【──むかしむかし あるところに】
「死ね...男鹿ァ..! あぁ◎△×卍◻︎◇⚪︎ァァ!!」
「逆エビ固め...ッ!?」
「骨が軋んでやがる..」
「ひ..ひでぇ..」
【──それはそれはハンサムで、カッコよくて、モテモテで、みんなに尊敬されまくっている】
「おい..お前ら..全員土下座」
【──心優しい若者がおりました】
「本当調子こいてすみませんでした」
「石高無敗伝説、男鹿くんがあまりにも無防備に寝てたもんでついチャンスかと..」
「チャンスじゃねーよ。お前アレ、オレじゃなかったら死んでたぞ。お陰で枕がわりに使ってたオレの鞄が鉄骨の下敷きじゃねぇか」
「いやぁ〜本当にねぇ..」
「死ねばよかったのに...」
【──心優しい若者は】
「ゴボッババボバッボボボボボボッボゥホッ!」
【ーー川に洗濯へ行きました】
「落ちるかなぁこの汚れ」
(アクマ...)
(悪魔だ...)
(ひでぇ)
【──すると川上の方から大きなオッサンがどんぶらこっこ、どんぶらこっこ】
「す、水死体だぁ!?」
「やべぇよ...つかなんで矢なんか刺さったんだ!?」
「んなこと言ってる場合かよ!!逃げろぉ!!」
【──周りの不良たちが逃げ出す中、心優しい若者はたった一人で大きなおっさんを引き上げ、そして】
「おいオッサン生きてっか?.....ちょいやっ!!」
【──正義の手刀で2つに割ると中から元気な男の子が..!!】
「むっ聞いてるのか古市?」
今までの話を語っていた男鹿は小学生からの幼馴染である古市の家まで押しかけていた。
「はいはい聞いてる聞いてる。将来は漫画家になりたいって話だよね」
「ばかめ古市。誰がそんな話をしたんだ」
いつもの戯言と話半分に聞き流す男鹿の幼馴染である彼女は綺麗な白銀色の髪をウルフカットで肩まで伸ばしており、クローゼットで上着を幾つか取り出して見比べている。
「それより男鹿、暇ならゲーセン行こうよ。久しぶりに格ゲーで遊ぼ」
「いやいや、まだ続きがあんだって。むしろこっからが大事なんだから」
「まだ続くのそれ...ならゲーセン行きがてら聞いてあげるから..」
古市は羽織っていく上着を決め、男鹿を連れて外へ出ようとするが彼はまだ話の続きを語りたそうにしている。しかし彼女は聞く気は無い。
「だぁから本当だっつーの!少しは信じろや」
「へーへー、信じてるよぉ。なら心優しい若者の男鹿君は拾った赤ん坊は何処へやったんですか?」
そう適当に言葉を返して古市は自室から出る為にドアノブを捻り、押し開く。しかし彼女の足はそのまま前に踏み出せなかった。
「ダッ」
黄色いおしゃぶりを咥えた緑髪の赤ん坊がドア前で座り込み、ふてぶてしい三白眼でこちらを見上げていたからだ。
「なっ本当に赤ん坊いるだろ。少しは信じかよ」
固まる古市の背後で得意げに言う男鹿。そして数秒固まったのち彼女ゆっくりと振り返り男鹿へと向ける。しかしその目つきはまるで路傍に蠢く毛虫を見るかのように冷え切り、据わっていた。
「男鹿.....。どっかの誰かと赤ん坊つくっちゃって助けが欲しいならさっさと言いなよ...。つまんない作り話なんかしないでさ...」
「ちげーっつの!!おっさんの中から出てきたんだよ!!」
「まだ続けるかっ!はよホントのコト白状しろ!いつだ!そして相手は誰だ!つか赤ん坊1人で廊下に放置すんな!」
「だからオレのじゃねーって!!拾ったの!!おっさんの中から!!」
