TS異能力古市   作:ブッタ

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第11話 意地は通してなんぼです。

 

 

「いいかベル坊。コイツは一対一の戦いだ。誰も邪魔しちゃならねぇ」

「ダ!」

 

 男鹿は頭から下ろし、地面に座らせたベル坊を言い聞かせるように話し、ベル坊も元気よく返事をする。

 

「ようし、そこでしっかり見てな」

 

 立ち上がり振り返る男鹿の目線の先には、待ちきれない様子で待っている東条がいる。

 

「準備はいいか?男鹿辰巳」

「あぁ。またせたな」

 

 河原での時と同じように2人はもう一度対峙する。昼間の時とは違いそこには一切の雑念はなく、ただ目の前の男を倒すという純粋な2人の燃え上がる闘志のみ。

 

「行くぞォッ!!!」

 

 東条の声を合図に両者走り出し、間合いを詰める。

 

「また馬鹿正直に力比べかぁ!?」

 

 小細工無しに力強く拳を振るう東条だが、男鹿はそれは身体を捻りながら躱すと同時に顎に遠心力を載せた裏拳を当てる。

 

「ッッ!??」

 

 予想外な男鹿の攻撃を喰らい、怯む東条を逃すまいと追いつめる男鹿。鼻を殴り、次は鳩尾を殴り、殴り、殴り、殴り、急所を狙いつつ殴れるところを休まず殴り続ける。

 

「グゥ...!?」

 

 東条は堪らず下がるが、男鹿はチャンスと言わんばかりに顔を狙って飛び前蹴りを放つ。しかし相手は石矢魔最強。

 

「なっ!?」

 

 全力の男鹿の飛び前蹴りをびくともせずに額で受け止める。凶暴にそして心底嬉しそう笑みを浮かべて。

 

「まじかよ...」

「いいな。お前最高だぜ」

 

 全力の男鹿の拳を何度も受けておきながら東条は余裕の表情を見せ拳を構える。

 悪寒を覚えた男鹿が咄嗟に防御の姿勢をとるが関係ないと言わんばかりにその上から殴り飛ばされる。

 

「ハッハハハハハハハッッ!!!!」

 

 心底楽しそうな笑い声をあげて男鹿に駆け寄り追撃を行う東条。男鹿がもう防御すれば上から力一杯ブン殴る。怯んで隙をみつければそこを全力でブン殴る。とにかく全力でブン殴る。

 男鹿もただサンドバッグになっているわけではない。顔をブン殴られれば負けじと顔面を殴り返す。怯まず、諦めず、抵抗をみせる。

 

「オラァッッ!!」

 

 隙を見つけ東条の腹を蹴り上げる。東条がまた一歩下がる。攻めどきと見た男鹿だが、すぐさま東条は男鹿の顔面を蹴っ飛ばす。

 

「最高だぜッッ!!男鹿ァッッ!!」

 

 モロに蹴りを喰らいよろける男鹿を右へ左へ、プロボクサーのように速く強く、それでいて、より獰猛に殴り続ける。

 

「あーッハッハハハハハッッ!!!!!」

 

 止まらず殴り続ける東条に抵抗できない男鹿。東条の獰猛な猛獣のような強さは遠くで様子を見ていた三人の悪魔も関心する。

 

「...ふむ。まさかあれほどまでに強い人間がいるとは...」

「男鹿殿がアレほどまで攻められるとは...」

「....」

 

 ファルカスとアランドロンが驚き呟く。対してヒルダは静かに眺めている。しかしどこかその様子は落ち着きがない。

 

「....」

「....古市殿が気になりますかな?」

「...そんなことはない」

「その割には時々視線が向こうへ向いておりますよ」

「...うるさい」

「素直じゃありませんな。いかがなされたのです?」

「もとよりこういう性格だ。悪かったな」

 

 アランドロンの問いかけにいつものように仏頂面で言い放つ。しかしどこか拗ねているような様子を受けたアランドロンはさらに問う。

 

「古市殿と何かあったのですか?」

「...何もない」

「でしたら何故?」

「....何もないからこそだ...」

「ふむ?」

 

 アランドロンは優しく、ヒルダに問いかける。

 先程ラミアに古市のことを利用するために親しいフリをしていると説明をしていたが普段から一緒に出かけたり、買い物したりヒルダにしてはフリとは言えないほど仲良くしている。

