ワタシの幼馴染は最凶のヤンキーとして恐れられている。
生まれつきの人相の悪さに、今までのケンカを無敗で勝ち続けた伝説を作り上げた腕っぷし。そして敵に対して残酷なまでの容赦の無さ、ぶっちゃけワタシも時々引いてるぐらいには容赦がない。
一部をのぞいて目を合わせるだけでほとんどの人間から避けられるほど恐れられてるワタシの幼馴染は今ーー
「.........................。」
「アダッ!」
学校の屋上で煙上げる焦げ臭い焼死体となっていた。...決していい奴ではなかったが幼馴染としてしっかり成仏できるように埋めてやるとしよう。南無。
「勝手に....殺すなっ..アホ市ィ...っ」
「あっ...生きてた」
相変わらずのしぶとさにワタシはすこし引きながら、屋上の柵にもたれかかる。
「一応聞くけど...大丈夫そ?」
「大丈夫に見えるか.....?今日だけでもう6回だ」
「...なんで生きてんの?」
何が6回かと言うとそれはベル坊が放つ殺人級の放電のことである。
予想以上に生物の枠組みを外れた幼馴染の生命力にご家庭のキッチンによく出る黒い悪魔を連想させられながら手元の棒付きキャンディを口に放り込む。
「.....やべぇぞ。古市...。このままだとオレは、死ぬ。あの忌まわしい夢のように..。」
「...夢?」
珍しく焦りを声に滲ませる幼馴染につい聞き返す。
「ああ。恐ろしい悪夢だ。間違いなくあれはこれから起こることへの警告だと考えている。」
「..そんなオカルトチックな話、信じるようなタチだっけ?」
男鹿は今朝見た夢の内容を語り出す。それは夢の中で男鹿が成長し大きくなってベル坊(悪魔の姿)のご飯を見つけられず、ダダこねられて世界が全滅するという荒唐無稽で無茶苦茶な夢だった。だったが....
「なんていうか.....。そうならないと断言できないのが恐ろしいね。」
「だろ?」
「ダブ」
そういえばそうなんだった。このふてぶてしいけど無邪気で可愛いような赤ん坊だけど実際は人間を滅ぼしにきた魔王なんだよね...。
「...ダ?」
「んぁ?」
ワタシは男鹿の腕に収まるベル坊を横から手を伸ばし抱えて顔が見えるように優しく抱っこする。
「ベル坊ー?キミが大きくなって人類滅ぼすときはワタシも手伝うから見逃してねー?」
「アブダ?」
「ナチュラルに裏切んなオメーは..」
「ではそのときは私達ともに坊ちゃまの望む世界を作りましょう!」
「アハハっ。じゃあっ今のうちからワタシ達と同じ価値観になるよう教育にすればワタシ達生き残れるかもね!男鹿」
「おぉ!確かに!オレの教育次第で未来も変わるわけか!」
「そのいきですぞ!坊ちゃまの未来は貴方に掛かっています!」
ーアッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ
「「いやっ!誰だオマエッッ!」」
「アハハハ、私ですよ私。」
「いやっアンタみたいな髭面のおっさんしらないけど!?」
超自然に溶け込むじゃん!怖すぎるよこの不審者!!!