男鹿が弁明をするも古市は創作話だと信じずに詰め寄る。
「ダーッ!!」
言い合いをしている2人に雄叫びを上げながら赤ん坊は目をキラキラと輝かせて近づき、男鹿の足にしがみつく。
「じゃあっこの目つきそっくりな赤ん坊はなんだっ!ばっちし懐いてるし!」
「そんなの知らねーよ!怖がらせねーよーに笑顔で話しかけたら懐いたんだよ!」
「嘘つけ!お前の悪魔みたいな笑顔でなつく赤ん坊がどこにいる!」
「目の前にいんだろ!めっさなついたやつが!!」
「なついた...?ーーフン勘違いも甚だしいな」
すると不意に後ろから凛とした声で話しかけられる。2人ともそちらへと顔を向ければいつのまにやら開いていた窓から入ってきた女性が古市の机に土足で立っていた。
その女性は黒いロリータ系の服を身につけ、耀かしいほどの金髪を後ろでまとめたひと目で日本人ではないとわかる容姿をしている。
「貴様ごときに坊ちゃまがなつくわけなかろう。死ねドブ男」
「あ゛ぁ?誰がドブ男だコラ」
しかしその麗しい容姿から想像のつかないほどの鋭利な罵倒が飛び出す。男鹿は罵られた反射で唸り声を上げて睨みつける。
「つーかそこ降りろ。誰の家の机で偉そうにしてんだコラ」
「ワタシのだよバカ」
男鹿の物言いに横からツッコミを入れる古市だが、ロリータ服の女性は2人を一瞥もせず赤ん坊へと膝を折って両腕を開く。
「さぁ坊ちゃま。ヒルダが迎えにあがりました。参りましょう。」
「迎えに..?」
ヒルダと名乗った女性の物言いに古市は素早く考えを巡らせる。
(迎えってことはこのヒルダって娘がこの赤ん坊の身内..。しかも今のやりとりの感じでは男鹿とも初対面って感じだし..ホントにシロなのかコイツ)
先ほどの男鹿への疑いは早とちりだったかと彼女は内心密かに反省する。
「ダッ」
すると赤ん坊が男鹿へしがみつきそっぽを向く。ヒルダへの拒否を示すように。ショックだったのかヒルダが石のように固まってしまっている。
「プッ 嫌がってますなぁ」
もはやニタァと聞こえるぐらいに口角をあげ煽る男鹿。その顔はもはや悪役そのもの。彼らはそのままヒートアップしていき、ヒルダは赤ん坊の足を掴み無理矢理連れて行こうとする。しかし赤ん坊は男鹿のシャツを離さない。男鹿ますます悪人面を酷くして煽る。酷い絵面である。
ニヤニヤと笑みを浮かべる男鹿に対して古市は横から耳打ちする。
「いや..男鹿その人に赤ん坊連れっていってもらったら解決なんじゃないの?」
「ハッそうだ!オイコラ離せ!オマエの迎えだぞ!」
掌を返すように男鹿は自身のシャツを掴んで離さない赤ん坊を無理矢理離そうとする。
「坊ちゃま..!いい加減にしないと」
「ヴゥ〜...」
するとどこからか何かがパチパチと破裂するような音が響く。その発生源は騒動の渦中の赤ん坊。
「ダァーッ!!!!」
赤ん坊の叫び共に赤ん坊から閃光と電撃がはしり3人共直撃することになった。
「先ほどは失礼しました。
先ほどの不遜な態度が幻だったかと思えるほど丁寧な所作で2人に自己紹介をするヒルダ。しかしヒルダ含めて3人とも電撃によって身体から煙をあげていた。
そしてヒルダの自己紹介を聞き2人の内心にとある疑問が浮かび上がる。
((悪魔....?))
「そしてその方は我々の魔界の王となられるお方。」
手で赤ん坊指し示すヒルダ。
「名を...カイゼル・デ・エンペラーナ・ベルゼバブ4世....つまり魔王で御座います。」
((ま..魔王!?!?!?))