 ラミアに対して見栄を張ったとアランドロンは考えたが、娘を持つ父親としての勘がそれを否定する。

 

「......来て...くれなかった...」

「...?」

「坊ちゃまが熱にうなされているとき、あやつは...見に来てくれなかった」

「....まさか..それで..?」

「当然だ!ワタシはアヤツに坊ちゃまの容態をメールで知らせていた!なのに...」

「ケータイ持っていたのですか?」

「アヤツが前に使っていたお下がりだ!!」

 

 やはり親しい仲ではないか、胸中でつぶやくアランドロン。まさかそんなことで拗ねているとは考えておらず少し呆れてしまう。

 

「...古市殿はむしろ坊ちゃまの体調を案じておりました。だからこそ外から余計なもの持ち込まないようにと会いにいくのを自重しておりました」

「わかっている!...こんな考えなど見当違いであることなど。ただ私は、あの時坊ちゃまが苦しんでいるのに何もできなかった私も、来ない旨を伝えてきたアヤツも、少し疎ましく感じてしまった」

 

 自身の見当違いの怒りにも似た感情が嫌なのか目元を手で隠して呟くヒルダ。

 

「所詮私は侍女悪魔だ。全ては坊ちゃまのためにとしか考えられん。こんな身勝手な怒りなどアヤツに見せられるか...」

「確かにそれは貴女の変えられない性です。ですがそれが友人を持ってはいけない理由にはなりませんぞ?」

「...フン」

 

 もう問答はしないと目線を蹂躙されている男鹿へ戻すヒルダに、アランドロンは頑固だとため息を溢して同じく視線を戻す。

 隣のフォルカスは気まずい思いをしながら邪魔をしないよう気配を消していた。

 

 一方もう1人の悪魔、ラミアは

 

「ふーん?これがさっきの花火というやつか。元気になったベルゼ様にも見てもらいたかったなー」

 

 先ほど東条が打ち上げた花火の筒を眺めていた。しゃがみ込んで物珍しげに筒の中を覗けば一発の花火が一つ余っていた。

 すると突然グラウンドから急に大きい魔力を感じる。

 

「調子に、のんなッッ!!ボケッ!!」

 

 ラミアが驚き立ち上がって目を向ければ先程まで蹂躙されていた男鹿が東条に反撃をして膝をつかせていた。

 ただ驚くべき場所は男鹿の手の甲に大きく広がる蝿王紋。ようやく男鹿とベル坊のリンクが戻ったということだ。

 ラミアは驚きつつ一歩前に出る。当然足は花火の筒にあたり男鹿の方に向いて倒れる。

 

「あっやば」

 

 花火はそのまま男鹿へと一直線に向かって発射される。このままでは大惨事だ。

 しかしさも当然かのように蝿王紋のある手をかざせば花火の火は背後へ大きな紋様のように燃え広がる。

 

「...スゲェな。何者だ?お前...」

 

 流石の東条も戦慄した様子だが、当の本人は答えず..

 

「ベル坊ッッ!!!!」

「アウッ...」

「てめぇ...邪魔すんなっつったろ...」

 

 ベル坊を睨む。怒りの声にベル坊は肩を跳ね、男鹿は歩いて近寄る。

 

「聞こえなかったか?さっさとこいつを引っ込めろ」

「...ウゥ...」

「てめぇ俺が負けるとでも思ってんのか?」

 

 目の前まできた男鹿を見上げれば、いつもの悪い目つきだが不思議と目が離せないベル坊。

 

「負けねぇよ。絶対」

「.....」

 

 目を離さない2人だが話の内容はわざわざ魔界から来た医者であるファルカスとラミアにとっては聞き捨てならないものだ。

 

「ちょっとバカなこと言わないでよ!!何のために私達がここまで来たと思ってるの!!せっかく繋いだリンクをまた切るなんて許さないからね!!」

 

 ラミアの抗議がグラウンドに響くが当の二人は目をお互いから離さないでいる。

 

「コイツは俺の喧嘩だ。テメェが水さしていいもんじゃねぇ」

 

 それにな、と言葉続けながら背を向けて再度、東条へ歩き出し、

 

「こんなもんなくたって、オレぁどこへも行きやしねーよ」

 

 蝿王紋を背中越しにベル坊へ見せる男鹿が意外にも優しいトーンで言った。するとその手の甲から蠅王紋がスゥッと消えていく。

 それは悪魔にとって信じられないことでありこの場いる誰もが目を見張る。

 

