書くこと少ないはずだからサクッと終わらせよう。
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男鹿と古市、グラウンドでお互いボロボロの身体で向かい合う。
「ワタシとケンカしてよ男鹿」
「.....」
古市の唐突な言葉に何も言わない男鹿。意外にもその表情は驚愕というよりどこか腑に落ちたようなものだった。
「とりまベル坊降ろすよ。ついでに倒れてる東条も向こうに動かそう」
すると、男鹿の肩に乗っているベル坊と気絶している東条の周りに風が生まれ、ベル坊をそばの地面に下ろし、東条を邦枝やヒルダたちがいる所まで運んでいく。
「まぁ...これでいいか。じゃ、そこで見ててよ?ベル坊」
「アッ..アウ...?」
古市の言葉にベル坊は先ほどまでの興奮はどこへやら困惑の声を漏らしてしまう。
「...一応聞いてやる。なんで喧嘩してーんだ?」
「無粋だな...ワタシらが不良で、今この場で立ってんのがワタシとアンタだけ。これが理由で充分でしょ」
「.....」
男鹿は仏頂面で何も言わないが構わず古市は続けていく。
「今日、アンタは石矢魔の頂点を倒して、ワタシは石矢魔の他全員と東条の側近2人を倒した」
「.....」
「お互いこれで体力はイーブンだろ?ハンデはなしさ」
「...わかった。んじゃお前」
男鹿は後頭部をガシガシと掻く。しかしその目は静かに闘志を燃え上がらせている。
「泣かされても文句いうんじゃねーぞ?」
「...上ッ等!」
男鹿の煽りに口火を切って右腕を振りかぶる古市。顔面にまっすぐ向かってくる拳を身を捩って躱しながら踏み込む男鹿。
だが古市は躱されるのを見越していたかすぐさま肘を曲げ顔に叩き込む。
「グッ!!」
肘を躱しきれずに膝をつく男鹿に追撃に古市が膝で蹴り上げる。モロに効いた男鹿が後ろへ蹈鞴をふむ。
「前とは違って受け止めなかったね..風でも警戒した?」
「...このヤロー..」
「安心しなよ...
すぐさま間合いを詰めて素早く攻める古市。フェイントを交えながら攻撃を休まずに叩き込んでいく。
男鹿もただではやられまいと反撃をするが全てうまく晒され逆にカウンターにされる。
「この...調子にのんな!!」
「のってねぇよ!!」
男鹿のヤケクソまぎれの大振りの右を大きく避け、すぐさま空いた右の側頭部めがけハイキックを狙う。
「ゲッ!?」
しかし男鹿は左手で掴み取り古市は誘われたことを悟る。
「つーかまえた..」
「顔こわっ!?」
いつものように悪魔じみた笑顔を向ける男鹿に怖気ながらも掴まれた足とは逆側で腹部を蹴り脱出。
「グベッ!!」
「..ハァ..悪いけどアンタのターンはこないから!!」
すぐさまもう一度矢継ぎ早に次々と攻撃をいれていく。
「なんで紬貴は男鹿と喧嘩はじめてるのよ!?」
「姐さん落ち着いて...」
先程まで古市に肩を貸していた邦枝が驚愕の声をあげていた。当然である。
東条に勝った男鹿に迷いなく歩いて話しかけに行く古市の姿が羨ましいやら妬ましいやらと複雑な感情を抱いていたのにも関わらずいきなり喧嘩を始めたのだ。
もうわけがわからず混乱していた。
それは邦枝に限らず側で見ている悪魔たちも同じことだった。
「ふ...古市殿。何故..」
「ふむ...あれが先ほど話にあがっていた者か。なるほど確かに妙な力を感じる」
「もー!!やっと終わったかと思ったのに!!なんで戦ってるのよ!!仲間じゃないの!!?」
「....」
アランドロンとファルカスが静かに声を漏らすのに対してラミアが大きな声で嘆いている。
しかしヒルダは特に反応は示さず、目を一切古市から離さない。
すると気絶していた東条が目を覚まし声を漏らす。
「...んぐっ。ここは...」
ゆっくりとボロボロの上半身を起き上がらせる東条にヒルダは少しだけ目を向け、そばにいた邦枝は声をかける。
「東条..アナタ起きて大丈夫なの?」
「邦枝か..あちこち痛ぇがなんとかな..それよりもこいつはどーなってんだ?」
「わからないわよ、いきなり紬貴が喧嘩をふっかけて始まったの」
「あの女からか...」
東条は昼間河川敷で古市に言われた言葉を思い出す。
「なるほどね。だからオレとはやらない...か」
「?」
東条の独り言の意味がわからず首を傾げるが、東条はそんなことは気にせず喧嘩を見続ける。
「随分とまぁ一途じゃねぇか」
そんな言葉を漏らす東条を流し目で見ていたヒルダは視線を古市へ戻す。まるで何かを考え込むように。
「....ツムギ..」
古市は絶え間なく男鹿を攻め続ける。脚も拳も肘も頭も全部使って反撃をさせないように連撃を入れていく。
(このままッ!終わらせる!!)
