狼の掌篇   作:華歳ムツキ

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義父の守り鈴

「守り鈴かい」

「……お蝶か」

「珍しいものを持っているもんだ」

 

 

元はといえば、仕事の話で来ただけなのだが。目的の人物があまりにも似つかわしくないものを片手に持っていたものだから、口からは思わず詮索の言葉が飛び出ていた。

 

 

「……別に、ただの気まぐれよ」

「……そうかい」

 

 

守り鈴とは本来、親が子の無事を願って渡すもの。大人が、ましてやこんな爺や婆が持つものでもない。

梟が気にかけていた子供など、お蝶が知る限り一人しかいない。梟の羽根を一枚括りつけたこの鈴は、一体誰のことを想って用意されたものなのか。訊かずとも知れるような気がしたが、敢えて口に出すことはしなかった。今となっては、口出ししても意味のないことだ。

 

 

「して、首尾は?」

「問題ないよ。実行する奴らとも連絡がついた。あとは時を待つだけさね」

 

 

お蝶の報告に頷きながら、梟は片手に持った鈴をゆるく握りしめた。

目を瞑れば、今でも瞼に焼き付いた奴らの顔を思い出すことができる。京から来た忍びども。奴らのような十把一絡げの輩、己の足元にも及ばぬというのに、出自だけで侮られるという屈辱。

喉の奥からせり上がるような不快感を覚えた時、ふと思ったのだ。どれだけ強い人間も、老いからは逃れられず。己もいつかは年月に追いつかれて死ぬのだろう。ゆえに、人にとって重要なのは死した時に何が残るかだ。自分には一体、何が残るというのか。

かつて共に国盗りをした仲間たち。一心の名は国盗りの武士として残るだろう。道玄の名は多くの病から人を救った者として残るだろう。けれど、忍びはどうなるのか。

忍びは影。名が残るような派手な行いは許されず。されど、老いたこの時になってその虚しさに気付いた。命を懸けたのは同じだというのに、己だけ何も残らないというのか。

そこが分かれ目だったのだろう。心に差した黒い影は自然と古き友から足を遠ざけ、その目を平田家で育つ御子へと向けさせた。常ならざる人智を超えた力を宿す子供。あれさえあれば。

 

 

「それと、仙峯寺の奴らがこちらを嗅ぎ回っているよ。どうするんだい?」

「……一枚噛ませてやるがよかろう。いくら蟲憑きとなり、尋常ならざる力を身につけようと、所詮は坊主よ。居たところで支障あるまい」

 

 

躊躇う理由がないわけではなかった。それでもなお、追いかけてくる老いの足音に耐え切れなかったのだ。

友を裏切ろうと、我が子を手にかけようと、ここまで来れば最早止まれぬ。そう決めただろうに、これだけは捨てられずにいるというのだから、本当に老いとは恐ろしいものだ。心すら脆くする。

 

 

「……さあ、参ろうぞ。此度こそ、我ら自身の戦が始まるのだ」

 

 

壊さぬようそっと、鈴を懐にしまい込んだ。忍びが持つことを想定し、音が鳴らぬ鈴を選んだはずなのに、何かを訴えるようにその鈴が鳴った気がした。

 

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