TS異能力古市   作:ブッタ

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第39話 無能でやる気のある味方が最も恐ろしい

 

 ────月曜日。それは楽しい週末を終えて安らぎの時から労働という現実へと引き戻される週初め。学生もサラリーマンも皆月曜日を恐れ、憂鬱に朝を迎える。

 

 しかしこの男、聖石矢魔学園教職である佐渡原巧は一味違う。

 

 憂鬱な朝ですら彼にとっては足枷にもならない。起きたら朝のランニングと日課のトレーニングを済ませた後、高タンパク低糖質な朝食を摂取。シャワーで身を清めた後、気持ちを引き締めるようにオールバックに髪をセット。

 自慢の最新ハイブリッド車*1で職場へと通勤。その後、今日は早乙女が休むとのことで石矢魔クラスの副担任である彼が朝のHRを担当する為、その準備をする。

 

 以前ならば不良どもの相手など心底嫌がったが、学園祭で見た彼等のバレー対決。素晴らしきチームワークと青春の熱に充てられやる気に漲っている。今度こそ真っ直ぐにぶつかろう。彼等の不良たる理由、不満、全てこの身にぶつけて貰えるよう、そして少しづつでも彼等の心のわだかまりを解決していく為に、このHRから全力を尽くすのだ。

 そんな熱い想いを抱き佐渡原は石矢魔クラスへと足を運ぶ。

 

 ────因みに彼は前日の夜、GT⚪︎を視聴していた。

 

「ようしお前ら全員席につけ!」

 

 ガラリと教室の戸を開けて、ヤル気に満ち溢れた佐渡原は教室へ入る。

 

「今日は早乙女先生は休みだ。よって私が...ってええええぇッ!?学級閉鎖!?

 

 しかし教室にいる生徒の殆どが出席しておらず、片手で数える程度生徒しかいなかった。

 あまりにも低すぎる出席率に佐渡原が驚いていると、席に付いていた烈怒帝瑠のメンバー、飛鳥涼子が挙手をする。

 

「センセー、神崎君と姫川君と夏目君と城山君と男鹿君と古市さんと邦枝さんと大森さんと谷村さんと花澤さんは親戚に不幸があって休むそーです。あとは知らねッス」

「どんだけ不幸があったの!?オレ嫌われてる!?」

「───否定はしねぇっス」

 

 キッパリと言い切る飛鳥の言葉に佐渡原はガックリと肩を落とす。

 

 頑張れ佐渡原巧。君がいつかグレートティーチャーになる日を夢見て、負けるな佐渡原巧!!

 


 

 さて、学園で佐渡原が肩を落としている時、古市はようやく眠りから目を覚ます。重たい瞼をゆっくり開けるとそこは見覚えのない天井だった。

 未だ眠りかけの気怠い身体を起こして辺りを見回してみると、広々とした部屋に高級感溢れるインテリアに家具。

 庶民的かつ小遣いすら無い今の古市にとって縁の無いような場所だが..

 

「....ふぁぁ..?...あぁ、ここ姫川んちのマンションか..」

 

 何故彼女が姫川のマンションで一夜を過ごしたのか、それは昨夜ラミアがヒルダから転送された焔王の"ネトゲサイコー"と書かれたメッセージを受けた後まで巻き戻る。

 

 ネトゲ、昨今ではオンラインゲームと称されることが多く、自宅からでなくても世界中の人々と一緒にゲームをプレイすることができる代物。

 つまりもはや焔王はゲーセンにはもう通っておらず、捜索の難易度が格段に上がってしまっていた。もはや断念せざるを得ない状況と解散ムードとなっていたその時に希望の光が一筋降りかかる。

 

 そうそれが姫川財閥の御曹司、姫川竜也の財力である。彼は都市部に所有する50階以上のタワーマンションへと古市達を連れてきた。

 彼曰く一時期ネトゲにハマっていた時期がありこのタワーマンションに様々な最新ゲーム機及びゲーミングPCを何部屋にも置かれているとのこと。

 そして彼はそこで情報収集及び逆探知を使って捜索をすること提案してきたのだ。手詰まりの状況からこの力業にも近い打開策、しかしそれでも何も出来ないよりはマシだとその提案を呑んだ。

 

 

 因みにこのマンションは姫川にとってはしみったれたマンションらしく、家はまた別にあるらしい。

 それを聞いて皆んなドン引きしていたのはご愛嬌。

 

 

 そしてどうオンライン上で目標を捜索するかを話し合っていると、そこでミラクルが起きた。

 マイペースな谷村が姫川のデバイスを借りて格闘ゲームに勤しんでいるときに、"ENOH"というプレイヤーを引き当てたのだ。しかしこのネットワーク社会で同じようなユーザネームを使う人間など数えきれないだろう。その為確認してする為に挑発メッセージを送ってみると....

