TS異能力古市   作:ブッタ

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第31話 泣き虫兄貴泣かないで

 

「父上ッ!!」

 

 魔界ベルゼビュート領王城内にて、変声期前の少年のような若々しい声が大きく響き渡る。

 ズカズカと足音を鳴らした少年は魔界の支配者である大魔王のいる王の間の大きな扉を乱暴に開ける。

 

「焔王様ッ!?」

 

 王の間に控えていた側近達が彼の登場にどよめくが、少年は意に介さず真っ直ぐ歩みを進めていく。

 

「父上ッ!」

「ちょ..ちょっと待って!?今!今いい感じにコンボ繋がってるから!!この曲で初めてフルコンボ狙えるから!!」

 

 父上と呼ばれた男は大きな画面の前に設置してある太鼓へ一生懸命かつリズミカルに撥を叩きつける。この男こそ魔界の支配者、カイゼル・デ・エンペラーナ・ベルゼバブ3世、所謂大魔王である。

 

「父上!何故じゃ!?」

「あ!ちょちょ..アーーーッ!!!

 

 大魔王はコンボが途切れてしまったのか両手で頭を抱えてしまうが、少年、焔王は気にする様子はない。

 

「ちょっともー..何よ焔王?」

「何ではない!!人間を滅ぼす事じゃ!!」

「いきなりどしたの?」

 

 勢い余る焔王の問い詰めに大魔王は困惑して後ずさる。

 

「何故余ではなく、未だ歩けもしない赤子の弟を選んだのだ!!」

「えぇ...」

「余の方が適任であろう!!それなのに..!!」

 

 すると焔王は眉を寄せて唇を噛み、下を向く。同時に辺りに熱が立ち込めていく。

 

「...や、やはり父上は..余よりも」

 

 じわじわと焔王の瞳に涙が溜まっていくのと同時に、辺りはさながら灼熱地獄のように熱くなっていく。控えていた側近達や臣下たちが慌てふためく。

 

「.......」 

 

 間近でその焔王の放つ灼熱をその身で受ける大魔王は至って涼しい顔でポリポリと後頭部を掻く。

 

「んじゃアレだ。お前も行くか」

「....?」

 

 そうあっけらかんに言って大魔王は乱雑に焔王の頭に手を乗せる。すると先程まで辺りに立ち込めていた灼熱が幻だったかのように収まっていく。

 

「よ、良いのか...!」

「いいんじゃね?」

「──し、失礼ながら大魔王様...!」

 

 随分と適当に言葉を返す大魔王に焔王は表情を明るくさせるが、トントン描写2人に対してフードを目深に被る枯れ木のような老人の側近が声を上げる。

 

「人間界には既に末の息子様が居られます」

「えー?そーだっけ?」

「つい先程焔王様が仰られましたが...。それに大魔王様の御子息である御二方を同時に人間界を送られるのは...」

「んー..でもでもでもでもでもさぁー?なんつーか?遅くね?

「いや..まぁなにせ未だ赤子ですから」

 

 大魔王の指摘に側近が困惑するように話す。

 

「遅いよね?じゃあいーじゃん。兄弟仲良く人類滅ぼせよ」

「わかった!!!行くぞイザベラ!!」

 

 沈んでいた表情を一変させ、焔王は自身の従者を引き連れて慌ただしく王の間を出ていく。

 

「よしいったな!じゃ早速ゲーム再開!!今日はフルコンボするまでワシ寝ないから!!」

「大魔王様...よろしかったのですか?」

「んぁ?何が?」

「貴方様のことです。深い意味はないのは重々承知ですが、人類滅亡を御子息である御二方に託し人間界へ送るということは....傍から見ると───」

 

 

「あぁぁっっ!!!またミスったぁ!!!」

 

 

 側近の話を待てずに太鼓ゲームを再開していた大魔王が頭を抱えて大声を上げた。

 

「もーここムズ過ぎなんですけどマジでッ!!開発陣性格悪すぎぃー!」

「だ、大魔王様...」

「え?聞いてる聞いてる。アレだよね初めていくラーメン屋はちょっと緊張するって話でしょ?分かるわー」

「いえそんな事は言っていませんが..」

「もういいからさぁ..ジュース持って来てよジュース」

「....御意」

 

