TS異能力古市   作:ブッタ

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第16話 夏休みデビューをしましょう。

 

 聖石矢魔に転校してきて翌日、今日も今日とて自習(自由)の時間も一旦区切り、昼休みをすごしているワタシは今..

 

ーーグギュルルるるる...

 

 お腹が減りすぎて背中とお腹がくっつきそうになっていました。

 

「は...腹減った...」

「...購買に行きゃいいじゃねぇか」

 

 あまりの空腹に机に突っ伏しているワタシに前の席の男鹿が当然のように言ってくる。

 しかしコイツは知らない...なぜワタシがこんなひもじい思いをしているのか。

 

「...そんな金あったら行ってるよ....」

「オメー..結構母ちゃんから小遣い貰ってんだろうが」

「そんなの...新作のモンキーハンターのためにPS5買ってもう無いよ...」

「アホだろ」

 

 余りの冷たい言い草に異議を申し立てたいが、今のワタシにそんな元気はない。

 葵や寧々にも泣きつきたかったが、気づいたら昼休みが始まると他の烈怒帝瑠のメンバーと一緒にいなくなっていた。

 

 因みにお小遣いをすべてPS5に費やした事を今朝知った母さんには朝食から抜きにされている。

 もはや限界を迎えているワタシは今目線が男鹿の焼きそばパンから離れない。

 

「.....ねぇ」

「あぁ?」

「なんでも言うこと聞くからそれ一口くれない?」

「......ほらよ」

 

 男鹿はワタシの方へ食べかけの焼きそばパンを向けてくれる。おぉさすが..やはり持つべきは幼馴染なんだよなぁ..ありがとう。

 心でワタシは涙を流しながら口を大きく開ける。

 

「あー....」

 

 しかしワタシの口が焼きそばパンを空振る...嫌な予感がして目線を上げるとそこには....悪魔のように口角を上げている男鹿がその大きな口に焼きそばパンを放り込んでいる。

 

「...あぐ..モグ..むぐ..え?何してんの?」

「.......」

「あーうめぇなぁ..オメーのアホ面を見て食う飯よぉ」

「.......」

 

 半分ほど残っていた焼きそばパンを見せびらかすように食べ終えた男鹿はワタシにニヤついた顔でそんなことを言ってきた。

 

 

 

 そうかそうか、つまり君はそういう奴だったんだな。

 

 

 よろしい、戦争だ。

 

「オラァ!!」

「危ねぇ!?」

 

 勢いよく立ち上がったワタシの蹴りを咄嗟に頭を下げて避ける男鹿。

 

「テメェ!何しやがる!!」

「うるせぇ!!人が空腹に苦しんでんのによくそんなことができんな!!」

「テメェこそ昨日オレのシャ⚪︎エッセン食いやがったろーが!!」

「それとこれとは別だろーが!!」

「何が別だふざけんな!!」

 

 そのままワタシと男鹿が取っ組み合うが...空腹に苦しみ、エネルギーの枯渇してるワタシが勝てる訳もなく負けた。

 

「ちくしょー...あんにゃろー」

 

 今ワタシは何か食べられるものが生えてないか校舎裏まで来ている。

 

 一応この校舎には生徒たちが育てている花壇や畑があるらしいが、無論ワタシ達石矢魔の生徒が近寄るのを許されるわけがない。なので何か食べれそうな雑草がないか探しているのだ。

 

「...つくしはないなぁ..春じゃないしな、たんぽぽ...いけるか?いや無理だろ」

 

 ツラいよぉ...ワタシは文明人なのになんでこんなことしてんだろう..帰ったら母さんに泣きつこう。

 

 そんな惨めな決意を抱く私に後ろから声がかかる。

 

「.....何をしているんだ?」

 

 

 振り向けばそこには怪訝な表情をした城山がビニール袋をもって立っていた。

 

 

「...いやぁちょっとね..それよりそっちは?」

「俺は神崎さんに頼まれて昼食とヨーグルッチを買った帰りだ」

 

 どうやらパシリらしい。しかしそれが彼のやりたいことなのだからワタシは何も言うまい。

 

