男鹿が神崎をぶっ飛ばすという事件から数日たった休日の今日。ワタシは男鹿に呼び出され、家に向かった。そこでワタシは...
男鹿の部屋の窓から滝が流れているのを見た
別に寝ぼけていたわけでもなく言葉通りに、ナイアガラの滝のように激しい滝が男鹿の家にできていた。
呼び出した男鹿本人から聞けば、これは魔界でも風物詩となっている街を呑み込むほどの排尿期、つまりお漏らしだという。ふざけたお漏らしもあったものだ。
「何かッいいアイデアをくれっ!古市ッ!」
「休日までワタシを巻き込まないでくんない?」
「いいアイデア出たかっ!?」
「出てないよ、出す気もないよ」
せっかくの休日だったのに朝(11:50)から叩き起こしてくれやがったバカタレを睨む。絶対許さん。
「頼むッ!お前だけが頼りなんだよぉッ!古市!」
「......。とりあえず一旦オムツ履かせて、海にでもいけば解決でしょ」
「それだぁッッ!家のことは任せたぁ古市ッッ!」
勝手なことを言い捨ててベル坊を抱えて外に出ていく。家中ずぶ濡れの有様を見てワタシはアドバイスしたことに後悔する。
「.....はぁ。自分勝手なやろーめ。絶対焼肉奢らせてやる」
思わず愚痴がこぼれるワタシはとりあえず床に落ちてるずぶ濡れの物を集め始める。すると何も言わずに傍観していたヒルダが口を開く。
「手伝うのか?」
「...まぁ
手のかかるやつで苦労するよ。まじで、そう胸の中でつぶやくワタシにヒルダは続ける。
「....今この場にいるのは私達2人だけ...か。ちょうどいい機会だ。私は貴様に用があったのだ」
「2人きりの用事って...ワタシはそっちの趣味ないけど?」
ヒルダの言葉に冗談で返しながら顔を向けると鼻先にヒルダの仕込み刀を突きつけられた。oh....dangerous...
「.......いっ今のは冗談ですぅ...」
「貴様は人間か?悪魔か?」
ワタシの言葉を無視して問いかける。てか何その質問?
「...えーっと..?人間以外のナニかにみえます?」
「身体は人間に近しいだろう。しかし私には僅かにだがあのドブ男ともその家族とも違うナニかにみえる。」
「えぇ..?」
「極めつけに稀にだが、貴様の身体から漏れる魔力にも似た力と不自然な風...これで坊ちゃまを狙う他の悪魔と疑わないほど私は楽観的ではない」
ぶっちゃけその通りすぎて何も言えない。ワタシ、怪しすぎ...?しかし、ワタシは悪魔でもなんでもないただのパンピーなんだから弁明しなくてはならない。
「...ワタシは人間だよ」
「ではその魔力のような力と不自然な風はなんだ?」
「生まれつきの体質だよ。アンタたち悪魔とは全く関係ないさ」
「.......」
目を細めて見つめてくるヒルダの眼を見つめ返す。圧がすごいけど逸らさず真っ直ぐと見つめ返す。
「....ふん。まぁいい。坊ちゃまを追いかけねば。」
「ワタシからも質問いいかな?」
「何だ?」
「何でベル坊に人間の親が必要なわけ?...親の代わりなら
「
またヒルダの方から圧が強まる。まずった...もしや地雷を踏んだか?
