TS異能力古市   作:ブッタ

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第28話 ワタシ達の教師、交代します。

 

 

 慌ただしくも学生らしく学園祭に勤しむ彼等の傍らで、悪意はただ静かに己が牙を研ぐ。いずれ来る機会の為に。

 

 

 

 真っ黒な長髪を後ろへ纏めた端正な顔付きの男が革靴の音を鳴らして広い廊下を歩いている。

 暫く歩くと見上げるほどの大きい扉へと辿り着き、その扉を男は躊躇なく両手で開く。

 扉の向こうには教会のような絢爛な装飾がなされた広大な空間が広がっており、色鮮やかなステンドグラスが太陽の光をゆるりと部屋へと注ぐ。

 

 そして高い階段の上にステンドグラスを背にして並ぶ椅子に腰掛けローブを身にまとう2人の老人が彼を見下ろす。

 

「ヨハン。何用であるか」

「我々はお前を呼んでいないぞ」

「いやー、あの人に聞いていませんか?僕は一応呼ばれて来たのですが..」

 

 2人の老人が不機嫌さを隠さずに青年へと詰めるが、当の本人はけろりと軽い調子で答える。

 さらに老人達が口を開こうとするも、彼等のいる2階へと繋がる扉が開かれる。

 

「儂が呼んだのだ。そうかっかするな老人共」

 

 扉から悠々と歩いて入ってくるのはローブに包む長い白髪を持つ、若い見た目をした男だ。

 

「貴様か。何用で奴を呼びつけた?」

「何、私の契約する悪魔の件でな。欲しいものがあったのだ」

「ふん。まったく何の悪魔を使っている?ワシも若返りたいものだ」

「教えてやらん。精々血眼になって探せ」

 

 白髪の男は老人達の追求をのらりくらりとかわし、ヨハンと呼ばれる青年へと声をかける。

 

「ヨハン、奥へ入れ」

「はい」

 

 ヨハンは老人達へと会釈した後、促されるようにホールを抜け、奥の小部屋へと繋がる廊下を歩く。

 小部屋の扉を開き、先程の白髪の男がそこで椅子に腰掛けていた。

 

「ヨハン。以前に話していた人間を見つけた報告だが...」

「えぇ、今取り出します」

 

 ヨハンは内ポケットへと手を伸ばし、ビー玉の様なものを取り出し床へと落とす。

 たちまち閃光を放ち、1人のひ弱そうな人間へと姿を変える。

 ボサボサとした髪と線の細い身体をもつその人間の顔つきは日本人であり、学生と思われる程の若さである。

 

「言われた通り、膨大な魔力にも耐えうるであろう契約者の資質を持つ人間です。いやー大変でしたよ?そんな人間なんて1万人に1人も居ないのに」

「すまんな。儂の契約する悪魔が何故か欲しがり出したのだ」

「...何故そんな物を?というか何と契約してるか聞いても?」

「詮索するな。それも契約に含まれているのだ。さぁ要件は済んだ、出て行くと良い」

 

 白髪の男にそう言われ、ヨハンは人間を置いて部屋を出る。何が起きているのか分からず混乱する人間を見る男は面倒臭そうに口を開く。

 

「おい、お前の望む人間を用意したぞ」

 

 しかしその言葉は人間へと向けられたものではない。それは男の内に住むソレに向けられていた。

 

《......》

「...ッおい、そろそろ教えよ!何故儂にこのような人間を用意させた!?」

 

 し彼の言葉にソレは答える様子を見せず、男は腹立たせ言葉を荒げる。

しかし..

