すごく....長くなりました...。
「魔界に帰る?誰が?」
茹だるような暑さが続く今日この頃、男鹿の部屋で一緒に対戦ゲームをピコピコしているワタシは聞き返した。
「医者だよ医者。あのちっこいのとテキトーなやつが」
「あぁ..そっちか..」
ヒルダが帰ってしまうのかと身構えてしまったが違ったらしい。ラミアとあのスライムさんのことだった。
「ベル坊も回復してもうやる事もねーからな。魔界に帰るんだとよ」
「ふーん...ほん
「さむっ」
いつのまに来ていたラミアが見た事ない目でワタシを見ていた。
なんなら男鹿とベル坊も見た事ない目でワタシを見ていた。
「何いまの?ジョーク?もっかい言ってみてよ。あたし達魔界に帰るんだー」
「堪忍してよぉ...」
めちゃくちゃいじってくるラミアにワタシは早々に降参の意を示す。めっちゃ顔あつい。
両手で顔を隠していると紳士なスライムさんが話しかけてくる。
「ときに...アランドロンと連絡がつかないのだが...何か知らないか?」
「おっさん?そういや今日は見てないな..一階でドラマ見てなかった?」
「残念ながら居たのはキミの母君だけだった」
「んー..ちょっとわからないなぁ」
「そうか...キミならば何か知っているかと思ったのだが..」
スライムさんの表情は決してなにも変わっていないが声色で困っているのがわかる。
しかしラミアちゃんは逆に明るい顔をしていた。
「師匠!やっぱり今日はやめにしましょーよ!ベルゼ様ともう少しいたいし...」
「あれー?ラミアちゃんワタシは?」
「アンタなんかどーでもいいにきまってるでしょ」
「ひどい...」
ワタシの問いかけには冷たい顔で即答してくる。悲しいよ..
「ばかもんっ。魔界にも患者はわんさかあるのだぞ!」
「ちぇー」
「ならばツムギが呼んでみればよかろう」
狭い男鹿の部屋にさらにヒルダが入ってきた。
「私も通信機を使っておるのだがさっきから通じんのだ。だから呼んでみてくれないか?」
「なんでワタシ?」
「奴は次元転送悪魔だ。近しいものが呼べば飛んでくると思うぞ」
「へー」
おっさんの知らない生態を聞いたワタシは少しだけ驚き相槌をかえす。
「呼びなさいっ!それともあの寒いギャグを連呼してあげよーか?」
「勘弁してください」
恐ろしい事を言いながら脅迫してくるラミアさんになす術がないワタシはただ頭を下げるのみ。
「寒いギャグ?」
「はい!実はぁ...」
「わぁ!わぁ!ヒルダに言わなくていいから!!」
これ以上ワタシの痴態を広めたくないので全力で邪魔をする。せっかく聞いていないのだから余計な事はさせない。
「よんでくれるか?ツムギ」
「そりゃもちろんヒルダの頼みだからね」
「そうか..すまないな」
「それはそれとしてほんまかいは無いと思うぞ」
いやぁぁあああああ!?ドSッ!!
予想外の攻撃に膝をついてしまう。やはり悪魔なのかこういうところがあるのだワタシの友人は。
「しかしよぉ...オメーが呼んでホントに来んのかあのオッサン?」
「..当たり前でしょ?あんなに仲良しなのに」
心が折れそうなワタシに男鹿が問いかけてくる。愚問だな。
「いやオメーおっさんのこと便利な秘密道具みてぇな扱いしてんだろうが」
「失礼だな。そんな事ないよ」
「お前時々、オッサン使って部屋からどっかいってたろ。ど⚪︎でもドアかよ」
「.....大丈夫!ワタシが呼べばきっと魔術的な感じでかっくいい感じにでてくるはず!!」
「スルーすんな」
「うるさい!見たくないの!?ゲームみたいなかっこいい魔術!!」
「そりゃみてぇけど...」
「だったら黙ってワタシを信じろ!!」
ワタシは親指で自分を指して力づくで黙らせる。そしておっさんを呼ぶ準備をする。すこしドキドキする...なんか召喚するみたいだ。
「..いでよ!!アランドローン!!」
「お呼びですかな?」
ニュルっと男鹿のベッドの下からスライドしてでくるおっさん。あれ..?かっこいい魔術は...?かっこいい召喚は.....?
