前回、焼餃子をみんなで食べました。
今回、朽木家に再訪問します。
久し振りのお祝いに、みんな気合い十分でした。
予想外の難関が私達を襲いました。
朽木家を訪問して早2ヶ月、懐妊祝の品が全て揃った。
「…これはカノンの、こっちのはリリアとリリエの、この箱のがロウコの、そしてこれがシオンの…と、ふ〜」
「大荷物になりましたね、メノ姉様」
「そうね」
「お土産の栗羊羹と七味煎餅、用意したが…メノリ自身は大丈夫か?」
「…多分、大丈夫…きっと…うん」
「…祝の品についてはひと通り聞きましたから、何かあればフォローしますので。はい、リラックスリラックス!」
「…は〜っ…い、行こうか」
「「「………」」」
朽木家に行く。
それだけで緊張する理由は十分なのに、何故かこの感覚だけはみんなと共有出来ないのがもどかしい。
取り敢えず、招待チケットを手にした。
前回以上の歓迎を受けた。
彼等には、上機嫌なアンオウエンの様子から、胎児は順調に育っているとだけ伝えた。
…流石に性別は生まれるまで内緒にした方が良いよね?
…どっちでも構わないだろうし、うん
ニエの〈願掛け紐〉の進行具合を聞くと、十分な長さに到達していた。
…まぁ、天下の五大貴族の朽木家一同でやればあっという間に出来てもおかしくないか
彼方此方の歪みを多少整えてから、最後の仕上げである紐の端の編み止め作業をして、完成。
「巻く位置は踝の上で緩めに巻いて、余った紐の端同士を指でグッと押さえると、結ばなくてもくっつくので、後は先日説明した通り、自然に外れれば願掛け成功になります」
「…成長したらきつくならぬのか?」
「えっと、くっつけた端の部分が成長に伴って足の太さに合わせてずれていくので、端同士がくっつかなくなったら外れますから問題無いです」
出来上がった〈願掛け紐〉は白哉に渡して、今回の目的である残りの懐妊祝を出した。
ロウコのメロップ酒は作るのに時間がかかる為、最後に厨房を借りられるよう手配して貰った。
「先ずは此方、シオンからとなります。〈御使いの黒桃〉の苗木です」
「「「「「みつかいの…こくとう?」」」」」
「皮は黒いけれど中の実は真っ白な桃です。シオンと出会った【世界】の主神様は大地を司る御方で、黒は神の宿る色、桃は主神様が最初に生み出した植物と言い伝えられていました。この苗木を生まれてくる子どもの両親が植えるのですが…」
「…候補は幾つか用意した」
「メノリさんの要望である『お産の後、出来る限り早くその木に触れられる開けた場所』との事でしたので…」
植える場所の候補を見せて貰った。
今で言う分娩室として代々使われて来た部屋の傍にある小さな庭に、緋真さんの寝室から見える中庭、そして子ども部屋として改装した部屋の前にある庭の3つのうち何処が最適かをシオンに決めて貰い、緋真さんの寝室から見える中庭に朽木白哉が穴を掘って苗木を置き、緋真さんと2人で埋めた。
「…これで問題無いか?」
「はい、バッチリです。お子様が生まれたその日のうちにこの苗木の幹に身体の何処でも良いので触れさせて下さい。3年後から毎年誕生日に黒い桃がひとつ成りますので、それをお子様に食べさせてあげて下さい。年に一度の邪気祓いが出来ますので」
「まぁ…」
「ほぅ…」
「ギャウゥ〜ン」
苗木の周りをグルグルと回っては幹に身体を擦り付ける事数回、満足したらしいシオンが戻って来た。
「ギャッ!」
「仕上げが終ったから、もう大丈夫だと」
「そうか…」
「ありがとうございます」
部屋に戻り、残りのお祝いの品を出した。
「此方がリリアとリリエからで、〈慈恵茶〉です。胎動が始まってから飲むのが最適の薬膳茶です。緑茶等と同じようにお好みの濃さで淹れていただき、好きな時間に1日1杯お飲みになられると宜しいかと。免疫力を向上する、即ち病に罹りにくくなる効果と、産後の回復を早める効果がございます。缶ひとつで約1ヶ月分ですので全部で1年分になるかと」
「ありがとうございます」
「…忝ない」