 

 

 

《───素晴らしい

 

 

 

 

 ソレは苛立つ男の言葉を気にする様子など欠片も見せずに、心底嬉しそうに言葉を漏らす。

 すると突如白髪の男の身体から煙を上げるように謎の黒いモヤが出てくる。

 

「な、何を!?」

 

 混乱する男が声を荒げるも黒いモヤはさらに量を増やしていく。同時に若々しい見た目だったはずの男の体が死にかけの老爺のように皺にまみれていく。

 突然の変化に老爺は耐えきれず膝をついてしまう。

 

「な..何故..!?」

 

《長い間、実に良い隠れ蓑であったぞ?》

 

「隠れ...蓑..?」

 

 モヤの言葉と意図を理解できずオウムのように言葉を繰り返す老爺に、モヤは人の形をとって手をかざす。

 

《褒美に貴様の魂は私が喰らうてやろう》

 

「───や、やめ..!?」

 

 人の形をするモヤが手を横に振ると老爺は糸の切れた人形のように倒れ込む。

 

 

 目の前で起きた恐ろしい現場に脳が追いつかず、ただただ震えて人型のモヤを見つめる。恐怖により呼吸は浅くなり視界が狭まっていく。

 

 モヤは怯える人間に近づき、そのドス黒い腕を伸ばす。

 

 

 

────Prrrrrr...

 

 

 しかし突如部屋に鳴り響く電子音にモヤは動き止める。

 

 音の発信源は死体の老爺から。モヤは人間に背を向け死体が身につけるローブへと手を入れ、電子音の発信源である通信機を取り出す。

 

《.....》

 

 モヤが通信機の応答ボタンを押す。すると通信機の向こうから合図である一定のリズムでマイクを叩かれる音が聞こえてくる。

 

《..アスランか》

『はい。こちらは一通り終わりました』

《そうか。蝿の倅は上手くたらし込めたのか?》

『すぐにでも人間界へと向かうように仕込みました』

《それは僥倖》

 

 通信機の向こうで報告するアスランの言葉に顔のないモヤは静かに、だが嬉しそうに呟く。

 

《倅が離れるのならば柱師団どもも一緒に離れるであろうな..お前は引き続き仕事にあたれ》

『は...』

 

 端的にアスランへと指示を出してモヤは通信を切る。そうしてもう一度怯える人間へと身体を向ける。

 

「な...なんなんだよ..お前!?」

 

 ここに来て初めて、人間は声を絞り出す。

 

 

 

 

 

《私か?...私は"サタン"。この世で唯一の君の味方だよ..藤君

 

 

 悪魔は愉悦に口を歪ませ、弱者へと優しく手を差し伸べた。

 

 

 


 

 

「悪魔の力?確かにそう言ったのか?」

 

 学園祭も終わりを迎え生徒達が帰路へと着く夕暮れ時、ユニフォームから制服へと着替えた男鹿はヒルダと古市をつれて屋上へと来ていた。

 

「あぁ確かにそう言った。何者だ?テメェの仲間じゃねぇのかあのメガネ」

「.....」

 

 ヒルダは男鹿の問いに答えずに何かを考え込むように黙り込む。実のところ彼女が学校へと潜り込んだ理由はただベル坊の世話をする為だけではない。

 アランドロンの報告によりヒルダ達が関与していない悪魔がいることが発覚した為、護衛の強化及び探りを入れる為である。

 そして、バレーを見ていた時からヒルダは出馬を怪しんでいた。

 

(気にはなっていたが、あの男...やはり何かあるな)

 

 

 

「多分大丈夫じゃない?」

 

 

 

 しかしそこへ口を挟むのは、屋上の手すりに寄りかかり疲れた様子で飴を咥える古市だ。

 男鹿は彼女の言葉の意味を問う。

 

「あん?どーいう意味だ?なんか知ってんのかお前」

「んー..別に直接聞いた訳ではないけど、まぁなんとなく?」

「..珍しく煮え切らん態度だなツムギ」

 

 ヒルダの言葉に古市は飴を転がして手すりに頬を乗せ、脱力しつつ返答を返す。

 

「..勝手に詳しくは話せないよ。ワタシの予想が合ってたらメガネさん可哀想だし..それに今日の騒動を丸く収めてくれた貸しもあるしね」

「奴に危険はないと?」

「少なくともヒルダが考えているような危ない人じゃないと思うけど、暫くは様子見で良いんじゃない?」

「ふむ....」

 

 学園祭も終わり、事態はひとまず落着の様子を見せるが新たに浮かんで来た謎に男鹿はその晩頭を悩ませることになるのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ダッダッダー!♪ダダダダーダ♪」

「だっだっだだーだぁー♪」

 

朝っぱらからウルセェよッオマエら!!

