TS異能力古市   作:ブッタ

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たくさんの誤字報告ありがとうございます。戦闘描写って難しいですね。


第10話 ワタシのケンカです。

 

 街はすっかり夜の帷に閉ざされシンと寝静まっているがここ石矢魔高校の校庭は例外。

 3桁は超えている石矢魔の生徒のほぼ全員が集まっていた。その様子は今にも暴れ出しそうなほどの怒気を溢れ出して、鋭い眼光を1人に注いでいた。

 

「で?ツムギちゃんどーいうことかな?これは」

 

 その中で比較的穏やかな様子の男、グッナイ下川が聞いてくる。比較的穏やかだがそれでも納得はいってないのか決して優しい雰囲気ではない。

 問われた本人、古市紬貴ことワタシはにこやかに話す。

 

「だから、ワタシが男鹿を裏切る話はウソ。キミたち全員集めるためのね」

「....なんのために?」

 

 当然の疑問だ。普通に考えて集める理由なんてどこにもない。むしろ邪魔にならないようあらかじめ数を減らしておくのが得策だ。

 それでもワタシは今ここで全員集めておきたかった。

 

「考える必要なんざねぇよ!!!ヨーはこの女自殺志望者なんだろうが!」

 

 ワタシの答えにもはや頭が沸騰しているチンピラ達はもはや爆発寸前といった様子だ。

 

「つまりヨォ嬢ちゃん。オレたちを集めたってこたぁ殺してほしいってことだよなぁ?」

 

 近づいて問いかけてくるチンピラにワタシは耳をほじりながら呟く。

 

「察しが悪いなぁ...」

 

 グラウンドの方から口笛のような音が響いて、

 

「アンタら全員。ぶちのめすってことだよぉ!!」

 

 大きな爆発音が絢爛な光と共に響き渡る。打ち上げ花火がグラウンドから上がったのだ。

 突然の爆発音に一瞬動揺する一団。ワタシは気にせず近くのグッナイくんの変な前髪を引っ張って膝を顔面に入れる。

 

「ガッッ!??」

「なっ!?」

 

 そのまま顔面潰したグッナイを蹴っ飛ばす。飛んできたグッナイに驚くチンピラ目掛けて飛び蹴り。

 そのまま次の奴も顔面を殴り飛ばして離れるよう走る。目指すは一撃必殺そして一撃離脱だ。

 

「こっ..このやろう!!」

「殺せぇっ!!」

 

 むさ苦しい連中が寄ってくるが囲まれないよう立ち回る。

 逃げた先にいたハゲの鳩尾に蹴りを入れて、くの字に曲がったそいつを後方へ蹴って転ばす。振り向けば追いかけきた何人かが引っかかって転んでいる。ウケる。

 

「小賢しいな!!」

 

 後ろから殴りかかってくるヤツを身を捩って躱しながら顔面に肘をいれる。勢い余ってソイツは身体が縦に回って頭から落ちる。

 

「とまるなぁ!!」

「囲め囲め!!」

 

 走ってくる1人の鳩尾に前蹴りを入れて、膝をつくそいつを踏み台に飛んだ。アホヅラ晒してる1人にジャンピングパンチを入れる。

 

「ボベェっ!?」

 

 ちと弱かった。反省しつつまた走って囲まれないよう立ち回る。

 さ、まだまだ終わりは遠い。気張っていくか。

 


 

 校庭で古市が大立ち回りを始めた時、グラウンドでは東条と男鹿が向かい合い、その様子を横から4人の悪魔が見ていた。

 

「...ふむ。ツムギはこっちではないのか。意外だな」

「なにやら向こうのほうで戦っているご様子ですな」

 

 木の上に腰掛けるヒルダとその下で何故か日本式の甲冑を着ているアランドロンが古市について話している。

 

「ツムギって...人間界でのベルゼ様の家来のことですか?ヒルダ姉様」

 

 ヒルダと同じく木の上で腰掛けているピンクのボブカットの可愛らしい容姿の悪魔、ラミアはひょこっと顔を出して問いかける。

 隣にはラクガキようなスライムの容姿で紳士の帽子被る魔界の医者フォロカスも顔を出している。

 

「ハッハッハ。古市殿はヒルダ殿の友人なんですぞラミア殿」

「えぇ!?」

「勝手なことを言うなアランドロン」

 

 アランドロンの言葉に驚くラミアと眉を顰めるヒルダ。ラミアはずいっと顔を近づける。

 

「ほっホントなんですか!?ヒルダ姉様!」

「...友人ではない」

「おや?」

 