嘗て一族の頭領だった当時、歴代頭領の誰よりも優れた薬師として持て囃され、国内だけでなく他国の王族や有力者からも定期的にこの薬膳茶を所望されて、元々高かったその地位をより盤石な物にしたのをふと思い出した。
…『子は宝』は何処の【世界】でも同じみたいね
…まぁ、生命を奪う薬よりも作り甲斐があったし
…母国は勿論、周辺国からも聖母扱いされたっけ
…ただ、この【世界】の破面としては異端過ぎる能力なんだけど
私達だけの特殊能力を目の当たりにする度、過る思考を振り払って次のお祝いの品を出した。
「此方はカノンから、安産祈願の御守りで〈導きの錫〉です。これは錫製の根付で、これに付いている1番小さな〈鈴〉を胎児の手に転送します。根付は御当主が所持していて下さい。お産が始まりましたら、この根付に母子共に無事生まれて来る事を祈る事で効果が発揮します。お子様が生まれましたら、〈鈴〉は根付の元に戻ります。根付はそのまま御当主がお持ちいただいて構いませんので」
「転送…?」
「錫を胎内にって…赤子は勿論、姉様にも影響は無いのですか!?」
「ナァ〜オ!」バシッ!
カノンが不満気に鳴いて尻尾で床を叩いた。
「カノン、落ち着いて。よしよし」
「ナァ〜ウ…ゴロゴロゴロ」
「す、すまない。つい…」
「胎内に金属を転送するなんてと、心配になるのは解ります。でも大丈夫ですよ。特殊な被膜で覆われているので緋真様にもお子様にも影響はありません」
「「「「ほっ…」」」」
「では緋真様、鈴に触れて下さい」
「…はい」
緋真さんが恐る恐る鈴に触れた瞬間、鈴が淡く光って消えた。
「え…?」
「「「なっ…」」」
「ナォ〜ン」
「無事、お子様の御手に渡りました。では、最後のお祝いの品、〈メロップ酒〉の作り方をお教えします」
そして、最も時間のかかる〈メロップ酒〉の作り方を教える為に厨房に案内して貰った。
「先ずは〈メロップ酒〉の味を決めます。緋真様、此方のメロップ水を試飲して、1番美味しく感じた或いは胎動を強く感じたのを教えて下さい」
「は、はい………これ…ですね。4番目が1番飲みやすくて、この子も今までで1番動いた気がします」
「成程…なら此方のメロップが該当しますね」
「…そのメロップ水は少しずつ色が違うようだが…何が違うのだ?」
「材料となるメロップの状態で差が出ます。緋真様にお渡ししなかった零番目のは早摘みのをそのまま磨り潰したものです。甘味がとても薄い上に青臭いのが特徴で、好んで口にする方は少なかったと思います」
「「うぐっ…」」
「ルキアだけでなく白哉様まで顔を顰めるなんて…」
「緋真、よせ」
「嗅いでは駄目です姉様!折角治まって久しい悪阻をぶり返すやも知れませぬ!」
「此方は責任を持って持ち帰りますのでご安心を」
緋真さんの手が伸びる前に、そそくさと持って来たカバンの奥底に仕舞い込み、他のメロップの説明をした。
「大抵は葉全体が黄色くなってから摘んで作ります。より甘味の強いのを求めるなら黄色から橙色になったものを、最も甘味が強いのは赤色で、これ以上置いておくと今度は苦味が強くなっていきまして、色は茶色になります。甘苦いのが好きな方はこれを摘みますね。で、それを磨り潰して計量、その半分の量の水を加えて湯気が出てくるまでは弱めの中火、その後は弱火でゆっくり煮ます。煮ていくうちにメロップの葉は水と同化して跡形も無く消えます。それでメロップ水の完成です。一先ず生の葉を使う場合の作り方を説明しましたが…大丈夫でしょうか?」
「問題無いが…枡1杯で此程かかるのか…」
「陰干し或いは日干しして乾燥した葉を使うと、もう少し早くなりますよ」
「クォ〜ン…」
「「うっ…」」
ロウコの目を輝かせて、両前足を揃えての『出来立てちょうだい』アピールにルキア達が狼狽えているが、作る度に見せられている私には通用しない。
「こらロウコ、今日の分は持って来てるでしょ?そっちを食べなさい」
「クォ…クォ〜ン!」
「帰ったらまたストック分作るから、今は我慢しなさい!」
