君の名を教えてくれるかい?」
妙に色香のある優しげな声が聞こえた。
…何処かで聞いたような…誰だっけ?
チラッと上を見て硬直した。
…藍染惣右介!?
混乱の真っ只中にある私の様子を注意深く監察する藍染の隣には東仙要が。
そして私の目の前で手を左右に振るのは市丸ギンだった。
…ひょっとしなくても私、BLEACHの破面になった!?
「おーい…微妙に反応はしとるみたいやけど…」
「藍染様、彼女は…」
「そうだねギン、要。彼女は覚醒までに大分時間がかかった弊害で、混乱しているようだ。暫く様子を見よう…ネリエル、後は頼んだよ」
「はい」
完全に固まった私をその場に置いて藍染達は、後ろで控えていたらしいネリエルに世話を任せて去って行った。
「大丈夫?」
「え…えっと…あの…」
混乱から抜け出せず、挙動不審な私に毛布を被せてそっと立たせ、何処かへと向かった。
向かった先は衣装部屋で、ブティックにあるような縦長の鏡の前に立たされた。
それに映った自分の姿に愕然とした。
髪の長さ(余裕でお尻が隠れるくらい長い)と胸のサイズ(前世で散々見下ろしたEカップ)に大きな違いがあるが、この顔は間違いなく『あの子』だ。
「メノリ=マリア!?」
正体が判明した私は、取り敢えず手甲を付けていない他は原作と同じ服装に髪は後ろでサッと結んだだけにして、再び藍染の所へと連れて行かれた。
「そうかい、君はメノリ=マリアと言うんだね。名前を思い出せて何よりだ」
「は、はい…お手数をお掛けして申し訳ありません」
「構わないよ…君の部屋も用意が終わったようだし、その身体に慣れるまでネリエルに色々と教わると良い」
「は、はい」
「では彼女の世話を頼んだよ、ネリエル」
「はっ!…さぁ、行きましょうメノリ」
「あ、はい、宜しくお願いします。失礼しました」
自分の部屋へと案内され、此処で生活する為に必要な事(虚夜宮内の各施設の間取りや、立ち入り禁止区域、ネリエルが行かない方が良いと判断した場所など)を教わった。
そして、いち早く身体に慣れる為に、積極的に動くようにとも言われた。
…これからどうしよう
取り敢えず、言われた通り自室でストレッチをしながら今後の身の振り方について思考を巡らせた。
…メノリって、寂しがり屋な性格が災いして、ロリと一緒にいた所為でひたすら痛い目に遭わされる、結構不憫なキャラじゃなかったっけ?
…嫌だなぁ、出番の度に即瀕死か死亡とか
…うーん、取り敢えずロリとは出来るだけ距離を置こう
…ってか、上手いことフェードアウトしてモブの仲間入りしたいんだけどなぁ
…無理かなぁ
…あれ?そう言えばこの子の帰刃って不明のままだよね
…私が入った以上、全く別のになってそうだけど
…ってか、私の刀は?持って来てたっけ?
刀の存在を思い出し、慌てて立ち上がると左側、私の影に重なる形で置いてあった。
…あれ?無意識に持って来てたの?
…でもこんな置き方した?うーん?
取り敢えずあったから、腰に差しておく。
やっぱり、原作のと鍔の形が大分違う。
色々と考えていたらお腹が空き始めたので、教えられた食堂へと向かった。
…何コレ、食べたくないなぁ
…ハッキリ言って不味そう
皿には得体の知れない生き物?のぶつ切りや丸焼きが大量に盛ってあった。
余りにもグロテスク過ぎて食欲が失せる程に。
厨房を覗き込むと、多分、藍染達死神用だろう見慣れた食材が鎮座していた。
厨房担当らしき破面達が忙しなく動いている。
…何とか自分で作らせて貰えないかなぁ
「ねぇ、そこの大きな鍋混ぜてる人」
「ん?オラを呼んだでヤンスか?何でヤンスか?今忙しいんでヤンス。手短にお願いするでヤンス!」
…ヤンスって
…この喋り方、もしかして
…まぁいいわ、今は使用許可のが先だもの
「私も何か作りたいんだけど、誰に許可を取れば良いの?」
「特に許可はいらないでヤンスよ。作れる奴は自分で用意してるでヤンス」
「そう、ありがとう。じゃあ早速…」
意外とあっさり入れた厨房に、若干拍子抜けしながらも手を洗って食材の確認をした。
…うーん…今はご飯よりもお菓子が食べたいなぁ
…あ、小麦粉と米粉、デンプン見っけ
…でもバターとかの乳製品は見当たらないなぁ
…ココは調味料用の棚で、ひと通り揃ってると
…ココにあるのは…白玉粉と上新粉…よし!
