TS異能力古市   作:ブッタ

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第27話 魔王

 

「あーあやっちった」

 

 そう呟く古市はいつものように男鹿の暴れっぷりに苦笑を浮かべている。

 しかし並ぶ男鹿と三木の背中を眺める彼女の目はまるで眩しさを感じているかの様に細め、胸に咲く懐かしさと高揚感に口元を和らげた。

 

 

「クヒヒッ。コイツら4人は強いぜ?せいぜい2人仲良く退学になってくれや」

 

 霧矢が愉快そうに言うとめり込んでいた影組の2人がケロっとした様子で立ち上がり、他の2人と一緒に男鹿達を取り囲む。

 明らかに不利な状況に邦枝と七海が加勢を申し出てくる。

 

「待ちなさい!!」

「そういう事なら私も加勢するわよ!」

 

「「待って葵(あかんで静さん)」」

 

 しかしそれは完全に悪手と判断した古市が葵の腕を掴み、同じく出馬が手を上げて七海を静止させる。

 助けに行くことを止められることに2人は納得できない。

 

「どうして出馬くん..!?」

「これは久也の闘いや」

「それに人質を忘れちゃダメだよ。アフロが手を出すのを許したのはあの2人だけ...下手に刺激すればどうなるかなんてわかるでしょ?」

 

「でも...」

 

 理由を聞いて納得をする、それでも心配する様子を隠せない邦枝に古市は腕を離して彼女の頭に手を乗せる。

 

「だいじょーぶ、どう転んでもアイツらがあんなのに負ける訳がないだから信じてどっしり構えて見てればいいの」

「どっしりって..」

 

「それもええけど、少し力を貸してくれへんか?石矢魔の皆さん」

 

 そう言い聞かせていると出馬はこっそりと古市達に話しかけてくる。霧矢は男鹿達と影組の喧嘩に集中しており、気づく様子を見せない。

 

「アイツが久也達に夢中になってるうちに僕らで人質を解放したいんや」

 

 出馬はこの機を逃さず人質を救出するべく石矢魔の面々に協力を願い出る。しかし

 

 

 

 

「嫌だよ。ここでそんな事して..そっちの先生にどんなイチャモンつけられるかわかったもんじゃない」

 

 

 

 

 その願い出に古市は拒否の意思を示す。

 

「ただでさえあのアフロは男鹿を目的だと言ってるんだ。その上人質救出の為とはいえこっちが手を出したら、ワタシらを追い出したいあのおっさんがそれを追求するでしょーが」

「そんなことはない筈や」

「いやするよ、アレはそういう人間だ。それに人質と言っても全員そっちの生徒や先生...ワタシ達がそんなリスク取る必要がない」

 

「ちょっと..!貴女ね今はそんな事言ってる場合じゃあ....!!」

「ただ」

 

 人質を蔑ろにしようとする古市の発言に我慢できず七海は声を荒げて詰め寄る。しかしそんな彼女の言葉を遮る様に、古市は出馬へと妖しく笑みを浮かべて口を開く。

 

「今から出す条件を呑むのならば手を貸すよ」

 

 

「紬貴...。今ひどい顔してるわよ」

「なんでテメェが仕切ってんだ?一年坊のくせに」

う っ さ い な ぁ!ちょっと静かにしてて!?

 

 茶々を入れてくる邦枝と神崎に古市は顔を赤くしてツッコミを入れるが出馬は淡々と話を促す。

 

「そんで条件とはなんや」

「......コホン。条件ただ一つ、この騒動の責任がワタシ達や男鹿の方へと行かないようにしてほしい。これだけだよ」

「.....わかった。そうならへんよう尽力を尽くすこと約束するで」

「出馬くん!?」

 

 古市の要求を二つ返事で了承する出馬に吃驚する七海。ごねると思っていたのか古市は意外そうな顔をする。

 

「随分と簡単に引き受けるね?」

「今は一刻も争うんや。僕らだけでどうにかしたいが...如何せん数が多過ぎる、君らの手が必要なんや。元々勝負に勝った君らがこの騒動を責任とるのもけったいな話やしな」

 

「そ。んじゃ交渉成立ってことで?」

「ああ。手っ取り早く進めよか。見た感じやと1階の観戦席には25人と2階の観戦席に10人の帝毛の奴らがおるみたいやな」

 

 状況の再確認のために体育館を見渡せば出馬の言う通りの人数が確認できる。帝毛の不良達は全員坊主である為確認が容易である。

 すると邦枝が考え込む様に顎に手を添える。

 

