ーー真っ白な入道雲が大きく湧き立つ横で、遠くの飛行機が一直線に雲を描きながら飛んでいる青空。
気持ちいいぐらいスッキリとした天気に初夏を感じさせる太陽の下ではそこそこの広さを持つ緑豊かな公園でピクニックを楽しむ家族や砂場遊びに勤しむ親子など休日を楽しむ人々がちらほらとみえる。
そんな中ワタシと男鹿は公園のベンチで一緒にぼーっと空を眺めていた。
「......なぁ。オレってケンカしねーとか無理じゃね?」
「......ごめん。」
「謝んなよ。ボロカス言えなくなるだろーが」
「わかった。じゃ謝らない」
ワタシは男鹿から許しをもらえたのでケロッとして手元のパックのジュースを飲み始める。
「ふ ざ け ん な !!もう少し申し訳なくしてろやコラっ!」
「どっちだよこのヤロウ」
わけわからん幼馴染にワタシは呆れつつストローから口を離す。男鹿は続けてワタシに右腕を見せつけてくる。
「そもそもなんでッテメェは捕まってたんだッ!みろ!テメェのせいで変なタトゥーみたいになっちまったじゃねーかッッ!!」
そう。昨日の姫川とのゴタゴタで
「ワタシのせい!?つかっそもそもワタシを見捨てて逃げたの忘れてないからなッ!シャバ僧めッ!!」
「逃げたんじゃありますぅえーん!!君に見せ場を譲ったんどぅえーすぅ!」
「いらんわっ!!んな気遣いッ!!」
他の公園利用者たちからこちらに戸惑いの視線が集まるのを感じるが醜い言い合いは止まらない。
「テメーがあの女狐と一緒にわざと捕まってなきゃオレはケンカなんざしてなかったんだよッ!!」
「ヒルダのこと女狐って言うなこのスカタンッ!ぶち殺すぞッッ!!」
「なんでテメェはそんなに仲良くなっとんだ!?」
「ダッ」
そのまま醜い言い争いは続くかと思われたが、ワタシと男鹿の間で大人しくしていたベル坊がのワタシの服の裾をひっぱってくる。
「..ん?どったのベル坊?」
「アダッ」
問いかけるワタシにベル坊が指を刺して答える。指を刺す向こうには父親であろう男の人が自分の娘を抱き上げている光景。
俗に言うたかいたかいをしている。娘の方はキャッキャと喜んでいるのが実に微笑ましい。
「ダ。」
ベル坊は指を刺しつつこちらに視線を向けてくる。その瞳はどこか煌めいている。
「やりたいの?あれ。いいよぉ」
「ダ」
要求を察したワタシはベル坊の脇の下を支えるように抱えてベンチに座ったまま頭の上まで掲げる
「たかいたかーい」
「ウィー...」
「あれ?」
予想に反して反応は芳しくない。すると男鹿が横からベル坊を奪い取る。
「バカめ。こいつは魔王だぞ?んなフツーのもんで満足するかよ」
むかつく顔しながら煽ってくるコイツはベル坊を掴んで構えをとる。そしてーー
「たかいたかぁーいッッ」
空へとぶん投げた。さながらドッヂボールを投げるかのように高く遠くへ。ベル坊はヒョーーッッと興奮しながらロケットのように飛んでいく。
「いやいいの?」
「いいんだよ。アイツも喜んでるだろ?」
「いや15メートル...」
「...ハッ!?」
忘れてたんかい。男鹿の顔面が蒼白になったかと思えば急いで立ち上がりまてコラァと叫びながら走り出す。
「やれやれ...なにやってんだか..」
「ーここにいたか。坊ちゃまはどうした?」
ベンチの背もたれに身体をあずけ、もう一度ストローを咥えるワタシに後ろから凛とした声がかかる。
「ヒルダじゃん。おは」
「もうお昼だぞツムギ。」
後ろに降り立ってきたヒルダがそこにいた。その手にはいつもの武器兼ピンクの日傘が握られている。
「奥様からあの男がこの公園に来ているときいてな。坊ちゃまの様子を見に来たのだが....どこだ?」
「あー.....ムコウノホウデ、コウエンデビューダヨ?」
「なぜカタコト??コウエンデビューとは?」
さすがにベル坊を空に放り投げたことを知れば間違いなく激怒する。今度こそ男鹿の命をとりにくるかもしれない。
なので適当なことを言って誤魔化す。
「公園デビューってのはご近所のちびっ子と初めて遊ぶことさ」
「...ふむつまり将来のしもべを見定めることか?」
「.....まあ八割方あってるよ」
やはり悪魔。価値観はどこまでいってもズレまくっている。だが納得してくれたのならそれでヨシッ!