男鹿の鳩尾に肘を叩き込めば身体はくの字に曲がり顎が下がる。
「..ングッ!!」
「フッ!!」
下がる顎を膝で蹴り上げる。
衝撃にて男鹿の頭が跳ね上がるのと同時に蹴り上げた脚を頭の上まで伸ばす。
「終いだァ!!」
勝ちを確信して跳ね上がった男鹿の顔面めがけ踵を全力で振り下ろす。鈍い音がグラウンドに響き渡ると共に鼻血を流しながら後ろへ数歩さがる男鹿はそれでも倒れない。
「ハァ... ...ハァ..知ってたけど....マジでタフだな...アンタ」
「...ぺッ」
モロにくらったろと男鹿のタフさに引く古市だが、男鹿も決して余裕ではない。しかし全力の踵落としをくらって尚膝をつくのを堪え、口に溜まった血を吐き捨てる。
「ハァ.....ハァ..けどまぁ...無駄じゃない...ハァ..先手必勝ってアンタいってたっけか?」
「...昔話がしてのーか?てめーは。んな暇があんならさっさと攻めてこい。今のテメーの攻撃なんざいくら喰らっても倒れやしねーよ」
「...ハァ.....言うね..」
「ハッ..約束したからな。負けねーって」
不敵に笑う男鹿は一瞬だけベル坊を見る。さっきの約束を思い出してるかのように。
ベル坊も不安げな表情だったが目が合うと何かが通じたのかキリッと顔を引き締める。
「...約束ね。...だったら....ワタシはワタシの意地のために...負けない」
「やってみろ」
男鹿へと間合いを詰めて顔へ飛び膝をぶち込む古市だが、男鹿はノーガードでモロに受け、倒れない。
「..なんで!?」
驚愕しながらも返す刀で流れるように回し蹴りをまた頭に入れるが、それも男鹿はノーガードで受ける。
「..ふざけんなっ!!」
バカにされているようでイラつく古市が続けざまに右のフックを入れるが..男鹿は顔面に直撃する寸前で拳を掴む。
「!?ッッ」
「昔からテメェの弱点は変わんねぇな」
「なっ..」
「テメェの弱点は..」
男鹿は古市の拳を乱暴に離し右の拳を掲げる。
「そのっ!!スタミナの無さだ!!!」
「ガッッ!!?」
豪快な音とともにコミックのように古市は殴り飛ばされる。
「いつものテメーの攻撃ならあんなに受けれねぇ。スピードだってあんなもんじゃねぇ」
「..ハァ...ハァ....クソッ」
「何がイーブンだ。互いに疲れたら不利なのはテメーだろが」
「...うっせぇなぁ!!」
よろけながら立ち上がる古市がもう一度殴りかかるがまたノーガードで受けられ、逆に反撃でガードの上から殴り飛ばされる。
「...いっ!!」
「どうした。もう終いか?」
「この馬鹿力め..ハァ..」
痛めたのかガードした両腕を振っている古市に言い放つ男鹿。
たった一撃で古市は手放したくなかった主導権を男鹿に握られた。しかし諦めずに何度も何度も攻めるが男鹿の反撃をうまく対処できず劣勢を強いられる。
「ハァ...ハァ.. ...ハァ」
「...もう..諦めたらどーだ?..」
地面に膝をついて息を切らす古市に対して呼吸を整えながら降参を促す男鹿。しかし
「..ハァ...やだね..」
古市は未だ諦めない。目には未だ闘志が燃えている。震える膝を抑えるように手を乗せて立ち上がる。
「まだ..終わ...てない」
「なんで..そこまでやりてーんだ」
「..ハァ..決まって...んだろ」
身体を起こす古市はまっすぐ目を見据える。
「アンタに勝ちたいんだ」
「...」
足がふらつくが倒れないように耐えながら構えて続ける意志を示す古市。
「初めて喧嘩して、ズルしてなんとか引き分けた.....あの日から...ずっとッッ!!!」
「早っ!?」
電光石火の如く間合いを詰めてくる古市に目を見開く男鹿。咄嗟に両腕を交差するが、
「追いかけてきたんだッッ!!」
そのガードの上から蹴り飛ばされる。
(重ェ!?)
