TS異能力古市   作:ブッタ

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大変遅くなり申し訳ありません..涙


第22話 閑話のお時間です

 

 

 初めて彼等に会ったのは中学の時だった。

 

 

 町中でヤンキーに絡まれていた僕を男鹿が助けてくれた時がキッカケだった。

 

 きっと彼にとってはそれは僕を助ける為じゃなくて、ただ目障りなものを道すがら払っただけだったのだろう。

 それでも、僕にはその何者にも屈っさず堂々と歩いていく彼の背中が、弱く自信もなかった当時の僕にひどく鮮烈で眩しく見えた。

 

 彼についていけば弱い自分の何かを変えられる。そんな漠然とした願いにも似た確信を持った僕は彼の背中を追いかけた。

 

 最初はぶっきらぼうに断られたけど、それでも当時の僕は弱い自分を変えたくて諦めず付きまとう。そんな僕に男鹿は諦めたのか、はたまたただ面倒になったのか何も言わず、彼は学校での溜まり場へ連れてきてくれた。

 

 その時に古市さんとも初めて顔を合わせることになった。

 

 目つきが悪さや素行の悪さで周りから遠巻きにされている男鹿とそれに反して綺麗に整った顔つきとそれなりに人当たりの良さを持つ彼女がよく一緒にいると良くも悪くも目立ってしまうのだが、男鹿はもちろんのこと彼女も気にしない。

 

 だからか、男鹿が僕を連れてきたことには驚いていたようだが僕が彼等と共に行動したいと懇願した時に彼女は簡単に受け入れてくれて、男鹿を言葉巧みに説得してくれたんだ。

 

 

 それから数ヶ月僕は彼等と行動を共にしていた。僕は強くなりたい一心で懸命にしがみついていった。

 

 ただ現実は甘くない。結局彼等に着いて行っても強くなれることは無かった。

 理由は簡単。どんなケンカに巻き込まれようと彼等だけで片付けてしまうからだ。

 

 当然失意はあった。強くなるために2人を追いかけていたのに、その2人が強すぎて強くなれないのだから。

 悩みもした。強くなりたいのならば2人といるよりも1人で鍛えた方が早いのではないかと...

 

 

 だけど僕は彼らと共にいることを選んだ。たしかに初めは強くなりたい一心で彼等といた。だけど時間が経つにつれてもっと単純で2人が僕を友人と認めてくれていたから一緒にいたんだ。

 

 あの時の僕は、弱くても..いずれ彼等と一緒に強くなって彼と彼女の隣に立ちたい。そう思っていた。

 

 あの事件が起こるまでは....

 

 

 

「え?転校?ホントに?いつ?」

「はい..次の夏休みに入ったらお母さんの実家の方に...奈良だって」

 

────3年前の3月。僕は両親の離婚に伴い母方の実家のある奈良へと引っ越し及び転校することが決まってしまった。

 その日は珍しく雪が降り始めていた。

 

「奈良ぁ?えー超遠いじゃんか!」

 

 古市さんは僕の言葉に心から寂しそうな声を出してくれる。対して男鹿は

 

「知ってるぜ?デケェ大仏がいるところだろ」

「男鹿..今日の社会でやった所覚えてるなんて珍しい」

「ナメんな」

 

 いつも通りにどこか気の抜けたことをコンビニのチキンを買い食いしながら言っていた。

 それに僕もまたいつも通り困った笑いを浮かべ、古市さんは揶揄うように突っかかる。

 

「でも..そっかぁ転校か..。んじゃあ!!」

 

 古市さんは急に僕と男鹿の首の後ろへ腕を回して抱き寄せて来る。

 

「今日はどこか寄り道していこうよ!」

 

 いつものように男鹿や僕に見せてくれる人懐っこい笑顔浮かべて彼女はそう言った。

 

「ふ!?古市さん近いって!?」

「ん〜?何さ?ワタシとくっつくと何か不都合でもぉ?」

 

 動揺する僕に古市さんはニマニマと顔を歪ませて揶揄ってくるが、僕は身体で感じる彼女の体温や柔らかさに何も言い返せない。

 

「無駄に苦しーし鬱陶しいから離せアホ市」

「───オラァッ!!