「問題はどう攻めるかね..派手に行けば人質が危ないわ」

「それにあのアフロさんにも勘づかれてはいけません。迅速かつ忍びやかに対処しなければ...」

「ま、ステルスミッションをノーアラートでタイムアタックしろってことね。よゆーよゆー」

 

 横文字を並べる古市にゲームに詳しくない七海と邦枝が頭を傾げるも、気にせず古市は話を進めていく。

 

「とにかく、大人数が上に行けばあのアフロに勘付かれる。上は少数精鋭、下は残りで片付けていこう」

「せやな。それがええ」

 

 人質救出作戦の方針が決まる。すると神崎と東条が話に入ってくる。

 

「少数精鋭...仕方ねぇな。メンドクセーがオレが言ってやるとするか」

「上の奴らをぶっ飛ばせばいいんだな?」

 

いや、2人は大人しくしてて下さい

「「なんでだよ!!!」」

 

 冷たく言い放つ古市に2人は青筋を浮かべて彼女に詰め寄るが、古市意見を変えない。

 

「ただでさえ何もしてなくても目立つ様な容姿なんだよ2人とも。1人は金髪かつチェーン付きピアスで、もう1人は筋肉もりもりマッチョマン。バレないなんて無理でしょ」

「んだとこのヤロー。やる前から諦めたんじゃねぇぞ一年坊」

「パイセンらには万が一何かあった時の()()()()としてドンと構えていて欲しいんスよ」

 

「「秘密兵器...」」

 

 秘密兵器という言葉に納得したのか大人しく下がる2人。

 

 結局1階は邦枝と七海を中心に烈怒帝瑠と六騎聖の数名で制圧することとした。

 

「そんで2階の方やけど、僕と古市さんで制圧しよう」

「りょ。じゃあワタシは左側いくね」

 

 簡潔に伝え、古市は霧矢たちの視線にを気にしつつもその場を離れて体育館の二階へと足を運ぶ。

 

 

 

 帝毛の不良は2階に合計で10人、つまり2階の狭い通路左右に5人ずつ見張りとして立っていることになる。

 そのため見張りの視線と人質の生徒達に気をつけていればそう難しいことではない。

 階段を登り二階へと行けば体育館特有の細い通路に大勢の生徒が立ち尽くし、一定の間隔でパイプやバッドを持つ帝毛が立っている。

 相手に見つかれば怪我人は避けられない。

 

 

 ならばと彼女がとった手段は人混みに紛れることだ。

 

 

 幸い帝毛の不良も意識が半分男鹿達の喧嘩へと向いている。そのため人混みを静かに進みつつ古市は気付かれることなく1人目へと近づく。

 

「──ッ!?」

 

 間近に近づかれて見張りはようやく気づくも口元を抑えられすぐさま鳩尾に拳を叩き込まれ白目を剥き、ゆっくりと柵に背中を寄りかかる様に座らせる。しかし眠らせて終わりではない。

 当然周りに立つ生徒達は目の前で行われる犯行現場に怯え狼狽える。すぐさまに彼等が騒がない様に対処が必要になるのだが、

 

「ヒッ..こ、この人..!」

 

 怯えて声が上がる前にその女子生徒の唇を人差し指で抑え、古市は持ち前の顔の良さを活かして静かにさせる。

 

シーッ。みんな助けるから静かにしてね?

(...コクコク)

 

 

 その手口は完全にスケコマシのソレである。

 

 


 

 ────"十六列破"!!!!

 ────"鬼岩猛突(デストレイラー)!!!!

 

 影組の三鏡の放つ16発の強力なパンチを男鹿は跳んで躱すが、躱したさきに待ち構えていた鬼塚が構えており、ダンプカーをも想起させるような突進を仕掛ける。しかし

 

 

 車すら吹き飛ばす程の威力を持つそれを男鹿は片手で止める。

 

 

「──終わりか?」

 

 ドスの効いた声で静かに問いかけてくる男鹿に鬼塚は目を見開いて驚き、男鹿ゆっくりともう片方の手を引く。

 

「必殺.."(スーパー)減り込みパンチ"!!!!