ワタシが吃驚して戦闘態勢を取るが、男鹿は何か思い出したように声を上げた。
「あ.....お前まさか...」
「え?何知り合い?」
「あの時川で流れてきた....」
「そうです。次元転送悪魔のアランドロンです。」
「いやそれは知らねーけど。」
こいつも悪魔かよ。どーみても日曜に家でくつろぐでけーおっさんなんだけど。ていうか
「川に流れてきたって、アンタが真っ二つに割ったやつ!!?」
「ああ....間違いなくこのおっさんだ...この野郎何が次元転送だぁ?テメェのせいでオレがどれだけっ...!!」
「うんうんいいですよそーゆとこ。でもちょっと話聞いてくれます?」
男鹿がおっさんの顔を掴みアイアンクローを決める。痛いのかおっさんは汗を浮かべながら弁明に入る。
おっさんは川で流されている最中河岸で大勢の人間を土下座させ高笑いをする男鹿を見てベル坊の親に最適と確信し男鹿に託した。
なんでもベル坊は強い者にしか惹かれない。しかも凶悪で残忍で傍若無人で人を人とも思わないクソヤローであれば尚更良いというなんとも魔王らしい嗜好だ。
「適任じゃん。なるべくしてなったんだよ」
「ぐおぉぉっ。アレが...原因かっ!!」
「いやはや。あの時の光景は今思い出しても惚れ惚れするほど見事なものでございました。」
地面に膝をつき頭抱える男鹿に対してアランドロンは恍惚とした表情で褒め称える。これを機に日々の言動を改めて欲しい。
「ーーまてよ?もしかしてあれか?オレより強くて凶悪でクソヤローがいたらソイツが親に選ばれるってことか?」
男鹿の問いかけにアランドロンのおっさんは目を見開き固まる。
「............嫌なんですか?坊ちゃまの親...名誉なことですぞ..?」
「たりめーだボケ。で、どうなんだ?」
「そりゃあ...確かにそんな人間がいれば...そーなりますかね..」
「そりゃあいいことを聞いた...。ほら古市お前、ベル坊のかーちゃんやってみろよ。」
「どういう意味だコラ」
「ダーッ!!」
ワタシの腕に大人しく抱かれていたベル坊が男鹿のもとへと飛び移る。
「坊ちゃまは男鹿殿の方が良いようですな..」
「性格はイケると思ったんだが、やっぱオレより弱いからか......」
「ケンカ売ってんの???」
ド失礼な男鹿に蹴りを入れる。ワタシの性格は絶対アンタより良いし。てか負けないし。しかし男鹿は希望を見出せたのか表情が明るくなっていた。相変わらず悪魔みたいに悍ましいけど。
「しかしいいことを聞いた。あんがとよおっさん。」
「てかいるわけないでしょそんな奴。鏡見てみなよ。」
「バカめ..古市。ここは天下の不良校石矢魔高校だぞ?」
ーー石矢魔高校 日本の中でも屈指の超絶不良校。近隣からは「ヤンキー率120%」「ヤクザ養成所」と呼ばれるほど生徒はほぼ全員ヤンキーで、下手なスラム街よりも治安が悪い。
そんな全国でもトップクラスの不良校である石矢魔の中でもさらに東邦神姫と呼ばれる最強の4人がいる。
今、ワタシと男鹿はその4人の中でも最も石山統一に近いと言われる男のもと向かう為3年校舎を歩いている。
「ねぇ男鹿ぁ。まぁーじで行くの?神崎ってヒトのとこ。絶対トラブルになるってぇ。」
「別にケンカしにいくわけじゃねぇーんだ。大丈夫だろ。」
「そう考えんのはあんただけだっつの。てかなんでワタシも無理矢理連れてきたのさ。」
「そりゃ舎弟の1人でもつれていけば舐められねーだろ?」
「ふざけんな。誰がいつ舎弟になったんだ。」
そんなワタシの指摘もなんのその。男鹿は周りの不良どもの視線を気にも留めずズンズンと廊下を進む。
「お...おいっアレ男鹿じゃねえか..!?」
「あの野郎女と子供連れてなんで3年校舎にっ....!?」
「あの野郎、昨日2年の幹部どもやっちまったらしーぞ。」
「....てとこはなんだ。アイツとうとう取りに来たってことか?石矢魔のてっぺん。」
「しかも家族連れかよ..舐めてんなぁ...」
ハチャメチャに警戒されながらもワタシ達は歩みを進める。東邦神姫の中の1人、神崎一のグループが溜まり場としている教室へと。
「神崎くんってのいるぅー?」
「足で扉を開けない。行儀わるいよ男鹿」
男鹿は腕の中にベル坊を抱くと今までで見たことないくらい和やかな笑顔浮かべ、足で溜まり場の教室の扉を開ける。
「おっ男鹿だ...
