TS異能力古市   作:ブッタ

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オクレテ..スミマセンデシタ...。


第44話 狂言

 

 ────許容上限を超えた"魔王の大晩餐会(スーパーミルクタイム)"の乱用。

 

 それは契約者である人間の肉体の限界を壊し、魔王の赤子の潜在能力を更に引き出した。

 

 彼の背中から生えてきた、人1人包み込める程大きく、そして何処か神々しさすら感じさせる蟲のような(はね)が人の枠を超えたことを物語り、

 

 ただそこに在るだけで何もかも呑み込んでしまいそうな程に魔力がその身から溢れていた。

 

 空中で翅を広げ静止する男鹿のあまりの変わりように、間近で見ていたナーガだけでなく、遠巻きに見ていた古市達も度肝を抜かれていた。

 

「な..何あの姿..。羽?虫みたいな翅だけど...?」

「.."蝿王の翼"...!ベルゼ坊ちゃま..まさか本当に!?」

「ヨーオーのツバサ..?」

 

 小脇に抱えられているラミアの驚きを隠さない一言。それを聞いた古市がオウムのように言葉を繰り返す。

 だがそこでラミアもヒルダもそしてナーガも羽が生えてきたことよりも、()()()()()()に驚愕していることに気づく。

 

「あの羽って凄いの?」

「あれは...王家の血を継いだ高貴な方々の中でも原初に近い御方にのみ現れる尊ぶべき翅だ」

 

 古市の質問にヒルダが答える。ヒルダもいつもの鉄面皮の様な表情を珍しく崩しており、それだけで一大事だということがわかる。

 

「代々王家の跡取りを継いできた皆々様がお背中に生やしていた...無論大魔王様も。故にあの翅は"至高の王"の証として崇められているのだ」

「...王家ってのの中でも特別って訳か。そりゃヒルダも()()()もそんなに驚く訳だ」

 

 驚く理由、それを聞いて古市は少し離れた位置で男鹿の背中に生えた翅から目が離せないナーガに視線を移す。

 "至高の王の証"として崇め立てられているソレが魔界でどれだけ崇められ神聖視されているのか、古市にとって想像に及ばない。

 だがナーガがまるで信じられない物を見ているかの様な眼で翅を見つめる様子は、嫌でも只事ではないことを分からされる。

 

「ベル坊派閥にとって吉兆でも、がきんちょ派閥の奴さんらにゃあ凶兆ってことなのね」

「...焔王様と言え...。大体坊ちゃま方や大魔王様にとってもそんな派閥など気にされたことは一度もない、周りの頭の悪い家臣どもが騒いでいるだけなのだがな...頭の痛たくなる話だ」

 

 王国の現状に思うところがあるのか忌々しげに声が低くそして冷たくなるヒルダ。

 

 すると、ここで翅を広げた後人形のように動かなかった男鹿の身体が動きを見せた。空になった哺乳瓶を片手に両手を空へと伸ばす。

 

 

「ダァァァーブーゥゥゥッ!!!!」

 

 

 声高らかにあげた咆哮が大気を震わせ、大空を包み込む程に膨大な魔力がその身体から迸る。

 肌が痺れ、耳が裂ける様に響く声に誰もが耳を塞いでしまう。

 

「───ッ!!なんて濃い魔力..!最早あれはもう男鹿ではない...奴の身体を借りた坊ちゃまだ..!!」

 

 ヒルダの言う通り既に男鹿の自我はなく、身体の支配権は全てベル坊へと移っていた。だからこそ人間の肉体の限界を超えた魔力を引き出せるのだ。

 

 男鹿もとい、ベル坊はいつもの小さな身体とは違い、健康的に筋肉のついた男子高校生の身体が面白いのか目を光らせてまじまじと見回している。

 突如、彼目掛けて意識外の方向から槍が風を切り裂くように高速で飛んできた。本能故か危険を察知したベル坊は初めての筈の翅を操り空中を急上昇し躱すが、

 

「逃がさん!!」

「ニョ!?」

 

 ビルの方向から槍を投げていた筈のボロボロに焼け焦げたヘカドスに背後から羽交締めにされた。身体を捻り、腕を動かし拘束から逃れようとするもヘカドスが腕に力を込めて関節を極めてくる為ベル坊は逃げることが出来ない。

 

「今だナーガ!!人間の身体さえ壊せばベルゼ様は無事に戻れる筈だ!!」

 