しかしヒルダは侍女悪魔。常にベル坊のために考える彼女は「私も見定めねば...」とかいって歩き出そうとする。まずいッ。とりあえず前に回り込む。
「..どうした?坊ちゃまのとこに行きたいのだが...?」
「イ...イヤ。ここはさ、ベル坊自身にやらせてみない?」
「どういうことだ?」
ワタシの思いつきに疑問を示すヒルダ。ワタシはすぐさま返す。
「いやさ、まだベル坊は赤ん坊だけど今から1人で何かをするって経験を持つのもいい教育だと思うんだよ。魔王になるなら尚更」
「ふむ...理解はできる。しかし坊ちゃまに何かあっては....」
「だいじょーぶ。そばにアイツもいるんだし。確かに雑だけどなんだかんだ筋は通すやつさ」
「アヤツの強さだけは認めるが....それ以外が少し不安だ...」
「それにさ、ヒルダ」
不安を示すヒルダにワタシは右手を肩に置いてまっすぐ目を見る。
「ベル坊のはじめての挑戦。なんでもかんでも手を出すんじゃなくてどっしりとあの子を信じて帰りを待ってあげるのも大事。でしょ?」
「....確かに。オマエの言う通りだな。ありがとう気づかせてくれて」
「...いーえ。どういたしまして」
ちょっとチョロくない?少し罪悪感と不安を感じるが仕方ない。そう自分に言い訳する。
「ヨシッ!そうとなればどこかご飯でも食べて時間潰そっか!」
「む、ご飯か」
「ちょうどお昼時だしね!それとももう食べた?」
「いや、食べていない。しかしいつもは坊ちゃまと食べていたからな。少々落ち着かん」
「大丈夫だって。今日は男鹿のやつちゃんとミルク持ってきてたからさ。今日は女子会といこーよ!」
「.....そうだな。今日は坊ちゃまを信じてオマエとお昼にしよう」
そう微笑むヒルダの手を引きご飯を食べに行く。やはりチョロい。
ちなみに後日ヒルダからベル坊の公園デビューが成功したことを聞いてワタシは奇跡というものを信じることにした。
ありがとうベル坊の友達の光太くんとやら。君のおかげでワタシは命拾いしたよ。
衝撃の公園デビューから数日後ワタシと男鹿は学校でだべっていた。
「ーーそれで大変だったぜ。もう少しでオレは『魔獣捕獲籠』の中で一生を終えるとこだった」
「なにそれ面白そう。全然聞いてなかったからもっかい話して?」
「ふざけんな」
ダベりながら廊下を歩くけば、いつも男ばかりでむさ苦しい学校にちらほらと珍しく女子が見える。ふむ、噂は本当だったらしい。
「....なんか今日は女子が多くねぇか?」
「いつもは1人もいなかったけど。噂じゃ
「
「そ。なんでもウチの女子全員連れて遠征いってたんだって」
「.....オマエ、ハブられたのか?これから少しは人に優しくしよーぜ?手伝うから」
「...フンッッ!!」
「ッぶねぇッッ!?」
あいも変わらずド失礼な男鹿に金的目掛けて脚を振るうが避けられる。チッすばしっこいヤツめ。
「失礼なやつめ。ワタシの方にだって誘いは来てたけど断っただけだわ」
「金的を狙うなッ!洒落になんねぇわッ!」
「そもそもワタシその
「....どーだか..。」
「むっ。信じてないな?」
ワタシの言葉を信じてない様子の男鹿。どこまでも失礼だなキミは。
「...よし決めた。今から
「はぁ?なんでだよ?」
「友達って言ったでしょ。もともと顔見せに行く予定だったし、ついでにワタシが言った言葉が本当だってコト証明してあげる」
「...メンドクセーなぁ..」
眉を顰めてめんどくさい感情を隠さずに伝えてくる男鹿。
「はい。つべこべ言わずに着いてくる」
「だだだッ髪を引っ張るなってのっ!」
「ようやくワタシ以外の女子高生と喋れるんだ。喜んどけよ、健全な男子として」
「よけーなお世話だっつの!早く髪離せッ!!」
ー凶暴な不良共の巣窟石矢魔高校。そこの廊下を3人の女子生徒が我が物かのように闊歩する。
「邦枝だ....」
「クイーン邦枝」
「いい女だなァ....」
「スカート履けスカート..」