「あれが...」
「なんで家族連れ..?」
一斉に部屋の中にいる不良どもから視線を浴びる。そこかしこから戸惑いの声がヒソヒソと上がるが、その奥にまるで玉座のように鎮座する1人用のソファに腰掛けくつろいでいた男が、机に足を威嚇するよう乱暴に乗せた。
「
あまりの迫力に帰りたくなるワタシに反して男鹿はさらに嬉しそうに顔を緩める。リアクションおかしいよ。
すぐさま部屋の中の1人がすさまじいガンつけながら男鹿へと絡んでくる。やれ「調子こいてんな」とか「女子供連れて舐めてんの」など、定型分のようなものを言っている。
絡まれる男鹿は両脇の下を支えるように抱えるベル坊をその不良の顔面に近づけてペタペタ触らせる。ベル坊のチェックタイムだ。結果は....
「フ.......」
「小物には用はねえ失せろってさ」
「今後のご活躍をお祈り申し上げます」
残念、不合格だ。他にいい出会いがあるから落ち込まないでね。しかし、おちょくられたと感じたのか逆上して拳を振り上げる。
「上等だこらっっ!!」
「待てっ!..オレが相手しよう。」
周りから城山さんと呼ばれる随分と図体のでかい男が相手をしてくれるらしい。顔も体も随分とイカツイが髪型は三つ編みツインテールという随分可愛らしくなっている。
「......最近噂の一年が神崎さんに何の用だ。」
至極当然の疑問投げかけられた当の本人の男鹿は何かを考えるように顎に手を当てる。
恐らくベル坊を押し付けに来たことを伝えたいのだろうがアイツの空っぽの頭ではなんて切り出せば良いのか思いつかなかったのだろう。ワタシの方へ助けを求める視線を向けてくる。
まったく世話のやけるやつ.....。
「すみませぇん。ワタシ達ぃ神崎さんの仲間になりたくてきましたぁ。」
「はぁ!?」
男鹿の方に手を置き、できるだけカワイイを声出して嘘の要件を言う。年がら年中勢力争いしているこの学校において、未だどの勢力につかず暴れ回る男鹿は目障りだ。それが自分の下につくってことになるのなら、男鹿によっての混乱もなくなり、勢力への頼もしい戦力となる。まさに一石二鳥で断る理由もないはずだ。
「オイっ古市」
「ケンカじゃなくて話をしにきたのなら下手に出ないと、相手にすらしてくれないよ。」
「....いやなんだよさっきの喋り方」
「...頭悪そーに話したら信憑性あがるかと...」
「サブイボたっちまったよ。キモくて。」
コイツは後でぶん殴ることを心に決めていると部屋の中がざわつく。当然だ。
今まで一匹狼で暴れまくっていた男鹿がいきなり他人の下につきたいというのだ。
「信用できるわけないだろ」という否定派、「かなりの戦力増強になる」という肯定派、「マブイ女だぁ。楽しくなりそーだな」というセクハラ派に分かれてそこかしこで小声話し合っている。
すると部屋の奥に座っている神崎が口を開く。
「..クククッおもしれーじゃねーか。強いやつは大歓迎だ。」
「神崎さん!?」
意外にも肯定的な反応を示す神崎に城山が声を上げる
「待ってください!こんな奴ら信用してはっ!」
「だったらお前が証明してみろ。城山ぁ。」
城山の声にかぶせるように神崎は城山に指示をだす。手にもつ紙パックのヨーグルッチを握りし、言葉を続ける。
「てめーに負けるようなザコなら、俺はいらねぇ。」
見せつけるように潰れたヨーグルッチを落とした、暴君により城山と男鹿のタイマンがきまった。
教室の中心で対峙する男鹿と城山。お互いにやる気十分のようだ。
「アンタに勝ったら信用してくれんだな...?」
「........何を企んでいるかは知らんが、オレはお前のような神崎さんの寝首かこうって輩を何人もつぶしてきた....。」
語り出した城山の威圧感がさらに増す。対して相手の男鹿は何も言わない。
「お前が何を企んでいよっガッッ.............」
城山の語りを最後まで聞くことなく男鹿は高速の裏拳を顎に当て城山の脳を揺らす。まさしく一撃で城山を床に沈めた。
「プッ...ハハハハハ!!!!」
神崎が楽しそうに高笑いをあげ、男鹿に告げる。
「.....いいだろう。ようこそ3-Aへ」
「まって.....下さい...!!....オレは....まだやれます。」
脳を揺らされ立たないと思っていた城山が床に手をつきながらなんとか顔をあげる。
「............。」
「ま...まだっ....オレは........負けてっ」
「フンッ」
「ブガッッ」
「テメーはもう用無しだ。消えろ。」
床に這いつくばりながらも闘志を示す城山に神崎は蹴りと冷たい言葉で答える。その姿に男鹿の期待値は上がり、ワタシはドン引きする。
だがなお城山は、神崎の足を掴み声を上げる。
「その男は危険ですッッ!!信じてくださいッッ!!オレはッいつも神崎さんのためにっっ!!」
「..........立てるか?」
「.....もちろんです。」
城山が意地を見せるように膝を揺らしながら立ち上がる。忠誠心を見せる城山に神崎は....
