TS異能力古市   作:ブッタ

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第29話 敵じゃないよ

 

「こ、校長先生!!どう言うことですか!?」

 

 聖石矢魔学園、校長室にて声を荒げて抗議するのは石矢魔の生徒のクラスを担当していた佐渡原巧。

 初めこそ嫌がっていた彼だが先日の学園祭にて一生懸命にバレーをする生徒達の姿に心打たれ、今日から頑張ろうと息巻いていたのである。

 学園祭の放課後に至っては生徒たちに激励として全員ご飯に誘うほどには気合いが入っていたのである。その頃には全員帰っていたが。

 

「私を石矢魔の担当から外すだなんて...!!聞いていませんよこんな急な人事!?」

 

 それほどまでに気合が入っていた彼にとって突然石矢魔の担当を外されるというのはまさしく寝耳に水である。

 

「うん。だって今言ったもん」

 

 しかし、荒ぶる彼を前にこの学園の校長、石動源磨はけろりと口を開く。

 

「佐渡原先生にゃ悪いが、元々こう言う予定だったんじゃ。彼がくるまでの繋ぎというかの?」

「そ、そんな..」

「まぁ、そうがっかりしなさんな。君がそこまで思い入れがあるとは知らなんだ。もし良ければ副担任として彼を支えてやってくれんか?」

「ならば尚更私に...!」

 

 貫禄ある見た目とは裏腹に、実に軽い調子で話していく石動に佐渡原は尚食いついていく。

 それを見て石動は窓へと体をむけ窓の景色を眺める。

 

「....まぁ君の言い分も分かる。しかし信用の置ける男じゃよ。なにせ彼は──石矢魔高校を卒業をした伝説の教師、早乙女禅十郎、これ以上の適任は無いじゃろうて」

 

 

 

 


 

 

「今日からお前らの担任になる早乙女だ。よろしく」

 

 教壇にたつ変な柄のバンダナを額に巻いた男がそんなことを言うが、ワタシ達の耳には入ってこない。

 何せ気絶していた男鹿と東条を担いで教室に入ってくるという衝撃的な登場をしたからである。

 

 石矢魔最強である2人を伸したであろう担任を名乗る謎の男。そんなの警戒して当然だ。クラスの中も変な空気になっている。

 

「どーしたぁ?元気ねぇぞ、このクソッタレ共が!!はっはっは」

 

(((..なんだコイツ..)))

 

 教師とは思えないような発言に困惑レベルさらに上昇する教室。そんな中、勇敢な葵が手を挙げる。

 

「あの...私達、何も聞かされてないんですけど...?」

「んー..お前、名前は?」

「え?く、邦枝です..」

 

 葵の質問に、男は後頭部を掻きながら質問を返す。葵は返された質問に素直に答えた。

 

「可愛いなクソッタレ。彼氏いるの?」

「はっ!?」

 

 

────なんだァ?てめぇ...

 

 あろうことかこのセクハラヤローは葵に粉をかけ始めた。そんなことは許さんと、葵絶対守る親衛隊隊員のワタシは隊長の寧々と共に、かの邪知暴虐の教師を倒さんと立ち上がる。

 

「おうこら、てめぇウチの姐さんに随分と馴れ馴れしい口きいてくれんじゃねぇか」

「セクハラで訴えられたいんですか?セクハラ教師...あ?」

 

「ん?特攻服か..懐かしいな。こっちの銀髪のねーちゃんも随分と別嬪さんだな?クソッタレ」

 

 しかしコイツはワタシ達の詰めにまったく動揺せず、あろうことか寧々の特攻服の襟とワタシの頭を触ってきた。

 

「「触んな!?」」

「はっはっは。いい突きと蹴りだ」

 

 寧々の拳とワタシの蹴りを易々と躱しやがるこのオッサン。

 

「心配すんな。前任の先生なら了承済みだ。マゾ原先生も今頃肩の荷が降りてホッとしてんだろーよ」

()()原先生です」

「そうだっけか?まぁマゾでもサドでもどっちでもいいさ。細かいことは気にすんな」

 

(((コイツ、本当に教師か?)))