「あぶねっ」

 

 男鹿の言葉に古市さんは憤慨し蹴りを放つも簡単に躱されてしまう。僕もその隙にそそくさと拘束から逃れる。

 

「このヤロー..ド失礼なことばかり言いやがって..」

「そ..それより古市さん..寄り道って?」

「..そうだった。ちょうど雪も降ってきたし丁度いい場所があるんだよー」

 

 

 そう言って連れてこられたのは街にある使われてなかった廃ビルだった。

 来る途中にコンビニで各々好きな食べ物や飲み物を買って、そのビルの中で僕達3人だけのちいさなパーティを始めたんだ。

 

 パーティなんて言ってもそんな大層なものじゃない。ただ好きなもの食べて、ただ他愛もない話に花を咲かせるだけのよくある下校の寄り道だ。

 

 けれどあの時ビルの中には僕ら3人しかいなくて、ただ楽しさに満ち溢れていたあの空間は街の喧騒も日々の喧嘩も、やがて来る僕等の別れも忘れさせてくれたんだ。

 

 

 

───外も暗くなり、僕らはビルを出て家への帰路を歩く。

 

「あ...忘れ物..さっきのビルだ。取りに行かなきゃ」

「ついてこーか?」

 

 母が僕のためにと買ってきてくれたお守りがないことに気づいた僕がビルへ戻ろうとすると古市さんが心配してくれる。

 

「大丈夫!先に帰ってて!」

 

 僕はそう言って、1人で忘れ物を取りに来た道を戻る。

 

 ビルに着いた僕は忘れたお守りを見つけることができた。しかし

 

「あの...それ僕のなんです!返してくれませんか!?」

「あ?」

「なんだ?テメェ?ここはオレらのシマだぞ」

 

 それはこの廃ビルを溜まり場にしていた有名な隣の中学の霧矢令司の手の中にあった。

 彼の手下にからまれていると奥にいた霧矢が僕に見せつけるようにそのお守りを地面に落とす。

 

「何がお守りだ..キモイんだよ」

 

 そしてそれを何度も踏みつける。

 

「やめろぉ!!」

「おっとぉ!させねーよ」

 

 僕が止めようとするも手下達に取り押さえられてしまう。振り払おうともがくも力の無い僕ではどうすることもできず、ただただ踏みつけられる母の善意を眺めることしかできない。

 悔しさと無力さに打ちひしがれていると急に押さえつけられていた身体が軽くなる。

 

 何が起きたのかは、すぐにわかった。なぜなら押さえつけてきた不良が吹き飛び、そして僕の前に

 

「よう。こいつら友達?」

 

 男鹿が不敵な笑みを浮かべていたのだから。

 

 また助けられた。周りの不良たちも男鹿の登場にどよめいている。すると出口の方から古市さんがこっちへ走ってきた。

 

「三木!大丈夫!?」

「あ..ありがとう」

 

 まただ。また僕はこの2人に助けられる。結局それはこの数ヶ月間どんなに頑張っても変わらなかった。

 そう複雑とも言える感情が胸に渦巻く僕に男鹿が声かけてきた。

 

「忘れもん探すんなら手伝うが..必要か?」

 

 その時の彼の目つきはいつも通り悪くて、それでいて何かを待っているようだった。

 そして僕は彼の提案を

 

「いや..1人で大丈夫だよ」

 

 断る。ここでまた彼等を頼ってしまえば、また彼等に助けられてしまえば、もう2度と彼らに追いつけなくなる。

 たとえ弱くても...怖くても僕はここで戦うと決めた。強くなる為に。

 

 

 

 結果僕はお守りを桐矢から取り返すことができた。代償に霧矢の武器である爪で頬に二筋の傷ができてしまったけれど。

 僕は彼の足に組みついて取り返し、男鹿が彼の爪を使って僕の代わりにやり返してくれた。

 