 ヒルダの発言にアランドロンは眉を上げて軽く驚く。

 

「ただ坊ちゃまがよく懐いておられる。あの妙な力が気掛かりだが味方にしておけばむしろ坊ちゃまのためとなるから仲の良いふりをしているだけだ。以前にアヤツの前で友人と称したがそれもただの演技であって、全て坊ちゃまのためを思っての行動だ。決して親しくはない」

「さすがヒルダ姉様!」

「.....素直ではありませんね」

 

 ヒルダの言葉にラミアは心から感心し、アランドロンは溜息をつく。その様子にヒルダは目を細める。

 

「...何か言ったか?アランドロン」

「いえ何も」

 

 会話はそれっきりに4人とも目線を男鹿と東条へ戻す。

 未だ2人は向かい合いベル坊は目の焦点があってない状態で東条に引っ付いている。

 

「...なぁ男鹿。オマエの連れ、何企んでんだ?」

「..あぁ?どーいう意味だ?」

 

 問いかける東条の質問に心当たりのない男鹿は逆に聞き返してしまう。

 

「オマエも見たろう?あの人だかり。ありゃ俺じゃなくてオマエの連れの仕業だぜ?何か知ってんじゃねーのか?」

「アイツの考えることなんざいちいち知るか」

「そうかい」

 

 ぶっきらぼうに吐き捨てる男鹿の様子に東条は肩をすくめて潔くやめ、次の話題へうつる。

 

「そーいや聞いたぜ?オマエこの赤ん坊の親なんだってな。なぜ言わなかった?」

「.....」

「..ま、いいさ。取り敢えず返すぜ。オレは本気のお前と戦いてぇからな。.....それとも取り返す為のほうが、アガるか?」

「......」

 

 東条は男鹿に話しかけながらベル坊を優しい手つきで背中から地面へおろす。

 東条の言葉に男鹿は何も返さないが何を思ったか口端をあげ、次に言葉を紡いだ。

 

「どっちもごめんだね」

 

 その言葉に東条だけではなく遠くで見ていたヒルダとラミアも目を見開いた。

 

「オレは俺の為に戦う。第一ソイツはお前と同じで拾ったから預かっただけだ」

 

 男鹿は数歩東条に近づき、焦点が合わないベル坊は男鹿を見上げる。

 

「オレの所に戻ってくるか、テメーに引っ付いてるか、それはこいつ自身が決めることだ

 

 その言葉にベル坊の目に光がもどり焦点も戻る。

 

「アー」

 

 久しく聞いていないベル坊の声に男鹿は視線を向けると目が合った。すぐさまベル坊は男鹿の顔面まで素早くよじ登る。

 

「ブッ!?」

ダーーーーーーーーーーッ!!!

 

 すごい速さで男鹿の頭まで上り詰めたベル坊はそのまま雄々しくそして高らかに雄叫びをあげる。ちそちそを男鹿の頭に乗せながら。

 その様子に安堵をするラミアとフォルカス。

 

「あはっ。もどりましたね」

「どうやら正常に魔力が戻ったようだなこれで一安心というところか」

 

(しかし、たった一声でベルゼ様を目覚めさせるとは...本当に懐いておられるのだな..。ち⚪︎このっとるけど)

 

 男鹿とベル坊の関係性に内心舌を巻くフォルカス。その視線の先には男鹿の顔を元気にいじくり回すベル坊と首を振ってキレている男鹿。

 その光景を真ん前でみている東条の表情は

 

「そうか...ベル坊っていうのか。....よかったな。このやろう」

 

 意外にもどこか安心したかのような穏やかな表情をしていた。その様子から人としての器のデカさが伺える。これが彼の慕われる理由かもしれない。

 

 しかしその優しげな雰囲気が一変する。

 近くの雑木林から多くの烏が逃げるように飛び立つほどの威圧と闘志がこの場いる全ての者の肌を刺す。

 

じゃあ....とっととケンカ始めようぜ

 

 全国でもトップクラスの不良高校石矢魔高校。そこで最強の座に君臨する猛獣が男鹿に牙を剥く。

 


 

「何やってやがる!早く囲みやがれ!」

「オラァッ」

 

 横からタックルを受けるが倒れないよう踏ん張り、膝を腹にぶち込んで、手が緩んだらそのままぶん投げて離れる。

 

「ぶち殺してやるぜぇ!!」

「あの時の恨みぃ!!」

 

 いつぞやのチェンソーとナイフを持った双子が前後に飛びかかってくる。

 とにかく先にチェンソー持ってる方を躱しながら金的を蹴り上げ、悶絶したソイツをナイフの方へ押し出す。

 