 

 

 

 

 

 

「アーダ、ダーダッ!ヴ〜...アダッ!!!!!

「ブヘッ!?..ハ!?ココハドコ!?ワッチャネイム!?」

 

 その後、男鹿は放課後までずっと気絶しており、たった今しびれを切らしたベル坊が怒りのビンタを放つ。

 ようやく目を覚ました男鹿は訳のわからんことを口走っている、どーやらまだ混乱しているようだ。

 

「よーやく起きた?」

「確か俺は、あのメガネに話しがあって屋上に行って..そして....なんだ?そーいやなんか変なオッサンがいきなり出てきたような..どこから夢だ?」

「現実じゃね?アンタの頬真っ赤だし、多分殴られたんでしょ。そのおっさんに」

 

 男鹿が目を覚ますまでケータイでゲームしていたワタシは画面上の指を動かしながら現状を整理させる。

 前の席に座るコイツは、身体を捻ってコチラを向いたのでさらに補足の説明をする。

 

「それに新しくワタシらの担任なんだってさ、ソイツ」

「はぁ?担任?」

「そ、もう帰ったみたいだけど。それよりも」

 

 ちょうどゲームがひと段落ついたので画面から顔を上げて男鹿へと向ける。

 

「アンタはメガネさんに何の用があったのさ。まさかとは思うけど喧嘩?」

「ちげーわ。昨日あのヤローの言ってたことの確認しに行ったんだ」

「言ってたことって....アレ気にしてたの?」

「するに決まってんだろ。テメェもなんか知ってる風なくせに教えやがらねぇからな」

 

 意外にもこいつはメガネさんの発言の真相を知りたかったらしい。男鹿のことだしワタシはてっきり一晩寝て忘れてたと思ってた。

 メガネさんに話を聞けたのかと思えば、先に東条が彼を訪れていて互いに先を譲らず、喧嘩で決めようとしたところをあのおっさんに殴られたらしい。

 

「いや結局喧嘩してんじゃん」

「アイツから先に喧嘩売ってきたんだ」

「小学生かアンタは。はぁ、とにかくさっさと帰ろ?」

 

 なんとも幼稚な言い訳をする幼馴染を連れて教室を出るのだった。そういや今日はヒルダ来てなかったな。

 

 


 

 

 辺り一面をオレンジ色に染める夕暮れ時。新任教師の早乙女は鼻緒の下駄を鳴らして体育館の屋根の上まで来ていた。

 目的のものを見つけた彼は咥えていたタバコの煙を溜息と共に吐き出してしゃがみ込む。

 

「..派手にやりやがったなクソッタレが。()()()()()()()()()()()

 

 しゃがみ込む彼の前には謎の穴が開いていた。体育館の屋根が壊れているように見えるがその穴の先には何も無く、まるで宇宙空間のように暗闇と光が混ざり合っている。

 

「ま、コイツがなけりゃ今頃この学校も消し飛んでいたわけだが、問題は()()()()をやったかだ」

 

 早乙女はジャケット脱ぎ、右腕の長袖を捲り始める。

 

「物理的ダメージを最小限に抑え、濃密な魔力の波を周囲に最大限に散らした反動か..今朝見た()()()()()()()()()()()が原因だろうが、これほどの破壊力をこうも散らすなんざ出来るはずがない。明らかに第三者の手が加わってるな。しかもかなりの使い手..」

 

 袖を捲った右腕に男鹿と似た赤黒い光を放つ紋様が浮かび始める。

 

「久しぶりだな..まぁ10%ってとこか。コイツを直す為とはいえ強い人間でも感じるかもな」

 

 早乙女はタバコの煙を吐いて、右腕に力を込めて引く。

 

 

「これで上手く釣れるといいが...まぁ鬼が出るから蛇がでるか釣り上げてみる...かっ!!」

 

 

 早乙女が拳を振り下ろす。すると一瞬の閃光と共に濃密な魔力が津波のように辺りへと溢れ出る。

 通常の人間では感じることの出来ないものであっても、その暴力的なほどに押し寄せる魔力はある程度の強さを持つ人間にその圧を感じさせる程であった。

 

 それ故に彼女が来ることは必然であった。

 