前世でよくお祖母ちゃんと一緒に作った思い出のみたらし団子を作る事にした。
白玉粉と上新粉を併せたボウルにお湯を少しずつ入れて耳朶と同じくらいの固さになるまで捏ねる事数分、4個に分けて全体的に同じ厚みになるよう広げてから蒸し器に入れて火を通す。
その間にタレ作り…三温糖に醤油、みりん、水、デンプンを小鍋に入れて弱火でかき混ぜながら火を入れていく。
トロミがついたら火から下ろして粗熱を取っておく。
蒸し上がったのを取り出して纏めて更に捏ねてから一口大の団子状にしていく。
串に刺してサッと火に炙って、焦げ目を付けてタレに絡めて完成。
「出〜来たっ!後はお茶を…ひぃっ!」
お祖母ちゃん直伝のみたらし団子に合うお茶を淹れようと振り向いて悲鳴を上げた私は悪くない。
いつの間にか、ヨダレを垂らしたネリエルが後ろでガン見してたら誰だって驚くだろう。
「な、何かご用ですか…?」
「ごめんなさい…まだご飯の準備が終わってないらしくて…待っていたら凄く美味しそうな匂いがして来たからつい…」
「…えっと…良かったら、食べます?」
「良いの?」
「えぇ、色々とお世話になってますし…お近づきの印も兼ねてどうぞ」
「ありがとう!!…ん〜、美味しい〜!…ドンドチャッカとペッシェにも良いかしら?」
「えっと…?」
「あぁ、私の従属官達よ」
「あ、はい大丈夫ですよ。たくさん作りましたし…お口に合って良かったです…では私はコレで」
「ありがとうね〜」
団子を頬張って破顔するネリエルに会釈して、食堂へと移動した。
「…はむっ…ムグムグ…うん、久し振りに作ったけど中々の出来栄え…」
団子を頬張って緑茶を啜る。
…うーん、至福の時
…周りの視線が無きゃ本当に最高なんだけど
食べ物を取りに来た他の破面達の視線が凄く刺さって何だか居た堪れなくなって来た。
…部屋で食べるかな
残りを持って立ち去ろうとしたら、誰かが勢い良く前を遮った。
「ちょっとアンタ!!」
…げ、ロリに絡まれたか。最悪〜…
「…何か?」
「何か?じゃないわよ!!新入りのクセに何勝手に藍染様の食材を使っているのよ!?」
「…藍染様のとか言われても…専用の印とか特に無かったし…誰からも何も言われなかったけど?」
「口答えすんじゃ無いわよ!この泥棒!!」
激昂して今にも手を挙げそうなロリに困惑する私を助けたのは意外な人物?だった。
「ギャーギャーウルサイヨ」
「お前だってまだ新入りの癖に」
「「偉ソウニするナ」」
「…っ邪魔しないでよ、アーロニーロ!」
「ジブンガツクレナイカラッテシットハミットモナイ」
「作り方を知りたいならそう言えば良い」
「っ、うるさいわね!!」
アーロニーロに怒鳴り返し、私を睨み付けながら走り去って行った。
「…何だったの?」
「キニスルナ」
「放っておいて良い」
「「アレはイツモあぁだかラ」」
「あ、そう…あ、庇ってくれてありがとう…コレ、良かったらどうぞ」
「「良イノカ?」」
「うん、一応お礼のつもりだから」
「ナラエンリョナク」
「頂いておこう」
そう言って左手を差し出して来た。
…確かアーロニーロって左手に口があったっけ
…って6本も一気に、しかも串ごと?
…知ってたけど、実際に目の前でされると何かなぁ
少し微妙な気分にはなったものの、無事に部屋に戻って残りの団子を食べた。
食器を片付けに来たら、神妙な雰囲気で話し込んでいるネリエルとさっきの頭が大きいのともう1人、中肉中背の男がいた。
…ドンドチャッカとペッシェだよね多分
…まだ追放前だからか大分姿が違うけど
…ってか、アレが本来の姿だよね
…随分とまぁ、ビフォーアフターが凄いなぁ…
原作との差に驚きつつも、使った道具をぱぱっと片付けて次は何を作ろうか、食材を見ながら思案に入った。
…今度はちゃんとご飯作ろう
…あれ?食材増えてる。補充されたのかな?
