学園祭により活気が溢れる聖石矢魔学園。生徒達が日々の忙しい学業を忘れて楽しむそのイベントの中で異様な集団が体育館を目指していた。
緑を基調とした学校の制服にもれなく全員スキンヘッド。ここ辺りでは有名な石矢魔とは別の不良高校〝帝毛工業〟の面々である。
しかし彼等を連れて先頭を歩く男はスキンヘッドではなくボサボサとしたアフロヘアをしており、顔には三筋の傷が走っている。
「随分とまぁ...盛り上がってんじゃねぇか。男鹿ぁ」
そう呟く彼の目つきは獲物を見つけた蛇のように鋭く妖しく光る。
『エキシビジョンマッチバレーボール対決を制したのは、石矢魔チームですッ!!!』
実況の言葉を皮切りに体育館が震える程の勝者を讃える喝采と歓声が湧き上がる。佐渡原に至っては余りにも感動して静かに涙を流していた。
「クソッ!!」
その歓声の中で床に拳を叩きつけて悔しさを露わにする三木。
「すいません...僕が、僕が最後押し返せていれば....!!」
「...アホ。チームで戦ったんだろうが。勝手に1人で背負い込むんじゃねぇよ」
すると郷は顔を俯かせる三木の頭を軽く小突く。人一倍責任感が強く、人一倍生真面目すぎる後輩が後悔や自責で潰れてしまわないように。
熱い対決をした両チームは審判の指示する通り最初と同じ様に向かい合って整列する。すると出馬がどこか呆れが混じったような様子で古市に話しかける。
「やれやれ...負けてしもたな。しかし..古市さん君には驚かされるわ。屋上ん時もそうやし、今日のバレーん時も何回も躊躇なく
「...前も思ったけど...アンタ何もん?ワタシのこれが何か分かってんの?」
「いや?君のソレは僕が知っているのとはどこか違いそうや。なーんも分からん」
「どーだか...」
額から流れる汗を拭う古市は訝しげに気になっていたことを聞くも、あっけらかんに肩をすくめて言う出馬にじとりと半目になりながら言葉を漏らす。
「────怖くないんか?」
唐突に投げかけられたのその疑問に、意味が分からず一瞬呆気にとられる古市。
遠回しに喧嘩でも売られたかと勘繰りもしたが、すぐに意図を理解した古市はなんとなくではあるが彼の正体に察しがついた。
「......さぁね。けど少なくともワタシには
そう話す古市は目だけを列の端っこに立つ男鹿へと向け、出馬も続いて男鹿を見る。
「?」
「そうか...。男鹿君ゆうたか?なんとなくやけど久也がずっと執着する理由分かった気がするわ」
当然何の話かわからない男鹿は頭にハテナを浮かべる。男鹿だけではなく、2人の話を聞いていた他の面々も疑問を浮かべておりそれに気づいた出馬は話題を変える。
「ま、これから男鹿君と三木にはまだ────
『あっ!?ちょなんですか貴方!!返してください!!!きゃっ!!』
『あー..テステス。はーい静粛に』
その声に顔を向ければ、先程まで実況を務めていた女子が軽く殴られたのだろうか額を赤くして椅子から転げ落ちており、実況席の机に胡座をかくボサボサのアフロの男がマイクを使っていた。
六騎聖や石矢魔、そして観客達も突然の展開にざわめき立つ。
『いやぁ..いい試合だったねぇ。スポーツを通じて一致団結、流れる汗に迸る情熱...お互い死力を尽くしたその先には、もはや一切のわだかまりもなくいつしか認め合う両者。実にいい展開だ..少年漫画にとって模範的な展開だなぁ..?』
その男は三筋の傷が目立つ顔を男鹿へと向ける。
『クソ似合わねぇ事してんじゃあねぇぞ...男鹿ぁ..!』
「...あ?」
「霧矢っ!?」
男の顔を見て三木は驚きの声を上げる。それもその筈この男こそ男鹿と三木が仲違いすることになった原因、霧矢零司なのだから。
霧矢は机を飛び降り男鹿へと近づいていく。
「驚いたぜ?まさかテメェがこの学校にいるとはよぉ...あ?」
「..出ていってもらえるか?ここは君みたいのが来るとこやない」
しかし出馬は誰よりも先に霧矢の前に立ちはだかり、静かにそしてはっきりと拒絶の意思と警告を伝える。
出馬の警告に怯えるどころか薄っすらと笑みを浮かべて霧矢は口を開く。
「残念だったなぁロッキセーの兄ちゃん。てめぇらの出番はねぇよ...素直に大人しくしとけ。大事なお友達を傷モノにされたくねぇならな」
「──ッ」
その言葉に辺りに目を向ければ帝毛の不良達が観客席にいる生徒達や教師達を人質にされてしまっていた。