「私の坊ちゃまへの忠誠を愚弄する気か...?みくびるなよ」
「い、いやっそんなつもりは...」
「私は侍女悪魔だ。お仕えする人のためだけに生まれてくる悪魔だ。ベルゼ坊ちゃまに使える以外に私の存在する理由などない。仕事などと....」
「......」
「......チッもう行くッ」
.....あーあ。しくったな。そんな後悔を胸に抱きつつワタシは散らかっている家を掃除を再開した。
ちなみに帰ってきた男鹿の両親に変な目で見られた。おのれ男鹿、帰ってきたら焼肉と寿司を奢らせよう。
ヒルダと少し気まずくなった翌日、男鹿の手の甲に変な赤い模様がタトゥーのようにできていた。
ヒルダとアランドロンによればそれは蝿王紋《ゼブルスペル》というらしい。
そもそもベル坊が人間の親が必要なのは人間界で魔力を発揮するための触媒、つまり人間の助けが必要だからだ。そしてベル坊と男鹿が同調すればするほどベル坊の引き出せる力が大きくなり、蝿王紋はより複雑に増えていく。
つまり男鹿が周りの人間をボロ雑巾のように扱えば扱うほど、
ーー町外れに佇むある廃ビルの中
「姫川さん。これ今日言われていた男鹿の弱みの写真です」
「あー?誰だこの金髪美女?」
「男鹿のヨメらしいです」
「男鹿には女がもういなかったか?」
「えぇ腰巾着のやつがいますが、ガキを産んだのはこっちの女らしいです。」
「ふーん...いいね。これ約束の報酬ね」
そういい札束をポンと渡すリゼーントの頭を持ち派手な柄シャツと高級感溢れるサングラスや腕時計を身につける男。名は姫川竜也。石矢魔最強格東邦神姫の1人である。
「姫川さんなにみてんのー?ってオッパイでかっ。牛かっての」
「キャハハっゴスロリだー。姫川さんこーいう趣味あったんだぁ」
「あのね君たち、も少し頭のいい会話してくんない?」
「えーやだこわいー」
「品のない女嫌いなんだよね。そこの男みたいに殺したくなる」
そう取り巻きの女に言う姫川は目の前の床でさっきまで仲間だった男たちに裏切られ、床に押さえつけられている男の前にしゃがみ込む。
「てっ..テメェ...」
「あーあ。可哀想にこんなに血を流して。だがオレは慈悲深いからな、最後のチャンスをくれてやる」
そういつつ姫川は男の頭を掴み写真を見せるそれはヒルダの姿を隠し撮ったものだ。
「明日までこの女連れてこい。必要経費があるなら出してやる。さっきまで偉そーに世の中金じゃねーとかほざいてたがな。覚えておけよ。世の中金で動かねーもんはねーんだよ」
「いいかベル坊。男ってのは一度決めたことは貫き通すもんだ。わかるな?」
「ダ」
「俺はもうケンカしねぇ」
「アダ」
そう誓う男鹿とベル坊の顔は凛々しく、2人とも海の堤防で水平線の向こう眺めていた。
「人も殴らねぇ。土下座もさせねぇ。スーパーいい人になろう。」
それは普通の人だ。
「だからお前も約束しろベル坊。もしオレがそれを守れたら、そん時はもう絶対に泣かねぇってな」
「......」
ベル坊はどこかその言葉胸に刻み込んでいるかのように何も言わずに男鹿を見つめていた。
「男と男同士の約束だ。できるか?」
「ダ!!!」
できるかどうかはともかく2人が誓い合うその姿はまるで本物の息子と父親のようにワタシは思えた。
しかしそんな2人、いや男鹿に用があるのか柄の悪い3人組の男が話しかけてくる。
「ほろほらいったろ?」
「やっぱ男鹿くんだぁー」
「ぶっ殺しに来ましたぁ」
そう絡んでくる3人組だが男鹿は踵を返して逃げ出す。しかしもう2人いたらしく逃げ道は塞がれた。
「どうした?男鹿。今日はやけに大人しいじゃねぇか」
そう問いかける不良だが、男鹿は答えずに海へ飛び込む。
「ワハハハハハハハっアホ共がッ。ついて来れるもんならついてゴボゲバッッ!!」
口に水が入ったのかむせながら男鹿は煽りつつ泳いで逃げる。
「どーするよぉ」
「これじゃヨメの居場所聞けねぇぞ」
「報酬もらえねえよぉこれじゃ」
そう仲間内で相談するチンピラ供だったが、すぐ隣で魚たちに餌を撒いてたワタシと目があう。
「...ラッキー」
「よぉ嬢ちゃん。かわいいねぇキミ?少しいいかなぁ?」
「イヤです」
「いつも男鹿とつるんでるよね?アイツのヨメの番号知ってるかぁ?」
「知りません」
「ていうか、これからは男鹿なんかじゃなくてオレたちとあそぼーぜぇ」
話聞けよ。てかなんでヒルダのこと知ってる?人質にでも取る気か?