周りのチンピラたちが野次る中、眉ひとつ動かさずに歩みを進める3人組。
「相変わらず胸クソ悪いトコだね、神崎姫川がやられてから調子づいてやがる。隙あらば自分らもってハラか?」
スケバン御用達のロングスカートの改造制服の上に特攻服を羽織るウェーブかかったポニーテールをもつスケバン、大森寧々が話す。
「.......」
大森の反対で歩く肩に触れない程度のショートの髪を持つ無口でクールな印象持つスケバンは谷村千秋。今年入ってきた有望株だ。
その2人の間を歩くのは東邦神姫の1人、石矢魔の女王、邦枝葵。
黒髪ロングで大和撫子のような落ち着いた綺麗な顔立ちをしているが特攻服上下の下にサラシを巻くという攻撃的な服装で一目で不良とわかる。
「葵姐さん、ここは一発ガツンといったりましょーよ!舐められたらしまいですよッ!」
「放っときなさい。どうせなにもできはしないわ」
「......」
勇む大森を落ち着かせる邦枝。谷村は眉ひとつ動かさない。
しかし、3人の態度が気に入らないチンピラは悪巧みを思いつき顔をニヤつかせる。
「ぐわー!突然すべったー!」
わざとらしく転ぶフリをして谷村のスカートの下へスライディングしていく悪ガキレベルのチンピラ。
目に映るのは純白な男のロマンではなく、あまりにも攻撃的な改造エアガンが太ももに装備されているところだった。
「......ッッ」
「ヒッヒィーーッッ!!」
目に留まらぬ速業で改造エアガンを抜き連射する。チンピラはゴロゴロ必死に回りながら逃げ回り、床は弾によってヒビ割れていく。
「もうやめなさい千秋。死ぬから」
マジでと呟きながら谷村をなだめる邦枝。すると後ろから1人の男が歩いてくる。
「や。元気してた葵ちゃん?グッナイ」
「君と戦って勝ったら付き合ってくれるって話考えてくれた?葵ちゃん」
「ーあぁ...(そーいえばそんな約束したっけ....)いいわよ」
「待ってください姐さん」
渋々タイマンの申し出を了承しようとするがその前に大森が割って入る。邦枝とタイマンする前に自分とやれという言葉にグッドナイトも了承する。邦枝の静止の声も聞かず2人の間で火花が散る。
「5秒で永遠におやすみさせてやるよ。グッナイ」
「やれやれ...舐められたもんだね」
今まさに殴りかかる2人の間を何かが上から下へと振り下ろされる。
「やめなさいっていってんでしょ」
それは邦枝が振り下ろした木刀だった。振り下ろした木刀の斬撃で廊下の窓がスッパリと綺麗に切られていた。
恐ろしいほどの剣の腕にグッドナイトもビビって逃げていく。
周りの邪魔もなくなってそのままスムーズに3人は校舎を歩いていく。
「売られた喧嘩全部買ってる暇なんてないの寧々!私達の敵は誰か言ってみなさい!」
「男鹿辰巳です...」
「そうよ!!私達がいない間に極悪非道な悪の限りを尽くす一年生に鉄槌を...」
「来た。」
義憤に駆られる邦枝に珍しく谷村が声をかける。指をさす向こうには今噂の一年生男鹿。
まさか向こうから来ると思っていなかった彼女は舐められていると顔に青筋を浮かべてイラつく。
「男鹿辰巳ィッ!!アンタの悪行もここまでよッ!!」
木刀を突きつける先には、
「およっ?」
「ん?」
見覚えのある2人。1人は小さい頃からある寺でたまに顔合わせていた友達。
自分のグループに勧誘して断られたときはちょっと本気で落ち込んだくらいには友達とおもってる銀髪のウルフカットをした美形の女の子古市紬貴。
そしてもう1人の方がおそらく目的の男鹿辰巳だろうが、その外見がつい先日、弟と公園であった男と瓜二つだった。
「ん?」
ちなみに邦枝に光太という歳の離れた弟がおり、先日緑髪で目つきは悪いがかわいい全裸の赤ん坊と友達になれた。
「んんんん?」
そうベル坊の初めての友達は邦枝の弟であり、男鹿と邦枝すでに公園で仲良くしていたのだった。
久しぶりに会う友達に幼馴染のことを紹介しようと連れてきたら敵意マシマシで木刀突きつけられていた。