 ゲームに集中して話を全く聞く様子を負けない大魔王に側近は諦め、指示に従ってジュースを取ってくる為に王の間から出ていく。

 残された大魔王は休憩と言わんばかりに身体を大きく伸ばしてほぐしていた。

 

 

「────それにしても、あんな事気にする奴だったっけ?焔王の奴」

 

 

 大魔王が溢した小さな疑問は同じ部屋にいた側近達の耳には届くことはなかった。

 

 


 

 

「──という訳での?余も父上の言いつけで人間界を滅ぼしに来たぞ」

 

 そうにこやかに物騒な言ってくるのはベル坊の兄貴とかいうがきんちょだった。

 

「はぇー。そーなんだ」

 

 がきんちょの話をワタシは部屋に溜め込んでいた煎餅を取り出してバリバリ食べながら適当に聞き流していた。

 因みにあの後落ち着いた場所で話をしたいとのことで校舎裏から移動して男鹿が無理やりワタシの部屋に全員連れて来ていた。何故か気絶していた葵はワタシのベッドに寝かしているが、それでも普通にキャパオーバーなんだよなぁ..。とぼんやり考えているといきなりモップの柄頭が顔面に向かって突き出されて来たので顔を傾けて躱す。

 

「焔王坊っちゃまがせっかくお話をしてくださっているというのになんて態度なのかしら貴女。殺されたいの?」

「殺されたくないです」

「やめよヨルダ」

 

 いきなり攻撃仕掛けて来たヒルダと瓜二つのメイドさんが頭軽く下げて座り込む。がきんちょもとい焔王クンは意外にもそれなりに話ができそうな雰囲気だ。

  

「そこの者も余の弟の家来であろう?ならば余にとっても家来じゃ。無碍に扱うでない」

 

 前言撤回、ジャイアンみたいな思考してた。つか家来じゃねぇし。

 いきなりの家来発言に青筋を浮かべるワタシをよそに今まで静かに話を聞いていたヒルダが恐る恐る口を開いた。

 

「それで...つまるところ私達はお祓い箱ということでしょうか?」

「──貴女らしくありませんねヒルデガルダ」

 

 ヒルダの問いに答えたのはヒルダもどきとは別の侍女悪魔、イザベラとか呼ばれてたメガネメイドだ。

 

「先程焔王坊っちゃまが仰っていたように大魔王様は御二方とも協力することを望まれています。故にベルゼ様が人間界から撤退しなければならない訳ではありません」

...なんだ帰んねえのかよ

 

 イザベラって奴の言葉を聞いてヒルダ珍しく僅かに安堵したような様子を見せる。因みに小声で呟いた男鹿の一言を聞いてヒルダはノーモーションで隣に座っていたアイツの脇腹に肘鉄を入れていた。

 

「しっかし、コイツが本当にベルゼ様の契約者なんスかぁ?すげぇ弱そー」

「偉大なベルゼ様といえど未だ赤子...見る目はこれから養ってもらえば良いのですサテュラ」

 

 苦悶の声を上げてうずくまる男鹿を値踏みするように覗きこむ活発そうな見た目のサテュラとかいうメイドにイザベラ(メガネメイド)が言う。するとワタシの自室の扉が開いた。

 

「....お茶、持って来たよぉ..?」

 

 ワタシのベッドで眠る葵を除いて人数分のジュースをお盆に乗せ持って来てくれたのは両親譲りの綺麗な茶髪をサイドにまとめたワタシの妹、ほのかだ。

 

「あぁ、テーブルにお盆ごと置いておいてほのか」

「んもーお姉ちゃん。こんな遅い時間に友達を呼ぶなら前もってお母さんに言っておきなよ。今下でカンカンだよ?」

「げ、マジ?ほのか...機嫌取っておいてくんない?」

「やだよ。こっちまで飛び火するじゃん」

 