神崎が倒された今、男鹿相手にこいつらみたいなフツーのチンピラがこんなことする度胸はない。それにさっきの報酬の発言からしてコイツらにはそれなりのバックがいる。
「おいシカトこいてんじゃねーよ腰巾着女ぁ」
1人のチンピラが右手を振り上げる。取り敢えずまずはそのチンピラの頭を掴み
「プギャッ!!!!」
「は?」
顔面に膝を叩き込む。顎と鼻の骨が砕ける音がしたが気にせずもう一発膝を入れ地面に放る。まともな飯はしばらく食べられないだろうがどうでもいいか。
「テッテメェ!?」
「.....ワタシ1人だったら楽だと思ったか?残念だけどアンタらじゃ100人いよーがアタシに勝てないよ」
「このクソアマぁ....」
ワタシの煽りに青筋を浮かべるチンピラなど気にせずワタシは続ける。
「神崎が男鹿にぶっ飛ばされたタイミングでこんな大胆な手を取ってくるてことは....アンタらの後ろにいるのは姫川だな?」
「なっ!?」
「フンッ」
「ゴベッッ!!!」
ワタシの言葉に動揺した1人のチンピラの顔面をストレートで殴り飛ばす。男鹿ほどじゃないがまぁまぁ綺麗にぶっ飛んだ。気持ちいい。
「あと3人....面倒だし逃げるなら逃げなよ...」
「こっコイツこんな強かったのかよ...」
「..びっビビるんじゃねぇよ。こっちは3人だ同時に行きゃたかだか女1人。ヨユーだっつの」
「そっそうか?そーだな。やるっきゃねぇ!」
3人組は心を奮い立たせ、それぞれスタンガンやナイフ、警棒を取り出した。根性だけは一丁前にあるらしい。
「
「ふざけろッ!!」
煽られて突撃してくるガングロ系のチンピラのスタンガンを身体を捻り回避。避けざまに左拳を顎めがけて上から下に叩きつける。脳を揺らしてリタイアだ。
「このアマァ!!」
バケットハットをかぶるチビが背中から警棒を振りかぶってくるが、焦らず振り下ろされる前に肘を後ろ跳ね上げ鳩尾にめり込ませる。全員一撃で沈める。さすがわたしつよい。
「ラスイチ...」
「動くんじゃねぇッッ!!」
声のする方に振り向けばなぜか気を失っているヒルダがナイフを突きつけられている。なんで?????
「ラッキーだぜぇっまさかこんなとこにオガヨメがいるなんてヨォ!少しでも動けばこいつの顔切り刻むゾォっ!」
「えぇ..」
「なんでそんな面倒くさそうなの!?」
まじなんでこんなことになってんだ?ヒルダの奴絶対変なこと企んでるよぉ...