しかしなぜかそこからフリーズしてしまっている。なんかベル坊もめっちゃ葵のこと見つめている。
「...えー..と?ひっ久しぶり葵」
「..久しぶりね紬貴」
とりあえず挨拶するワタシに返してくれる葵。その顔はどこか戸惑いが見えている。
「..そして、あんたが男鹿辰巳?」
「そーだけど?」
「なぜあなたが紬貴といっしょに....?」
「ソイツに無理矢理引き摺られてきたんだよ」
男鹿はワタシの方を顎でさす。すると葵はハッと何かに気づいた顔をしてワタシに問いかける。
「紬貴。ひょっとしてコイツが前に言ってた幼馴染?」
「え?そ、そうだけど...?」
「なるほど。コイツが紬貴がチームに入ってくれない原因ね」
「姐さん..?」
「葵..?」
続く葵の言葉にワタシは嫌な予感がする。
「前に貴女手のかかる幼馴染から目が離せないとか───
「うぎゃあああああああああああああああッ!!!」
「うっせーな!隣で叫ぶなよッ!!」
葵の言葉を妨害するため思いっきり叫ぶ。男鹿が抗議を立ててくるが知ったことではない。ワタシのプライドの問題だ。
「ど..どうしたの?」
「イヤッ全然気にしないで!!てかその話はまっったく関係ないからッッ!!マジでッッ!!ホント違うからッッッッ!!」
「アッウン.....ワカッタ....」
ヨシ。とりあえずもみ消しに成功した。なんてことを口走ろうしているんださすが女王恐ろしい。
「...もう帰っていいか?なんかケンカ売られてたし」
男鹿はもう飽きて帰りたくなっていた。だがその言葉を聞いた周りの野次馬がヒソヒソと話し出す。
「おいおいやんねーのかよ」
「ビビったんじゃねーのかぁ?」
「つまんねーな」
「その程度かよ邦枝」
「ね...姐さん?」
葵のチームの幹部、寧々が戸惑いながら葵に声を掛ける。するとさっきまでの変な空気から一変して張り詰める。
まるで冷たく光る日本刀の刀身が抜かれたような緊張感が漂う。
「..フッ!!」
葵は突きつけていた木刀は横に一閃。すると廊下の窓がスラリとズレ落ちる。今ので窓を切り落としたらしい。それホントに木刀か?
「頭の上の赤ん坊を降ろしなさい。それじゃ本気で戦えないでしょ?」
今の一撃は流石に驚いたのか珍しく目を見開く男鹿。頭の上なベル坊はキャッキャはしゃいでいる。
すると何かを思いついた様子の男鹿は不敵な顔を浮かべる。
「いいぜ?このまま相手してやる。来いよ」
あろうことか手のひら上にむけ小さく手招きするように挑発し始めた。
「やっぱりクズね..。赤ん坊のこと盾にする気...?それとも...」
挑発をする男鹿に青筋を浮かべる葵が一気に間合いを詰める。
「私の事舐めてんのかしら」
あっという間に詰められた男鹿の背中からワイシャツを突き破って葵の木刀が突きでる。しかし、
(かわしたッッ!?)
半身ずらして躱わす男鹿に驚愕し、間合いを取るように後ろへ跳ぶ葵。
「....やるわね」
「でもここまでです」
寧々と千秋の話が聞こえてくるのと同時に葵は構え直す。
「心月流抜刀術 弐式」
ー百華乱れ桜
姿が消えたかと錯覚するほどの速い踏みこみをしたかと思えば気づけば廊下の壁が全壊していた。
心月流という武術を納めている葵は改めて人間離れしていることを再確認させられた。
(....嘘でしょ)
「...コエーッ。ヒルダかよ」
今の大技を全て躱しきった男鹿に葵は戦慄と動揺を隠せない表情。
「アーッ!!」
「お?気に入ったかベル坊。やっぱ女がよかったんだな!」
今の大技に大興奮のベル坊。男鹿はその様子を見てどこか納得した様子でずんずんと葵に近づき両肩をつかむ。
何をする気だ男鹿のヤツ...?
「コイツの母親になってください」
「....はっ?」
男鹿の突然のプロポーズにも似た言葉は、
女王と畏怖される葵を瞬く間に赤面させ
時でも止めたかのように周りの人間の動きを止め
そして、ワタシの脳をぶち壊した。
キャラ崩壊にはならないよう注意します。