「クォ〜ン?クォクォ〜ン!」
疑わしげな顔をしつつも、メロップ水作りは欠かさないのを知っているロウコはアッサリと引き下がった。
「全くもう…では、陰干しした葉での作り方を説明しますね」
「…あぁ」
「乾燥した葉を使う時は、水の量が変わります。生の葉だと葉の水分の関係で水は半分でしたが、乾燥した葉だと水も同じ量が必要です。なので、生の葉は2対1、乾燥した葉は1対1の割合で作ると覚えておけば問題無いかと」
「…成程」
「では、乾燥した葉をすり鉢で粉末にしたのと水を鍋に入れて弱めの中火にかけて、湯気が出て来たら先程のと同じく葉が水と同化して消えるまで弱火で煮ます。どちらも強火で一気に火を入れると、苦味が出ますので必ず弱火を心掛けて下さい」
「うむ…」
煮ている間に、陰干しすると甘味が凝縮されて、摘んだ葉の色から1段階ずつ甘味が上がる(緑色は黄色、黄色は橙色、橙色は赤色、赤色のはメロップの水飴になる)事、日干しすると甘味はそのままで苦味が出る事を説明した。
「流石に水飴は滅多に作らないんですが…と、葉が完全に同化しましたね。では火から下ろして、これに注いで下さい」
「…竹筒?」
「これは酒筒という植物で、竹の亜種と認識していただければ宜しいかと」
「…酒の匂いがするが?」
「はい、竹との違いはお酒の匂いがするかどうかなんです。この筒に入れておいた液体は全てお酒に変化します。なので、メロップ酒は出来立てのメロップ水をこの酒筒に入れてしっかり栓をして冷暗所に保管しておくと出来るんです」
「ほぅ…」
「あの【世界】だと成人は18歳でしたので、大抵の人はその時に生まれて初めてのお酒として、生みの親か育ての親と飲むものでしたね。私も育ての親と飲みましたし」
「そうか…」
「はい。あ、この酒筒の凄いところなんですが、入れた中身が空にならない限り、腐りもしないし傷ひとつつかないんですよ。実際に成人する前に亡くなった方のメロップ酒が500年越しに発掘された事があって、酒筒は勿論、中身も無事だったという記録が残されていたんですよ」
「それは…確かに凄いな」
「ですよね。っと、後は栓をしっかりして更に溢れないように周囲を固定して…後は冷暗所に保管しておけば完成です」
「ほぅ…」
「で、ひと通り説明しましたけど…大丈夫ですか?」
「…うむ」
「大丈夫です義兄様、私がこうやって材料と作り方をしっかり記録しましたので!」
「そうか」
「はい!」
…確かに、生まれて来るお子様用のメロップ酒の材料と作り方がしっかり書いてある
…けど、周りの絵?は何だろう?
…そう言えば、この義兄妹ってかなり独特な感性持ちで、画力も相当だったような
…あれ?何か寒気がする
「時に、相談があるのだが…聞いて貰えるだろうか?」
明らかに期待を込めた目で私を見る朽木白哉に、
「…内容によりますので、聞いてみない事には何とも返答出来ません」
と、返事をするのがやっとだった。
客室に戻り、居住まいを正した朽木白哉が1枚の紙を見せて来た。
そこに描いてあったのは、『わかめ大使』だった。
「「「「………っ!(((?)))」」」」
「…何ですかあれ?」ヒソヒソ
「…解らないな…何なのだろう?」コソコソ
「…私達の知らない新種の生物でしょうか?」ヒソヒソ
「…っ取り敢えず、話を聞きましょうか」
…さっきから治まらない寒気の原因はコレだったのね
取り敢えず、話を聞いた。
朽木白哉がずっと昔から温めてきた『わかめ大使』を我が子の誕生と共に表舞台に出したいと思い、披露する事にした。
しかし、朽木家の者だけでなく、第三者の意見も取り入れたい。
だが、護廷十三隊は勿論、瀞霊廷や尸魂界の住人達にはまだ見せられない。
そこで、虚圏の住人である私達の意見を聞く事にしたとの事。
…人選、思いっ切り間違ってると思います
…現に3人とも良く解らない絵を見せられて困惑していますから
…こんな形でコレと関わる羽目になるとは微塵も思ってなかったし、どうしよう?
