プロローグ&第1話
とある森の中、剣の一閃が放たれる。
その一閃はモンスターを切り飛ばし木に叩きつけた。
青年、いや少年とも呼べる人物は、自分ほど大きいその大剣を背負いつつ、モンスターを引きずりながら森を抜けていく。
森の奥の小さな村。少年はそこに向かっていく。
「ほら」
村につくと少年は、モンスターの死体を見せるように投げる。
それを見た村人たちは「おお」と驚きの声を上げた。
「あ、ありがとうございます。討伐していただけるとは」
村長が少年に微笑みながら話しかける。少年は一瞬照れた様な表情を浮かべるがすぐに表情を戻すと。
「……依頼だ。報酬が貰えればそれでいい」
そっと村長から目を逸らした。
「そうですか。ではこちらを」
村長から袋にいくらか入った硬貨を受け取ると、少年は立ち去ろうとする。
「お待ちください。もしよろしければもう一つお願いがあるのですが……」
村長が少年を止める。それに少年が振り向くと、村長の後ろから別の老人が近づいてきていた。
「メ、メル様はワシが! ぐううっ」
老人は腰を擦りながら苦しむ。
「あれは?」
少年は村長に問う。
「彼は『ジライ』さん。君と同じく旅人らしいのだが……」
村長は老人ジライを見る。ジライも村長を見ると大声を上げた。
「こんな小僧に頼らなくても、ワシ一人でメル様を助けれるわ! ……アタタ」
村長はやれやれと首を振る。
「なんでも連れの少女をモンスターにさらわれたとかで。自分一人で助けに行くと言ってはいるがあの通りというわけです」
「そうか……」
少年はジライに近づく。
「爺さん、その子の救出、俺が引き受けよう」
「いいと言っておるじゃろ! それに――」
ジライは少しバツが悪そうな表情をする。
「――依頼するほど金もないわい」
その答えに少年は苦笑した。
「報酬はさっきの村長の報酬でまけてやる」
「ぬ。ぐううっ。わかったわ小僧! ……メル様を頼む」
「ああ」
ジライは折れ、少年に少女救出を託す。
少年はジライにいくつか質問をし、村を出発しようとした。
「待て小僧。お主、名は?」
その時、少年は自身がまだ名乗っていないことに気づいた。
少年のような背丈と顔でありながら、巨大な剣を背負い、漆黒の鎧を身にまとった少年。その名は――
「俺は『クロン』だ」
これは少年クロンと一人の少女の物語。
クロンはジライに聞いた情報をもとに、森の奥深くへ向かう。
森の奥深く。そこには洞窟の入り口が存在していた。
「ここか……」
クロンの前に広がる洞窟の入り口。
「こいつは思ったより……」
それはクロンの想像よりもはるかに巨大な入口であった。
(この入口の大きさ……大群か? 大物か?)
クロンは思案しつつ、剣に手を掛け、洞窟へ入っていく。
洞窟は広くクロンは慎重に進むが、何事もなく奥へ進んでいく。
(この広さ。大群だったら骨が折れたが――)
そう考えながら奥を覗くとクロンは内心、驚いた。
(でかい……!)
洞窟の最奥。そこにいるのはオークと思われるモンスター。
しかも、クロンが旅をしてきた中で見たモンスターでも、かなり大きいサイズである。
(だが今は背を向けている。今なら――!)
クロンは壁から飛び出すと、剣を抜き一気にモンスターへ加速する。だが――
「気づいてないとでも思ったかぁ?」
「っ!」
モンスターは、クロンが振り下ろそうとした剣を振り向きながら掴んだ。
「なんだぁ? 大きな剣だが使い手は小僧かぁ?」
オークは剣ごとクロンを持ち上げると放り投げる。だがそれはクロンの計算通りであった。
「感謝するぜ」
クロンはオークの先、オークが貯めていたと思われる宝に着地する。そこには――。
(この子か……)
宝の山には銀髪の少女が一人、横たわっていた。
「宝は渡さねえぞぉ!」
オークは棍棒を掲げクロンに迫る。
クロンはすぐさま大剣を構えた。
「そんな細腕でぇ!」
オークの棍棒が振り下ろされる。
あまりにも違う体格差。
だがクロンの大剣は棍棒を受け止めると、軽々とオークごと弾き飛ばした。
「な、なにぃ!?」
オークは飛ばされながらも驚きを隠せない。
(さっき剣を掴んだときには、こんな力はなかったはず!?)