 

『ムキーーッ!!おぬし調子に乗るなよ!!再戦じゃ再戦!!余の恐ろしさをとくと味わわせてくれるッ!!』

 

 本人だった。疑いようもないくらいそのままの口調とキャラに古市とラミアは確信。早速姫川に逆探知をお願いするも、流石に今日しかもマンションに来たばかりのタイミングで準備が出来ている筈もない。

 ならばと古市はメッセージで直接聞き出そうと試みる。

 

『焔王坊ちゃまですか?お久しぶりです、古市です。実は今日また面白いゲームを買ったのでウチへ遊びに来ませんか?今はどちらにお住まいですか?迎えに行きますよ!」

『うむ』

 

 結果は不発に終わった。あまりの塩対応に青筋を浮かべていると追加のメッセージで事態は変わる。

 

『この勝負で余に勝てば教えてやらんこともないぞ?』

 

 おそらくこの捜索作戦で最大のチャンス、ここ逃せば最早見つけることは難しくなる。その為プレイヤーの谷村に時の運を委ねることになる。

 谷村の腕前はこの玄人向けの格ゲーの中でも相当な腕を持っており順調に勝ちを進めていく。一戦目も二戦目も危なげなく勝ちを取る。

 しかし勝負の三戦目、突如焔王の操るキャラクターの動きが変わる。高度なテクニックを要求される操作方法で瞬く間に谷村から勝ちをもぎ取り、その後も勝ちを譲ることはなかった。

 

 通算30連敗を超えた所で谷村はふて寝、姫川と古市で交渉してなんとか翌日に別のゲームでの対戦の約束を取り付けることに成功。

 全員翌日の朝に集合すること決め帰路に着いたが..ここで古市、家に帰れないことを思い出す。帰れるに帰れるだろうがその後しばらくは頭に角を生やした母親が監視して外出が難しくなることは想像に難くない。

 

 そこで古市はこのマンションに泊まらせてくれるようダメ元で姫川に頼み込んだ。最初はすごく嫌そうな顔と言動していたが、それでも泊めてくれるまでお願い(ゴリ押し)し続けたところ、使っていないゲストルームでの宿泊を許された。

 

 

 そんな経緯を経て今古市は高級感溢れるゲストルームのベッドで目を覚ましたのだ。

 未だシパシパと重たい瞼をこじ開けながら古市は洗面台へと辿り着き、顔を洗い流す。芯に響くほど冷えた水が眠気に靄がかった意識を引き締めていく。

 

 しっかりと眠気が醒めた眼で洗面台の鏡を見るとボサボサの寝癖をつけたタンクトップとパンツだけを身に纏う少女が1人映っていた。

 

「...女子力たったの5か....ゴミめ」

 

 流石の古市も今の格好を見て胸を張るほどの度胸はなく、寂しそうに独りごちる。その後昨夜近くのコンビニで用意した歯ブラシを咥えながら、取り敢えずフレアパンツを履いておく。

 そして未だベッドで眠っているラミアを揺すって起こす。

 

「らみあ〜起きて。朝だよ〜」

「...んぅ..何よもう朝?」

「朝も朝、あと1時間ちょっとぐらいで集合の時間だから顔洗っといで」

「...ゎかったぁ....」

 

 ふにゃふにゃと声と頭を揺らしつつラミアは洗面台へと向かうのを見て歯磨きを再開する。

 するとこの部屋のインターホンが鳴り響く。このマンションは姫川の所有物であり他の誰かが住んでいるなんて話は聞いていない。宅配も頼んでいないのにインターホンが鳴るのは何故か。

 1秒にも満たない時間の間思考を巡らせていると、ドアの向こうから激しく乱暴にノックという名の殴打を連打される。

 

 恐る恐ると言ったら様子でドアの覗き穴から外を見ると驚きの光景が見え、急いでドアを開ける。

 

「な、なんで皆もういんの!?」

「ふざけんなコラ。もうとっくに集合時間過ぎてんだよ....!!」

 

 扉の先には昨日のメンバーを背後に顔中に青筋を浮かべまくった神崎(極道)がいた。

 

「え?いやだってまだ8時..」

「とっくに9時半過ぎとるわボケ」

 

 神崎の言葉に部屋の壁に飾ってある時計を見ると、しっかり8時過ぎを指していた。しかし手元のスマホを確認すると既に9時45分を過ぎていた。

 ならば答えは一つ。

 

姫川(ヤロウ)...!!やりやがった!!やけに昨日何の要求もなしにあっさり泊まらせてくれた訳だ...!!)