「...バカな。そんなことがありうるのか...」

「...ふむ。これは予想外」

 

 驚きを隠せずに声を漏らすヒルダと驚きつつも冷静に分析し始めるフォルカス。

 ラミアも予想外の現象に声をあげる。

 

「なんで!?自ら蠅王紋を消すということはベルゼ様にとってリスクしかないのに..!?」

「つまり、今あの2人には契約を超えた信頼関係が築かれつつあるということだ。ラミア」

「しっ..信じられない...」

 

 驚く外野を他所に男鹿と東条は仕切り直すようにもう一度向き合う。男鹿は喧嘩の続きを促すが東条は何かを呟く。

 聞き返す男鹿に独り言だと東条は拳を握り構える。男鹿も答えるように構える。

 2人の決着はもうすぐだ。

 


 

「...ガハッッ!!」

 

 一方校庭では相沢と陣野に喧嘩をふっかけた古市が劣勢を強いられていた。

 

「...さっきまでの威勢はどうした?」

「...ゲホッ..ハァ...焦んなよ。こっからさ」

 

 吹っ飛ばされた古市を陣野が挑発するが、ふらつきながら立ち上がる古市は言葉を返す。

 

「強がるなよ。サシならまだしも2対1だ。勝てるわけないでしょ」

「うっせーなグラサン。ネガティブな男はモテないよ?」

 

 相沢に言い放ちながら殴りかかるが晒され、横から陣野が蹴ってくるのを身を捩ってなんとか躱す。

 しかし躱した先に相沢が顔面を狙って右のストレートを放ってくるのをなんとか腕でブロックして後ろへ間合いをとる。

 

「..グッ!?...ハァ...クソ」

「東条さんじゃなくて俺らなら勝てると思った?ごめんね、しっかり強いんだ俺たち」

「タイマンならばお前もそこそこやれただろう。だがオマエが望んだとはいえ2対1だ。勝てる見込みはないぞ」

 

 古市はなすすべなくやられているわけではない。何回も反撃を入れているがそれ以上に2人の連携を前に苦戦している。

 しかしその目に映る戦意は尽きることなくむしろギラギラと燃え上がらせている。

 

「...ハァ...いいね,,しっかり強いから...ハァ..意味があんのよ..」

「...何を企んでいるか知らんがさっさと潰させてもらおう」

 

 陣野が間合いを詰めて攻めてくるのに対して攻撃を逸らして反撃をしようとする古市だがそれを邪魔してくる相沢。

 

「させーねぇよ」

「こんの..!?」

 

 相沢をなんとか蹴っ飛ばすがすぐさま陣野が攻撃してくる。一人一人は神崎や姫川よりも腕っぷしが強く、連携も上手く取られ容易に攻められず自分のリズムを作れない。

 

(まじでやりにくい!!コイツらがここまで連携を上手くやれるなんて思いもしなかった!!)

「そこだッ」

 

 想定外の2人の連携に焦燥感を抱く古市は攻める陣野の視界を防ぐために砂を蹴り上げ間合いを開けて仕切り直そうとする。

 

「無駄だ」

 

 陣野は砂を意に介さず突っ込んで古市の腹を蹴ッ飛ばす。

 

「....ウガッッ...ハァ..ハァ..こんの..ヤロウ」

「...もういいだろう。お前ではオレ達には勝てん。諦めろ」

「そうそう。さっさと降参しようぜ?俺達もさ東条さんとこ戻りてーのよ」

 

 2人が古市に降参を促す。無論古市は諦めずに必死で頭を動かして突破口を探している。目を動かして使えるもの、隙を作り出せるもの、2人の行動の癖、その他諸々を探して考える。

 しかしどれも決め手になるものがないと胸中で嘆く。

 

 

 突如、グラウンドの方から先程の打ち上げ花火より近く、大きな爆発音が鳴り響く。

 

「「「ッッ!!?」」」

 

 3人とも驚いてグラウンドの方へ向けると、向こうのほうがまるで山火事のように明るくなっている。

 

「おいおいまさか東条さん...花火暴発させたのか!?」

「...向こうで何が起こっている..?」

 

 2人は驚愕を隠せないが古市もう一つの情報に驚く。それは急激に大きくなったベル坊の大きな魔力を感じたことだ。

 河原で出会った時は平時よりも希薄に感じていたが今の爆発とともにいつぞやの姫川の時のような大きな魔力を感じた。

 

 つまりそれはベル坊は正気に戻ったということ。その事実だけで古市はベル坊が男鹿のもとへ帰ってきたことを確信する。

 

「...フゥゥ」

 

 息を整えるように立ち上がる古市は両手を顔に叩きつける。ベル坊の魔力はすぐさま消えた。向こうがどうなってるか知らないが一つだけわかることがある。

 

(アイツは勝つ...東条相手に1人で勝ってくる...)