 その帰り道。心配そうな古市さんに頬を手当てしてもらう僕に男鹿が言った言葉は今でも覚えている。

 

「オマエ結構根性あんじゃねーか」

 

 それは初めて君に認められたような気がして嬉しかった。こんな僕でも少しは強くなれた..何か変われた気がして嬉しかった。

 

 

 

 

────けれどそれは本当に気がしただけだったんだ。

 

 僕の転校まで残り数日といったところ..僕らの通っていた硬中にある噂が広まっていた。

 

 それはあの霧矢が報復のために男鹿を毎日蛇のようにしつこく追っかけ回しているという噂だ。

 それを聞いた時僕は居てもたってもいられず、校内にいたボロボロな男鹿を見つけ出した。

 

「男鹿君!!ど...どうして言ってくれないんだ!!僕が原因なんだから一緒に...!!」

 

 

つーか..お前誰だっけ?

 

 

 その言葉に一瞬頭が真っ白になった。そんな何も言えなくなってしまった僕を置いて男鹿は歩いていった。

 庇ってくれたのだろう..そう思っていた僕は男鹿ではなく次は古市さんを見つけて話しかける。

 

「古市さん!!」

「み..三木..」

 

 意外にも男鹿とは違い怪我ひとつないその姿に一瞬驚いたが、首を振って問い詰めた。

 

「古市さん!霧矢のこときいて..それで男鹿君のとこに行ったら...」

「あ..あーと..それは...その」

「僕が原因なんだ...だから僕にも戦わせてよ!」

「.........」

 

 その時の古市さんは珍しく歯切れの悪い言葉を漏らすばかりでそれは僕の焦燥感を焚き付けた。

 

「男鹿君は僕を庇おうとしてるんだろ!!でもそれなら...っ!!」

「.....三木」

 

 古市さんは僕の両肩に手を置いて、目を合わせてきた。

 

「今は理由は言えない...けれどワタシ達を信じて引っ越すまではアイツから離れていて」

「..古市さん」

「ワタシも男鹿も....たとえアンタと離れても友達だと思ってる」

 

 そう優しく言い聞かせてくる古市さんはどこか悲しそうな目をしていたのが印象的だった。

 結局僕はその日から古市さんの言うとおりに引越しの前日まで彼に近づかないようにした。

 

 彼女の言葉で男鹿は僕を庇ってくれてると確信した。他人のふりして危険から遠ざけようとしているんだと。

 でもそれでいいのだろうか...古市さんはあぁ言ったけれどこのまま関係ないフリで彼だけを戦わせたままなんて..

 

 

 そんな葛藤を抱えた転校前日...事件は起きた。

 午前の授業中に校庭から怒号が響き渡る。それは高校生や大人も混ざったグループを引き連れて現れた霧矢のものだ。

 

 彼の目的は当然男鹿。突如攻めんできた不良達により授業は中断されてしまう。

 すると校舎から1人出てくる。

 

「───男鹿君!!」

 

 あの時、彼の姿を見た瞬間今まで抱いていた葛藤や古市さんの言葉を振り切り走って教室を出た。

 

 僕の蒔いてしまった種だ。どうせ僕は明日この町から居なくなるんだ。だからたとえ足手纏いでも僕は...!

 

「男鹿君!!!僕も一緒に────

 

 

 戦う。その言葉を口にすることができなかった。

 

 

 男鹿の乱雑な裏拳が僕の顔にモロに入って吹き飛ばされた。何が起きたのか..何をされたのか分からなかった。分かりたくなかった。

 

「馴れ馴れしいしィンだよ。テメェなんざ知らねーつってんだろ」

「う....な..なんで」

「すっこんでろ!!!弱ぇくせに目障りなんだよ!!!」

 

 男鹿はそんなうずくまる僕を分からせるように何度も何度も何度も踏みつけ、蹴ってきた。

 

 

 ズタボロになった僕を置いて進んでいく男鹿の背中を追いかける気にはもうならなかった。

 

 古市さんの言葉は見当違いだった。彼は友人だなんて思ってなかった。

 