「....冷凍庫の奥深くにある氷枕の下にハー⚪︎ダッツがあるよ」

「まぁお母さんとお姉ちゃんの間を取り持つのは妹として大事なことだよね」

 

 ジュースを乗せたお盆をテーブルに置いたほのかは大切な任務を背負って部屋を出ていった。

 

「...お主、妹に賄賂を渡して頼み事をするのか...姉として矜持はないのか?」

「所詮は人間ってことですわ坊ちゃま。家来にする価値も有りませんしやっぱり殺しちゃいましょうよ」

「うるさいなぁ!!元はといえばアンタらがゾロゾロとワタシの家に乗り込んで来たのが原因でしょーが!!」

 

 呆れた様子を見せる焔王(がきんちょ)と気が短すぎるヨルダ(ヒルダもどき)に吠えるがどこ吹く風、ほのかが持って来たジュースに手を伸ばして飲み始める。これ以上何言っても意味はないことを悟りワタシは荒ぶる気持ちを落ち着けるように大きく息を吐きながら腕を組んで、イザベラ(メガネメイド)に話かける。

 

「....それで?結局アンタ達は敵じゃない訳?」

「えぇ。()()はそのつもりです。それが焔王坊ちゃま及び大魔王様の尊ぶべきご意志ですから」

「....ふぅん」

 

 その割にはなぁんか引っかかる言い方だこと。

 

「んぐ..んぐ...ッぷはぁ。ま、そういう訳じゃ、よろしくの弟よ」

「アウ?」

 

 勢いよくジュースを飲み干した焔王(がきんちょ)が立ち上がってヒルダの膝の上に乗っかっているベル坊へと手を差し伸べる。それは間違いなく友好を結ぼうとしているのがわかった。

 

「アー....エリャ!!!

 

 

 ───しかしベル坊は男鹿が飲み干したコップから氷を取り出し焔王(がきんちょ)に投げつけた。

 

 

 そこそこな速度で氷を投げつけられた焔王(がきんちょ)は豆鉄砲を食らった鳩のように固まってしまった。それをみてベル坊は目を輝かせてもう一度で氷に手を伸ばし始める。

 

「ちょ!?坊ちゃま!な、何をしておいでで...」

「アーエー♪..ノリャッ!!!

坊ちゃま!?

 

 ヒルダが慌てて制止しようとするが時遅く再度固まる焔王(がきんちょ)へと氷が投げつけられる。

 

「落ち着いて下さい坊ちゃま!?兄君ですよ!?」

「何やってるのヒルダ!!辞めさせなさいよ!!」

 

 ヨルダの注意と共にヒルダは慌ててベル坊を抱き抱えてこれ以上氷を投げつけないようにコップから離す。

 

ムリャッ!!!

「「まだ持ってたの!?」」

 

 だが一筋縄でいかないのが魔王の赤ん坊。隠し持っていた氷を全力投球で投げつけるが、

 

 

 

────氷は焔王に届く前に空中で蒸発した。

 

 

 

 驚愕するワタシ達をよそにメイド3人が勢いよく立ち上がる。

 

「焔王坊ちゃま!!美味しいポテチですよ!!はいあ〜〜〜ん!!」

「カル⚪︎スソーダお持ちしましたッス!!」

「ゲーム!!ゲームしましょう!!ほら好きなゲームボー⚪︎!!」

 

 いきなり3人は涙ぐむ焔王(がきんちょ)の機嫌とり始めたが、その様子はかなり切羽詰まっているようにみえた。けれどメイド3人が近づけたポテチやコップ、ゲーム機が溶けた事でようやくワタシと男鹿は異常に気づいた。

 

「何いまの?」

「つーかなんか暑くねぇか?この部屋」

 

「──部屋ではない。焔王ぼっちゃまだ」

 

 ワタシ達の疑問にヒルダは冷や汗を一筋流して説明を続けてくれる。

 

「焔王ぼっちゃまは癇癪を起こされると業火が漏れ出てしまうのだ。以前魔界で大泣きされた時は7日7晩泣き止まず、30程の街が焦土にされていた」

火の7日間!?