めんどくさいことになったと思うワタシは手を後ろに拘束され、姫川のとこまで着いていくことになる。
姫川のチンピラにヒルダともに町外れに佇む廃ビルへと運ばれる。ただし連れて来られた部屋には姫川はおらず、代わりに顔面に包帯を巻いたフードの男がピストルもって椅子に座っていた。
「あ?なんで金髪の方はともかく銀髪の方は眠らせてねーんだ?」
「そ...それがコイツ思いの外強くて...なんとか金髪の方を人質にとってつれてきたんですよ」
「あぁっ?コイツはただの男鹿の腰巾着だろーが」
未だに眠っているヒルダは地面にそのまま、ワタシは手を後ろに拘束され放置しつつ目の前で口論をするチンピラ共。
「あのさ、ここは客を招いといてお茶のひとつもでないぐらいなってないの?君達社会出てやってけないよ?」
「あ...?おいこらアマ。調子乗ってんじゃねぇぞこら。なんならテメェに
「冗談はその仮装だけにしなよ。ハロウィンはまだまだ先だぞミイラマン」
「上等だコラ」
やはり単細胞。簡単にキレるミイラマンはピストルをワタシの顔の前に構える。ほいっと。蹴りやすい位置だ。
「テメェ!」
「何の騒ぎだこれは?」
すると後ろから声がかけられる。視線を向ければそこには派手なリーゼントと派手な柄シャツが目立つ男が入ってきた。目元は高級そうなサングラスがかけられていて見えない。
「ひっ姫川さん」
「なるほど。こりゃ上玉な2人だ」
姫川...こいつが東邦神姫の2人目か...案外接触してくるのが早かったな。
「しかし俺はこの金髪の方を連れて来いっていったはずだが?」
「え、えぇ..ただそこの生意気な銀髪が一緒にいたらしいのでその金髪を人質にとって連れてきました。」
「フーン....」
すると姫川はおもむろに立ち上がり、ミイラマンの腹を横蹴りで蹴っ飛ばす。
「......っ。」
「余計なことしてんじゃねーよ。オレの完璧な計画が狂ったらどーしてくれんだぁ?コラ。テメェ責任取れんのかッッ!?」
転がるミイラマンに姫川は蹴りで追撃する。
「すっ......すみませんっ...」
「すみませんじゃねーよダボがッッ!使えねーなぁテメーはぁ!何がアシッドマン鈴木だボケェ!」
ミイラマンではなくアシッドマンだったらしい。ダサすぎん?
あまりのダサいネーミングに戦慄していれば床の方から凛とした声が聞こえてくる。
「ーーフンなかなか見どころがある男ではないか」
「ようやくお目覚め?」
「あぁだが何か強い薬を嗅がせられたのか体の自由がきかん」
「ダウト。知らないけど悪魔にそんなの効くとは思えない。何企んでんの?」
「......。」
「だんまり?」
目が覚めたヒルダに問い詰めるがだんまりを決められる。
「さてと、予定は狂ったがオレは男鹿くんを呼び出したいんだ。ケータイ貸してもらおうか?」
「ケータイ?なんだそれは?そんなもの持っていないぞ」
ひと通り気分が済んだらしい姫川はアシッドマンのピストルを手にしてケータイを要求する。ただ悪魔であるヒルダには馴染みのないものであった。
「そーかい。んじゃサービスしてもらおうかな?」
すると姫川はピストルの銃口を横たわるヒルダに向ける。ただまぁそこは蹴りやすい位置だ。右足を振り上げピストルを蹴る。
「フンッ」
「ーッ!」
「があぁぁあッッ!」
蹴られてズレた銃口が近くのアシッドマンくんの顔へ。銃口から液体が出てくるがそれは強酸性だったのか顔の包帯を溶かして悲鳴があがる。
「あぁ?..」
「てめぇ!アマぁ姫川さんに何してんブベッッ!?」
横から寄ってくるハゲチンピラに振り上げた右脚の踵を脳天に振り下ろし、ハゲチンピラを地面に埋める。肩から下はもう見えない。
「おぉ..すごいねぇ。銀髪の方のヨメはただの腰巾着だと聞いてたがなかなかどーして。神崎なんか目じゃねーぜオマエ」
「アンタらの部下はどいつもこいつも楽観的すぎるね。腕だけ縛っても意味なくない?主人にでも似たのかな?」
「クククッ。間違いないな。使えねぇやつばかりで困ってんだ。お前みたいなやつでも手玉に取れるぐらい単細胞ばかりでね」
姫川はワタシの言葉に同意してくる。想像以上に冷静かつ慎重な性格らしい。
「いくらだ?」
「は?」
「いくらでオレの下につく?」
「....」
「お前ならいくらでも出してやるぜ?強ぇからな。」
なるほど姫川は腕っぷしもそうだが1番厄介なのは金の暴力だ。噂じゃこいつ日本でも有数の大企業の御曹司らしい。生まれてから手に入らないものないほど裕福な生活とのことだ。なんで不良してんの?