先ほどとは違う威力に肝を冷やす男鹿だが古市は好機と言わんばかりに追撃を入れていく。
「アンタの隣に立てるよーに!!」
下段蹴りのフェイントをいれる上段の変則回し蹴りが叩き込まれ息が漏れる。
「置いてかれないよーに!!」
顔へのフェイントをにガードを上げてしまいガラ空きのボディに拳がぶち込まれ男鹿の顔が歪む。
「..どんどん前に進んでくアンタの背中は...カッコよくて...憧れだったからッ!!!」
古市の全力の右のストレートをガードで受けきれず後ろへぶっ飛ぶ。しかしなんとか倒れないよう持ち堪えた男鹿は薄らと凶暴な笑みを浮かべていた。
「全力で追いかけてきたんだよ!!」
男鹿の頭を捉えた飛び回し蹴りの威力は熱くなっていく感情と共に強くなっており、男鹿はついに膝をついてしまう。
男鹿は肩で息をする古市に対していつの日かの姿を重ねる。初めて同世代の奴と喧嘩をして、初めて同世代の奴にぶっ飛ばされて、そして初めて友人ができたあの日以降の姿。
「なにが...追いかけてきただ...」
「あぁ?」
喧嘩して引き分けになったあの日以降ズルの力を使わずに喧嘩に着いていっていつもボロボロになっていた姿。
(ちっこくて弱かったくせに....背中で守れてた奴だったくせに....)
しかしいくらボロボロになってもずっと離れていかなかった。ずっと笑って隣で着いてきた。
(いつの間にか俺の隣で戦って...いつの間にか俺の
男鹿は立ち上がる。足元がふらつくが倒れずにまっすぐ古市を見る。ボロボロで今にも倒れそうなくせに未だ目はギラギラと力が入っている。
「...来やがれ..終わりにしてやるよ」
「..ハハ..やってみろ!!」
男鹿が挑発すれば古市は跳ねるように詰めてきて飛び蹴りをしてくる。躱しきれずに受けるがすぐさま反撃で殴り返す。
「オラァッ!!」
「ングッ!?このォっ!!」
倒れないよう踏ん張り負けじと殴り返す古市。
「「まだまだァ!!」」
殴り、蹴られて、蹴って、殴られて、もはや躱すことも防ぐこともできない。
やられたらやり返す、ただの正面からの殴り合い。それでも一発一発がKOできるほどの威力だ。周りで見ている者たちも呼吸を忘れて目を離せない。
殴られて数歩後ろへよろける男鹿に古市がハイキックを仕掛ける。
「ワタシの勝ちだァ!!!」
「ッッ!?」
確かな手応えと共に大きな炸裂音が響き、男鹿がぐらつく。しかし
「!?」
脚を前に踏み込み堪えた男鹿が拳を引いていた。狙うはガラ空きの腹。古市が焦るがもはや間に合わない。
男鹿が雄々しく吠え、拳を古市の腹へ叩き込む。身体が曲がり口から息が漏れる古市が白み始めた空へと吹き飛んだ。
石矢魔の長い夜が明けた。東の空から陽が顔覗かせ街を照らしていく。明るくなってきた石矢魔のグラウンドでは脚をふらつかせながらも立っている男鹿と大の字で仰向けに倒れた古市が中心にいる。
決着はついた。男鹿が石矢魔最強へとなったのだ。
「紬貴!!」
「待って寧々」
「姐さん!どうして!?」
大森はボロボロになった友人の古市に駆け寄ろうするも邦枝に止められる。
「今はだめよ。2人きりにさせてあげましょう」
「でもッ...」
「邦枝の言う通りだ。やめとけ」
邦枝に続き東条も制止するよう声をかける。その言葉を聞いて大森はもう一度邦枝へ目を向ける。
「今行っても邪魔にしかならないわ」
彼女の表情は見たことがないような、どこか羨ましそうで、けれどどこか拗ねているような言葉では形容し難い複雑なものだった。
それでも何かで表現するのであればそれは..