 散々ゴミのようにズタボロに蹴られた身体は今まで1番の怪我で、けれどそれよりも裏切られたこの心が1番痛みを訴えてきて、もう身体は動かなかった。

 

 

 

 

 こうして僕は彼等と別れた。

 

 

 

 

 そして今、なんの因果か、僕は彼等とこの高校で再会をした。彼の噂はあの時のままやりたい放題暴れ回っていることを教えてくれた。

 

 石矢魔の生徒をウチで受け入れると聞いた時、誰にも言えないけれど心が踊るほど嬉しかった。ようやく彼に知らしめることができる。僕はもうとっくにお前より強くなっていること、お前は強くなどないことを..

 

 彼と未だ一緒に古市さんはまだ彼が友人を思う心があるなんて幻想を抱いてみたいだったから、覚まして貰いたくてウチに勧誘してみたけど結局彼を選んだ。

 

 ならば2人とも僕が叩き潰す。彼の驕りを、彼女の間違いを僕の力で分からせる。

 

 そう思っていたのに...

 

「スポーツで勝負ってどういうことですか出馬さん!!」

「ん?ええやろ?学生らしいし、学園祭も盛り上がるで?」

「ふざけないで下さい!!僕がつけたいのはそんな勝負じゃない!!そもそも勝ったところで誰も納得しませんよ!!」

 

 廊下を歩く出馬さんに抗議の声をあげる。今朝急に伝えられた僕ら六騎聖も石矢魔のスポーツ対決。

 これの勝敗で互いの遺恨を断とうというのだ。

 

「ほなまたケンカするか?流石に次は庇えへんで?」

「だからって...」

「しゃあない..ちょっと耳貸しぃ」

 

 僕は出馬さんの言う通りに彼の口元に耳を近づける。

 

「ここだけの話お前の決着の場はちゃんと用意しとんねん。先生らには内緒やけどな?」

「ほ....本当ですか?」

「あぁ...さ、楽しくなるで!!」

 

 出馬さんは僕の肩を勢いよく叩くと、そのまま楽しそうに歩いていく。

 

「あ...そういえば種目はなんなんですか?」

 

 

「んー?バレーボールや」

 

 


 

 

 ────放課後 聖石矢魔の体育館に甲高いホイッスルが鳴り響く。しかしそこにいるのはいつもの部活動に励む生徒達ではなく、

 

「全員集合!!」

「ダーっ!」

 

 スポーツもは縁のない筈の石矢魔の生徒達だ。理由は当然六騎聖とのバレー対決に勝つ為の練習をするのだ。

 しかしそこにいるのは邦枝を始めとする烈怒帝瑠の面々の前に正座をしてやる気を見せるベル坊。

 

「...これだけ?」

「男鹿ならそこで寝てます」

 

 そして体育館の隅で昼寝を決め込む男鹿のみ。退学組は誰1人参加していない事実に邦枝は引き攣った笑みをこぼす。

 

「他の人達は..?」

「多分帰りました。どうしますか姐さんウチらだけで練習しても退学組がこねーと意味が...」

「他の4人はわかるッスけどツムっちが来てないのは意外ッスねー」

 

 花澤は意外そうな声をだすが、邦枝はそれに静かに補足をする。

 

「紬貴なら聞いてるわ。あの子は今日放課後お爺さんに会いに魔二津に行くから参加は明日からですって」

「魔二津って...結構遠くないッスか?放課後で行く距離じゃ..」

「でもあの子結構行ってるらしいわよ」

 

「てかそもそもツムっち..電車賃とかあるんスかね?」

「...たしかに」

 

 花澤の溢した疑問に邦枝は納得の意を示す。しかしどれだけ考えても誰もいない現状は変わらない。

 これからのことを思うと頭痛がする邦枝だった。

 

 


 

 

────魔二津の山奥にある寺。そこの境内を箒で掃き掃除に励む1人の少女が1人。

 

「ふぅ...」

 