「穴は塞がったな..。んでお前さんがコレをやったのか?」

 

 

「───貴様..ベヘモットの手の物か

 

「コイツは随分と可愛らしい侍女悪魔ちゃんが来たもんだ」

 

 音もなく突如背後に現れたヒルダに早乙女は一切動揺をみせずに身体をそっちへと向ける。

 しかし後ろを向いた時にはすでに彼の首元へと剣が迫っていた。

 

「───うぉっ!?」

 

 間一髪で早乙女は身体を後ろへと反って刃を躱す。咥えていたタバコのみが間に合わずにぱっくり真ん中から切り落とされる。

 しかし身体を後ろは反る早乙女の顎にヒルダは膝をかちあげ、仰向けに倒れる彼の顔に剣を落とす。

 

「...あぶねーな嬢ちゃん」

 

 顔に落とされる寸前のところで彼は顔をずらして躱わしていた。

 

「貴様..坊ちゃまに危害を加えるつもりならばここで殺す」

「あん?なんのことだ?」

「惚けるな。貴様ベヘモットに与する者だろう。でなければあのように魔力解放をして挑発する筈がない」

 

「挑発?...なんだ嬢ちゃんアレに気付いてなかったのか?」

「──アレ..?」

 

 早乙女の言葉の意図がわからずに鋭い目つきを細めるヒルダ。しかし..

 

 

ふむ、白か。意外だな

 

 

 彼は跨るヒルダのスカートを捲って中身を拝見していた。身体に走る不快感に身を任せヒルダは反射的に剣を横にずらす。

 すぐに正気に戻った彼女はたった今首を切ったはずの男がどこにもいないことに気づく。

 

「な...どこにっ」

「何か勘違いしてないか?オレは別にアンタ方に喧嘩を売りに来たわけじゃないぜ?」

 

 声は後ろから。彼女が目線を向けると2,3m程離れた位置に傷一つない早乙女が新しいタバコを箱から出していた。

 彼は彼女を刺激しないよう穏やかな口調で宥め始める。

 

「嬢ちゃんがアレをやったのかと思ったが、気づいてなかったようだしな。また明日からじっくりと探すとするさ...だから今日は..ん?」

「───よかろう。最早手加減はなしだ

 

 しかしその言葉は彼女のプライドを傷つけるものであった。鋭い目つきが殺意が込められてより鋭く、身体中からドス黒いモヤのような物が溢れ始める。

 そのモヤは彼女の高まる魔力と共に剣先へと集まり始める。早乙女はそれを見て先ほどまでの穏やかな様子を一変させる。

 

「...おいおいクソッタレ。"魔言召喚"する気か?こんな所で..」

「───死ね

 

 宣告と共に飛び出す彼女の動きは明らかに今までのものより格段に速く、瞬きのうちに早乙女の前にまで距離を詰める。早乙女はその超速の動きを目で追えているかのようにタイミングを合わせて乱雑に拳を突き出すが、黒いモヤと共にヒルダは姿を消し拳は空振る。

 

「──!?」

 

 背後から黒いモヤと共に現れたヒルダが背後から切り掛かるも寸のところで彼はその剣躱わす。だが、ヒルダは再度モヤと共に姿を消し早乙女が見失う。

 そして再度早乙女の背後に現れるも、それは既に読まれており拳を回避不可能なタイミングで腹部へと突き刺さる。..いや拳はすり抜け嘲笑うヒルダの姿は霧のように霧散した。

 

「──む!?」

「───阿呆」

 

 言葉と共に彼の側頭部へと剣が叩き込まれる。モロに受けた早乙女は倒れることはなかったものの余りの衝撃に数メートル吹き飛んだ。

 明らかな隙を逃す筈もなくヒルダはさらに速度を上げて詰め寄る。剣先に集まる魔力のモヤはさらに多くなっていく。

 

「終わりだ。下郎」

 

 簡潔な死刑宣告ともに振られる彼女の剣は

 

 

 

 ───早乙女の首を落とすことなく手から離れ、ヒルダは地に付していた。

 

 

 

