TS異能力古市   作:ブッタ

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 遅れてしまい申し訳ありませんッッ!!!!


第32話 襲撃

 

 雲の合間から月の光が降り注ぎ、関係者以外立ち入り禁止の筈の建設現場にて対峙している2人の男達を照らしていく。

 東条と出馬、互いに息が乱れており身体のあちこちが痣や傷でボロボロになっている。

 彼等を心配そうに見つめる七海を横目に出馬が口元の血を服の袖で拭う。

 

「───まったく..君のタフさには呆れるわ」

「ああ?」

「ここまで本気にさせられたのは君が初めてや」

 

 彼の言葉は心から出た賛辞である。出馬八神流現当主である彼の実力は町の喧嘩自慢は愚か、並の格闘選手ですら簡単に捻られる程の実力。その為自身の同じ学生、それも格闘経験などない男に本気にさせられるなど思いもしていなかった。

 だがしかし東条はその言葉を受け取らずに獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ハッ、なにが本気だ..笑わせんな。まだ何か隠してんだろ?分かんだぞそーいうの」

「.....」

「──来いよ。漸く身体があったまって来た所なんだからよ」

 

 獣の如き野生の勘を持つ東条が挑発すると目を細め、軽く腰を落とす。

 

「....不思議な男やな..戦ってるとついつい君のペースに乗せられてまう。やから...」

 

 出馬は薄く笑みを浮かべ拳を軽く握る。

 

「──ちょっと...おもろなってくる..」

「あぁ?」

 

 そう呟く出馬の脳裏には学園祭にて己が古市に問い掛けた言葉が浮かんでいた。

 

 

 ────怖くないんか?

 

 

 その言葉は不思議な力を使うことに抵抗のない古市への疑問のようで、かつての自身の過ちを忘れない戒めでもあった。

 人間社会の中に紛れる己がもう二度と居場所を無くさない為に。だが東条の挑発に乗せられたか、彼の持つ人を惹きつけるナニかに当てられたのか.....もしくは自分とは違い自由に生きる古市に何かを感じたのか。

 

 

もっと...おもろしたなる...

 

 

 今夜、彼は過去の戒めを捨てる。

 

 肩の力を抜いて立つ出馬の身体から()()()()()()が滲み出てきた。そのモヤを見た瞬間に東条は氷柱を差し込まれたかの様に背筋が粟立つのを感じる。

 

「.....ッ」

「──君やったら..ええかもな..

 

 まるで何かを期待するような出馬の言葉。それと同時に溢れ出る黒いモヤの量と圧は増していく。

 

「────なんじゃ..そりゃ...!!」

「行くで..東条英虎。これが僕の全力や」

 

 出馬の拳が東条のガードの上から叩きつけられる。それは明らかに威力が格段に上がっており、ガードする腕の骨にヒビが入ったのがわかった。

 

 人の理を大きく変えた悪魔の力が牙を剥き始めたのだ。

 


 

 

 その頃、放課後から今まで気を失っていた邦枝が目を覚ますと、視界には見慣れない部屋の天井が映り込んだ。

 

「...ここは」

 

 ベッドの上でゆっくりと上半身を起こし辺りを見回してみる。先程まで大勢がこの部屋に居たのかローテーブルの上にに幾つかのコップが乱雑に並べられていたり、テレビの前にゲーム機のコントローラーが置かれていたがその他は整理整頓されている至って普通の部屋。部屋の小物やカーテン等の色使いから考えるに女性の部屋ということを邦枝は悟る。しかし烈怒帝瑠のメンバーなど呼ばれたことのある部屋とは違う記憶にない部屋だ。

 

「..一体誰が」

 

 ここが誰の部屋か。そもそも何故自分がここで寝ていたのか。軽く思考を巡らせようとすると突如部屋のドアが開かれた。彼女の胸は不安を煽るように早鐘を鳴らす。

 

「───お?起きたね葵。身体は大丈夫?」

 

 しかしその不安とは裏腹に部屋へ入って来たのは小さい頃からの友人である古市だった。ドッと身体の力が抜けた邦枝は古市の問いに答える。

 