「...ワタシが欲しいんなら男鹿を口説き落としな」
「..ホウ?」
「アイツがアンタに降るってんなら100円だろーが1円だろーがアンタの下にセットでついてやるよ」
「随分と惚れてんだなぁ。腰巾着ってより忠犬だな」
「ほざけ。アイツを呼び出したいならアタシのケータイ使えよ。ポッケん中だ」
そういうと姫川は部下にワタシのケータイをとらせる。変なとこまさぐられないようワタシは顎を砕くと脅すとすんなりケータイを以外を触らずに取り出す。器用だな。
姫川はケータイ受け取ると男鹿に電話を電話かけ始め要件を伝えるのだった。
「ーーだからオレはもうケンカしねーつってんだろ。なんで次から次に...」
そのころ男鹿は路地裏で別のチンピラに絡まれていた。
「ふざけんなよ男鹿ァ....」
「勝ち逃げするつもりか?俺たちがどれだけテメェに...」
チンピラが男鹿への恨みつらみを言っている最中に男鹿のケータイが鳴る。着信画面は古市からだった。
「あっちょっとまって」
「きけやッッ!!!!」
男鹿は無視して着信にでる。きっと昼間古市を置いて逃げたことへの文句を言われるのだろうと思っていると聞きなれない男の声が聞こえる。
『もしもーし。男鹿くん?』
「...誰だてめぇ?古市はどうした?」
『あーいーよいーよそういうリアクションは。要件だけ言うからアホみたいに聞ーてろ。君のヨメ2人は預かりました。返して欲しけりゃ今からゆートコまで1人で来い」
「...古市がてめぇなんぞに負けるとは思えねぇが?」
『信じないならいーぜ。ならこっちはこっちで
「........」
「おっ...おわった?」
姫川が男鹿に電話した後ワタシたちは足も拘束されて放置される。姫川の指示で周りのチンピラも迂闊に近づかないのだ。
そして16:30。タイムリミットの17時まで残り30分となった。その間ワタシとヒルダは、
「......」
「......」
ぶっちゃけ超気まずかった。もともと昨日のワタシの失言から気まずかったのに今日のヒルダの怪行動。ぶっちゃけなんて話せばよかったのかわからなかった。だから、とりあえずワタシは、
「....昨日はごめん。」
「...なに?」
昨日のワタシの落ち度にケジメをつけることにした。
「いや、だから昨日はごめんて。ベル坊のこと仕事って言って」
「....別に気にしてなどいない。そもそもお前相手に話すことでもなかったのに冷静さを欠いた私の落ち度だ」
「それでも、ワタシはアンタの誇りを傷つけるようなことを迂闊にも考えずに言っちゃった。それはちゃんと謝んなきゃいけないから。だから、ごめん...」
一方的だったが伝えたいことは伝えれたかな..?少し不安を抱いていれば
ヒルダも口を開く。
「.....それなら私も謝らなくてはな。今日は私個人の確かめたいことのためだけに貴様をこんなことに巻き込んだ」
「確かめたいこと?」
「それもこれも、あのドブ男が来ないことには何もできないのだが....もしかしたら徒労に終わるかもしれん」
「......」
わからないけれどきっとそれは蝿王紋のことだろう。あれが出現したあと考え込むことが多くなったから。
「それに、お前の力を問いただすときも少し乱暴が過ぎた」