 何が起きたのかは彼女自身にもわからない。ただ気づいた頃には腹這いに転がらされていた。その上身体を囲む赤黒い光りが拘束して動くこともできない。

 

「悪いな。暫くは動けねーぜ?それ」

 

 タバコの煙と共に口からでる早乙女の言葉だが、ヒルダはそれどころではない。彼の右の手の甲に赤黒い光を放ち浮かび上がる紋章から目が離せなくなっていた。

 

「馬鹿な...紋章使い(スペルマスター)!?しかもそれは王家の紋か...!?」

 

 燦々と光る由緒正しき王家の紋章を持つ契約者。それはヒルダの想定外の存在である。

 

「まぁな。嬢ちゃんも未契約の侍女悪魔にしちゃあ強かったと思うぜ?」

「..くッ!」

 

 オレンジ色に染まる夕焼けの空を背に新しいタバコを口に咥えて火をつける早乙女をヒルダはただ睨みつけることしかできない。

 鋭い視線を向けられるが全く意に介さず早乙女は火をつけたばかりのタバコを味わうように吸い始める。焦げた匂いとミントの爽やかさと共に肺に向かって喉を通る煙を楽しみ、呼吸を整えるように深く煙と息を吐く。

 

「一つ忠告するが..嬢ちゃんとこのヤンチャ坊主共。早く力付けねぇと死んじまうぞ?」

「なんだと?」

「あの坊主もそーだが、とくに赤ん坊の方だ。腐っても魔王のガキじゃねぇが...それでもあのままじゃあ2人ともまとめて殺される。さっさと強くしてやんな」

 

 ヒルダに忠告の言葉を告げた早乙女は彼女に背を向け、先程置いておいたジャケットを拾い肩に担ぐ。

 

 ふと、彼は顔を身体を向けた先に人影を見つける。

 沈みゆく夕陽の逆光となっていて顔が見えないが、制服かつスカートを履いているのをシルエットで確認し女子生徒であることを確認する。

 

「..おーいそこの嬢ちゃん。こんなところに居たら危ない、さっさと降りた方がいいぞ」

「...誰かと思えば今朝のセクハラ教師じゃん」

 

 帰ってくる声は聞き覚えのあるもの。名前は覚えていないが今朝特攻服を着た女子生徒と共に早乙女に詰め寄ってきた女子だ。

 不本意とはいえ先ほどまで侍女悪魔のヒルダと一戦交えており、今も彼女を拘束したまま。ここで変に誤解されて問題にされたり悪魔のことを知られたりしても面倒だと考えた早乙女はポリポリと後頭部を掻きながら慎重に言葉を選びながら話し出そうとするが、

 

 

ウチのヒルダにセクハラしてんじゃねぇッ!!

 

 

 問答無用と言わんばかりにその女子生徒、古市紬貴は彼へと全速力で走り出し顔面目掛け飛び蹴りを繰り出す。

 

「うぉっ!?」

 

 完全に予想外かついきなりの攻撃をなんとか上半身を左に倒して避ける。古市は急襲の飛び蹴りを躱されたことに驚きつつもすぐさま次の攻撃を仕掛ける。

 まずは顔を狙ってのハイキックだが早乙女は身体を反って躱し、鳩尾を狙ったボディは上手くいなされた。

 

「おいおい嬢ちゃん。少しは話を聞けって」

「女の敵に聞く耳はなぁいっ!!」

 

 場の収拾をつけようと早乙女は古市に話しかけるも、当の彼女は話を聞く気はなく攻撃の手を緩めない。

 面倒くさくなった早乙女は顔目掛けて振られた拳を掴み、雑に彼女を投げ飛ばす。人形のように簡単に投げられたことに驚いた古市は拘束されているヒルダの横まで体育館の屋根を転がりながら体勢を整える。

 

「──こんのセクハラジジイ..!」

「つ、ツムギ..」

「..大丈夫ヒルダ?ていうか何その赤黒いの?」

「これはあの男の仕業だ...気をつけろ奴はただの人間や悪魔じゃない..!」

 

 ヒルダの言葉に古市は目を細める。

 

「ふーん...んじゃあ..も少し真心込めて行くか

 