「乙女の顔..」
「千秋!?」
「そんなんじゃないわよ!!?」
隣にいた千秋のつぶやきに驚く大森にツッコむ邦枝。しかし邦枝は目線は古市から離さなかった。
男鹿はふらつく足を引きずってベル坊へ近づく。しかし東条を倒した時とはちがいベル坊は不安を感じさせる表情を古市と男鹿へ交互に向ける。
「..アゥ....」
「来い...ベル坊」
いつまでも登ってこないベル坊を抱えて未だ気絶している古市に近づく。
今ワタシは夢を見ている。小学生の頃の夢だ。まだまだ弱っちくて男鹿の喧嘩について行けばいつもボロボロになってた頃だ。
よく見るこの夢は自分の弱さを見せられているようで嫌いだ。
『オマエなんであの変な風使わねーの?』
『使いたくないから』
男鹿の問いかけに頬膨らませそっぽを向きながら答えるワタシはボロっとけがをしている。
『でもアレを使えばそんな怪我しねーだろ?』
『..やなもんは嫌なの』
『なんでだよ...』
意地っ張りなワタシに男鹿は呆れたように呟く。
『だってあんなのズルみたいでカッコ悪いし。それに...』
『それに?』
『人間じゃないみたいだから..』
この頃のワタシの弱さにはホントに嫌になる。
身体も心も弱くて悩みすぎなのだ。なまじ変に早熟だったから、人間じゃないワタシが、周りと違うワタシが嫌だった。
『だから..使いたくない。ワタシは人間としてキミの隣に立ちたいの』
だけどそんなこと言うワタシにアンタはあっけらかんに言ってきたよね。
『もったいねーの』
こんなこと言われたワタシはどんな間抜けヅラをぶら下げていたのだろう。
でもアンタは気にせずに言葉を続ける。
『人間がどーとか知らねーけどさ、オマエはオマエだろ?変なやつだな』
そうだね。そんな簡単なことにもこの時は気付かなかったワタシは..本当にバカだ。
何度でもワタシのダメさを見せつけてくるこの夢はやっぱり嫌いで...
『それによ』
だけど
『カッケェじゃん。好きだぜオマエの風』
アンタがこの言葉をかけてくれた時の夢だから、嫌いにはなれないんだ。
顔に何かを感じ、目を覚ます古市。自分の上に乗って顔をぺちぺち叩いてくるベル坊が視界にうつる。
「ニョッ」
「...ベル坊...」
「目ぇ覚ましたか古市」
ふと視線をずらせばボロボロで立っている男鹿がいた。それでようやく自身の敗北を思い出す。
「...あぁ..そうか。負けちゃったのか..ワタシ」
「.....」
「アィィ...」
「起こしてくれてありがとう。ベル坊」
なんとか腕を動かして小さな頭を優しくなでる。しかしその顔は悔しさを滲ませていた。
すると男鹿が古市に向かって手を差し出す。
「なにさ..?勝者の余裕てやつ?」
「捻くれすぎだオメーは」
古市がジト目で睨んでくるのに対して男鹿はぶっきらぼうに言い放つ。
「普通に手貸してやるってだけだ」
「.....」
「お前が何を考えてるか知らねーけどな..お前はもうずっと俺の隣に立ってきただろ」
男鹿の言葉に古市が目を見開くが構わず言葉を続ける。
「俺の隣はお前しかいねーよ。」
いつものように仏頂面で、けれどその言葉は確かに古市に響いた。
「アダッ」
「ベル坊もそう思うってよ」
「...ハハッ。いつのまに言葉がわかるよーになったのさ」
男鹿のインチキ翻訳に笑いながら男鹿の手を掴む。そしてベル坊が落ちないよう片手で抱えながら男鹿に立たせてもらう。
「また...教えてもらっちゃったね..」
「あん?何をだ?」
「何でもないよ」
呟きに聞き返す男鹿に答えない古市。そんな2人の表情はどこかいつもより軽くなっていた。
そんな雰囲気を感じたかベル坊の表情も軽くなっていた。
「ウイイイイー!!!!」
そのままベル坊が興奮した表情で雄叫びを上げ、男鹿へ飛び移る。その様子を見てヒルダやフォルカス達はひと段落というように安堵していた。
「ハハッ元気になったねベル坊」
「...うん。それはいいんだけどね...」
すると突然は右腕を見せてくる男鹿。しかしその右腕は..
