前回の続きです。
トラウマを発症させた藍染の代わりに平子と東仙が語ります。
藍染の霊王宮に行く理由(目的)を共有します。
姫様と奥方様が虚夜宮に住む事になった経緯も知ります。
「藍染様、大丈夫でしようか?…お顔、真っ青でしたが」
「大丈夫や、サチとみいん何処居れば直に落ち着くさかい。…けど、ホンマ憎たらしいわ。惣右介を未だに苦しめるあの阿婆擦れ共がな」
「え…」
「アバズレ…ですか?」
「せや、お前さん等は知らんかもやけど、今から185年前に現世におった滅却師との戦があったんや。滅却師共に聞かなあかん事があった所為で戦が長引いてな、こっちもかなりの犠牲を出してもうたんや」
「聞かなあかん事…とは?」
「あー…もうちょいで1000年経つんやけど、そんな昔にな、綱彌代にある歴史書によると、滅却師と死神の間でどっちが【世界】を管理するかで揉めて戦起こしとるんや。その戦のゴタゴタに紛れて、綱彌代本家に保管されとった霊王の左腕と心臓パクった滅却師共が、守護しとった綱彌代の手練達を手に掛けてそのまま行方を晦ましたんや」
「「え?」」
「「は?」」
「せやから出来るだけ滅却師を生け捕りにせなあかんくてな、梃子摺った結果、相応の犠牲が出たんや。んで、それの後始末が終わった頃に起きた問題は、許嫁亡くした未婚女性達の婿探しや」
「「「………」」」
「あ、あの、もしかして藍染様は…」
「せや、阿婆擦れ共が狙ったんは「将来有望で性格も穏やかで、見目が良い」独身の男。まぁ、高望みした身の程知らずが押し寄せて来たんや。そのアプローチも凄まじくてな。女同士の目も当てられん醜い争いに始まり、己に都合の良い妄想と欲望に塗れた文章しか書いとらん紙の束、いらん言うてるのに押し付けてくる何が入っているのか解らん贈り物の山、こっちの返事を一切聞かんと一方的な逢瀬の強要、減るどころか増えてく一方の付き纏い、既成事実作ろうと寮に不法侵入、終いにゃ実家に迄押し掛けて来て許嫁や言うて…「ウチの子が礼儀もなってない女なぞ嫁に選ぶ訳無いやろが!!」ってブチギレた母ちゃんが瀞霊廷に来て大騒ぎするわで…俺達も惣右介守る為に色々と対策練って対抗したんやけど、対策すればする程、手段選ばんくなった連中に心身共にどんどん追い詰められた惣右介は、遂に女性恐怖症と摂食障害、失声症まで発症してもうてなぁ」
「うわぁ…最低最悪ですね」
「嫌われる事しかしていないの、解らなかったんですか?その方々」
「本当、自滅してる自覚無かったのかしら?」
「あったら既に止めているだろう…それで?」
「あぁ、兎に角、何としてでも諦めさせる為にな、惣右介の伴侶探しを本格的に進めたんやけど、惣右介の周りのマトモな女は軒並み既婚者かまだ子どもばかりでアカンと。で、綱彌代の情報網から挙げてもろた中にな、霊王の欠片持ちのサチが居ったんや。彼女はどうやろかと少し状態が良ぉなった惣右介に見せたんや。最初は警戒しとった惣右介も、サチの人柄知ってからは良く様子を見に行ってな。偶々会話する機会があって、まぁ仕事の延長やったんやけど、話しても全然怖ない言うてたし…んで、寿命来たサチとの〈約束〉守った上で尸魂界に連れて来たんやけど、嬉しい誤算が起きてな。偶に居るんやけど、現世から尸魂界に来たら若返るっちゅうのがな。それをサチがしたんや。おかげで惣右介は無事サチと結婚、群がっとった女共は親が決めた相手と結婚せざるを得なくなったと。いやぁ、良い具合に纏まって良かったわ〜」
「そうですね」
「中断しとった霊王宮の件、これで再開出来たんやけどな…みいが生まれた事でちょっと予定外な事が起きてなぁ」
「「「え?」」」
「予定外な事…とは?」
「みいが生まれて数日経った頃にな、12番隊率いる曳舟隊長が零番隊に昇格したんやけど、彼女を迎えに来た御方方の1人がみいに用がある言うて惣右介の家に来たんや。そこでみいに…ウグッ、ガッ…クソッ…肝心…の事が…言えへん…」
右孔の〈目〉が、天井を突き抜けて伸びて来た手が平子の首を絞めているのを捉えた。
「…っ!カノン!平子様の首周辺に結界を、最大に迄引き上げて!」
「ナァァァーーーオォォォ!!」
平子から手が僅かに離れた。
「今のうちに!早く!」
「…っみいに付けたかった名を盗られたんや!」
バリンッ!!ザシュッ―
「フギャア!?」
「カノン!」
結界を破られたカノンが受けたダメージを急いで癒しつつ、平子の様子を窺った。
「はぁ、はぁ、はぁ〜…あんがとな…それと無茶させてスマン」
「いえ…つまり、姫様は未だ名前を与えられず、愛称で呼ばれているのですね?」
「せや、2人共その盗られた名前以外付ける気は無い言うてな。惣右介が霊王宮に行く目的が増えたんや」
「姫様の名前を取り戻して、霊王に会う…」
「…何でその御方はそんな事をしたんですか?」
「解らへん。兎に角、あかん言うて盗ろうとするから居合わせた俺等も抵抗してな、結果〈み〉以外のを盗られたんや…何や、機密を共有出来た相手なら普通に話せるみたいやな」
…名はこの【世界】では最も重要なもの
…あの和尚が干渉してくる程、付けさせたくなかった名前なの?