「つかテメェどんだけ寝癖つけてんだ。それに歯磨きの途中みてぇだが...まさか寝起きってわけじゃねぇよな?あ?」

 

 姫川の策略にハマった事を悟ると同時に神崎は彼女に詰め寄る。

 

「テメェが言い出しっぺなんだか────」

「ちょっと神崎先輩退いてくださいっス!!」

「邪魔よ!!」

 

 だがしかし神崎は横へ勢いよく押し退けられ、花澤と大森がずいっと顔を近づける。余りの迫力に古市ものけぞるが2人は黙って彼女の顔を見つめ続ける。

 

「..ち、ちょっと..?2人とも?」

「...ツムッち..マジで寝起きなんスか...?」

「そうです..」

「....じゃあ今すっぴんてことなの..?」

「ま、まぁ...」

 

 古市の困惑混じりの肯定を聞いて2人は崩れ落ちる。

 

「嘘でしょ..!?肌荒れどころか毛穴すらないなんて..!!」

「どんだけ肌綺麗なんスか!!!ウチの40分と変わらないなんて...なんて不平等!!!!」

 

 それは女性として生きる2人の魂からの嘆きだった。

 

 

 

「ふむ...女性というのは大変なんだな、夏目」

「あはは〜、オレらにはさっぱりだよ。てか神崎くん大丈夫?」

「...コイツら...絶対...殺す...!!」

 

 

 

 

 その後一旦全員先に姫川が待つゲームルームへ行ってもらい、古市とラミアは急いで身支度を済ませ、遅れて到着。

 

「おう、遅えぞテメーら。特別に部屋貸してやったんだからもっと早く来い」

「....コイツ..!」

 

 部屋の奥の席で薄く笑いながら言う姫川に古市は悔しそうに唇を噛む。その姿を見て満足したように機嫌を良くした姫川は手元のリモコン手にとってボタンを押す。

 すると部屋に集められた9席のゲームテーブルの上に大きなモニターが展開される。

 

「約束の3時まであと5時間、ゼッテー逃せねーチャンスだ。全員死ぬ気で練習すっぞ。このモニターで全員の動きがチェックできるようになってる。上手く活かせよ」

 

 あまりにも整えられすぎたゲーム環境に一同呆然としつつ、各々席につく。

 今回彼等がプレイするゲーム"ジエンドオブウォー4"というTPS現代戦争ゲーム。衛生兵、偵察兵、援護兵、工兵の兵種のプレイスタイルを選択していく、個人の力よりもチームワークが重要視されているゲームなのだ。

 

「ま、説明してる時間も勿体ねぇからさっさと実践訓練行くぞ」

「え?え!?もう!?私まだ説明書読んでないんだけど!?」

「やりながら覚えろ」

 

 ゲームは愚か機械全般に疎い大森が狼狽えるも姫川に一蹴されてしまう。因みに隣の席の谷村は狼狽する大森を見て密かに庇護欲を感じていた。

 だがしかし困っている友人を見逃せないと古市が立ち上がる。

 

「安心してよ寧々。この手のゲームはやったことはないけど、ワタシゲームは好きだから手伝うよ!」

「ほ、本当?」

「そういやツムッち8万するゲーム機に今月の小遣い全ブッパするぐらいガチ勢ッスもんね!」

「ふふんー!」

 

 花澤の言葉に気分よく胸を張る古市。

 

「どうでも良いからさっさと始めんぞ。まずは移動からだ左スティックを動かしてみろ」

「ひ..左スティック...?こう..?」

 

 大森がコントローラーを動かす画面の中の彼女のキャラが手榴弾を近くに投げる。

 

「あっバカ!!それは手榴弾だろーが!?」

「えぇ!?」

「ぎゃああああ!!いきなり何するんスか!?」

 

 投げられた手榴弾が爆発して、近くに花澤のキャラクターが巻き込まれて死んでしまった。想像以上の機械音痴っぷりに姫川が嘆きそうになった時、悲劇が起きた。

 