「それより..こんなところでしゃがみ込んでどうした?どこか具合でも悪いのか」

「いやぁ...悪いといかぁ...」

 

 さすがに食べれそうな雑草を探してたなんて恥ずかしくて言えない。なんとか誤魔化そうとした矢先、

 

 

ーーグウゥゥゥゥゥッ

 

 ワタシの腹の虫が答え合わせしてくれやがった。おのれ

 

「....具合は悪くなさそうだな..」

「ハ...ハハ..お恥ずかしながら..金欠で」

 

 あまりの恥ずかしさに顔が熱くなりながらワタシが何か弁明しようと口を開く。

 すると城山はビニール袋に手を突っ込み

 

「これでも食え」

 

 未開封の焼きそばパンを投げてきた。

 

 慌てて両手でキャッチをしたワタシは、少し混乱して城山に問う。

 

「ととっ!?..これって..神崎のじゃ?」

「いや俺のだ」

「え?..それじゃあ城山の昼ごはんが..」

「俺には後一個ある。それに足りなければ夜食えばいい」

「城山...」

 

 なんて優しい男、いや漢なのだろうか..。思わずその優しさに涙が出そうになる。

 

「だから俺に気にせず食え」

「..し..しろやまぁ〜〜!」

 

 あまりの漢気にワタシは涙を流しながら城山の右手を両手で握り大きく縦に振る。

 

「うぉおぉぉ..!!しろやまぁ〜!ありがとう!命の恩人よぉ!」

「お..おう。大袈裟だな...?」

「これからズッ友だぁ!」

「古くないか?それ」

 

 こうしてこの日、ワタシは城山の海の如く、広く深い漢気と優しさによって命が救われたのだった。

 

 

 


 

 古市が城山の漢気に救われた日から数日過ぎたある日の放課後。

 

 石矢魔の為に用意された特設クラスに続く階段を、壁に隠れながら注意深く覗き込む聖石矢魔学園の男子生徒が1人。

 

 名前は山村和也。品行方正な生徒がほとんどであるこの学園には珍しく、髪が染められピアスを開けられている。

 まさしく不良といった風貌だ。

 

「こ...ここが..石ヤバ高校の...よし今日こそ...!」

 

 彼は誰かを待っているようで、目を離さず覗き込んでいる。やがて教室から出てくる烈怒帝瑠の面々や神崎一派に驚愕し、気圧され汗を流す。

 

 しかし彼は離れずに目当ての人物を待つ。見逃さないようを注意深く。

 

「..早く..出てこい」

何が?

 

 予想外の声が足元から聞こえてくる。

 

 目を剥いて目を向ければそこには黒い艶やかな髪をツインテールにした女子生徒が四つん這いで人懐こい笑みで覗きこんでいた。

 

「〜〜!?!?」

 

 彼は余りの驚きに声が出そうになるも、なんとか耐える。対して女子生徒の方は呑気な様子で続けて質問をする。

 

「なになにー?何が出てくるのー?」

「シーッ!!梓!テメェなんで着いてきたんだ!ここがどういう場所かわかってんのか!」

「知ってるよー?」

「声がでかい!!

 

 この女子生徒は藤崎梓。この山村くんの幼馴染である。そんな幼馴染の口を塞いで静かにさせる。

 

「静かにしろ!見つかるだろ!!」

「モゴモゴ」

 

 そのまま彼は目線を戻すとそこには目当ての人物が教室から出てきたところだった。

 目当ての人物というのも..。

 

ぶぇっくしゅッ!!あー...やべぇなこりゃ..風邪か?」

「馬鹿のくせして何言ってんのさ男鹿」

「マーッ!!」

 

 アバレオーガと恐れられるヤンキー..男鹿辰巳である。

 

(来た!!)