「さっきから.....腕がもげそーなんですけど..」
破裂寸前の風船を想像させるほどあり得ないぐらい肥大化していた。
「うわキッモッ!!!!!」
あまりのグロさに声をあげる古市。
「ちょッ.....キモっ!!近寄んな!!」
「いや..だって..」
離れようとする古市と近づこうとする男鹿。右腕は依然肥大化し続け、軋む音が止まらない。
「ア゛ァーーーーー!!!!」
「いかんッ!!坊ちゃまが興奮しておられる!!!」
男鹿の背中で雄叫びをあげるベル坊にヒルダが珍しく焦った様子で声をあげた。
「今まで溜まりに溜まった魔力が全て右腕が注ぎ込まれているのだ!!早く発散しろ!破裂するぞ!!」
「ンググッ...発散たって..!」
「なんか殴れ!!男鹿!!」
ヒルダと古市の言葉に男鹿は周囲をさがして
「くっそぉおおおおおおお!!!!」
《えー私ただいま信じられない光景の前におります。》
リビングに響くテレビの音声。映像にはカメラの前に立つ女子アナが困惑の表情を浮かべながらニュースの報道を進めていく。
《ここは地元でも有名な不良高「石矢魔高校」だったのですが...こちらをご覧ください》
女子アナが促すようにカメラが向けられた先には瓦礫の山と化した元校舎。
《なんでしょうか!!これは!!校舎がない!あるのは瓦礫の山・山・山!!!一体昨夜、一晩にして何があったのでしょうか!!!》
「おぉ..見てよ男鹿。ワタシ達の学校が写ってるよ」
「....」
ワタシが男鹿の家のリビングで煎餅齧りながらテレビを見ていたら昨日の夜のことが報道されていた。
そのことを男鹿に伝えるが返事が返ってこない。
「見事にぶっ壊したねー男鹿。ヒーロー映画のクライマックスみたいだったよ」
「....」
「ん?」
呑気にワタシはつぶやくがそれにも応えない。なんでと思いつつ首を向けるとそこには悪魔の形相をした男鹿にたっており顔を鷲掴みにされた。
「なに他人事みてーにしてんだコラ」
「アダダダダダッ!!!!」
あろうことかこの鬼畜はそのままアイアンクローを極めてくれやがる。流石のワタシもこれには腕をタップしてギブアップ。
「テメーが喧嘩売ってきたからベル坊が余計に興奮して、あんな事になったんだろーが」
「ワタシのせいっ!?ちょっギブギブ!!」
いくらタップしてもこの鬼畜は手を離さず力を入れてくる。ルール違反だぞ!!!