「うおぉぉっ!?古市テメェ何してんだ!!?」

「あれー?上手く動かないな?」

 

 突如神崎の悲鳴が部屋に響きわたる。一体何が起きたかと上のサブモニターに視線を向けると、古市のキャラクターが某殺人鬼のようにチェーンソーで神崎のキャラクターを血祭りにあげていた。

 

 姫川は彼女が悪ふざけでやっているのだろうと睨みをきかせて見ると、ふざけている様子はなく、純粋に不思議そうに首を傾げていた。

 

「移動しようとしたのに..なんでかチェンソー出てくるんだけど、どうして?」

「....猟奇的殺人」

 

 実は彼女、古市紬貴はゲームがド下手糞なのである。

 

 小遣いを全部ゲーム機にぶっ込んだり、休日にゲーセンに通ったりと大のゲーム好きでありながら超が着くほど下手くそ。某携帯獣ゲームのストーリーを全クリアするのに2年かかるぐらいには下手くそ。

 以前に焔王とゲームをしていた時には彼に負けるとも劣らない腕前で白熱するくらいにはド下手くそ。

 

 男鹿曰く、彼女にはゲームの才能はかけらも無い、それどころかあまりの下手さに未発見のバグが出てくるほどに向いていないらしい。

 

 ────姫川竜也は戦慄した。

 

 昨夜のプロ顔負けのテクニックを持つ焔王の替え玉プレイヤー相手に特大級のお荷物二つを抱えなくてはいけないことを。

 そして昨夜の交渉時相手のプレイヤーは人数合わせるために助っ人を呼ぶと言っていた。ほぼプロゲーマーの腕前を持った相手の助っ人...。

 

(..これ勝つことはおろか....逆探知の時間を稼ぐことすら難くねぇか?)

 

 内心諦めかけてしまう姫川をよそに、彼らは勝利目指してゲームの練習に盛り上がっていく。

 

 そして数時間後、部屋には死屍累々の惨状が広がっていた。ただでさえ難しいゲームでありながら横綱級重量お荷物2人に基本的な操作方法を教えることは至難の業であった。

 ある程度ゲームに精通している谷村、姫川、神崎、夏目は指導に疲れ果てて机に突っ伏し、大森も情報供給過多に頭から煙が燻っていた。城山と花澤そしてラミアも長時間にわたるゲームで疲弊しきっていた。

 

 この悲惨な現場にて未だ元気な者が1人───

 

「いやー!初めてのタイプのゲームで手こずっちゃったけど、みんなのおかげで結構上手くなった気がするー!ありがとう!!」

 

 ただ1人嬉しそうに声を上げる古市。

 因みに彼女の言う上手くなったレベルは任意の方向に歩き及び走行が可能になったこと、そして任意のタイミングで基礎攻撃が可能になったレベルである。

 

「よーし、約束の三時ももうすぐだし!いっちょ勝ったりましょー!」

 

 大のゲーム好きは伊達ではなく、長時間のプレイだったのにも関わらず疲れの色を見せず、やる気を滾らせていた。

 そんな彼女の言葉を聞いてこの場にいた全員の思いが一致する。

 

───オマエが1番心配だっつーの....

 

 方向性はともかく長時間の練習はおそらく彼らのまとまりをより強固にしていたのだった。方向性はともかく...

 

 


 

 

 彼らがゲーム練習に勤しんでいる間、男鹿は早朝から昨夜一刀斎に言われた通り悪魔の力の使い方の訓練に精を出していた。

 その訓練はやはり普通の修行とは一線を画していた。

 

《ようてめぇら!!歯ぁ磨いたか!?禅十郎さんだ!!修行だって楽しくやらなきゃな!!てっことで今日はオレと一緒にlet's魔力解放エクササイズ!!》

 

 陽気なアップテンポの音楽を流すラジカセを近くに置き、マイクを片手に早乙女が見本を見せるように身体を動かし始める。

 そして男鹿とベル坊も彼についていくように同じく身体を動かす。

 

《HeyHey!!ワンツーさんしー!!いつまで経っても成長期!!》

「ヘイヘイ!いつまで経っても成長期!!」

「アイダダヴーダダ!!」

 

 早乙女の掛け声と共に声を出す男鹿とベル坊。悪魔の修行はより激しく熱を持つ。もう誰にも止められないのだろうか。

 

《HeyHey!!ワンツーさんしー!!ごめんお前ら砕け散れ》

「ダダーアダダーダーブダブ!!!」

《いいねいいねー、クソッたれども。調子出てきたぞー!!さぁ次はいよいよ────》

 