「..........はぁ...」
「なぜそんな残念そうなのです!?」
「それよりテメェはどっからでてきとんだ!!!」
がっかりするワタシに驚くおっさん。そして男鹿はおっさんにツッコミを入れる。
ちなみにヒルダが連絡が付かなかった理由を聞くとおっさんは家族と連絡していたらしい。
「ーーーさて...ではお二方。準備はよろしいですかな?」
ワタシ達はラミアとスライムさんのお見送りのために河原まで来ていた。
「てかなんで場所変える必要あるの?」
「うむ、それはな..人間界から魔界へと次元をまたぐ転送には自然のエネルギーが必要となるのだ」
「なるほど...」
だからおっさんは最初の頃は川に流れていたというわけだ。
「それに。2人以上を同時に次元を超えた転送ができる悪魔は知る限りではあやつだけだ」
「へー..優秀なんだ、おっさん」
「あぁ..」
意外なおっさん情報をヒルダから聞いているとラミアが男鹿のどこまできていた。ベル坊にお別れの挨拶らしい。
「ベルゼ様....絶対立派な魔王になってください。何があっても私はベルゼ様の味方ですから!!」
頼もしい決意表明をベル坊にしているラミアはすごくかっこよかった。
「うむ...頼りにしているぞ。また会おう..ラミア」
「...〜〜〜ヒルダ姐さーん!!...」
しかしヒルダに優しい声色の言葉をかけられるとさっきまで凛々しかった顔はすぐにふにゃふにゃになる。
ヒルダに泣いて抱きついてラミアにアランドロンは出発を促していた。
「魔界か..どんなトコなんだろーね?」
「けっ興味ないね。どーせ陰気くせートコだろ」
こちらに手を振ってオッサンの中に入っていく2人に手を振りかえしながら男鹿と話す。
そこでふとベル坊が男鹿の背中にいないことに気づく。
「へ?」
ーそんな声が聞こえて顔を向けると、片腕をおっさんの中に突っ込んだラミアの足を掴んでいるベル坊がいた。
「べ...ベルゼ様...なぜここに!?」
「アー」
瞬間、男鹿の脳裏に電撃がはしる。
(ベル坊→魔界→俺→死....!?)
「待てや!!どこ行こうとしてんだコラァ!!」
焦った男鹿が急いでベル坊の足を掴んで離そうとするもしっかり掴んでるのか全然離れない。
そのせいか男鹿がラミアの足を引っ張っているようなひどい絵面になっている。
「キャアアアアア!!!ちょっと引っ張らないでよ!!」
「うっせぇ!!..くそ離れねぇ...おい!一旦外でろ!」
「無茶言わないでよ!!ベルゼ様!お願いです!! 放してください!!」
「おい!!古市!手伝え!!」
「マジかよ」
男鹿は奮闘するもドンドン飲み込まれていくラミアに焦りを感じたのかワタシに協力を仰いでくる。
とりあえずおおきなかぶよろしく、男鹿の腰を掴んで引っ張ってみる。
「ふん゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!?何コレ!?全然離れないんだけど!?」
「諦めんな古市!じゃねーと俺が死ぬ!!」
「ちょおぉおおッ!?見えちゃう!!見えちゃうからぁ!!」
引っ張るどころか逆に引っ張られることに驚愕してしまう。必死の抵抗虚しくワタシ達諸共オッサンの中へ引き摺り込まれるのだった。
目を覚ますとワタシは森にいた。
辺りを見渡せば初めて眼にする攻撃的な見た目をした植物があちこちに生えており、耳をすませば恐竜映画のような凶暴そうな鳴き声なあちこちから聞こえてくる。頬を撫でる風は嫌に生暖かい、知らない場所。
「...ここどこ...?」
「魔界よ」
「....ほんまかい」
ラミアに教えられてようやく理解する。魔界に来てしまった現実を。
「悪夢だわ...人間を魔界に連れてきてしまうなんて。しかも...しかもよりによってここはヴラドの魔境!!」
ーーヴラドの魔境 魔界のなかでもさらに危険区域とされる未開の地。時の権力者ヴラド・ドラクルが探索からガクブルで帰ってきたことからそう名付けられた超危険地帯。
「そういや男鹿は?」
「..あたしが目を覚ました時にはもういなかっ」
「「ヨップル!!!」」
ラミアの声を遮るように男鹿の声が向こうから聞こえてきた。他にもなんか混じってたけど。
「男鹿だ!けど何ヨップルて」
「ま..まさか!!」
顔色を青くしたラミアが慌てて声のした方へ足場の悪いのを気にせず走っていき、ワタシも後ろをついていく。
するとそこには...