「えぇ、大丈夫よ。ここ貴女の部屋だったのね」

「ん?そういえば葵を部屋に呼ぶのは初めてかぁ。いつも会うのは爺さんの寺だったからね」

 

 アッハッハと笑い声を上げながら部屋の中に置いてあるクッションソファに腰掛ける古市。

 

「む、漸く目を覚ましたのか邦枝」

「本当だ」

「ダーブ..ダ!」

 

 次いで部屋に入ってくるヒルダと男鹿に邦枝は驚く。主に女子である古市の部屋に遠慮なく入ってくる男鹿に。

 

「お、男鹿!?ど、どっどどどどうしてここに!?」

「あん?どうしてもなにも、俺がオメーをおぶってここまで連れてきたのは俺だぞ」

「おおおおおお⤴︎お⤵︎おぶってぇっ!?」

「漫画みたいに真っ赤になるじゃん」

 

 男鹿の説明を聞くと茹でられた蛸の様に顔を真っ赤に熱くして動揺する邦枝。そしてそれを面白がる古市。

 

「おぉお、おぶっあぶってって、私を男鹿の背中にの、乗せたってコト!?」

「それ以外に何があんだよ」

「うぇぇっ!?何で!?だ、だって私、あの時貴方を校舎裏に呼んでそれから.....」

 

 ぐるぐると目を回し、あたふたと落ち着きなく両手を動かす邦枝は状況を整理する為に早口で口を動かす。それは気持ちを落ち着けるのに有効だったようで、漸く彼女は自分が何をしていたのか、そして何故気を失っていたのかも思い出した。

 

「...そうよ。私貴方を校舎裏に呼んで...それからいきなりヒルダさんみたいな人が近づいて来て..」

「──ふむ..落ち着いたようだな」

 

 落ち着きを取り戻した邦枝が考え込むように顎に指を当てるのを見て静観していたヒルダが口を開く。

 

「邦枝。貴様が我々について嗅ぎ回っていることは聞いた」

「え、えぇ..けど男鹿から聞いたのは貴方達が悪魔だとかばかりで..」

「事実だ」

 

 邦枝の言葉をヒルダはすぐに肯定する。しかし邦枝はやはり信じることが出来ないのか怪訝そうに顔を歪ませる。

 

「信じていないな..なら手っ取り早く済ませる。ツムギ」

「なに?」

「アランドロンを呼んでくれ」

「えー」

 

 不満そうな表情を浮かべる古市だが、しゃーなしと呟きメガホンを作るように右手を口に当てる。

 

「アラーンドローン」

「アラ....何?」

 

呼びましたかな?

「誰!?」

 

 気だるげな呼び声に意気揚々と応えるアランドロンが古市のクローゼットから飛び出して来た。突然の筋骨隆々な不審者の登場に邦枝は声を上げて動揺するが当然の反応である。

 

「フフ...久しぶりに呼んでくださいましたな古市殿」

「どーでもいいけどワタシのクローゼットに入るのはやめて?」

「それは失敬」

「いや!いやいやいや!!誰この人!?なんで普通に会話してるの紬貴!?」

 

 違和感なく会話を始める2人に邦枝が声を荒げる。

 

「アランドロン。頼んでいたものは持って来てくれたか?」

「ええヒルダ殿。ちゃんと坊ちゃまの追加のミルク、魔界から買って来ましたぞ」

「よし。では早速取り出す。開いてくれ」

 

 ヒルダの言われるままにアランドロンは開いた。

 

 身体を。

 

 

 

「ウェェェェェッ!!?!?」

 

 

 

 オッサンが縦に割れるという目の前の信じ難い光景を見て、邦枝は口から心臓が飛び出すかと思うほどに驚愕の声を上げる。

 しかしヒルダは彼女を気にせずアランドロンの身体から魔界産の粉ミルクを取り出した。

 

「な、何いまの!?今その人が割れて...割れて!?」

「コイツは次元転送悪魔といってな、人間界と魔界を自由に行き来できる貴重な種族なのだ」

「じ、じげん...?」

「どうだ邦枝。これで信じる気になったか?」

 