 

 学園祭の翌日、ワタシはいつものように男鹿を連れて通学路を歩いているといきなり怒鳴られた。なんなら朝から珍しく何か悩んでいるようにも見えた。

 取り敢えずワタシは口を尖らせて不満と抗議の声を表明します。

 

「なにさー。せっかくワタシとベル坊のデュエット中だったのにぃ」

「だからそれが鬱陶しいんだっつの!頭の上で騒がれるオレの身にもなりやがれ!」

 

 しかしコヤツは小癪にもワタシの抗議の声に反論してきた。しゃーなし、これ以上やったら手ェ出してきそーだしやめるか。

 

「つーか、アンタは朝から何考え込んでんのさ。便秘でもしてんの?」

「してねーわ」

「ヨーグルッチ飲む?乳酸菌は良いらしいよ?......賞味期限切れてるけど」

「だから便秘じゃねぇつってんだろ!!つかまた鞄ん中に放置してたのかテメーは!?捨てろ!!」

 

 どーやら相方は便秘に悩んでいるようではなさそう。もう何を悩んでいるのか知らないけれど、まぁそういう年頃だろうし放っておくことにしておこう。

 そしてワタシとベル坊は男鹿にキレられながらもデュエットをしながら学校へと足を運ぶ。

 

 しかし、学校に到着したワタシ達は向けられる視線がいつもと違うことに気づく。

 なんかこう...いつもの嫌なものを見るようなものとは違い、どこか好奇心で見てくるような感じだ。

 すると2人の聖石矢魔の女子生徒がこちらへ近づいてきた。

 

「べーるちゃんおはよー」

「かわいいー。触ってもいいですか?」

 

「..あ?」

「ニョ?」

 

 なん....だと..?

 2人だけではない他の女子生徒も男鹿の周りに集まってきた。

 

「あー子連れ番長だー」

「べーるちゃんポッキー食べる?」

「今日もハダカだぁ」

「昨日の試合みたよー。かっこよかったよ」

 

「「ベルちゃんファンクラブです!写真撮らせてください!!」」

 

 何コレ?何が起きてんの?

 男鹿すらも余りの変わりように戸惑っているようだ。

 

 いやそれは良い。ベル坊にファンクラブできてるのも、男鹿が珍しく怯えられていないのも良い。

 

────しかし..

 

「古市さんだッ!相変わらず綺麗だなぁ..」

「お前話しかけてこいよっ!」

「やだよ!?死にたくねぇ!」

 

 

何故ワタシの方が怯えられているんだ?

 

 

 不愉快..実に不愉快です。この状況。

 

 まるでワタシが男鹿よりも凶暴な奴みたいじゃないか。とにかくこの不愉快な場から脱出するためワタシはいつまでも女子生徒に囲まれて鼻を伸ばしてる男鹿(ばかたれ)の背中に蹴りを入れる。

 

ドーンッ!!

 

「がっ!?..古市テメェ!!何しやがる!」

「うるさい。いつまでも鼻の下伸ばしてないでさっさと教室に行くよ」

「してねーよ!!」

「まったく..ベル坊をダシに使って卑怯な奴め」

オイコラ!言いたい放題かっ!!