「な...なんなんだコイツ」
男鹿が立っているそばにナメクジのよう目が飛び出てる人型の何かが口を裂けるように大きく開けて倒れていた。
「キッショ!?なにソイツ」
「おぉ?いたのか古市」
ワタシの驚く声にこっちを振り向いて呑気に声を掛けてくる男鹿。しかし、ラミアはさらに顔を青くしていた。
「な..何してんのよアンタは...!!」
「いや..だって急にヨップルー!!って襲いかかってきたからよ..」
「それは挨拶しただけよ!!ヨップル星人はこの辺りじゃ1番の友好的な部族なのよ!!?」
「知らねーよそんなもん」
どうやらこの倒れているキショいのを倒したのはまずいらしく、ラミアが男鹿に問い詰めるが男鹿はどこ吹く風。
「どーすんのよ!!ここはホントに危険なのよ!!」
「いいじゃねぇか別に。またオッサンで帰ればよ」
「....ハッ。そうよ!アランドロンはどこ!?」
3人で辺りを見渡すが見当たらない。すると上の方からがさりと木の枝が擦れる音がして見上げる。
「....はい」
「「「..........」」」
まるで操り人形のように蔦が複雑に絡まってぶら下がっていた。身体のあちこちから血を流して。
「..いやかたじけない..定員オーバーしてしまった為か...この有様でして」
(((ズタボロになっとる!!!)))
とりあえずアランドロンを下ろして地面に寝かせた。
「...どうやら転送の軌道がずれてしまったようですな...ゴホ..フフ..心配召されるなこんな傷..少し眠れば治ります」
「寝るなオッサン!!死んじゃうぞ!!」
「テメーが死んだらオレ達はどーすんだ!!死んだらぶっ殺す!!」
「なにこんな所で死ねませんよ...もうすぐ娘の誕生日でね..ドレス買ってやるて約束しちまった」
「こんな状態で死亡フラグ立てないでくれるオッサン!!」
「なに...すこし休むだけです..あっほら気持ちよくなってきた..」
「「アランドローーーン!!!」」
オッサンがの目が閉じそうになるのをなんとか食い止めるように話しかけるが時間の問題。
「ラミア!!てめえ医者だろ!!なんとかしろ!!」
「やってるわよ!!けどこんな傷師匠がいないと..」
「そうだ!!あのスライムさんは!?」
「ファルカス殿だけは無事に転送できました」
「おまッ!マジで死ぬ気か!」
よりにもよってなんとかできそうなスライムさんがいないことに絶望してしまう。
するとオッサンが震える手でラミアの手を握る。
「ラミア..どの...後のことは.....たの..みました」
そう言ったアランドロンの身体から力が抜けていく。
「「「アランドローーーーン!!!!」」」
次元転送悪魔アランドロン、ヴラドの魔境にて散る。
「おいっ!ちょっ!コラふざけんなテメェ!!目ぇ開けろコラ!!死んでる場合じゃねーだろ!!おいいいっ!!」
まるで眠るように目を閉じているアランドロンの胸ぐらを掴んで揺さぶる男鹿は見た事ないぐらい焦っている。
突如オッサンの腰あたりから電子音が聞こえてくる。ワタシがそれを手にするとどこか見覚えのある機器だった。
「ケータイ..?」
「通信機!きっとヒルダ姐様だわ!!かして!!」
ワタシからケータイを取ると通信機を耳に当てるラミア。
「もしもし!!」
『その声はラミアか。全員無事か?』
「それが..アランドロンが..」
『ああわかっている今どこだ?』
「..ヴラドの魔境です」
『また..厄介なとこに.」
ラミアがヒルダと連絡をとってくれている。なんとかなりそうだ。そう安堵していると突然
ーーピイイイイイイイイィィィッッ
笛のような音が森中に響きわたる。
『い...今の音はヨップル星人!?まさか手を出したのか!?そいつはヴラドの番人だぞ!!仲間を呼ばれているぞ!!」
「仲間って?ヒルダ」
『アクババだ!!とにかく逃げろ!!ワタシがサポートする!』
アクババ。その名前を聞いてワタシと男鹿はひとまず冷静になる。何せ一度ぶっ飛ばしている相手だ。
「なんだあれなら一度ぶっ飛ばしてるじゃんか。な男鹿」
「おうよ。余裕だ」
『馬鹿者!!言っておくが野生のアクババは..』
遠くの空から羽ばたく音が聞こえてくる。それがどんどん近づくにつれ、羽ばたきの音が大きくなる。
漸く私たちは理解した。自身の考えが誤っていることに。
『でかいぞ!!』
「グゲゲゲゲゲゲェっ!!!!」
「「ムリいいいいいいいいい!!?」」
3人揃って全力で走って逃げ出す。
「デカすぎでしょ!!あんなのもはや怪獣じゃんか!!!」
「ヒルダてめぇ!!ふざけんなよ!!完全に別の生物じゃねぇーか!!