「人間界に来て力が弱まっているとはいえ、半径15kmは消し炭になるだろうな」

「言ってる場合じゃねぇだろ!!謝れベル坊!!一旦土下座して謝れ!!」

 

 ヒルダからトンデモ情報を聞き出したワタシ達も慌てて焔王(がきんちょ)の機嫌をとり始める。しかし機嫌は良くならず、顔を歪ませて絞られた大きな瞳に涙が溜まり始めた。辺りが火の海になるまで秒読みだ。

 

「そうだ!!ゲームだ!!おい銀髪の人間!人間界のゲームはあるか!?」

「は?なんでゲーム?」

「坊ちゃまは大のゲーム好きだ!!人間界のゲームを見ればきっと機嫌が治る!!」

「えぇ..いや..」

 

 サテュラとか言われてたメイドにゲームを見せろ言われてワタシは言い淀む。

 ゲームはあるけどさぁ...今は新作のPS5がある。あれは文字通り身を削って購入した宝物だ。アレを貸すのは...やめよう。泣いてPS5を壊されたら暫くは生きていけないからね。そうだ貸すのは数年全然使ってないPSPにしよう。

 

「ゲームね。ちょっと待って今────」

「そういや新しいPS5買ったつってたなお前、丁度いいじゃねぇか」

「「「「PS5?」」」」

 

 男鹿てめぇぇぇっ!?ふざけんな!何口走ったやがんだ!?

 

「ぴ、PS5?何言ってるのかなオガくんは。今の最新はPSPじゃないか」

「何年前の話してやがんだ?PSP俺達が小学生の頃だろーが」

 

 お前ぇ!?マ..な..や...お前ええぇぇぇッ!!

 

「よくわからないけれど新しいのがあるならソレにしなさい!!さもなくば殺すわよ!!ほら早く!!」

「えぇ...」

 

 切羽詰まった様子でこちらに詰めてくるヨルダ(ヒルダもどき)。どうする..!?馬鹿正直に貸してPS5が無事で済む保証は無い。かといってPS2とか出して男鹿にツッコまれたら面倒臭い。けれどこれ以上時間が掛かればワタシの家周辺が火の海になる。現に部屋の温度が既に....

 

 熱く..ない?

 

「...ゲームがあるのか?」

 

 いつの間にか部屋の温度は通常通りに戻っていた。冷静さを取り戻したらしい焔王(がきんちょ)がワタシに近づいて来ていた。

 

「もし、お主が良ければ...余にもゲームをやらしてくれんか?..新しくなくても構わん」

「.....」

「だ、駄目か..?」

 

 

 

 

「....〜〜〜...............──はぁ..」

 

 大きく、大きく溜息を吐いてワタシは立ち上がってテレビの方に歩く。

 

「...ぁ」

 

 なんか焔王の声が聞こえたけど気にせずテレビの横の収納ラックを開けて白黒のコントローラーを取り出す。そしてワタシはそのコントローラーを焔王の手に乗せる。

 

「お?」

「ほら、しっかり握って。コントローラーだって高いんだからね?PS5は」

「〜〜〜っ!恩にきるぞ!!」

 

 表情を一転させて明るくさせた焔王は小走りでテレビの真ん前まで移動して座り込んだ。それを見てワタシはとりあえず最近ハマってる大衆ウケのいいゲームをセットする。

 

「フッフッフ...言っておくが余は相当なゲーマー...ゲー魔王じゃぞ?ソフトはなんじゃ?マリ⚪︎か?ド⚪︎キーか?ハッ!ひょっとして魔⚪︎村の新作かっ!?」

「いやこれPS(プレステ)だから。モ⚪︎ハンの新作だよ」

「?何だか知らんが、人間滅ぼす前に軽く捻ってくれるわっ」

 

 

 

 

 

「うぉぉっ!?なんじゃこのリアルな画面は!?」

「スゲースね坊ちゃま。城にあるスー⚪︎ミやメガド⚪︎イブなんかとは比べもんにならないスよ」

 

 

 

 