…それにしても、名前を<消された>じゃなくて、<盗られた>って何?
…表現おかしくない?
…そんな描写、原作にあったっけ?
…取り敢えず今は新たな情報として記憶しておくしかないか
「兎に角、惣右介が霊王宮に行く事に変更はあらへん。話の続きやけどな、名前を盗った奴と曳舟隊長が居らんくなった直後に目ぇ覚ましたみいの霊圧が異常な迄に高くてな、このままじゃみいの身体が持たん、どうにかせなあかんくなったのを、出産祝いに来た喜助が何故か持っとった霊圧を抑える装置でその場はどうにかなったんや」
「…何者なんですか?その浦原喜助さんは」
「己の作りたいっちゅう欲望に忠実な変人や」
…言い得て妙とはこの事かな
「姫様は今もその装置をお持ちで?」
「んな訳無いやろ、何度目か解らん改良を重ねたのを付けとるわ」
「…付けているのにあの力ですか」
「せや、力を制御出来ないのは、名前を盗られた所為やと俺達は睨んどるさかい、必ず惣右介を霊王宮に連れて行くんや。可愛エェみいの為にな」
「成程…」
藍染の過去と目的について、話を聞いている間にふと、以前からちょっと気になっていた事を思い出したので、聞いてみた。
「藍染様の目的は解りましたけど…姫様は尸魂界でお生まれになられたのですよね?何故姫様とサチ様は此処、虚夜宮に?」
「あー、メノリは知らんかったか…少なくともロカは知っとると思うんやけど…テスラとビアはどうや?」
「はい、私はこの虚夜宮の建設に携わったのである程度は」
「いえ、経緯は全く知らされていません」
「…オリジナルがボクに入れたデータには、〈今〉の虚夜宮が建設されてからの情報しかありません」
「成程なぁ…良し、何で今こないなっとるのか説明したるわ」
「「「はい」」」
「お願いします」
「みいが生まれてからの惣右介はすっかり娘命の親バカになってなぁ。それまでは残業とか休日出勤とかもサチに何か無い限りは普通にやっとったんやけどなぁ〜…元からあった産休制度を更に利用しやすいモンに改良したのをこれでもかって力説しまくってな、四十六室に認定させるわ、その改良した制度の第一号になってしっかり休むわ、サチの説得で漸く復帰してからはみいに何かあったら即行で引継ぎ済ませて帰宅、何も無くても絶対に定時で帰るし、休日出勤なんぞさせようもんなら、その原因が虚なら瞬殺、同僚ならオハナシと言う名の調教と洗脳しとったわ…ま、かく言う俺もさっさと仕事済ませてみいに会いに行っとったけどな」
「…元から産休制度とやらがあった事に驚きましたが、普段の藍染様を見ていれば、それくらい容易く実行するだろうなと、納得しました」
「せやろな…で、みいとサチが何で此処、虚夜宮に居るかっちゅう話やけど…順をおって説明してくとな、まずみいの霊圧が尋常やないのを怖れた四十六室から処分命令が出てな。当然、惣右介は全力で拒否、その場に斬魄刀があったら間違い無く血の海確定やったわ。で、命令回避の為にと、喜助と涅マユリがほぼ同時に新たな装置を持って来たんやけど、何度か会うてる喜助は兎も角、ほぼ面識の無いマユリの第一印象がホレ…アレやさかい、流石にサチが警戒してもうてな。断ったんや」
「…涅様には申し訳ありませんが…サチ様に同意です」
「申し訳なく思わなくて良いと思いますよ、メノ姉様」
「こら、ビア」
「まぁまぁ…で、それからどうなったのですか?」
「勿論、マユリは怒って出てく…かと思いきや、ゴリ押しで付けさせたんや」
「「「………」」」
「…流石ですね、涅様」
「まぁ、2人のを付けて丁度良かったらしくてな、みいの霊圧は四十六室が警戒するよりも下回ったんや。そして生まれて1年経って漸く首が座ったんや」
「「「え…」」」
「…尸魂界に生まれる子って、元服するまでどれくらいかかるのですか?」
「そりゃ千差万別や。その子によって違うさかい。現世の人間と変わらんのも居るし、みいみたいにエライ時間かけて大人になるのも居る」
「えっと…取り敢えず成長出来るようになったんですよね?その後はどうなったのですか?」
「あぁ、みいが生まれて10年経った頃や、サチとみいが突然失踪したんや。何の前触れも無くな」
「「「え!?」」」
「………」
「2人の霊圧が消えた事に皆大混乱、惣右介は半狂乱になって2人を探し回ったが見つからんかったんや」