『だから逃げろと言っておるのだ!!今お前達はヴラド全域に敵として認識されたぞ!!』
「「はぁ!!?」」
「まずいわよ!道が!!」
ラミアの声にワタシ達は遅れて気づく。逃げた先が崖となって道が途切れていることに。
「このままじゃあたし達全員落ちちゃう!!」
「んなこと言ったって!!もう追いつかれるぞ!?」
ワタシは焦るラミアを脇に抱え、男鹿の手を掴んでそのまま減速せずまっすぐ崖に向かう。
「なにを!!ふざけてる場合じゃないわよ!!」
「2人とも歯食いしばって!!飛ぶよ!!」
「「は??」」
ワタシは走る勢いのまま風を纏うように生み出して崖から飛び出した。
「「飛んだあああああああああ!!!?」」
躊躇いなく崖から飛び出すワタシに2人とも耳元で叫んでくるが気にせずワタシは落ちない為に安定させるように風を操る。
「ちょちょっと!!なんで飛んでるのあたし達!?どうなってるのこれ!?」
「ちょいちょい!暴れないでラミアちゃん!落としちゃうって!?」
「あ...あぁごめんなさい..。じゃないわよ!?どうなってんの!?」
『どうした!!何が起こっている!!』
ラミアを落ち着かせようとするが落ち着いてくれないので落ちないようしっかり腰を抱え直す。
「なんで!あんた飛べるの!?」
「そーいう人間なの!ワタシは!」
「んなこと言ってる場合か!!追いつかれるぞ!!」
男鹿の言葉に顔を後ろへ向けると、あの巨大アクババが巨大な翼を羽ばたかせスピードを上げてくる。
「まずいわよ!!追いつかれちゃう!!」
「大丈夫」
焦り始める2人を落ち着かせるように話しながら、より多くの風を集め纏い操る。
「ワタシは誰よりも速いから」
そして爆発的に速度を上げ、追いつこうとするアクババからどんどんと距離を離していく。
「口閉じててよ2人とも!!」
「「あばばばばば」」
「閉じろよ!?」
後方のアクババが見えなくなり速度を緩める。
「ここまでくれば大丈夫かなラミアちゃん」
「...えぇそうね。まさかこんなことができるなんて思ってなかったけれど」
「男鹿は大丈夫?」
「あぁ。ベル坊もようやく昼寝から目覚ましたみたいだしな」
「アダ」
「「今まで寝てたの!?」」
こんな状況でも眠れるのはさすが魔王思わざるを得ない。驚きを隠せないまま辺りを見渡すが未だ広い森は遠くまで広がっている。
「しっかし広いなこの森」
「とりあえず森を出て、王国へ行くのよ!」
『いや、これからお前達にはアランドロンの娘を捜してもらう』
「あぁ?あのオッサン娘が居たのかよ。嘘だったんじゃねーのか」
「んじゃ。どっちいけばいいのヒルダ?」
『ふむ。お前達はい..』
ーーグゲゲゲゲゲゲゲェェェッッ!!
突如アクババの咆哮が響き渡る。
「!?ッ嘘!もう追いついてきた!?」
「違うわ!!上見て!」
ラミアの言う通りに上を見ると先ほどよりも二回り以上大きいアクババが急降下してくる。
目を飛び出すほど驚きながらもなんとか避けようと試みるが..
「イヤデカすぎッ!!!間に合わないッ!」
「イヤァァァァッ!死ぬぅぅぅ!!」
「なんとかしろぉ古市!!」
「ムリぃぃぃい!!」
あまりのデカさに回避が間に合わない。弱音を吐くワタシ達に家がまるまる一個入りそうなほどの大きい嘴を開く。
絶体絶命かと思われた瞬間蒼白い閃光が走る。
ーグギャァァアアアアア!?!??!?!