「この猿屁をこきよった!!無駄に汚い!!」

「坊ちゃまになんて無礼な!身の程を教えてやってください!!」

 

 

 

 

「負けてしまうー!?助けてくれ古市ぃ!!」

「はいはい」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 時間が流れて、ある程度プレイした焔王は床に膝をついて項垂れてしまった。ふむ、結構楽しんでたと思ってたけど..趣味に合わなかったかな?任⚪︎堂派っぽかったし。

 

「し、知らぬであった...まさか人間界のゲームがここまで進化しているとは..革命..間違いなく革命じゃこれは..!!」

 

 違った、興奮通り越して感動してるだけだコレ。けどその気持ちはわかるぜ...いくつになってもその感動は色褪せないもんな..

 ワタシが後方腕組み先輩ヅラをしていると焔王が勢いよく立ち上がる。

 

 

「決めたぞ!!イザベラ!!サテュラ!!ヨルダ!!明日はゲームショップに行くぞ!!人間を滅ぼすのは人間界のゲームをやり尽くした後じゃ!」

「「「はッ!!」」」

 

 

 こうして人類滅亡の危機は免れました..てね。やはりゲーム..!ゲームは全てを解決する...ッ!!!

 その後はトントン拍子で進み、焔王達は明日からのゲーム生活に備えてこの世界での拠点に帰るらしい。玄関で彼等を見送ると焔王がこちらを向いてきた。

 

「さらばじゃ皆の者!古市よ今日のもてなし感謝するぞ!」

「もてなしって大袈裟だな...ゲーム貸しただけだっての。まぁ気が向いたらネットで一緒にあそぼ」

「ねっと?よくわからんがお主の言うゲームならハズレはないだろう!!」

 

 二パーと聞こえそうなほどに明るい表情を浮かべる焔王にワタシはポリポリと後頭部を掻きながら答える

 

「どうして坊ちゃま..っ!あんな女なんかに..ッ!」

 

 焔王の後ろで恨めしそうに爪を噛むヨルダ(ヒルダもどき)は見ないフリ、見ないフリ。

 

「ではな!!──イザベラ!」

「はっ」

 

 名前を呼ばれたイザベラ(メガネメイド)は何処からか飛び出した厚めの本を開き、1ページを破いた。

 

「"魔言召喚 トリックアート"」

 

 そう呟いたかと思えば、紙切れだったはずの1ページから影のような真っ黒なモヤが溢れ出た。その黒いモヤは瞬く間に形を変えて、高級感あふれるオープンカーへと変化した。

 

「おぉ..すごい」

「なんだぁ?今のは..」

 

 ワタシと男鹿が目の前で起こったザ・魔法に声が漏らすしている間に焔王達が次々と乗り込んでいく。

 

「ヒルデガルダ。先程も言ったように大魔王様のご意志の通り我々が協力することは吝かではありません。ですが、坊ちゃまの家臣の中ではそう考えないものが出てくるでしょう」

「────っ!」

「此度の現状、大魔王様は深い意味は無いと仰いましたが御二方の跡目争いの場を作ったと受け取る者も出ます。そうなればベルゼ様への()()を企てる過激な者まででてくるかもしれません」

「...ベヘモット34柱師団..か

 

 イザベラ(メガネメイド)が何やらヒルダに耳打ちしてるようだけど..よく聞こえないな..だけどヒルダの表情を見るに何やら面白くない話みたいだ。

 

「覚えておきなさい。彼等が現れた際は抵抗をしないことを...いくら彼等とてベルゼ様に危害を加えることはない筈です」

「────...」

 

 話が終わったらしくイザベラ(メガネメイド)は踵を返して車の運転席に乗り込み、彼等は去っていった。

 残されたのはワタシと男鹿とヒルダ、それにワタシの部屋で寝ている葵だけだった。

 

「はぁぁぁ...とんだ1日だった。マジで」

「まったくだぜ。次から次へと面倒ごと持ってきやがってコノヤロー」

「マ?」

 

 車で去っていく彼らを見送ってようやく肩の力を抜くワタシの隣で男鹿は首をコキコキ鳴らしながらベル坊に愚痴る。

 