 血を吐きながら叫ぶ。悪魔の再生力を持ってしても重症の身体は治りきらなかった様だ。

 そんな身体を酷使してベル坊を拘束するヘカドスの狙いを察知したナーガはすぐさま魔術の構築を始める。

 

「それを見逃すほどワタシは甘くないんだよねッ!!」

 

 当然案山子に徹して傍観する古市ではなくラミアを小脇に抱える腕とは逆の手で"伊太刀"の風を作る。狙うはベル坊を拘束するヘカドスの腕の付け根である両肩。

 僅かな合間を縫うような絶技となるが、隙間風すら細やかに操れる彼女にとっては確実にベル坊を無傷で解放できる。

 しかし、

 

「まだオレは死んでねぇぞ!!人間!!!」

「わゎッ!?」

「キャアッ」

 

 いつの間にか気絶から起きたグラフェルの突撃によって古市の妨害は阻止される。

 小脇に抱えるラミアを巻き込まない様に身体を捻り庇い、突撃してきたグラフェルの拳を片手で受け止める。掌から肩まで突き抜ける痛みと衝撃に怯んでしまう。

 

「オレにトドメを差さなかったのは間違いだったなぁッ!!」

「オマエがしつこ過ぎんだよ!!いい加減気絶(オチ)てろ!!」

「あたしを抱えたまま戦わないでよー!!」

 

 体勢を整える隙も与えないような絶え間ない猛攻を片手でなんとか捌く古市に怯えた様子でラミアが吠える。

 

 その間にもナーガは魔術の構築を完了。濃密な魔力と共に黒い稲光が彼の掲げる両手に収束していた。

 

「よくやったぞ2人共....そのまま抑えていろヘカドス」

 

 一目で大技とわかる魔術を未だ拘束されているベル坊へと狙いを定める。拘束しているヘカドスは兎も角、男鹿の身体に融合しているベル坊ならば肉体が壊れるだけでなんら問題は無い。

 拘束から逃れるのも諦めたのかベル坊も抵抗をやめ、ナーガの方へと手を伸ばしていた。

 

「お許しを...ベルゼさ───」

 

 大技を放つ直前、ナーガの身体は意識せず硬直してしまう。

 

 

 彼を挟むように左右に突如現れた無数の"魔王の烙印(ゼブルエンブレム)"の壁を前に。

 

 

「"連鎖大爆殺(大魔王様の技)"...だと..!」

「まずい..!!巻き込まれるぞッッ!!!!

 

「───ニョ」

 

 ヒルダの叫び虚しく、一瞬にして空一面を灼く閃光に全員呑み込まれた。

 

 


 

 

 ベル坊が放つ大魔王の御業は正しく理不尽というものを表した物だった。

 石矢魔の街全てを揺らすほどの爆発と瞬く間に広がった灼熱の業火が空を灼き、

 

「随分遅いわね..紬貴」

「遅いっスねぇ。買い出しに行っただけッスよね?」

「...お腹すいた」

 

 その衝撃波は直下のマンションをも巻き込んだ。

 

「うえええええっ!!?急に天井が!?」

 

 花澤達がゲームに勤しんでいた部屋の天井がいとも簡単に轟音を立てて崩れ落ちていく。突然の出来事に部屋にいた彼女達が何かできるわけでもなく呑み込まれた。

 耐震性も耐久性も優れていた筈のマンションは爆発によって上半分程消し飛び、広々と高級感溢れていたその部屋は一瞬にして黒煙が燻る瓦礫の山へと変わっていた。

 

 ただ、

 

「──ぶはッ!!な、なんスかコレェ!!」

「大丈夫千秋!!」

「...しぬかとおもった」

 

 その高い熱量のおかげか殆どの瓦礫は消し飛んでいたこと、そして爆発の衝撃が花沢達や神崎達のいたフロアギリギリまでで済んでいたことの二つの奇跡によって幸いにも死者は出ることはなかった。

 

 少量の瓦礫を押し退け立ち上がる彼女達も軽い傷こそあれど重傷を負った者は居ないようだ。

 

「あ、神崎先輩!そっちもヘーキっスか!?」

 

 花澤は隣の部屋で古市達が買ってくる筈だった食事を待っていた神崎、姫川、夏目そして城山へと声をかける。

 彼等も突然の出来事に放心していた。

 

「...おう。なんもねぇよ...」

「...姫ちゃんの家、すごい仕掛けあるんだねぇ...」

「...流石だな」

「...んなわけねぇだろ...」

 

 ほぼ現実逃避にも近い会話を心ここに在らずで話す。すると爆煙の隙間から見える青空から1人勢いよく放心状態の4人の元へと落ちてきた。

 