「「「!!?」」」
突然の超電撃、脇に抱えている男鹿の肩にいるベル坊によるものらしいが随分と威力がいつもの電撃よりも大きい。
「ベル坊!?」
「すげぇ!!魔界に来てパワーアップしてんのか!?」
『坊ちゃまの本来の力に救われたな。そのままアランドロンの娘の家までいってもらうぞ。私が案内をするから絶対に通信機を手離すな」
ベル坊の電撃に目を見開きつつワタシはヒルダの案内通りに飛行を続けるのだった。
案内通りに進み谷をを抜けるとえらく牧歌的な民家を見つけ降りていく。
「ここがオッサンの家..?」
「違う違う。娘さんの家!なんでも魔獣の研究家らしくて...だからこんな魔境の外れに住んでるんだって」
「ふーん」
そのままワタシ達はオッサンの娘さんの家のドアに手を掛ける。どうやら鍵が開いているらしく、開いてみる。
「...これは」
中には人の気配はおろかまるで家具やら研究道具が散乱しており、窓も割られていた。
「..廃墟...!?」
「いえ違うわ..荒れ方がまだ新しい...族が入ったか魔獣に襲われたか..」
「マジかよ...せっかくここまできたってのに」
「とにかく家の中を探してみましょう。ヒルダ姐様にも連絡を...」
「待った」
前に出ようとするラミアの肩を掴んで止める。ワタシは家の奥を睨みながら呟く。
「何かいるよ...そこに」
家の奥。そこに椅子に腰掛けながら本を読んでいる男がいる。暗くて容姿はよく見えないが髪を後ろで纏めるほどには長い。
「...やれやれ..杜撰なものだ。お前らは何の為に見張りだ?」
「ーーフン。てめぇには関係ねぇ」
入り口にはいつのまにかスキンヘッドと特徴のない髪型の2人組の男がいた。
「この人間はオレ達のもんだ。手ェ出すなよ」
「........」
「ア゛ー?」
長髪の男は立ち上がったかと思えばじっとこちらを見てくる。厳密に見ているのはベル坊の方を見ている。
ベル坊は不愉快なのか睨んでおり電撃を鳴らして威嚇していた。
「.....いまではないな。好きにしろ」
諦めたように呟くと長髪の男は徐にビー玉のようなもの懐から取り出したかと思えば、ぼやりと、光ともに消えた。
「今の魔具は...まさか次元転送悪魔を媒介にしたの...!?なんなのこいつら!?」
ラミアが驚いているが後ろの二人組はそんなこと知らぬと下卑た笑みを浮かべて近寄ってくる。
「エッダお前は右の銀髪の女をやれ。俺は左の黒髪の男をやる」
「オー....ッッッ!?!?!」
エッダという男に男鹿の拳が顔面にめり込み、遠くの森までぶっ飛んだ。なにが起きたのかわからない様子の男は鼻水垂らしながら相方がぶっ飛んだ方向を見る。
「...ん?」
「お前ら敵だな?ぶっ飛ばす」
「ちょ!?まてまて!?」
「まちません」
鼻水振り回してこちらを向いてくる男はもう先ほど余裕はどこにもないがワタシはソイツの股間を蹴り上げる。
男は白目を剥きながら泡を吹いて気絶した。
「ウィーー!!」
「おぉ。元気だねベル坊」
「ダーブー!!」
男鹿とワタシの蹂躙が気に入ったのか嬉しそうに声を上げるベル坊。かわいいねぇ。よしよし。
ラミアがヒルダに連絡を取ると、どうやらコイツらは希少な悪魔や迷い込んだ人間を奴隷商人に売り捌く盗賊団の一員らしい。
オッサンの娘もおそらくこいつらに捕まったとのこと。
なのでワタシ達は今盗賊のアジトである街まで来ています。
「随分急展開だね。いいの?これで」
「いいんだよ。ちゃんとコイツらのお陰で来れたんだから」
男鹿はそういうと顔をボコボコに腫らした先程股間を蹴られた方の盗賊の首根っこを引っ張り上げる。
「ここで間違いねーんだろーな?」
「は....はい..そりゃあもう...ここの1番大きい建物に幽閉されているはずです」
「建物のどこだよ」
「..そこまではちょっと」
「あぁ!?」
「教えます!だから殴らないで!!?」
アランドロンの娘を探しにいく道すがら色々と情報を吐いてもらった。
・盗賊団のアジトには魔境から捉えてきた魔獣が山ほどいること
・盗賊街はジャミングがかけられていて通信機が使えないこと
・盗賊稼業をより安全にかつ稼ぎをさらに大きくするために次元転送悪魔である彼女を攫ったこと
etc
充分な情報を貰ったワタシ達は男を捨てて娘さんが監禁されているであろう牢屋の裏まで来た。
「ここか...?」
「アイツが言ってたことがホントなら..見てよ上の方。窓みたいな鉄格子があるよ」
「じゃあ中の様子見てきなさいよ。あんた浮けるんだから」
「はーい」
ラミアの言う通りに風を纏うよう操作し、鉄格子のとこまで浮いて中の様子を伺う。
すると中には金髪翠眼のとんでもない美人が鎖に繋がれていた。
「おぉ!めっさ美人!?」
「ッ!?誰ですか!?」
「失礼。ワタシ怪しいものではないです」
「すごく怪しいのですが!?」
想定外の美人さんにワタシはつい声が漏れてしまい、美人さんに警戒されてしまった。
下の2人が怪訝な表情をしてるのでワタシは事実確認をするとしましょう。
「一つ聞きたいんだけど、アランドロンの娘さんであってます?」
「え?そ、そうですが..父のお知り合いですか?」
「そうですそうです!」
「銀髪の女性...まさか貴女が古市様ですか!?」
「え?そ..そうですけど」
「父からよく伺っています!逃げてください!!」
「はい?」
唐突に逃げろといわれて困惑するワタシに娘さんは気にせず続けてくる。
「魔獣が!!物凄く大きな魔獣が来るんです!!」
「え?え?」
「おい!!古市!どーなってんだ中は!!居たのか?オッサンの娘!」
「いや..それが..」
困惑したワタシが男鹿に説明しよう下を向いたその時、建物が揺れ傾くほどの衝撃と共に轟音が大地につんざく。
「「「「ッ!?」」」」
突然の衝撃に顔を後ろに向けるとそこには..