 

 男鹿の必殺技は鬼塚の腹に突き刺さり吹き飛ばす。彼の巨体は後方にいた三鏡を巻き込み、2人諸共壁へと突き刺さる。

 

「────"真 冥鶯殺"

 

 一方、三木も彼の奥義をもって2人の影組を沈めていた。

 

 1人残された霧矢は想定外の瞬殺劇に鼻水を垂らして驚きを隠せずにいた。しかし頭を振って正気を取り戻す。

 

「く...ククッや、やるじゃねぇかお前ら...だがな忘れるなよ?こっちには人質が...」

 

 

 悪どい霧矢の言葉を遮るように2階から5人の帝毛の不良達が落とされる。

 

 

 霧矢が驚き、2階へと目を向ければ彼等を落としたであろう古市が手摺りに腰掛け脚をぶらつかせていた。

 

「て、てめえ!?男鹿の!?」

 

「──残念やけど、もう終いやで

 

 畳み掛けるように出馬は霧矢にそう告げる。彼の背後には六騎聖と烈怒帝瑠の面々が大勢の帝毛の不良達を捕縛していた。

 

「しかし古市さん、もすこし優しく下ろしてやってくれへん?流石に可哀想や」

 

 出馬の指摘に脚をぶらつかせる古市は肩をすくませるだけであり、やれやれと溜息と共に出馬は額に手を当てる。

 

 呑気なやりとりをする2人だが、霧矢の胸中はそれどころではない。主力の影組4人は瞬殺。頼りにしていた人質達はいつの間にか解放されており、抜かりないと思われていた彼の悪巧みはものの数分で瓦解した。

 

 まさしく四面楚歌。しかし彼はこの状況下においても焦りを浮かべながらも打開策を打つ為に頭を巡らせる。

 

 

 

 故に思い知る。

 

 

 

「おまえ、何処までも食らいついて後悔させるとか言ってたな」

 

 

 

 

 この場において何処にも逃げ場などない事を。

 

 

 

 

 

「面白えやってみろよ。だがな...」

 

 

 

 

 

 誰に牙を向けてしまったのかを。

 

 

 

 

 

「コレ以上オレの周りをウロチョロして目障りな真似してみろ」

 

 

 

 

 

 彼の肩に載せられる手。

 

 決して力を入れられているわけでもないはずなのに、まるで巨大なナニカに身体を鷲掴みされてしまっているかと錯覚するほど身体の自由が効かず、呼吸すらも苦しくなっていく。

 

 恐ろしくて仕方ない。その筈なのに首は言うことを聞かずにゆっくりと後ろへと向ける。向けてしまう。

 

 そこにいたのは男鹿ではなく、

 

 

 

 

後悔すんのはテメェの方だ

 

(────あ、悪魔...!?)

 

 

 

 

 

 白目を剥く霧矢に男鹿は肩を掴む方とは逆の腕を力を込めてゆっくり引く。

 

「久々に全開だベル坊」

 

 その言葉と共に男鹿の手の甲の蠅王紋が赤黒く光を放つ。しかしそれだけではなく、右腕のみだった蠅王紋が全身へと広がっていく。

 

 顔にも現れる蠅王紋を歪ませ、笑みをこぼす男鹿の形相はまさしく悪魔そのものであった。

 

「や、やめ──

 

 命乞いの声など聞こえない。

 

 

 怯える姿に愉悦の笑みを溢す悪魔は今、暴虐と理不尽の力を持つ魔王の破壊の御業を高らかに謳う。

 

 

 

 

────"魔王の咆哮(ゼブルブラスト)!!!!"

 

 

 

 

 辺りは閃光に包まれ、無慈悲に暴れ回る電撃を纏う膨大な魔力の波は霧矢を呑み込む。いやそれだけに留まらず鋭い音を立てて辺りにも電撃が走る。

 

 

 数秒続いた破壊の光が収まれば、周りで見ていた人間は目を見開いて驚く。

 当たり一面黒焦げており、霧矢はまるで焼死体かのように煙をあげて仰向けに倒れていた。

 

「...まじかよ」

 

 誰かが呟いた言葉は驚愕と静寂に包まれる体育館によく響いた。

 

 しかし蠅王紋を全身に浮かべる男鹿は倒れる霧矢の顔面横スレスレに足を置き、無情にも告げる。

 

「起きろ。寝たふりかましてんじゃねーよ、掠っただけだろ」

 

 その言葉に霧矢は反応しない、できない。

 

(あ、ありえねぇぞ!?言動もコレも!人間業じゃねえ!!)

「3」

(お、オレはとんでもねーモンに手ェ出しちまったのか!?)

「2、1」

「ま、待て待て分かった!?起きるよ!!..ッ!?」

 

 男鹿のカウントダウンに気づいた瞬間、霧矢が考えるよりも先に彼の身体が勝手に上体を起こして命乞いを始める。

 しかし男鹿は間近で睨みつけ口を閉じさせる。

 

「30秒やる。全員連れて失せろ」

 

 そう告げる男鹿を霧矢はもはや人間として見れない。

 

 男鹿の口が耳まで吊り上がり、攻撃的な針や巨大な目が体中から生える、まるで魔王の様な姿を幻視する霧矢は恐怖の余り失禁する。

 

でねーと次は皆殺しにしてやんぞ..