「ぎゃあぁ!」

「兄弟ー!?」

 

 ナイフが刺さったのか動揺する方の顎を狙って殴り飛ばす。

 

「勝負だぁっ!!」

 

 次に正面からハゲの阿部が蹴りを振ってくるが焦らず潜るように身を屈めてかわす。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

そのまま間合いをとるよう離れ、近くにいた知らない金髪をブン殴る。

 

「逃げるなあ!!勝負しろぉ!」

 

 ワタシは逃げながら、寄ってくるモヒカンの足を引っ掛けて倒れさせる。もう1人ロン毛がいたから髪の毛掴んで阿部の方へぶん投げる。

 

「邪魔だぁ!!」

 

 ふたりとも突進してくる阿部によって気絶させられる。便利だなアイツ。そのまま逃げてもう何人か巻き込ませる。

 

「いい加減にしろぉ!!」

 

 壁際まで逃げると阿部がイラついてさらに加速してきた。ワタシはこれ幸いと方向転換して阿部に向かって走る。

 

「あ!?」

 

 阿部の股下をスライディングで通り抜け、すぐさま阿部のケツを蹴っ飛ばして頭を壁にめり込ませる。

 

「フゥー.....あと半分か?」

 

 周りの奴らも迂闊に近づいたら負けると気づいたのか遠巻きに様子を見てくるから一息つく。

 どう潰していくかを考えていると....突然校門から斬撃が飛んできて何人かが巻き込まれた。

 

「あなたたち。女の子1人に対して大勢で仕掛けるなんて恥を知りなさい」

 

 校門の方には袴姿の葵が薙刀を手に立っていた。後ろには烈怒帝瑠の面々が立っている。

 

女王(クイーン)...!?」

「く..邦枝が烈怒帝瑠を引き連れてきやがった...!?」

 

 さすが名高い烈怒帝瑠。姿を見せるだけで一団に動揺を生み出した。随分と頼もしい。

 

「大丈夫...そうね紬貴」

「.....」

 

 ワタシの姿を見て安堵の息を溢す葵。本当に頼もしい。

 ワタシは右腕に風を纏わせて、

 

 

 葵たちの足元の地面に線を引くように腕を振るって斬撃の風を飛ばす。本当に頼もしくてありがたいが今は手を出さないでほしい。

 

「ッッ!?つっ紬貴!?なにいまの!?」

「葵、すごく嬉しい。来てくれてありがとう。けどこれはワタシのケンカだから、ワタシを信じてそこで見ていてほしい」

 

 ワタシは葵に感謝とともに要望を伝える。隙と考えた1人が殴りかかってくるから躱してカウンターを決める。

 しかし納得できないのか葵は声をあげて抗議。

 

「無茶よ!1人でなんて...」

「お願い....」

「.....危ないと思ったら手を出すから」

「サンキュ」

 

 ワタシのお願いに葵は渋々だけど引き下がってくれる。せっかく来てくれたのに申し訳ないけどこれは引けない。ワタシの意地なのだ。

 

「キキッなんだぁ?結局やんないのかよ邦枝ぁ?」

 

 声の方を向くと見覚えのある5人組が校舎の玄関の屋根の上で変なポーズとっていて、周りのチンピラたちがどよめく。

 

「えっMK5!?」

「退院してたのか!?

「空気よめよ...っ!」

 

 とりあえずワタシは足元の砂を蹴り上げ周りのやつの目を潰して囲いを抜ける。

 抜けた先にいたイカついツーブロを殴って踏み台にして飛び上がる。

 

「「「「「え?」」」」」

 

 そのまま気が抜けている変な5人組をぶちのめす。

 

「「「「「ぎゃぁぁぁああ!!!」」」」」

 

「えっMK5が瞬殺ッ!?」

「いやもう毎回瞬殺されてね?」

 

 よし。再開するか。上着を脱いで飛び降りる。あと半分だし意外と余裕だな。

 

 

 

 

「....」

「いいんですか姐さん」

 

 見守っている邦枝に話かける大森。邦枝は目を古市から離さずにこたえる。

 

「本当は手助けしたいわよ。けどあの子が信じろって言ったんだから信じて待ってる。友達だから」

「....そうですか」

 

 邦枝の答えに大森は食い下がることもなく静かに下がる。今度は邦枝の方から話しかける。

 

「私のほうこそごめんなさい。せっかくみんな来てくれたのに...」

「いえ1人で来ようしてる姐さんをほっとけないですよ。そもそもまだ認めてないんで。姐さんが抜けること」

「..寧々」

 