まるで雷に打たれたかのような驚きが男鹿と古市に降りかかる。
その後もヒルダの説明は続く。
悪魔たちの頭であり赤ん坊の親である大魔王が人類を滅ぼすと決意したがやれ結婚式やら地獄チュパカブラ捜索ツアーやらでスケジュールがいっぱい。そこで自分の赤子を送り人間に育てさせながら滅ぼそうとのこと。
その世話役に任命されたのがヒルダであり、その赤ん坊が魔王の親として男鹿を選んだこと。
男鹿が親となることに不服を示すヒルダも不本意ながらではあるが主人である赤子が決めたのであれば連れて帰れないとのこと。
長い長い説明を聞いた古市は───
「ガンバ。」
男鹿の肩に手を置いて激励する。早く帰れと意味を込めて。
「ちょっ...!お前見捨てる気か!この状況で!!」
「てゆーか早く帰って?ワタシ関係ないし」
「おぉいっ!」
嫌だ嫌だと喚く男鹿を横目に古市は知らぬ存ぜぬと口にお気に入りの味の棒付きキャンディを放り込む。
彼らのその様子を見てヒルダ目を細めて口を開く。
「つまり断ると...?」
「たりめーだ!!とっとと連れて帰れ!!!」
「そうですか....よかった...」
心底安堵したように綺麗な笑顔を浮かべるヒルダが言葉を溢すとおもむろに私物であろう傘を掴んだ。
しかし彼女が傘の持ち手を引くと、スラリと両刃の細剣が光を放つ。
「では死んでください。」
古市は男鹿の首根っこを掴んで間違いなく人生で最高速で窓から外へ脱出。それと同時に後ろから爆発音が鳴り響き彼女の部屋は無残な姿となった。
「み゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!?!?!オイ男鹿ァ!アンタ絶対弁償させるからな!今回は本気だぞ!」
「オレのせいじゃねーだろぉっ!落ち着けぇ古市!」
そう叫んで返す男鹿だが、彼の腕の中で
「何を持ってきてんだアンタはぁ!!」
「しまった!!つい!」
「ついじゃねぇ!」
走りながら男鹿が
「いや..てゆーか離れねぇ!?」
赤ん坊力強く男鹿のシャツを掴み離れようとしない。慌てる2人を見下ろすようにヒルダが優雅に電柱の上へと降り立つ。
「諦めろ...悪魔から逃げられると思っているのか?」
電柱の上から降参を促すヒルダだが
「うるせー!そこで一生カッコつけてろ!」
「パンツまるみえだよー!!」
反抗的な態度を見せる2人に青筋を浮かべる。
「──よかろう.....アクババッ!!」
ヒルダが空へ声をかけると太陽が一瞬陰る。間を置かずにその正体が走り出す男鹿と古市の前に降りてくる。
鳥のように羽毛と羽を持つが、青と深緑の色合いをもち嘴のような細長い口からはいくつか鋭い牙が顔を覗かせており、人が1人乗れそうなほどの体格を持つ。間違いなくこの世のどの鳥類に当てはまらない化け物。
「グゲゲゲェ」
「グゲグゲ言ってる。キモォ...」
威嚇をするように唸り声を上げる目の前の化け物に古市は嫌悪感を示し足を止める。
だが男鹿は足を止めずに軽く飛び上がり、
化け物の顔面に容赦なく前蹴りを叩き込む。
「────なんだと...」
電柱の上で驚くヒルダと苦悶の声をもらして前へ吹き飛ぶ化け物など気にせず走り抜けた男鹿は、顔を古市へと向ける。
「何してんだ行くぞ」
その言葉に応じるように古市は足を進めるが、蹴り飛ばされた化け物が起き上がろうとしているのが目に入る。
「グッグゲゲェ...!」
顔を上げて男鹿へと口を大きく開く化け物に古市は
横から蹴りを入れて、真横の家の塀へと化け物の顔をめり込ませる。
めり込んだ化け物を横目に駆け足で男鹿の横へと並んだ古市はいつもの調子で話し出す。
「アンタのそーいうトコ尊敬するよホント」
「るせっ!先手必勝だ!」
2人は住宅街を駆け抜けて、河原まで来た。2人とも膝に手を置いて乱れた呼吸を整えようとするが、
「それで逃げたつもりか?」
余裕の態度を見せるヒルダが剣を手にしてそこにいた。
「ちょっと....追いつくの早くない?汗も全然かいてないし..」
「私は悪魔だぞ?人間との追いかけっこなど造作もない。さぁ、覚悟しろ」
ヒルダが男鹿へと剣を突きつける。たじろぐ男鹿は頬が切れたのか少量の血を流してヒルダを睨みつける。
だが、古市が横から剣を鷲掴んで男鹿から離す。
「オイ古市っ!」
「止めないでよ。どのみち逃げ場なんてないんだ、やるしかないでしょ悪魔相手でも。それにもうウンザリ」
剣を鷲掴む彼女の掌が血が流れるが古市は気にも留めない。古市は氷のように冷えた目つきヒルダを睨みつける。
そして辺りにゆらりと冷たい風が漂い始める。
(な..なんだこの女..本当に人間か..?)