…まぁ良いや、先ずは白米
…お、炊飯器があるんだ。ならコレで炊いて
…豆腐とワカメにぶなしめじでお味噌汁かな
…あ、豚肉だ。あ〜、生姜焼き食べたいなぁ
…大根はおろしにして
…キャベツは無いから代わりに小松菜をお浸しにして
…トマトは甘酢漬けのが美味しいから
…良し、献立決定…ん?
「…小豆?」
「あ〜、それなぁ、手に入れたんはえぇけど、だ〜れも手ぇつけんままほっとかれてはるんよ」
「っ!?」
大分放置されてるっぽいその袋に首を傾げていたら、いつの間に来たのか市丸ギンが話し掛けて来た。
「あぁ、驚かした?堪忍なぁ」
「あ、いえ、えっと…?」
「あぁ、自己紹介せぇへんかったもんなぁ。ボク市丸ギン言います〜。以後よろしゅう」
「あ、御丁寧にどうも…メノリ=マリアです」
「うんうん…で、その小豆に興味あるん?」
「えぇ、まぁ…このままは流石にちょっと…」
「だったら好きに使うてえぇよ」
「そうですか?ならお言葉に甘えて…」
…無事に小豆をゲット!ご飯食べたら直ぐに取り掛かろう
生姜焼き定食を作っている最中、暇なのか市丸ギンがウロウロしてたのでメインの生姜焼きの味見をしてもらった。
豚肉をタレに漬け込むのではなく、片栗粉をまぶして焼いたのにタレを絡めるやり方だったけど、反応は悪く無かった。
ただ…
…いつも作ってた8人分にしたから凄い量が余っちゃった
…団子の時はネリエルとアーロニーロにお裾分けしたからどうにか出来たけど
…また2人に渡す?
…でもどっちも何処か行っちゃってもういないし…
「…どうしよう」
「置いとけば誰かが勝手に食べはるから、そこのカバー掛けとけばえぇ思いますわ」
「え、それはちょっと…」
…ここ、レンジ無いみたいだし
…生姜焼きは冷めたら美味しくないのに
「何ならボク等が食べてもえぇけど。ご飯これからやし」
「え?…専属の調理係とかいないんですか?」
「あー…いない訳やないんけど…ちょっとなぁ…」
凄く何とも言えない表情の市丸ギンに、何となく此処での食事事情を察して余りのうち3人分を託す事にした。
…残り4人分か…ん?
「…くっ、また失敗した…」
…彼は確かテスラだっけ?何か焦がしてる?
「…何をしてるんですか?」
「…君は?」
「今日破面化したメノリ=マリアと言います。貴方は?」
「ああ、君が…俺はテスラ=リンドクルツ。宜しく」
「宜しくお願いします…で、何をしてたんですか?」
「…た、玉子焼きとやらに挑戦していたんだか…」
「………」
フライパンの中身は見事に真っ黒焦げ、しかもグチャグチャで料理名を言われても納得する人がどれだけいるだろうか?と言う有様である。
「おいテスラ、いつまでやってんだ…誰だてめぇ?」
…うげ、ノイトラだ。苦手なんだよなこのキャラ
「…今日破面化したメノリ=マリアです」
「ちっ…藍染の奴、またメスを破面化したのかよ…ん?」
私が作った生姜焼き定食に気付いてお腹を鳴らしながらガン見し始めた。
…デジャヴ?
「…コレは作り過ぎてどうしようかと思ってたんですけど…食べます?」
「はぁ?何で俺がテメェの作ったモン食わなきゃなら〈グーキュルルルル〉…だよ」
…身体は正直だね
…あ、顔どころか首まで真っ赤になった
「ちっ…仕方ねぇから食ってやる…行くぞテスラ」
「あ、あぁ…すまない、助かった…この礼はいずれ必ず」
「おい!」
「今行く!…じゃあ」
軽く手を降って2人を見送った後、残った2人分をどうするか、取り敢えず食べながら考える事にした。
のだが…
…あれぇ?可笑しいなぁ
…何でこうなったんだろう?