ーーゴアアアアアァッッ!!!!
近くの山すら小さく見えるほどの巨大な化物が街を潰して歩いていた。
「なっなにあれ!!」
「ヴラドの主です!ヴラドの主が怒っているのです!!」
「主..?」
「はい..。ここの連中はヴラドの魔境を荒らし、そして魔獣を殺しすぎました。その報復にきたのです!」
それはまずい。ここの連中はともかく関係のないワタシ達までペシャンコにされたくはない。
なのでワタシはすぐさま壁に手を当て、
「んじゃさっさと逃げよう!」
掌から斬撃の風を生み出して壁を粉々に切り刻み牢屋へ押し入る。
驚いたのかあんぐりと口を開ける娘さんを繋ぐ鎖も切り離し、手を差し出す。
「いこう!」
「...は..はい」
娘さんの手を握って外へ向かう。すると後ろからドタドタと足音が聞こえ、眼帯をしたヒゲヅラのオッサンが来た。
「逃げるぞアンジェリカ!!とんでもねぇバケモンが...誰だ貴様!!!」
「誰この人?」
「盗賊の頭です」
どうやら娘さんはアンジェリカというらしい。そしてそのアンジェリカを監禁していのがこのヒゲヅラらしい
「...貴様が報告にあがっていた王族の契約者か..娘を助けに来たのだろうがそうはさせん!!曲者だ!!回り込んで殺せ!逃すなよ!!」
仲間を呼ばれてしまったのでワタシはとりあえずアンジェリカを抱えて壊した壁から飛び降りる。
「おせーぞ古市!!やべーのが来てんぞ!」
「ごめんて!あと仲間よばれた!!」
「ふざけんな!」
「それよりもッその人がアランドロンの娘さん?」
「正解ラミアちゃん。こちらアンジェリカさんでーす」
「ど..どうも」
ラミアの問いかけにワタシはアンジェリカを降ろして紹介する。すると男鹿が意外そうに声を上げた。
「ソイツがオッサンの娘か?全然違ぇな、てっきりマッチョかと思ってたぞ」
「ワタシも」
「あんた達ね..失礼でしょ!」
「あ..あははは..」
「いたぞーッ!!曲者だぁ!!」
「囲めぇ!!」
瞬く間に盗賊達に囲まれてしまう。逃げ場はどこにも無い。
「おいおい...こりゃあ大ピンチって奴じゃねぇか?」
「なんでそんなに嬉しそうなのよ..」
「大丈夫だよアンジェリカさん。後ろに隠れててね」
「古市様..さすがにこの人数は..」
文字通り四面楚歌のピンチだが不敵な笑みを浮かべる男鹿にラミアはツッコんでいるのを横目に、ワタシはアンジェリカを守るように一歩前にでる。
すると男鹿が誰かに言い聞かせるように言葉を続ける。
「楽しめよ...男ってのはピンチの時ほど笑うもんだ。そーすりゃ自然と力が湧いてくる..なぁベル坊」
「......」
「ベル坊?」
「ん?」
男鹿の言葉に何も返さないベル坊を不思議に思い視線を移すと、ベル坊はヴラドの主に目が釘付けになっており、ニタァと笑っていた。
そして急激に頭部が巨大化した。
「ベル坊君?..これは一体...」
「あらまぁ...」
「...なぁにこれぇ」
「まさか..力が湧き出してらっしゃるのでは...」
あまりにも異質な光景にワタシ達だけでなく盗賊たちもどよめくが、そのままベル坊はむくむくと大きくなり、
ーーダーーーーーー!!!