 

 クシャミをする男鹿は古市を連れて学校から帰るために階段を降りていく。

 

「いやな?魔界からこっちに帰ってきてからなんか調子悪くてよ...ほら俺はデリカットだしな」

「デリケートな。それ間違ってる時点で全然デリケートじゃないよ」

「それだそれ..つかデリカットてなんか語呂がいいな?アホなドラマのタイトルみてー」

「そうかなぁ?ドラマよりもワタシは...」

 

 男鹿の言葉に古市は自身のお腹をさすりだす。それと同時にお腹の虫が鳴る。

 

「マスカットみたいで美味しそーだと思う」

「...オメーまだ飯抜かれてんのか?」

「いや滅茶苦茶に泣きついてなんとか朝飯と晩飯は用意してくれるんだけど...昼飯は次のお小遣いまでなしにされちゃった」

「まぁ当然だろ」

「腹減ったなぁ...」

 

 こんな感じで2人は気の抜けたどうでもいい会話しつつ階段を降りていき、姿が見えなくなると山村が壁から顔を出す。

 

「...よし。いくぞ..!」

「あの2人について行くの?」

「そうだ..あの人が..男鹿さんがオレの目当てだ..!」

「へー..じゃあ男鹿さんに憧れたから和くん急に髪染めてピアスつけてきたんだねー。みんな言ってるよー?夏休みデビューだって

「......」

 

 藤崎の悪気のない切れ味のある言葉に山村和也君は顔が赤くなり、何も言えなくなってしまう。

 

「聞いたんだけどねー?夏休みデビューって今まで普通だった人が..もがっ」

「も..もういい黙ってろ...っ!」

 

 続く藤崎の言葉を物理的に口を塞いで止める山村は未だ赤面しつつ、男鹿を見失わないように移動をはじめる。

 

 

 校舎を出て街に出た古市と男鹿を物陰から見つからないよう後をつける山村と藤崎。

 

「なんかあまり怖くないねー。赤ちゃんかわいいし..本当にあの人たちなの?」

「そのはずだ...それに子連れ番長なんて呼ばれてんだ。間違いない..はず」

 

 疑う2人だが無理もない。当本人である男鹿は確かに目つきが悪いが神崎や東条に比べると貫禄がたりず、隣を歩く古市に至っては外見は制服を着崩したただのJKだ。

 そんな2人がずっと平和に駄弁りながら帰っていく姿を見ていれば特に男鹿の噂のギャップにより疑いたくもなる。

 

 すると2人は交差点を曲がり視界から一度消える。

 

「あ!見失っちまう!」

 

 慌てて追いかけようとする山村の前に随分と図体のデカい男がメモを手に持ち出てくる。

 

(おおおおお!?と..東条英虎!?..で..伝説の東邦神姫の1人がなんでここに!?)

 

 いきなりの大物の登場に山村は追いかけようとした足が一度止まる。そんな姿に隣の藤崎は首を傾げ、東条は目をメモから離し2人へ向ける。

 

「なぁそこの」

「は...はい!?」

「この辺にジャプドナルドってハンバーガー屋はないか?」

「え!?え..ええと」

「ジャップだったら向こうの通りの右側にあるよー!」

「そうか。助かった」

 

 東条は完結に礼を述べて藤崎の教えた道を進んでいく。

 

「すごいデカい人だったねー?」

「あ..ああさすがは伝説の東邦神姫...」

 

 想定外のエンカウントに山村は放心気味に呟く。しかしすぐさま自身の目的を思い出す。

 

「しまった!?男鹿さんを見失ってしまった!!急いで追いかけるぞ!!」

「あいあいさー!」

 

 急いで追いかけようと山村は藤崎の手を握り走り出す。見失った交差点を曲がり少しそのまま進むと、目当ての姿を路地裏にて見つける。

 

「..いた..うおお!?やば!?」

「んぉ?..うわぁすごい」

 

 2人が目にしたのは路地裏で古市と男鹿を取り囲む大勢のいかついスキンヘッドたち。

 一目でわかるその風貌はこの辺りを縄張りとしている帝毛工業のヤンキー達だ。

 

「噂にゃ聞いてるぜ石矢魔ぁ?てめーらあの坊ちゃん高校に通ってんだってな?」

 

 帝毛工業の1人が男鹿に絡み始める。鬼のような形相でガンをつけてくるが...