「もしアレがなかったらこんなことになってなかったかもしれんのに!」
「はーー!?元はといえばアンタがベル坊から目離していなくなっちゃったのが原因でしょ!!?つか離せ!!頭割れるゥゥ!!!」
「一回割って直接脳みそ直したほーが2度とあんなバカみてーなことしなくなんじゃねーかァ!?」
「ア゛ァ゛ー!!脳みそ犯される!!」
「うっさいわアンタ達!!」
するとソファの方から怒号がとびすぐさま大人しくするワタシ達。
「せっかくのマカオ式マッサージが台無しになるじゃないの。静かにしてよ」
ソファの方では美咲さんが紳士帽子を被った変な青いスライムみたいなのにマッサージしてもらっていた。
「ん...いくら学校が壊れたって学校側がなんとかしてくれるんだから..ん...焦んないの。んぅ...」
変なスライムが身体を指圧?をするたびに色っぽい声を漏らしている美咲さん。うむ実にエロい。
「そういえばヒルダはどこにいんだろ?」
「ヒルダちゃんならキッチンにいるわよツムギン」
「キッチンすね。ありがとー」
とりあえず男鹿から離れるようにキッチンへと逃げ込む。そこにはヒルダと見慣れないピンク髪の子が一緒に作業していた。
「ここにいたんだヒルダ」
「...ツムギか」
「なんかこうやって喋るの久々だね」
「そうだな.....」
久しぶりにヒルダと話すがどこか雰囲気が違う。なんというか、落ち込んでる?するとピンク髪の子が話しかけてきた。
「何しにきたのよあんた!!」
「うん?ヒルダと話にきたんだよ」
「今はヒルダ姉様は準備で忙しいから後にしなさいよ!」
「何の準備?てか誰君?」
キャンキャン吠えてくるこの子にチワワの面影を浮かべてしまう。するとヒルダその子に美味しそうなお肉と野菜が乗った皿をこの子に渡した。
「すまないラミア。これを向こうへ持っていってくれないか?」
「でっでも...」
「頼むラミア」
「...わかりました」
渋々といった様子でラミアちゃんは大きな皿を持ってキッチンを出た。人払いのような感じで出してしまい申し訳なく感じる。
「.....」
「あー..どうかしたの?ヒルダ」
ワタシは恐る恐る聞いてみる。すると背を向けながら黙っていたヒルダが口を開いた。
「....今回のことで少々自己嫌悪してしまってな..」
「自己嫌悪?なんで?」
「私1人ではどうにもできなかった。坊ちゃまが苦しんでいる時に私は何もできなかったのだ」
「いやまぁ..病気なら仕方ないんじゃ...」
「それに」
ヒルダがこちらへ振り向くといつもみたいな凛々しい表情ではなくほんの少しだが眉が下がっていた。
「私はお前にも八つ当たり染みた見当違いな怒りを向けていた」
「......」
予想だにしていなかったことを言われてしまい声も出せずただ目を見開いた。
「お前が坊ちゃまを案じて敢えて会いに来なかったのは知っている。お前のお下がりのケータイにメールが来ていたからな」
「......」
「それなのに、私はただ苦しむ坊ちゃまを見ていると何もしてくれないお前を疎ましく思ってしまったのだ」
ワタシはヒルダの胸の内を明かしてくるのを静かに聞いている。
「なのに昨夜お前が坊ちゃまの頭を撫でる表情を見たときに私はその身勝手な怒りを恥じた。お前も心配していたのだろうに」
「.....」
「幻滅したか?こんな身勝手な私を」
すると一歩下がり目を瞑るヒルダ。どこか怯えるような雰囲気を纏って。
ワタシは頬を掻きながら思ったことを言うことにした。
「ヒルダってさ....意外にクソ真面目だよね」
「....クソマジメ?」
「そーでしょ。普通そんなこと隠すって。友達にでも、家族にでも」
「......」
ワタシの言葉を聞いたヒルダは黙ってしまうがとりあえず私はヒルダ近づく。
「それにさ全然見当違いじゃないよその怒りも。話聞いたけど男鹿だって協力的じゃなかったんでしょ?その上でワタシも来ないなんてメールきたらそりゃストレス溜まっちゃうよ」
「...そんなこと」
「あるの。世のお母さんじゃ結構ある悩みみたいだよ?」
「...母」
ヒルダと目を合わせてワタシは伝える。自分の思いを。
「そ。だからさ1人にしてごめんね。ヒルダ」
「....ならば」
するとヒルダが恐る恐ると口を開いた。
「私はお前と友人でいていいのか?」
「え?」
突然の言葉に驚いてしまう。
「私は侍女悪魔だ。常に私はお前より坊ちゃまを優先にした考えしかしない」
「......」
「それでも友人でいさせてくれるか?」