「ま、これで一件落着だろ。オレも帰るとするか」

「なーにが落着だボケ」

 

 そう気だるげに言う男鹿は荷物を取る為に玄関へ身体を向けた。そしてワタシはコイツのガラ空きのケツを思いっきり蹴り上げる。

 

「痛え!!?テメェコラ何しやがる!!」

「うるさいわ裏切り者」

「ハァ!?」

「ワタシの意見を無視してアイツらを無理やり家に連れてきやがって..!挙句の果てになんだあのキラーパスは!!人が隠そうとしたPS5を...!」

 

「やめんか!バカモノ!」

 

 お互い額をくっつけて睨み合っているとヒルダがワタシ達を止めてくる。だがその表情は珍しく落ち着きのない様子であり、ワタシ達は一旦離れる。

 

「どうしたのさヒルダ」

「...少し面倒ごとが増えた..お前たちには話しておこう」

「「?」」

 

 そこでヒルダから聞かされたのは先程イザベラ(メガネメイド)から聞かされたという過激な焔王の部下が()()に来るかもしれないということだ。

 

()()ねぇ..」

「なんだよ。辛気臭せぇ顔してると思ったらそんな事か。そんなもんぶっ飛ばせばいいだけだろ」

「だから貴様はバカモノなのだ。奴等は貴様がたとえ逆立ちしても勝てない正真正銘の化け物達だぞ」

 

 いつも通り軽い調子で答える男鹿に釘を刺すように言うヒルダ。かと思えば何か思案するようにこっちじっと見てきた。なんだ?

 

「....コホン..とにかく貴様は坊ちゃまが選んだ契約者なのだ。1番警戒しなくてならんのだぞ」

「はぁ?なんでだよ。ソイツらあのガキの部下とはいえベル坊を殺しにくる訳じゃねーだろ」

「男鹿。だからソイツらはベル坊の()()を狙うんだ」

「どーいう意味だよ」

 

 

 

「親代わりである貴様は坊ちゃまがこの人間界でも力をふるうための触媒なのだ。故に奴等は何としてもその触媒を壊して坊ちゃまが何も出来ない状況を作り出したい筈」

「...つまり」

 

 

 

 

 

 

()()とは坊ちゃまの(触媒)である貴様を殺すことだ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 秋を迎えてすっかりと冷え込むようになって来た夜に街中の誰もいない筈のビルの建設現場に2人の人影がいた。

 

「寒....ねぇ虎!まだ待つの!?彼来るかわからないわよ!?」

「だからお前まで待つ必要はねぇっつたろ静。コイツは俺のケンカだ」

 

 1人は美麗な容姿をした少女、聖石矢魔学園元六騎聖、七海静。そしてもう1人は石矢魔高校、東条英虎である。

 

「そら、これでも着てろ」

「わっ..とと。たくもーいつまで経ってもケンカケンカって本当ガキなんだから」

 

 東条が来ていた上着を七海へと投げ渡すと、彼女言葉に甘えて羽織り始める。彼等は子供の頃から続く仲である。そのためか七海は学校にいる時よりも崩れた態度なのだ。

 

「大体今日は禅さんとこに行く約束でしょー!!」

「わーってるっての。ケジメだケジメ、終わったら行くからよ」

 

 若干不機嫌なのか軽く頬を膨らませる七海を東条は宥める。すると現場の入り口の方から足音が聞こえると東条は目の色を変えてそちらを向く。

 

「──よう、遅かったな」

 

 獣の如き戦意と凶暴な笑みを向ける先、聖石矢魔学園元六騎聖、出馬要は薄く笑う。

 

「ケンカ..しようぜ」

 

 東条も立ち上がり、互いに向かい合う。腹を空かせた猛獣が如く大きな身体を震わせ、片や対する出馬は鏡のように澄んだ波一つない水のように静かに佇む。

 

 ただ一つ、彼らは瞳の内に宿る戦意を滾らせた。

 





最近漫画描いてみたい欲とこのお話を書きたい欲に挟まれてるでおじゃる。
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