藍染達が不在中の虚夜宮。
ようやくレシピ本の作成開始。
料理を教える方法は?
ビア&ロカの提案でいってみよう。
初心者に教えるメニューが中々決まらず、小学生の時、家庭科で初めてやった実習も思い出せず、代わりにクラブで初めて作ったのがクッキーだったのでそれを採用しました。
藍染達が尸魂界へ戻り、彼等に渡した寒天寄せとカステラの残りを『ご自由にどうぞ』のプレート付きで置いておこうとしたら、
「食堂だけでなく、ヘタしたら厨房まで消えるからやめなさい」
と、シャルさんを始めとするみんなに真顔で止められたので、手間ではあるものの、食事を取りに来た破面ごとに渡して貰うよう担当者達にお願いした。
夕食後、取り敢えずココに唯一ある、東仙直筆のレシピ本を見せて貰った。
…うん、コレは確かに料理初心者にはハードルが高いわ
少なくとも、普段から料理をしている人じゃないと、解らないだろう箇所があちこちにある。
…でも、手直しすれば何とかなりそう
…その為にカメラを用意したし、このレシピ本の料理を作ってるところを撮って添付すれば、だいぶ解りやすくなるだろうし
…当分、このレシピ本の料理がそのまま食卓に並びそうだけど
…メニュー考えるの楽になりそうだから結果オーライ
…ん?
「…ねぇ、このシホリさんって誰?」
「確か、東仙統括官の奥方様のお名前だったと思いますが」
「………」
よく見たら、著/東仙要、監修/シホリとある。
…そう言えば彼も作れるって言ってたっけ
…何か熟年夫婦で凄く仲がイイらしいし
…一緒に台所に立って作っているうちに自然と奥さん流のやり方を覚えたとか有りそう
…簡単に想像出来る光景なのがまた
「…取り敢えず、コレをベースに書き直そう」
方向性は固まった。
こうして、レシピ本の作り直しが始まった。
翌日、ロカに解らなかった箇所はどこか教えて貰い、説明足らずの文章に手を加え、それを元に実際に作ってみる。
流石にビアに大人用の包丁を握らせるのはまだ抵抗があるから、専用の道具が揃うまでは私達の助手をして貰う事で納得させた。
実は昨夜、東仙達を見送った後の疲労困憊のザエルアポロにも、
「あんこじゃないけど」
と、寒天寄せとカステラを渡した際に、ビア用の料理道具一式を依頼しておいた。
…ロカから更なる質問は今のところ無いけど
…それはこの2日間、私と料理していたからだよね
…ロカは一度教えれば大抵はすぐ身に付くから
…他のメンバーはこう上手くはいかないだろうし
常備菜の定番、金平牛蒡を作りながら隣で同じ作業をしているロカを見る。
やった事の無い作業は、最初はどうしてもぎこちないけど、慣れればかなり手際良く動けるまでにスキルアップする。
流石に応用にはまだ至っていないけど。
でも、夕食の用意をしている時に、チラッとだが他の破面用の食事を用意している担当達の様子を見たけど、普通の包丁をマトモに握れる方が圧倒的に少なかった。
揃いも揃って、巨大なナタかノコギリで斬りやすそうな各関節部をギッコギッコ、刃毀れも気にせずに切断したのを大皿にそのまま盛ってたり、バーナーで焼いたのを鉄板に乗せたまま出したり…そしてソレを何の躊躇いもなく口にする破面達…猟奇的且つグロ過ぎて思い出しただけで、気持ち悪くなりそう。
辛うじて、包丁を手に普通の食材を、大きさバラバラに切ってごった煮にして、味噌や醤油を計量もせずにぶち込んだモノや、火加減なんて知らないと言わんばかりの高火力で、外は焦げ焦げで中は生の焼肉や焼き魚に醤油をかけたモノを作っていたのがごく少数いたくらいだった。
ヘタをすれば、厨房担当よりも従属官の方がまだマシなモノを作っていたような気がする。
シャルさんにペッシェ、ドンドチャッカ、シャウロン…昨日だって、手順を教えればドジっ子のディ・ロイはともかく、ナキームはあの体躯で細やかな作業を熟していたし。
…改めて思うけど、どうやって料理を教えよう
…体格が違い過ぎる破面も結構混ざってるから、手のサイズも違い過ぎて、それぞれに合わせて道具一式揃えなきゃダメだし
…包丁を使わない料理を教えるしかないかな
…それだったらビアも一緒に出来るし
…いっそ、人間サイズに近い破面のみに絞っての人事異動申し出るかな
…いや、今まで食べ慣れたモノを取り上げる訳にはいかないか?