 困惑を隠せない邦枝にヒルダは問いかける。

 信じ難い事だ。今目の前にいる人間にしか見えないような人達が魔界から来た悪魔などと...どう考えてもあり得ない事。だが邦枝はそれを否定する気にはなれなかった。今目の前で見せられたことも学園祭で男鹿が見せた離れ業も、そして何よりベル坊が時折見せる異常さが真実だと訴えかけてくるのだ。

 

「...信じるわ。けれどどうして今更私に...というか部外者である私に教えてくれるの?」

「巻き込まれた形とはいえ..関わってしまったからな」

 

 そうしてヒルダは話し出す。焔王の正体などはぼかしつつ、邦枝を気絶させたヨルダ達のことや男鹿がこれから狙われることになることも。ベル坊第一のヒルダではあるが、彼女が人間界で友人と親しくしている古市が邦枝を大事に思っていることも知っている為、無関係の邦枝がこれ以上危険に晒されない為にヒルダは話すことを決めた。

 当然男鹿のことを心配する邦枝だが、当の本人はぶん殴れば良いと楽観的に言う。

 

 そして邦枝はもう一つ、気になっていた事を思い出す。

 

「...そう言えば男鹿、紬貴が風を操れるとか校舎裏で言ってたわよね?じゃあ紬貴も悪魔なの?」

「いやいや、ワタシは悪魔じゃなくて、れっきとした人間だよ。なんか天狗が先祖にいるだけの」

「天狗って...妖怪の?」

「そーそー、妖怪のあの鼻長いやつ。爺さんが言うにはワタシはその妖怪の先祖帰りなんだって」

 

「そうだったのか」

「テング?ヨウカイ?なんだそれは」

「貴方達も知らなかったの!?」

 

 予想の斜め上を行く古市のカミングアウトに驚くが、それが初耳だったらしい男鹿とヒルダの反応の方に邦枝は驚いた。

 

「どうして教えてくれなかったのよ!」

「い、いや...別に聞かれなかったし、それに葵の前で使う機会も無かったから...」

 

 たじたじに古市は答えた。事実、彼女が人前で能力を使ったのは後にも先にも小学生の頃に男鹿とタイマンした時のみ、それ以外は住職の言いつけを守ってむやみに使うことがなかった。その為邦枝が知らなくても無理もない。

 

「隠さないでよ!私達友達じゃないの!?」

「なんか痴話喧嘩みたいになってる!?」

 

 しかし邦枝の頭は今夜一気に流れ込んで来た過剰すぎる情報量によりパンク寸前。そこへ10年来の友人が隠し事していた事実により若干取り乱してしまうのだった。

 

 やはり古市も邦枝も、若干重めの友情価値観を持つ似たもの同士なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 その後、日もすっかり落ちたという事で解散という形となる。対策や詳しい話はまた後日にすることを決め、男鹿とヒルダと邦枝は古市の家を出て共に帰路を歩いていた。

 

「....。」

「....。」

「....。」

 

 3人の間には特に会話もなく、ただただ静かに歩いていく。

 

「....おいヒルダ..何か話せよ」

「...。」

「....く、邦枝さーん?」

「...。」

 

 途方もないほどの気まずい空気感に耐えきれず男鹿は2人に話しかけるが応答はない。沈黙がその場の地獄みたいな空気が男鹿の肩に重さを感じさせる。

 

「───歌えベル坊」

「ニョ!?」

 

 地獄の空気感に耐えきれない男鹿は秘密兵器であるベル坊へ話しかける。

 

「なんでもいい...とにかくマヌケなやつをたのむ...!」

「アー...ウー....ダ!」

 

 ベル坊は数秒思考を凝らした後、声高らかに歌い始める。この気まずい空気感を打ち破るようにような陽気な歌声に男鹿は一先ず安堵の息を漏らした。

 しかしヒルダの胸中は至高であるベル坊の歌を聞こえなくさせるほどに不安が募っていた。

 

(...焔王坊ちゃま自ら人間界へ来ることを志望されるとは....こう言っては何だが、はっきり言って妙だ。前から気まぐれが多くはあったが..あのお方から人間滅亡という()()を買って出るとは...)