「うおぉおぉぉぉっっ!!?!?」

「なんなんだよ!!次から次へと!?」

 

 派手に音を立てたソレに放心していた彼等も我を取り戻し動揺する。しかしその中ただ1人、神崎だけが落ちてきた男に見覚えがあった。

 

「コイツは..あの時東条と喧嘩してた奴じゃねえか.. ?」

「はぁ?」

 

 神崎の言葉に反応する姫川。詳しく問いただそうと近寄るが、その前にさらにもう一つ彼等の元へと派手な音を立てて空から落ちてきた。

 後に落ち来てきたソレは意識があるようで砂煙の向こうで軽く咳き込んでいるようだ。

 

「かはッ..ゴホッ!...い、生きてる?ワタシ生きてんのこれ?つかラミアちゃん大丈夫!?」

「は..ハハ...。走馬灯が見えたわよ..」

「その声..テメェ古市か!?」

 

 砂煙の向こうからはここ数日で聞き慣れた二つの声。

 

「神崎パイセン!」

「テメェら今まで何して....なんつーカッコしてんだテメェ!!!

 

 砂煙が晴れた向こうには爆風によってボロボロで仰向けになった古市とその腕に抱き込まれるラミアの姿だった。

 

 2人とも綺麗だった肌は煤だらけに、服はあらゆる所が破けまくり下着がところどころ見えている。

 

 ベル坊の起こした大爆発の直前、襲いかかってきたグラフェルの首を掴んで盾に、そして雪崩れ込んでくる灼熱の爆風を全力で操ることで自身と抱えていたラミアの身を爆発から守っていた。

 しかしそれでも爆破の威力は古市の卓越した技量を持ってしても全ては捌ききれなかった。

 何よりベル坊たちの戦いにて周辺の魔素が濃くなっていても、自身の身に宿っている妖力はグラフェル達との戦闘によって激しく消耗していた。

 

 その結果、妖力を枯渇させてしまうと煤だらけになった古市達は高い空からなす術なく落ちていったのだ。

 

「テメェらマジで何してやがったんだ!!つかなんだこの惨状!?」

「背中痛ったぁ...。ラミアちゃんホントに大丈夫?どこか痛めてない?」

「それはあたしのセリフよ!あの高さから落ちて、しかもあたしを庇って!!」

「...背中強く打ったぐらいかな?」

「あんた本当に人間?」

「聞けよ!!」

 

 仰向けに倒れていた状態から、上半身を起こした古市は胸に抱えていたラミアの身体に怪我がないことに一先ず安堵する。

 

「ちょっとツムっち大丈夫っスか!?つか少しブラ見えてるっスよ!!」

「え?あーホントだ。そんなことよりゆかちー達こそ大丈夫?頭打ってない?」

「ウチらは大丈夫っスから!まずは何か羽織って隠して!?」

「アンタ達もいつまで見てんじゃないよ変態共!!」

「...フケツ」

「痛ってぇ!!瓦礫投げんじゃねぇよ!!危ねぇだろうが!!」

 

 あられもない姿の古市達に慌てる花澤、そして大森と谷村は手頃の瓦礫を神崎達に投げつけて牽制をする。

 なんとも騒がしく抜けた雰囲気の彼等、しかマンション内にいたのは彼等だけではない。

 

「どこじゃラミア!!お主大丈夫か!?」

 

 辺りに響くは活発な少年の声。崩れる瓦礫に呑まれながらも無傷で立ち上がった焔王の声だ。それを聞いたラミアは本能で眉を顰めてしまう。

 

「げ..」

「お!そこかラミア!余の嫁よ怪我は無い...か」

 

 瓦礫をかき分け辺りを見回す彼は古市の胸に大人しく抱かれているラミアの姿を見つけて固まってしまう。

 

「あ、緑色のガキ。」

 

 花澤が余りにも無礼すぎる言葉を吐くが彼は反応示さず固まったまま。5秒...10秒...焔王はまるで石にでもなったかのように微動だにしない。

 さしもの古市もこの状況に不気味がる。

 

「...何?なんでワタシ達を見て固まってんの?」

「分からないわよ..」

「アレじゃねっスか?ラミたんの露出した肌見て固まってんじゃねっスか?ラミたんのこと鬼スキだったし」

 

 聞いてラミアは自分の格好を見る。庇ってもらえたおかげか古市よりはマシではあるがそれでも所々焼け焦げており肌の露出が増えていた。

 

「〜〜ッ!!」

 