「う〜ん…」
「メノ姉様、メノ姉様!」
「メノリさん!」
「へ?」
「そろそろ焦げちゃいますよ!?」
「え?…あ!わっとと!…あっぶな」
考え込み過ぎて、金平牛蒡を火にかけて箸をただ鍋の中でグルグル回していた。
2人が声をかけてくれなかったら、間違いなく失敗作が出来ていただろう。
あの後も上手く考えが纏まらす、ロカとビアに意見を求める事にした。
「厨房の方々に料理を教える…ですか?」
「料理長に任命された理由を知ってるからには…ねぇ?何かイイ案無いかなぁ…ってずっと考えてはいるんだけど…」
「…ボクは、メノ姉様の料理を覚えたい破面に教えるだけでいいと思います」
「私も同意見です」
「…え?」
「メノ姉様の作るご飯とお菓子は藍染様方が認める美味しさで、ボクも大好きです。シャルさんやシャウロンさんがメノ姉様の料理本が出来たら欲しいって言ってました。でも、厨房の破面達は珍しいモノに興味はあっても、知りたいとか覚えたいとかは無いみたいですし」
「ビアの言う通り、厨房の担当達は、取り敢えず食べられれば良いという方々専門なので、無理に覚える必要は無いと考えている者が多いかと」
「…そうなの?」
「「はい」」
「それに…料理長に任命されましたが、彼等には多分、私達は藍染様方専属の料理係だと認識されていると思います」
…2人の見解ではそうなのか
…確かに厨房の人達って、殆ど私と関わろうとしないかも
…精々、遠巻きに私達の調理を眺めたりしかしないしね
…後は何か頼めばやってくれるくらい?
…だったら2人の言う通り、無理して厨房の人達に教えるよりも、料理に関心、興味がある人達相手に教えた方が上手く行くかも?
「…じゃあ、料理教室の体験者募集のポスターでも作ってみるかな?」
「絶対にシャルさんとシャウロンさんが参加しますね」
「間違いないですね…あとネリエル様の従属官の御二方も…内容次第ではテスラさんあたりも来そうですよ」
レシピ本作成と並行してポスターも作った。
食堂は勿論、渡り廊下の掲示板、各施設にも配った3日後、第1回料理教室を開催した。
参加者は予想通りのシャルさん、シャウロン、ペッシェ、ドンドチャッカにテスラ、それと以外な事に髭が特徴的な…そう、ドルドーニが来た。
「えっと、すみません。どちら様でしょうか?」
「これはこれは…お初にお目にかかる。吾輩の名はドルドーニ=アレッサンドロ=デル=ソカッチオ。以後お見知り置きを、料理長殿、妹君」
「御丁寧にありがとうございます。メノリ=マリアです。今日は宜しくお願いします」
「…ルビア=アルコ=イーリスです…メノ姉様に迷惑をかけるのはボクが許しませんから」
「ビア!」
「これは手厳しい…妹君の信頼を得られるよう、頑張らせて貰わねば」
「…ふんっ」プイッ
「…もう…すみません」
「ははっ、如何に貴女が大切か解って良いでは無いか」
全員揃ったところで料理教室が始まった。
「今日作るのはクッキーです」
「「「「「「クッキー?」」」」」」
「クッキーは西洋の焼き菓子のひとつです。まずはクッキーの生地から作って行きます」
「一昨日のコップでギュッてしたクッキーですか?それとも昨日のアイスボックスのクッキーですか、メノ姉様?」
「コップのは力加減が難しいかも知れないから、今回は昨日のアイスボックスにするよビア」
「はい!」
「では始めますね」
材料はバター、砂糖、卵、薄力粉、それとテスラ用に粗塩。
「何でテスラにだけ塩が?」
「甘いの苦手みたいなので、塩気のあるクッキーの方がイイかなと思いまして」
「甘いのに塩気…?」
「どういう事だ?」
「ますます謎だなクッキーと言うのは…」
バターと卵は常温に戻しておく。
「特にバターは固いと他の材料と上手く混ざりませんから指やスプーンが簡単に沈むくらい柔らかくしておくとイイですよ。ちなみに、温風等の傍で少し温めると早く柔らかくなりますが、すぐに溶けてしまうのでやり過ぎないよう注意が必要です。卵も冷たいとバターと分離してしまいます。このふたつは冷蔵庫から出してある程度置いておくことを意識して下さい」