「じゃねぇだろ」

 

 

 横から早乙女を蹴り飛ばすことで簡単に修行(エアロビクス)は中断された。

 

 

《何をする男鹿隊員》

「喧しいわ!!つかマイク取れ鬱陶しい!!これのどこが修行だダイエットじゃねぇんだぞ!!」

「ダイエット?おいおい失礼なこと言ってっと銀河系の外までぶっとばすぞー?コイツは俺が三日三晩しっかり寝てさっき思いついたお前専用強化プログラムだぜ?」

「完全に思いつきじゃねぇかッ!!」

 

 男鹿と早乙女が言い合っている間もベル坊は1人で身体を動かして踊っていた。

 さて、そもそも何故早乙女がここにいるのか。それは一刀斎の仕業である。悪魔の力を扱えるようにするならば同じ土俵の人間が教えるべきだと昨夜早乙女に男鹿の居場所をチクッていたのだ。

 そして早朝、男鹿を誘き出して彼等を鉢合わせるのだった。そこから逃亡する男鹿を早乙女が捕まえて現在に至る。

 

「つーかオレはテメェに教えてもらいたかねぇっつーの!!」

「..やめてぇならやめてもいいぜ?これからお前が命狙われる度に、古市の嬢ちゃんの背中で縮こまってんのが性にあってんならもう何も言わねぇよ」

「....ッ」

 

 早乙女の言葉に男鹿は言葉が詰まる。そんな彼の姿をみて早乙女はポッケからタバコを取り出し、咥えたタバコにライターで火をつける。

 

「...これは言おうか迷ったが、あの晩東条と出馬の奴等も悪魔と一戦交えてる」

「東条..それにあのメガネが..?」

「2人ともそりゃあボコボコにやられてひでぇ面してやがった」

「負けたのか...!?」

「そりゃあそうだろ」

 

 味わうように煙を吐き出す早乙女に反して男鹿は東条達が負けたということに衝撃を隠せない。

 

「奴等燃えてたよ。出馬の奴はウチの校長に師事を受けてる。東条の奴は放っといても勝手に強くなる。問題はオマエだ男鹿」

 

 咥えていたタバコを男鹿の前へ突きつける。

 

「オマエが背負ってんのは赤子とはいえ大魔王の血筋だ。雑に使っても強力だが、裏を返せば相当な訓練を積まないといつまで経ってもただのデクの棒のままだ」

「....」

「無力のまま周りを巻き込んで殺されるか、力をつけて自分(テメェ)でケリをつけるか....どうすべきかなんて分かってんだろ?」

 

 答えなど分かっていた。目の前の男に頼ることこそが最適解であることはあの晩から分かっていた。けれど何もかも見え透いたかのように達観した早乙女の眼、それが年頃の男鹿のプライドに障るのだ。

 

 だがそんな男鹿の思いを裏切るように、今の今まで楽しく1人でに踊っていたベル坊が早乙女の前で正座をする。

 

「ダッ」

「ベル坊クン!?」 

「フハハッ、赤ん坊の方がよっぽど物分かりがいいじゃねぇか」

 

 ベル坊の態度を見て早乙女は笑い、煙を吐き出す。

 

「なぁ男鹿、何も俺ぁオマエにプライド捨てろなんて言ってねぇ。俺が気に食わねぇならそれでいい」

「....はぁ?」

「そのつまらねぇプライドが男を強くすんだ。ならよ気に食わねぇなら気に食わねぇなりに、俺を利用してみろよ。使い潰してみろよ...」

 

 早乙女の言葉の意味がわからず素っ頓狂な声が出るが、当の早乙女は気にせずタバコを蒸して言葉を紡ぐ。

 

「人間、捨ててきた奴なんかより貫き通した奴の方が強ぇんだ」

「...テメェはどっちだ」

「オマエが気に食わねぇ方さ」

 

 彼の言葉を聞いて男鹿は決心する。早乙女の前で正座をするベル坊の頭に乱暴に手を乗せ、不満げに早乙女を睨みあげる。

 

「...だったら意地でもテメェより強くなってやっから、よろしくお願いします」

「ダッ!!」

「──上等だ」

 

 こうして彼等の間で歪な師弟関係が築かれた。

 

 

 ───この後、先程のエクササイズが五時間ほど続いて男鹿は少し後悔した。

 

 

 

 

*1
10年ローン

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