「こんな力はなかった……とでも思ってるのか?」
「!」
「最初の一振りは試しだ。お前がどれくらいの力の持ち主かのな」
クロンは剣を振り上げながら話す。
「しょせんただのデカブツだったな」
「ま、待てっ――」
剣の一撃がオークを切り裂く。それで決着はついた。
「まだだ。こんなのではあいつを殺せない……」
村で見せた優しい表情と同じ人物とは思えないほど、クロンの表情は黒く怒りに震えていた。
「……さて」
クロンは表情を戻すと、横たわっている少女を見る。
「おい、大丈夫か?」
クロンの声では少女は目を覚まさない
「……どうするか」
クロンは考えつつ、少女を軽く動かす。
「う……ん」
少しすると少女はゆっくり目を開けた。
「……ここは?」
「洞窟の奥。きみはモンスターにさらわれて連れてこられた」
「さらわれ……。あっ」
少女はハッとすると、しばし考えて訊いた。
「じいは……。ジライは無事ですか?」
「ああ。腰を痛めているが、村で無事にいる」
「そうですか。よかった」
少女はほっとする。
「じゃあ、帰るぞ。……っと、きみ、名前は? じいさんはメル様と言っていたが」
「あ、はい。わたしはメル。『メルリーン・エイナール』です」
(サブネーム持ち? 偉い子なのか……?」
サブネーム。この世界での苗字の呼び方である。
「あ、メルリーンと呼んでくだされば」
「あ、ああ」
後でジライに確認しようと考えるクロンだった。
「いくぞ。メルリーン」
「はい」
「おお! メル様、ご無事で安心しました!」
「じいも元気そうでよかった。腰はもう大丈夫ですか?」
「はは、もう完全に治って――」
ジライは腰を平気そうに動かす……が。
「う!」
再び腰を痛そうにしてしまった。
「無理をしてはいけません」
後方から村長と宿屋の主人が声を掛ける。
「ジライさん、駄目じゃないか。大人しくしてないと」
だがジライは構わないといった様子でメルリーンを見る。
「お願いできますかメル様」
「もちろんです」
メルリーンはジライの後ろに立つと、ジライの腰に手を当てる。
クロンと村人たちは何をするのかと見守っていると……。
「!?」
メルリーンの手から光が放たれ、ジライの腰に当たっていく。
少しして立ち上がったジライは、今度こそ何もないように腰を動かした。
「き、奇跡の力じゃ」
村長が呟く。
「これがメル様のお力――」
自慢げに言おうとするジライを遮るように村人がメルリーンへ押し寄せる。
「……」
村人が騒ぐ中、クロンも驚きの表情を隠せないでいた。
「なんですと!?」
村の宿屋にジライの大声が響き渡る。
「ジライ……。声が大きいです」
「はっ、すみません。しかし……」
ジライは謝りつつも、メルリーン、そして部屋の隅に立つクロンを見る。
「確かにあの男はメル様を助けてくださった。とはいえ護衛に雇うなどと!」
「倒れているのを見ただけですけど、彼は巨大なオークを倒す実力者です。それに……」
「?」
メルリーンはクロンを見る。彼の視線はどこか悲しげに虚空を見ている。
「いえ、なんでもありません」
「なら! ワシというものがありながら、なぜ護衛にするなどと……」
「ジライ。あなたは――」
その後に告げられた言葉にジライはショックで倒れる。
「肝心な時に腰痛で苦しんでいるから……」