「....クッソ真面目ぇ〜」
「は?」
ワタシは我慢できずに声が漏れでてしまった。
「ヒルダ。そういうときはさ、もっと気楽に、日曜日にお気に入りのランチに誘うぐらいでいいんだよ。そうすれば誰でも友達になれるんだからさ」
「...そんなものか?」
「そーそー。それに嫌だって言ってもワタシは友達辞める気ないからね」
「...そうか」
すると安心したのか気が晴れてのかヒルダは少しだけ微笑みを浮かべてくれる。
「では、私は準備を進める」
「これは何の準備?」
「決まっておるだろう」
ワタシの問いかけに当然のことかのようにヒルダは答えを教えてくれた。
「坊ちゃまの全快祝いだ」
「いやぁー庭先でやるバーベキューってのもオツなものですなぁ」
「今日はお招きいただきありがとうございますぅ。男鹿さん」
「いやこちらこそいつも辰巳がお世話になってます」
「いやいやこちらこそ紬貴がご迷惑を..」
「いやいやいやそんなこといったらうちの方が」
「いやいやいやいや...」
「いやいやいやいやいや...」
男鹿家の庭にてベル坊の全快祝いとしてバーベキューが開催されていた。どうせならともともと家族ぐるみの付き合いで親しい古市家も誘ったことでかなり大人数になっていた。
両家の大黒柱である父達はお互いに頭下げ過ぎて地面に額をこすり合っていたが誰も気にしない。
「お姉ちゃん。しっかりお野菜も食べなよ」
「ほのか...バーベキューはお肉を食べるものなんだよ?」
古市は妹のほのかの指摘をのらりくらり躱して好きなものしか食べず、
「たつみー!もう一本もってきて!」
「自分で取れよ」
男鹿は姉の美咲にパシられていた。
「おいしいですねこれぇ」
「本当本当。ヒルダちゃんこれなんのお肉?」
「はい、地獄血吸いヒルの肉でございます」
ヒルダのカミングアウトに母達は白目を剥くが、ヒルダに気付いた様子はなく、ラミアに呼ばれてそちらを向く。
「ヒルダ姉様!花火花火!早くやりましょー!」
どうやら昨夜の打ち上げ花火を大層気に入ったようでラミアは手に持つタイプの花火の詰め合わせパックを持って目を輝かせる。
「花火!すごい大きい詰め合わせですね!」
「いいわね。でもどうせなら浴衣着ないと」
「それいいアイデアです美咲さん!」
「でしょほのかちゃん」
「浴衣?」
花火に気づいた美咲とほのかが浴衣に着替えることを勧め、ラミアとヒルダが言われるままに着替える。
目の保養となるぐらい綺麗な2人が花火をしているのを父母達は眺め、美咲は新たなビール缶を開ける。
ほのかと古市が一緒に花火に混ざる。
「みてベルゼ様!綺麗ですよ!」
「ふっふっふ。甘いねラミアちゃん。手持ち花火はこうやるのさ...」
古市は両手に3本ずつ手持ち花火を持ち火をつける。
「ジャーン!!どうよ!6刀流!!」
「おお..すごい。かっこいい...」
「お姉ちゃん危ないからやめて。」
「はい」
「かっこわるい...」
ほのかにピシャリと注意され静かに花火を離していく古市。ラミアがその姿にガッカリしている。
そんな中男鹿はヒルダへと話しかけていた。
「珍しいな。テメーがうちの奴らに合わせるなんて」
「意外か。これでも貴様に随分と感謝しているのだ」
「...俺に?」
ヒルダは胸に抱いているベル坊に気をつけながら花火から目を離さない。
「ツムギにもいったが...今回は私1人ではどうにもできなかった。坊ちゃまが蝿王紋を操れるまでに成長したのは貴様のおかげだ」
「.....」
「だから..........ありがとう」
「....誰だお前っ....」
「もう二度と貴様には感謝しない」
やけに素直に感謝を伝えるヒルダに男鹿は悪寒を感じ、ヒルダもまた男鹿にはこんなことはしないと誓う。
「....だが覚悟しておけ」
「あ?」
「ここからが本番だ。忙しくなるぞ」
「.....フン」
ヒルダの忠告にも男鹿は不敵な笑みを浮かべるのだった。
ちなみにこの後男鹿はベル坊が成長して離れられると勘違いして超威力の電撃を受けることになったり、古市がその距離を測って本当に15mから15m08cmに伸びていたことを嬉々として男鹿に伝えていたが、いつものことである。
これにて石矢魔編終了です。
オリジナル展開強めになってしまって申し訳ないですがこれが書きたかった。
ここの古市ちゃんは多分誰よりも男鹿君に激重感情を抱いているはず。
この後は1〜2話閑話をいれてさっさと聖石矢魔へ行くのでよろしくお願いします。