 

「あんま調子こ..ーッッ」

 

 

 遮るよう男鹿が横に蹴り払い頭を壁に埋める。

 

 

「うーむやっぱ調子わりぃ..今日はダメだな」

「違いがわかんないよワタシゃ」

 

((やっぱり本物だ!!あんなめり込み方漫画でしか見たことない!!))

 

 帝毛工業の1人を一蹴りで首を壁に埋めたのを見て先ほどまでの疑惑が一瞬にして晴れ、見入ってしまう山村と梓。

 

 だからだろうか...後ろから近寄る気配に気づかなかったのは。

 

「ちょぉっとごめんよキミたちぃ!」

「キャア!!」

「なっ!!放せ!!」

 

 帝毛工業の1人に後ろから首に腕を回されナイフを突きつけられてしまう2人。

 抵抗できず人質となってしまった2人はそのまま連れられて路地裏へ入っていく。

 

「おう!止まれ石矢魔ぁ!!こいつらが見えねぇか!!」

「あぁ?」

「何?」

 

 その声に男鹿と古市が振り向き、人質の2人に気づく。だがさらに見せつけるように2人にナイフを突きつけて脅してくる。

 

「はははは。坊ちゃん高校の生徒だ。コイツらを巻き込んだとあっちゃテメーらもタダじゃ済まねーよな?」

 

 脅されてた男鹿は人質の方へ指を差しながら古市へ目を向ける。

 

「....な?」

「....な、じゃないけど」

 

 そんな呑気に会話している2人に反して、人質とされてしまった山村は後悔を抱いていた。

 自分だけでなく幼馴染である梓を巻き込んでしまったことも、憧れの男鹿に迷惑かけてしまっている現状にも。

 

(くそ...!やっぱりオレみたいなのが簡単に立ち入って良い世界じゃなかったんだ..!)

 

 しかし2人には救いの手が差し伸べられる。後ろからよく通る澄んだ女性の声が聞こえてきた。

 

「その子達を放しなさい」

「...へ?」

 

 すると突如先ほどまでナイフを突きつけていた男が狭い路地裏の壁に左右に打ち付けられるように遠くまで吹っ飛んでいった。

 何が起きたのか理解ができない山村と梓が後ろを向くとそこには壁に立てかけられていた傘を構える石矢魔の制服の女子生徒。

 

「今後聖石矢魔に手ェ出したら...うちらが黙ってないよ」

「..ク..女王(クイーン)!?」

 

 助けてくれた予想外の大物に驚く山村。

 

「あ!葵ー!」

 

 呑気に邦枝に手を振る古市。そしてどよめく帝毛高校の面々。

 

 

 

 

 その後邦枝と男鹿による蹂躙劇が始まり、すぐさま1人残らずボコされたのは言うまでもない。

 狭い路地裏の壁には30センチ間隔にと上半身をめり込んだ男達。そして地面にも所狭しと転がっており、見る人によればトラウマになるような現場が出来上がった。

 

「いやー..ありがとう葵。助かったよー。てっきりもう帰ったと思ってたけど..」

「べ..別に..あれよ!」

 

 やんややんやと褒めそやし礼を述べる古市。邦枝はチラチラと頬を染めながら男鹿を気にしている。

 

「学級委員の仕事任されて遅くなっただけよ!!だ..だから一緒に帰ろうとかそんなこと思ってないから!!」

 

 もはや典型的なツンデレすぎて心のうちを明かしているような邦枝に古市は温かい目でにまにましている。

 しかし男鹿はというと...

 

「やっぱ...イマイチ..」

 

 自身の調子が芳しくないのか肩に手を当てて思いに耽っていた。鈍感系主人公である。

 

 そのまま帰路に着こうと歩み出す3人に山村が待ったをかけ、頭を地につける。

 

「お..男鹿さん!!どうかオレを舎弟にしてください!!!」

「....は?」

 

 彼は山村和也。夏休みが明け、憧れの不良になる為に一歩踏み出した勇気をもった男である。

 

 

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