ヴラドの主と肩を並べるほどに大きくなり雄叫びをあげる。その際アジトである建物が崩れ落ちた。
「「.......ッッ!??」」
「なんとまぁ...」
あまりの急展開にワタシとラミアは目を剥いて驚き、アンジェリカも声を漏らす。
しかしワタシは男鹿がいないことに気づく。
「...男鹿!男鹿はどこに!?」
そのワタシの問いかけにラミアは震える手で指をさす。その方向にはベル坊の頭にしがみついている男鹿がいた。
「「のっとるーーーー!?」」
「すごいですね...あのお方」
男鹿が頭頂部になんとか立つとそのままベル坊がヴラドの主と取っ組み合いを始める。
「行け!!ベル坊!いやベツ人28号!!!」
ーーダッ!!
「ベツ人キックだ!!!!」
ベル坊はウラドの主の顔面に蹴りをいれ、ヴラドの主は後ろへ倒れ街が潰される。
「やべぇ..楽しくなってきやがった..よしベル坊!次はベツ人ボンバーだ!!」
起きあがろうとするウラドの主にベル坊がラリアットをきめ、大怪獣バトルを続けていくが下のワタシ達は大パニックだ。
「うおおおおッッ!??男鹿のヤロー!!無茶苦茶しやがって!!」
「皆様!!こちらです!!」
「頑張れー!!ベルゼ様ー!」
大怪獣バトルに巻き込まれてペシャンコにされないようワタシ達は逃げ回っていた。
「見つけたぞ!!アンジェリカ!!」
するといきなりワタシ達の前に盗賊の頭のおっさんが剣をもって出てきた。
「さぁ!!アンジェリカを差し出せ小娘ども!!」
「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!!空気読め!!」
「やかましい!!差し出さないのならば殺してやる!!」
オッサンが襲いかかってくるので仕方なく迎撃しようと一歩前に出ると、鼻を掠めるほどの目の前で上から何かが落ちてきてオッサンを潰す。
「....」
目の前に落ちてきたのはベル坊の親指だった。あと数センチ前に出ていればワタシもオッサンと同じくミンチにされていた。その事実に血の気が引いた。
「あ..危ねえだろぉ!!何してんだ男鹿ぁ!!!」
ーーダーー!!
「..え..ちょ..」
「ベ..ベルゼ様?」
いつの間にかヴラドの主を倒していたベル坊と男鹿に文句を言うが、なぜだか足を振り上げ、
あたり構わず踏み回る。まるで蟻を踏み潰す幼子のように。
「ぎゃああああああ!!なにこれ!男鹿はなにしてんだ!!」
「おっす。振り落とされました」
「よく生きてたな!!」
男鹿にツッコミつつワタシ達は逃げ回る。しかし..
「きゃっ!?」
ラミアがつまづいてしまう。ベル坊は未だ興奮しているようで気づかずこちらへ進んでくる。
「ちぃ!!」
「..!?」
ベル坊の足とラミアの間に滑り込む男鹿が大きく息を吸い込み
「止まれぇ!!ベル坊!!」
全力で叫ぶが声は届かず足は落ちていく。
だからワタシは風を足に纏わせ全速力で走り出す。
2人に足が振り下ろされるまでに1秒もかからない。
対してここからじゃ40mほど。
余裕だ。問題ない!
「しゃあ!!間に合ったぁ!!!」
足裏に滑り込み2人を掴んで脱出。同時に背後で足が地面につき轟音が鳴り響くがワタシ達はなりふり構わずアンジェリカの所まで走り出す。
「こちらです!!」
「ギリギリだった!マジヤバい!?」
「俺..生きてんのか?死んでねーか?」
「生きてるわよ..その気持ちはわかるけど」
身体の怪我の有無を確認しながら距離をとっていると、突如ベル坊が吹き飛ばされる。
「なに!?」
「ベルゼ様!?」
「情けない...これが王族の契約者だと?期待はずれにも程がある」
ワタシ達の側に男がおりてくる。ソイツはさっきアンジェリカの家にいた長髪の男だ。どうやらこいつがベル坊を吹き飛ばしたらしい。
いきなり罵倒された男鹿が眉を寄せる。
「誰だ..?てめぇ」
「呪文は?」
「あ?」
「この赤子を止める呪文だ。契約者しか知らん独自の呪文があるはずだが..知らんのか?」
そんなことを言われる男鹿の全く心当たりがなさそうな様子に長髪は目を細め、懐に手を伸ばす。
「面倒だな...よし、殺して連れて行こう」
「ッッ!!」
鳥肌が立つほどの殺意を感じたワタシがすぐさま腕を振り上げ、長髪目掛け斬撃の風を飛ばす。
しかし長髪が懐から取り出した短刀で防がれる。
「....ほう」
「アンタ...ウチのガキに何しようとしてんだぁ?あ?」
ワタシと長髪が睨み合う。ワタシは冷や汗を垂らし、長髪は余裕そうに。
だが横から男鹿が突然ベル坊に叫ぶ。
「ごはんですよーー!!」
ーーダッ...