 頬を赤く染めすぐさま自身の身体を抱くように露出を隠す。

 

「..坊ちゃま..坊ちゃま!お気を確かに!」

「ハっ!?よ..よよ余としたことが..!余りの衝撃に意識を失っておった!」

 

 そうこうしているうちいつの間にかそこにいた侍女悪魔のヨルダが焔王の意識を取り戻す。彼女も古市に蹴り飛ばされ気を失っていた以降瓦礫に呑み込まれたのだろうか少しボロボロだった。

 

「ら..らみあは...ぶ無事かのう?」

「はい、見た所服が所々破損しているだけで大きな怪我なさそうです。どうやらあの古市とかいう女が護ったようですわ」

「そ..ソレハヨカッタ」

 

 シャイの焔王は露出の増えたラミアを直視できずにヨルダの後ろへと隠れて様子を伺う。

 

「ふ、古市よ!余の嫁をよくぞ守った!褒めてや...」

「あ、また固まった」

「坊ちゃま!?」

 

 焔王が褒美の言葉を送るが更に刺激的な格好になっている古市を見て固まった。古市の腕の中で「誰が嫁よ誰が..」とラミアが呟いた。

 

「坊ちゃま!坊ちゃま!」

「───はっ。いかんいかん。余の嫁はラミア1人だけじゃ....。うぉっほん!ふ..古市よ..嫁を守ってくれたことは感謝するが、い..いつまでもぅぅ腕に抱いているのは感心せんぞ!」

「....」

 

 古市は言われた通り素直にラミアから両手を離して立ち上がる。

 

「さぁラミアよ!!そこは危ないからこっちへ来るのだ!次は余が護ってやる!!」

「...い、嫌よ!」

 

 焔王の誘いをきっぱり断り、ラミアは隠れるように側に立つ古市の後ろへと周る。

 

「..ぇ?」

「大体何度も言ってるけどあたしはアンタの嫁じゃないし!それにこっちはアンタの部下のせいでこんな事になってんのよ!?」

 

 今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかの如くラミアは言葉を荒らげる。

 

「ちょーいちょいちょい..そんなに強く言ったら泣いちゃうじゃんか。ここら一帯火の海にする気?」

「でもこれぐらい言わないとアイツわかんないでしょ!!こんな必要無い戦いを止めれるのはアイツだけなんだから!!」

「それもそうだね。ボコボコにしちゃって」

「掌返すの鬼早ェッ!?」

 

 舌の根も乾かないうちに前言を撤回する古市。しかしラミアの主張に焔王は再度固まるが、傍らに立つヨルダがそれを良しするはずが無い。

 

「ラミア...随分と強気な言葉じゃない..?それ以上は焔王坊ちゃまへの冒涜として許さないわよぉ?」

「何が冒涜よ!!ヒルダ姉様の言う通り、こんな無意味な戦いを止められる筈の人が止めないそっちがベルゼ様への敵対行為よ!!こんなの大魔王様が望んでる筈が無いじゃない!!」

「でかい口を叩くわねぇ..調子に乗ってくれるじゃない?」

 

 にこやかにされど氷の如く冷たい笑みを浮かべたヨルダは殺意と共に武器であるモップをその手に握る。

 しかし息も詰まるような殺意を向けられながらもラミアは声を上げた。

 

「そうやって────

「待ってラミア」

 

 だが古市が言葉を遮り、ラミアの前に手を翳して静止させた。

 

「何か様子が変だ」

「...変?」

 

 何かを警戒する古市の視線は殺気だっていたヨルダには向いていなかった。

 

 その視線の先には俯いて動かない焔王の姿だ。

 

「....も」

「..坊ちゃま..?」

 

 遅れて隣に立つヨルダも焔王の変化に気づく。一瞬泣いてしまう直前かと身構えるがそうではない。

 

 

「お主も..(そっち)を選ぶのかァッ..!」

 

 

 途方もない威圧感と小さな身体から溢れる膨大な魔力に全員の肌が粟立った。

 

「お主も余が父上の跡を継ぐ器じゃないというか!!」

「..い、いや」

「誰も彼も何故余ではなく(そっち)を選ぶ!?同じ血を分けた兄弟の筈なのに...!(そっち)は未だ赤ん坊の筈なのに..!!」

 

 耳を塞ぐように両手で頭を抱えて荒ぶる焔王に側に立っていたヨルダは驚愕した。怒りもする、泣きもする、しかし今までに見たことの無いような感情の昂り方は長らく側でお世話してきたヨルダにとっても異様だった。

 