「その窓から飛び降りろ。」
ありえない言葉をほざいた。流石の取り巻きどもも引いている。
「ハーイ全員拍手ぅ。...............拍手」
遅れて取り巻きどもは拍手をする。城山の飛び降り自殺を急かすように。
「というわけだ。みんな期待してるよ。側近気取りの城山くん。」
あまりにも胸糞の悪さに顔をしかめ、ふと男鹿の方へ顔を向ける。ここからじゃ表情が見えないが何を考えているのだろう。本気でこいつにベル坊を任せるつもりなのだろうか。
そんなことを考えているワタシはふと視線を感じ、目を向けると神崎がこちらを睨んでいた。え?なんで?
「おいお前......なんで拍手しねぇんだ?男鹿の腰巾着。」
「...あー....」
「....おい男鹿ぁ....最初の仕事だ。あの歩けねぇノッポを窓からぶん投げろ。俺ァお前の女に教育してやるからよ...」
神崎は男鹿に伝え、ワタシの方へ足を向ける。よし決めた。こっちに来んならぶっ飛ばす。男鹿には悪いがスッキリさせてもらう。
しかし歩き出す神崎は男鹿に肩を掴まれる。
「あ?」
「...やっぱあんたじゃなかったわ...」
男鹿は珍しく穏やかな笑顔を神崎に向ける。
「お前がとんでけ」
神崎は顔面に男鹿の拳がめり込むほど強くぶん殴られる。男鹿は先ほどとは打って変わり悪魔のような笑顔を浮かべ、窓の外へと殴り飛ばす。ここは3階の3年校舎。外に殴り飛ばされた神崎はそのまま地面へ真っ逆さま。
外からからは神崎が落ちてくることへの戸惑いの声と救急車を呼ぶ声が聞こえてくる。
皆が絶句するなか当の男鹿は....
「フー....スッキリしたぜぇ」
「ダーブーッッ!!!」
スッキリした顔をしており、男鹿の背中に引っ付いてるベル坊は頬を紅潮させながらウィーーッ!と雄叫びをあげて興奮している。
とりあえず楽しそうなベル坊を抱っこして、勝手に1人でスッキリしてる馬鹿の背中を蹴る。
「ガッッ!何すんだっ!このヤロウ!」
「うっさいわ。勝手に1人でぶん殴ってスッキリしやがって。結局いつも通りのケンカならワタシいらなかっだろーが。」
「助けてやっただろぉがっ!!」
「いらん世話だわっ!ワタシが蹴っ飛ばしてスッキリしたかったのにっ!」
自分勝手の馬鹿にもう一発蹴りを入れようとするが防がれる。
「...あーもう時間無駄にした。帰ろベル坊」
「アダッ」
大人しく抱っこさせてくれるベル坊連れて教室を出る。まじで無駄な時間だった。
「あっ待てこら!ベル坊もって離れんな!」
「じゃあ早く来なよ。てか今日の昼飯奢れよ。面倒なことに巻き込んだんだから。」
「はぁっ!?ふざけんなっ!!」
そんな風に言い合いながら今後起こるであろう面倒ごとに気分は憂鬱となる。何せ四天王の1人をぶっ飛ばしたのだ。他の四天王たちも合わせて男鹿へと接触してくるだろう。
とりあえずわかっていることは、コイツは絶対ベル坊を押し付けるのに失敗することだ。
諦めてくんないかなと叶うはずもない願いを胸に秘めつつ、未だ興奮冷めないベル坊を抱っこして帰路に着くのだった。
今回古市ちゃん存在感少なくなってしまった。頑張れ古市ちゃん。