 古市は腰を落とすと共に身体を囲うように風を纏い始め、その姿に早乙女は目を見開く。

 

「──そいつは」

 

 無意識に言葉を漏らした彼は、風を巧みに操り人間の速度を超え距離を積めてきた古市に頭へと蹴りを入れられる。しかし寸前のところで腕を差し込み、直撃を防いでいた。

 

「防ぐのかよ..」

 

 能力を使った上での攻撃。それを吹き飛ぶことなく完璧に防がれるのは彼女にとって初めての経験である。

 だがそれを隙と捉えた早乙女が離れる前に足を掴む、それだけで古市はゾクリも背筋が凍るほどの圧を感じ瞬時に彼女を中心に暴風を一瞬の間生み出す。

 

 あまりの強風に早乙女は手を離し、自由に古市は身体を空中で捻りながら浮いて距離を取る。

 

(このおっさん...まじで何者だ!?ヒルダを拘束しているアレといい、ワタシの能力も上手くいなしてくる..!明らかに普通じゃない!!)

 

 

「...なるほど。鬼が出るか蛇が出るかといったが、まさか"天狗"が出てくるとはな」

 

 

「──ッ!?」

 

 早乙女から出てきた言葉に古市は目を見開いて驚く。彼女は特に天狗の能力や出自を隠そうとしたことはなかった。聞かれれば普通に答えるぐらいの気持ちで過ごしてきたが、それを初めて会って数時間程度の男かつ初見で見抜かれたことは今までの人生の中でもトップクラスの衝撃である。

 

「お前さんだろ?あの契約者の坊主の()()()をしたのは」

「....なんのこと?」

「誤魔化さなくていい。別に怒るつもりもない。むしろ褒めてやりたいぐらいだ、お前さんがやらなきゃ今頃ここら一帯焦土と化してたからな。──しかし、幾つか解せないことがある」

 

 タバコの煙を吐きながら話す早乙女に、警戒を解かず空中に浮いたまま話を聞く古市。

 

「お前さんがあの後始末をやったのは間違いない。だがどうやった?特にあれ程の濃密な魔力の波を周囲に影響を及ぼさずに散らすのは簡単なことじゃない」

「....」

「オマケにお前さんのように()()()()()()人間には到底不可能に近い芸当だ」

 

 早乙女は目を細めて古市へと疑問を問いかける。

 

 魔力というものは通常悪魔にのみ宿るものであり、悪魔にとって生まれながらにもつ魔力量は力そのものの格を表すものとしても重要である。そして人間は悪魔と契約することでその力を使うことができる。

 しかして例外はある。ごく稀であるケースではあるが悪魔が人間と子を成した際に、その子供に魔力が受け継がれることがある。だが受け継がれたその魔力量は極端に少なくなっていることが殆どなのだ。

 

 そして早乙女の言う通り、天狗の末裔である古市から感じられる()()()()()()は侍女悪魔のヒルダはおろか、実体を持つことのない下級悪魔よりも少ないものだ。

 

 故に早乙女は問いかける。彼女を見極める為に。

 

「.....」

 

 だが古市は口を開かない。彼女にとって彼は警戒すべき得体の知れない存在なのだから。野生動物のように警戒をしたまま古市は地面に足を下ろす。

 

「...話をしたいんだったらヒルダの拘束解いてくんない?」

「そうしたらあの嬢ちゃん抱えて逃げるだろう。速さは一級品みたいだからなお前さん」

 

 古市が要求をするも、その腹に据える狙いを見逃さずに彼はそれを拒否する。

 

(あの一瞬の攻防でワタシの得意も見抜いてる...初めてのタイプだ)

 

 古市は早乙女の洞察力に一筋の冷や汗を流しつつ、周囲を盗み見る。しかし周りは見晴らしの良い屋根の上、使えそうなものや視界を遮る物もない為彼の目を掻い潜ってヒルダを連れて逃げることは難しい。

 その為彼女は腹を括る。友人を助ける為、戦うことを。

 

 足を軽く広げ腰を落とし、もう一度風を纏うようにかき集め始める。

 

「..おいおい、まだやる気か?」

 