 樫野諫冬。この寺に住む中学生だ。艶のある綺麗な長髪を二つに纏めて前に流して巫女服を身に纏う彼女はせっせと一生懸命境内を綺麗にしていく。

 

 

 そこへ1人の人影が空から降りてくる。

 

「こんちゃー。元気してたイサ?」

「あ..紬貴ちゃん...」

 

 古市が制服をたなびかせながら降りてきたのに気づくと樫野は掃除の手を止めて彼女の方へ寄っていく。

 

「ん?イサ..すこし背伸びた?」

「うん。2センチぐらい...紬貴ちゃんはいつもの?」

「そーそ。爺さんは奥?」

「今は本堂にいるよ」

 

 そう答える樫野に軽くお礼を言う古市は手慣れたように寺の中へ入っていく。

 度々すれ違う僧侶達に挨拶しつつ、目当ての本堂まできた彼女は少しだけ障子を開いて中を伺う。

 

 中には黒を基調とした道服を着た老人が本堂の大きな仏像へ手を合わせていた。

 邪魔しないようゆっくり障子を開けて音もなく入ると、古市はそのまま閉じた障子の近くに正座で腰を下ろす。

 

「...よく来ましたね。紬貴」

「元気そうで良かったよ爺さん」

 

 合わせていた手を下ろし、ゆっくりと古市へと顔を向ける老人は人の好さを感じさせる笑顔を向ける。

 

「つっても前回は3ヶ月前ぐらいだけどね」

「おや?もうそんなに経ちましたか。いやはやここまで歳をとると時間が瞬く間に時が過ぎていく...」

「元気な証だよそれは」

 

「はは..紬貴は最近はどうですか?また喧嘩に明け暮れているのですか?」

「い..いやーまぁぼちぼちかなぁ?アハハ」

「元気なのは結構。しかし両親にいらぬ心配と世話を掛けさせないように」

「...うす」

 

 古市に釘を刺すこの老人は樫野諫冬の祖父、そして古市が赤子の頃から先祖返りの関連でお世話になっているこの寺の住職である。

 いつも人の良さを感じられる笑顔を浮かべる人格者であり、彼を慕うものも多い。

 

 古市は3、4ヶ月に一度住職を訪れて先祖返りの影響が身体に何か変化をもたらしていないか小さい頃から診てもらっているのだ。

 

「それでは早速始めましょう。背中をこちらへ」

「お願いします」

 

 古市はシャツを脱いで背中を露わにして住職へ向け、住職は彼女の背中に片手を添えて暝目して集中する。

 

 それは1分もかからずに終わる。

 

「...はい。今日も異常はなく至って健康。しかし何やら前回から今日まで風を使うことが少し増えたようですね?」

「それは..ちょっと最近身の回りが変わって..」

「この感じだと今日も飛んでここへ来たのでしょう。いえ別に問題があるわけではありませんが」

「今日はもうお小遣いが無いから電車に乗れないの」

まだ9月初めなのに

 

 いつもの定期検診も終わり、2人は少しの間互いの近況と共にとりとめのない世間話に興じる。

 住職は勿論、古市もその時の様子はいつも通りに互いの会話を楽しんでいた。しかし彼は何かを感じ取る。

 

「...紬貴。何か悩みごとですか?」

「え?な、何で?」

 

 目の前に座る住職の唐突な言葉に鳩が豆鉄砲をくらったように目を丸くする古市。そんな彼女を見て住職は優しく言葉を紡ぐ。

 

「もう随分長い付き合いですからね。貴女が上手く隠していても何故か分かります。所謂勘です」

「..ハハ..ホントかなわないなぁ」

 

 優しい住職の言葉に古市は片手を首に当てて困ったように眉尻を下げる。

 

「爺さんはさ、友達とか親しい人が沢山いるじゃん?尊敬する弟子も」

「有難いことです」

「もし...もしその友達が敵意を持ってたら...爺さんはどうする?」

「......」

 

「ソイツがワタシ達を恨んでいて、別の友達を傷つけた奴等なんかの味方して.....ワタシはついカッとなっちゃって酷いこと言って..」

 