 

 ピーチクパーチク何か言ってくるがワタシは気にせずに男鹿(ばかたれ)の首根っこを掴む。

 

「あの..ベルちゃんの写真..」

「..はい?」

「いえ!なんでもありません!?お2人の邪魔してすみません!?」

「いや別に邪魔じゃあ...はぁ」

 

 ワタシは男鹿の首根っこを離して、男鹿の頭に引っ付いてるベル坊を抱える。

 そしてポッキーをもらってご機嫌なこの子を、女子生徒に向けるように脇の下を持つ。

 

「コレでいい?」

「.....あの..できれば古市さんの顔も見えるようにでもいいですか?」

「え、ワタシ?...こう?」

はい!!ありがとうございます!!

 

 しかし女子生徒は何故かワタシも一緒に撮りたいらしく、取り敢えずワタシはベル坊をもう一度丁寧に胸に抱え直す。

 するといきなり女子生徒は興奮した様子で写真を撮り始める。えぇ...こわ。

 

 すると聞き覚えのある穏やかな声がワタシ達にかけられる。

 

「君達、もう予鈴なっているよ。早く教室に行くんだ」

 

 三木だ。

 

 彼に注意された生徒達は蜘蛛の子を散らすように校舎へと走っていった。

 

「古市さんの写真撮っちゃったぁ!しかもベルちゃんとツーショット!」

「いいなぁ..あとで私にも見せてよ」

 

「まったく。こっちの校舎には近づくなって言っているのに、まだ学祭気分が抜けていないらしい」

 

 呆れたように三木は軽い溜息と共に言葉をもらす。

 

「────貴方こそ、もう六騎聖の権限は無くなったんじゃないの?」

 

 どこからともなく現れた葵が三木へと言うが、その言葉の温度はどこかいつもより冷えていた。

 まぁつい昨日まで敵対していた人間だしね、仕方ないね。

 

「おはよう葵」

「....おはよ」

 

 

 うっわ、すっごい不機嫌。

 

 

 それなりに長い付き合いだけれどこんな鋭い目つき向けられたことないんだけど。

 三木ならともかくなんでワタシ達にまで...。そこまで考えているとふと心当たり一つ浮かんで来た。

 

「ほら、男鹿!葵に謝りなよ!」

「あぁ?んでオレがそんなことしなきゃなんねーんだ?」

「アンタがさっきまで他の女子に囲まれて鼻伸ばしてたから葵が怒ってんだよ!!」

「だからしてねーっつの!!」

 

 ワタシと男鹿のやりとりの間、葵はワタシ達を置いて足早に校舎へと入っていく。

 

「あーあ。どーすんのさ、葵があんな不機嫌なのそうそうないよ?」

「だから俺のせいじゃねーだろ。そもそも、ありゃ怒ってるってよりもなんか疑ってるよーに見えたぞ」

「アンタの不貞行為を?」

「しつけぇぞお前....」

 

 げんなりとした様子の男鹿と共に三木と別れ、校舎へ入る。

 

 

 下駄箱で上履きに入り、教室へ向かう所でなぜか男鹿は教室とは違う方向へと歩き出す。

 

「どこ行くの?教室こっちだよ?」

「野暮用だ。先に教室行ってろ」

 

 ワタシの問いかけに男鹿は簡潔に返してその場を後にする。アイツ向かう方向を考えるにどうやら屋上へと行くようだが、目的がわからない。

 

「....ま、いいか。どうせ喧嘩なんてしないだろうさ」

 

 ワタシはそう結論づけて教室の扉を開けた。

 

 しかし、その考えは...

 

 

「───....」

「───....」

 

 

今日からお前らの担任になる早乙女だ。よろしく

 

 

 おそらく殴られたであろう頬を赤く腫らして気を失う男鹿と東条を引きずってきた担任を名乗る謎の男によって間違いであったと気づかされたのだった。

 

 

「どうした?元気ねぇぞ?クソッタレ共が!!はっはっは!」

 

 

 

 お前本当に教師か?

 

 

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