 未だ戦意を見せる古市に少々呆れたように早乙女は煙と共にため息をこぼす。

 その問いに古市は言葉ではなく不可視の斬撃の風を返す。腕を振り上げ風を切りながら真っ直ぐ彼へと進む斬撃の風。対して焦る様子を見せず、まるで壁にを手を添えるように右の手のひらを翳す早乙女。

 

「まぁまぁてとこだな」

 

 彼が翳す掌から手の甲と同じ赤黒く光る紋章がバリアの様に浮かび上がり、古市の放つ斬撃を防ぐ。

 

「...まじ?」

「いいモンもってんな。だがまだまだ甘い」

 

 こうも容易に防がれると思っていなかった古市が驚きの声を静かに漏らすも、早乙女は右の手首をプラプラと振って余裕そうに口を開く。

 

「コレでわかっただろ。少しはおじさんと話をする気になったか?」

「──いやだね」

 

 舌を出して提案を蹴る古市はもう一度腕を振り斬撃の風を放つ。しかしそれが通じる筈もなく同じように防がれる。

 

「む」

 

 だが早乙女が防いだときには古市は彼の真横へと高速で移動しており、ガラ空きの腹を目掛けて腕を振り上げる。

 しかし彼は左の掌を翳して同じように斬撃の風を防ぐ。

 

「残念。右手じゃなくても出来るんだよコレぐらい」

 

 得意げに言う早乙女だが、古市は気にせず同じように彼の周りを回るように高速で動き回り斬撃の風を放ち続ける。

 横から、背後から、頭上から、四方八方から飛んでくる斬撃を早乙女は防ぎ、いなし続ける。

 

「──..」

「おいおい..いい加減諦めろ嬢ちゃん。このままやってもお前さんに勝ち目は..」

 

 そこまで口にして早乙女はある一つの疑問が浮かび上がる。

 

(何故ここまで続けて攻撃できる...?奴さんの魔力量じゃせいぜい1、2発が限度だろうに..)

 

 

 1秒に満たない程の一瞬生まれた思考の隙。

 

 その隙を古市は見逃さずに彼の背後を取り、ピストルのように人差し指と中指を向ける。

 

 しかし早乙女は身体を捻り右手を翳し、紋章を浮かび上がらせる。

 

 完璧に間に合った紋章の壁は───

 

 

 

「──"伊太刀(イタチ)"」

 

 

 

 彼女の不可視の斬撃を防ぐことが出来ずに真っ二つに切断される。

 

「───ッッ!?」

 

 予想外の高威力の斬撃に早乙女は間一髪の所で身体を捻り直撃を避ける。しかし一抹の油断と、超速で迫っていた不可視の斬撃は完全には避けきれずに咥えていたタバコを真っ二つに、肩を浅く切りつけられる。

 彼は冷や汗を軽く流しつつ、軽く距離をとる。

 

「...おいおいタバコが勿体ねぇじゃねぇか..クソッタレ」

「禁煙の手伝いしてやったんだ。感謝しろ不良教師」

 

 軽口を返す古市はもう一度風を纏うように集め腰を落とす。その姿を見て早乙女は見定めるように目を細めて、疑問を投げかける。

 

「どういう手品だ?今までとは明らかに違う威力の切りつけるような風といい、お前さんの魔力量と釣り合わない攻撃の数。おじさんにタネを教えてくれねーか?」

 

「これから思う存分ワタシの()()をみせてあげるから、自分でタネを探しなよ...それが手品の醍醐味でしょ?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 古市と早乙女が体育館の屋根の上で対峙している間、男鹿は校舎裏まで来ていた。先程感じた早乙女が行った魔力解放を肌で感じており、屋上へと向かおうとしていたのだが

 

「たくっ古市のヤローだけどっか行きやがって..一体何の用だ?邦枝」

 

 後頭部をポリポリと掻きながら、ここまで彼を呼び出してきた目の前に立つ人物の名前を呼ぶ。

 

 邦枝は真剣な顔で男鹿へと口を開く。

 

 

 

 

「男鹿..聞きたいことがあるの。その赤ん坊と紬貴について...

 





 29話にして漸く異能力要素を出す小説があるらしい.....
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