 大森はそのまま目線を校庭で暴れている友人に向ける。いつでも手を出せるように準備をしながら。

 


 

 男鹿と東条がタイマンをはじめると東条の友人である相沢と陣野はグラウンドから校庭に戻る道を歩いていた。

 

「...やれやれ東条さんにも困ったもんだ。最後まで立ってたやつが大将とか言っときながら、邪魔者が入らないよう見てこいとはね」

「ウチの学校は血の気が多いからな。仕方がないだろう」

 

 2人は東条の頼みで誰もグラウンドへ邪魔しに来ないよう校庭の人間たちを監視しに行くところだ。

 

「そーいや、結局銀髪のオガヨメは何考えてたんだ?まさか自分であの人数集めるなんてな」

「...さてなオレは実際に会ったことがないから何も知らん」

「そりゃそーだ」

 

 だべりながら2人は校庭に着いた。そこで見た光景は2人の目を見開かせた。

 

「....おいおいまじか」

「....これは」

 

 先程まで元気が有り余っていた三桁を超える全校生徒がボロボロで地に伏せており、中心にはさっき話題にしていた息を切らしている銀髪の古市が膝に手を乗せて立っていた。

 

「ハァ....ハァ...ハァ...フゥゥ。んぁ?ようやく来たね。グラサン」

「グラサンて。てかこれ1人でやったの?すごいね」

 

 古市は2人に気づいて呑気な声で声をかけ、相沢は問いかける。その顔はサングラスで目元は見えないが驚愕しているのがわかる。

 

「そーだよ。疲れたけど意外に難しくなかった」

「さすが男鹿の忠犬て呼ばれてることはあるね」

「...どうしてこの人数を集めた?」

「あー...誰?まぁいいや」

 

 息を整えて答える古市に相沢は素直に賞賛の声をあげる。次は陣野が話しかける。初対面の人間に話しかけられ古市は戸惑いを見せるが気にせず話し出す。

 

「集めた理由はね。ワタシが男鹿に負けたくないからだよ」

「「...は?」」

 

 相沢と陣野は予想だにしていなかったあまりにも幼稚で行動に見合っていない理由を告げられ、つい気の抜けた声が漏れる。

 

「いやね?アイツ最近大躍進じゃん?東邦神姫も残すはあと1人。もはや石矢魔統一も目前、てとこまできてんじゃん?」

「....東条さんが負けるとでも?」

 

 古市の態度はまるで男鹿の勝ちを前提としたような話し方に目を細める陣野。

 

友達(ダチ)信じないヤツがどこにいるよ」

「......」

 

 古市は問いかけに不敵な笑みを浮かべて言い放ち、陣野はなぜか怪訝な目つきをしているが気にせず話を続ける。

 

「まぁ、だから最近はアイツばっかりすごくなってさ。ワタシも負けたくないからとりあえず全校生徒シメようってね」

「フーンそうなんだねぇ」

「それだけじゃないだろう」

 

 古市の話に納得の様子を見せる相沢だが陣野はさらに切り込んでいく。相沢は特に違和感を感じてなかったのか困惑の表情だ。

 

「え?そうなの?」

「いや?これだけだけど?」

 

 古市も困惑していたが陣野はさらに続ける。

 

「それは全校生徒を倒す理由であって、今夜集める理由ではない」

「あっ。あー」

「それは確かにお前の本音だろうが、なら今夜である必要はないはずだ」

「たったしかに...」

 

 陣野の指摘に後頭部を掻いて目を逸らす古市と納得の様子を見せる相沢。

 

「うーん。この先はな...話しても仕方ないしなぁ..」

「仕方ないって?」

 

 古市は何かを思案しながらことばを溢し、相沢は聞き返す。しかし古市は意を決したような表情をして顔を上げる。

 

「よし。聞きたいなら力づくで聞き出してよ」

「「は?」」

 

 唐突に意味不明なことを喋りだす古市に、また気の抜けた声が2人から漏れる。

 

「だからアンタら1人でもワタシに勝ったら教えてあげるよ」

「なにいってんの?ヨメちゃん」

 

 さらに続ける古市に困惑しながら口を挟む相沢がさらに続ける。

 

「俺たちにヨメちゃんとやる理由なんてないぜ?集めた理由なんてそんな興味ないし」

「アンタらになくてもワタシにはあるよ。特にグラサン」

「俺?」

 

 古市に狙われる心当たりのない相沢はさらに困惑する。

 

「...アンタ、男鹿にちょっかいだしたろ?」

「え?あぁ、うん」

「そのケジメ、つけてもらおうか?」

「キミ関係ねーじゃん!滅茶苦茶だなっ!」

 