「な、何でですか!?」
「まぁもうちょい聞いてくれ。2人が失踪して半月経った頃に、虚が大量発生する事件が起きたんや。コレは流石に知っとるやろ?」
「えぇ、突如尸魂界に虚が押し寄せた事件があったとお聞きしましたが…まさか」
「…失踪した2人はどうやってかは解らんが、虚圏に行ったんや。サチは兎も角、みいの霊圧は虚にとって恐怖以外の何物でも無かった…せやから恐慌状態に陥った虚圏から虚が尸魂界に逃げ込んだんや。無力化した虚からそう聞いたと報告があったらしいで」
…らしいって、何で曖昧なの?
…当事者の1人でしょ?
…あ、そうだった、この人は
ピピピピピピッ…シュッ
藍染をサチ様の所に送りに行った東仙が戻って来た。
「お、要。丁度良ぇところに戻って来たな。惣右介は?」
「御二人を見て持ち直しました。ですが念の為、そのまま休むよう説得するのに少々時間がかかりました」
「ん、ならえぇ。今85年前の事件でサチとみいがどうなったのかと虚の大量発生した話をしとったとこや。続き頼んでもえぇか?」
「畏まりました」
席に着いた東仙が平子と替わって話は再開した。
「…事件の被害はかなり深刻だった。尸魂界全域に出現した虚への対応が後手に回った影響が其処此処に散見し、漸く鎮圧出来たと思ったら、人間や死神を同胞に変えると言う厄介な能力を持つ虚の攻撃を受けた当時の隊長、副隊長が数名虚化して暴走し、それを無力化、拘束する際にも犠牲が出た。此処に居る平子様、愛川元隊長、猿柿元副隊長はその虚の能力で虚化してしまい、事件後、他の虚化した方々と共に追放されたのだ」
…結局、虚化は起きたんだ、やっぱり
「…ただでさえ御二人が失踪したままだと言うのに、平子様迄追放処分を受けた時の藍染様の焦燥は表現のしようも無い程だった。そして、この事件の責任は、御二人が失踪する原因となった装置を作った浦原喜助にあると結論が出た」
「…消去法で行けば妥当な判断やったな」
「…涅マユリは危険人物として蛆虫の巣という牢獄の特別房に監禁されていたからな。追放する訳にはいかない。まだ浦原喜助の方がマシとの裁きが出たんだ」
「既に終わった裁判にとやかく言う気はありませんが…藍染様の心労は計り知れなかったでしょうね」
「あぁ、虚圏に転移したであろう御二人の捜索が急務となり、12番隊と現世に追放された浦原が競い合うように黒腔を開く研究を始め、広大な虚圏を探し回り、御二人を見つけるのに25年かかった」
「…見つかる迄四半世紀ですか…よく生きていましたね…あ、サチ様の能力ですか?」
「あぁ、あの時程奥方様が完視術者で良かったと思った日は無い。少なくとも、衣食住の心配はしなくて良かったからな…ただ、極限状態の中で姫様の制御装置の性能維持を、奥方様の能力で何とか誤魔化していた代償として、姫様の成長は止まったまま、奥方様も心身共に疲弊して、能力の精度が著しく低下してしまった」
「…それでも、見つけた時の藍染様の安堵はどれ程だったでしょうね」
「…発見した場所が場所だったからな…バラガンにはすまない事をしたと思っている」
「…何故バラガン様が此処で出て来るのですか?」
…まさか
「…転移先がバラガンが部下に建造させた虚夜宮の直ぐ傍だったんだ」
「…本当によく生きていましたね」
「あぁ…連行された先にいたバラガンに驚いた姫様が力を暴走させ、その威力に危うく全身を粉々にされるところだったらしい。何とか落ち着いた姫様と奥方様には誰も手を出さないように厳命した後、一室を与えてそこで生活させて、定期的に外に出していたとバラガン本人から聞いた」
「…英断ですね」
「あぁ、御二人を捜していた事を伝えた時のバラガンは心底ホッとしていた。そして、今直ぐ連れて帰ってくれと懇願して来た」
「それは…えっと」
「気持ちは解らなくも無い。しかし、奥方様は兎も角、姫様はその霊圧故に連れ戻せない。だからこのまま此処に姫様専用の館を作るから協力して欲しいと、藍染様がお…交渉してバラガンの虚夜宮を改造、増築を繰り返し、今に至る」
…藍染、姫様の為にバラガンを脅して虚夜宮を奪ったんだ
…まぁ、予想通りだね
…でも、この虚夜宮の全ての設備とかはザエルアポロが設計、開発したんじゃなかったっけ?