 

 焔王は魔界でも気まぐれで物事を変えることが多く、そして何より仕事嫌いで有名。そこにヒルダは違和感を覚えた。

 

(魔界の状況が変わったのだろうか...そして夕方のあの人間)

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは体育館の屋根で大立ち回りをした早乙女、そして彼と人の理を大きく外れた激しい戦闘を繰り広げた古市。

 

紋章使い(スペルマスター)..王家の紋章をもつ者か。奴が敵対するとなると厄介極まりない。だがそれ以上にツムギのあの力はなんだ?あれ程までの力を隠していたアヤツを本当に信じていいのか...いずれ坊ちゃまの脅威とならんか..?)

 

 そこまで考えてヒルダは浮かんで来た思考を払うように大きく頭を振る。

 

(えぇい!何を考えているのだ私は....。今考えるべきはベヘモット共の対策だ。坊ちゃまの(触媒)であるこやつを簡単に殺されてはいかんのだ)

 

 思考の海に潜っているヒルダと愉快なベル坊の歌声を楽しむ男鹿の横で歩いていた邦枝がふと足を止める。

 

「男鹿..ここでいいわ。送ってくれてありがとう」

「あ?いーのかよ?まだフラフラなんじゃねーの?」

「大丈夫。家もうすぐそこだし..それじゃあね」

「おう」

 

 男鹿の心配に邦枝は笑顔で答え、彼女は交差点で彼等と別れて帰路に着く。静かな住宅街を今日起きたことを考えながら歩いていく背中を見て男鹿は自分の家へと向かって歩き出す。

 

「今日はなんか長ぇ1日だったな」

「.....あぁ」

 

 

 

────パキッ

 

 

 

 日が沈んだ閑静な住宅街だからだろうか、普段なら気にもしない小さな音。それは邦枝が歩いて行った方向から聞こえた。

 何の意図もなく、音が気になった男鹿達がもう一度邦枝の歩いた方向へ顔を向けるとそこには誰も居なくなっていた。

 

「...邦枝?」

 

 辺りに目を向けても邦枝が何処にも居ない。しかし道の真ん中に落ちている学生鞄が視界に入る。

 まるで突如そこから消えてしまったかのようだ。

 

「アイツ..ど────

──伏せろッッ!!

 

 呆ける男鹿の頭を飛びつくように掴んでヒルダが地面へ伏せる。同時に後方から()()()()()()が先程まで男鹿の頭があったところを通り過ぎて目の前に落ちていく。

 モヤを中心にアスファルトの地面が轟音と共に崩れ、瓦礫と化した。

 

 何が起きたのか全く分からず、目を剥く男鹿と対象に既に警戒して戦闘態勢に入るヒルダ。そして突如襲って来た()()()()()()は徐々に人の形を成していく。

 

「───よう。貴様が末子殿の契約者だな?」

 

 闇を想起させるほどの漆黒の長い髪を持ち、真っ黒な外套と軍服を身に纏う男がそう問いかける。

 

「あ...?なんだ..てめぇ」

 

 強気に聞き返す男鹿だがその額には冷や汗が流れる。そしてその男鹿の問いに答えるのは依然として警戒するヒルダだ。

 

「ベヘモット34柱師団。王族直属の武装集団...貴様を狙いに来た者達だ..!」

「コイツが....!」

「奴らは邪竜族という魔界()()の戦闘部族だ。最悪だここまで早いとは...」

 

 男鹿がふとヒルダの方へ目を向けると、見たことないほどに焦っている様子を見せており、ギュッと男鹿の服を掴んでいた。

 男を覆っていたドス黒いモヤがはれていき顔が見えた。何より目を引いたのは人間ならば耳がある場所に大きなエラがあること。

 

「魔界屈指じゃねぇ...最強だ

 

 そして男の横にドス黒いモヤに囚われた気絶した邦枝だ。

 

「「──ッ!?」」

 

「俺はヘカドス...ベヘモット柱師団第8の柱。貴様を殺す者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 首を鳴らして古市はリビングから移動して自室へ入っていく。

 

「あ゛〜...母さん説教長すぎ。あれ?ベル坊の粉ミルク忘れてんじゃんヒルダ。んー...もう家に帰ったかな..」

 

 





話が全然進まない...妙だな..?
も少しテンポ良く、マイペースにやっていきます。よろしくお願いします。ねこです。
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