「ぼ、坊ちゃま?落ち着」

「うるさい!!」

 

 癇癪を起こす焔王は大声だけで周囲に衝撃を生み出した。瓦礫が飛び砂煙が舞う。

 

「余は..!余は...!!」

「おいコラクソガキ。何さっきから訳わかんねぇこと言ってんだ?あぁ?」

 

 低く唸るような声と共に彼の前に何かが投げられる。

 

「グラフェル...!?」

「テメェがそいつら悪魔野学園の奴らの親玉だな?ガキみてぇなナリしてこんなイかれたことするとはなぁ」

「正直侮ってたぜ..爆弾までつかって宣戦布告とはよ。人んちなんだと思ってんだコラ」

 

 鬼の形相で凄む神崎と姫川が焔王を睨みつけていた。

 

「テメェら覚悟出来てんだろうなァ」

「神崎センパイ鬼パネェ!!激シブっス」

「下がってなパー子」

 

 仕方のない事ではあるが少しズレたことを言う神崎達。だが焔王に向ける敵意は本物だ。

 

 その人間たちの敵意が焔王の激情に火を焚べることになってしまう。

 

「..転送の準備をしろヨルダ」

「え..し、しかし」

「一度帰り、そして柱師団全軍率いて戻る」

 

 先程まで狼狽していた姿はもう無い。

 ゲームや遊びに夢中になっていた見た目相応の子供らしい姿も無い。

 

「全面戦争じゃ。余が貴様ら人間を滅ぼす...!滅ぼして..余が魔王たる器であること皆に見せつけてやる..!!」

 

 妬みと怨嗟と野望をぐちゃぐちゃに燃え上がらせる小さな王の姿だ。

 

「帰るぞヨルダ!」

「は..はい!」

「───お待ち下さい焔王様」

 

 逸る彼に待ったをかけるのはヒルダ。力を使い果たして融合が解けたベル坊を大事に抱え、左手には気絶していた男鹿の首根っこを掴んで引き摺っていた。

 

「あちらにヘカドスとナーガがおります。そして残りの侍女悪魔2人も一緒に連れて行ってください」

「...嘘..ナーガまで負けたの..!?たかが人間に..!?」

 

 信じがたい事実に慄くヨルダ。だが焔王には動揺した様子は見えず、その視線はヒルダの胸に抱えられるベル坊に釘付けだ。

 そしてゆっくりとベル坊から古市へと視線が移る。

 

「...古市..この中で貴様が1番強く厄介だろう。故に貴様は必ず殺す、そこの契約者も殺し...そやつら弟の兵隊供も葬り、そうすればラミア、お主も分かる筈だ。余がどれだけの器か...」

「──..」

 

 男鹿や後ろの友人達への殺害予告を聞いて古市から濃い怒気と殺意が溢れる。瞳孔が開き、今にでも本能的に襲い掛かりそうになる身体を彼女は理性で無理矢理抑えた。

 

「ではな..ヨルダ!」

「は、転送します!」

 

 ヨルダがモップの柄頭で瓦礫の床を叩くと彼等の足元に魔法陣が展開され、光が当たり一面を覆った。

 網膜を灼く程の光が収まると、そこには焔王やヨルダ、倒れていたグラフェルの姿がなくなっていた。遠くで倒れていたであろうナーガ達の魔力も消えている。

 

「消えた..!?あのクソガキどこ行きやがった..!」

「戦争だと...?上等だぜぶちのめしてやる..」

 

 姫川と神崎が背後で闘志を燃やしている中、古市はヒルダへと話しかける。

 

「...良かったの?」

「仕方があるまい、あぁなってしまっては最早和平交渉に期待はできんだろう」

「なんだか随分拗れているようだけど...まぁ王族の話なんて拗れて当然か。それが継承権の話ならなおさら」

「.......そうだな」

 

 口では肯定するもヒルダの胸中では納得のいかない所が多かった。特に焔王の豹変ぶりについて。

 古市の言う通り王位継承について拗れに拗れまくっている。しかし、それはあくまでも周りの話であり、大魔王筆頭に王家の人間達は常にどこ吹く風と振る舞っている。

 

 実際、焔王はテレビゲームや娯楽に夢中で常日頃遊び惚け、王族としての業務にまったくやりたがらないことで有名だ。それこそ大魔王の跡目など毛ほども興味がなかった筈だと彼女は記憶していた。

 

「───...気に入らんな」

 

 ふと胸中に湧いた不快感。それを吐き出すようにこぼした一言は砂埃と共に秋風に消えた。

 

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