 

 ならばこの2人相手に苦戦している訳にいかない。そう気持ちを切り替えて両手で髪を掻き上げる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まだやる気か...男鹿に負けたくないだったか?なぜそんなつまらない意地を張る。そんなもの何にもならないだろうに」

「お生憎...昔からワタシは諦めが悪くてね..それに」

 

 古市は顔あげて不敵な笑みを浮かべて続ける。

 

「ワタシはそのつまんない意地張るために不良やってんだ」

「そうかい。じゃ終わらせるよ」

 

 相沢が攻めてくるのを下がっていなしつつ、陣野の隙を潰すような攻撃も晒して対処。

 息のあった2人の攻撃を後ろへ間合いをとりつつなんとかやり過ごす。まず必要なことは自分のリズムを取り戻すこと。幸い、いいものがその辺に()()()()()()

 

「フンッ!!」

 

 陣野の蹴りを喰らうが後ろへ飛んで衝撃を逃す。相沢が休ませまいと攻めてくるが間合いは充分に空いた。

 古市は焦らずもう一度視界を遮るために砂を蹴り上げる。

 

「だから無駄だっての!!」

 

 相沢は意に介さず突っ込んで顔面に拳を入れた。確かな手応えを感じるが...

 

「グ......ナイッ」

「ダレッ!??」

 

 相手が見知らぬ男(グッドナイト下川)に入れ替わっていることに驚愕する。古市が倒れ込んでた男を掴んで盾がわりにしていた。

 相沢の動揺を見逃さずに古市は相沢にハイキックを叩き込む。

 

「グゥッッ!?」

 

 流石に耐えきれず倒れ込む相沢だが古市は追撃せずに横槍を入れてくる陣野に下川を投げつける。

 

「グゥ...ナァイ」

「邪魔だ」

 

 飛んでくる下川を腕で払うが、そこを突くように横蹴りを放つ。陣野は腕を交差して防ぐ。

 

「ちぃ..!!」

 

 すぐさま陣野へ追撃を入れる。顔へフェイントを入れ、ガードが上がればボディを叩き込む。

 くの字に曲がると下がった顎を膝で蹴り上げる。

 

「ブッ!」

「ガラ空きだ!!」

 

 立ち上がった相沢が後ろから攻めてくるがもうすでに古市はリズムを取り戻している。

 相沢の拳を躱して背中を押せば、拳が陣野を巻き込んでいく。

 

「あっ悪い!」

 

 謝る相沢の背中を蹴っ飛ばしてもう一度間合いを取る。

 

「どしたの?急に動き悪くなったよ2人とも?」

 

 煽る古市を睨みつける2人はすぐさま立ち上がる。古市は主導権を渡さないように待たずに攻撃を仕掛ける。

 陣野の膝を蹴ってよろけさせ、相沢が殴り掛かれば片腕を使って受けとめカウンターにアッパーで殴りあげる。

 

「ゴッ!!」

「舐めるな!!」

 

 陣野が横から古市を強めに蹴っ飛ばし、古市は体勢を整えながらすぐさま陣野へ向かい走り出す。

 タイミング合わせ、陣野の攻撃躱して飛び上がる。

 

「なっ!?」

 

 飛び上がる古市が両脚で陣野の頭を挟み、身体全体を捻りながら陣野の頭を落とすように投げ、地面へ叩きつける。

 

「....ッッ!!!」

 

 素早く脚を陣野から離して注意深く目を向けるが動く気配はない。気絶している。

 そのまま素早く相沢へと目を向ける。

 

「まず1人ィッ!!」

「こんのぉ!!」

 

 顔を狙ってくる相沢の蹴りを古市は防ごうとするが、想定外に速かったのか間に合わず蹴っ飛ばされる。

 

「まだまだぁ!!」

 