「...それは仕方ないよ。ワタシだって自分のコト怪しいって思ったし」
「それでもだ」
今度はヒルダから目を合わせられる真っ直ぐに。
「...だから...その...すまなかった。自分や坊ちゃまのことしか見えず迷惑をかけた」
「...うん。だいじょーぶい」
「....フッ。そうか」
そのまままた少し沈黙が降りるが先ほどまでとは違って気まずさは消えていた。
「姫川さん!!人影ですッ!誰か入ってきましたッ!」
「よーしとりあえず囲め」
侵入者が入ってきたのか周り慌ただしくなり、階下からは怒号と人が殴られている音が聞こえてくる。ようやく男鹿がやってきたかのか、遅刻魔め。そう期待していると姫川の部下に引きずられてきたのは
「なんだったんだ?このおっさん?」
「いよーに弱かったな。」
アランドロンのおっさんだった。
「残念タイムリミットだ」
姫川の宣告により17時が過ぎたことをしらされるワタシとヒルダ。
「使えんやつ」
「...もうこのまま暴れて帰ろうよヒルダ」
「...ヒルダ?」
「あ..もう友達かと思って...呼び捨て嫌だった?」
「...いや気にするな..」
「そ?じゃあの役立たずの男鹿も来ないし変なことされる前に帰ろ」
ワタシは風を使って縄を切ろうとすればアランドロンから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「誰が役立たずだコラ」
どうやら来てたらしい。来るならフツーに来い。ワタシが呆れていると縛られているアランドロンが縦に割れる。...何気に初めて見るな。
「ーたくっ、てめーらぁ、世話焼かしてんじゃねぇーぞ」
縦に割れたおっさんを掻き分けるように出てきたのは魔王の形相をした男鹿だった。
現実離れした目の前の光景に動揺するチンピラの1人を男鹿は右ストレートで殴り飛ばす。相変わらず綺麗にぶっ飛ばすもんだ。
「おまたせ♡」
「ケンカ、しないんじゃなかったの?」
「ケンカじゃねぇ。」
ワタシの問いに答える男鹿は変わらず魔王のような形相しているが、その身体の中で魔力が急速に高まっていくのを感じる。
「今からすんのは王の処刑だ」
目の前の現実離れした光景にも動じず姫川が声を掛ける
「見せるねぇ..マジシャンにでもなるつもりかァ?」
「あぁ。男鹿くんのびっくりイリュージョンの始まりだ。全員消します」
あまりの凶暴さに周りは怯むが姫川は変わらず男鹿に問いかける
「いくらだ?」
「あ?」
「いくらでオレの下につく?」
姫川そのまま自分と組むメリットを掲示してくる。やれ望む報酬をくれてやるなど、石矢魔を楽に統一できるなど、しかし男鹿の返答はただ一つ
「つか誰だ?テメェ?」
その発言に吠えてくる手下2人を蹴り上げて天井へ突き刺す。それを見た姫川は男鹿へと歩み寄りタイマンを提案する。男鹿が勝てば人質解放、負ければ姫川の下に着くという条件と共に。
姫川は男鹿を挑発しながらボディを誘う。腹には厚さ8ミリのセラミック板が用意されており、殴らせて拳を破壊しようという腹づもりだ。しかし
「ぐぶッ」
「立てよ。腹に何か仕込んでんだろテメェ」
姫川は殴り飛ばされるが男鹿の拳が壊れてはいないようだ。そして蝿王紋が光っているのをヒルダは見逃さない。
(蝿王紋が鳴動している....)