「ふむ…」
「成程ね」
それぞれ計量して薄力粉を2回振るっておく。
「何でそんな面倒くさい事を?」
「何故2回も?」
「薄力粉をサラサラにすると、混ぜる時ダマ…粉の塊が出来にくくなります。あと、洋菓子って空気を含ませたモノが多いので、出来上がりにも影響が出ますよ」
バターと砂糖をボウルに入れてしっかりと混ぜ合わせる。
「この混ぜ合わせが不十分だと、クッキーの食感に影響がでますのでサクッ、フワッ感を楽しみたい方は特に良く混ぜる事をオススメします」
「そのサクッ、フワッ感がよく解らないんだが?」
「あ、えっと…この後、昨日私達がそれぞれに作ったのを食べて貰うので、それで解るかと」
卵を別の容器に割り入れて解いてから2回に分けてバターと砂糖のボウルに入れてその都度混ぜる。
「一気に入れると混ざりにくいので、手間でも必ず2回に分けて混ぜて下さいね」
「あ、殻が」
「殻は必ず取って下さいね」
「あ!ぜ、全部入っちゃったでヤンス!」
「あー、それはもうしっかり混ぜるしかないですね」
「うぉぉ〜ん」
振るった薄力粉を入れて泡立て器からヘラに変えて切るように混ぜる。
「こう…練らないように、ヘラで何回か切ってボウルの底から生地を掬って…これを繰り返して粉っぽさがなくなったら生地の出来上がりです」
「…よいしょ…よっ…」
「昨日よりもずっと上手くなってるね、ビア」
「えへへ///…これで良いですかメノ姉様?」
「うん、上出来上出来」
「うわっ、粉が…」
「な、中々難しいでヤンス」
「大丈夫、ちゃんと混ざってますから落ち着いて下さい」
「シャルさん上手上手、流石〜」
「コツさえ掴めば意外とイケるものね」
「…粉は見えなくなったみたいですが?」
「…こ、これでどうだろうか?」
「うん、2人ともちゃんと混ざってるね」
「吾輩のはどうだろうか?」
「う〜ん…ちょっと混ぜすぎかな?練っちゃってるし」
「何と!」
全員の生地が出来たから、直径3cmくらいの棒状に伸ばしてから丸、三角、四角、楕円形の中で好きな形に成形してもらい、バットに並べて冷蔵庫で冷やす。
どれが誰のか解るように印もしっかり付けて。
「この後、ナイフで大体5㎜くらいの厚さに切ってから焼くので、切りやすくする為に冷やします。最低でも30分〜1時間は置いて下さい」
「「「へぇ…」」」
「「ほぉ」」
「「ふむ…」」
「で、いつもなら待っている間にオーブンを温めて、別の作業時間にしているんですが…先程言った昨日のクッキーを試食して貰いましょう」
「「「おぉ!」」」
「どんな味なんだろうか」
「楽しみですな」
食堂で昨日のクッキーを試食した。
私、ロカ、ビアそれぞれが作ったクッキーを食べる。
ビアのは厚さが揃っていない上に硬くて、粉っぽい。
全体的に上手く混ざっていないのが解る。
それでも初めて作ったにしては十分、上出来と言える。
「今日のはもっとうまく出来るでしょうか…」
「こればっかりは練習あるのみだから…でも昨日より手つきは良くなってたよ」
ロカのは形は揃っているものの、全体的に少し硬めに仕上がっている。
バターと砂糖がしっかり混ざっていないのが原因だろう。
「…メノリさんのには遠く及ばないですね」
「前にも言ったけど、ずっと昔に何度も練習して今の私がいるんだから、そんな簡単にマスターされたら色々と複雑な気持ちになるよ、こっちとしては」
そして、私のクッキーを食べた全員の顔付きが驚愕に変わった。
「な、何だこの歯ごたえは!?」
「こ、これがサクッ、フワッ感でヤンスか!?」
「メノちゃんのクッキーの味、食感、しっかり覚えておかなきゃ、閣下の為に!」
「…ほぅ」
「…うーん、食感は良いが、やはり少し甘いな」
「あ、こっちのが塩クッキーです。興味がある方はどうぞ」
「ほぉ…これは随分と味に違いがありますな」
「どっちも閣下に献上したくなるわ…」
「どっちも美味しいです」
「サクサクサクサク…」