男鹿の言葉にベル坊が小さな声漏らしたかと思えば姿が見えなくなった。
「アーッ!!」
するといつの間にか男鹿の前にちょこんと座りキラキラと目を輝かせているベル坊がそこにいた。
「たく..面倒かけさせやがって...」
「...それが呪文?犬かよ...」
呟く男鹿にツッコむワタシだが、長髪は何か考えるかのように目を細めた。
(元の大きさに戻すのと同時に手元に召喚もしたのか...出鱈目だな....だがこれならばもう少し時間を置いた方が良さそうだ)
短刀を懐に仕舞い背を向けて歩き出す長髪。
「命拾いしたな...蝿の王。いずれまたお目にかかるとしよう」
「まてこら!テメェただの盗賊じゃねぇだろ!!」
男鹿が問いかけるが既に姿を消しておりそこにはすでに崩壊した街並みがあるだけだった。
その後盗賊団は頭を失った事でそのまま散り散りに消え、アジトに幽閉されていた魔獣も解放された。
ヴラドの主に至っては言葉が通じるアンジェリカが説得して魔境へと帰した。
そしてようやく別れの時がきた。
「古市様..此度はありがとうございました」
「ん?あぁ..こっちこそあのおっきいの返してくれて助かったよ!じゃなきゃまたみんな走り回ることになってた」
「今私ができることはそれぐらいでしたので...せめて何か礼ができればよかったのですが」
「だいじょーぶ」
丁寧にお礼を伝えてくるアンジェリカにワタシもお礼を伝える。
「ひっく...うー..ベルゼ様ぁ...」
「泣くなよ....やっぱガキだなぁ。そんなに俺たちた離れんのが嫌か?」
「ひぐ...あんたは入って...ないわよ!!
「おうッッッ!!?」
男鹿は何故かラミアに金的を蹴られ蹲っている。
「誰が!!アンタなんかでなくもんですか!!」
「また...これかよ....!!」
「まぁ...さっき助けようとたしてくれたことはお礼言っとくわよ...一応」
「......」
「...でも!!またベルゼ様を病気になんてさせたら許さないから!!しっかりしなさいよね!!」
「あぁ。そん時ゃまたお前を呼ぶよ」
「.....フン...」
なんだかいい雰囲気になってる2人にワタシは仲間はずれになってる感じがしてモヤっとしたのでラミアの後ろから抱きつく。
「ねー!!ラミアちゃーん!!ワタシは?ワタシとも別れるのさみしいよねー!?」
「きゃあ!?ちょっと!!抱きついてこないでよ!!重い!」
「おっ....重い!?」
「助けてくれた事感謝してるけど..はやく離れなさいよ!」
「重い...」
余りの攻撃力にワタシは膝を抱えて倒れ込む。
「まったく..」
「では皆様参りましょうか...父も来ましたので」
「皆さん無事のようでなによりですな」
「「「生きてたの!!?」」」
アンジェリカのとなりにいるオッサンにワタシと男鹿とラミアが驚いて声を上げる。
「ハッハッハ。健康ランドに行ってきたので全快ですぞ」
「健康ランド!?ワタシたちがあんなに苦労してる間に!?」
「テメェ..!?ふざけんなよ!!」
「ハハハ細かいことは置いといて...」
攻める私たちに対して爽やかなオッサンが身体を縦に割る。
「カモーン」
「「ぎゃああああああああッッ!!」」
遠い青空に大きな入道雲が登る快晴の下でワタシ達は河川敷で膝と両手を地につけていた。
目の前にはヒルダが日傘を指して立っている。
「とりあえずこう言っておこう...お帰りなさいませ」
「「.......ただいま」
こうしてワタシ達の一夏の冒険は終わりを告げた。
14話にしてようやく異能力要素を出す作者がいるらしい...。
アスラン君にも少し独自設定を加えています。それが出るのは本当に終盤になるけど..