「いいねぇ最高だよっ!オマエっ!」
姫川が携帯式のバトンで男鹿に殴りかかる。咄嗟に受け止めるが姫川このバトンにも仕掛けを仕込んである。
「ばかがっこいつは特注の120万Vのスタンバトンだぁッ!!」
部屋が一瞬雷が落ちたかのように光に包まれる。さすがの男鹿もピンチかと思われるが
「ベル坊の夜泣きの方が全然いてぇ。」
「う...うそ...だろ....!?」
選ばれたのは夜泣きでした。さすがの姫川も男鹿の異常さに怖気付いてる。だってなんか某海賊漫画にでてくる自称神様が驚いてるシーンみたいな顔してたもん。
「おっお前ら何してんだっ!ひっ人質を使えっ!動くなよ男鹿っ!動けばおまえのヨメ達がっ!」
焦りながら警告をする姫川の耳に大きな音が聞こえ、視線を向ければそこにはいつのまにか拘束をといた人質2人が部下を全員生き埋めにしていた。
「もうよい。貴様の器は知れた。」
「もう誰もいないよーん」
姫川は鼻水垂らして驚愕を隠せないでいた。
「ベル坊」
「ダ」
男鹿は拳を構える。
「男は一度決めたことは貫き通さなきゃならねぇ。そういったな。」
「ダ」
「でもなダチがやられてだまってるのは男ですらねぇ」
男鹿とベル坊の取り巻く魔力が爆速的に上がり、男鹿の腕全体に蠅王紋が広がっていく。っておいおい流石にそれは死ぬだろ。
すぐさまワタシは
「お返しだ。
あまりにも暴力的な魔王の魔力を、ワタシの妖力のこもった風を使い姫川が死なないようビルの方へと流す。ワタシは改めて魔王の恐ろしさが身に染みた。
暴力的な魔力の激流もおさまると、ヒルダは男鹿の方へと歩み寄り蠅王紋を確認する。
(信じられん。常人なら死んでもおかしくないほどの魔力を注ぎ込まれたはず....)
「てめぇ...まさかわざと捕まってたんじゃ...」
「フン。いくぞアランドロン」
「イエッサー」
軽く縄を引きちぎるアランドロンを連れ、帰ろうとするヒルダに男鹿はベル坊が心配していたことを伝えるがヒルダはそんなことはしないと否定して歩き出す。
なんだか変な空気になったと感じたワタシだが気にせずヒルダに声をかける。
「またっ明日ね!ヒルダっ!」
「......あぁ。また明日だ。.....ツムギ..」
対して表情は変わってないがどこか優しげ雰囲気で返してくれるヒルダにワタシはすこし嬉しくなった。
「いつの間に仲良くなったんだ?あいつら」
「アイ?」
アランドロンと共に歩いていると彼から話しかけられる。
「あんなことおっしゃって...男鹿殿とベルゼ様の成長を素直に喜んだらどうですか?大したものですよ。」
「.....確かに大したものだ」
彼の言葉に返しながら後ろへと視線を向ければそこにはビルの上半分が消し飛んでいる光景が目にはいる。
隣であんぐりと口をあけて驚いているアランドロンに私は続ける。
「凄まじいほどの魔力による威力だ。これほどまで引き出せた人間は今までの歴史をみても、そうは見つけられない」
非常に業腹だがあの男とベルゼ様は非常に相性がいい。非常に業腹だが。
「それにこれほどの魔力による衝撃をあの者がビルへ逃がしていなければあの姫川という男は灰も残らなかっただろう。」
「古市殿が...これをっ....凄まじくまた恐ろしいほどの精密なコントロール。..ではこれまでと同じように、古市殿への警戒は続けるのですか?」
アランドロンの質問に頭の中で先ほど別れる際にした挨拶を何故か思い出した。なぜワタシはあの時下の名前で呼んだのかはわからない。
「....いや、気にかける程度でいい」
「ふむ。なにか心がわりが?」
「なにもない。ただヤツは坊ちゃまに害あたえるようなやつではなかった。坊ちゃまも懐いていることだしな」
私は踵を返して歩みを進める。あのとき何故下の名前を呼んだのか、何故また明日と言われ少し心が躍ったのかはわからない。
けれどきっとあの者と話していけばきっとこの気持ちもわかるような気がする。だから、
「また明日...ツムギ」
隣にいるアランドロンに聞こえないぐらいの声に1人呟き帰路につくのだった。
次からはいいところで区切ります。あと練習と趣味で描いてる挿絵の背景も頑張ります。