 相沢が追撃を入れてくるが、古市はすぐさま体勢を整え、相沢の猛攻をいなして反撃を入れる。

 拳を晒せば、肘を入れて。蹴りを放たれると躱して膝を入れて、掌底、フック、膝蹴り、細かく早く顎へ鳩尾へ股間へ首へと急所に次々に叩き込む。

 

「グッ....アアアァぁ!!」

「....ッ」

 

 怯みながらも、引かずに渾身の一撃といった相沢の右のストレートを首を傾けて数ミリ単位で躱しながら踏み込む。

 そして交差するように古市の右のクロスカウンターがサングラスを割って顔面にめり込む。

 

「..フンンッッ!!!」

 

 振り抜かれた相沢が勢い余り一回転して地面に沈む。

 

「..プハァッ!!..ハァ...ハァ...ゴッガホッ!..ハァ..ハァ」

「紬貴!!」

 

 膝をついて咳き込みながら息を切らす古市に邦枝と大森が駆け寄ってくる。

 

「ハァ...ハァ...葵..」

「無茶しすぎよ!」

「まぁまぁ姐さん..落ち着いて」

 

 詰める邦枝を大森が嗜める。古市は必死に息を整えながら邦枝に話しかける。

 

「...ハァ...葵..手ぇ..フゥ...出さないでくれて...ありがとう..ハァ....」

「..はぁ。まったくもう..らしくないわねこんなことするなんて」

「へへへ..ハァ...そうだね...フゥゥ。それでもやりたかったんだ」

 

 息を整えて立ち上がる古市だが、気が抜けたかよろけてしまう。邦枝がすぐに肩を貸して立たせる。

 

「..ありがとう葵」

「さっきからそればっかりね?」

「ハハハ...。頭が上がらないよ」

「さて男鹿と東条はグラウンドの方っすかね?姐さん」

「そうね..あっちはどうなったかしら..」

 

 古市が邦枝に肩を貸してもらいながらグラウンドへ向かうと男鹿と東条の本気の殴り合いが目に映る。

 東条が殴れば負けじと男鹿が殴り返す。2人ともふらふらだ。

 

「勝つのはぁッ!俺だぁッ!!!」

 

 東条の跳び蹴りが男鹿の腹にまともに入るが、男鹿は後ろへ回り込み東条に腕を回して掴む。そして..

 

「ウオオオォォッッ!!!!」

 

 背中を反るように持ち上げ、後方へと落とすよう頭から叩きつける。流石の衝撃に東条は白目を剥いて倒れ、ついに決着がついたのだ。

 

 未だ夜明けは来ない。

 


 

 ゆっくり男鹿が立ち上がり、東条は倒れたまま。この現実に大森も邦枝も驚いて目を見開いてた

 

「お..男鹿が...東条を...」

「へへ..やっぱり勝ったね...男鹿」

 

 そう呟くと古市は邦枝から離れて、気合いを入れるように自分の顔を両手で叩く。そして先程とは違ってしっかりとした足取りで歩いていく。

 

「アダー!」

 

 男鹿の側で興奮しているベル坊に近づきしゃがみ込んでその小さな頭に手を乗せる。

 

「よかった..元気になったんだねベル坊..」

「アウ?」

「ホンット..心配したよ。いなくなったって聞いた時は気が気じゃなかったんだからね」

 

 まるで我が子を思う母のような優しい目つきで久しく触れることのできなかった頭を優しく撫でる古市にベル坊は首を傾げる。

 すると先ほどまで倒れていた東条となにか話していた男鹿が近づいてくる。ベル坊と男鹿が顔を合わせ、

 

「...勝ったぜ」

 

 男鹿は約束を守ったことをベル坊へ伝える。ベル坊はすぐさま男鹿飛び込んでいく。

 ゆっくり立ち上がる古市が男鹿へと話しかける。

 

「...ボロボロじゃん男鹿」

「テメェもじゃねぇか古市」

 

 お互いに軽口をぶつけながら向かい合う。

 

「ホントは..東条にも肩の蝿王紋のこともききたかったけど..まぁベル坊も帰ってきたことだし結果オーライだね」

「....まぁな」

「じゃあさ..男鹿。早速だけどあの日の続きしようか..」

 

 古市が真っ直ぐに男鹿の目を見て話す。

 

「ワタシともケンカしてよ。男鹿」

 

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