異世界エイナール・ストーリー   作:七霧孝平

36 / 43
第18話-if-

「さて、リヴェル。」

 

突然呼ばれ、リヴェルは昔通り返事をする。

 

「はい」

 

「いやそこは『ああ』だ」

 

「え?」

 

リヴェルにはよくわからない。

 

「話し方も変えないとすぐわかる。君はこれから孤高の剣士リヴェルだいいね?」

 

「は……」

 

マスターの眼鏡が光る。

 

「ああ。マスターさん」

 

「さんはいらない」

 

「ああ、マスター」

 

うんとマスターは頷いた。

 

「まだぎこちないが、そのうち慣れるだろう」

 

どうだろうかと思うが、自分が会ったリヴェルも慣れていたので、いつかは慣れるのだろうと思うことにした。

 

「さて次は強さだね」

 

マスターは構えを取る。

 

「テストだ。かかってきなさい」

 

リヴェルは剣を抜く。宝玉から入手した魔力もあり、リヴェルの動きは速かった。だがマスターもそれを全て避ける。

 

「うん、合格かな」

 

リヴェルは疑問に思っていたことを聞いた。

 

「マスターは何故そんなに強い?」

 

「……」

 

マスターは遠い空を見上げた。

 

「遠い昔、いや未来かな? きみと同じように過去に飛ばされた若者がいた。それだけさ」

 

「……!」

 

リヴェルは答えに納得はしてないが確証を得た。

 

なるほど、未来人ならある程度予想や、予知が出来るのかもしれない。

 

「他に聞きたいことは?」

 

マスターがわざわざふってくれたので、リヴェルはもうひとつ聞く。

 

「その左手は」

 

マスターの左腕には常に包帯が巻かれている。

 

「これかい? やけど……と言っても信じてはくれないんだろう?」

 

「ああ、信じない」

 

「うん。構わないさ。そのうち知ることになるだろうからね」

 

リヴェルは最後の質問をした。

 

「その腰に掛けてるのは銃?」

 

マスターはあっさり頷いた。

 

「この世界にも銃があるのか」

 

「レア物には違いないがね」

 

質問を終えると二人は動き出す。

 

「どこに?」

 

「君の拠点をあげようと思ってね」

 

大陸を越え着いたのは森。

 

「この森は……!」

 

「知っているようだね」

 

コウル時代に初めてリヴェルと会った場所。迷いの森。

 

だが、今、この森はただの森に見える。

 

「この森は特別な森でね」

 

マスターに続き森を進むリヴェル。そして、そこにはいつか見た小屋。

 

「ここは私が使っていた場所だが、君に譲ろう」

 

「いいのか?」

 

「ああ、構わない」

 

こうしてリヴェルは森の小屋を入手する。

 

「さて、後は……」

 

マスターが魔力を集中する。すると森に霧が発生し辺りを包んだ。

 

「これで迷いの森の完成だ。迂闊に人は来れない」

 

そのままマスターは去ろうとする。

 

「待って……いや、待て」

 

リヴェルはそれを呼び止めた。

 

「しばらくはあなたに付いていきたい」

 

「ほう……?」

 

「まだ僕……いや俺はこの世界に詳しくはない。あなたに付いていけば、いろいろなものが体験できる気がするんだ」

 

「いいのか?」

 

マスターは問う。

 

「私に付いてくれば、君の言う平穏な余生は過ごせないかもしれないぞ?」

 

「だがエイナール様は言った。この過去で、俺やエイリーンを導けと。のこのこと余生を過ごすわけにはいかない理由ができた」

 

「そうか……」

 

マスターが頷き、リヴェルも頷いた。

 

「では行こうか」

 

二人は歩きだす。

 

 

 

それからのマスターとの旅は、リヴェルにとって想像以上であった。

 

毎日がモンスターとの戦い。ただ広い世界を回るだけではない。

 

その地の秩序を脅かすものの討伐。町の様子を見守る。

 

出会うたび、冷静に話しているマスターの大変さをリヴェルは知った。

 

「マスター、あなたはいつもこんなことを?」

 

「女神が関われない些事を、少しづつ解決してるだけさ」

 

その些事で毎日飛び回っていると思うと、頭が上がらなかった。

 

とある日、マスターがリヴェルを呼んだ。

 

「今日は依頼が多くてね。リヴェル、君にひとつ仕事を頼もうと思う」

 

「俺に?」

 

「ああ。なに、とあるモンスター群の討伐だ。君ならこなせるさ」

 