「…ロカはボクと同じオリジナルが造った改造破面ですよね?バラガンさんの虚夜宮を元に造られたこの虚夜宮の事を知っていると言っていましたが…もしかしなくても、オリジナルも建て直しに関与したのですか?」
「えぇ、姫様と奥方様を捜索中の藍染様方が、当時全く別の場所にあった研究所を偶然発見したのですが、あの人はある研究にのめり込んでいて全く話が出来ないからと、切羽詰まっていた藍染様による肉体言語の末に拘束、尋問をされた時からお知り合いになりまして。無事、姫様と奥方様が見つかった後も、移動した研究所を訪ねて来まして、新しい虚夜宮を造る協力を依頼されて、此処に理想の研究所を建てるのを条件に、建造に携わりましたのを私も手伝いましたから、良く覚えています」
「…藍染様、おふたりの捜索に熱心過ぎて、彼方此方でその…物凄い暴走をしていませんか?お気持ちは良く解りますけど」
「…ロカの言う通り、相当切羽詰まっていたからな…当時の藍染様は虚圏に来る度、手段を選ぶ余裕等微塵も無かったから仕方がない。それにバラガンには正式な謝罪と、慰謝料として毎年の予算を優先的に割り振っている」
…それもそうか
…あれだけ溺愛する娘と、自分を支えてくれる奥方様が行方不明のまま時間だけが過ぎていくなんて、拷問に等しいだろうな
…ましてや、自分の預かり知らぬ間に突然とかキツイどころじゃないよね
…うん、仕方ない仕方ない
…ちゃんと謝罪したらしいし、私があーだこーだ言う資格も無いしね、うん
…にしても
「何故、藍染様はご自身の過去を私達に話そうと思ったのでしょうか?」
「藍染様は君達、特にメノリ=マリア、君に期待しているからだ」
「…姫様の為ですか?」
「それだけでは無い。来たるべき時の為に、この虚夜宮の者達全員の強化をしておきたいからだ」
「来たるべき時…霊王宮にいる零番隊との戦いを見据えて…ですか?」
「あぁ、実行に移す迄の時間はあと17年程ある。それ迄の間、宜しく頼む」
「…はい。精一杯、努めさせていただきます」
東仙に平子、ひよ里、ラブが揃って頭を下げて来た。
私のすべき事は今迄と変わらない。
ただ、明確な目標が出来た。
藍染が霊王宮に向かうその日迄、みんなを今以上に強くさせる事。
姫様を少しでも成長させて、尸魂界に帰れるようにする事。
多分、あっと言う間にその日は来る気がするけど、出来る限り手を尽くそう。
…17年後に勝負をかけるのかぁ
…17年後?ん?んん?
…何か引っかかるけど、まぁ良いや
…今迄以上に気合い入れて作らなきゃね
藍染の過去を教える事で、破面の中でもかなり良心的な4人に同情心や共感を抱かせ、藍染のやりたい事(霊王宮に行く)に強い賛同或いは支持させるのが目的だったのですが…ちゃんと書けているでしょうか。
何気にバラガンとザエルアポロに貧乏クジを引かせてしまい、ちょっとだけ申し訳無い気持ちが…うん。
次回、平子達が虚夜宮を訪れた理由が判明します。