 あまりにも傍若無人な理由づけに相沢は呆れてツッコミを入れるが古市は知らないといった様子で笑みを浮かべて構えをとる。

 

「ホントはアンタだけだと思ってたけど、2人いんなら2対一だね。楽しくなりそ」

「...いやいや、しゃーないからやってあげるけど、相手は俺だけだよ」

「連戦で疲れている女をリンチする趣味はオレにはない」

 

 古市の発言にやんわりと否定する相沢が一歩前に出て、やる気を見せない陣野は近くの段差に腰掛ける。

 

「あぁ、そ。まぁそういうことならやる気出さしてあげるよ。サクッとアンタを倒してね」

「無理でしょ。キミじゃ」

 

 古市は一瞬で間合いを詰めて左の軽いジャブを顔面目掛けて放つが、相沢が右に身体を捻って避けられる。

 しかし避けるのを予想していたかのように素早く右のハイキックを跳ね上げ顎を狙うがそれも後ろへ跳ばれ間合いをとられる。

 

「ヒュー。早いね、当たるかとヒヤヒヤしたよ」

「ほざけ。すぐにそのグラサン、ズタボロにしてやるよッ」

 

 すぐさま古市がもう一度詰めて右のストレートを放つが今度は上手く手で逸らされカウンターで殴られる。

 

「がッ!!」

 

 たまらず下がる古市だがそれを見逃さず相沢は顔面目掛けて重さのある左の拳をまっすぐ放つ。しかし相沢は驚愕した。

 古市が首を左にずらして紙一重で拳を避けたことにではなく、

 

 彼女が牙を剥くような凶暴な笑顔を浮かべていたことに。

 

 悪寒がした相沢が下がろうとするがその前に古市は顔の横に振り抜かれていた相沢の腕の肘を上から押さえる。

 自身の右の肩を支点に肘を極め、折ろうとする。

 

「ッぶねっ!?」

 

 相沢は掌を上に向けるよう腕を捻って外すが、古市はすぐさま右手で手首を掴み力こぶを作らせるように肘を曲げさせる。

 左手は相沢の肘を固定させるため挟むように添え、腕を極める。

 突然の流れるような関節技に驚く相沢。

 

「うぉぉッッ!?」

 

 古市がそのままさらにキツく締めるように近づき、相沢の重心が後ろに行くと大外刈りのように足を引っ掛け、相沢が仰向けになるように共に倒れていく。

 その際に固定するように挟んでいる古市の左肘を相沢の顔面へ持っていき体重を乗せる。

 

「ヤバっ!!?死っ」

「フッ!!!」

 

 相沢の頭が地面と肘で潰される前に陣野が古市を蹴っ飛ばして相沢を救う。

 

「無事か?庄司」

「あ...あぁ。ヤバかった...今のは」

 

 左腕を痛めたのか抑えながら立ち上がる相沢に確認をする陣野は目線を古市から外していない。

 蹴っ飛ばされた古市はゆっくりと立ち上がる。しかしその顔はしてやったりと言わんばかりに凶暴に笑っている。

 

「...あー?リンチする趣味はなかったんじゃないの?」

「お前...殺す気だったな?」

「まさか!んなわけないでしょ?アンタらをやる気にするためさ」

 

 陣野は問い詰めるが古市はあっけらかんに答える。

 

「ただまぁ、信じられないならいいぜ?ワタシは元より2対1でヤりたいんだ」

「......やるぞ庄司」

 

 意外にも古市の挑発に乗り構えをとる陣野に相沢は驚いた。普段は寡黙かつ冷静沈着である上、卑怯な手段を取らないような男だ。

 それが相手から誘われたとはいえ、2対1、しかも女相手なんて絶対やらないと思っていたから。

 

「まじか?かおる」

「この手の人間は何をするかわからない。ならさっさと潰してしまおう」

「...りょーかい」

 

 2人が話している間古市は遠くで様子を見ていた邦枝の方へもう一度見ているように風に声を乗せてお願いをしていた。

 

『今からのケンカも手出さないでね葵』

「....どうやって喋ってるの?この距離で」

 

 困惑する邦枝をよそに古市は近づいてくる2人にもう一度視線を戻し、声をかける。

 

「話は終わった?お二人さん?」

「あぁ。望み通り2人で相手しよう」

「後悔すんなよ?狂犬ちゃん」

 

 3人とも闘志を燃え上がらせ、ギラギラと睨み合う。

 夜はまだ更けていく。

 

 




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