「…えっと、此方を見た方々はどのような反応を?」
「皆、愛らしい、可愛らしい、或いは目元が凛々しくて素晴らしい等と概ね好評だ。特に緋真とルキアは大絶賛している」
「…そうですか」
チラッと2人を見ると、揃って目を輝かせている。
…朽木家の家臣達が否定的な発言する訳無いよね
…そして感性も姉妹揃って同じか
…生まれてくる子どももきっと、特殊な感性持ち確定かな?
…現状ピンチには違いないままだけど
…いや、マジでどうしよう
下手な事を言えば私達は間違いなく此処で終わる。
しかし、3人は私に全てを委ねて無言を貫く気満々である。
この判断はあながち間違っていないので、恨む気は全く無いが。
…ってか、この人のわかめ大使への執着と言うか愛情が凄過ぎない?
…嬉しい事続きでちょっと浮かれてるみたいだし
…取り敢えず、今回は見送るように説得してみよう
…生まれて来る子どもの為にも
「…私の経験上、子どもの誕生と何かを同時に行うのは止めておいた方が良いと思います」
「…何故だ?」
「私の転生した身体は全て女性だったので、男性側の経験は全く無いのですが…とても苦労したからです。どんな肩書がある立場だろうと、関係無く」
「…だが」
「お産を甘くみてはいけません。どんなに万全の状態で臨んでも何が起きるのか予想が付かないものですから」
「…っ」
そうハッキリ言い切れば、流石に冷静さを取り戻したらしい白哉は頭を深々と下げながら、自分が浮かれていた事に気付いたと反省の言葉を口にした。
「やはり、兄に意見を求めて正解だった。緋真に何かあれば私は悔やんでも悔やみきれぬ過ちを犯すところであった」
「いえ…」
…うわぁ、物凄くガッカリしてるよ緋真さんとルキア
…そんなに世に出したかったの?
…あ〜、もう仕方ない
「あの、テディベアってご存知でしょうか?」
「「てで…べあ?」」
「寡聞にして存ぜぬが…どういったものであろうか?」
「クマのぬいぐるみです。ヨーロッパ…欧州のとある国で作られているのですが、何処だったかは忘れましたが、子どもが生まれたらそのぬいぐるみを作るという風習があるそうなんです」
「…詳しく聞かせていただきたい」
「子どもが生まれたら、その子どもの身長と体重を計測して誕生日と共に記録するのですが、その計測記録を元に同じ大きさ、重さのテディベアを作って子どもに『初めてのお友達』や、『貴方の分身として大切にしてあげて下さい』と言った想いを込めて贈るという風習があると聞いた事があるんです。無事生まれたお子様に、テディベアではなくわかめ大使のぬいぐるみや人形を作って差し上げるのはどうでしょうか?」
「「「…!」」」
「それは素晴らしい贈り物になりますよ姉様!義兄様!」
「そうね…白哉様」
「…恩に着る」
私の出せる最大限の譲歩案に目を輝かせた3人の弾んだ声に、愛想笑いを返すのが精一杯だった。
…前とは違う意味で疲れたわ
…結局、あの絵は何だったのかって?
…そんなの、私が聞きたいけど、聞いたら何かが終わる気がして聞けなかったのよ
…まぁ、私の提案で納得して貰えて良かったわ
…もう朽木家には足を運びたくないんだけどね
…不可能なのは解ってるわよ
…良いでしょ、言うだけならタダなんだから
今回、懐妊祝の品の名前が中々決まらず、何故かわかめ大使まで出て来て収拾をつけるのに時間がかかりました。
熱中症警戒アラートが連日出ていて心身共に疲労が溜まっていますが、皆様も熱中症や脱水症にはお気をつけ下さい。
次回は、姫様のお願いを叶える為に頑張ります。