 眉を八の字して顔を曇らせる古市は両膝を口元へ持ってくるように抱えて話を続ける。

 

「なんでかなぁ...せっかく久しぶりに会えたのに..誤解が解けたらまた前みたいになれるかもって思ったのにな..」

 

 

 

 

 

「──紬貴」

 

 

 

 膝を抱える古市の頭に住職は優しく乗せる。

 

「貴女は優しい。家族は無論、友人もすごく大事にできる子だ...ですがそれは貴女の長所でもあり、短所でもあります」

「────...」

「友人を大事にするのは良い...しかし大事に思うが故に他人への容赦を失くしてしまうのはいけません。たとえそれが友人を傷つけた相手だとしても...それが喧嘩別れした友人だとしても」

 

 黙って言葉に耳を傾ける古市を優しく撫でる住職の目はまさしく元気の有り余る孫を見るそれだ。

 

「....喧嘩別れしたって言ったけ?」

「話されてはいませんが、今の貴女は一時期酷く落ち込んでいた時と同じ眼をしていたので推測で話しました。流石に不躾でしたね」

「そんなことないよ...ホントのことだし」

 

 そう言って目を逸らす古市に住職は軽く笑みを溢し立ち上がり、彼女の方へ手を差し出す。

 

「笑って赦せるようになりなさい紬貴。人の敵意も悪意も、全て笑い飛ばして赦しなさい。それだけが今の貴方に必要なことです」

「ゆるすって....」

 

「できる筈...だって貴女は心から人のことを思いやれるのだから。その心を友人や身内以外にも向けてあげなさい」

「.....わかったよ..爺さん」

 

 古市は住職の言葉に頷くと彼の手を手を取って立ち上がる。

 

「まだ..よくわかんないけど....なんとなく心は軽くなった」

「この老人の言葉が一助にでもなったのなら良かったです」

「いつも助かってるよ爺さん。それじゃワタシは帰るよ..今日は会えて良かった」

 

 古市は住職に笑って告げると帰る為に障子の方へ歩き出す。しかし彼女の背中へ住職が声をかける。

 

「──紬貴..これからある人が帰ってくることでこの街は少々荒れるかもしれません。貴方の()()()()()()()()を中心に..」

「....爺さん?」

 

 

「故にこれは心に留めておきなさい。───何が起きようと風は常に貴女の味方であることを」

 

 

 古市は瞠目した。今まで人の好さが滲み出ていた優しい笑顔を絶やさない住職がそれを無くして真剣な表情となっていたから。

 

「...わ..わかった」

「では今日はこれにて。外も暗くなって来ましたが...どうやら()()も来ているようなので安心出来ますね」

 

 さっきの雰囲気は一瞬に霧散していつものように好々爺らしい表情になった住職がそう言うと同時に障子が勢いよく開かれる。

 しかし迎えとは誰か?彼女の母親?

 

 

「迎えに参りました。古市殿」

 

 

 いえ迎えにきたのは次元転送悪魔(アランドロン)でした。

 完全に想定外だった古市が白目を剥いているがアランドロンは気にせずカモーンと言いながら身体を縦に割り古市を体内へ吸い込む。

 

 割った身体を閉じたアランドロンは住職に向き直る。

 

「失礼しますお爺様。転送!!!」

 

 そう言葉を残してアランドロンは姿を消して、残されたのは笑顔を浮かべる住職のみ。

 

 すると障子の方から年若い少女の声が聞こえてくる。

 

「..あれ?紬貴ちゃん帰っちゃった?」

「あの子ならたった今迎えと共に帰りましたよ諌冬」

「そっか...」

 

 

 

 

 

 

「...諫冬。貴女は喧嘩や争いごとに明け暮れないように」

「しないよお爺ちゃん!」

 

 古市のことを大事に思っているが、彼女の荒っぽい所の影響は実の孫である樫野には受けてほしくないと密かに思う住職なのでした。

 

 





何度かゼロから書き直して...結果閑話みたいになってしまいました...。
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