そう言うとマスターは先に出ていってしまう。

 

「モンスターの討伐……ね」

 

だが、この時のリヴェルは想像していなかった。

 

その依頼がとてつもなく大変なものであるということを。

 

 

 

剣同士のぶつかり合いが響く。

 

「チッ……」

 

リヴェルの周りは多数のモンスターに包まれていた。

 

「グホホ。我輩らのアジトに単身、乗り込んで来るとは、愚かの極み」

 

モンスターのリーダーが笑う。つられて周りのモンスターも笑いだす。

 

リヴェルは最初、多数のモンスターも、一体ずつ撃破していけばいいと思っていた。

 

だが甘かった。その一匹一匹が、リヴェルに劣らない強さだった。

 

リヴェルは敵に次第に囲まれるように、リーダーの前まで追い込まれていたのだ。

 

「……」

 

「グホホ。自分の愚かさに声もでないか?」

 

「いや……チャンスは活かすものだ!」

 

リヴェルは一気に踏み込み、リーダーに迫る。

 

そして剣を叩きつける。

 

「な……!?」

 

「グホホ。残念だったなあ」

 

リーダーモンスターの腕が、リヴェルの剣を掴んでいた。

 

リヴェルはそのまま投げ捨てられる。

 

「ぐっ……!」

 

「そう簡単にいくと思ったか?」

 

リヴェルは起き上がる。そして咄嗟に呼ぼうとしていた。

 

「エイリーン……!」

 

だが、なにも起きない。起きるわけがない。

 

(そうか……エイリーンが死んでしまったから、契約も聖剣も……。いや、過去だからか)

 

リヴェルは、その場に座り込んだ。

 

「諦めたか?」

 

「……かもな」

 

リヴェルは既に諦めの中にいた。自分はエイリーンを守れなかった。いくら力を得てもそれは変わらない。

 

そしてその力もこんなところで終わろうとしている。

 

(いや、まだ終わらない)

 

リヴェルの脳内にマスターの声が響く。

 

(マスター? だが俺はもう……)

 

(君は生まれ変わったリヴェルだ。コウルではない。君は君はみたいな者を生まないために、生き、そして導かなければならない)

 

(導く……)

 

(そうだ。コウルとエイリーンを導き、自身のような悲劇を失くす。それが君の使命。君の存在だ。違うか!)

 

マスターの叱責にリヴェルは立ち上がった。

 

(そうだ……。俺はリヴェル。孤高の最強剣士、リヴェルだ!)

 

「グホホ? 諦めたのではなかったのか?」

 

「理由がある……。こんなところで死んでられん理由がな」

 

リヴェルは闇の宝珠を強く握った。

 

(宝玉よ……。俺はコウルを捨てる。もっと力を貸せ!)

 

闇の宝珠が輝きを放つ。

 

リヴェルの身体を闇の輝きが包んでいく。

 

「グホ!? なんだこれは!?」

 

リーダーは驚く。

 

リヴェルは息を吐いた。

 

「ふぅ……目覚めた気分だ」

 

リーダーはリヴェルの様子を見て叫んだ。

 

「グホ! お前たち、やってしまえ!」

 

モンスターの群れがリヴェルに迫る。

 

だがもうリヴェルに迷いはない。モンスターの攻撃を回避しては斬る。

 

「な、なんだ!? さっきと勢いが違う!」

 

モンスターたちは驚愕するが、そんな暇はない。次々と撃破され、残るはリーダー一体となった。

 

「グホ……、な、何者だ貴様」

 

「剣士リヴェル。貴様らを裁くもの」

 

先程と違う、リヴェルの速度。それが一瞬でリーダーモンスターを切り裂いた。

 

 

 

とある町の宿で、リヴェルとマスターは合流した。

 

「お疲れ様」

 

リヴェルはマスターを睨む。

 

「なにが『君ならこなせるさ』だ。死にかけたぞ」

 

「だが。こうして君はここにいる」

 

マスターは眼鏡をあげ直すと言った。

 

「君の真の覚醒を促したかった。この世界で、自分を導くなんてことをやるには、強さが、何者にも負けない意思が必要だからね」

 

「で、俺はあなたの試練に受かったのか?」

 

マスターは頷いた。

 

「もちろんだ。改めてよろしく頼むよ。剣士リヴェル」

 

マスターが手を出す。リヴェルはそれを握り返す。

 

ここにリヴェルは完全に誕生したのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。