「帝毛...!?」
「わかったら大人しくしてな...」
「何が目的だ霧矢ッ!!」
「あぁ?....俺の名前知ってるとかどこかで会ったか?おチビさん」
「何...!」
三木が食いかかるも霧矢は彼を覚えていない様子で、それが更に三木の怒りを買う。
「ふざけるなっ!僕は───
「おいアフロ、オレに何か用か」
声を荒げる三木を遮って男鹿は霧矢へと一歩詰め寄る。不機嫌そうな男鹿の表情を見て霧矢は愉快そうに笑う。
「用..?生ぬるい事言ってんじゃねぇぞ男鹿。俺はテメーの人生をぶっ壊しにきたんだ...!!この俺の顔面に傷を付けてくれた礼になぁ!!!」
声を荒げ男鹿の腹部を突き刺す様に蹴り飛ばす。軽く咳き込む男鹿に霧矢は金属バットを片手に近付いていく。
「年少だろーがムショだろーが関係ねぇ。必ずテメェも道連れにして地獄へと落ちてやる...さぁホラ、どうした?手ェ出せや。無抵抗なオマエを殺してもつまらねぇからな」
「...道連れだぁ?勝手にテメェ1人で地獄に堕ちてろ。暇じゃぁねぇんだこちとら」
「...そう言うなよ。俺達ぁ中坊からの付き合いだろーがぁ!!!」
容赦なく振り下ろされる金属バットに男鹿は無抵抗に殴られる。何度も何度も鈍い金属音と共に殴られる男鹿を見て霧矢は心から愉快そうに笑う。
身勝手な私怨を身に宿すマムシは長き道筋を経て今、愉悦を浮かべて獲物へと牙を突き立てる。
「いい加減にしろ!!」
その光景を目の前に三木は黙っていられるはずもなく、霧矢に対して〝崩拳〟を放つ。
かろうじて霧矢はバットを盾にして防げていたものの、金属製であるはずのそれがへし折られており軽く汗を流す。
「おいおい...なんつー威力だよ。しかしオメーさん鳥頭か?人質がどうなっても...」
「僕を忘れたのか!!!」
「あ?」
「何故今更復讐だ!?それに復讐ならば僕も相手にするべきだろう!!!」
「.....?あ、あー。お前..あの廃ビルで御守りとか言ってた奴か。思い出した。確かにそうだその頬の傷俺が掴んだんだもんな?オマケにお前俺達の前で男鹿にボコされてたろう?そりゃあ忘れるさ..余りにも小物すぎてよ」
「貴様..!!」
「それに今更とか言われても仕方ねぇだろ。なんせ...
────奈良に引っ越しちまったからなぁ...あの後すぐに。
その霧矢の言葉を聞いた瞬間、三木の頭は真っ白になった。奈良..それは中学の頃三木が引っ越す時と同じ場所だ。
(奈良...だって?)
「だが俺は受けた屈辱は忘れねぇ..どこまでも食らいついて必ず後悔させる。丁度いい..お前も一緒に道連れにしてやるぜ?」
(...もし..もしかして、あの時男鹿と古市さんはこれを...!?)
思考がぐるぐると纏まらない三木は、霧矢の言葉もそして
突然後頭部を襲う強い衝撃、三木は耐えきれず膝をついてしまう。振り向けば特徴的な4人の帝毛の不良がそこにいた。
「おう。おせぇぞオメーら」
「悪りぃ悪りぃ。共学の学祭って初めてで楽しくてよ?」
そう霧矢に返すのはピアスや指輪などアクセサリーを沢山身につけ、1人だけストリート風の装いをする三鏡考太郎。
「しかし何だ。未だ喧嘩になっておらんではないか」
不服そうに息と共に言葉を漏らすのは2メートルは超えているであろう巨漢と東条にも引けを取らない筋肉を持つ鬼塚雲昇。
「....こいつが男鹿ですか?」
「どー見ても違うでしょチビだし。顔はワタシ好みだけれど♡」
表情を崩さずに確認する黒木光星、それを否定するオカマ口調な出崎巧。
彼等は4人を人は帝毛の「影組」と呼ぶ。ちなみに全員剃り残し一つない綺麗な坊主である。
「このっ!」
三木は負けじと4人に攻撃を仕掛けるも、多対1の訓練をしたことのない彼が勝てる筈もなく4人の連携の前に血を流す。
「可愛いけどごめんね?死んでちょうだい!!!」
「....」
「くっ!!?」
怯む三木へと迫る出崎と黒木。しかしその毛一つない2人の頭を後ろから鷲掴みにされる。
「死ぬのは...テメェらだッ!!!!」
男鹿である。
悪魔の如き膂力で2人の顔面を体育館の床へ叩きつけめり込ませる。驚愕を隠せない三木に背中を向けて立ち男鹿は口から血を吐き捨て、口を開く。
「仕方ねぇ....とっとと片付けんぞ
それは今までのように突き放したような物言いではなく、不器用ながらも優しさを滲ませた声で、彼は数年ぶりに友の名を呼ぶのだった。