 

 

ぎゃああああああああああ!?!?!?

 

 

 恐怖の余り言葉を失った霧矢は腰を抜かし這いつくばりながらも急いで出口へと向かおうとする。

 

「き、霧矢さん!?」

「ま、まってくだ

ほぎゃああああああああああ!?!?!?

 

 何とか立ち上がった彼は連れてきた手下達の声も聞こえずなりふり構わず出口へ走り去っていき、残された手下達も彼を追って体育館を出る。

 

 そうして残された体育館にはトラブルを解決した彼等への賞賛のではなく、困惑に満ちていた。

 

「な..何?今の..」

「放電?」

「どうやったの?」

「つーかあの人あんなペイントしてたっけ...床も焦げてるし」

 

 その困惑は無論聖石矢魔の生徒のみではない。六騎聖も石矢魔の面々も驚きと困惑に包まれていた。

 しかし、その中で1人邦枝だけがこの出来事の核心に近づいていた。

 

(...前々からそんな気がしていたけれど..やっぱりあの赤ん坊普通じゃない──!?)

 

 そうして確かめるべく邦枝が男鹿へと近づこうと一歩前に出る。

 

 

 

 しかし突如静寂に包まれた体育館に響く1人の拍手に止められる。

 

 

 

「はーい。みんな拍手」

 

 出馬がけろり軽い調子で声を上げる。突然の彼の行動はこの場において誰1人理解できていなかった。

 彼は落ちていたマイクを拾って話を続ける。

 

『いやー凄かったなぁ。スペシャルプログラム《ケンカイリュージョン》....ん?なんや皆キョトンとして?まさかホンマもんのケンカやと思ったんか?』

 

 出馬は軽く笑って手をひらひらと左右に振り、説明を始める。

 

『ちゃうちゃう。最後の特殊効果で気づくと思ったけどなー?なぁ静さん。えらい苦労して作ったもんなこの仕掛け』

 

 そう話を七海へと振り、突然振られた彼女は静かに驚くも出馬の意図を察しマイクを受け取る。

 

『...そうね。でも大成功よ!協力してくださった帝毛の皆さんにも盛大な拍手を!!!』

 

「と..特殊効果?」

「イベントだったてことか?」

「なんだ!なんだー!騙されたぞー!」

「出馬さーん♡」

「石矢魔もカッコよかったぞー!!」

 

『先生方も黙っててすみませんでした。これが最後にやるゆうてたサプライズですわ。ちょいやりすぎましたが...』

 

 出馬は2階にいた先生方へもフォローを入れる。それを聞いた佐渡原たちは納得した様子を見せる。

 

『そして皆さん!本日の主役張ってくれた男鹿親子にもう一度大きな拍手を!!』

 

 その出馬の言葉に体育館は先ほどとは打って変わり、歓声と拍手に溢れていく。

 男鹿は向けられる歓声にとくに反応を示さず、肩に乗るベル坊が楽しそうに両手を振って応える。

 

 その様子を見て出馬は2階にいる古市へと目を向け、彼女は出馬の視線に気づき、見事この騒動を納めてみせた彼の手腕に満足そうに拍手を送る。

 それを見て一息をつく出馬の背中に男鹿は声をかける。

 

「..テメェ。どーいうつもりだ?」

「ま、お宅の嫁さんに言われてな」

「ヨメじゃねーわ」

「それよりもあかんで?」

 

 

────悪魔の力をあんまり見せびらかしたら

 

 

 耳元で囁かれたその言葉に男鹿は目を見開き、出馬はそれ以上何も言わずにその場を離れる。

 

 

 こうしてさまざまな思惑に包まれた学園祭は見事大成功という結果として幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。早乙女君が聖石矢魔の教師に...」

 

 魔二津にある天狗山に佇む寺の住職は、古くから付き合いのある客人と会話に花を咲かしていた。

 客人は無精髭と額に巻くバンダナが特徴的な男であり、寺の中にであるにも関わらずタバコを咥えて胡座をかいている。

 

「話に聞いたのですが、今日は学園祭をやっていた様ですよ」

「...学園祭ですか」

 

 それを聞いた男は静かに笑みを浮かべて呟く。

 

 

「──石矢魔(ウチ)の問題児どもは元気に暴れてるかな?」

 

 





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