悪魔である彼女が剣を握られかつ動かせない。それは驚愕に値するものであり古市への警戒心高めた。
しかし2人の高まる緊張感を打ち壊すのは赤ん坊のぐずる声だった。
「フ...ヴ...エグッ...」
「あん?」
「..どうしたの?」
「坊ちゃま..?」
よく見ると赤ん坊の頬に一滴血が垂れているのが見える。状況的にもその血は男鹿の血だった。
「ビエエエエエエエエェッ!!!!」
先ほどの電撃とは比べ物にならないほど強い放電がところ構わず走り地面を、鉄塔を、空飛ぶ鳥を破壊する。まさしくその電撃は悪魔の如く恐ろしい威力。
間一髪大きく飛んで直撃を避けた古市は赤ん坊と男鹿から距離をとりつつ状況把握を行う。
(ヤバッ!さすがの男鹿も気絶してる...ていうか最悪死んでるよアレ!!)
「坊ちゃま!!ダダをこねないでくださいまし!!」
「駄々って..これが駄々ぁ!?」
常識外れなダダのレベルに驚愕する古市。しかし赤ん坊の放電は止まず辺りに閃光を放ち続けて、それに釣られて数人の野次馬が集まって来た。
古市は赤ん坊の関係者であろうヒルダへと声をかける。
「ちょっとアンタ!なんとかできないの!?これ!?このままじゃっ....」
「...ムリだ。ああなってしまってはもう大魔王様しか止められない...」
「....マジかよっ」
しかし頼みの綱であるヒルダは諦めている。
古市があーでもないこーでもないと男鹿を助ける方法を頭捻るがそれらしい策は思い浮かばない。
彼女は生まれつき持つ自身の
しかし古市が焦り浮かべながら思考を巡らせているとふと先ほどまでの放電がピタリと止まった。
そこには依然涙を溜める赤ん坊の頭に手を置く男鹿の姿。
「男がぎゃーぎゃー泣くんじゃねぇ.....ナメられちまうぞ」
その姿まさしくダダをこねる息子に優しく諭す父親のようだった。そのまま男鹿はもう泣くなと伝え背中を向けて歩き出す。
それはヒルダにとって信じがたい出来事だった。
(バカな...あれ程の大泣きをあれだけで....いやそれよりも坊ちゃまがあれ程の力を生み出せるなんて...)
彼女がここまで驚くは魔王の親がわりの
それをただの癇癪としてこれほどの力を引き出すのはひとえに
(───この男の
「アー...」
赤ん坊は背中を向けて離れていく男鹿をハイハイで追いかけていく。
「おいおい..もうついてくるんじゃ..」
近づいてくる赤ん坊に振り向く男鹿は言葉の途中で何か異変に気づく。パラパラと何かが降って来たのだ。
それは雨ではない。それだけではなくなにかが軋む音が辺りに響き渡る。
「──危ない男鹿ッ!!離れろ!!!」
古市の声と共に男鹿はようやく気づいた。近くの鉄塔が赤ん坊へと傾いていくのを。
「坊ちゃまっっ!!」
赤ん坊は男鹿に目線が釘付けで気づいてない。そんな赤ん坊を庇うよう男鹿は赤ん坊を抱き抱えた。
(───て何してんだオレ!?)
突然のことで誰もが上手く身体が動かない。無情にも鉄塔は男鹿と赤ん坊の上へと倒れていった。
しかし彼等を中心に強烈な閃光と暴風が辺りに吹き乱れる。そして大きな鉄塔は跡形もなく消え去っていた。
その後気絶した男鹿を奴の家に送り届けたワタシは家が帰ると
「で?説明してくれるのよねあなたの部屋の惨状の理由」
般若の如く怒りを燃やす母親が玄関先で待ち構えていました。父親と妹はリビングに繋がる扉から顔半分だしてこちらの様子を伺っていた。おのれ
とにかくワタシは言葉を慎重に選んで今日の出来事を話し始める。
「理由?それは...悪魔が暴れたから..かな?」
「ふざけているの?」
至って真面目なんですけど。悲しみ...
「...貴女を心配してるのよ。貴女にはその
「大丈夫だよ。それはホント関係ないから。」
たしかにワタシの身体の体質は他人に信じてもらえないようなものだ。だが、母親が心配するような暴走してしまうようなことはないし、それとは本当に全く関係ないことだ。心配する必要もさせる必要もない。
「そう..ならいいんだけど...。無理しないでよ...」
「大丈夫。心配してくれてありがと」
「ではなぜあの有様なのかしら?」
「......悪魔のせいかな?こう..ズドォーンって」
夜遅くまで言い訳をしながら説教受けて今日は間違いなく厄日だったと嘆く思いを抱いたのだった。とりあえず今度男鹿には文句言ってメシ奢らせよう。
次の話で古市ちゃんの異能と男鹿との出会いを軽く書こうと思います。基本原作沿いです。よろしくお願いします。