「…モグモグ…ゴクン…パクッ…モグモグ」
「なぁなぁ、ソレ美味いのか!?俺も食いたい!」
「うるせぇな、これでも食ってろ…まぁ、悪くねぇんじゃねぇか」
「く、口に合って何よりです…」
…あ、トマト押し付けた
…酸味は苦手?猫科だから?
一瞬睨まれたが、意外と行儀良く食べていく目の前のグリムジョーとその仲間達に内心、頭を抱えた。
食堂の空いてるテーブルを見付けたからそこで食べる事にしたんだけど、3人分重ねて持ってた所為で視界が悪く、そこに同じテーブルに向かっていたディ・ロイと勢い良く衝突、そのまま転びそうになったのをグリムジョーに定食ごと助けられた。
…このキャラ、推しの1人だけど
…メノリにとっては災難の種だから
…影からコッソリ鑑賞しようと思ってたのに
転んでご飯をダメにしなくて済んだ代償がそこそこ大きい気がする。
目の前の賑やかな御一行を余り見ないようにして自分の食事に集中した。
…まさか、2人分しっかり食べ切るとは
トマト以外を綺麗に胃に収めたグリムジョーは、ちゃんと食器を厨房に戻してから去って行った。
その際、シャウロンが生姜焼きのレシピを知りたいとメモ帳を手に食い下がるから、取り敢えず2人分のレシピを教えた。
…従属官の鑑だなぁ
…さて、片付けて小豆の下準備しよう
片付けを終えて小豆の選別作業を始めたところに、藍染が東仙と市丸を連れて厨房に来た。
直ぐに私に気付き凄い笑顔で近付いて来て開口一番、こう言った。
「メノリ、君が生姜焼き定食を作ったとギンから聞いたんだが…本当かい?」
「は、はい、そうですが。何か問題が?」
「いや、何も問題無く頂いたよ。とても美味しかった。ありがとう」
「それは何よりです」
「料理をするのは好きかい?」
「え?えぇまぁ、割と」
「よし、ならば今から君を料理長に任命する。この厨房の全権限をメノリ=マリアに託す。異論は一切認めない、これは決定事項だ。しっかり周知させるように」
「はい?」
「では頼んだよ」
「え?あの?ちょ、ま…」
…言いたい事言ってさっさと行かないで
…説明が不十分過ぎるよ
困惑する私に東仙と市丸の2人が詳細を説明してくれた。
今まで手の込んだ食事を作れる破面は1体もおらず、ただ焼いただけ、茹でただけの食材に醤油や塩をかけただけという単調な食事に辟易していたところに私が現れた。
彼等としては救世主も同然だったらしい。
「しかも、起きてすぐやのに、これだけ美味しいの作れるやなんてなぁ。最初はどうなんやろ思うとったんやけどなぁ」
「あぁ、覚醒までにかかった時間を考えると、身体が馴染むまでの時間も相当かかると思っていたが…これから宜しく頼む」
「何か言わはる輩には、藍染隊長直筆の任命証明書がすぐに発行されるさかい、好きに処分して構へんからなぁ」
「は、はぁ…ご期待に応えられるよう頑張ります」
…としか言いようがなくない?
何故、この世界に既存キャラに成り代わった形で転生?したのかを思い出せないまま、モブの仲間入りは難しそうだなと途方に暮れた私だった。
この時の私は知らない。
私が作ったお菓子や料理を食べた者達にどんな影響を与えたのかを。
私は知る由もない。
この後作ったあんこの虜となったどこぞの狂科学者が、破格の好待遇で接してくるようになるとは。
お土産にと渡したお菓子が尸魂界でとんでもない騒ぎを起こす原因になるとは。
私に弟子入りしたがる従属官達から連日詰め掛けられる日々を送る事になるとは。
私を従属官にしたがる十刃から言い寄られ、逃げ回る羽目になるとは。
自身の能力を知って頭を抱える未来も。
すでにいない筈の原作キャラと、明らかにオリキャラだと思われる人物達を紹介されて更に混乱する自分自身も。
そして…
そもそも、此処が原作から大きくかけ離れた有り得ない歴史を辿った世界だと言う事を。
…本当に何で私はメノリ=マリアになって此処にいるの?
初作品での連載、プレッシャーが凄いですが頑張って書いていこうと思います。