「あ、食べ過ぎだぞドンドチャッカ!」
「止められない程の美味さでヤンスから止まらないのでヤンス!」
…どこぞのスナック菓子みたく言われるのはちょっと
そうこうしているうちに30分が経過したので、厨房に戻って続きを再開する。
「では、ご自分の生地をナイフでこう、5㎜くらいの厚さになるよう切って下さい」
「「…5…5ミリ…5ミリ…」」
「…や、やっぱり…む、難しい…です…あ!」
「あ、しまっ…斜めに切ってしまった…くっ」
「…物差しはありますかな?」
「あー、吾輩にも貸していただきたいのだが」
「え、あー…そこまでキッチリやらなくても大体同じ厚さになればイイので…」
「そうは…言っても…ねぇ、メノちゃん…いずれ閣下…に献上するモノ…を作っている…アタシとしては…ね…例え…練習で…も…全て本番…だと常に意識…している以上、手は…抜けない…の…よ!…ふ〜」
「シャ、シャルさん…」
ブルブル震えながら、目を血走らせて生地を切るその姿は流石に怖い。
結局、みんなだいぶ時間をかけて切り終えた。
天板に食用の和紙を敷いてその上に生地を指2本分くらい離して乗せていく。
「何で離すんでヤンスか?」
「焼くと生地が少し広がるので、離して置かないとくっついちゃうんですよ。なので、余り近付け過ぎないように乗せて下さいね」
「乗せ方にもコツがいるのね…指2本分くらい…良し」
「…こんな感じか?」
「おいドンドチャッカ、淵に近過ぎないか?天板にくっつくかも知れないぞ」
「そ、それはマズイでヤンスな。乗せ直すでヤンス」
「…これで良いのだろうか?」
「…ふむ、こんなものでしょうか」
「メノ姉様の指2本分の幅で乗せる、幅で…あ、1個残ってしまいました」
「あぁ、ビアこの場合はね、こうやってココらのをちょっとずつずらして…はい、全部乗ったよ」
「…さすがです、メノ姉様」
「メノリさん、皆さん乗せ終わったようですよ」
「あ、はーい。あ、テスラの生地にこの粗塩をひとつまみずつ乗せていって下さい。これで塩クッキーの用意が出来ました。ではいよいよオーブンで焼いていきますね」
オーブンに入れて12〜15分くらい焼く。
焼いている間にみんなで後片付けをする。
隣で洗った道具を拭いているドルドーニが話しかけて来た。
「メノリ殿が料理長に選ばれた<理由>が<良く解った>のは大きな収穫と言える、大変有意義な時間だった」
「…はぁ、それは良かったですね」
「…君は…いや、今後も料理教室は開かれるのかな?」
「そうですね…藍染様方がお戻りになるまでにもう1〜2回は出来たらと考えてはいますよ」
「おお、それは素晴らしい!次回も是非参加させていただきたいものだ!」
「興味を持っていただけて、私も嬉しい限りです」
チーン!
「あ、焼けたようですね。最後のチェックをしましょう」
天板の端と真ん中のクッキーに竹串を刺して中まで火が通っているかチェック。
…良し
「こうして、竹串に何も付いて来なければ粗熱を取って完成です。焼き立ては崩れやすいので気を付けて下さいね」
それぞれの手作りを試食して貰う。
みんな私のクッキーと比較しているのだろう、凄く微妙な表情になっている。
…さっきも言ったけど、生まれて初めて作ったモノが、それなりの経験積んでるのと一緒じゃこっちの立つ瀬が無いわよ?
「料理もお菓子も練習あるのみですよ。何度もやってるうちに、どうすればもっと美味しく出来るか見えて来るモノがありますから。ね?」
「その通りよ!だって、毎日ミタラシダンゴの練習して漸く納得の行くモノが出来るようになって来たんだもの!それに………」
…毎日?凄いなぁ
…他の従属官の方々が大変だろうけど
熱弁を振るうシャルさんが私の言いたい事の大半を言ってくれたので良しとしよう。
みんなのうわぁ…って顔は見なかった事にして。
…さて、次の料理教室は何にしようかな
出来る人とやった事すら無い人、知っている人と知らない人の差や壁を、どう書こうか凄く悩んだ結果、こうなりました…。
次回の料理教室、何を作らせようかな。